§E17.7Lie 微分と括弧積の自然性

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二つのベクトル場は、それぞれ関数環C∞(M)C^\infty(M)上の導分として作用する。二つの作用の順序を入れ替えた差、すなわち交換子を取ると、二階の項が打ち消し合ってふたたび導分になる。この導分が定めるベクトル場が括弧積である。

本記事は、括弧積を交換子として定義し、その代数的な性質を確かめる。次に、微分同相によるベクトル場の押し出しと、C∞C^\infty写像に関して関連するベクトル場を定義し、関連性が括弧積によって保たれることを証明する。最後に、ベクトル場の流れによる引き戻しの微分として Lie 微分を定義し、それが括弧積に一致することと、括弧積が消えることが二つの流れの可換性と同値であることを証明する。

括弧積の自然性は、後段の二つの記事が使う。「可積分分布と Frobenius の定理」は、積分多様体へ制限したベクトル場との関連性から対合性を導く。「左不変ベクトル場と Lie 環」は、左移動が微分同相であることから左不変性が括弧積で保たれることを導く。流れの可換性は、Frobenius の定理の平坦チャートの構成にそのまま用いられる。

本記事ではMM、NNを境界を持たないC∞C^\infty多様体とし、X(M)\mathfrak{X}(M)でMM上のC∞C^\inftyベクトル場の全体を表す。ベクトル場がC∞(M)C^\infty(M)上の導分として作用することは§E17.4 定理 5.3による。

1 括弧積

命題 1.1.MMを境界を持たないC∞C^\infty多様体、X,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)とする。写像DX,Y:C∞(M)→C∞(M)D_{X,Y}:C^\infty(M)\to C^\infty(M)を

DX,Yf=X(Yf)−Y(Xf)D_{X,Y}f=X(Yf)-Y(Xf)

で定めると、DX,YD_{X,Y}はC∞(M)C^\infty(M)上の導分である。

証明. 以下ではDX,YD_{X,Y}を[X,Y][X,Y]と書く。[X,Y][X,Y]がR\mathbb{R}線形であることはXXとYYの線形性から従う。Leibniz 則を確かめる。f,g∈C∞(M)f,g\in C^\infty(M)とすると

X(Y(fg))=X(f (Yg)+g (Yf))=(Xf)(Yg)+f X(Yg)+(Xg)(Yf)+g X(Yf),Y(X(fg))=(Yf)(Xg)+f Y(Xg)+(Yg)(Xf)+g Y(Xf)\begin{aligned} X\bigl(Y(fg)\bigr)&=X\bigl(f\,(Yg)+g\,(Yf)\bigr)\\ &=(Xf)(Yg)+f\,X(Yg)+(Xg)(Yf)+g\,X(Yf),\\ Y\bigl(X(fg)\bigr)&=(Yf)(Xg)+f\,Y(Xg)+(Yg)(Xf)+g\,Y(Xf) \end{aligned}

である。差を取ると、(Xf)(Yg)(Xf)(Yg)、(Xg)(Yf)(Xg)(Yf)を含む四つの項が打ち消し合い

[X,Y](fg)=f [X,Y]g+g [X,Y]f[X,Y](fg)=f\,[X,Y]g+g\,[X,Y]f

を得る。したがって[X,Y][X,Y]は導分である。▨

定義 1.2.MMを境界を持たないC∞C^\infty多様体、X,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)とする。命題 1.1の導分f↦X(Yf)−Y(Xf)f\mapsto X(Yf)-Y(Xf)に§E17.4 定理 5.3によって対応するMM上のC∞C^\inftyベクトル場を[X,Y][X,Y]と書き、XXとYYの括弧積 (Lie bracket) という。定義から、すべてのf∈C∞(M)f\in C^\infty(M)に対して

[X,Y]f=X(Yf)−Y(Xf)[X,Y]f=X(Yf)-Y(Xf)

が成り立つ。

二階の項が実際に打ち消し合う様子は座標で見るほうが明確である。

命題 1.3.(U,φ)(U,\varphi)をMMのチャート、φ=(x1,…,xn)\varphi=(x^1,\dots,x^n)とし、UU上で

X∣U=∑i=1nXi ∂∂xi,Y∣U=∑i=1nYi ∂∂xiX|_U=\sum_{i=1}^{n}X^i\,\frac{\partial}{\partial x^i},\qquad Y|_U=\sum_{i=1}^{n}Y^i\,\frac{\partial}{\partial x^i}

とする。このとき

[X,Y]∣U=∑j=1n(∑i=1n(Xi∂Yj∂xi−Yi∂Xj∂xi))∂∂xj[X,Y]|_U=\sum_{j=1}^{n}\left(\sum_{i=1}^{n}\left(X^i\frac{\partial Y^j}{\partial x^i} -Y^i\frac{\partial X^j}{\partial x^i}\right)\right)\frac{\partial}{\partial x^j}

が成り立つ。

証明.§E17.3 補題 1.3により、点p∈Up\in Uにおける導分の値は、ppの任意の近傍上での関数の値だけで決まる。したがってUU上のC∞C^\infty関数ffについて[X,Y]f[X,Y]fを計算すれば足りる。座標表示で∂i=∂/∂xi\partial_i=\partial/\partial x^iと書くと

X(Yf)=∑i=1nXi∂i(∑j=1nYj∂jf)=∑i=1n∑j=1nXi(∂iYj)(∂jf)+∑i=1n∑j=1nXiYj ∂i∂jfX(Yf)=\sum_{i=1}^{n}X^i\partial_i\left(\sum_{j=1}^{n}Y^j\partial_jf\right) =\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}X^i(\partial_iY^j)(\partial_jf) +\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}X^iY^j\,\partial_i\partial_jf

