§E17.15向きと多様体上の積分

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「実解析 II」の重積分は、Rn\mathbb{R}^nの座標を固定したうえで関数を積分する。多様体の上には固定した座標がないので、同じことをそのまま行うことができない。二つのチャートで同じ関数を積分すると、変数変換公式によって値が Jacobi 行列式の絶対値の倍だけ食い違う。

食い違いを消す方法は、積分の対象を関数から最高次微分形式へ取り替えることである。nn次形式の成分は、座標変換に対してちょうど Jacobi 行列式の倍になる(§E17.10 系 4.3)。一方、重積分は変数変換に対して Jacobi 行列式の絶対値の倍になる。両者は、Jacobi 行列式が正である座標変換に限って一致する。向きを固定して座標変換を Jacobi 行列式が正であるものに限れば、nn次形式の積分は座標のとり方に依らない値を持つ。

本記事は、この方針を実行して、向きづけられたnn次元C∞C^\infty境界付き多様体MMと台がコンパクトなω∈Ωn(M)\omega\in\Omega^n(M)に対して∫Mω\int_M\omegaを定義し、その値が向きを保つアトラスと1の分割のとり方に依らないことを証明する。あわせて、Rn\mathbb{R}^nの正則な劣位集合の上では、この積分が「実解析 II」の Riemann 重積分に一致することを示す。この一致は、「Stokes の定理」で古典的な積分定理を特別な場合として得るために必要である。

以下、MMはnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。次元の制限は置かない。向きづけられたMMに対して、向きを保つ境界付きチャートの定義域がMMを覆うことは§E17.14 定理 6.4が保証する。n=1n=1で境界を持つ場合にこれが成り立つのは、局所モデルとして二つの半空間を許したからである(§E17.14 注意 6.5)。

1 ユークリッド空間の側の準備

「境界を持つ多様体と境界の向き」に従い、Rn\mathbb{R}^nの開集合、Hn={xn≥0}\mathbb{H}^n=\{x^n\ge0\}の相対開集合、およびH−n={xn≤0}\mathbb{H}^n_{-}=\{x^n\le 0\}の相対開集合をまとめて許容領域と呼ぶ。許容領域DDに対して

Z(D)=D∩∂Hn(D⊆Hn または D⊆H−n のとき),Z(D)=∅(D が Rn の開集合のとき)Z(D)=D\cap\partial\mathbb{H}^n\quad(D\subseteq\mathbb{H}^n\text{ または }D\subseteq\mathbb{H}^n_{-}\text{ のとき}), \qquad Z(D)=\varnothing\quad(D\text{ が }\mathbb{R}^n\text{ の開集合のとき})

と置く。いずれの場合もD∖Z(D)D\setminus Z(D)はRn\mathbb{R}^nの開集合である。DDがH−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合である場合は、§E17.14 補題 2.1のRnR_nを合成することでHn\mathbb{H}^nの相対開集合の場合へ移る。RnR_nは座標の一つの符号を変える線形写像であるから、閉長方形を閉長方形へ写し、直積分割を直積分割へ写し、小長方形の体積を保つ。したがって Riemann 重積分の値を保つ。以下、H−n\mathbb{H}^n_{-}の場合はこの移動によって扱う。

定義 1.1.DDを許容領域、f ⁣:D→Rf\colon D\to\mathbb{R}を連続関数でK=supp⁡fK=\operatorname{supp}fがコンパクトかつK⊆DK\subseteq Dであるものとする。KKを含む閉長方形R⊆RnR\subseteq\mathbb{R}^nを取り、ffをR∖KR\setminus Kの上で00としてRRへ延長したものをf~\tilde fと書く。

∫Df=∫Rf~\int_Df=\int_R\tilde f

と定める(右辺は§E4.10 定義 1.3の Riemann 重積分)。

補題 1.2.定義 1.1においてf~\tilde fはRR上で連続であり、∫Rf~\int_R\tilde fはKKを含む閉長方形RRのとり方に依らない。さらに、この積分はffについて線形であり、∣f∣≤C|f|\le CかつK⊆SK\subseteq S(SSは閉長方形)ならば∣∫Df∣≤C ∣S∣\bigl|\int_Df\bigr|\le C\,|S|が成り立つ。

証明.R∩DR\cap DとR∖KR\setminus KはともにRRの相対開集合であり、K⊆DK\subseteq DからRRを覆う。R∩DR\cap Dの上でf~=f\tilde f=fは連続であり、R∖KR\setminus Kの上でf~=0\tilde f=0は連続であり、共通部分ではf=0f=0であるから両者は一致する。よってf~\tilde fはRR上で連続であり、§E4.10 定理 3.1により可積分である。

R1,R2R_1,R_2をともにKKを含む閉長方形とし、S⊇R1∪R2S\supseteq R_1\cup R_2となる閉長方形SSを取る。RiR_i上のf~\tilde fをSSの外側で00として延長すると、どちらもSS上の同じ関数(KKの外で00、KKの上でff)を与える。§E4.11 補題 3.2により∫Rif~=∫S(その関数)\int_{R_i}\tilde f=\int_S(\text{その関数})であるから二つは等しい。

線形性は§E4.10 命題 4.1 (1)による(共通のRRを取ればよい)。最後の評価は、K⊆SK\subseteq Sを含む閉長方形RRを取ると∣f~∣≤C⋅1S|\tilde f|\le C\cdot\mathbf{1}_{S}であり、1S\mathbf{1}_Sが可積分で∫R1S=∣S∣\int_R\mathbf{1}_S=|S|であることと§E4.10 命題 4.1 (2)、§E4.10 命題 4.1 (3)による。▨

補題 1.3.∂Hn\partial\mathbb{H}^nに含まれるコンパクト集合は Jordan 零集合である(§E4.11 定義 1.1)。

証明.Z⊆∂HnZ\subseteq\partial\mathbb{H}^nをコンパクトとすると有界であるから、c>0c>0を取ってZ⊆[−c,c]n−1×{0}Z\subseteq[-c,c]^{n-1}\times\{0\}とすることができる。δ>0\delta>0に対して開長方形

Qδ=(−c−1,c+1)n−1×(−δ,δ)Q_\delta=(-c-1,c+1)^{n-1}\times(-\delta,\delta)

はZZを含み、体積は(2c+2)n−1⋅2δ(2c+2)^{n-1}\cdot 2\deltaである。δ\deltaを小さく取ればこれは任意に小さくなる。▨

補題 1.4.{Cε}ε>0\{C_\varepsilon\}_{\varepsilon>0}をRn\mathbb{R}^nのコンパクト集合の族であって、ε≤ε′\varepsilon\le\varepsilon'ならばCε⊆Cε′C_\varepsilon\subseteq C_{\varepsilon'}を満たすものとし、C0=⋂ε>0CεC_0=\bigcap_{\varepsilon>0}C_\varepsilonが Jordan 零集合であるとする。このとき任意のη>0\eta>0に対してε0>0\varepsilon_0>0が存在して、0<ε≤ε00<\varepsilon\le\varepsilon_0ならばCεC_\varepsilonは体積の総和がη\eta未満である有限個の開長方形で覆われる。

証明.η>0\eta>0を取る。C0C_0は Jordan 零集合であるから、体積の総和がη\eta未満である有限個の開長方形Q1,…,QsQ_1,\dots,Q_sで覆われる。O=Q1∪⋯∪QsO=Q_1\cup\cdots\cup Q_sと置く。

ε1=1\varepsilon_1=1とし、Lε=Cε∖OL_\varepsilon=C_\varepsilon\setminus O(0<ε≤10<\varepsilon\le 1)と置く。LεL_\varepsilonは開集合の補集合とコンパクト集合の交わりであるからコンパクトであり、族は減少する。⋂0<ε≤1Lε=C0∖O=∅\bigcap_{0<\varepsilon\le1}L_\varepsilon=C_0\setminus O=\varnothingである。したがって開集合の族{Rn∖Lε}0<ε≤1\{\mathbb{R}^n\setminus L_\varepsilon\}_{0<\varepsilon\le1}はL1L_1を覆う。L1L_1はコンパクトであるから(§E2.19 定義 2.1)有限個ε(1),…,ε(r)\varepsilon^{(1)},\dots,\varepsilon^{(r)}で覆われる。ε0=min⁡jε(j)\varepsilon_0=\min_j\varepsilon^{(j)}と置くと、族が減少するのでLε0⊆Lε(j)L_{\varepsilon_0}\subseteq L_{\varepsilon^{(j)}}であり、L1⊆⋃j(Rn∖Lε(j))⊆Rn∖Lε0L_1\subseteq\bigcup_j(\mathbb{R}^n\setminus L_{\varepsilon^{(j)}})\subseteq\mathbb{R}^n\setminus L_{\varepsilon_0}である。Lε0⊆L1L_{\varepsilon_0}\subseteq L_1であるからLε0=∅L_{\varepsilon_0}=\varnothingである。0<ε≤ε00<\varepsilon\le\varepsilon_0ならばLε⊆Lε0=∅L_\varepsilon\subseteq L_{\varepsilon_0}=\varnothing、すなわちCε⊆OC_\varepsilon\subseteq Oである。▨

