§E17.23離散群の固有不連続な作用と商多様体

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これまでに構成した多様体は、チャートを直接に与えるか(球面、実射影空間)、積を取るか(円環面)、正則値の逆像を取るか(古典行列群)のいずれかによって得られていた。本記事はもう一つの手続きを扱う。すなわち、すでに持っている多様体へ群を作用させ、軌道を一点へ潰して新しい多様体を得る手続きである。

この手続きが働くためには条件が要る。商位相を入れただけの空間は、一般には Hausdorff にならず、C∞C^\infty構造も入らない。本記事は二つの条件を課す。第一に、作用が自由であること、すなわち単位元でない元がどの点も動かさないことは無いという条件である。第二に、作用が真性不連続であること、すなわち任意のコンパクト集合KKに対してγK\gamma KがKKと交わるγ\gammaが有限個しか無いという条件である。さらに、作用が微分同相によるものであるという仮定を置く。この仮定は落とすことができない。位相同相による作用しか仮定しないと、商のチャートどうしの座標変換がC∞C^\inftyであることを言えないためである。

本記事は、この三つの仮定のもとで商が Hausdorff かつ第二可算なC∞C^\infty多様体になり、商写像π\piを局所微分同相にするC∞C^\infty構造が一意に定まることを証明する。あわせて、各点が一様に被覆される開近傍を持つことを示す。次に、真性不連続性を「各点がγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingとなる近傍を持つ」という弱い条件へ置き換えると結論が成り立たないことを、具体的な反例によって確かめる。最後に、格子による平面の商として平坦な円環面を、対蹠写像による球面の商として実射影空間を構成し、作用が自由でない場合の例を挙げる。

以下、MMをnn次元C∞C^\infty多様体(§E17.1 定義 2.2)とする。

1 離散群の作用

定義 1.1.Γ\Gammaを群(§E7.1 定義 1.1)、MMをC∞C^\infty多様体とする。写像Γ×M→M\Gamma\times M\to M、(γ,p)↦γp(\gamma,p)\mapsto\gamma pが Γ\GammaのMMへの微分同相による作用 (action by diffeomorphisms) であるとは、次の三つがすべて成り立つことをいう。

  1. Γ\Gammaの単位元ϵ\epsilonに対して、すべてのp∈Mp\in Mでϵp=p\epsilon p=pである。
  2. すべてのγ,δ∈Γ\gamma,\delta\in\Gammaとすべてのp∈Mp\in Mに対して(γδ)p=γ(δp)(\gamma\delta)p=\gamma(\delta p)である。
  3. 各γ∈Γ\gamma\in\Gammaに対して、写像θγ ⁣:M→M\theta_\gamma\colon M\to M、θγ(p)=γp\theta_\gamma(p)=\gamma pはMMの微分同相である。

条件 (a)と条件 (b)は「群論入門」が定めた群作用の条件(§E7.10 定義 2.1)である。条件 (c)のうちθγ\theta_\gammaが全単射であることは条件 (a)と条件 (b)から従う(θγ−1\theta_{\gamma^{-1}}が逆写像である)ので、実質的な要求は各θγ\theta_\gammaがC∞C^\inftyであることである。このとき逆写像θγ−1\theta_{\gamma^{-1}}もC∞C^\inftyであるから、θγ\theta_\gammaは微分同相である。

作用が自由 (free action) であるとは、γ∈Γ\gamma\in\Gammaとp∈Mp\in Mがγp=p\gamma p=pを満たすならばγ=ϵ\gamma=\epsilonであることをいう。

p∈Mp\in Mの軌道 (orbit) をΓp={γp∣γ∈Γ}\Gamma p=\{\gamma p\mid\gamma\in\Gamma\}と書く(§E7.10 定義 3.1)。§E7.10 命題 3.2により、軌道の全体はMMを分割する。軌道の全体からなる集合をM/ΓM/\Gammaと書き、π ⁣:M→M/Γ\pi\colon M\to M/\Gamma、π(p)=Γp\pi(p)=\Gamma pを商写像 (quotient map) という。M/ΓM/\Gammaには§E2.12 定義 8.7の商位相を与える。

本記事では、群Γ\Gammaが離散群 (discrete group) であること、すなわちΓ\Gammaに位相を与えるときは離散位相を与えることを前提とする。以下の議論でΓ\Gammaの位相そのものは用いず、Γ\Gammaを集合と群構造だけで扱う。

定義 1.2.定義 1.1の意味で離散群Γ\GammaがMMへ微分同相によって作用しているとする。この作用が真性不連続 (properly discontinuous) であるとは、MMの任意のコンパクト集合KKに対して

ΓK={γ∈Γ ∣ γK∩K≠∅}\Gamma_K=\bigl\{\gamma\in\Gamma\ \bigm|\ \gamma K\cap K\ne\varnothing\bigr\}

が有限集合であることをいう。

微分同相による作用であるという仮定を落としてはならない。位相同相による作用しか仮定しないと、下の定理 3.1の証明において、商の上に作るチャートどうしの座標変換がθγ\theta_\gammaの座標表示になる段で、その座標表示がC∞C^\inftyであることを言うことができない。したがって商は位相多様体にはなるが、誘導チャートがC∞C^\inftyアトラスをなすこと、および商写像を局所微分同相にするC∞C^\infty構造が存在することは一般には保証されない。実際、商写像π\piを局所微分同相にする構造が存在すると仮定すると、各p∈Mp\in Mの十分小さい開近傍UUの上でθγ∣U=(π∣θγ(U))−1∘π∣U\theta_\gamma|_U=(\pi|_{\theta_\gamma(U)})^{-1}\circ\pi|_Uと書くことができるため、各θγ\theta_\gammaは局所的にC∞C^\inftyでなければならない。

注意 1.3 (真性不連続性と弱い条件の区別).定義 1.2の条件のほかに、次の条件を考えることができる。

各点p∈Mp\in Mに対して、ppの開近傍UUで、γ≠ϵ\gamma\ne\epsilonを満たすすべてのγ∈Γ\gamma\in\GammaについてγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingとなるものが存在する。

下の命題 2.2が示すとおり、作用が自由かつ真性不連続ならばこの条件が成り立つ。逆は成り立たない。定理 4.1は、この条件を満たすが真性不連続でない作用を与える。その商は Hausdorff にならない。

本記事は、この弱い条件に固有の名前を与えない。必要な箇所ではつねに「各点がγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingとなる近傍を持つという条件」と記述で書く。二つの近い術語を並べると、読者が同じ条件を指していると読む危険があるためである。

2 商空間の基本性質

補題 2.1.定義 1.1の状況で、商写像π ⁣:M→M/Γ\pi\colon M\to M/\Gammaは連続な全射であり、開写像である。したがってM/ΓM/\Gammaは第二可算である。

証明.π\piが連続な全射であることは商位相の定義(§E2.12 定義 8.7)による。

U⊆MU\subseteq Mを開集合とする。

π−1(π(U))=⋃γ∈ΓγU\pi^{-1}\bigl(\pi(U)\bigr)=\bigcup_{\gamma\in\Gamma}\gamma U

を示す。p∈π−1(π(U))p\in\pi^{-1}(\pi(U))とするとπ(p)=π(q)\pi(p)=\pi(q)を満たすq∈Uq\in Uが存在し、これはp=γqp=\gamma qを満たすγ∈Γ\gamma\in\Gammaが存在することを意味する。よってp∈γUp\in\gamma Uである。逆にp=γqp=\gamma q(q∈Uq\in U)ならばπ(p)=π(q)∈π(U)\pi(p)=\pi(q)\in\pi(U)である。

各γU=θγ(U)\gamma U=\theta_\gamma(U)は、θγ\theta_\gammaが微分同相、とくに同相写像であるからMMの開集合である。よってπ−1(π(U))\pi^{-1}(\pi(U))は開集合の合併として開集合であり、§E2.12 定義 8.7によりπ(U)\pi(U)はM/ΓM/\Gammaの開集合である。

MMは第二可算であり(§E17.1 定義 2.2)、π\piは連続な開全射であるから、§E17.1 補題 3.1によりM/ΓM/\Gammaは第二可算である。▨

命題 2.2.Γ\GammaがMMへ微分同相によって自由かつ真性不連続に作用しているとする。このとき各p∈Mp\in Mに対して、ppの開近傍UUで、γ≠ϵ\gamma\ne\epsilonを満たすすべてのγ∈Γ\gamma\in\Gammaに対してγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingとなるものが存在する。とくにπ∣U ⁣:U→π(U)\pi|_U\colon U\to\pi(U)は単射である。

証明の骨子は次のとおりである。ppのコンパクトな近傍KKを取ると、真性不連続性によりγK\gamma KがKKと交わるγ\gammaは有限個である。KKの外へ出るγ\gammaについては、U⊆KU\subseteq Kと取れば自動的にγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingである。残る有限個のγ\gammaについては、自由性からγp≠p\gamma p\ne pであるから Hausdorff 性で分離することができ、有限個の交わりを取ることができる。

証明.§E17.2 補題 2.3 (4)をO=MO=Mに適用して、p∈Bp\in BかつB‾\overline{B}がコンパクトである正則座標球BBを取る(§E17.2 補題 2.1によりMMは局所コンパクトである)。K=B‾K=\overline{B}と置く。KKはコンパクトでありp∈B⊆Kp\in B\subseteq Kである。

定義 1.2によりΓK={γ∣γK∩K≠∅}\Gamma_K=\{\gamma\mid\gamma K\cap K\ne\varnothing\}は有限集合である。ϵ∈ΓK\epsilon\in\Gamma_Kである(K≠∅K\ne\varnothingによる)。

γ∈ΓK∖{ϵ}\gamma\in\Gamma_K\setminus\{\epsilon\}を取る。作用は自由であるからγp≠p\gamma p\ne pである。MMは Hausdorff であるから(§E17.1 定義 2.2、§E2.15 定義 1.2)、交わらない開集合Aγ∋pA_\gamma\ni pとCγ∋γpC_\gamma\ni\gamma pが存在する。

