概要

本単元は、複素平面の開集合の上で定義された複素数値関数について、一点における複素微分可能性から出発し、Cauchy の積分理論、正則関数の剛性、孤立特異点と留数、等角写像、正規族による Riemann の写像定理、および解析接続までを、各主張の仮定を明示しながら証明することを目的とする。

一変数の実関数では、一回微分可能であることから二回微分可能であることは従わず、無限回微分可能な関数がべき級数へ展開されるとも限らない。一方、複素平面の領域の上で一回複素微分可能である関数は、何回でも複素微分可能であり、各点の近傍でべき級数へ展開される。両者の違いは、複素微分可能性が実二変数の全微分に対して Cauchy–Riemann 方程式という一次の制約を課すことから生じる。閉曲線に沿う積分は、その制約から正則関数の性質を導く。本単元は、この積分理論を構成し、そこから剛性に関する定理を導く。

積分定理を述べる枠組みとして、本単元は単一の閉曲線ではなく、有限個の閉曲線の整数係数線形結合であるサイクルを用いる。開集合の外の各点に関する回転数が00であるという条件によって、サイクルがその開集合の内部で零ホモローグであることを定義し、Cauchy の積分定理、Cauchy の積分公式、および留数定理を、いずれもこの条件のもとで述べる。単連結領域や単純閉曲線に関する主張は、この一般形の特別な場合として得られる。

前半では、複素微分可能性の特徴づけ、対数の枝の構成、複素積分、Cauchy–Goursat の一般形、Cauchy の積分公式、Taylor 展開、一致の定理、最大値原理、開写像定理を扱う。後半では、Laurent 展開と孤立特異点の分類、零ホモローグなサイクルに対する留数定理、実定積分への応用、偏角の原理と Rouché の定理、Riemann 球面上の Möbius 変換、局所等角性と標準的な領域の正則自己同型、正規族と Montel の定理、複素平面自身ではない単連結領域に対する Riemann の写像定理、および平面領域の上の解析接続を扱う。展望では、無限積の収束を複素対数の主値によって定義し、正弦関数の無限積表示、 Mittag-Leffler の定理、および Weierstrass の因数分解定理を証明する。また Gamma 関数を複素平面へ延長し、Bernoulli 数と周期 Bernoulli 関数から Euler–Maclaurin の和公式を証明する。続いて、その和公式から得られる表示によって、負の実軸を避けた閉扇形における Stirling の漸近展開と、有限項で打ち切った剰余項の評価を導く。別の展望として、Legendre の完全楕円積分と補完全楕円積分から周期比を作り、Jacobi の theta 函数の変換公式を証明する。さらに theta 函数の商として Jacobi の楕円函数を構成し、楕円積分との局所的な逆函数関係、二重周期性、および modular lambda 函数の基本変換を導く。

