1 de Rham 複体とコホモロジー
定義 1.1.Mをn次元C∞多様体とする。外微分を写像とする列
0⟶Ω0(M) d Ω1(M) d ⋯ d Ωn(M)⟶0をMの de Rham 複体 (de Rham complex) という。各Ωk(M)はR線形空間であり、dはR線形写像であり(§E17.11 定義 2.1 条件 (a))、隣り合う二つの合成は0である(§E17.11 命題 2.5)。k>nに対してはΩk(M)={0}である(dimAltk(TpM)=(kn)=0による。§E17.10 定理 1.4と§E3.14 定理 2.1)。
定義 1.2.MをC∞多様体、kを整数とする。
Zk(M)=ker(d:Ωk(M)→Ωk+1(M)),Bk(M)=im(d:Ωk−1(M)→Ωk(M))と置く。Zk(M)は閉k形式の全体、Bk(M)は完全k形式の全体である(§E17.11 定義 5.1)。§E17.11 命題 5.2によりBk(M)⊆Zk(M)であるから商線形空間
HdRk(M)=Zk(M)/Bk(M)が定まる。これをMの第kde Rham コホモロジー (de Rham cohomology) という。ω∈Zk(M)の属する類を[ω]と書く。
命題 1.3.Mをn次元C∞多様体とする。k<0またはk>nに対してHdRk(M)=0である。またB0(M)={0}であるからHdR0(M)=Z0(M)である。
証明.k<0またはk>nではΩk(M)={0}であるからZk(M)={0}である。k=0ではΩ−1(M)={0}であるからB0(M)={0}である。▨
命題 1.4.Mを連結なC∞多様体とするとHdR0(M)≅Rである。同型は、実数cに定数関数cの類を対応させる写像で与えられる。
証明.命題 1.3によりHdR0(M)=Z0(M)={f∈C∞(M)∣df=0}である。
f∈C∞(M)について、df=0であることとfが局所定数であることは同値である。実際、チャート(U,φ=(x1,…,xn))の上でdf=∑i=1n(∂f/∂xi)dxiであるから(§E17.11 命題 1.1)、df=0はすべての偏導関数が消えることと同値であり、φ(U)の連結な開部分集合の上でそれはf∘φ−1が定数であることと同値である。各点は連結な座標近傍(座標球)を持つので、df=0ならばfは局所定数である。逆も明らかである。
Mを連結とし、df=0とする。p0∈Mを固定しS={p∈M∣f(p)=f(p0)}と置く。fは局所定数であるからSは開集合であり、またfは連続であるからSは閉集合である。p0∈SであるからS=∅であり、§E2.43 命題 1.3によりS=Mである。よってfは定数である。逆に定数関数はdf=0を満たす。したがってZ0(M)は定数関数の全体であり、c↦(定数関数 c)はRからの線形同型である。▨
系 1.5.Mが相異なる連結成分M1,…,Mmを持つC∞多様体であるときHdR0(M)≅Rmである。
証明. 多様体の各点は連結な座標近傍を持つので、連結成分は開集合であり、したがって閉集合でもある。Z0(M)の元は上の証明により局所定数であるから、各Mjの上で定数である。逆に各成分の上で定数である関数はC∞でありdf=0を満たす。よってf↦(f∣M1,…,f∣Mm)はZ0(M)からRmへの線形同型である。▨
2 関手性
定理 2.1.F:M→NをC∞写像とする。
- F∗(Zk(N))⊆Zk(M)かつF∗(Bk(N))⊆Bk(M)である。したがって
F∗:HdRk(N)⟶HdRk(M),F∗[ω]=[F∗ω]
が well-defined なR線形写像として定まる。
- C∞写像G:N→Pに対して(G∘F)∗=F∗∘G∗がHdRkの上で成り立つ。
- (idM)∗=idである。
- Fが微分同相ならばF∗:HdRk(N)→HdRk(M)は線形同型である。
証明.(1)を示す。ω∈Zk(N)とすると§E17.11 命題 3.1によりd(F∗ω)=F∗(dω)=0であるからF∗ω∈Zk(M)である。ω=dηとするとF∗ω=F∗(dη)=d(F∗η)であるからF∗ω∈Bk(M)である。よってF∗は商の間の写像を誘導する。線形性はF∗の線形性(§E17.10 命題 5.2)による。
2、(3)を示す。§E17.10 命題 5.2の(G∘F)∗=F∗∘G∗と(idM)∗=idを、閉形式の代表元へ適用すればよい。
(4)を示す。F−1もC∞写像であるから、(2)と(3)によりF∗∘(F−1)∗=(F−1∘F)∗=idおよび(F−1)∗∘F∗=idである。▨