Wγ=Aγ∩θγ−1(Cγ)W_\gamma=A_\gamma\cap\theta_\gamma^{-1}(C_\gamma)

と置く。θγ\theta_\gammaは連続であるからθγ−1(Cγ)\theta_\gamma^{-1}(C_\gamma)は開集合であり、θγ(p)=γp∈Cγ\theta_\gamma(p)=\gamma p\in C_\gammaであるからp∈Wγp\in W_\gammaである。WγW_\gammaはppの開近傍である。q∈Wγq\in W_\gammaに対してγq∈Cγ\gamma q\in C_\gammaであり、Wγ⊆AγW_\gamma\subseteq A_\gammaかつAγ∩Cγ=∅A_\gamma\cap C_\gamma=\varnothingであるからγq∉Wγ\gamma q\notin W_\gammaである。よってγWγ∩Wγ=∅\gamma W_\gamma\cap W_\gamma=\varnothingである。

U=B∩⋂γ∈ΓK∖{ϵ}WγU=B\cap\bigcap_{\gamma\in\Gamma_K\setminus\{\epsilon\}}W_\gamma

と置く。ΓK\Gamma_Kは有限集合であるから右辺は有限個の開集合の交わりであり、UUはppの開近傍である。

γ≠ϵ\gamma\ne\epsilonとする。γ∈ΓK\gamma\in\Gamma_KならばU⊆WγU\subseteq W_\gammaであるからγU∩U⊆γWγ∩Wγ=∅\gamma U\cap U\subseteq\gamma W_\gamma\cap W_\gamma=\varnothingである。γ∉ΓK\gamma\notin\Gamma_KならばγK∩K=∅\gamma K\cap K=\varnothingであり、U⊆B⊆KU\subseteq B\subseteq KであるからγU∩U⊆γK∩K=∅\gamma U\cap U\subseteq\gamma K\cap K=\varnothingである。

最後にπ∣U\pi|_Uの単射性を示す。q1,q2∈Uq_1,q_2\in Uがπ(q1)=π(q2)\pi(q_1)=\pi(q_2)を満たすとすると、q2=γq1q_2=\gamma q_1を満たすγ∈Γ\gamma\in\Gammaが存在する。q2∈γU∩Uq_2\in\gamma U\cap Uであるから、上の結論によりγ=ϵ\gamma=\epsilonでなければならない。よってq1=q2q_1=q_2である。▨

命題 2.3.Γ\GammaがMMへ微分同相によって真性不連続に作用しているとする。このときM/ΓM/\Gammaは Hausdorff である。

証明.π(p)≠π(q)\pi(p)\ne\pi(q)とする。すなわちq∉Γpq\notin\Gamma pである。

§E17.2 補題 2.3 (4)により、p∈Bpp\in B_p、q∈Bqq\in B_qを満たす正則座標球でBp‾\overline{B_p}、Bq‾\overline{B_q}がコンパクトであるものを取る。K=Bp‾∪Bq‾K=\overline{B_p}\cup\overline{B_q}と置くと、KKは二つのコンパクト集合の合併としてコンパクトである(§E2.19 補題 2.8)。ΓK\Gamma_Kは定義 1.2により有限集合である。

γ∈ΓK\gamma\in\Gamma_Kを取る。q∉Γpq\notin\Gamma pであるからγp≠q\gamma p\ne qである。MMは Hausdorff であるから、交わらない開集合Cγ∋γpC_\gamma\ni\gamma pとDγ∋qD_\gamma\ni qが存在する。

A=Bp∩⋂γ∈ΓKθγ−1(Cγ),D=Bq∩⋂γ∈ΓKDγA=B_p\cap\bigcap_{\gamma\in\Gamma_K}\theta_\gamma^{-1}(C_\gamma), \qquad D=B_q\cap\bigcap_{\gamma\in\Gamma_K}D_\gamma

と置く。ΓK\Gamma_Kは有限集合であるからAAはppの開近傍、DDはqqの開近傍である。

ΓA∩D=∅\Gamma A\cap D=\varnothingを示す。ここでΓA=⋃γγA\Gamma A=\bigcup_{\gamma}\gamma Aである。γa=d\gamma a=d(a∈Aa\in A、d∈Dd\in D、γ∈Γ\gamma\in\Gamma)と仮定する。a∈A⊆Bp⊆Ka\in A\subseteq B_p\subseteq Kであり、d∈D⊆Bq⊆Kd\in D\subseteq B_q\subseteq KであるからγK∩K≠∅\gamma K\cap K\ne\varnothing、すなわちγ∈ΓK\gamma\in\Gamma_Kである。するとa∈θγ−1(Cγ)a\in\theta_\gamma^{-1}(C_\gamma)よりγa∈Cγ\gamma a\in C_\gammaであり、d∈Dγd\in D_\gammaである。Cγ∩Dγ=∅C_\gamma\cap D_\gamma=\varnothingであるからγa≠d\gamma a\ne dとなり矛盾する。

補題 2.1によりπ(A)\pi(A)とπ(D)\pi(D)はM/ΓM/\Gammaの開集合であり、それぞれπ(p)\pi(p)、π(q)\pi(q)を含む。両者が交わると仮定すると、a∈Aa\in A、d∈Dd\in Dでπ(a)=π(d)\pi(a)=\pi(d)、すなわちd=γad=\gamma aを満たすγ∈Γ\gamma\in\Gammaが存在する。これはΓA∩D=∅\Gamma A\cap D=\varnothingに反する。よってπ(A)∩π(D)=∅\pi(A)\cap\pi(D)=\varnothingであり、M/ΓM/\Gammaは Hausdorff である。▨

3 商多様体定理

定理 3.1.MMをnn次元C∞C^\infty多様体、Γ\Gammaを離散群とし、Γ\GammaがMMへ微分同相によって、自由かつ真性不連続に作用しているとする(定義 1.1、定義 1.2)。このとき次が成り立つ。

  1. 商位相を与えたM/ΓM/\Gammaは Hausdorff かつ第二可算である。
  2. M/ΓM/\Gammaにnn次元C∞C^\infty多様体の構造が入り、商写像π ⁣:M→M/Γ\pi\colon M\to M/\Gammaは局所微分同相である。すなわち各p∈Mp\in Mに対してppの開近傍UUが存在し、π(U)\pi(U)は開集合であってπ∣U ⁣:U→π(U)\pi|_U\colon U\to\pi(U)は微分同相である。
  3. π\piを局所微分同相にするM/ΓM/\GammaのC∞C^\infty構造は、この一つに限る。
  4. 各pˉ∈M/Γ\bar p\in M/\Gammaは開近傍Uˉ\bar Uを持ち、π−1(Uˉ)\pi^{-1}(\bar U)は互いに交わらない開集合の合併 π−1(Uˉ)=⋃γ∈ΓγU\pi^{-1}(\bar U)=\bigcup_{\gamma\in\Gamma}\gamma U として書かれ、各γU\gamma Uに対するπ\piの制限はγU\gamma UからUˉ\bar Uへの微分同相である。この性質を、Uˉ\bar Uが一様に被覆されるという。

証明の中心は(2)の座標変換の計算である。MMの二つの開集合U1U_1、U2U_2を命題 2.2のように取り、π∣Ui\pi|_{U_i}の逆写像をσi\sigma_iと書くと、二つのチャートの座標変換はσ2∘π∣U1\sigma_2\circ\pi|_{U_1}を経由する。この合成が局所的にθγ0\theta_{\gamma_0}に一致することを示すのが要であり、そこで作用が微分同相によるものであるという仮定を用いる。

証明.(1)を示す。命題 2.3と補題 2.1による。

(2)を示す。p∈Mp\in Mを取る。命題 2.2により、ppの開近傍U0U_0でγU0∩U0=∅\gamma U_0\cap U_0=\varnothing(γ≠ϵ\gamma\ne\epsilon)となるものが存在する。§E17.2 補題 2.3 (4)をO=U0O=U_0に適用して、p∈U⊆U0p\in U\subseteq U_0を満たす正則座標球UUを取る。U⊆U0U\subseteq U_0であるから、γ≠ϵ\gamma\ne\epsilonに対してγU∩U⊆γU0∩U0=∅\gamma U\cap U\subseteq\gamma U_0\cap U_0=\varnothingである。§E17.2 補題 2.3 (2)により(U,φ)(U,\varphi)はMMの可微分構造に属するチャートである(φ\varphiは外側のチャートの制限である)。

補題 2.1によりπ(U)\pi(U)は開集合であり、命題 2.2によりπ∣U\pi|_Uは単射である。π∣U\pi|_Uは連続かつ開写像であるから、UUからπ(U)\pi(U)への同相写像である。逆写像をσU ⁣:π(U)→U\sigma_U\colon\pi(U)\to Uと書く。

φˉ=φ∘σU ⁣:π(U)⟶φ(U)⊆Rn\bar\varphi=\varphi\circ\sigma_U\colon\pi(U)\longrightarrow\varphi(U)\subseteq\mathbb{R}^{n}

と定めると、φˉ\bar\varphiは同相写像の合成として同相写像であり、像φ(U)\varphi(U)はRn\mathbb{R}^{n}の開集合である。よって(π(U),φˉ)(\pi(U),\bar\varphi)はM/ΓM/\Gammaのnn次元チャートである。このようなチャートの全体をA\mathcal{A}と書く。ppは任意であったから、A\mathcal{A}の定義域の合併はM/ΓM/\Gammaに等しい。

座標変換を計算する。(π(U1),φˉ1)(\pi(U_1),\bar\varphi_1)、(π(U2),φˉ2)(\pi(U_2),\bar\varphi_2)をA\mathcal{A}の二つのチャートとし、π(U1)∩π(U2)≠∅\pi(U_1)\cap\pi(U_2)\ne\varnothingとする。xˉ∈π(U1)∩π(U2)\bar x\in\pi(U_1)\cap\pi(U_2)を取り、y0=σU1(xˉ)∈U1y_0=\sigma_{U_1}(\bar x)\in U_1と置く。xˉ∈π(U2)\bar x\in\pi(U_2)であるから、γ0y0∈U2\gamma_0 y_0\in U_2を満たすγ0∈Γ\gamma_0\in\Gammaが存在する。