この単元のねらい

本単元は、読者が次に掲げる事柄を実行することができる状態を目標とする。

  • 複素平面の開集合と領域を定義し、複素関数の極限と連続性を、実部と虚部の連続性と対応させることができる。
  • 実部と虚部が実全微分可能である点において、複素微分可能であることと Cauchy–Riemann 方程式が成り立つことが同値であることを、両方向に証明することができる。
  • 偏導関数が存在するだけでは複素微分可能性が従わないことを、反例によって確かめることができる。
  • 実部と虚部が二階連続微分可能な正則関数について、実部と虚部が調和関数であることを証明することができる。
  • 二階連続微分可能な調和関数について、調和共役の定数差を除く一意性を証明し、星形領域または正則関数がつねに原始関数をもつ領域における調和共役の存在を導くことができる。
  • 対数の枝が存在する領域を明示して複素対数と複素冪を構成し、多価性が生じる理由を説明することができる。
  • 区分的に一階連続微分可能な曲線に沿う複素積分とサイクルの積分を定義し、向きを保つ再パラメータ化に対する不変性と ML 不等式を証明することができる。
  • 閉曲線の回転数を定義して整数値であることを証明し、開集合の内部で零ホモローグなサイクルを、その開集合の外の各点に関する回転数によって定義することができる。
  • Green の定理によって Cauchy の積分定理を証明することができる場合と、Cauchy–Goursat の一般形とを、境界の形、向き、関数に要求する正則性、証明の方法、および領域の外での回転数という五つの観点で比較することができる。
  • Goursat の三角形定理を導関数の連続性を仮定せずに証明し、有限個の三角形への分割によって、零ホモローグなサイクルに対する一般形へ拡張することができる。
  • 回転数を係数とする Cauchy の積分公式と高階導関数の積分表示を証明し、円周の場合から Cauchy の評価を導くことができる。
  • 正則関数の Taylor 展開と係数の一意性を証明し、収束半径を最も近い特異点までの距離と対応させることができる。
  • 零点の位数と孤立性から一致の定理を証明し、証明のどの段階で領域の連結性を用いたのかを特定することができる。
  • 最大値原理、Liouville の定理、代数学の基本定理、開写像定理、および局所単射性の判定を、循環しない順序で証明することができる。
  • 円環の上の Laurent 展開を証明し、孤立特異点を除去可能特異点、極、真性特異点へ分類することができる。
  • 零ホモローグなサイクルに対する留数定理を証明し、半円、扇形、鍵穴型の経路を選んで実定積分を計算し、弧の上での評価と対数の枝の取り方を明示することができる。
  • 偏角の原理と Rouché の定理によって、曲線が囲む領域の零点の個数を重複度を込めて数えることができる。
  • Riemann 球面上の Möbius 変換について、相異なる三点の像による一意性と、円または直線が円または直線へ移ることを証明することができる。
  • 導関数が00でない点における局所等角性と Schwarz の補題を証明し、単位円板と上半平面の正則自己同型を分類することができる。
  • 開集合の各コンパクト集合の上で一様収束する正則関数列について、極限が正則であることと、導関数の列が同じ意味で収束することを証明し、Hurwitz の定理を Rouché の定理から導くことができる。
  • 各コンパクト集合の上で一様収束する部分列をつねに取り出すことができる族として正規族を定義し、局所一様有界な正則関数の族が各コンパクト集合の上で同程度連続であることを Cauchy の評価から示して、 Arzelà–Ascoli の定理と開集合のコンパクト集合による尽くしから Montel の定理を証明することができる。
  • 複素平面自身ではない単連結領域が単位円板と等角同値であることを、単位円板への単射正則写像の族から Montel の定理と Hurwitz の定理によって極値をとる元を取り出す方法で証明することができる。
  • 正則関数の芽と曲線に沿う解析接続を定義し、重なりにおける局所的な一意性を証明したうえで、同じ点から出発しても経路が異なれば異なる値に到達し得ることを、例によって示すことができる。
  • 無限積の収束を複素対数の主値によって定義し、正則関数の無限積が各コンパクト集合の上で一様収束するための十分条件を与えて、正弦関数の無限積表示、Mittag-Leffler の定理、および Weierstrass の因数分解定理を証明することができる。
  • 正の実数上の Gamma 関数を複素右半平面へ拡張し、関数方程式による有理型延長と Binet の第二積分表示を証明することができる。
  • Bernoulli 数と周期 Bernoulli 関数を母関数から構成し、Euler–Maclaurin の和公式を積分形の剰余項を含めて証明することができる。
  • 負の実軸を避けた閉扇形において Stirling の漸近展開を有限項まで導き、剰余項の偏角と打切り次数への依存を明示することができる。
  • 実母数の完全楕円積分と補完全楕円積分の収束を証明し、両者の比から上半平面に属する周期比を構成することができる。
  • Jacobi の四つの theta 級数がコンパクト集合の上で正規収束することを証明し、変数の準周期公式と modular 変換公式を導くことができる。さらに、Jacobi の五次有理変換の係数比較から位数 5 の六次関係を導き、有限 orbit の基本対称式から Hermite の五次恒等式を証明することができる。
  • theta 函数の商から Jacobi の楕円函数を構成し、基本恒等式、導関数、楕円積分との局所的な逆函数関係、および二重周期性を証明することができる。
  • theta 定数によって modular lambda 函数を定義し、二つの基本的な modular 変換と二倍変換に対する modular 方程式を導くことができる。位数5の六次関係、三因子積の五次恒等式、係数消去、および五候補の同一方程式・相異性・全根性を証明することができる。

前提知識

本単元は、ε-論法と基礎解析の必修の内容を前提とする。同単元が扱う一変数の極限と連続性のε\varepsilon-δ\deltaによる定義、数列と級数の収束、関数列の一様収束と項別の操作、Riemann 積分、および微分の定義と平均値の定理を、複素平面の上の対応する定義と証明へ適用する。とくにべき級数と収束半径で扱う収束半径の決定と、収束円の内部における一様収束の議論は、本単元が正則関数の Taylor 展開と Laurent 展開を構成する前提となる。

本単元は、実解析 IIから次の結果を用いる。複素微分可能性を実二変数の全微分によって特徴づけるため、全微分可能性が定める全微分可能性と、その点における Jacobi 行列を用いる。偏導関数の存在だけでは全微分可能性が従わないという同記事の区別が、Cauchy–Riemann 方程式に関する主張の仮定を決める。実部と虚部の調和性には、高階微分と混合偏導関数が証明する二階混合偏導関数の対称性を用いる。星形領域における調和共役の構成には、勾配・発散・回転が定める回転と、曲線と線積分が証明する星形領域におけるポテンシャルの存在を用いる。

Cauchy の積分定理を扱う記事は、Green の定理が有限個の互いに交わらない区分的に一階連続微分可能な正則単純閉曲線を境界にもつ有界領域について証明した Green の定理を、比較の対象として引用する。この引用は比較のためのものであり、本単元が証明する Cauchy–Goursat の一般形は Green の定理に依存しない。したがって読者は、実解析 IIの全体を読み終えていなくても、本段落で挙げた記事を参照することによって本単元を読むことができる。展望のうち Gamma 関数と Bernoulli 数の記事は、前段落の前提に加えて、Gamma 関数が与える正の実数の上の Gamma 関数の定義、収束、および関数方程式を出発点として用いる。Bernoulli 数の記事は、Gamma 関数の記事が証明する指数関数と一次関数の大小関係も Bernoulli 積分の収束評価に用いる。