である。同じ計算で

Y(Xf)=∑i=1n∑j=1nYi(∂iXj)(∂jf)+∑i=1n∑j=1nYiXj ∂i∂jfY(Xf)=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}Y^i(\partial_iX^j)(\partial_jf) +\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}Y^iX^j\,\partial_i\partial_jf

である。二階の項を比較する。第二の式の二階の項で添字iiとjjを入れ替えると

∑i=1n∑j=1nYiXj ∂i∂jf=∑i=1n∑j=1nXiYj ∂j∂if\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}Y^iX^j\,\partial_i\partial_jf =\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}X^iY^j\,\partial_j\partial_if

である。ffはC∞C^\inftyであるから§E4.4 定理 2.1により∂j∂if=∂i∂jf\partial_j\partial_if=\partial_i\partial_jfであり、この和は第一の式の二階の項に等しい。したがって差を取ると二階の項は打ち消し合い、

[X,Y]f=∑j=1n(∑i=1n(Xi∂iYj−Yi∂iXj))∂jf[X,Y]f=\sum_{j=1}^{n}\left(\sum_{i=1}^{n}\left(X^i\partial_iY^j-Y^i\partial_iX^j\right)\right)\partial_jf

を得る。右辺の括弧の中の関数はUU上でC∞C^\inftyである。▨

命題 1.4.X,Y,Z∈X(M)X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M)、a,b∈Ra,b\in\mathbb{R}とする。

  1. [aX+bY,Z]=a[X,Z]+b[Y,Z][aX+bY,Z]=a[X,Z]+b[Y,Z]であり、第二変数についても同様である。
  2. [X,Y]=−[Y,X][X,Y]=-[Y,X]である。
  3. Jacobi 律[[X,Y],Z]+[[Y,Z],X]+[[Z,X],Y]=0[[X,Y],Z]+[[Y,Z],X]+[[Z,X],Y]=0が成り立つ。

証明.(1)と(2)は定義式[X,Y]f=X(Yf)−Y(Xf)[X,Y]f=X(Yf)-Y(Xf)から直ちに従う。

(3)を示す。f∈C∞(M)f\in C^\infty(M)に対して、導分の合成を作用素の積として書くと[X,Y]=XY−YX[X,Y]=XY-YX(C∞(M)C^\infty(M)からC∞(M)C^\infty(M)へのR\mathbb{R}線形写像としての等式)である。したがって

[[X,Y],Z]=(XY−YX)Z−Z(XY−YX)=XYZ−YXZ−ZXY+ZYX[[X,Y],Z]=(XY-YX)Z-Z(XY-YX)=XYZ-YXZ-ZXY+ZYX

である。同様に

[[Y,Z],X]=YZX−ZYX−XYZ+XZY,[[Z,X],Y]=ZXY−XZY−YZX+YXZ[[Y,Z],X]=YZX-ZYX-XYZ+XZY,\qquad [[Z,X],Y]=ZXY-XZY-YZX+YXZ

である。三つを加えると、XYZXYZ、YXZYXZ、ZXYZXY、ZYXZYX、YZXYZX、XZYXZYの各項がそれぞれ符号の異なる二回ずつ現れて打ち消し合い、和は00である。▨

例 1.5 (座標での括弧積の計算).M=R2M=\mathbb{R}^2、X=∂∂xX=\dfrac{\partial}{\partial x}、Y=x∂∂yY=x\dfrac{\partial}{\partial y}とする。f∈C∞(R2)f\in C^\infty(\mathbb{R}^2)に対して

X(Yf)=∂∂x(x∂f∂y)=∂f∂y+x∂2f∂x ∂y,Y(Xf)=x∂2f∂y ∂xX(Yf)=\frac{\partial}{\partial x}\left(x\frac{\partial f}{\partial y}\right) =\frac{\partial f}{\partial y}+x\frac{\partial^2f}{\partial x\,\partial y},\qquad Y(Xf)=x\frac{\partial^2f}{\partial y\,\partial x}

であり、二階の項は§E4.4 定理 2.1により打ち消し合うので[X,Y]=∂∂y[X,Y]=\dfrac{\partial}{\partial y}である。命題 1.3を用いても、X1=1X^1=1、X2=0X^2=0、Y1=0Y^1=0、Y2=xY^2=xから∑i=12Xi∂iY2=∂x(x)=1\sum_{i=1}^{2}X^i\partial_iY^2=\partial_x(x)=1、∑i=12Yi∂iXj=0\sum_{i=1}^{2}Y^i\partial_iX^j=0となり同じ結果を得る。

M=R3M=\mathbb{R}^3、X=∂∂x+y∂∂zX=\dfrac{\partial}{\partial x}+y\dfrac{\partial}{\partial z}、Y=∂∂yY=\dfrac{\partial}{\partial y}とすると

[X,Y]f=(∂∂x+y∂∂z)∂f∂y−∂∂y(∂f∂x+y∂f∂z)=−∂f∂z[X,Y]f=\left(\frac{\partial}{\partial x}+y\frac{\partial}{\partial z}\right)\frac{\partial f}{\partial y} -\frac{\partial}{\partial y}\left(\frac{\partial f}{\partial x}+y\frac{\partial f}{\partial z}\right) =-\frac{\partial f}{\partial z}

であるから[X,Y]=−∂∂z[X,Y]=-\dfrac{\partial}{\partial z}である。この計算は「可積分分布と Frobenius の定理」で対合的でない分布の例に用いる。