N=U1∩θγ0−1(U2)N=U_1\cap\theta_{\gamma_0}^{-1}(U_2)と置く。θγ0\theta_{\gamma_0}は連続であるからNNは開集合であり、y0∈Ny_0\in Nである。y∈Ny\in Nに対してγ0y∈U2\gamma_0y\in U_2でありπ(γ0y)=π(y)\pi(\gamma_0y)=\pi(y)であるから、σU2\sigma_{U_2}の定義(U2U_2の中でπ\piの値がπ(y)\pi(y)である唯一の点)により

σU2(π(y))=γ0y=θγ0(y)(y∈N)\sigma_{U_2}\bigl(\pi(y)\bigr)=\gamma_0y=\theta_{\gamma_0}(y) \qquad(y\in N)

である。したがってφ1(N)\varphi_1(N)の上で

φˉ2∘φˉ1−1=φ2∘σU2∘π∘σU1∘φˉ1−1=φ2∘θγ0∘φ1−1\bar\varphi_2\circ\bar\varphi_1^{-1} =\varphi_2\circ\sigma_{U_2}\circ\pi\circ\sigma_{U_1}\circ\bar\varphi_1^{-1} =\varphi_2\circ\theta_{\gamma_0}\circ\varphi_1^{-1}

が成り立つ。ここでσU1∘φˉ1−1=φ1−1\sigma_{U_1}\circ\bar\varphi_1^{-1}=\varphi_1^{-1}を用いた。右辺は、θγ0\theta_{\gamma_0}がMMの微分同相であることと§E17.1 系 7.2により、C∞C^\infty写像の合成であってC∞C^\inftyである。φ1(N)\varphi_1(N)はφˉ1(xˉ)=φ1(y0)\bar\varphi_1(\bar x)=\varphi_1(y_0)を含む開集合である。

xˉ\bar xはπ(U1)∩π(U2)\pi(U_1)\cap\pi(U_2)の任意の点であったから、φˉ2∘φˉ1−1\bar\varphi_2\circ\bar\varphi_1^{-1}は定義域の各点の近傍でC∞C^\inftyであり、したがって定義域全体でC∞C^\inftyである。添字11と22を入れ替えれば逆向きの座標変換のC∞C^\infty性も従う。よってA\mathcal{A}はnn次元C∞C^\inftyアトラスである。

(2)の証明を完成させる。(1)と合わせて、M/ΓM/\Gammaは§E17.1 定義 2.2の意味でnn次元C∞C^\infty多様体である(可微分構造は§E17.1 命題 2.3によりA\mathcal{A}から一意に定まる)。π\piが局所微分同相であることを示す。上で取ったUUに対して、チャート(U,φ)(U,\varphi)と(π(U),φˉ)(\pi(U),\bar\varphi)に関するπ∣U\pi|_Uの座標表示は

φˉ∘π∘φ−1=φ∘σU∘π∘φ−1=φ∘φ−1=id⁡\bar\varphi\circ\pi\circ\varphi^{-1}=\varphi\circ\sigma_U\circ\pi\circ\varphi^{-1}=\varphi\circ\varphi^{-1}=\operatorname{id}

であり、恒等写像はC∞C^\inftyである。逆写像σU\sigma_Uの座標表示も恒等写像である。§E17.1 命題 4.2によりπ∣U\pi|_UとσU\sigma_UはともにC∞C^\inftyであり、π∣U ⁣:U→π(U)\pi|_U\colon U\to\pi(U)は微分同相である。

(3)を示す。B\mathcal{B}を、M/ΓM/\Gammaの同じ位相の上のC∞C^\infty構造であってπ\piを局所微分同相にするものとする。A∗\mathcal{A}^{*}を(2)で得た可微分構造とし、恒等写像

id⁡ ⁣:(M/Γ,A∗)⟶(M/Γ,B)\operatorname{id}\colon(M/\Gamma,\mathcal{A}^{*})\longrightarrow(M/\Gamma,\mathcal{B})

が微分同相であることを示せば、二つの極大アトラスが一致することが従う(微分同相であれば、一方のチャートは他方のチャートと両立する)。

pˉ∈M/Γ\bar p\in M/\Gammaを取り、p∈π−1(pˉ)p\in\pi^{-1}(\bar p)を取る。A∗\mathcal{A}^{*}についてπ\piが局所微分同相であることから、ppの開近傍U1U_1でπ∣U1 ⁣:U1→π(U1)\pi|_{U_1}\colon U_1\to\pi(U_1)がA∗\mathcal{A}^{*}に関する微分同相であるものが存在する。同様にB\mathcal{B}についてppの開近傍U2U_2が存在する。U=U1∩U2U=U_1\cap U_2と置くと、π∣U\pi|_Uはπ(U)\pi(U)への微分同相である(A∗\mathcal{A}^{*}についてもB\mathcal{B}についても、微分同相の開集合への制限であり、補題 2.1により像は開集合である)。π(U)\pi(U)の上で

id⁡=(π∣U)B∘((π∣U)A∗)−1\operatorname{id}=\bigl(\pi|_U\bigr)_{\mathcal{B}}\circ\Bigl(\bigl(\pi|_U\bigr)_{\mathcal{A}^{*}}\Bigr)^{-1}

であり、右辺はC∞C^\infty写像の合成である。ここで下付きの記号は、写像の終域にどちらの構造を与えるかを表す。よってid⁡\operatorname{id}はpˉ\bar pの近傍でC∞C^\inftyである。pˉ\bar pは任意であるから§E17.1 命題 4.2によりid⁡\operatorname{id}はC∞C^\inftyである。A∗\mathcal{A}^{*}とB\mathcal{B}の役割を入れ替えると逆写像もC∞C^\inftyであるから、id⁡\operatorname{id}は微分同相である。したがってB=A∗\mathcal{B}=\mathcal{A}^{*}である。

(4)を示す。pˉ∈M/Γ\bar p\in M/\Gammaを取り、p∈π−1(pˉ)p\in\pi^{-1}(\bar p)と、(2)で取ったUU(γU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothing(γ≠ϵ\gamma\ne\epsilon)を満たすppの開近傍)を取る。Uˉ=π(U)\bar U=\pi(U)と置く。補題 2.1の証明で示したとおり

π−1(Uˉ)=⋃γ∈ΓγU\pi^{-1}(\bar U)=\bigcup_{\gamma\in\Gamma}\gamma U

である。各γU\gamma Uは開集合である。

互いに交わらないことを示す。γU∩δU≠∅\gamma U\cap\delta U\ne\varnothingとすると、θδ−1\theta_{\delta^{-1}}を施して(δ−1γ)U∩U≠∅(\delta^{-1}\gamma)U\cap U\ne\varnothingを得る。UUのとり方によりδ−1γ=ϵ\delta^{-1}\gamma=\epsilon、すなわちγ=δ\gamma=\deltaである。

π∣γU\pi|_{\gamma U}が微分同相であることを示す。π∘θγ=π\pi\circ\theta_\gamma=\piであるからπ∣γU=π∣U∘θγ−1∣γU\pi|_{\gamma U}=\pi|_U\circ\theta_{\gamma^{-1}}|_{\gamma U}である。θγ−1\theta_{\gamma^{-1}}はγU\gamma UからUUへの微分同相であり、π∣U\pi|_UはUUからUˉ\bar Uへの微分同相であるから、合成はγU\gamma UからUˉ\bar Uへの微分同相である。▨

注意 3.2 (被覆空間の一般論へ踏み込まないこと).定理 3.1 (4)は、承認された守備範囲に含まれる帰結であり、商写像の局所的な形を述べたものである。被覆空間の一般論、すなわち被覆の分類、被覆変換群、持ち上げの定理、および基本群との対応は本単元の範囲外であり、「位相幾何入門」が扱う。本記事が用いるのは、上の証明で実際に構成したπ−1(Uˉ)\pi^{-1}(\bar U)の分解だけである。

4 真性不連続性を弱めることができないこと

定理 4.1.M=R2∖{0}M=\mathbb{R}^{2}\setminus\{0\}とし、R2\mathbb{R}^{2}の開部分多様体(§E17.1 命題 7.1)と見る。Γ=Z\Gamma=\mathbb{Z}(加法群)とし、

n⋅(x,y)=(2nx, 2−ny)(n∈Z, (x,y)∈M)n\cdot(x,y)=\bigl(2^{n}x,\ 2^{-n}y\bigr)\qquad(n\in\mathbb{Z},\ (x,y)\in M)

と定める。このとき次が成り立つ。

  1. これは定義 1.1の意味でZ\mathbb{Z}のMMへの微分同相による作用であり、自由である。
  2. 各点p∈Mp\in Mは開近傍UUを持ち、n≠0n\ne0を満たすすべてのn∈Zn\in\mathbb{Z}に対して(n⋅U)∩U=∅(n\cdot U)\cap U=\varnothingである。
  3. この作用は真性不連続でない。実際、K={(x,y)∈R2∣1≤x2+y2≤4}K=\{(x,y)\in\mathbb{R}^{2}\mid 1\le x^{2}+y^{2}\le4\}はMMのコンパクト集合であり、ΓK\Gamma_Kは無限集合である。
  4. M/ΓM/\Gammaは Hausdorff でない。p=(1,0)p=(1,0)の軌道とq=(0,1)q=(0,1)の軌道は、M/ΓM/\Gammaにおいて開集合で分離することができない。