3 滑らかなホモトピー
定義 3.1.F,G:M→NをC∞写像とする。FとGが滑らかにホモトピック (smoothly homotopic maps) であるとは、C∞写像H:M×R→Nであって
H(p,0)=F(p),H(p,1)=G(p)(p∈M)を満たすものが存在することをいい、F≃Gと書く。Hを滑らかなホモトピー (smooth homotopy) という。
区間ではなく直線を用いる。M×[0,1]を取ると角を持つ多様体が現れ、本単元の枠組みの外へ出る。M×Rを用いても、以下の議論はt∈[0,1]の情報しか使わないので、内容は変わらない。
命題 3.2.MからNへのC∞写像の全体において、≃は同値関係である。
証明. 反射律。H(p,t)=F(p)と置けばよい。
対称律。HがFからGへの滑らかなホモトピーならばH(p,t)=H(p,1−t)はGからFへのものである。
推移律。§E17.2 補題 1.2の関数をρと書き、ρ0(t)=ρ(3t−1)と置く。ρ0はC∞であり、t≤1/3で0、t≥2/3で1、値域は[0,1]である。F≃Gを与えるH1とG≃Kを与えるH2に対し
H1′(p,t)=H1(p,ρ0(t)),H2′(p,t)=H2(p,ρ0(t))と置く。H1′はt≤1/3でF、t≥2/3でGに等しく、H2′はt≤1/3でG、t≥2/3でKに等しい。
H(p,t)={H1′(p,2t)H2′(p,2t−1)(t<2/3),(t>1/3)と定める。二つの開集合M×(−∞,2/3)とM×(1/3,∞)はM×Rを覆い、共通部分1/3<t<2/3では2t>2/3かつ2t−1<1/3であるから、どちらの式もG(p)を与える。よってHは well-defined なC∞写像であり、H(p,0)=H1′(p,0)=F(p)、H(p,1)=H2′(p,1)=K(p)である。▨
定理 3.3.M、Nを境界を持たないC∞多様体、F,G:M→Nを滑らかにホモトピックなC∞写像とする。このとき、すべての整数kについて
F∗=G∗:HdRk(N)⟶HdRk(M)が成り立つ。
証明.H:M×R→Nを滑らかなホモトピーとし、is:M→M×R、is(p)=(p,s)と置く。H∘i0=F、H∘i1=Gである。
ω∈Zk(N)を取る。H∗ω∈Ωk(M×R)であり、Mは境界を持たないので§E17.12 定理 4.4を適用することができる。Kをその鎖ホモトピー作用素とすると
i1∗(H∗ω)−i0∗(H∗ω)=K(d(H∗ω))+d(K(H∗ω))である。§E17.10 命題 5.2によりi1∗(H∗ω)=(H∘i1)∗ω=G∗ω、i0∗(H∗ω)=F∗ωである。また§E17.11 命題 3.1によりd(H∗ω)=H∗(dω)=0であるからK(d(H∗ω))=0である。したがって
G∗ω−F∗ω=d(K(H∗ω))∈Bk(M)である。よって[G∗ω]=[F∗ω]、すなわちG∗[ω]=F∗[ω]である。ωは任意であったからF∗=G∗である。▨
定義 3.4.C∞写像F:M→Nが滑らかなホモトピー同値 (smooth homotopy equivalence) であるとは、C∞写像G:N→MであってG∘F≃idMかつF∘G≃idNを満たすものが存在することをいう。このようなFが存在するとき、MとNは滑らかにホモトピー同値 (smoothly homotopy equivalent) であるという。
系 3.5.F:M→Nが滑らかなホモトピー同値ならば、F∗:HdRk(N)→HdRk(M)はすべてのkについて線形同型である。
証明.Gを定義 3.4の写像とする。定理 2.1と定理 3.3により
F∗∘G∗=(G∘F)∗=(idM)∗=id,G∗∘F∗=(F∘G)∗=(idN)∗=idである。▨
4 可縮な多様体と星型開集合
定義 4.1.C∞多様体Mが滑らかに可縮 (smoothly contractible) であるとは、idMが定数写像と滑らかにホモトピックであることをいう。
定理 4.2.Mを滑らかに可縮なC∞多様体とする。このときMは連結であり、
HdR0(M)≅R,HdRk(M)=0(k≥1)が成り立つ。
証明.idMと滑らかにホモトピックな定数写像をκと書き、その値をq0∈Mと置く。H:M×R→MをidM≃κを与える滑らかなホモトピーとする。
連結性。p∈Mに対してt↦H(p,t)はRからMへの連続写像であり、t=0でp、t=1でq0である。したがってMの任意の点はq0と道で結ばれるのでMは弧状連結であり、§E2.43 命題 4.2により連結である。