2 押し出しと関連するベクトル場

本単元では、すべての始域上のベクトル場を追加の選択なしに終域へ移す標準的な操作として、微分同相に対するF∗F_*を定義する。一般の滑らかな写像では、与えたXXに対してYF(p)=dFp(Xp)Y_{F(p)}=dF_p(X_p)を満たす滑らかなYYの存在と一意性は保証されない。ただし、微分同相でないことだけから不存在を結論することもできない。四つの個別例と、微分同相の場合の滑らかさの証明は§E17.4 定理 6.1にあり、本記事はそれらを再証明しない。

定義 2.1.F:M→NF:M\to Nを微分同相、X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)とする。NN上のベクトル場F∗XF_*Xを

(F∗X)q=dFF−1(q)(XF−1(q))(q∈N)(F_*X)_q=dF_{F^{-1}(q)}\bigl(X_{F^{-1}(q)}\bigr)\qquad(q\in N)

で定め、XXのFFによる押し出し (pushforward of a vector field) という。

命題 2.2.F:M→NF:M\to Nを微分同相、X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)とするとF∗X∈X(N)F_*X\in\mathfrak{X}(N)である。さらに、g∈C∞(N)g\in C^\infty(N)に対して

(F∗X)(g)=(X(g∘F))∘F−1(F_*X)(g)=\bigl(X(g\circ F)\bigr)\circ F^{-1}

が成り立つ。

証明.q∈Nq\in N、g∈C∞(N)g\in C^\infty(N)とし、p=F−1(q)p=F^{-1}(q)と置く。微分の定義により

(F∗X)q(g)=dFp(Xp)(g)=Xp(g∘F)=(X(g∘F))(p)=((X(g∘F))∘F−1)(q)(F_*X)_q(g)=dF_p(X_p)(g)=X_p(g\circ F)=\bigl(X(g\circ F)\bigr)(p) =\Bigl(\bigl(X(g\circ F)\bigr)\circ F^{-1}\Bigr)(q)

である。g∘F∈C∞(M)g\circ F\in C^\infty(M)であるからX(g∘F)∈C∞(M)X(g\circ F)\in C^\infty(M)であり、F−1F^{-1}はC∞C^\inftyであるから右辺はNN上のC∞C^\infty関数である。よってq↦(F∗X)qq\mapsto(F_*X)_qはC∞(N)C^\infty(N)上の導分を定め、§E17.4 定理 5.3によりC∞C^\inftyベクトル場である。▨

本単元は押し出しF∗XF_*Xを微分同相に対して定義するが、関連するベクトル場という次の概念は任意の滑らかな写像に対して意味を持つ。

証明.p∈Mp\in M、g∈C∞(N)g\in C^\infty(N)とする。微分の定義によりdFp(Xp)(g)=Xp(g∘F)dF_p(X_p)(g)=X_p(g\circ F)であり、YF(p)(g)=(Yg)(F(p))Y_{F(p)}(g)=(Yg)(F(p))である。したがってdFp(Xp)=YF(p)dF_p(X_p)=Y_{F(p)}がすべてのppで成り立つことと、すべてのppとすべてのggに対してXp(g∘F)=(Yg)(F(p))X_p(g\circ F)=(Yg)(F(p))が成り立つことは同値である。接ベクトルはC∞(N)C^\infty(N)上の導分として定義されているので、二つの接ベクトルが等しいことと、すべてのg∈C∞(N)g\in C^\infty(N)に対する値が等しいことは同値である。▨

定理 2.6.F:M→NF:M\to NをC∞C^\infty写像とする。X1,X2∈X(M)X_1,X_2\in\mathfrak{X}(M)とY1,Y2∈X(N)Y_1,Y_2\in\mathfrak{X}(N)が、i=1,2i=1,2のそれぞれについてFFに関して関連するならば、[X1,X2][X_1,X_2]と[Y1,Y2][Y_1,Y_2]もFFに関して関連する。

系として、FFが微分同相ならば、すべてのX,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)に対して

F∗[X,Y]=[F∗X,F∗Y]F_*[X,Y]=[F_*X,F_*Y]

が成り立つ。

証明.命題 2.4の条件を用いる。g∈C∞(N)g\in C^\infty(N)とする。X2X_2とY2Y_2が関連することからX2(g∘F)=(Y2g)∘FX_2(g\circ F)=(Y_2g)\circ Fである。Y2g∈C∞(N)Y_2g\in C^\infty(N)であるから、X1X_1とY1Y_1が関連することを関数Y2gY_2gに対して用いると

X1(X2(g∘F))=X1((Y2g)∘F)=(Y1(Y2g))∘FX_1\bigl(X_2(g\circ F)\bigr)=X_1\bigl((Y_2g)\circ F\bigr)=\bigl(Y_1(Y_2g)\bigr)\circ F

である。添字11と22を入れ替えてX2(X1(g∘F))=(Y2(Y1g))∘FX_2\bigl(X_1(g\circ F)\bigr)=\bigl(Y_2(Y_1g)\bigr)\circ Fを得る。差を取ると

[X1,X2](g∘F)=([Y1,Y2]g)∘F[X_1,X_2](g\circ F)=\bigl([Y_1,Y_2]g\bigr)\circ F

である。ggは任意であったから、命題 2.4により[X1,X2][X_1,X_2]と[Y1,Y2][Y_1,Y_2]はFFに関して関連する。

系を示す。FFを微分同相とすると、定義 2.1の定義からdFp(Xp)=(F∗X)F(p)dF_p(X_p)=(F_*X)_{F(p)}であり、XXとF∗XF_*XはFFに関して関連する。YYとF∗YF_*Yについても同様である。したがって上の主張により[X,Y][X,Y]と[F∗X,F∗Y][F_*X,F_*Y]はFFに関して関連する。一方[X,Y][X,Y]とF∗[X,Y]F_*[X,Y]もFFに関して関連する。FFは全単射であるから、NNの各点qqで