定理 1.5 (許容領域の間の変数変換公式).D,D′D,D'を許容領域、τ ⁣:D→D′\tau\colon D\to D'を全単射でτ\tauとτ−1\tau^{-1}がともにC∞C^\infty級であるものとする。g ⁣:D′→Rg\colon D'\to\mathbb{R}を連続関数で台がコンパクトかつD′D'に含まれるものとすると、(g∘τ) ∣det⁡Dτ∣(g\circ\tau)\,|\det D\tau|もDDの上の連続関数で台がコンパクトかつDDに含まれ、

∫D′g=∫D(g∘τ) ∣det⁡Dτ∣\int_{D'}g=\int_{D}(g\circ\tau)\,\bigl|\det D\tau\bigr|

が成り立つ。

証明.f=(g∘τ)∣det⁡Dτ∣f=(g\circ\tau)|\det D\tau|と置く。∣det⁡Dτ∣|\det D\tau|は至るところ正であるから(§E17.14 補題 1.3 (1))、{f≠0}=τ−1({g≠0})\{f\ne0\}=\tau^{-1}(\{g\ne0\})である。τ\tauは同相写像であるから、DDにおける閉包はτ−1(supp⁡g)\tau^{-1}(\operatorname{supp}g)であり、これはコンパクトである。K=supp⁡fK=\operatorname{supp}fと置く。

半空間の型を正の型へそろえる。DDがH−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合であるときは、DDをRn(D)R_n(D)へ、ffをf∘Rnf\circ R_nへ取り替える。D′D'についても同様に取り替え、τ\tauをRn∘τ∘RnR_n\circ\tau\circ R_n(必要な側だけ合成する)へ取り替える。§E17.14 補題 2.1により取り替えた写像は同じ性質を持ち、∣det⁡∣|\det|は∣det⁡Rn∣=1|\det R_n|=1により変わらず、二つの積分の値も上で述べたとおり変わらない。よって以下、DDとD′D'はそれぞれRn\mathbb{R}^nの開集合であるかHn\mathbb{H}^nの相対開集合であるとしてよい。

τ\tauはZ(D)Z(D)をZ(D′)Z(D')の上へ写す。実際、D,D′D,D'がともにHn\mathbb{H}^nの相対開集合であるときは§E17.14 補題 1.3 (2)による。DDがRn\mathbb{R}^nの開集合であるときはZ(D)=∅Z(D)=\varnothingであり、§E4.7 定理 2.1によりτ(D)=D′\tau(D)=D'はRn\mathbb{R}^nの開集合であるからZ(D′)=∅Z(D')=\varnothingである(D′D'がHn\mathbb{H}^nの相対開集合でありかつRn\mathbb{R}^nの開集合ならばD′⊆Int⁡HnD'\subseteq\operatorname{Int}\mathbb{H}^nである)。D′D'がRn\mathbb{R}^nの開集合である場合もτ−1\tau^{-1}について同じ議論を行えばよい。

Z(D)=∅Z(D)=\varnothingの場合を先に片づける。このときDDとD′D'はともにRn\mathbb{R}^nの開集合である。KKを含み閉包がDDに含まれる有限個の開長方形の合併をEEと取る(KKの各点に対して閉包がDDに含まれる開長方形を取り、コンパクト性から有限個を選ぶ)。∂E\partial Eは有限個の長方形の境界の合併に含まれ、それぞれ Jordan 零集合であるからEEは Jordan 可測である(§E4.11 定義 2.1)。E‾⊆D\overline E\subseteq Dでありggはτ(E‾)\tau(\overline E)の近傍で連続であるから、§E4.14 定理 2.1を適用して

∫τ(E)g=∫E(g∘τ)∣det⁡Dτ∣=∫Ef\int_{\tau(E)}g=\int_E(g\circ\tau)|\det D\tau|=\int_Ef

を得る。supp⁡g=τ(K)⊆τ(E)\operatorname{supp}g=\tau(K)\subseteq\tau(E)とK⊆EK\subseteq Eから、両辺は定義 1.1の積分に一致する。すなわち∫D′g=∫Df\int_{D'}g=\int_Dfである。

以下Z(D)≠∅Z(D)\ne\varnothing、すなわちD,D′D,D'がともにHn\mathbb{H}^nの相対開集合である場合を扱う。D+=D∖Z(D)D_+=D\setminus Z(D)、D+′=D′∖Z(D′)D'_+=D'\setminus Z(D')と置くと、これらはRn\mathbb{R}^nの開集合でありτ(D+)=D+′\tau(D_+)=D'_+である。

§E17.2 補題 1.2の関数をρ\rhoと書く。すなわち、ρ\rhoはR\mathbb{R}上のC∞C^\infty関数であり、t≤0t\le0で00、t≥1t\ge1で11、値域は[0,1][0,1]である。ε>0\varepsilon>0に対して

cε(x)=ρ(xnε−1)c_\varepsilon(x)=\rho\Bigl(\frac{x^n}{\varepsilon}-1\Bigr)

と置く。cεc_\varepsilonはRn\mathbb{R}^n上のC∞C^\infty関数であり、xn≤εx^n\le\varepsilonで00、xn≥2εx^n\ge2\varepsilonで11である。また

Aε={x∈K∣xn≤2ε}A_\varepsilon=\{x\in K\mid x^n\le 2\varepsilon\}

と置く。AεA_\varepsilonはコンパクトであり、ε\varepsilonについて増大し、⋂ε>0Aε=K∩∂Hn\bigcap_{\varepsilon>0}A_\varepsilon=K\cap\partial\mathbb{H}^nである。

第一段(各ε\varepsilonでの等式)。cεfc_\varepsilon fの台はK∩{xn≥ε}K\cap\{x^n\ge\varepsilon\}に含まれ、これはコンパクトでD+D_+に含まれる。Z(D)=∅Z(D)=\varnothingの場合と同じ手順で、supp⁡(cεf)\operatorname{supp}(c_\varepsilon f)を含み閉包がD+D_+に含まれる有限個の開長方形の合併EEを取り、§E4.14 定理 2.1をτ∣D+ ⁣:D+→D+′\tau|_{D_+}\colon D_+\to D'_+へ適用すると

∫τ(E)(cε∘τ−1)g=∫E(cε∘τ−1)(τ(u)) g(τ(u)) ∣det⁡Dτ(u)∣ du=∫Ecεf\int_{\tau(E)}\bigl(c_\varepsilon\circ\tau^{-1}\bigr)g=\int_E\bigl(c_\varepsilon\circ\tau^{-1}\bigr)(\tau(u))\,g(\tau(u))\,|\det D\tau(u)|\,du=\int_Ec_\varepsilon f

である。両辺の被積分関数の台はそれぞれτ(E)\tau(E)、EEに含まれるコンパクト集合であるから、定義 1.1の積分として

∫D′(cε∘τ−1)g=∫Dcεf(1)\int_{D'}\bigl(c_\varepsilon\circ\tau^{-1}\bigr)g=\int_{D}c_\varepsilon f \tag{1}

が成り立つ。

第二段(左側の極限)。C=sup⁡∣f∣C=\sup|f|と置く。∣f−cεf∣≤C|f-c_\varepsilon f|\le Cであり、cε=1c_\varepsilon=1となる範囲では差が00であるから、差の台はAεA_\varepsilonに含まれる。KKを含む閉長方形R=∏i=1n−1[−c,c]×[0,c]R=\prod_{i=1}^{n-1}[-c,c]\times[0,c]を取るとAε⊆Sε=∏i=1n−1[−c,c]×[0,2ε]A_\varepsilon\subseteq S_\varepsilon=\prod_{i=1}^{n-1}[-c,c]\times[0,2\varepsilon]であり、補題 1.2の評価から

∣∫Df−∫Dcεf∣≤C ∣Sε∣=C (2c)n−1⋅2ε\Bigl|\int_Df-\int_Dc_\varepsilon f\Bigr|\le C\,|S_\varepsilon|=C\,(2c)^{n-1}\cdot 2\varepsilon

である。右辺はε→0+\varepsilon\to0^{+}で00へ収束する。

第三段(右側の極限)。C′=sup⁡∣g∣C'=\sup|g|と置く。g−(cε∘τ−1)gg-(c_\varepsilon\circ\tau^{-1})gの台はτ(Aε)\tau(A_\varepsilon)に含まれる。τ\tauは同相写像であるから{τ(Aε)}ε>0\{\tau(A_\varepsilon)\}_{\varepsilon>0}はコンパクト集合の増大族であり、