証明.(1)を示す。(x,y)≠(0,0)(x,y)\ne(0,0)ならば(2nx,2−ny)≠(0,0)(2^{n}x,2^{-n}y)\ne(0,0)であるから、値はMMに属する。0⋅(x,y)=(x,y)0\cdot(x,y)=(x,y)であり、

m⋅(n⋅(x,y))=m⋅(2nx,2−ny)=(2m+nx,2−m−ny)=(m+n)⋅(x,y)m\cdot\bigl(n\cdot(x,y)\bigr)=m\cdot(2^{n}x,2^{-n}y)=(2^{m+n}x,2^{-m-n}y)=(m+n)\cdot(x,y)

であるから群作用である。θn(x,y)=(2nx,2−ny)\theta_n(x,y)=(2^{n}x,2^{-n}y)はR2\mathbb{R}^{2}の線形同型のMMへの制限であり、MMをMMへ写す。線形写像はC∞C^\inftyであり、逆写像θ−n\theta_{-n}もC∞C^\inftyであるからθn\theta_nはMMの微分同相である。

自由性を示す。n⋅(x,y)=(x,y)n\cdot(x,y)=(x,y)とする。x≠0x\ne0ならば2nx=x2^{n}x=xから2n=12^{n}=1、すなわちn=0n=0である。x=0x=0ならば(x,y)∈M(x,y)\in Mよりy≠0y\ne0であり、2−ny=y2^{-n}y=yから2−n=12^{-n}=1、すなわちn=0n=0である。

(2)を示す。p=(x0,y0)∈Mp=(x_0,y_0)\in Mとする。x0≠0x_0\ne0の場合、

U={(x,y)∈M ∣ 12∣x0∣<∣x∣<2 ∣x0∣}U=\Bigl\{(x,y)\in M\ \Bigm|\ \tfrac{1}{\sqrt2}\lvert x_0\rvert<\lvert x\rvert<\sqrt2\,\lvert x_0\rvert\Bigr\}

と置く。(x,y)↦∣x∣(x,y)\mapsto\lvert x\rvertは連続であるからUUは開集合であり、p∈Up\in Uである。(x,y)∈U(x,y)\in Uかつn⋅(x,y)∈Un\cdot(x,y)\in Uとすると∣x∣\lvert x\rvertと2n∣x∣2^{n}\lvert x\rvertがともに区間(∣x0∣/2, 2∣x0∣)(\lvert x_0\rvert/\sqrt2,\ \sqrt2\lvert x_0\rvert)に属する。この区間の右端と左端の比は22であるから

12<2n∣x∣∣x∣=2n<2\frac{1}{2}<\frac{2^{n}\lvert x\rvert}{\lvert x\rvert}=2^{n}<2

であり、n=0n=0である。よってn≠0n\ne0ならば(n⋅U)∩U=∅(n\cdot U)\cap U=\varnothingである。

x0=0x_0=0の場合はy0≠0y_0\ne0であり、U={(x,y)∈M∣∣y0∣/2<∣y∣<2∣y0∣}U=\{(x,y)\in M\mid\lvert y_0\rvert/\sqrt2<\lvert y\rvert<\sqrt2\lvert y_0\rvert\}と置くと、同じ議論で2−n∈(1/2,2)2^{-n}\in(1/2,2)、すなわちn=0n=0を得る。

(3)を示す。KKはR2\mathbb{R}^{2}の有界閉集合であるから§E2.9 定理 4.3によりコンパクトであり、0∉K0\notin KであるからK⊆MK\subseteq Mである。MMの部分集合としてもコンパクトである。

nnを正の整数とし、qn=(2−n,1)q_n=(2^{-n},1)と置く。qnq_nのノルムの平方は4−n+14^{-n}+1であり、1≤4−n+1≤2≤41\le 4^{-n}+1\le2\le4であるからqn∈Kq_n\in Kである。また

n⋅qn=(2n⋅2−n, 2−n⋅1)=(1, 2−n)n\cdot q_n=\bigl(2^{n}\cdot2^{-n},\ 2^{-n}\cdot1\bigr)=(1,\ 2^{-n})

であり、ノルムの平方は1+4−n1+4^{-n}であるから同じ理由でn⋅qn∈Kn\cdot q_n\in Kである。よって(n⋅K)∩K≠∅(n\cdot K)\cap K\ne\varnothingであり、n∈ΓKn\in\Gamma_Kである。nnはすべての正の整数を動くのでΓK\Gamma_Kは無限集合である。したがってこの作用は真性不連続でない。

(4)を示す。p=(1,0)p=(1,0)、q=(0,1)q=(0,1)と置く。軌道は

Γp={(2n,0)∣n∈Z},Γq={(0,2−n)∣n∈Z}\Gamma p=\{(2^{n},0)\mid n\in\mathbb{Z}\}, \qquad \Gamma q=\{(0,2^{-n})\mid n\in\mathbb{Z}\}

である。Γp\Gamma pの元はすべて第二成分が00、Γq\Gamma qの元はすべて第一成分が00であり、MMの点は(0,0)(0,0)でないから、二つの軌道は交わらない。よってπ(p)≠π(q)\pi(p)\ne\pi(q)である。

Aˉ\bar Aをπ(p)\pi(p)を含むM/ΓM/\Gammaの開集合、Dˉ\bar Dをπ(q)\pi(q)を含むM/ΓM/\Gammaの開集合とする。A=π−1(Aˉ)A=\pi^{-1}(\bar A)、D=π−1(Dˉ)D=\pi^{-1}(\bar D)と置くと、AAはppを含むMMの開集合、DDはqqを含むMMの開集合である。

um=(1,2−m)u_m=(1,2^{-m})(mmは正の整数)と置く。m→∞m\to\inftyのときum→(1,0)=pu_m\to(1,0)=pであるから、AAがppの開近傍であることにより、ある正の整数m1m_1が存在してm≥m1m\ge m_1ならばum∈Au_m\in Aである。一方

(−m)⋅um=(2−m⋅1, 2m⋅2−m)=(2−m, 1)(-m)\cdot u_m=\bigl(2^{-m}\cdot1,\ 2^{m}\cdot2^{-m}\bigr)=(2^{-m},\ 1)

であり、m→∞m\to\inftyのとき(2−m,1)→(0,1)=q(2^{-m},1)\to(0,1)=qであるから、ある正の整数m2m_2が存在してm≥m2m\ge m_2ならば(−m)⋅um∈D(-m)\cdot u_m\in Dである。

m=max⁡{m1,m2}m=\max\{m_1,m_2\}と取ると、um∈Au_m\in Aかつ(−m)⋅um∈D(-m)\cdot u_m\in Dである。π(um)=π((−m)⋅um)\pi(u_m)=\pi((-m)\cdot u_m)であるから、この点はAˉ∩Dˉ\bar A\cap\bar Dに属する。よってAˉ∩Dˉ≠∅\bar A\cap\bar D\ne\varnothingである。

Aˉ\bar A、Dˉ\bar Dは任意であったから、π(p)\pi(p)とπ(q)\pi(q)を交わらない開集合で分離することはできない。したがってM/ΓM/\Gammaは Hausdorff でない。▨

注意 4.2 (この反例が示していること).定理 4.1の作用は、注意 1.3に書いた弱い条件、すなわち各点がγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingとなる近傍を持つという条件を満たす(定理 4.1 (2))。それにもかかわらず商は Hausdorff でない(定理 4.1 (4))。したがって、定理 3.1の仮定を弱い条件へ置き換えることはできない。

定理 4.1 (2)のUUと定理 4.1 (3)のKKを見比べると、何が起きているかが分かる。弱い条件は各点の一つの近傍についての条件であり、その近傍は点ごとにいくらでも小さくなってよい。真性不連続性はコンパクト集合の全体についての条件であり、点ごとに小さくしていくことを許さない。定理 4.1 (3)のqnq_nは、nnとともにKKの中を動きながら、nn倍の作用でKKの中に留まる点であり、KKが一つのコンパクト集合であることが本質である。

5 平坦な円環面

定義 5.1.v1,v2∈R2v_1,v_2\in\mathbb{R}^{2}を一次独立とする。

Λ={mv1+lv2 ∣ m,l∈Z}\Lambda=\bigl\{m v_1+l v_2\ \bigm|\ m,l\in\mathbb{Z}\bigr\}

をv1,v2v_1,v_2が生成する格子 (lattice) という。Λ\LambdaはR2\mathbb{R}^{2}の加法についての部分群である。Λ\LambdaはR2\mathbb{R}^{2}へ平行移動によって作用する。すなわちλ⋅z=z+λ\lambda\cdot z=z+\lambda(λ∈Λ\lambda\in\Lambda、z∈R2z\in\mathbb{R}^{2})と定める。

命題 5.2.定義 5.1のΛ\Lambdaの作用について、次が成り立つ。

  1. この作用は定義 1.1の意味で微分同相による作用であり、自由かつ真性不連続である。したがって定理 3.1によりR2/Λ\mathbb{R}^{2}/\Lambdaは 2 次元C∞C^\infty多様体である。
  2. Λ=Z2\Lambda=\mathbb{Z}^{2}の場合、R2/Z2\mathbb{R}^{2}/\mathbb{Z}^{2}は円環面T2=S1×S1T^{2}=S^{1}\times S^{1}(§E17.1 例 7.4)と微分同相である。
  3. 一般のΛ\LambdaについてもR2/Λ\mathbb{R}^{2}/\LambdaはT2T^{2}と微分同相である。

証明.(1)を示す。λ⋅(μ⋅z)=z+μ+λ=(λ+μ)⋅z\lambda\cdot(\mu\cdot z)=z+\mu+\lambda=(\lambda+\mu)\cdot zであり0⋅z=z0\cdot z=zであるから群作用である。θλ(z)=z+λ\theta_\lambda(z)=z+\lambdaはR2\mathbb{R}^{2}の平行移動であり、C∞C^\inftyで逆写像θ−λ\theta_{-\lambda}もC∞C^\inftyであるから微分同相である。z+λ=zz+\lambda=zからλ=0\lambda=0であるから自由である。