(F∗[X,Y])q=dFF−1(q)([X,Y]F−1(q))=[F∗X,F∗Y]q\bigl(F_*[X,Y]\bigr)_q=dF_{F^{-1}(q)}\bigl([X,Y]_{F^{-1}(q)}\bigr)=[F_*X,F_*Y]_q

である。▨

例 2.7 (押し出しと括弧積の可換性の検算).F:R2→R2F:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2をF(x,y)=(x,y+x2)F(x,y)=(x,y+x^2)とする。FFは全単射であり、逆写像F−1(u,v)=(u,v−u2)F^{-1}(u,v)=(u,v-u^2)とともにC∞C^\inftyであるから微分同相である。Jacobi 行列は

dF(x,y)=(102x1)dF_{(x,y)}=\begin{pmatrix}1&0\\2x&1\end{pmatrix}

である。X=∂∂xX=\dfrac{\partial}{\partial x}、Y=x∂∂yY=x\dfrac{\partial}{\partial y}とすると、例 1.5により[X,Y]=∂∂y[X,Y]=\dfrac{\partial}{\partial y}である。

押し出しを計算する。F(x,y)=(u,v)F(x,y)=(u,v)とするとx=ux=uである。X(x,y)X_{(x,y)}の成分は(1,0)(1,0)であるからdF(x,y)(X(x,y))=(1,2x)=(1,2u)dF_{(x,y)}(X_{(x,y)})=(1,2x)=(1,2u)であり、F∗X=∂∂u+2u∂∂vF_*X=\dfrac{\partial}{\partial u}+2u\dfrac{\partial}{\partial v}である。Y(x,y)Y_{(x,y)}の成分は(0,x)(0,x)であるからdF(x,y)(Y(x,y))=(0,x)=(0,u)dF_{(x,y)}(Y_{(x,y)})=(0,x)=(0,u)であり、F∗Y=u∂∂vF_*Y=u\dfrac{\partial}{\partial v}である。また[X,Y](x,y)[X,Y]_{(x,y)}の成分は(0,1)(0,1)であるからF∗[X,Y]=∂∂vF_*[X,Y]=\dfrac{\partial}{\partial v}である。

括弧積を計算する。命題 1.3を(F∗X)1=1(F_*X)^1=1、(F∗X)2=2u(F_*X)^2=2u、(F∗Y)1=0(F_*Y)^1=0、(F∗Y)2=u(F_*Y)^2=uに適用すると、第一成分は00であり、第二成分は

1⋅∂(u)∂u+2u⋅∂(u)∂v−0⋅∂(2u)∂u−u⋅∂(2u)∂v=11\cdot\frac{\partial(u)}{\partial u}+2u\cdot\frac{\partial(u)}{\partial v} -0\cdot\frac{\partial(2u)}{\partial u}-u\cdot\frac{\partial(2u)}{\partial v}=1

である。よって[F∗X,F∗Y]=∂∂v=F∗[X,Y][F_*X,F_*Y]=\dfrac{\partial}{\partial v}=F_*[X,Y]であり、定理 2.6の系と一致する。

3 Lie 微分

X∈X(M)X\in\mathfrak{X}(M)の流れをφ\varphiと書き、§E17.6 定理 7.1の記号を用いる。p∈Mp\in Mとt∈Jpt\in J_pに対してφt\varphi_tはMtM_tからM−tM_{-t}への微分同相であるから、d(φ−t)φt(p)d(\varphi_{-t})_{\varphi_t(p)}はTφt(p)MT_{\varphi_t(p)}MからTpMT_pMへの線形同型である。したがって

Vp(t)=d(φ−t)φt(p)(Yφt(p))∈TpMV_p(t)=d(\varphi_{-t})_{\varphi_t(p)}\bigl(Y_{\varphi_t(p)}\bigr)\in T_pM

は、ttが動いても同じ有限次元ベクトル空間TpMT_pMに値を取る。この曲線を微分することができる。

命題 3.1.X,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)、p∈Mp\in Mとする。TpMT_pMの基底を一つ固定してVp(t)V_p(t)をRn\mathbb{R}^nの点とみなすと、Vp:Jp→RnV_p:J_p\to\mathbb{R}^nはC∞C^\infty級である。この性質は基底のとり方に依らない。

証明.ppの周りのチャート(U,ψ)(U,\psi)、ψ=(x1,…,xn)\psi=(x^1,\dots,x^n)を一つ固定し、TpMT_pMの基底を{∂/∂xi∣p}\{\partial/\partial x^i|_p\}に取る。この二つは以下の議論を通じて動かさない。

t0∈Jpt_0\in J_pを任意に取り、q0=φt0(p)q_0=\varphi_{t_0}(p)と置く。q0q_0はUUに属するとは限らないので、q0q_0の周りに別のチャート(U′′,ψ′′)(U'',\psi'')、ψ′′=(z1,…,zn)\psi''=(z^1,\dots,z^n)を取る。φ(−t0,q0)=p∈U\varphi(-t_0,q_0)=p\in Uであり、§E17.6 定理 7.1によりφ\varphiは連続であるから、t0t_0を含む開区間IIとq0q_0の開近傍U0⊆U′′U_0\subseteq U''が存在して、t∈It\in Iとq∈U0q\in U_0のときφ(−t,q)\varphi(-t,q)が定義されUUに属する。そこで