楕円積分と楕円函数の記事は、関数列の一様収束が与える関数列の一様収束と項別操作を用いる。本単元の中では、複素指数関数と対数の複素指数関数、複素積分の複素積分、Cauchy の積分定理の星形領域における原始関数の存在、零点と一致の定理の一致の定理、最大値原理の Liouville の定理、開写像定理の局所逆函数、Laurent 展開と孤立特異点の有理型関数、正規族と Montel の定理の Weierstrass の収束定理、および解析接続の局所的な解析接続を前提とする。無限積、Gamma 関数、Bernoulli 数、 Stirling の公式の四記事には依存しないため、必修の 19記事を読み終えた後は、同じ展望に属する四記事とは独立に読むことができる。

本単元は、位相空間論 Iが扱う一般の位相空間論の全体を前提としない。ただし、複素平面を Euclid 距離を入れた実二次元空間として扱うため、距離空間の Euclid 距離と制限距離を用いる。曲線像、閉円板、コンパクト部分集合を扱う証明では、コンパクト空間のコンパクト性、連続像による保存、および最大値・最小値の定理と、コンパクト距離空間の Heine–Borel の定理、 Heine–Cantor の定理を用いる。正規族と Montel の定理を扱う記事は、これらに加えて、 Arzelà–Ascoli の定理が証明する Arzelà–Ascoli の定理を、各コンパクト集合の上で一様収束する部分列を取り出す箇所で用いる。対角線論法が用いる開集合のコンパクト集合による尽くしは、任意のコンパクト集合を含む項をもつことまでを含めて、同じ記事の中で構成する。

本単元は、複素数の四則演算と極形式による表示を既知として用いる。複素数の四則演算と極形式は数と式の計算が扱う。複素平面の開集合、領域、連結性、単連結性については、本単元が平面の場合に必要な形で定義を与える。

本単元は古典数学の立場を取り、存在証明で選択原理が必要となる場合には、選択公理と Zorn の補題が定義する従属選択公理までを仮定する。各定理では、この基礎論上の立場とは別に、結論の真偽を左右する解析的な仮定を主張とともに述べる。

この単元を貫く4つの方針

本単元の各記事は、次の4点を共通の方針とする。

  1. 積分の対象をサイクルとし、回転数によって主張を述べる。 複素積分の記事でサイクルとその台を定義し、Cauchy の積分定理の記事で回転数と零ホモローグ性を定義する。以後の記事は、この語彙を再定義せずに用いる。単連結領域の上の閉曲線、円周、単純閉曲線に関する主張は、いずれも一般形の特別な場合として導く。
  2. 主張ごとに、結論を変える仮定を明示する。 関数がどの開集合の上で正則であるか、導関数の連続性を仮定するか、領域が連結であるか単連結であるか、サイクルが零ホモローグであるか、極を通らないか、極が有限個であるか、サイクルの台が空でないか、曲線の向きをどう取るか、対数のどの枝を選ぶかは、単元全体を通じた暗黙の約束にしない。各定理の仮定は、その定理の主張とともに述べる。
  3. 証明を本単元の中で閉じる。 各主張の証明は、本文で与えた定義と補題、および前の記事で完全に証明した定理へ帰着させる。モノドロミー定理、一意化定理、Picard の定理のように後続の単元が扱う内容を、証明の根拠として先取りしない。外部の文献は、定理の版を確かめ、より広い範囲へ進むための入口として挙げる。
  4. 例と反例によって境界を確かめる。 新しい定義には、その定義を満たす標準的な対象と、条件を一つだけ満たさない対象を置く。偏導関数が存在しても複素微分可能でない関数、対数の枝を取ることができない領域、真性特異点の近傍における値の分布を、この方針の下で扱う。

学習の順序と各記事の内容

記事は24本である。そのうち19本が必修であり、5本が展望である。読者は、必修の19本を並んでいる順に読む。前の記事で証明した事柄を、後の記事の証明で用いるためである。展望では、無限積の記事を読んだ後に、 Gamma 関数、Bernoulli 数、Stirling の公式の三記事を掲載順に読む。楕円積分と楕円函数の記事は、これらの四記事に依存せず、必修の19本の後に独立して読むことができる。必修の記事の証明は、展望の記事の結果を用いない。