⋂ε>0τ(Aε)=τ(⋂ε>0Aε)=τ(K∩∂Hn)\bigcap_{\varepsilon>0}\tau(A_\varepsilon)=\tau\Bigl(\bigcap_{\varepsilon>0}A_\varepsilon\Bigr)=\tau\bigl(K\cap\partial\mathbb{H}^n\bigr)

である。右辺はτ(Z(D))⊆∂Hn\tau(Z(D))\subseteq\partial\mathbb{H}^nに含まれるコンパクト集合であるから、補題 1.3により Jordan 零集合である。補題 1.4により、任意のη>0\eta>0に対してε0>0\varepsilon_0>0が存在して、0<ε≤ε00<\varepsilon\le\varepsilon_0ならばτ(Aε)\tau(A_\varepsilon)は体積の総和がη\eta未満である有限個の開長方形Q1,…,QsQ_1,\dots,Q_sで覆われる。このとき差の絶対値はC′∑j=1s1Qj‾C'\sum_{j=1}^{s}\mathbf{1}_{\overline{Q_j}}で上から押さえられるので、§E4.10 命題 4.1により

∣∫D′g−∫D′(cε∘τ−1)g∣≤C′∑j=1s∣Qj∣<C′η\Bigl|\int_{D'}g-\int_{D'}\bigl(c_\varepsilon\circ\tau^{-1}\bigr)g\Bigr|\le C'\sum_{j=1}^{s}|Q_j|<C'\eta

である。η\etaは任意であるから、左辺はε→0+\varepsilon\to0^{+}で00へ収束する。

第二段と第三段の極限を (1) へ適用すると∫D′g=∫Df\int_{D'}g=\int_Dfを得る。▨

2 多様体上の積分

定義 2.1.MMをC∞C^\infty境界付き多様体とする。ω∈Ωk(M)\omega\in\Omega^k(M)の台 (support of a differential form) を

supp⁡ω={p∈M∣ωp≠0}‾\operatorname{supp}\omega=\overline{\{p\in M\mid \omega_p\ne 0\}}

で定め、supp⁡ω\operatorname{supp}\omegaがコンパクトであるkk次形式の全体をΩck(M)\Omega^k_c(M)と書く。

定義 2.2.MMを向きづけられたnn次元C∞C^\infty境界付き多様体(n≥1n\ge 1)、ω∈Ωcn(M)\omega\in\Omega^n_c(M)とする。向きを保つ境界付きチャートからなるアトラス{(Uα,φα)}α∈A\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}_{\alpha\in A}と、それに従属する滑らかな1の分割{ψα}α∈A\{\psi_\alpha\}_{\alpha\in A}(§E17.14 補題 5.1)を取る。α\alphaごとに(φα−1)∗(ψαω)(\varphi_\alpha^{-1})^*(\psi_\alpha\omega)は許容領域φα(Uα)\varphi_\alpha(U_\alpha)の上のnn次形式であり、その成分をfαf_\alphaと書く。すなわち

(φα−1)∗(ψαω)=fα dx1∧⋯∧dxn(\varphi_\alpha^{-1})^*(\psi_\alpha\omega)=f_\alpha\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n

である。このとき

∫Mω=∑α∈A∫φα(Uα)fα\int_M\omega=\sum_{\alpha\in A}\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_\alpha

と定める。右辺の各項は定義 1.1の積分であり、次の補題によりこの和は有限和である。

n=0n=0の場合の約束。PPを向きづけられた00次元多様体(離散空間に符号εp∈{+1,−1}\varepsilon_p\in\{+1,-1\}を与えたもの。§E17.14 注意 6.6)、f∈Ωc0(P)f\in\Omega^0_c(P)とすると、supp⁡f\operatorname{supp}fはコンパクトな離散集合であるから有限集合である。このとき

∫Pf=∑p∈Pεp f(p)\int_Pf=\sum_{p\in P}\varepsilon_p\,f(p)

と定める(有限和である)。11次元の境界付き多様体の境界での積分はこの意味で読む。ここで境界の誘導向きは、外向きのベクトルを先に置く規約によって定める(§E17.14 定義 8.4)。

補題 2.3.定義 2.2の設定で、K=supp⁡ωK=\operatorname{supp}\omegaと置く。supp⁡ψα∩K≠∅\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap K\ne\varnothingを満たすα\alphaは有限個である。それ以外のα\alphaに対してはψαω=0\psi_\alpha\omega=0でありfα=0f_\alpha=0である。また各α\alphaについてfαf_\alphaは連続であり、supp⁡fα=φα(supp⁡(ψαω))\operatorname{supp}f_\alpha=\varphi_\alpha\bigl(\operatorname{supp}(\psi_\alpha\omega)\bigr)はコンパクトかつφα(Uα)\varphi_\alpha(U_\alpha)に含まれる。

証明. 族{supp⁡ψα}\{\operatorname{supp}\psi_\alpha\}は局所有限であるから(§E17.2 定義 4.1)、各p∈Kp\in Kに対してppを含む開集合OpO_pで、OpO_pと交わるsupp⁡ψα\operatorname{supp}\psi_\alphaが有限個であるものが存在する。KKはコンパクトであるから有限個のOp1,…,OpmO_{p_1},\dots,O_{p_m}で覆われる(§E2.19 定義 2.1)。supp⁡ψα∩K≠∅\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap K\ne\varnothingならば、あるiiについてsupp⁡ψα∩Opi≠∅\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap O_{p_i}\ne\varnothingであるから、そのようなα\alphaは有限個である。

supp⁡ψα∩K=∅\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap K=\varnothingならば、ψαω\psi_\alpha\omegaはMMの全体で00である。実際、ψα(p)≠0\psi_\alpha(p)\ne0ならばp∈supp⁡ψαp\in\operatorname{supp}\psi_\alphaであるからp∉Kp\notin Kでありωp=0\omega_p=0である。

ψαω\psi_\alpha\omegaの台はsupp⁡ψα∩K\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap Kの閉部分集合であるからコンパクトであり、UαU_\alphaに含まれる。φα\varphi_\alphaは同相写像であるから、fαf_\alphaの台はその像であり、コンパクトかつφα(Uα)\varphi_\alpha(U_\alpha)に含まれる。fαf_\alphaが連続(実際C∞C^\infty)であることは§E17.14 定義 3.3による。▨

命題 2.4.定義 2.2の値は、向きを保つアトラスと1の分割のとり方に依らない。

証明は二段に分かれる。第一段は「台が一つのチャートに収まる場合には、どの向きを保つチャートで計算しても同じ値になる」ことであり、これが変数変換公式の使いどころである。第二段は、二つの1の分割を掛け合わせた二重和を作り、和の順序を入れ替えることである。有限性は補題 2.3が保証する。

補題 2.5.MMを向きづけられたnn次元C∞C^\infty境界付き多様体、ω∈Ωcn(M)\omega\in\Omega^n_c(M)とし、supp⁡ω⊆U∩V\operatorname{supp}\omega\subseteq U\cap Vを満たす向きを保つ二つの境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)、(V,ϕ)(V,\phi)を取る。(φ−1)∗ω=f dx1∧⋯∧dxn(\varphi^{-1})^*\omega=f\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n、(ϕ−1)∗ω=g dy1∧⋯∧dyn(\phi^{-1})^*\omega=g\,dy^1\wedge\cdots\wedge dy^nと書くと

∫φ(U)f=∫ϕ(V)g\int_{\varphi(U)}f=\int_{\phi(V)}g

が成り立つ。

証明.W=U∩VW=U\cap Vと置く。supp⁡f⊆φ(W)\operatorname{supp}f\subseteq\varphi(W)、supp⁡g⊆ϕ(W)\operatorname{supp}g\subseteq\phi(W)であるから、補題 1.2により、積分をφ(W)\varphi(W)とϕ(W)\phi(W)の上のものとして計算してよい。

τ=ϕ∘φ−1 ⁣:φ(W)→ϕ(W)\tau=\phi\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(W)\to\phi(W)と置く。φ−1=ϕ−1∘τ\varphi^{-1}=\phi^{-1}\circ\tauであるから§E17.10 命題 5.2により

f dx1∧⋯∧dxn=(φ−1)∗ω=τ∗((ϕ−1)∗ω)=τ∗(g dy1∧⋯∧dyn)f\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=(\varphi^{-1})^*\omega=\tau^*\bigl((\phi^{-1})^*\omega\bigr)=\tau^*\bigl(g\,dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n\bigr)

である。§E17.10 命題 5.4と§E17.10 系 3.6により

τ∗(dy1∧⋯∧dyn)=det⁡(Dτ) dx1∧⋯∧dxn\tau^*\bigl(dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n\bigr)=\det\bigl(D\tau\bigr)\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n