H(t,z)=ψ(φ(−t,(ψ′′)−1(z)))(t∈I, z∈ψ′′(U0))H(t,z)=\psi\Bigl(\varphi\bigl(-t,(\psi'')^{-1}(z)\bigr)\Bigr) \qquad\bigl(t\in I,\ z\in\psi''(U_0)\bigr)

と置く。§E17.6 定理 7.1によりφ\varphiはC∞C^\inftyであり、チャートとその逆写像もC∞C^\inftyであるから、HHはC∞C^\inftyである。A~(t,z)=DzH(t,z)\widetilde A(t,z)=D_zH(t,z)と置くと、A~(t,z)\widetilde A(t,z)は{∂/∂zj∣(ψ′′)−1(z)}\{\partial/\partial z^j|_{(\psi'')^{-1}(z)}\}を始域の基底、{∂/∂xi∣φ(−t,(ψ′′)−1(z))}\{\partial/\partial x^i|_{\varphi(-t,(\psi'')^{-1}(z))}\}を終域の基底として、線形写像d(φ−t)(ψ′′)−1(z)d(\varphi_{-t})_{(\psi'')^{-1}(z)}を表す行列である。

c(t)=ψ′′(φt(p))c(t)=\psi''\bigl(\varphi_t(p)\bigr)と置くと、ccはIIを縮めればC∞C^\inftyでありH(t,c(t))=ψ(p)H(t,c(t))=\psi(p)である。すなわちA~(t,c(t))\widetilde A(t,c(t))は、いま固定したTpMT_pMの基底に関してd(φ−t)φt(p)d(\varphi_{-t})_{\varphi_t(p)}を表す行列である。YYの(U′′,ψ′′)(U'',\psi'')における座標表示をG~\widetilde Gと書くと、G~\widetilde GはC∞C^\inftyであり

Vp(t)=A~(t,c(t)) G~(c(t))(t∈I)V_p(t)=\widetilde A\bigl(t,c(t)\bigr)\,\widetilde G\bigl(c(t)\bigr) \qquad(t\in I)

である。右辺はC∞C^\infty写像の合成と行列の積であるから、ttについてC∞C^\inftyである。t0∈Jpt_0\in J_pは任意であったから、VpV_pはJpJ_p上でC∞C^\inftyである。TpMT_pMの基底を取り替えるとVpV_pは固定した正則行列を掛けたものになるので、C∞C^\infty性は基底のとり方に依らない。▨

定義 3.2.X,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)とする。YYのXXによる Lie 微分 (Lie derivative) を

(LXY)p=ddt∣t=0d(φ−t)φt(p)(Yφt(p))∈TpM(p∈M)(\mathcal{L}_XY)_p=\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0} d(\varphi_{-t})_{\varphi_t(p)}\bigl(Y_{\varphi_t(p)}\bigr)\in T_pM \qquad(p\in M)

で定める。ここでφ\varphiはXXの流れである。右辺は命題 3.1により定まる。

定理 3.3.X,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)に対してLXY=[X,Y]\mathcal{L}_XY=[X,Y]が成り立つ。とくにLXY\mathcal{L}_XYはMM上のC∞C^\inftyベクトル場である。

証明. 主張は点ごとの等式であるから、ppの周りのチャート(U,ψ)(U,\psi)を取って座標で計算すれば足りる。ψ(p)=0\psi(p)=0としてよい。FFをXXの座標表示、GGをYYの座標表示とし、Φ(t,x)\Phi(t,x)を流れの座標表示、A(t,x)=DxΦ(t,x)A(t,x)=D_x\Phi(t,x)とする。t=0t=0の近くではφt(p)∈U\varphi_t(p)\in Uであるから、命題 3.1の証明で(U′′,ψ′′)=(U,ψ)(U'',\psi'')=(U,\psi)と取ることができ、そこでのH(t,x)H(t,x)はΦ(−t,x)\Phi(-t,x)、A~(t,x)\widetilde A(t,x)はA(−t,x)A(-t,x)、c(t)c(t)はΦ(t,0)\Phi(t,0)である。すなわち

V(t)=A(−t,Φ(t,0)) G(Φ(t,0))V(t)=A\bigl(-t,\Phi(t,0)\bigr)\,G\bigl(\Phi(t,0)\bigr)

であり、(LXY)p(\mathcal{L}_XY)_pの座標成分はV′(0)V'(0)である。

A(0,x)A(0,x)を計算する。Φ(0,x)=x\Phi(0,x)=xであるからA(0,x)=Dx(x)=InA(0,x)=D_x(x)=I_nであり、xxに依らない。したがって

DxA(0,x)=0(1)D_xA(0,x)=0 \tag{1}

である。

∂tA(t,x)\partial_tA(t,x)を計算する。Φ\PhiはC∞C^\inftyであるから、その各成分へ§E4.4 定理 2.1を適用すると、二階の偏導関数は微分の順序に依らない。よって

∂tA(t,x)=∂tDxΦ(t,x)=Dx∂tΦ(t,x)=Dx(F(Φ(t,x)))=DF(Φ(t,x))A(t,x)\partial_tA(t,x)=\partial_tD_x\Phi(t,x)=D_x\partial_t\Phi(t,x)=D_x\bigl(F(\Phi(t,x))\bigr) =DF\bigl(\Phi(t,x)\bigr)A(t,x)

であり、t=0t=0、x=0x=0で

∂tA(0,0)=DF(0)(2)\partial_tA(0,0)=DF(0) \tag{2}

である。

B(t)=A(−t,Φ(t,0))B(t)=A(-t,\Phi(t,0))と置く。連鎖律(§E4.3 定理 1.1)と∂tΦ(0,0)=F(0)\partial_t\Phi(0,0)=F(0)により