必修の19本は、六つの段階に分かれる。

必修

第1段階 複素関数と正則性

はじめに、複素平面の上の関数について、極限、連続性、微分可能性を定義する。ここで確立する実二変数表示との対応は、以後のすべての段階で用いられる。

  • 複素関数の極限 — 複素平面の開集合と、連結な開集合としての領域を定義し、複素関数の極限と連続性を定義する。関数をf=u+ivf = u + ivと分けて実二変数の二成分写像として表し、ffが連続であることとuuおよびvvがともに連続であることが同値であることを証明する。複素微分可能性の特徴づけは本記事では扱わず、次の記事で定義する。
  • Cauchy–Riemann 方程式 — 一点における複素微分可能性と、領域の上の正則性を定義する。uuとvvがその点で実全微分可能である場合に、複素微分可能であることと Cauchy–Riemann 方程式が成り立つことが同値であることを、実線形写像としての Jacobi 行列が複素数の乗法を表す行列であることから両方向に証明する。偏導関数の存在だけを十分条件として用いず、全微分可能性、または全微分可能性を保証する十分条件を仮定として明示する。偏導関数が存在して Cauchy–Riemann 方程式を満たしながら複素微分可能でない例を置き、仮定を外すと結論が崩れることを確かめる。実部と虚部が二階連続微分可能である場合には両者の調和性を証明する。単連結性を閉曲線の縮約によって定義したうえで、調和共役の定数差を除く一意性、星形領域における存在、および正則関数がつねに原始関数をもつ領域における存在を証明する。
  • 複素指数関数と対数 — 複素指数関数と複素三角関数を定義し、加法法則、周期、零点の不在、および正則性を証明する。対数の枝を構成することができる領域を明示し、標準的な切断平面の上で対数の枝と複素冪を構成する。任意の領域で対数の枝を取ることができるわけではないことと、多価性が生じる理由を示す。本記事の証明は、後の段階で導入する回転数、Cauchy の積分定理、解析接続を用いない。

第2段階 Cauchy の積分理論

続いて、曲線とサイクルに沿う積分を定義し、正則関数の積分がいつ消えるかを決定する。本単元の中心となる証明鎖は、この段階で作られる。

  • 複素積分 — 区分的に一階連続微分可能な曲線に沿う積分を定義し、向きを保つ再パラメータ化に対する不変性、向きの反転、曲線の結合、および線形性を証明する。有限個の閉曲線の整数係数線形結合としてサイクルを定義し、サイクルの台と、サイクルに沿う積分を定義する。積分の絶対値を曲線の長さと被積分関数の上界で評価する ML 不等式と、原始関数が存在する場合に積分が端点の値の差で表されることを証明する。以後の積分定理は、単一の閉曲線ではなくサイクルに対して述べる。
  • Cauchy の積分定理 — 閉曲線の回転数を定義して整数値であることを証明し、サイクルへ線形に拡張する。開集合UUの外の各点に関する回転数が00であることによって、サイクルがUUの内部で零ホモローグであることを定義する。本記事は、積分が消えることの二つの証明を比較する。一方は、有限個の互いに交わらない区分的に一階連続微分可能な正則単純閉曲線を境界にもつ有界領域について、uuとvvが一階連続微分可能であることを仮定し、外周を反時計回り、内周を時計回りに向きづけて、Green の定理から境界に沿う積分が00になることを導く証明である。他方は、導関数の連続性を仮定しない Cauchy–Goursat の一般形であり、Goursat の三角形定理と有限個の三角形への分割から証明する。読者は、この二つを、境界の形、向き、関数に要求する正則性、証明の方法、および領域の外での回転数という五つの観点で対応させた図と表によって比較する。Green の定理を適用する場合の境界は単一の領域の境界として表すことができるのに対して、Cauchy–Goursat の一般形が扱うサイクルは、自己交差や重複走行を含み、単一の領域の境界として表すことができない。Green の定理は比較のためだけに用い、Cauchy–Goursat の証明の前提にしない。一般形からは、積分のホモトピー不変性、単連結領域の上の閉曲線に沿う積分が消えること、および原始関数の存在を系として導く。
  • Cauchy の積分公式 —UUの内部で零ホモローグなサイクルΓ\Gammaと、UUに属してΓ\Gammaの台に属さない点zzについて、Γ\Gammaのzzに関する回転数を係数とする Cauchy の積分公式を証明する。差商(f(ζ)−f(z))/(ζ−z)(f(\zeta) - f(z))/(\zeta - z)がζ=z\zeta = zにおいて除去可能であることを示し、一般のサイクルに対する公式を Cauchy–Goursat から導く。積分と微分の交換が許される条件を明示して高階導関数の積分表示を証明し、円周の場合から導関数の大きさを半径と関数の上界で抑える Cauchy の評価を導く。この評価は、後続の Taylor 展開、最大値原理、Liouville の定理が用いる。