真性不連続性を示す。T ⁣:R2→R2T\colon\mathbb{R}^{2}\to\mathbb{R}^{2}をT(m,l)=mv1+lv2T(m,l)=mv_1+lv_2で定めると、v1,v2v_1,v_2が一次独立であるからTTは線形同型であり、Λ=T(Z2)\Lambda=T(\mathbb{Z}^{2})である。T−1T^{-1}は線形写像であるから、定数C>0C>0が存在して∥T−1w∥≤C∥w∥\lVert T^{-1}w\rVert\le C\lVert w\rVertがすべてのwwで成り立つ(成分で書くと右辺は有限個の項の和である)。

K⊆R2K\subseteq\mathbb{R}^{2}をコンパクト集合とする。KKは有界である(§E2.9 系 4.1)から、R>0R>0をK⊆B‾(0,R)K\subseteq\overline{B}(0,R)となるように取る。λ∈Λ\lambda\in\Lambdaが(λ+K)∩K≠∅(\lambda+K)\cap K\ne\varnothingを満たすとすると、z1,z2∈Kz_1,z_2\in Kでz1+λ=z2z_1+\lambda=z_2となるものが存在し、∥λ∥=∥z2−z1∥≤2R\lVert\lambda\rVert=\lVert z_2-z_1\rVert\le 2Rである。λ=T(m,l)\lambda=T(m,l)と書くと∥(m,l)∥=∥T−1λ∥≤2CR\lVert(m,l)\rVert=\lVert T^{-1}\lambda\rVert\le 2CRである。∣m∣≤2CR\lvert m\rvert\le 2CRかつ∣l∣≤2CR\lvert l\rvert\le 2CRを満たす整数の組は有限個であるから、ΛK\Lambda_Kは有限集合である。

(2)を示す。E ⁣:R→S1E\colon\mathbb{R}\to S^{1}をE(u)=(cos⁡2πu,sin⁡2πu)E(u)=(\cos2\pi u,\sin2\pi u)で定め、Π ⁣:R2→T2\Pi\colon\mathbb{R}^{2}\to T^{2}をΠ(u,v)=(E(u),E(v))\Pi(u,v)=(E(u),E(v))で定める。§E17.5 補題 2.3により、EEはC∞C^\inftyであり、至るところ局所微分同相である。積のチャートに関するΠ\Piの座標表示は二つの局所微分同相を並べたものであるから、Π\PiもC∞C^\inftyであり局所微分同相である。

Π\Piは全射であり、Π(u,v)=Π(u′,v′)\Pi(u,v)=\Pi(u',v')であることと(u−u′,v−v′)∈Z2(u-u',v-v')\in\mathbb{Z}^{2}であることは同値である(§E17.9 補題 4.1による)。したがってΠ\Piは軌道の上で一定であり、全単射

Π‾ ⁣:R2/Z2⟶T2,Π‾(π(u,v))=Π(u,v)\overline{\Pi}\colon\mathbb{R}^{2}/\mathbb{Z}^{2}\longrightarrow T^{2}, \qquad \overline{\Pi}\bigl(\pi(u,v)\bigr)=\Pi(u,v)

を誘導する。Π‾∘π=Π\overline{\Pi}\circ\pi=\Piが連続であるから、§E2.12 定理 8.10によりΠ‾\overline{\Pi}は連続である。

Π‾\overline{\Pi}がC∞C^\inftyであることを示す。zˉ∈R2/Z2\bar z\in\mathbb{R}^{2}/\mathbb{Z}^{2}を取り、z∈π−1(zˉ)z\in\pi^{-1}(\bar z)を取る。定理 3.1 (2)により、zzの開近傍UUでπ∣U\pi|_Uがπ(U)\pi(U)への微分同相であるものが存在する。π(U)\pi(U)の上でΠ‾=Π∘(π∣U)−1\overline{\Pi}=\Pi\circ(\pi|_U)^{-1}であり、右辺はC∞C^\infty写像の合成である。よってΠ‾\overline{\Pi}はzˉ\bar zの近傍でC∞C^\inftyであり、§E17.1 命題 4.2によりC∞C^\inftyである。

Π‾−1\overline{\Pi}^{-1}がC∞C^\inftyであることを示す。w∈T2w\in T^{2}を取り、z∈Π−1(w)z\in\Pi^{-1}(w)を取る。Π\Piは局所微分同相であるから、zzの開近傍O1O_1でΠ∣O1\Pi|_{O_1}が開集合Π(O1)\Pi(O_1)への微分同相であるものが存在する。定理 3.1 (2)によりzzの開近傍O2O_2でπ∣O2\pi|_{O_2}が微分同相であるものが存在する。O=O1∩O2O=O_1\cap O_2と置くと、Π∣O\Pi|_{O}とπ∣O\pi|_{O}はいずれも像への微分同相であり、像は開集合である。Π(O)\Pi(O)の上で

Π‾−1=π∣O∘(Π∣O)−1\overline{\Pi}^{-1}=\pi|_{O}\circ\bigl(\Pi|_{O}\bigr)^{-1}

である。実際、w′∈Π(O)w'\in\Pi(O)に対してz′=(Π∣O)−1(w′)z'=(\Pi|_O)^{-1}(w')と置くとΠ‾(π(z′))=Π(z′)=w′\overline{\Pi}(\pi(z'))=\Pi(z')=w'である。右辺はC∞C^\infty写像の合成であるからΠ‾−1\overline{\Pi}^{-1}はwwの近傍でC∞C^\inftyである。よってΠ‾\overline{\Pi}は微分同相である。

(3)を示す。(1)のTTはR2\mathbb{R}^{2}の線形同型でありT(Z2)=ΛT(\mathbb{Z}^{2})=\Lambdaである。TTはR2\mathbb{R}^{2}の微分同相であり、T(z+(m,l))=T(z)+T(m,l)T(z+(m,l))=T(z)+T(m,l)であるから、軌道を軌道へ写す。したがって全単射

T‾ ⁣:R2/Z2⟶R2/Λ\overline{T}\colon\mathbb{R}^{2}/\mathbb{Z}^{2}\longrightarrow\mathbb{R}^{2}/\Lambda

を誘導する。(2)の証明と同じ議論、すなわちπ\piとπ′\pi'(Λ\Lambdaについての商写像)が局所微分同相であることを用いると、T‾\overline{T}とその逆写像がともにC∞C^\inftyであることが従う。(2)と合わせてR2/Λ\mathbb{R}^{2}/\LambdaはT2T^{2}と微分同相である。▨

命題 5.3.定義 5.1のΛ\Lambdaについて、R2/Λ\mathbb{R}^{2}/\Lambdaは§E17.19 定義 1.1の意味で 2 次元 Lie 群である。群の演算はπ(z)+π(w)=π(z+w)\pi(z)+\pi(w)=\pi(z+w)で定まる。

証明.R2\mathbb{R}^{2}は加法について可換群であり、Λ\Lambdaはその部分群である。可換群のすべての部分群は正規部分群であるから(z+λ−z=λ∈Λz+\lambda-z=\lambda\in\Lambdaである。§E7.7 定義 1.1)、§E7.7 定理 2.1により商群R2/Λ\mathbb{R}^{2}/\Lambdaが定まる。剰余類z+Λz+\LambdaはΛ\Lambdaの作用によるzzの軌道に等しいから、商群の台集合は本記事の商空間の台集合に一致する。命題 5.2 (1)によりこれは 2 次元C∞C^\infty多様体である。

積の写像αˉ(π(z),π(w))=π(z+w)\bar\alpha\bigl(\pi(z),\pi(w)\bigr)=\pi(z+w)がC∞C^\inftyであることを示す。(zˉ0,wˉ0)(\bar z_0,\bar w_0)を取り、z0∈π−1(zˉ0)z_0\in\pi^{-1}(\bar z_0)、w0∈π−1(wˉ0)w_0\in\pi^{-1}(\bar w_0)を取る。定理 3.1 (2)により、z0+w0z_0+w_0の開近傍WWでπ∣W\pi|_Wが微分同相であるものを取る。加法α(z,w)=z+w\alpha(z,w)=z+wは連続であるから、z0z_0の開近傍UUとw0w_0の開近傍VVを、π∣U\pi|_Uとπ∣V\pi|_Vがともに微分同相であり、かつα(U×V)⊆W\alpha(U\times V)\subseteq Wとなるように取ることができる。π(U)×π(V)\pi(U)\times\pi(V)の上で

αˉ=π∣W∘α∘((π∣U)−1×(π∣V)−1)\bar\alpha=\pi|_W\circ\alpha\circ\Bigl(\bigl(\pi|_U\bigr)^{-1}\times\bigl(\pi|_V\bigr)^{-1}\Bigr)

であり、右辺はC∞C^\infty写像の合成である。§E17.1 命題 4.2によりαˉ\bar\alphaはC∞C^\inftyである。

逆元の写像νˉ(π(z))=π(−z)\bar\nu(\pi(z))=\pi(-z)についても同様である。z0z_0の開近傍U1U_1と−z0-z_0の開近傍U2U_2を、π∣U1\pi|_{U_1}とπ∣U2\pi|_{U_2}がともに微分同相であるように取り、U=U1∩(−U2)U=U_1\cap(-U_2)と置くと−U⊆U2-U\subseteq U_2である。π(U)\pi(U)の上でνˉ=π∣U2∘(−id⁡)∘(π∣U)−1\bar\nu=\pi|_{U_2}\circ(-\operatorname{id})\circ(\pi|_U)^{-1}であり、右辺はC∞C^\infty写像の合成である。よってR2/Λ\mathbb{R}^{2}/\Lambdaは Lie 群である。▨

注意 5.4 (「平坦」という呼び名について).命題 5.2で構成したR2/Λ\mathbb{R}^{2}/\Lambdaを平坦な円環面と呼ぶ。本記事が行った構成は商多様体としての構成であり、計量を用いていない。「平坦」という呼び名は、R2\mathbb{R}^{2}から誘導される計量が曲率を持たないことに由来する。その内容、すなわち計量と曲率の定義および平坦であることの意味は、「曲線と曲面」と「Riemann 幾何 I」が扱う。本単元は計量を導入しないので、平坦であることを定義も証明もしない。