B′(0)=−∂tA(0,0)+DxA(0,0)[F(0)]=−DF(0)B'(0)=-\partial_tA(0,0)+D_xA(0,0)\bigl[F(0)\bigr]=-DF(0)

である。ここで (1) と (2) を用いた。またB(0)=A(0,0)=InB(0)=A(0,0)=I_nである。

C(t)=G(Φ(t,0))C(t)=G(\Phi(t,0))と置くと、連鎖律によりC′(0)=DG(0)F(0)C'(0)=DG(0)F(0)でありC(0)=G(0)C(0)=G(0)である。

積の微分により

V′(0)=B′(0)C(0)+B(0)C′(0)=−DF(0)G(0)+DG(0)F(0)V'(0)=B'(0)C(0)+B(0)C'(0)=-DF(0)G(0)+DG(0)F(0)

である。第jj成分を書き下すと

(V′(0))j=∑i=1n(Fi(0)∂Gj∂xi(0)−Gi(0)∂Fj∂xi(0))\bigl(V'(0)\bigr)^j=\sum_{i=1}^{n}\left(F^i(0)\frac{\partial G^j}{\partial x^i}(0) -G^i(0)\frac{\partial F^j}{\partial x^i}(0)\right)

である。FiF^iとGiG^iはXXとYYの座標成分であるから、右辺は命題 1.3の[X,Y][X,Y]の第jj成分のppにおける値に等しい。よって(LXY)p=[X,Y]p(\mathcal{L}_XY)_p=[X,Y]_pである。ppは任意であった。▨

例 3.4 (Lie 微分の直接の計算).M=R2M=\mathbb{R}^2、X=∂∂xX=\dfrac{\partial}{\partial x}、Y=x∂∂yY=x\dfrac{\partial}{\partial y}とする。XXの流れはφt(x,y)=(x+t,y)\varphi_t(x,y)=(x+t,y)である。φ−t\varphi_{-t}は平行移動であるからd(φ−t)d(\varphi_{-t})の行列表示は単位行列であり、

V(x,y)(t)=Yφt(x,y)=Y(x+t,y)=(0, x+t)V_{(x,y)}(t)=Y_{\varphi_t(x,y)}=Y_{(x+t,y)}=(0,\ x+t)

である。したがってV(x,y)′(0)=(0,1)V'_{(x,y)}(0)=(0,1)、すなわちLXY=∂∂y\mathcal{L}_XY=\dfrac{\partial}{\partial y}である。これは例 1.5で計算した[X,Y]=∂∂y[X,Y]=\dfrac{\partial}{\partial y}と一致する。

4 流れの可換性

定理 4.1.X,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)とし、φ\varphiをXXの流れ、ψ\psiをYYの流れとする。次は同値である。

  1. [X,Y]=0[X,Y]=0である。
  2. t∈Rt\in\mathbb{R}とp∈Mtp\in M_t(XXの流れの定義域に属する点)のすべてについてd(φt)p(Yp)=Yφt(p)d(\varphi_t)_p(Y_p)=Y_{\varphi_t(p)}が成り立つ。
  3. 各p∈Mp\in Mに対してε>0\varepsilon>0とppの開近傍OOが存在して、∣s∣<ε|s|<\varepsilon、∣t∣<ε|t|<\varepsilon、q∈Oq\in Oを満たすすべての組についてφt(ψs(q))\varphi_t\bigl(\psi_s(q)\bigr)とψs(φt(q))\psi_s\bigl(\varphi_t(q)\bigr)がともに定義され、両者が一致する。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。p∈Mp\in Mを固定し、命題 3.1の記号でVp(t)=d(φ−t)φt(p)(Yφt(p))V_p(t)=d(\varphi_{-t})_{\varphi_t(p)}(Y_{\varphi_t(p)})と置く。t∈Jpt\in J_pと、t+u∈Jpt+u\in J_pを満たす十分小さいuuに対して、q=φt(p)q=\varphi_t(p)と置くとφt+u(p)=φu(q)\varphi_{t+u}(p)=\varphi_u(q)であり、群法則(§E17.6 定理 7.1 (3))と連鎖律(§E17.3 定理 5.3)により

Vp(t+u)=d(φ−t−u)φu(q)(Yφu(q))=d(φ−t)q(d(φ−u)φu(q)(Yφu(q)))=d(φ−t)q(Vq(u))V_p(t+u)=d(\varphi_{-t-u})_{\varphi_u(q)}\bigl(Y_{\varphi_u(q)}\bigr) =d(\varphi_{-t})_{q}\Bigl(d(\varphi_{-u})_{\varphi_u(q)}\bigl(Y_{\varphi_u(q)}\bigr)\Bigr) =d(\varphi_{-t})_q\bigl(V_q(u)\bigr)

である。d(φ−t)qd(\varphi_{-t})_qはuuに依らない線形写像であるから、u=0u=0で微分して

Vp′(t)=d(φ−t)q(Vq′(0))=d(φ−t)q((LXY)q)V_p'(t)=d(\varphi_{-t})_q\bigl(V_q'(0)\bigr)=d(\varphi_{-t})_q\bigl((\mathcal{L}_XY)_q\bigr)