第3段階 正則関数の剛性

次に、積分公式から得られる局所的な展開を用いて、正則関数が実関数にはない強い剛性をもつことを示す。この段階の四つの記事は、互いに循環しない順序で並んでいる。

  • Taylor 展開 — 複素べき級数が収束円の内部の各コンパクト集合の上で一様収束することを証明し、項別に微分することができることと、導関数の級数の収束半径がもとの級数と一致することを、用いる実解析の定理とともに示す。 Cauchy の積分公式から正則関数の Taylor 展開を導き、係数が一意に定まることを証明する。収束半径が展開の中心から最も近い特異点までの距離であることを扱う。負の冪を含む展開は本記事では扱わず、第4段階で扱う。
  • 零点と一致の定理 — 零点の位数を定義し、Taylor 展開による局所的な因数分解を証明する。恒等的に00ではない正則関数の零点が孤立することを示し、零点の集合が領域の内部に集積点をもつ場合に、その関数が領域全体で恒等的に00であることを導く。局所的に恒等的に00となる点の集合が開かつ閉であることを明示し、証明のどの段階で領域の連結性を用いるのかを示す。
  • 最大値原理 — Cauchy の積分公式から得られる円周上の平均値の性質を用いて、非定数の正則関数の絶対値が領域の内部で局所最大値をとらないことを証明する。局所的な主張と、コンパクトな閉領域へ適用したときに絶対値の最大値が境界で達成されるという帰結とを区別する。Cauchy の評価から Liouville の定理を導き、 Liouville の定理から代数学の基本定理を証明する。本記事の証明は、後続の偏角の原理と Rouché の定理を用いない。
  • 開写像定理 — 非定数の正則関数が開写像であることを証明する。局所的な因数分解f(z)−f(a)=(z−a)mg(z)f(z) - f(a) = (z - a)^m g(z)と、零点をもたないggの小円板の上の正則なmm乗根を用いる場合は、そのmm乗根が存在することを本記事の中で証明し、後続の定理へ委ねない。ffがaaのある近傍で単射であることとf′(a)≠0f'(a) \ne 0であることが同値であることを証明する。本記事の証明は、後続の Rouché の定理を用いない。

第4段階 特異点と留数

続いて、正則性が一点または有限個の点で破れる場合を扱う。Laurent 展開の負の冪の係数によって特異点を分類し、留数定理によって Laurent 展開の−1-1次係数と閉曲線積分を結び付ける。

  • Laurent 展開と孤立特異点 — 円環の上で正則な関数について、Cauchy の積分公式から Laurent 展開を証明する。正の冪の部分と負の冪の部分がそれぞれ局所一様収束すること、係数が積分によって表されること、および展開が一意であることを示す。孤立特異点を、負の冪の係数の様子によって除去可能特異点、極、真性特異点へ分類し、孤立特異点の近傍で関数が有界であることと、その特異点が除去可能であることが同値であることを証明する。
  • 留数定理 — 留数を Laurent 展開の−1-1次の係数として定義し、高位の極における留数を導関数によって計算する公式を証明する。開集合UUの内部で零ホモローグであり、どの極も通らないサイクルについて、そのサイクルに沿う積分が、各極の留数にその極に関する回転数を掛けた和の2πi2\pi i倍に等しいことを証明する。サイクルの台の近傍で問題になる極が有限個に限られる理由を示す。主張を長方形の境界のような特定の曲線に限定しない。
  • 留数による実積分 — 半円、扇形、鍵穴型の経路をそれぞれ用いる代表的な実定積分を、完全に計算する。大円弧と小円弧の上での積分が消えること、または有限の極限をもつことを不等式で評価し、切断の上側と下側における積分の差を求める。対数と冪の枝の選び方、経路の向き、留数を取る極、および極限を通す順序を、計算のなかで明示する。Jordan の補題を用いる場合は、その適用条件を主張のなかに置いて証明する。
  • 偏角の原理と Rouché の定理 — 有理型関数が、正の向きをもつ単純閉曲線の上に零点も極ももたない場合について、偏角の原理を一般の留数定理から導く。曲線の内部の零点と極を重複度を込めて数え、向きと符号を追う。Rouché の定理を証明し、二つの関数の大小関係から、曲線が囲む領域の零点の個数を重複度を込めて判定する。代数学の基本定理について、第3段階で Liouville の定理から与えた証明とは別の証明を、Rouché の定理から与える。

第5段階 等角写像と Riemann の写像定理

次に、正則写像を平面の領域の間の写像として扱う。ここで扱うのは、Riemann 球面上の一次分数変換、導関数が00でない点における局所的な性質、標準的な領域の正則自己同型、正規族と Montel の定理、および複素平面自身ではない単連結領域に対する Riemann の写像定理である。前の三つの段階が与えた Cauchy の評価、一致の定理、最大値原理、開写像定理、および Rouché の定理を、この段階の証明で用いる。