k≥1の場合。k≥1とω∈Ωk(M)に対してκ∗ω=0である。実際、κは定数写像であるからdκp=0であり、§E17.10 定義 5.1の定義式の引数がすべて0になる。したがってκ∗=0がHdRk(M)→HdRk(M)の上で成り立つ。一方定理 3.3によりκ∗=(idM)∗=idである。よってHdRk(M)の恒等写像は零写像であり、HdRk(M)=0である。
k=0の場合。Mは連結であるから命題 1.4による。▨
定理 4.3.U⊆Rnを点c∈Uに関して星型な開集合とすると
HdR0(U)≅R,HdRk(U)=0(k≥1)が成り立つ。とくにHdRk(Rn)はk=0でR、k≥1で0である。
証明.UはRnの開集合であるから境界を持たないC∞多様体である(§E17.1 命題 7.1)。
k≥1とする。§E17.12 定理 5.1によりUの上の閉k形式は完全形式であるからZk(U)=Bk(U)であり、HdRk(U)=0である。
k=0とする。Uは星型であるから、任意のx∈Uに対して線分t↦c+t(x−c)(t∈[0,1])がUに含まれ、xとcを結ぶ道を与える。よってUは弧状連結であり、§E2.43 命題 4.2により連結であるから命題 1.4を適用することができる。
Rnはどの点に関しても星型である。▨
同じ結論は定理 4.2からも得られる。実際、§E17.12 定理 5.1の証明で用いたH(x,t)=c+ρ(t)(x−c)はidUと定数写像κcの間の滑らかなホモトピーであるから、Uは滑らかに可縮である。二つの導き方のうち、上の証明は§E17.12 定理 5.1を商の言葉へ翻訳しただけであり、原始形式の明示公式(§E17.12 命題 5.2)をそのまま使うことができる点で具体的である。
5 二つのホモトピー同値
次の二つは、球面と円環面のコホモロジーを Mayer–Vietoris 完全列で計算するときに用いる。
命題 5.2.n≥1とする。包含写像ι:Sn−1→Rn∖{0}は滑らかなホモトピー同値である。したがって、すべてのkについてHdRk(Rn∖{0})≅HdRk(Sn−1)である。
証明.r:Rn∖{0}→Sn−1、r(x)=x/∥x∥と置く。∥x∥はRn∖{0}の上でC∞かつ正であるからrはC∞写像であり、値はSn−1に属する。ιはC∞写像である。
r∘ι=idSn−1である(x∈Sn−1では∥x∥=1)。
ι∘r≃idを示す。§E17.2 補題 1.2の関数をρと書き、
H:(Rn∖{0})×R→Rn∖{0},H(x,t)=(1−ρ(t))+ρ(t)∥x∥xと定める。分母は1−ρ(t)とρ(t)∥x∥の和であり、ρ(t)∈[0,1]かつ∥x∥>0であるから正である(ρ(t)=0ならば分母は1、ρ(t)>0ならばρ(t)∥x∥>0)。したがってHはC∞写像であり、値は0でない。ρ(0)=0からH(x,0)=x、ρ(1)=1からH(x,1)=x/∥x∥=ι(r(x))である。
よってιは滑らかなホモトピー同値であり、系 3.5によりι∗は同型である。▨
命題 5.3.Mを境界を持たないC∞多様体、J⊆Rを空でない開区間とする。射影π:M×J→Mは滑らかなホモトピー同値である。したがってHdRk(M×J)≅HdRk(M)である。
証明. まずJ=Rの場合を示す。s0=0としi0:M→M×R、i0(p)=(p,0)と置く。π∘i0=idMである。i0∘π≃idM×Rを示す。
H((p,s),t)=(p, (1−ρ(t))s)と定めると、HはC∞写像であり、t=0では(p,s)、t=1では(p,0)=i0(π(p,s))である。よってπは滑らかなホモトピー同値である。
一般の開区間J=(a,b)(−∞≤a<b≤∞)については、JからRへのC∞微分同相が存在する。有界な場合はu↦tan(π(2u−a−b)/(2(b−a)))を用いる。右端だけが無限の場合は平行移動で(0,∞)へ移してu↦loguを合成し、左端だけが無限の場合は、先に反転u↦−uを施して右端だけが無限の場合へ帰着させる。両側が無限の場合は恒等写像を取ればよい。この微分同相と恒等写像の積はM×JからM×Rへの微分同相であり、πと可換であるから、定理 2.1 (4)と合わせて主張を得る。▨
6 具体例
例 6.1 (凸開集合と穴のある平面).Rnの空でない凸開集合Uは、どの点に関しても星型であるから定理 4.3によりHdR0(U)≅R、HdRk(U)=0(k≥1)である。開球と開直方体はこの形である。