命題 5.2 (3)は、格子Λ\Lambdaのとり方に依らずR2/Λ\mathbb{R}^{2}/\LambdaがT2T^{2}と微分同相であることを述べている。可微分構造の水準では格子の違いは現れない。格子の違いが現れるのは計量を入れた後であり、その扱いは上記の二単元に属する。

6 実射影空間

命題 6.1.nnを正の整数とし、SnS^{n}に§E17.1 命題 5.1の可微分構造を与える。Γ={1,−1}\Gamma=\{1,-1\}(乗法についての群)とし、Γ\GammaのSnS^{n}への作用を(±1)⋅x=±x(\pm1)\cdot x=\pm xで定める。このとき次が成り立つ。

  1. この作用は定義 1.1の意味で微分同相による作用であり、自由かつ真性不連続である。したがって定理 3.1によりSn/ΓS^{n}/\Gammaはnn次元C∞C^\infty多様体である。
  2. Sn/ΓS^{n}/\Gammaは、§E17.1 命題 6.1が与えた可微分構造を持つRPn\mathbb{RP}^{n}と微分同相である。

すなわち、対蹠写像によるSnS^{n}の商は、RPn\mathbb{RP}^{n}に第一の記事で与えたC∞C^\infty構造と同じものを与える。

§E17.1 命題 6.1がRPn\mathbb{RP}^{n}の可微分構造を与える一次の場所である。本記事が示すのは、二つの構成が同じ構造を与えるという点だけである。

証明.(1)を示す。1⋅x=x1\cdot x=xと(±1)⋅((±1)⋅x)(\pm1)\cdot((\pm1)\cdot x)の確認は明らかである。a(x)=−xa(x)=-xはRn+1\mathbb{R}^{n+1}の線形同型のSnS^{n}への制限であり、SnS^{n}をSnS^{n}へ写す。aaがSnS^{n}の微分同相であることを確かめる。φN\varphi_N、φS\varphi_Sを§E17.1 命題 5.1の立体射影とする。x∈UNx\in U_Nならばx≠Nx\ne Nであるから−x≠S-x\ne S、すなわち−x∈US-x\in U_Sである。したがって次の座標表示が定義される。

φS(−x)=11+(−xn+1)(−x1,…,−xn)=−11−xn+1(x1,…,xn)=−φN(x)\varphi_S(-x)=\frac{1}{1+(-x^{n+1})}\bigl(-x^{1},\dots,-x^{n}\bigr) =-\frac{1}{1-x^{n+1}}\bigl(x^{1},\dots,x^{n}\bigr)=-\varphi_N(x)

である。ここで−x≠S-x\ne S(x≠Nx\ne Nによる)であるから−x∈US-x\in U_Sである。したがってφS∘a∘φN−1\varphi_S\circ a\circ\varphi_N^{-1}はRn\mathbb{R}^{n}上の写像u↦−uu\mapsto-uでありC∞C^\inftyである。同様にφN∘a∘φS−1(u)=−u\varphi_N\circ a\circ\varphi_S^{-1}(u)=-uである。二つのチャートはSnS^{n}を覆うので、§E17.1 命題 4.2によりaaはC∞C^\inftyである。a∘a=id⁡a\circ a=\operatorname{id}であるからaaは微分同相である。

自由性を示す。−x=x-x=xとするとx=0x=0であるが0∉Sn0\notin S^{n}である。よって(−1)⋅x=x(-1)\cdot x=xとなるxxは存在せず、作用は自由である。

真性不連続性はΓ\Gammaが有限集合であることから直ちに従う。任意のコンパクト集合KKに対してΓK⊆Γ\Gamma_K\subseteq\Gammaであり、Γ\Gammaは 2 元集合であるからΓK\Gamma_Kは有限である。

(2)を示す。π ⁣:Sn→Sn/Γ\pi\colon S^{n}\to S^{n}/\Gammaを商写像、πP ⁣:Rn+1∖{0}→RPn\pi_P\colon\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}\to\mathbb{RP}^{n}を§E17.1 命題 6.1の商写像とする。

次の三つの写像がC∞C^\inftyであることを確かめる。

第一に、包含写像ι ⁣:Sn→Rn+1∖{0}\iota\colon S^{n}\to\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}である。§E17.1 命題 5.1の証明によりι∘φN−1(u)=Φ(u)=1r+1(2u1,…,2un,r−1)\iota\circ\varphi_N^{-1}(u)=\Phi(u)=\frac{1}{r+1}(2u^{1},\dots,2u^{n},r-1)(r=∥u∥2r=\lVert u\rVert^{2})であり、各成分は分母r+1≥1r+1\ge1が消えない有理式であるからC∞C^\inftyである。φS\varphi_S側も同様である。Φ(u)∈Sn\Phi(u)\in S^{n}であるからΦ(u)≠0\Phi(u)\ne0であり、値は開集合Rn+1∖{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}に属する。よって§E17.1 命題 4.2と§E17.1 命題 7.1によりι\iotaはC∞C^\inftyである。

第二に、πP\pi_Pである。{x∣xi≠0}\{x\mid x^{i}\ne0\}の上でチャートφi\varphi_i(§E17.1 命題 6.1)に関する座標表示は

x⟼(x1xi,…,xi−1xi,xi+1xi,…,xn+1xi)x\longmapsto\left(\frac{x^{1}}{x^{i}},\dots,\frac{x^{i-1}}{x^{i}},\frac{x^{i+1}}{x^{i}},\dots,\frac{x^{n+1}}{x^{i}}\right)

であり、分母が消えない有理式であるからC∞C^\inftyである。定義域はRn+1∖{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}を覆うのでπP\pi_PはC∞C^\inftyである。

第三に、正規化N ⁣:Rn+1∖{0}→Sn\mathcal{N}\colon\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}\to S^{n}、N(x)=x/∥x∥\mathcal{N}(x)=x/\lVert x\rVertである。∥x∥=(∑i=1n+1(xi)2)1/2\lVert x\rVert=\bigl(\sum_{i=1}^{n+1}(x^{i})^{2}\bigr)^{1/2}はx≠0x\ne0でC∞C^\inftyである(平方根は正の実数の上でC∞C^\inftyである)。N(x)≠N\mathcal{N}(x)\ne Nとなるxxに対して

φN(N(x))=11−xn+1/∥x∥⋅(x1,…,xn)∥x∥=(x1,…,xn)∥x∥−xn+1\varphi_N\bigl(\mathcal{N}(x)\bigr) =\frac{1}{1-x^{n+1}/\lVert x\rVert}\cdot\frac{(x^{1},\dots,x^{n})}{\lVert x\rVert} =\frac{(x^{1},\dots,x^{n})}{\lVert x\rVert-x^{n+1}}

であり、分母はN(x)≠N\mathcal{N}(x)\ne Nの条件のもとで消えないからC∞C^\inftyである。φS\varphi_S側も同様である。よってN\mathcal{N}はC∞C^\inftyである。

誘導される写像。r=πP∘ι ⁣:Sn→RPnr=\pi_P\circ\iota\colon S^{n}\to\mathbb{RP}^{n}と置く。x,y∈Snx,y\in S^{n}に対してr(x)=r(y)r(x)=r(y)であることは、y=λxy=\lambda xと書くことができるλ≠0\lambda\ne0が存在することであり、∥x∥=∥y∥=1\lVert x\rVert=\lVert y\rVert=1からλ=±1\lambda=\pm1である。すなわちr(x)=r(y)r(x)=r(y)であることとy=±xy=\pm xであることは同値である。rrは全射である([x]∈RPn[x]\in\mathbb{RP}^{n}に対してN(x)∈Sn\mathcal{N}(x)\in S^{n}がr(N(x))=[x]r(\mathcal{N}(x))=[x]を満たす)。よってrrは軌道の上で一定であり、全単射

rˉ ⁣:Sn/Γ⟶RPn,rˉ(π(x))=r(x)\bar r\colon S^{n}/\Gamma\longrightarrow\mathbb{RP}^{n},\qquad\bar r(\pi(x))=r(x)

を誘導する。

一方、π∘N ⁣:Rn+1∖{0}→Sn/Γ\pi\circ\mathcal{N}\colon\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}\to S^{n}/\GammaはπP\pi_Pの同値関係の上で一定である。実際、N(λx)=λx/∣λ∣∥x∥=±N(x)\mathcal{N}(\lambda x)=\lambda x/\lvert\lambda\rvert\lVert x\rVert=\pm\mathcal{N}(x)であり、π\piは符号の違いを潰す。よって写像

qˉ ⁣:RPn⟶Sn/Γ,qˉ(πP(x))=π(N(x))\bar q\colon\mathbb{RP}^{n}\longrightarrow S^{n}/\Gamma,\qquad\bar q\bigl(\pi_P(x)\bigr)=\pi\bigl(\mathcal{N}(x)\bigr)