であるからf=(g∘τ) det⁡Dτf=(g\circ\tau)\,\det D\tauである。

(U,φ)(U,\varphi)と(V,ϕ)(V,\phi)はともに向きを保つので、§E17.14 定理 6.4によりdet⁡Dτ>0\det D\tau>0である。したがってdet⁡Dτ=∣det⁡Dτ∣\det D\tau=|\det D\tau|であり、定理 1.5により

∫ϕ(W)g=∫φ(W)(g∘τ) ∣det⁡Dτ∣=∫φ(W)f\int_{\phi(W)}g=\int_{\varphi(W)}(g\circ\tau)\,|\det D\tau|=\int_{\varphi(W)}f

である。▨

証明.命題 2.4を示す。向きを保つアトラス{(Uα,φα)}α∈A\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}_{\alpha\in A}と従属する1の分割{ψα}\{\psi_\alpha\}、および向きを保つアトラス{(Vβ,ϕβ)}β∈B\{(V_\beta,\phi_\beta)\}_{\beta\in B}と従属する1の分割{σβ}\{\sigma_\beta\}を取る。K=supp⁡ωK=\operatorname{supp}\omegaと置き、

A0={α∈A∣supp⁡ψα∩K≠∅},B0={β∈B∣supp⁡σβ∩K≠∅}A_0=\{\alpha\in A\mid\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap K\ne\varnothing\}, \qquad B_0=\{\beta\in B\mid\operatorname{supp}\sigma_\beta\cap K\ne\varnothing\}

と置く。補題 2.3によりA0A_0とB0B_0は有限集合であり、α∉A0\alpha\notin A_0またはβ∉B0\beta\notin B_0の項は00である。したがって

∑α∈A∫φα(Uα)fα=∑α∈A0∫φα(Uα)fα,∑β∈B∫ϕβ(Vβ)gβ=∑β∈B0∫ϕβ(Vβ)gβ\sum_{\alpha\in A}\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_\alpha=\sum_{\alpha\in A_0}\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_\alpha, \qquad \sum_{\beta\in B}\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_\beta=\sum_{\beta\in B_0}\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_\beta

である(gβg_\betaは(ϕβ−1)∗(σβω)(\phi_\beta^{-1})^*(\sigma_\beta\omega)の成分)。

α∈A0\alpha\in A_0を固定する。Kα=supp⁡(ψαω)K_\alpha=\operatorname{supp}(\psi_\alpha\omega)はコンパクトでありKα⊆KK_\alpha\subseteq Kである。β∉B0\beta\notin B_0ならばsupp⁡σβ∩Kα=∅\operatorname{supp}\sigma_\beta\cap K_\alpha=\varnothingであるから、KαK_\alphaの上でσβ=0\sigma_\beta=0である。よってMMの全体で

ψαω=∑β∈B0σβ ψαω\psi_\alpha\omega=\sum_{\beta\in B_0}\sigma_\beta\,\psi_\alpha\omega

が成り立つ。実際、p∈Kαp\in K_\alphaでは∑β∈B0σβ(p)=∑β∈Bσβ(p)=1\sum_{\beta\in B_0}\sigma_\beta(p)=\sum_{\beta\in B}\sigma_\beta(p)=1であり、p∉Kαp\notin K_\alphaでは両辺が00である。この式は有限和であるから、引き戻しと補題 1.2の線形性により

∫φα(Uα)fα=∑β∈B0∫φα(Uα)fαβ,fαβ=((φα−1)∗(ψασβω)) の成分\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_\alpha=\sum_{\beta\in B_0}\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_{\alpha\beta}, \qquad f_{\alpha\beta}=\bigl((\varphi_\alpha^{-1})^*(\psi_\alpha\sigma_\beta\omega)\bigr)\text{ の成分}

である。同様にβ∈B0\beta\in B_0を固定すると

∫ϕβ(Vβ)gβ=∑α∈A0∫ϕβ(Vβ)gαβ,gαβ=((ϕβ−1)∗(ψασβω)) の成分\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_\beta=\sum_{\alpha\in A_0}\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_{\alpha\beta}, \qquad g_{\alpha\beta}=\bigl((\phi_\beta^{-1})^*(\psi_\alpha\sigma_\beta\omega)\bigr)\text{ の成分}

である。

α∈A0\alpha\in A_0、β∈B0\beta\in B_0に対してψασβω\psi_\alpha\sigma_\beta\omegaの台はsupp⁡ψα∩supp⁡σβ∩K\operatorname{supp}\psi_\alpha\cap\operatorname{supp}\sigma_\beta\cap Kに含まれ、コンパクトかつUα∩VβU_\alpha\cap V_\betaに含まれる。(Uα,φα)(U_\alpha,\varphi_\alpha)と(Vβ,ϕβ)(V_\beta,\phi_\beta)はともに向きを保つので、補題 2.5により

∫φα(Uα)fαβ=∫ϕβ(Vβ)gαβ\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_{\alpha\beta}=\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_{\alpha\beta}

である。A0×B0A_0\times B_0は有限集合であるから和の順序を入れ替えることができ、

∑α∈A0∫φα(Uα)fα=∑α∈A0∑β∈B0∫φα(Uα)fαβ=∑β∈B0∑α∈A0∫ϕβ(Vβ)gαβ=∑β∈B0∫ϕβ(Vβ)gβ\sum_{\alpha\in A_0}\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_\alpha =\sum_{\alpha\in A_0}\sum_{\beta\in B_0}\int_{\varphi_\alpha(U_\alpha)}f_{\alpha\beta} =\sum_{\beta\in B_0}\sum_{\alpha\in A_0}\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_{\alpha\beta} =\sum_{\beta\in B_0}\int_{\phi_\beta(V_\beta)}g_\beta

を得る。よって二つの定め方は同じ値を与える。▨

命題 2.6.MMを向きづけられたnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。

  1. ∫M ⁣:Ωcn(M)→R\int_M\colon\Omega^n_c(M)\to\mathbb{R}はR\mathbb{R}線形である。
  2. M−M^{-}を反対の向きを与えたMMとすると∫M−ω=−∫Mω\int_{M^{-}}\omega=-\int_M\omegaである。
  3. supp⁡ω\operatorname{supp}\omegaが向きを保つ一つのチャート(U,φ)(U,\varphi)の定義域に含まれるならば、(φ−1)∗ω=f dx1∧⋯∧dxn(\varphi^{-1})^*\omega=f\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^nとして∫Mω=∫φ(U)f\int_M\omega=\int_{\varphi(U)}fである。
  4. F ⁣:N→MF\colon N\to Mを向きを保つ微分同相(すなわちNNの向き形式μN\mu_NとMMの向き形式μM\mu_MについてF∗μMF^*\mu_MがμN\mu_Nと同値であるもの)とすると、∫NF∗ω=∫Mω\int_NF^*\omega=\int_M\omegaである。
  5. (V,ϕ)(V,\phi)を境界付きチャートで、向き形式μ\muのϕ\phiに関する成分がVVの上で負であるもの(向きを反転するチャート)とする。supp⁡ω⊆V\operatorname{supp}\omega\subseteq Vならば、(ϕ−1)∗ω=g dy1∧⋯∧dyn(\phi^{-1})^*\omega=g\,dy^1\wedge\cdots\wedge dy^nとして∫Mω=−∫ϕ(V)g\int_M\omega=-\int_{\phi(V)}gである。

証明.(1)を示す。二つの形式に対して共通のアトラスと1の分割を取ることができ、補題 1.2の線形性と引き戻しの線形性から従う。

(2)を示す。R(x1,x2,…,xn)=(−x1,x2,…,xn)R(x^1,x^2,\dots,x^n)=(-x^1,x^2,\dots,x^n)と置く。RRはdet⁡R=−1\det R=-1を満たす線形同型であり、R∘R=id⁡R\circ R=\operatorname{id}である。(U,φ)(U,\varphi)がMMについて向きを保つとき、φˉ=R∘φ\bar\varphi=R\circ\varphiは境界付きチャートであり(§E17.14 定理 6.4の証明で確かめた。n=1n=1では半空間の型が入れ替わる)、M−M^{-}について向きを保つ。

η=(φ−1)∗(ψαω)=f dx1∧⋯∧dxn\eta=(\varphi^{-1})^*(\psi_\alpha\omega)=f\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^nと置く。φˉ−1=φ−1∘R\bar\varphi^{-1}=\varphi^{-1}\circ Rであるから、§E17.10 命題 5.2と§E17.10 命題 5.4により

(φˉ−1)∗(ψαω)=R∗η=(f∘R) det⁡R  dx1∧⋯∧dxn=−(f∘R) dx1∧⋯∧dxn(\bar\varphi^{-1})^*(\psi_\alpha\omega)=R^*\eta=(f\circ R)\,\det R\;dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=-(f\circ R)\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n