  • Möbius 変換 — Riemann 球面を定義し、その上の Möbius 変換と∞\inftyにおける値を定める。二つの行列が00でないスカラー倍で移り合うとき同じ変換を定めることと、行列式が00でないという条件が必要であることを示す。定義域と値域に相異なる三点をそれぞれ指定したとき、指定された三点の対応を実現する Möbius 変換がただ一つ存在することを、指定した点が∞\inftyを含む場合も込めて証明する。円または直線が円または直線へ移ることを、平行移動、拡大回転、逆数写像への分解、または一般化された円の方程式から証明する。
  • 等角写像 — 導関数が00でない点において正則写像が二曲線のなす角を保つことを、一次近似と誤差の評価から証明する。Schwarz の補題と、等号が成り立つ場合の特徴づけを完全に証明する。単位円板の正則自己同型を分類し、Cayley 変換を用いて上半平面の正則自己同型を分類する。正規族と Riemann の写像定理は本記事では主張せず、続く二つの記事で扱う。一般の領域に対する境界の対応は、本単元では扱わない。
  • 正規族と Montel の定理 — 開集合の上で定義された正則関数の列がその開集合の各コンパクト集合の上で一様収束する場合について、極限が正則であることと、導関数の列が同じ意味で収束することを証明する。極限が定数でない場合に零点の個数が保存されることを述べる Hurwitz の定理を、Rouché の定理から導く。各コンパクト集合の上で一様収束する部分列をつねに取り出すことができる族として正規族を定義し、局所一様有界な正則関数の族が Cauchy の評価によって各コンパクト集合の上で同程度連続であることを示す。この同程度連続性と、位相空間論 IのArzelà–Ascoli の定理が証明する Arzelà–Ascoli の定理、および開集合をコンパクト集合の増大列で尽くす操作から、Montel の定理を証明する。本記事は、偏角の原理と Rouché の定理が証明した Rouché の定理を Hurwitz の定理の証明に用い、 Cauchy の積分公式が与えた Cauchy の評価を、極限の正則性と同程度連続性の証明に用いる。
  • Riemann の写像定理 — 単連結領域の上で零点をもたない正則関数が正則な対数と正則な平方根をもつことを、単連結領域における原始関数の存在から導く。複素平面自身ではない単連結領域について、単位円板への単射正則写像の族が空でないことを、平方根の構成によって示す。領域の指定した一点における導関数の絶対値を最大にする元を、Montel の定理と Hurwitz の定理によって取り出す。その元が全射でなければ Schwarz の補題に反する写像を構成することができることを示し、複素平面自身ではない単連結領域が単位円板と等角同値であることを証明する。境界における対応は扱わない。本記事は、正規族と Montel の定理が証明した Montel の定理と Hurwitz の定理、Cauchy の積分定理が与える単連結領域における原始関数の存在、等角写像の Schwarz の補題と、円板を保つ Möbius 変換の性質、開写像定理による単射正則写像の逆写像の正則性、および最大値原理を用いる。

第6段階 解析接続

最後に、局所的に定義された正則関数を、経路に沿って延長する操作を定義する。本単元は、この操作の定義と局所的な一意性までを扱う。

  • 解析接続 — 一点における正則関数の芽と、芽の間の同値関係を定義する。曲線に沿う解析接続を、曲線の各径数にその点における関数要素を対応させる族として定義し、一致の定理に基づいて、近い径数に対応する二つの関数要素の重なりにおける局所的な一意性を証明する。有限個の関数要素の鎖による定義は用いず、二つの定義が同じものを与えることも扱わない。対数または平方根を用いて、同じ点から出発しても、異なる経路に沿って延長すると異なる値に到達し得ることを示す。モノドロミー定理、Riemann 面の構成、および Riemann ゼータ関数の解析接続は、本記事では扱わない。

展望

展望の記事は5本である。展望の5記事は必修の記事が証明した定理を用いるが、必修の記事は展望の記事の結果を用いない。読者は、必修の19本を読み終えた後に、無限積の記事、Gamma 関数、Bernoulli 数、 Stirling の公式の四記事をこの順に読む。楕円積分と楕円函数の記事は、これらの四記事とは独立に読むことができる。