が定まる。

互いに逆であること。x∈Snx\in S^{n}に対してqˉ(rˉ(π(x)))=qˉ(πP(x))=π(N(x))=π(x)\bar q(\bar r(\pi(x)))=\bar q(\pi_P(x))=\pi(\mathcal{N}(x))=\pi(x)である(∥x∥=1\lVert x\rVert=1による)。x∈Rn+1∖{0}x\in\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}に対してrˉ(qˉ(πP(x)))=rˉ(π(N(x)))=πP(N(x))=πP(x)\bar r(\bar q(\pi_P(x)))=\bar r(\pi(\mathcal{N}(x)))=\pi_P(\mathcal{N}(x))=\pi_P(x)である(N(x)\mathcal{N}(x)はxxの正の実数倍である)。よってqˉ=rˉ−1\bar q=\bar r^{-1}である。

rˉ\bar rがC∞C^\inftyであること。xˉ∈Sn/Γ\bar x\in S^{n}/\Gammaを取り、x∈π−1(xˉ)x\in\pi^{-1}(\bar x)を取る。定理 3.1 (2)により、xxの開近傍UUでπ∣U\pi|_Uがπ(U)\pi(U)への微分同相であるものが存在する。π(U)\pi(U)の上でrˉ=r∘(π∣U)−1\bar r=r\circ(\pi|_U)^{-1}であり、右辺はC∞C^\infty写像の合成である。§E17.1 命題 4.2によりrˉ\bar rはC∞C^\inftyである。

qˉ\bar qがC∞C^\inftyであること。§E17.1 命題 6.1の記号でsi ⁣:Rn→Rn+1s_i\colon\mathbb{R}^{n}\to\mathbb{R}^{n+1}、si(u)=(u1,…,ui−1,1,ui,…,un)s_i(u)=(u^{1},\dots,u^{i-1},1,u^{i},\dots,u^{n})とすると、si(u)s_i(u)の第ii成分は11であるからsi(u)≠0s_i(u)\ne0であり、sis_iはRn\mathbb{R}^{n}からRn+1∖{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\}へのアフィン写像としてC∞C^\inftyである。§E17.1 命題 6.1の証明によりπP∘si=φi−1\pi_P\circ s_i=\varphi_i^{-1}である。したがってUiU_iの上で

qˉ=qˉ∘πP∘si∘φi=π∘N∘si∘φi\bar q=\bar q\circ\pi_P\circ s_i\circ\varphi_i=\pi\circ\mathcal{N}\circ s_i\circ\varphi_i

である(第一の等号はπP∘si∘φi=φi−1∘φi=id⁡Ui\pi_P\circ s_i\circ\varphi_i=\varphi_i^{-1}\circ\varphi_i=\operatorname{id}_{U_i}による)。右辺はC∞C^\infty写像の合成である(φi\varphi_iは§E17.1 系 7.2によりC∞C^\inftyである)。{Ui}\{U_i\}はRPn\mathbb{RP}^{n}を覆うので、§E17.1 命題 4.2によりqˉ\bar qはC∞C^\inftyである。

rˉ\bar rは全単射であり、rˉ\bar rとrˉ−1=qˉ\bar r^{-1}=\bar qがともにC∞C^\inftyであるから、rˉ\bar rは微分同相である。▨

例 6.2 (実射影平面の二つの構成の照合).n=2n=2の場合を確かめる。§E17.1 命題 6.1はRP2\mathbb{RP}^{2}を 3 枚の斉次座標近傍によるアトラスで与え、命題 6.1はS2/{±1}S^{2}/\{\pm1\}として与える。二つは微分同相である。

商としての側から次元を確かめる。定理 3.1によりdim⁡(S2/Γ)=dim⁡S2=2\dim(S^{2}/\Gamma)=\dim S^{2}=2であり、§E17.1 命題 6.1が与える次元22と一致する。

一様に被覆される近傍を書き下す。x0∈S2x_0\in S^{2}を取り、U={x∈S2∣x⋅x0>0}U=\{x\in S^{2}\mid x\cdot x_0>0\}(x⋅x0=∑i=13xix0ix\cdot x_0=\sum_{i=1}^{3}x^{i}x_0^{i})と置く。ここで用いているR3\mathbb{R}^{3}の標準的な双線形形式は、S2S^{2}をR3\mathbb{R}^{3}の部分集合として見たときの条件を書くための代数的な補助であり、S2S^{2}の上に計量を与えたものではない。UUは開集合でありx0∈Ux_0\in Uである。x∈Ux\in Uならば(−x)⋅x0=−x⋅x0<0(-x)\cdot x_0=-x\cdot x_0<0であるから−x∉U-x\notin U、すなわち(−1)⋅U∩U=∅(-1)\cdot U\cap U=\varnothingである。よって定理 3.1 (4)の意味でπ(U)\pi(U)は一様に被覆され、π−1(π(U))=U∪(−U)\pi^{-1}(\pi(U))=U\cup(-U)は交わらない二つの開集合の合併である。

S2S^{2}はコンパクトであるから、π\piが連続な全射であることによりRP2\mathbb{RP}^{2}もコンパクトである(§E2.19 定理 4.2)。これは§E17.1 例 7.5に述べたことと整合する。

7 作用が自由でない場合

定理 7.1.M=RM=\mathbb{R}とし、Γ={1,−1}\Gamma=\{1,-1\}がR\mathbb{R}へ(±1)⋅x=±x(\pm1)\cdot x=\pm xで作用するとする。Q=R/ΓQ=\mathbb{R}/\Gamma、π ⁣:R→Q\pi\colon\mathbb{R}\to Qを商写像とする。このとき次が成り立つ。

  1. この作用は微分同相による作用であり真性不連続であるが、自由でない((−1)⋅0=0(-1)\cdot0=0である)。
  2. QQにC∞C^\infty多様体の構造を与えてπ\piを局所微分同相にすることはできない。
  3. QQは[0,∞)[0,\infty)(R\mathbb{R}からの部分空間位相)と同相であり、1 次元位相多様体ではない。

証明.(1)を示す。θ−1(x)=−x\theta_{-1}(x)=-xはR\mathbb{R}の線形同型であり微分同相である。群作用の条件は明らかである。Γ\Gammaは有限集合であるから、任意のコンパクト集合KKに対してΓK⊆Γ\Gamma_K\subseteq\Gammaは有限であり、作用は真性不連続である。(−1)⋅0=0(-1)\cdot0=0かつ−1≠1-1\ne1であるから自由でない。

(2)を示す。QQにC∞C^\infty多様体の構造が入りπ\piが局所微分同相であると仮定する。するとπ\piは点00のある開近傍VVの上で単射である(局所微分同相はとくに局所的に単射である)。VVは00を含むR\mathbb{R}の開集合であるから、ε>0\varepsilon>0で(−ε,ε)⊆V(-\varepsilon,\varepsilon)\subseteq Vとなるものが存在する。x=ε/2x=\varepsilon/2と置くとx∈Vx\in V、−x∈V-x\in V、x≠−xx\ne-xであるがπ(x)=π(−x)\pi(x)=\pi(-x)である。これはπ∣V\pi|_Vの単射性に反する。よってそのような構造は存在しない。

(3)を示す。f ⁣:R→[0,∞)f\colon\mathbb{R}\to[0,\infty)をf(x)=∣x∣f(x)=\lvert x\rvertで定めると、ffは連続な全射でありf(x)=f(y)f(x)=f(y)であることとy=±xy=\pm xであることは同値である。よってffは全単射fˉ ⁣:Q→[0,∞)\bar f\colon Q\to[0,\infty)を誘導し、fˉ∘π=f\bar f\circ\pi=fが連続であるから§E2.12 定理 8.10によりfˉ\bar fは連続である。逆写像はfˉ−1(t)=π(t)\bar f^{-1}(t)=\pi(t)であり、これは包含写像[0,∞)→R[0,\infty)\to\mathbb{R}とπ\piの合成であるから連続である。よってfˉ\bar fは同相写像である。

[0,∞)[0,\infty)が 1 次元位相多様体でないことを示す。そうであると仮定すると、00の開近傍V0V_0と、R\mathbb{R}の開集合WWへの同相写像h ⁣:V0→Wh\colon V_0\to Wが存在する。a>0a>0を[0,a)⊆V0[0,a)\subseteq V_0となるように取る。h([0,a))h([0,a))はWWの開集合、したがってR\mathbb{R}の開集合であり、h∣[0,a)h|_{[0,a)}は[0,a)[0,a)からW′=h([0,a))W'=h([0,a))への同相写像である。w0=h(0)w_0=h(0)と置く。

[0,a)∖{0}=(0,a)[0,a)\setminus\{0\}=(0,a)は連結である(§E2.43 定義 1.1)。同相写像は連結性を保つからW′∖{w0}W'\setminus\{w_0\}は連結である。W′W'はR\mathbb{R}の開集合でw0w_0を含むから、δ>0\delta>0で(w0−δ,w0+δ)⊆W′(w_0-\delta,w_0+\delta)\subseteq W'となるものが存在する。

P=W′∩(−∞,w0),N1=W′∩(w0,∞)P=W'\cap(-\infty,w_0),\qquad N_1=W'\cap(w_0,\infty)

と置くと、PPとN1N_1は交わらない開集合であり、合併はW′∖{w0}W'\setminus\{w_0\}である。w0−δ/2∈Pw_0-\delta/2\in P、w0+δ/2∈N1w_0+\delta/2\in N_1であるからいずれも空でない。これはW′∖{w0}W'\setminus\{w_0\}が連結であることに反する。よって[0,∞)[0,\infty)は 1 次元位相多様体でない。▨

注意 7.2 (主張 3 の範囲).定理 7.1 (3)は、QQが 1 次元位相多様体でないことを述べている。QQがn≠1n\ne1の次元の位相多様体でもないことを示すには、Rm\mathbb{R}^{m}の開集合とRn\mathbb{R}^{n}の開集合が同相ならばm=nm=nであるという主張(領域不変性)を要する。本単元はこの主張を証明せず、「位相幾何入門」へ委ねる。

本記事の目的に必要なのは定理 7.1 (2)である。定理 3.1は、商写像を局所微分同相にするC∞C^\infty構造の存在を主張している。定理 7.1 (2)は、自由性を落とすとその存在が失われることを示しており、定理の仮定から自由性を外すことができないことを与える。