を得る。定理 3.3と仮定[X,Y]=0[X,Y]=0により右辺は00である。JpJ_pは区間でありVpV_pはC∞C^\inftyであるからVpV_pは定数であり、Vp(t)=Vp(0)=YpV_p(t)=V_p(0)=Y_pである。両辺へ線形同型d(φt)pd(\varphi_t)_pを施すとYφt(p)=d(φt)p(Yp)Y_{\varphi_t(p)}=d(\varphi_t)_p(Y_p)を得る。

条件 (b)⇒\Rightarrow(c)を示す。p∈Mp\in Mを取る。§E17.6 定理 7.1によりXXの流れの定義域は開集合であるから、ε1>0\varepsilon_1>0とppの開近傍O1O_1を、∣t∣<ε1|t|<\varepsilon_1とr∈O1r\in O_1についてφt(r)\varphi_t(r)が定義されるように取ることができる。YYの流れψ\psiは(0,p)(0,p)の近傍で連続でありψ(0,p)=p∈O1\psi(0,p)=p\in O_1であるから、0<ε≤ε10<\varepsilon\le\varepsilon_1とppの開近傍O⊆O1O\subseteq O_1を、∣s∣<ε|s|<\varepsilonとq∈Oq\in Oについてψs(q)\psi_s(q)が定義されψs(q)∈O1\psi_s(q)\in O_1となるように取ることができる。

q∈Oq\in Oと∣t∣<ε|t|<\varepsilonを固定し、c(s)=φt(ψs(q))c(s)=\varphi_t\bigl(\psi_s(q)\bigr)(∣s∣<ε|s|<\varepsilon)と置く。右辺は上の選び方により定義され、ssについてC∞C^\inftyである。曲線s↦ψs(q)s\mapsto\psi_s(q)の速度ベクトルはYψs(q)Y_{\psi_s(q)}であるから、連鎖律により

c′(s)=d(φt)ψs(q)(Yψs(q))=Yφt(ψs(q))=Yc(s)c'(s)=d(\varphi_t)_{\psi_s(q)}\bigl(Y_{\psi_s(q)}\bigr)=Y_{\varphi_t(\psi_s(q))}=Y_{c(s)}

である。第二の等号に条件 (b)を用いた。したがってccはYYの積分曲線でありc(0)=φt(q)c(0)=\varphi_t(q)である。§E17.6 定理 1.4により(−ε,ε)⊆Jφt(q)Y(-\varepsilon,\varepsilon)\subseteq J^Y_{\varphi_t(q)}でありc(s)=ψs(φt(q))c(s)=\psi_s\bigl(\varphi_t(q)\bigr)である。すなわちψs(φt(q))\psi_s(\varphi_t(q))も定義され、φt(ψs(q))=ψs(φt(q))\varphi_t(\psi_s(q))=\psi_s(\varphi_t(q))である。

条件 (c)⇒\Rightarrow(a)を示す。p∈Mp\in Mを取り、条件 (c)のε\varepsilonとOOを取る。∣t∣<ε|t|<\varepsilonを固定し、q∈Oq\in Oとする。等式φt(ψs(q))=ψs(φt(q))\varphi_t(\psi_s(q))=\psi_s(\varphi_t(q))の両辺をssについてs=0s=0で微分すると、左辺は連鎖律によりd(φt)q(Yq)d(\varphi_t)_q(Y_q)、右辺はYφt(q)Y_{\varphi_t(q)}である。したがってd(φt)q(Yq)=Yφt(q)d(\varphi_t)_q(Y_q)=Y_{\varphi_t(q)}、すなわちVq(t)=YqV_q(t)=Y_qが∣t∣<ε|t|<\varepsilonで成り立つ。q=pq=pと取ってt=0t=0で微分すると(LXY)p=0(\mathcal{L}_XY)_p=0であり、定理 3.3により[X,Y]p=0[X,Y]_p=0である。ppは任意であった。▨

注意 4.2 (大域的な形で述べるときの注意).定理 4.1 条件 (c)を「φt∘ψs=ψs∘φt\varphi_t\circ\psi_s=\psi_s\circ\varphi_tが両辺の定義される範囲で成り立つ」という形で書くときは、定義域を明示しなければ主張が定まらない。上の証明の定理 4.1 条件 (b)⇒\Rightarrow(c)の段が示しているのは、次の形である。[X,Y]=0[X,Y]=0とし、q∈Mq\in M、t∈Rt\in\mathbb{R}、s0>0s_0>0とする。すべてのs∈[0,s0]s\in[0,s_0]に対してψs(q)\psi_s(q)が定義され、かつφt(ψs(q))\varphi_t(\psi_s(q))が定義されるならば、ψs0(φt(q))\psi_{s_0}(\varphi_t(q))も定義されφt(ψs0(q))=ψs0(φt(q))\varphi_t(\psi_{s_0}(q))=\psi_{s_0}(\varphi_t(q))である。中間のssにおける定義可能性を落とすことはできない。「可積分分布と Frobenius の定理」が用いるのは定理 4.1 条件 (c)の局所的な形だけである。

例 4.3 (括弧積が消えない場合の流れ).M=R2M=\mathbb{R}^2、X=∂∂xX=\dfrac{\partial}{\partial x}、Y=x∂∂yY=x\dfrac{\partial}{\partial y}とする。それぞれの流れは

φt(x,y)=(x+t, y),ψs(x,y)=(x, y+sx)\varphi_t(x,y)=(x+t,\ y),\qquad \psi_s(x,y)=(x,\ y+sx)

である。実際、ddsψs(x,y)=(0,x)=Yψs(x,y)\frac{d}{ds}\psi_s(x,y)=(0,x)=Y_{\psi_s(x,y)}でありψ0=id⁡\psi_0=\operatorname{id}である。どちらも完備である。合成を両方の順序で計算すると