である。∣det⁡R∣=1|\det R|=1であるから§E4.14 定理 2.1(あるいは定理 1.5)により∫R(φ(U))(f∘R)=∫φ(U)f\int_{R(\varphi(U))}(f\circ R)=\int_{\varphi(U)}fであり、対応する項の値は符号だけが変わる。同じ1の分割を用いると総和も符号だけが変わる。

(3)を示す。{(U,φ)}\{(U,\varphi)\}にM∖supp⁡ωM\setminus\operatorname{supp}\omegaの上の向きを保つチャートを加えたアトラスと、それに従属する1の分割を取る。supp⁡ω⊆U\operatorname{supp}\omega\subseteq Uであるから、UU以外のチャートに属する項は00であり、UUに属する項の総和は補題 1.2の線形性により∫φ(U)f\int_{\varphi(U)}fに等しい。

(4)を示す。{(Uα,φα)}\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}をMMの向きを保つアトラス、{ψα}\{\psi_\alpha\}を従属する1の分割とすると、{(F−1(Uα),φα∘F)}\{(F^{-1}(U_\alpha),\varphi_\alpha\circ F)\}はNNのアトラスであり、各チャートは向きを保つ。実際、F∗μMF^*\mu_Mのφα∘F\varphi_\alpha\circ Fに関する成分はμM\mu_Mのφα\varphi_\alphaに関する成分とFFで対応する。{ψα∘F}\{\psi_\alpha\circ F\}は従属する1の分割である。対応する項は同じ許容領域の上の同じ関数の積分であるから、総和は等しい。

(5)を示す。μ\muのϕ\phiに関する成分が負であることは、−μ-\muの成分が正であること、すなわち(V,ϕ)(V,\phi)がM−M^{-}について向きを保つことと同じである。(3)をM−M^{-}へ適用すると∫M−ω=∫ϕ(V)g\int_{M^{-}}\omega=\int_{\phi(V)}gであり、(2)により∫Mω=−∫M−ω=−∫ϕ(V)g\int_M\omega=-\int_{M^{-}}\omega=-\int_{\phi(V)}gである。▨

3 積分の対象が最高次形式である理由

注意 3.1 (関数を積分することができない理由). 多様体の上の関数uuに対して「∫Mu\int_Mu」を、チャートで引き戻して重積分する形で定めようとすると、値がチャートのとり方に依存する。座標変換τ=ϕ∘φ−1\tau=\phi\circ\varphi^{-1}に対して、関数の座標表示はu∘φ−1=(u∘ϕ−1)∘τu\circ\varphi^{-1}=(u\circ\phi^{-1})\circ\tauと変換するだけであり、§E4.14 定理 2.1の右辺に現れる∣det⁡Dτ∣|\det D\tau|を打ち消す因子を持たない。

具体的に見る。M=(0,1)M=(0,1)、u≡1u\equiv1とし、二つのチャートφ(x)=x\varphi(x)=xとϕ(x)=2x\phi(x)=2xを取る。φ\varphiで計算すると∫011 dx=1\int_0^1 1\,dx=1、ϕ\phiで計算すると∫021 dx=2\int_0^2 1\,dx=2である。値が一致しない。

一方、nn次形式ω=u dx1∧⋯∧dxn\omega=u\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^nの成分は§E17.10 系 4.3により座標変換の Jacobi 行列式の倍になる。この因子が∣det⁡Dτ∣|\det D\tau|とちょうど打ち消し合うのは、det⁡Dτ>0\det D\tau>0であるとき、すなわち向きを保つ座標変換に限るときである。上の例でω=dx\omega=dxとすると、ϕ\phi座標y=2xy=2xではω=12 dy\omega=\tfrac12\,dyであり∫0212 dy=1\int_0^2\tfrac12\,dy=1となってφ\varphi座標での値と一致する。

このように、向きを固定することと積分の対象を最高次形式に取ることは一組であり、どちらか一方だけでは座標に依らない量が得られない。

4 ユークリッド空間の領域の上での一致

古典的な積分定理を「Stokes の定理」の特別な場合として得るには、Rn\mathbb{R}^nの領域の上で、多様体としての積分が「実解析 II」の Riemann 重積分に一致することを確かめておく必要がある。

補題 4.1.O⊆RnO\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、T ⁣:O→RmT\colon O\to\mathbb{R}^mをC1C^1級とし、B‾⊆O\overline{B}\subseteq Oを閉球とする。このときTTはB‾\overline{B}の上で Lipschitz 連続である。

証明.L=sup⁡x∈B‾∥DT(x)∥L=\sup_{x\in\overline B}\lVert DT(x)\rVertと置く。DTDTは連続でありB‾\overline BはコンパクトであるからL<∞L<\inftyである。x,y∈B‾x,y\in\overline Bに対して線分x+t(y−x)x+t(y-x)(t∈[0,1]t\in[0,1])は凸性によりB‾\overline Bに含まれる。§E4.3 定理 1.1と微積分学の基本定理により

T(y)−T(x)=∫01DT(x+t(y−x))(y−x) dtT(y)-T(x)=\int_0^1DT\bigl(x+t(y-x)\bigr)(y-x)\,dt

であるから∥T(y)−T(x)∥≤L∥y−x∥\lVert T(y)-T(x)\rVert\le L\lVert y-x\rVertである。▨

定理 4.2.N⊆RnN\subseteq\mathbb{R}^nを開集合、f∈C∞(N)f\in C^\infty(N)、c∈Rc\in\mathbb{R}とし、D={x∈N∣f(x)≤c}D=\{x\in N\mid f(x)\le c\}がコンパクトかつ空でなく、f−1(c)f^{-1}(c)の各点でdf≠0df\ne0であるとする。DDに§E17.14 命題 4.1のC∞C^\infty境界付き多様体の構造と、dx1∧⋯∧dxndx^1\wedge\cdots\wedge dx^nが定める向きを与える。このとき次が成り立つ。

  1. DDの位相的な境界はf−1(c)f^{-1}(c)であり、Jordan 零集合である。とくにDDは Jordan 可測である。
  2. DDの近傍でC∞C^\inftyである関数uuに対して ∫Du dx1∧⋯∧dxn=∫Du\int_Du\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=\int_Du が成り立つ。右辺は§E4.11 定義 3.1の Riemann 積分である。

証明.(1)を示す。{f<c}\{f<c\}は開集合であるからDDの内部に含まれる。p∈f−1(c)p\in f^{-1}(c)を取り、§E17.14 命題 4.1が与えるNNのチャート(U,φ)(U,\varphi)(φn=c−f\varphi^n=c-f、φ(U)\varphi(U)はRn\mathbb{R}^nの開集合)を取る。φ(p)\varphi(p)の任意の近傍は第nn成分が負である点を含み、その点はf>cf>cを満たすのでDDに属さない。よってppはDDの内点でなく、DDの位相的な境界はf−1(c)f^{-1}(c)である。

f−1(c)f^{-1}(c)はDDの閉部分集合であるからコンパクトである。各q∈f−1(c)q\in f^{-1}(c)に対して、上の形のチャート(Uq,φq)(U_q,\varphi_q)と、φq(q)\varphi_q(q)を中心とする閉球Bq‾⊆φq(Uq)\overline{B_q}\subseteq\varphi_q(U_q)を取る。{φq−1(Bq)}q\{\varphi_q^{-1}(B_q)\}_{q}はf−1(c)f^{-1}(c)の開被覆であるから、コンパクト性により有限個q1,…,qrq_1,\dots,q_rで覆われる(§E2.19 定義 2.1)。以下φl=φql\varphi_l=\varphi_{q_l}、Bl=BqlB_l=B_{q_l}と略す。

φl\varphi_lの第nn成分はc−fc-fであるからφl(Uql∩f−1(c))=φl(Uql)∩∂Hn\varphi_l\bigl(U_{q_l}\cap f^{-1}(c)\bigr)=\varphi_l(U_{q_l})\cap\partial\mathbb{H}^nである。

Nl=φl(Uql∩f−1(c))∩Bl‾N_l=\varphi_l\bigl(U_{q_l}\cap f^{-1}(c)\bigr)\cap\overline{B_l}