  • 無限積と Mittag-Leffler の定理 — 無限積の収束を複素対数の主値によって定義し、正則関数の無限積が各コンパクト集合の上で一様収束するための十分条件を与える。余接関数の部分分数展開を、留数定理と有界性の評価から証明し、項別積分によって正弦関数の無限積表示を導く。与えた極とその主要部をもつ有理型関数を構成する Mittag-Leffler の定理と、与えた零点をもつ整関数を構成する Weierstrass の因数分解定理を証明する。本記事は、留数定理の留数定理、零点と一致の定理の一致の定理、および複素指数関数と対数の複素指数関数と対数の主値を用いる。
  • Gamma 関数と Binet の積分表示 — 正の実数の上で定義された Gamma 関数を再定義せず、Euler 積分がRe⁡z>0\operatorname{Re} z>0で正則関数を定めることを証明する。関数方程式によって、非正整数に単純極をもつ有理型関数として複素平面へ一意に延長する。Binet の第二積分表示は、積分路、対数の枝、極の位置、および遠方の辺における評価を明示して、留数定理から導く。主項に現れる定数が2π\sqrt{2\pi}であることを、Binet の剰余の漸近正規化、Gamma 関数の関数方程式、およびΓ(1/2)=π\Gamma(1/2)=\sqrt\piから決定する。
  • Bernoulli 数と Euler–Maclaurin の和公式 — 母関数によって Bernoulli 数、Bernoulli 多項式、および周期 Bernoulli 関数を定義する。余接関数へ留数定理を適用して偶数乗の逆数の総和を求める。続いて、各単位区間で部分積分を繰り返し、 Euler–Maclaurin の和公式を証明する。有限項で打ち切った差は、周期 Bernoulli 関数を含む積分として正確に表す。
  • Stirling の公式と剰余評価 — Euler–Maclaurin の和公式をLog⁡(z+t)\operatorname{Log}(z+t)へ適用し、負の実軸を切断とする平面の上でlog⁡Γ\log\Gammaの積分表示を得る。各δ>0\delta>0と各打切り次数NNについて、∣Arg⁡z∣≤π−δ|\operatorname{Arg}z|\le\pi-\deltaを満たす閉扇形で Stirling の漸近展開を有限項まで導く。剰余項について、∣z∣|z|、NN、およびδ\deltaに依存する具体的な上界を与える。最後にΓ(n+1)=n!\Gamma(n+1)=n!へ適用し、階乗に対する乗法の形の剰余評価を導く。
  • 楕円積分と楕円函数への展望 — 実母数0<k<10<k<1に対する Legendre の完全楕円積分K(k)K(k)と補完全楕円積分K′(k)K'(k)を定義し、iK′(k)/K(k)iK'(k)/K(k)が上半平面に属することを示す。上半平面の周期比に対して Jacobi の四つの theta 函数を正規収束する級数によって定義し、変数の準周期公式と modular 変換公式を証明する。theta 函数の商から Jacobi の楕円函数を構成し、基本恒等式、導関数、第一種楕円積分との局所的な逆函数関係、および二重周期性を示す。最後に theta 定数によって modular lambda 函数を定義し、基本変換と二倍変換を証明して、modular 方程式が二つの函数値の代数関係を表すことを説明する。さらに Jacobi の五次有理変換を係数比較で検証し、位数 5 の六次関係、有限 orbit の Hermite 恒等式、および cusp の Vandermonde と判別式非零領域の解析接続による五候補の相異性を導く。

学習到達点の確認方法

本単元は、計算の速さではなく、読者が仮定を特定し、定義と既に証明した定理から証明を構成することができるかどうかを確かめる。記事ごとに確かめる内容は、次のとおりである。

  • 読者が、各証明の段階でどの仮定を用いたのかを特定することができるかを確かめる。とくに、関数が正則である開集合、導関数の連続性、領域の連結性と単連結性、サイクルが零ホモローグであること、サイクルが極を通らないこと、極が有限個であること、サイクルの台が空でないこと、曲線の向き、および対数の枝の選び方のうち、どれを用いたのかを区別することができるかを確かめる。
  • 読者が、Green の定理によって証明することができる場合と、Cauchy–Goursat の一般形とを、境界の形、向き、関数に要求する正則性、証明の方法、および領域の外での回転数によって区別し、前者が後者の特別な場合にあたることを説明することができるかを確かめる。
  • 読者が、与えられた実定積分に対して経路と対数の枝を自分で選び、弧の上での評価と極限を通す順序を書き下すことができるかを確かめる。
  • 読者が、局所的な主張と大域的な主張を区別することができるかを確かめる。一致の定理、最大値原理、開写像定理、および解析接続の一意性は、いずれも局所的な情報から領域全体の結論を導く定理であり、そこで領域の連結性がどのように用いられるのかを説明することができるかを確かめる。
  • 読者が、仮定を一つ外したときの反例を構成することができるかを確かめる。偏導関数が存在しても複素微分可能でない関数、対数の枝を取ることができない領域、および真性特異点の近傍における値の分布を、とくに扱う。
  • 読者が、正規族の定義が要求する部分列の取り方と、Montel の定理が仮定する局所一様有界性とを区別し、部分列の極限が正則であることは正規族の定義からではなく Weierstrass の収束定理から別に得られることを説明することができるかを確かめる。あわせて、Riemann の写像定理の証明が三つの段からなること、および各段が単連結性をどこで用いるのかを説明することができるかを確かめる。
  • 読者が、無限積の収束を対数の主値によってどのように定義するのかを述べ、Mittag-Leffler の定理と Weierstrass の因数分解定理が、与えた極または与えた零点をもつ関数を構成するために収束因子を要する理由を説明することができるかを確かめる。
  • 読者が、theta 級数の正規収束でコンパクト性を用いる箇所、準周期公式から得られる周期と反周期の違い、 modular 変換に現れる位相因子、および二倍変換から平方根を消去する手順を説明することができるかを確かめる。

演習には、証明を再現する問題、方針から証明を補う問題、仮定の使用箇所を特定する問題、および積分路と枝を設計する問題を用いる。証明を伴う解答については、仮定の明示、量化の範囲、各段階の根拠、および引用した定理の適用条件が満たされていることを評価の対象とする。