8 演習

問題 8.1 (商多様体の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 補題 2.1の証明でπ−1(π(U))=⋃γγU\pi^{-1}(\pi(U))=\bigcup_\gamma\gamma Uを示した。この等式の二つの包含をそれぞれ書き下し、θγ\theta_\gammaが同相写像であることをどこで用いたかを述べよ。
  2. 命題 2.2の証明では、ΓK\Gamma_Kの元を「ϵ\epsilonでないもの」と「ΓK\Gamma_Kに属さないもの」に分けて扱った。後者についてγU∩U=∅\gamma U\cap U=\varnothingが従う理由を述べ、U⊆KU\subseteq Kをどこで用いたかを示せ。
  3. 定理 3.1の座標変換の計算で、σU2(π(y))=θγ0(y)\sigma_{U_2}(\pi(y))=\theta_{\gamma_0}(y)がNNの上で成り立つことを示した。γ0\gamma_0がyyによらず一つに固定されることが、なぜ座標変換のC∞C^\infty性に必要かを述べよ。
  4. 定理 3.1の証明で、作用が微分同相によるものであるという仮定を用いた箇所をすべて挙げよ。位相同相による作用しか仮定しない場合に、証明のどの段までが成り立ち、どこから成り立たなくなるかを述べよ。
  5. 定理 4.1 (2)で取った近傍UUが、定理 4.1 (3)のコンパクト集合KKに含まれないことを確かめよ。弱い条件と真性不連続性の違いが、この点にどのように現れるかを述べよ。
  6. 定理 4.1 (4)の議論を、p=(1,0)p=(1,0)とq=(0,1)q=(0,1)を入れ替えて書き直せ。umu_mにあたる点をqqの近くに取り、それがppの近くへ移ることを確かめよ。
  7. 命題 5.2 (1)で真性不連続性を示すために、線形同型TTの逆写像の有界性を用いた。v1,v2v_1,v_2が一次従属である場合に、Λ\Lambdaがどのような集合になり、なぜ真性不連続性の議論が成り立たなくなるかを述べよ。
  8. 命題 6.1の証明で、qˉ\bar qのC∞C^\infty性をπP\pi_Pの局所切断si∘φis_i\circ\varphi_iによって示した。この局所切断がπP∘(si∘φi)=id⁡Ui\pi_P\circ(s_i\circ\varphi_i)=\operatorname{id}_{U_i}を満たすことを確かめよ。
解答 (演習の解答).
  1. p∈π−1(π(U))p\in\pi^{-1}(\pi(U))とするとπ(p)∈π(U)\pi(p)\in\pi(U)であるからπ(p)=π(q)\pi(p)=\pi(q)を満たすq∈Uq\in Uが存在し、これはppとqqが同じ軌道に属すること、すなわちp=γqp=\gamma qを満たすγ∈Γ\gamma\in\Gammaが存在することを意味する。よってp∈γUp\in\gamma Uである。逆にp∈γUp\in\gamma Uならばp=γqp=\gamma q(q∈Uq\in U)でありπ(p)=π(q)∈π(U)\pi(p)=\pi(q)\in\pi(U)である。θγ\theta_\gammaが同相写像であることは、γU=θγ(U)\gamma U=\theta_\gamma(U)が開集合であることを述べる段で用いた。この段が無ければ右辺が開集合であることを言えず、π(U)\pi(U)が開集合であるという結論が得られない。
  2. γ∉ΓK\gamma\notin\Gamma_Kならば、定義によりγK∩K=∅\gamma K\cap K=\varnothingである。U⊆B⊆KU\subseteq B\subseteq KであるからγU⊆γK\gamma U\subseteq\gamma KかつU⊆KU\subseteq Kであり、γU∩U⊆γK∩K=∅\gamma U\cap U\subseteq\gamma K\cap K=\varnothingである。U⊆KU\subseteq Kは、UUをBBとの交わりとして定義した箇所で保証されている。
  3. 座標変換のC∞C^\infty性は、それがφ2∘θγ0∘φ1−1\varphi_2\circ\theta_{\gamma_0}\circ\varphi_1^{-1}という一つのC∞C^\infty写像に一致することから従う。γ0\gamma_0が点ごとに変わると、σU2∘π\sigma_{U_2}\circ\piはC∞C^\infty写像の族から点ごとに選んだ値を並べたものになり、その滑らかさを主張することができない。NNの上でγ0\gamma_0が一定であることを示す段が、この問題を解いている。
  4. 用いた箇所は二つである。第一に、補題 2.1でγU\gamma Uが開集合であることを示す段であるが、ここで必要なのはθγ\theta_\gammaが同相写像であることだけである。第二に、座標変換がφ2∘θγ0∘φ1−1\varphi_2\circ\theta_{\gamma_0}\circ\varphi_1^{-1}に等しく、これがC∞C^\inftyであることを述べる段である。位相同相による作用しか仮定しない場合、補題 2.1、命題 2.2、命題 2.3、および商が位相多様体であることまでは成り立つ。成り立たなくなるのは、誘導した座標変換がC∞C^\inftyであるという段からである。したがって、この仮定だけでは誘導チャートがC∞C^\inftyアトラスをなすことも、商写像を局所微分同相にするC∞C^\infty構造が存在することも保証されない。
  5. 定理 4.1 (2)のUUは∣x∣\lvert x\rvertまたは∣y∣\lvert y\rvertの範囲だけを制限しており、もう一方の成分は制限していない。したがってUUは有界でなく、有界集合KKに含まれない。弱い条件は各点ごとに一つの近傍を与えれば足り、その近傍は点ごとに異なってよい。真性不連続性は、一つの固定されたコンパクト集合KKに対して、KKと交わる像を持つγ\gammaが有限個であることを要求する。定理 4.1 (3)のqnq_nはnnとともにKKの中を動く点であり、各点ごとの近傍の議論では捉えることができない。
  6. q=(0,1)q=(0,1)、p=(1,0)p=(1,0)とする。wm=(2−m,1)w_m=(2^{-m},1)と置くとwm→(0,1)=qw_m\to(0,1)=qであるから、qqの任意の開近傍DDに対して、mmが十分大きければwm∈Dw_m\in Dである。m⋅wm=(2m⋅2−m, 2−m⋅1)=(1,2−m)m\cdot w_m=(2^{m}\cdot2^{-m},\ 2^{-m}\cdot1)=(1,2^{-m})であり、m→∞m\to\inftyのとき(1,2−m)→(1,0)=p(1,2^{-m})\to(1,0)=pであるから、ppの任意の開近傍AAに対して、mmが十分大きければm⋅wm∈Am\cdot w_m\in Aである。二つの条件を同時に満たすmmを取るとπ(wm)∈π(D)∩π(A)\pi(w_m)\in\pi(D)\cap\pi(A)である。
  7. v1,v2v_1,v_2が一次従属であるとする。両者が同時に00でなければ、v2=cv1v_2=cv_1の形(またはv1=cv2v_1=cv_2)であり、Λ⊆Rv1\Lambda\subseteq\mathbb{R}v_1は一つの直線に含まれる。この場合、TTは線形同型でなくT−1T^{-1}が存在しないので、∥λ∥≤2R\lVert\lambda\rVert\le2Rから(m,l)(m,l)の有界性を導く議論が成り立たない。実際、ccが無理数であればΛ={(m+lc)v1}\Lambda=\{(m+lc)v_1\}は直線Rv1\mathbb{R}v_1の中で稠密であり、任意のR>0R>0に対して∥λ∥≤2R\lVert\lambda\rVert\le2Rを満たすλ∈Λ\lambda\in\Lambdaは無限個ある。したがって作用は真性不連続でない。
  8. φi ⁣:Ui→Rn\varphi_i\colon U_i\to\mathbb{R}^{n}は§E17.1 命題 6.1のチャートであり、同命題の証明によりφi−1=πP∘si\varphi_i^{-1}=\pi_P\circ s_iである。したがってu∈Uiu\in U_iに対して πP(si(φi(u)))=(πP∘si)(φi(u))=φi−1(φi(u))=u\pi_P\bigl(s_i(\varphi_i(u))\bigr)=\bigl(\pi_P\circ s_i\bigr)\bigl(\varphi_i(u)\bigr)=\varphi_i^{-1}\bigl(\varphi_i(u)\bigr)=u である。よってsi∘φis_i\circ\varphi_iはUiU_iの上でのπP\pi_Pの切断である。

▨

9 境界と次

三つの仮定はいずれも外すことができない。定理 3.1は、作用が微分同相によるものであること、自由であること、真性不連続であることの三つを仮定している。第一の仮定を位相同相による作用へ弱めると、誘導した座標変換のC∞C^\infty性と、商写像を局所微分同相にする構造の存在を一般には保証することができない(定義 1.2と解答 (4))。第二の仮定を外すと、商写像を局所微分同相にする構造が存在しなくなる(定理 7.1)。第三の仮定を弱い条件へ置き換えると商が Hausdorff にならない(定理 4.1)。

離散群でない群の作用。本記事は離散群の作用だけを扱った。Lie 群が多様体へ滑らかに作用する場合、商が多様体になるための条件は別の形になり、軌道の次元と安定化群の構造が関わる。閉部分群HHによる Lie 群GGの商G/HG/Hの構成は「Lie 群論」が扱う。

被覆空間の一般論。定理 3.1 (4)が与えるのは、商写像の局所的な形だけである。被覆の分類、被覆変換群、持ち上げの定理、基本群との対応、および普遍被覆の構成は「位相幾何入門」が扱う。

平坦であるという呼び名。注意 5.4のとおり、R2/Λ\mathbb{R}^{2}/\Lambdaを平坦な円環面と呼ぶ根拠は計量にある。本単元は計量を導入せず、商多様体としての構成にとどめる。計量、曲率および平坦であることの意味は「曲線と曲面」と「Riemann 幾何 I」が扱う。

本単元の終わり。本記事は本単元の最後の項目である。本単元は、座標のとり方に依らない対象として多様体を定義し、接空間とテンソル場、ベクトル場と流れ、微分形式と積分、de Rham コホモロジー、Lie 群と商多様体を扱った。ここで作った言葉の上に、計量を入れる「曲線と曲面」と「Riemann 幾何 I」、臨界点と横断性を扱う「微分位相幾何」、および Lie 対応から先へ進む「Lie 群論」が続く。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.真性不連続な作用の定義、商多様体定理の証明の組み立て、および各点が一様に被覆される近傍を持つことの述べ方を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.離散群の作用による商の可微分構造の一意性の扱いを参考にした。
  3. Michael Spivak, A Comprehensive Introduction to Differential Geometry, 3rd ed., vol. 1, Publish or Perish, Inc., Houston, 1999.実射影空間を球面の商として得る構成と、格子による平面の商の扱いを参考にした。

前提記事

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