と置くと、NlN_lはコンパクト集合Bl‾\overline{B_l}の閉部分集合であるからコンパクトであり、∂Hn\partial\mathbb{H}^nに含まれるので補題 1.3により Jordan 零集合である。φl−1\varphi_l^{-1}はφl(Uql)\varphi_l(U_{q_l})の上でC∞C^\inftyであり、補題 4.1によりBl‾\overline{B_l}の上で Lipschitz 連続であるから、§E4.14 補題 1.1によりφl−1(Nl)\varphi_l^{-1}(N_l)は Jordan 零集合である。

p∈f−1(c)p\in f^{-1}(c)を取ると、あるllについてφl(p)∈Bl\varphi_l(p)\in B_lであり、p∈f−1(c)p\in f^{-1}(c)からφl(p)∈Nl\varphi_l(p)\in N_lである。したがってf−1(c)⊆⋃l=1rφl−1(Nl)f^{-1}(c)\subseteq\bigcup_{l=1}^{r}\varphi_l^{-1}(N_l)であり、有限個の Jordan 零集合の合併は Jordan 零集合であるからf−1(c)f^{-1}(c)は Jordan 零集合である。DDは有界で境界が Jordan 零集合であるから Jordan 可測である(§E4.11 定義 2.1)。

(2)を示す。uuがC∞C^\inftyであるDDの開近傍をN0⊆NN_0\subseteq Nと置く。N0N_0の開被覆を次のように取る。内点p∈{f<c}p\in\{f<c\}に対してはppを含む開球W⊆{f<c}W\subseteq\{f<c\}を取り、チャートとして恒等写像を用いる。境界点p∈f−1(c)p\in f^{-1}(c)に対しては§E17.14 命題 4.1のNNのチャート(U,φ)(U,\varphi)(φn=c−f\varphi^n=c-f、φ(U)\varphi(U)はRn\mathbb{R}^nの開集合)を取り、必要ならば§E17.14 定理 6.4の証明の操作(第一成分の符号の反転。n=1n=1では半空間の型が入れ替わる)を施して、DDの側のチャートφ∣U∩D\varphi|_{U\cap D}が向きを保つようにする。さらにN0∖DN_0\setminus Dを被覆へ加える。

この開被覆に従属する滑らかな1の分割{Ψλ}\{\Psi_\lambda\}を、境界を持たない多様体N0N_0の上で取る(§E17.2 定理 4.2)。N0∖DN_0\setminus Dに対応する項はDDの上で00であるから、残りの項のDDへの制限は、DDの向きを保つ境界付きチャートによる被覆に従属する1の分割になる。DDはコンパクトであるから、寄与するλ\lambdaは有限個であり、それらをλ1,…,λN\lambda_1,\dots,\lambda_Nと書くとDDの上で∑i=1NΨλi=1\sum_{i=1}^{N}\Psi_{\lambda_i}=1である。

まず、有界関数の積分についての次の評価を用意する。ggが閉長方形RRの上で Riemann 可積分、∣g∣≤C|g|\le C、かつ{g≠0}\{g\ne0\}が Jordan 零集合ZZに含まれるならば∫Rg=0\int_Rg=0である。実際、任意のη>0\eta>0に対してZZを体積の総和がη\eta未満である有限個の開長方形Q1,…,QsQ_1,\dots,Q_sで覆うと∣g∣≤C∑j=1s1Qj‾|g|\le C\sum_{j=1}^{s}\mathbf{1}_{\overline{Q_j}}であり、§E4.10 命題 4.1により∣∫Rg∣≤Cη\bigl|\int_Rg\bigr|\le C\etaである。

iiを固定し、w=Ψλiuw=\Psi_{\lambda_i}uと置く。wwはN0N_0の上のC∞C^\infty関数であり、台はコンパクトで、対応するチャートの定義域(WWまたはUU)に含まれる。

内部チャートの場合。チャートは恒等写像であり、((id⁡)∗(w dx1∧⋯∧dxn))\bigl((\operatorname{id})^*(w\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n)\bigr)の成分はwwそのものである。supp⁡w⊆W⊆Int⁡D\operatorname{supp}w\subseteq W\subseteq\operatorname{Int}Dであるから、定義 1.1の積分と§E4.11 定義 3.1の積分はともにDDを含む閉長方形の上でのwwの零拡張の積分であり、一致する。すなわち∫Ww=∫Dw\int_Ww=\int_Dwである。

境界チャートの場合。Φ=φ−1\Phi=\varphi^{-1}はRn\mathbb{R}^nの開集合Λ=φ(U)\Lambda=\varphi(U)から開集合UUへのC∞C^\infty微分同相であり、det⁡DΦ>0\det D\Phi>0である。DDの側のチャートはφ∣U∩D\varphi|_{U\cap D}であり、その像はΛ∩Hn\Lambda\cap\mathbb{H}^n(正の型のとき)またはΛ∩H−n\Lambda\cap\mathbb{H}^n_{-}(負の型のとき)である。以下、Hϵn\mathbb{H}^n_{\epsilon}でこの半空間を表す。負の型の場合は§E17.14 補題 2.1のRnR_nを合成して正の型へ移せばよいので、記号を簡単にするためϵ\epsilonを明示したまま議論する。§E17.10 命題 5.4と§E17.10 系 3.6により、(φ−1)∗(w dx1∧⋯∧dxn)(\varphi^{-1})^*\bigl(w\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n\bigr)の成分はh=(w∘Φ) det⁡DΦh=(w\circ\Phi)\,\det D\Phiである。

supp⁡h\operatorname{supp}hはコンパクトでΛ∩Hϵn\Lambda\cap\mathbb{H}^n_{\epsilon}に含まれる。supp⁡h\operatorname{supp}hを含み閉包がΛ\Lambdaに含まれる有限個の開長方形の合併OOを取り、E=O∩(Hϵn∖∂Hn)E=O\cap\bigl(\mathbb{H}^n_{\epsilon}\setminus\partial\mathbb{H}^n\bigr)と置く。∂E⊆∂O∪(O‾∩∂Hn)\partial E\subseteq\partial O\cup\bigl(\overline O\cap\partial\mathbb{H}^n\bigr)であり、前者は有限個の長方形の境界の合併、後者は∂Hn\partial\mathbb{H}^nに含まれるコンパクト集合(補題 1.3)であるから、どちらも Jordan 零集合である。よってEEは有界 Jordan 可測でありE‾⊆Λ\overline E\subseteq\Lambdaである。wwはΦ(E‾)\Phi(\overline E)の近傍で連続であるから§E4.14 定理 2.1を適用して

∫Φ(E)w=∫E(w∘Φ) ∣det⁡DΦ∣=∫Eh\int_{\Phi(E)}w=\int_E(w\circ\Phi)\,\bigl|\det D\Phi\bigr|=\int_Eh

を得る。

∫Eh\int_Ehと∫Λ∩Hϵnh\int_{\Lambda\cap\mathbb{H}^n_{\epsilon}}hは、DDを含む十分大きい閉長方形の上で、それぞれh∣Eh|_Eとh∣Λ∩Hϵnh|_{\Lambda\cap\mathbb{H}^n_{\epsilon}}の零拡張の積分である。二つの零拡張の差が00でない点はO‾∩∂Hn\overline O\cap\partial\mathbb{H}^nに限られ、その集合は Jordan 零集合であるから、上で用意した評価により二つの積分は等しい。同様に、Φ(E)=Φ(O)∩Int⁡D\Phi(E)=\Phi(O)\cap\operatorname{Int}DとU∩DU\cap Dにおけるwwの積分の差も、00でない点がsupp⁡w∩f−1(c)\operatorname{supp}w\cap f^{-1}(c)に限られる関数の積分であり、(1)によりf−1(c)f^{-1}(c)は Jordan 零集合であるから00である。よって

∫Λ∩Hϵnh=∫U∩Dw=∫Dw\int_{\Lambda\cap\mathbb{H}^n_{\epsilon}}h=\int_{U\cap D}w=\int_Dw

である。最後の等号はwwがD∖UD\setminus Uの上で00であることによる。

総和。以上により、いずれのチャートについてもii番目の項は∫DΨλiu\int_D\Psi_{\lambda_i}uに等しい。§E4.10 命題 4.1の線形性とDDの上での∑i=1NΨλi=1\sum_{i=1}^{N}\Psi_{\lambda_i}=1から

∫Du dx1∧⋯∧dxn=∑i=1N∫DΨλiu=∫D∑i=1NΨλiu=∫Du\int_Du\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=\sum_{i=1}^{N}\int_D\Psi_{\lambda_i}u=\int_D\sum_{i=1}^{N}\Psi_{\lambda_i}u=\int_Du

である。▨

5 具体例

例 5.1 (円周の上の積分).S1⊆R2S^1\subseteq\mathbb{R}^2に§E17.14 例 6.8の向き形式

μ=ι∗(ιP(dx∧dy))=ι∗(x dy−y dx)\mu=\iota^*\bigl(\iota_P(dx\wedge dy)\bigr)=\iota^*\bigl(x\,dy-y\,dx\bigr)