一方U=R2∖{(0,0)}についてはHdR1(U)=0である。実際、§E17.11 例 5.3の1形式
ω=x2+y2−ydx+xdyは閉形式であるが完全形式ではないので、[ω]=0である。Uは連結であるからHdR0(U)≅Rである。またUは2次元であるからHdRk(U)=0(k≥3)である。HdR1(U)とHdR2(U)の完全な決定は「Mayer–Vietoris と計算例」で行う。
この二つを比べると、閉形式が完全形式であるかどうかが定義域の形に依存するという§E17.12 注意 5.6の観察が、コホモロジーが0であるかどうかという形に言い換えられていることが分かる。
例 6.2 (微分同相でない多様体の区別).定理 2.1 (4)により、微分同相な二つの多様体は同型なコホモロジーを持つ。対偶を取ると、コホモロジーが同型でない二つの多様体は微分同相でない。たとえばR2とR2∖{(0,0)}は、前者がHdR1=0(定理 4.3)、後者がHdR1=0(例 6.1)であるから微分同相でない。
さらに系 3.5により、滑らかにホモトピー同値な二つの多様体も同型なコホモロジーを持つ。したがって de Rham コホモロジーは微分同相の不変量であるだけでなく、滑らかなホモトピー同値の不変量でもある。次元が異なる多様体が滑らかにホモトピー同値になることがある(命題 5.2)ので、この不変量は次元を見分けない。
7 演習
問題 7.1.
- 命題 1.4の証明で、df=0からfが局所定数であることを導く段では、座標近傍を連結に取った。連結でない座標近傍を取ると議論のどこが止まるかを述べる。
- 定理 2.1 (1)で、F∗が閉形式を閉形式へ、完全形式を完全形式へ写すことを示した。二つのうち一方だけでは商の間の写像が定まらない。それぞれが何を保証しているのかを述べる。
- 命題 3.2の推移律の証明で、ρ0を挟まずにH1とH2をそのままつなぐと、t=1/2で滑らかさが失われることがある。M=N=R、H1(p,t)=p+t、H2(p,t)=p+1+t2の場合に、つなぎ目での一階微分を計算して確かめる。
- 定理 3.3の証明で、K(d(H∗ω))=0を用いた。ωが閉形式であるという仮定を落とすと、この項が残る。残る項が何を表すかを、k=0の場合に§E17.12 定理 4.4の式から書き下す。
- 定理 4.2の証明で、κ∗=0(k≥1)とκ∗=idという二つの事実を組み合わせた。k=0でこの議論を行うと何が起こるかを述べ、k=0を別に扱った理由を説明する。
- 定理 4.3を定理 4.2から導く道筋を書き下し、§E17.12 定理 5.1を用いる道筋との違いを、原始形式が具体的に得られるかどうかという観点で述べる。
- 命題 5.2のHの分母が正であることを、ρ(t)=0の場合とρ(t)>0の場合に分けて確かめた。ρの値域が[0,1]に含まれることをどこで使ったかを特定する。
- 命題 5.3を用いて、HdRk(S1×R)≅HdRk(S1)を導く。さらにS1×RとR2∖{0}が滑らかにホモトピー同値であることを、命題 5.2と合わせて述べる。
8 境界と次
本記事はホモトピーを滑らかなものに限った。位相空間としてホモトピー同値であるが滑らかなホモトピー同値を直接には与えられない場合もある。連続なホモトピーを滑らかなホモトピーへ近似することができるという定理があり、それを用いると滑らかさの仮定を外すことができるが、その証明は本単元の範囲を超えるので用いない。本記事の主張はすべて滑らかなホモトピーの言葉で述べてある。
de Rham コホモロジーが位相不変量であること、すなわち特異コホモロジーと同型であることを述べるのが de Rham の定理である。特異ホモロジー、基本群および de Rham の定理は「位相幾何入門」が扱う。
本記事ではH0と、可縮な場合および星型開集合の場合しか計算していない。球面と円環面のように可縮でない多様体のコホモロジーを計算するには、多様体を二つの開集合へ分けて、それぞれのコホモロジーと共通部分のコホモロジーから元の多様体のコホモロジーを復元する道具が要る。それが Mayer–Vietoris 完全列であり、「Mayer–Vietoris と計算例」が扱う。同じ記事で、コンパクトで向きづけられた境界のない連結多様体の最高次コホモロジーが消えないことを、Stokes の定理から導く。
コホモロジーには外積から誘導される積が入り、次数付き環になる。この構造は本単元では用いないので扱わない。