前後の単元との関係

  • ε-論法と基礎解析 — 同単元は、一変数の極限、連続性、微分、Riemann 積分、級数、および関数列の一様収束を、ε\varepsilon-δ\deltaによる定義から扱う。本単元は、同単元の定義と定理を複素平面の上の対応する対象へ適用し、実関数では成り立たない剛性が複素微分可能性からどのように生じるのかを示す。
  • 実解析 II — 同単元は、多変数の全微分可能性、重積分、線積分と面積分、および Green の定理を扱う。本単元は、複素微分可能性を実二変数の全微分によって特徴づける場面と、Cauchy の積分定理の二つの証明を比較する場面で、同単元の結果を用いる。また同単元は、正の実数の上の Gamma 関数と Beta 関数を扱い、本単元の展望はそのうち Gamma 関数を複素変数へ拡張する。
  • 常微分方程式 — 同単元は、Bessel 関数や Legendre 関数のように、微分方程式によって定義される関数を扱う。本単元が与える正則性、特異点の分類、および解析接続の言葉は、同単元が確定特異点のまわりの解の挙動を述べるときに用いられる。
  • Riemann 面 I — 同単元は、解析接続の大域的な理論、モノドロミー定理、および Riemann 面の上の正則写像と有理型関数を扱い、Riemann 面の分類を与える一意化定理と Picard の定理を証明する。また同単元は、楕円曲線と楕円函数を格子および Riemann 面の幾何学から扱う。本単元は、平面領域の上の解析接続の定義と局所的な一意性、標準的な領域の間の具体的な等角写像、複素平面の単連結領域に対する Riemann の写像定理、および Legendre の楕円積分と Jacobi の楕円函数の解析的な構成までを扱う。同単元が証明する一意化定理は、本単元が証明する写像定理を Riemann 面へ一般化したものである。
  • 体論入門 — 同単元は、Hermite による五次方程式の解法で、本単元が構成する完全楕円積分、theta 函数、Jacobi の楕円函数、modular lambda 函数、位数5の六次関係、および Hermite の五次恒等式を用いる。本単元は五次方程式に固有の係数変換と根の復元を扱う。
  • 多変数複素解析 — 同単元は、二変数以上の複素変数に固有の現象を扱う。本単元が一変数について証明する Cauchy の積分公式とべき級数展開は、同単元が多重円板の上で用いる出発点にあたる。
  • 解析的整数論 — 同単元は、Dirichlet 級数、Euler 積、Riemann ゼータ関数の関数等式、および素数定理を扱う。本単元が供給するのは、留数定理、偏角の原理、解析接続の局所的な定義、および Gamma 関数の複素解析的な扱いである。
  • 値分布論 — 同単元は、有理型関数が各値をとる回数を測る理論を扱う。本単元の偏角の原理、Rouché の定理、および真性特異点の近傍における値の分布は、その出発点にあたる。

この単元で扱わないこと

  • 解析接続の大域理論、モノドロミー定理、Riemann 面の上の正則写像、有理型関数、微分形式、楕円曲線と楕円函数の幾何学的理論、一意化定理、および Picard の定理はRiemann 面 Iが扱う。本単元は、平面領域の上の解析接続の定義と局所的な一意性、標準的な領域の間の具体的な等角写像、複素平面の単連結領域に対する Riemann の写像定理、および展望における Legendre の楕円積分と Jacobi の楕円函数の解析的な構成を扱う。
  • 二変数以上の複素変数に固有の Hartogs 現象、正則領域、擬凸性、および∂ˉ\bar{\partial}方程式は多変数複素解析が扱う。本単元は一複素変数に限定する。
  • Dirichlet 級数、Euler 積、Riemann ゼータ関数の関数等式、および素数定理は解析的整数論が扱う。本単元は解析接続の一般的な定義を扱い、数論的な関数を体系的に研究しない。
  • 実変数の Gamma 関数と Beta 関数の定義および関係式は実解析 IIが扱う。本単元は Gamma 関数と Beta 関数を体系として構成せず、展望において Gamma 関数の有理型延長、Binet の積分表示、 Euler–Maclaurin の和公式、および Stirling の公式と剰余評価を扱う。
  • Bessel 関数と Legendre 関数、および両関数を定める微分方程式は常微分方程式が扱う。本単元は、微分方程式による特殊関数の構成を扱わない。

大学課程における位置づけと参考文献

本単元は、日本の大学の数学科において「複素解析」「関数論」などの名称で開講される科目のうち、一変数の正則関数について、Cauchy の積分理論から留数計算、等角写像、解析接続までを扱う第一課程に対応する。多くの課程では、一変数と多変数の微分積分を扱う科目に続く2年次または3年次の科目として置かれる。英語圏では Complex Analysis または Functions of One Complex Variable と呼ばれる科目に対応する。

本単元の内容は、単元の参考文献に挙げた文献のほか、次の文献が扱う範囲ともおおむね重なる。本単元の証明を補い、より広い範囲へ進むための文献として挙げる。

  • Elias M. Stein and Rami Shakarchi, Complex Analysis (Princeton University Press) — 留数による実定積分の計算と Gamma 関数を、具体的な計算とともに扱う。