と、それが定める向きを与える。∫S1μ=2π\int_{S^1}\mu=2\piである。

γ ⁣:R→S1\gamma\colon\mathbb{R}\to S^1、γ(t)=(cos⁡t,sin⁡t)\gamma(t)=(\cos t,\sin t)と置く。γ∗μ=cos⁡t d(sin⁡t)−sin⁡t d(cos⁡t)=(cos⁡2t+sin⁡2t) dt=dt\gamma^*\mu=\cos t\,d(\sin t)-\sin t\,d(\cos t)=(\cos^2t+\sin^2t)\,dt=dtである。

U1=S1∖{(1,0)}U_1=S^1\setminus\{(1,0)\}、φ1=(γ∣(0,2π))−1\varphi_1=(\gamma|_{(0,2\pi)})^{-1}、U2=S1∖{(−1,0)}U_2=S^1\setminus\{(-1,0)\}、φ2=(γ∣(−π,π))−1\varphi_2=(\gamma|_{(-\pi,\pi)})^{-1}と置く。γ\gammaは(0,2π)(0,2\pi)と(−π,π)(-\pi,\pi)の上で単射であり、像への同相写像であるから、これらはS1S^1のチャートである。(φi−1)∗μ=γ∗μ=dt(\varphi_i^{-1})^*\mu=\gamma^*\mu=dtであるから成分は1>01>0であり、二つとも向きを保つ。U1∪U2=S1U_1\cup U_2=S^1である。

{ψ1,ψ2}\{\psi_1,\psi_2\}をこの被覆に従属する1の分割とし、ui=ψi∘γu_i=\psi_i\circ\gammaと置く。uiu_iはR\mathbb{R}上の2π2\pi周期のC∞C^\infty関数でありu1+u2≡1u_1+u_2\equiv1である。定義により

∫S1μ=∫02πu1(t) dt+∫−ππu2(t) dt\int_{S^1}\mu=\int_{0}^{2\pi}u_1(t)\,dt+\int_{-\pi}^{\pi}u_2(t)\,dt

である。u2u_2は2π2\pi周期であるから∫−ππu2=∫02πu2\int_{-\pi}^{\pi}u_2=\int_0^{2\pi}u_2である。よって

∫S1μ=∫02π(u1(t)+u2(t)) dt=∫02π1 dt=2π\int_{S^1}\mu=\int_0^{2\pi}\bigl(u_1(t)+u_2(t)\bigr)\,dt=\int_0^{2\pi}1\,dt=2\pi

である。反対の向きを与えると命題 2.6 (2)により値は−2π-2\piになる。

この計算にS1S^1の計量は現れない。μ\muはR2\mathbb{R}^2の標準的な最高次形式dx∧dydx\wedge dyと位置ベクトル場PPだけから作られている。

例 5.2 (二次元球面の上の積分).S2⊆R3S^2\subseteq\mathbb{R}^3にμ=ι∗(ιPΩ)\mu=\iota^*(\iota_P\Omega)(Ω=dx∧dy∧dz\Omega=dx\wedge dy\wedge dz、P=x ∂x+y ∂y+z ∂zP=x\,\partial_x+y\,\partial_y+z\,\partial_z)が定める向きを与える。∫S2μ=4π\int_{S^2}\mu=4\piである。

立体射影による成分。φS(x,y,z)=(x,y)/(1+z)\varphi_S(x,y,z)=(x,y)/(1+z)の逆写像は

G(v)=φS−1(v)=1s(2v1, 2v2, 2−s),s=1+∥v∥2G(v)=\varphi_S^{-1}(v)=\frac{1}{s}\bigl(2v^1,\,2v^2,\,2-s\bigr), \qquad s=1+\lVert v\rVert^2

である(∥φS(p)∥2=(1−z)/(1+z)\lVert\varphi_S(p)\rVert^2=(1-z)/(1+z)から確かめられる)。G∗μ=h dv1∧dv2G^*\mu=h\,dv^1\wedge dv^2の成分は

h(v)=Ω(G(v),∂1G(v),∂2G(v))h(v)=\Omega\bigl(G(v),\partial_1G(v),\partial_2G(v)\bigr)

すなわち三つのベクトルを行とする行列式である。a=v1a=v^1、b=v2b=v^2と書くと

G=1s(2a,2b,2−s),∂1G=1s2(2s−4a2, −4ab, −4a),∂2G=1s2(−4ab, 2s−4b2, −4b)G=\frac1s(2a,2b,2-s),\quad \partial_1G=\frac{1}{s^2}\bigl(2s-4a^2,\,-4ab,\,-4a\bigr),\quad \partial_2G=\frac{1}{s^2}\bigl(-4ab,\,2s-4b^2,\,-4b\bigr)

であるから

h=1s5det⁡(2a2b2−s2s−4a2−4ab−4a−4ab2s−4b2−4b)h=\frac{1}{s^5}\det\begin{pmatrix}2a&2b&2-s\\ 2s-4a^2&-4ab&-4a\\ -4ab&2s-4b^2&-4b\end{pmatrix}

である。v=0v=0(s=1s=1)では行列式はdet⁡(001200020)=4\det\begin{pmatrix}0&0&1\\2&0&0\\0&2&0\end{pmatrix}=4でありh=4h=4、v=(1,0)v=(1,0)(s=2s=2)ではdet⁡(20000−4040)=32\det\begin{pmatrix}2&0&0\\0&0&-4\\0&4&0\end{pmatrix}=32でありh=1h=1、v=(1,1)v=(1,1)(s=3s=3)ではdet⁡(22−12−4−4−42−4)=108\det\begin{pmatrix}2&2&-1\\2&-4&-4\\-4&2&-4\end{pmatrix}=108でありh=108/243=4/9h=108/243=4/9である。いずれも

h(v)=4(1+∥v∥2)2h(v)=\frac{4}{\bigl(1+\lVert v\rVert^2\bigr)^{2}}

に一致する。この式が一般に成り立つことは、行列式を展開して整理すると確かめられる。とくにh>0h>0であるからφS\varphi_Sは向きを保つ。

対称性による二つの項の一致。σ(x,y,z)=(x,−y,−z)\sigma(x,y,z)=(x,-y,-z)と置く。σ\sigmaは行列式11の線形写像であるからσ∗Ω=Ω\sigma^*\Omega=\Omegaであり、dσp(Pp)=σ(p)=Pσ(p)d\sigma_p(P_p)=\sigma(p)=P_{\sigma(p)}であるからσ∗(ιPΩ)=ιPΩ\sigma^*(\iota_P\Omega)=\iota_P\Omega、したがってσ∗μ=μ\sigma^*\mu=\muである。またσ(S2)=S2\sigma(S^2)=S^2、σ(N)=S\sigma(N)=Sである(N=(0,0,1)N=(0,0,1)、S=(0,0,−1)S=(0,0,-1))。

r(u1,u2)=(u1,−u2)r(u^1,u^2)=(u^1,-u^2)、φ~N=r∘φN\widetilde\varphi_N=r\circ\varphi_Nと置くと§E17.14 例 6.8により{(UN,φ~N),(US,φS)}\{(U_N,\widetilde\varphi_N),(U_S,\varphi_S)\}の座標変換の Jacobi 行列式は正である。さらに

φS(σ(x,y,z))=(x,−y)1−z=r(φN(x,y,z))=φ~N(x,y,z)\varphi_S(\sigma(x,y,z))=\frac{(x,-y)}{1-z}=r\bigl(\varphi_N(x,y,z)\bigr)=\widetilde\varphi_N(x,y,z)

であるからφS∘σ=φ~N\varphi_S\circ\sigma=\widetilde\varphi_N、すなわちφ~N−1=σ∘φS−1\widetilde\varphi_N^{-1}=\sigma\circ\varphi_S^{-1}である(σ−1=σ\sigma^{-1}=\sigma)。とくにφ~N\widetilde\varphi_Nも向きを保つ。

0<δ<10<\delta<1を取り、§E17.2 補題 1.2の関数をρ\rhoと書く。g ⁣:[−1,1]→[0,1]g\colon[-1,1]\to[0,1]を

g(t)=ρ(1−δ−t2(1−δ))g(t)=\rho\left(\frac{1-\delta-t}{2(1-\delta)}\right)

と定める。ggはC∞C^\infty関数であり、t≥1−δt\ge 1-\deltaでg=0g=0、t≤−1+δt\le-1+\deltaでg=1g=1である。また§E17.2 補題 1.2の定義式からρ(u)+ρ(1−u)=1\rho(u)+\rho(1-u)=1であるため、g(t)+g(−t)=1g(t)+g(-t)=1が成り立つ。ψN(x,y,z)=g(z)\psi_N(x,y,z)=g(z)、ψS=1−ψN\psi_S=1-\psi_Nと置くと、supp⁡ψN⊆{z≤1−δ}⊆UN\operatorname{supp}\psi_N\subseteq\{z\le1-\delta\}\subseteq U_N、supp⁡ψS⊆{z≥−1+δ}⊆US\operatorname{supp}\psi_S\subseteq\{z\ge-1+\delta\}\subseteq U_Sであり、{ψN,ψS}\{\psi_N,\psi_S\}は被覆{UN,US}\{U_N,U_S\}に従属する1の分割である。ψN∘σ(x,y,z)=g(−z)=1−g(z)=ψS\psi_N\circ\sigma(x,y,z)=g(-z)=1-g(z)=\psi_Sである。