φt(ψs(x,y))=(x+t, y+sx),ψs(φt(x,y))=(x+t, y+s(x+t))\varphi_t\bigl(\psi_s(x,y)\bigr)=(x+t,\ y+sx),\qquad \psi_s\bigl(\varphi_t(x,y)\bigr)=(x+t,\ y+s(x+t))

であり、差は(0,st)(0,st)である。st≠0st\ne0のとき二つは一致しない。例 1.5により[X,Y]=∂/∂y≠0[X,Y]=\partial/\partial y\ne0であり、定理 4.1と整合する。

差(0,st)(0,st)をststで割ると(0,1)(0,1)であり、これは[X,Y][X,Y]の成分に等しい。すなわち、この例では括弧積が二つの流れの非可換性のststに比例する項として現れている。

例 4.4 (座標ベクトル場の流れは可換である). チャート(U,φ)(U,\varphi)、φ=(x1,…,xn)\varphi=(x^1,\dots,x^n)の座標ベクトル場∂/∂xi\partial/\partial x^iと∂/∂xj\partial/\partial x^jについては、命題 1.3の成分がいずれも定数であるから[∂/∂xi,∂/∂xj]=0[\partial/\partial x^i,\partial/\partial x^j]=0である。対応する流れは座標の第ii成分と第jj成分をそれぞれ平行移動する写像であり、実際に可換である。「可積分分布と Frobenius の定理」は、この対応を逆向きにたどる。すなわち、括弧積の消える枠を取り、その流れの可換性から、枠を座標ベクトル場にするチャートを構成する。

5 演習

問題 5.1.

  1. 命題 1.1の証明では、X(Y(fg))−Y(X(fg))X(Y(fg))-Y(X(fg))の展開において四つの項が打ち消し合った。その四つの項を書き出し、どの二つが対になって消えるかを示せ。また、XYXY単独では Leibniz 則が成り立たないことを、X=Y=∂/∂xX=Y=\partial/\partial x、f=g=xf=g=xの場合に確かめよ。
  2. 命題 1.3の証明で§E4.4 定理 2.1を適用した箇所を指摘し、ffがC1C^1級であるにとどまる場合に議論が成立しない理由を述べよ。
  3. 定理 2.6の証明は、関連性の二つの同値な条件のうち関数を用いる条件だけを使っている。dFp(Xp)=YF(p)dF_p(X_p)=Y_{F(p)}という点ごとの条件から直接同じ結論を導こうとすると、どこで二階の微分が現れて議論が止まるかを説明せよ。
  4. 定理 3.3の証明ではDxA(0,x)=0D_xA(0,x)=0を用いた。この等式が成り立つ理由をΦ(0,x)=x\Phi(0,x)=xから述べ、これを見落とすとV′(0)V'(0)の計算にどのような余分な項が現れるかを示せ。
  5. 定理 4.1 条件 (a)⇒\Rightarrow(b)の証明で、Vp′(t)V_p'(t)の計算に群法則を用いた。d(φ−t)qd(\varphi_{-t})_qがuuに依らないことがなぜ必要かを述べ、この線形写像がuuにも依存すると仮定した場合に現れる追加の項を書け。
  6. M=R2M=\mathbb{R}^2上でX=∂/∂xX=\partial/\partial x、Y=f(x)∂/∂yY=f(x)\partial/\partial y(f∈C∞(R)f\in C^\infty(\mathbb{R}))とする。[X,Y]=0[X,Y]=0となるffをすべて決定し、そのときに二つの流れが可換であることを直接の計算で確かめよ。

6 境界と次

押し出しの範囲。本記事が定義したF∗XF_*XはFFが微分同相である場合に限る。この限定は、本単元がF∗XF_*Xを標準的な移送の記号として用いるための規約である。FFが単射なはめ込みで像への同相である場合、点ごとの規則は像の外の値を一意に選ばないが、関連する終域上の場が複数存在することはある。この点の一次責務は§E17.4 定理 6.1にあり、本記事は再証明しない。

関連するベクトル場と押し出しの関係。FFが微分同相のとき、XXと関連するベクトル場はF∗XF_*Xただ一つである。FFが微分同相でないとき、注意 2.5のとおり関連するベクトル場は存在しないことも、複数存在することも、一意に存在することもある。したがって定理 2.6は、押し出しが定義されない場合にも意味を持つ形の主張である。

微分形式とテンソル場に対する Lie 微分。本記事はLXY\mathcal{L}_XY、すなわちベクトル場に対する Lie 微分だけを扱う。微分形式に対する Lie 微分LXω=ddt∣t=0(φt)∗ω\mathcal{L}_X\omega=\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}(\varphi_t)^*\omegaの定義と、それを外微分と内部積で表す Cartan の公式は「内部積・Cartan の公式・Poincaré の補題」が扱う。共変テンソル場の引き戻しは微分同相でなくても定義されるので、そちらの Lie 微分は本記事の押し出しの制限を受けない。

扱わない事項。X(M)\mathfrak{X}(M)を無限次元の Lie 環として扱う一般論、その部分環の分類、およびベクトル場が生成する変換群の構造は本単元の範囲外である。X(M)\mathfrak{X}(M)の Lie 環としての構造で本単元が使うのは、Lie 群の左不変ベクトル場が括弧積で閉じることだけであり、それは「左不変ベクトル場と Lie 環」が定理 2.6の系から導く。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.括弧積と関連するベクトル場、Lie 微分と可換な流れの扱いを参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.Lie 微分の定義と括弧積との一致の証明を参考にした。
  3. Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 2011.括弧積の座標計算と自然性の扱いを参考にした。

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