定義により

∫S2μ=∫R2((φ~N−1)∗(ψNμ)) の成分+∫R2((φS−1)∗(ψSμ)) の成分\int_{S^2}\mu=\int_{\mathbb{R}^2}\bigl((\widetilde\varphi_N^{-1})^*(\psi_N\mu)\bigr)\text{ の成分} +\int_{\mathbb{R}^2}\bigl((\varphi_S^{-1})^*(\psi_S\mu)\bigr)\text{ の成分}

である。第一項について、φ~N−1=σ∘φS−1\widetilde\varphi_N^{-1}=\sigma\circ\varphi_S^{-1}と§E17.10 命題 5.2により

(φ~N−1)∗(ψNμ)=(φS−1)∗σ∗(ψNμ)=(φS−1)∗((ψN∘σ) σ∗μ)=(φS−1)∗(ψSμ)(\widetilde\varphi_N^{-1})^*(\psi_N\mu)=(\varphi_S^{-1})^*\sigma^*(\psi_N\mu) =(\varphi_S^{-1})^*\bigl((\psi_N\circ\sigma)\,\sigma^*\mu\bigr)=(\varphi_S^{-1})^*(\psi_S\mu)

である。よって二つの項は等しい。

値の計算。ψS∘φS−1(v)=1−g(z)\psi_S\circ\varphi_S^{-1}(v)=1-g(z)、z=(2−s)/s=(1−∥v∥2)/(1+∥v∥2)z=(2-s)/s=(1-\lVert v\rVert^2)/(1+\lVert v\rVert^2)であるから、g(t)+g(−t)=1g(t)+g(-t)=1により1−g(z)=g(−z)1-g(z)=g(-z)である。したがって

∫S2μ=2∫R2g(∥v∥2−1∥v∥2+1)4(1+∥v∥2)2 dv\int_{S^2}\mu=2\int_{\mathbb{R}^2}g\Bigl(\frac{\lVert v\rVert^2-1}{\lVert v\rVert^2+1}\Bigr)\frac{4}{\bigl(1+\lVert v\rVert^2\bigr)^2}\,dv

である。被積分関数は∥v∥\lVert v\rVertが大きいところで00である(z→−1z\to-1すなわち−z→1-z\to1でg(−z)=0g(-z)=0となる)から、十分大きいRRを取ると積分は閉円板BR(0)‾\overline{B_R(0)}の上のものである。§E4.14 命題 3.1により

∫S2μ=2∫02π ⁣ ⁣∫0Rg(r2−1r2+1)4r(1+r2)2 dr dθ=4π∫0Rg(r2−1r2+1)4r(1+r2)2 dr\int_{S^2}\mu=2\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{R}g\Bigl(\frac{r^2-1}{r^2+1}\Bigr)\frac{4r}{(1+r^2)^2}\,dr\,d\theta =4\pi\int_0^{R}g\Bigl(\frac{r^2-1}{r^2+1}\Bigr)\frac{4r}{(1+r^2)^2}\,dr

である。t=(r2−1)/(r2+1)t=(r^2-1)/(r^2+1)と置換すると

dtdr=2r(r2+1)−(r2−1)⋅2r(r2+1)2=4r(1+r2)2\frac{dt}{dr}=\frac{2r(r^2+1)-(r^2-1)\cdot 2r}{(r^2+1)^2}=\frac{4r}{(1+r^2)^2}

であるから、r=0r=0がt=−1t=-1、r=Rr=Rがt=(R2−1)/(R2+1)t=(R^2-1)/(R^2+1)に対応し、RRを大きく取るとggの台の外まで届くので

∫S2μ=4π∫−11g(t) dt=4π∫−11g(t)+g(−t)2 dt=4π∫−1112 dt=4π\int_{S^2}\mu=4\pi\int_{-1}^{1}g(t)\,dt=4\pi\int_{-1}^{1}\frac{g(t)+g(-t)}{2}\,dt=4\pi\int_{-1}^{1}\frac12\,dt=4\pi

である。ここで二番目の等号はt↦−tt\mapsto-tの置換による。

この計算にもS2S^2の計量は現れない。値4π4\piは標準内積から得られる球面積と一致するが、それは曲面積を表す22形式がμ\muに一致するからであり、本記事はその一致を用いていない。

6 演習

問題 6.1.

  1. 定理 1.5の証明で、DDがHn\mathbb{H}^nの相対開集合である場合に切断cεc_\varepsilonを導入した。§E4.14 定理 2.1の仮定のうち、cεc_\varepsilonを掛けなければ満たされないものを特定する。
  2. 定理 1.5の第三段では補題 1.4を用いた。第二段のように長方形の体積で直接評価することができない理由を、τ(Aε)\tau(A_\varepsilon)の形に即して述べる。
  3. 命題 2.4の証明で、ψαω=∑β∈B0σβψαω\psi_\alpha\omega=\sum_{\beta\in B_0}\sigma_\beta\psi_\alpha\omegaがMMの全体で成り立つことを確かめた。この等式がKαK_\alphaの外でも成り立つ理由と、B0B_0が有限集合であることが必要になる箇所を述べる。
  4. 補題 2.5の証明で、二つのチャートがともに向きを保つという仮定を落とすと、det⁡Dτ=∣det⁡Dτ∣\det D\tau=|\det D\tau|が成り立たなくなる。n=1n=1、M=RM=\mathbb{R}、τ(x)=−x\tau(x)=-xの場合に両辺を計算し、符号がどう食い違うかを確かめる。
  5. 注意 3.1の例で、ω=dx\omega=dxの代わりにω=x dx\omega=x\,dxを取り、二つのチャートで積分を計算して値が一致することを確かめる。
  6. 定理 4.2 (1)の証明で、§E4.14 補題 1.1を適用するために閉球へ制限した。補題 4.1の凸性の仮定を落とすと、Lipschitz 評価のどの段階が破れるかを述べる。
  7. 例 5.1の計算で、u2u_2の周期性を用いて積分区間を(−π,π)(-\pi,\pi)から(0,2π)(0,2\pi)へ移した。u2u_2が2π2\pi周期であることがψ2\psi_2がS1S^1の上の関数であることから従う理由を述べる。
  8. 例 5.2で、1の分割を対称性を持つように選んだ。対称でない1の分割を取ると二つの項が等しくならないが、総和は変わらない。その理由を命題 2.4に即して述べる。
  9. 命題 2.6 (4)を用いて、向きを反転する微分同相に対して∫NF∗ω=−∫Mω\int_NF^*\omega=-\int_M\omegaとなることを導く。

7 境界と次

本記事は台がコンパクトな最高次形式だけを積分した。台がコンパクトでない場合には、広義積分としての収束を別に議論する必要がある。その扱いは Lebesgue 積分の枠組みで行うのが自然であり、本単元は立ち入らない。

向きづけ可能でない多様体の上では、最高次形式の積分を定めることができない。密度と呼ばれる別の対象を積分する枠組みがあるが、本単元は扱わない。

局所モデルとしてHn\mathbb{H}^nとH−n\mathbb{H}^n_{-}の両方を許したのは、n=1n=1で境界を持つ場合に向きを保つチャートによる被覆を確保するためである(§E17.14 注意 6.5)。Hn\mathbb{H}^nだけに限ると、M=[0,1]M=[0,1]のような多様体で定義 2.2の右辺を作ることができない。

定理 4.2は、Rn\mathbb{R}^nの正則な劣位集合という形の領域についてだけ述べた。区分的に滑らかな境界を持つ一般の領域については、稜と頂点の近傍でHn\mathbb{H}^nの相対開集合と微分同相にならないので、本単元の枠組みの外にある。「実解析 II」の Green の定理と発散定理は、そのような領域に対して直接証明されている。

次の記事は、∫Mdω=∫∂Mω\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omegaという形で、内部での積分と境界での積分を結ぶ。境界の向きは§E17.14 定義 8.4の規約で定め、その規約が符号を決めることを追跡する。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.向きを保つチャートと1の分割による多様体上の積分の定義、およびその値がとり方に依らないことの証明の構成を参考にした。
  2. Michael Spivak, Calculus on Manifolds: A Modern Approach to Classical Theorems of Advanced Calculus, CRC Press, 2018, originally published 1965.積分の対象が関数ではなく最高次形式である理由と、変数変換の Jacobi 行列式の絶対値との対応を参考にした。
  3. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.向きづけられた多様体上の積分の構成を参考にした。

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