1 左不変ベクトル場の完備性
補題 1.1.v∈g、g∈Gとし、γ:J→GをXvの積分曲線(§E17.6 定義 1.1)とする。このときLg∘γ:J→GもまたXvの積分曲線であり、そのt=0における値はgγ(0)である。
証明.§E17.19 命題 3.1によりLgはC∞であるから、Lg∘γはC∞写像の合成としてC∞である。t∈Jに対して、速度ベクトルの定義(§E17.6 定義 1.1)と連鎖律(§E17.3 定理 5.3)により
(Lg∘γ)′(t)=d(Lg∘γ)t(dsdt)=d(Lg)γ(t)(dγt(dsdt))=d(Lg)γ(t)(γ′(t))である。γはXvの積分曲線であるからγ′(t)=(Xv)γ(t)であり、Xvは左不変である(§E17.20 定義 1.1)から
d(Lg)γ(t)((Xv)γ(t))=(Xv)gγ(t)=(Xv)(Lg∘γ)(t)である。よってLg∘γはXvの積分曲線である。t=0における値はLg(γ(0))=gγ(0)である。▨
証明.補題 1.1によりLg∘γh:Jh→GはXvの積分曲線であり、0∈Jhでその値はghである。§E17.6 定理 1.4の最大性によりJh⊆Jghであり、γgh∣Jh=Lg∘γhである。
この包含を、gをg−1に、hをghに取り替えて適用するとJgh⊆Jg−1(gh)=Jhである。よってJgh=Jhであり、上の等式がJhの全体で成り立つ。
h=eと取ると、γeの始点はeでありge=gであるからJg=Jeである。▨
命題 1.2は、存在区間が初期点に依らないことを述べている。この一様性が完備性の証明の中心である。以下の証明は、Jeの右端が有限であると仮定して、その右端を越える積分曲線を実際に構成する。構成に用いるのは、Jeが0を含む開区間であること(§E17.6 定理 7.1 (1))、最大積分曲線の一意性(§E17.6 定理 1.4)、および群法則にあたる積分曲線の平行移動の三つだけである。台のコンパクト性は用いない。
定理 1.3.Gを Lie 群とする。すべてのv∈gに対して、左不変ベクトル場Xvは完備である(§E17.6 定義 8.1)。すなわち、すべてのp∈Gに対してJp=Rである。
証明.命題 1.2により、すべてのp∈GでJp=Jeである。したがってJe=Rを示せば足りる。Je=(α,β)と書く(§E17.6 定理 7.1 (1)によりJeは0を含む開区間である)。
β=∞を示す。β<∞と仮定する。Jeは0を含む開区間であるから、0<ε≤βを満たすεで(−ε,ε)⊆Jeとなるものを取ることができる。
t0=β−2εと置く。ε≤βであるからt0≥ε/2>0であり、t0<βであるからt0∈Jeである。q=γe(t0)と置く。
γqの定義域を調べる。ρ(s)=γe(t0+s)と定めると、ρはs∈Je−t0で定義され、
ρ′(s)=γe′(t0+s)=(Xv)γe(t0+s)=(Xv)ρ(s)を満たすからXvの積分曲線であり、ρ(0)=γe(t0)=qである。§E17.6 定理 1.4の最大性により
Je−t0⊆Jq,γq∣Je−t0=ρである。一方命題 1.2によりJq=Jeであるから、(−ε,ε)⊆Jqである。
eを始点とする積分曲線を延長する。σ(t)=γq(t−t0)と定める。σはt∈t0+Jqで定義され、上と同じ計算によりXvの積分曲線である。0∈Jeであるから−t0∈Je−t0⊆Jqであり、
σ(0)=γq(−t0)=ρ(−t0)=γe(t0−t0)=γe(0)=eである。よってσはeを始点とするXvの積分曲線である。§E17.6 定理 1.4の最大性により
t0+Jq⊆Jeである。
矛盾を導く。(−ε,ε)⊆Jqであるから
t0+(−ε,ε)=(β−23ε, β+2ε)⊆Jeである。とくにβ+ε/4∈Jeであるが、β=supJeであるからこれは不可能である。よってβ=∞である。
α=−∞を示す。Xvの代わりにX−v=−Xvを考える。−v∈gであり、γがXvの積分曲線であることとt↦γ(−t)がX−vの積分曲線であることは同値である。実際、γ~(t)=γ(−t)と置くとγ~′(t)=−γ′(−t)=−(Xv)γ(−t)=(X−v)γ~(t)である。したがってX−vに対するJeはXvに対するJeの符号を反転したものであり、いま示したことをX−vへ適用すると−α=∞、すなわちα=−∞を得る。
よってJe=Rであり、Xvは完備である。▨
2 1パラメータ部分群
定義 2.1.Gを Lie 群とする。C∞写像γ:R→GがGの 1パラメータ部分群 (one-parameter subgroup) であるとは、すべてのs,t∈Rに対して
γ(s+t)=γ(s)γ(t)が成り立つことをいう。ここでRには加法による群の構造と§E17.1 例 2.4の可微分構造を与える。すなわち、1パラメータ部分群とはRからGへのC∞群準同型である。
γが1パラメータ部分群ならばγ(0)=γ(0+0)=γ(0)γ(0)であり、両辺にγ(0)−1を右から掛けてe=γ(0)を得る。またγ(t)γ(−t)=γ(0)=eであるからγ(t)−1=γ(−t)である。
定理 2.2.Gを Lie 群とする。Gの1パラメータ部分群の全体をP(G)と書き、写像
Δ:P(G)⟶TeG,Δ(γ)=γ′(0)を考える。Δは全単射である。v∈TeGに対応する1パラメータ部分群は、左不変ベクトル場Xvのeを始点とする最大積分曲線γv:R→Gである。
証明の骨子は次のとおりである。全射性については、Xvが定理 1.3により完備であるからγvがRの全体で定義されることを用い、準同型であることを補題 1.1と最大積分曲線の一意性から導く。単射性については、1パラメータ部分群γがγ′(0)に対応する左不変ベクトル場の積分曲線であることを、準同型の性質をsについて微分することによって示す。
証明. Δが全射であること。v∈TeGを取る。§E17.20 定理 1.2により左不変ベクトル場Xvが定まり、定理 1.3によりそれは完備である。よってeを始点とする最大積分曲線γv:R→Gが定まり、γv(0)=e、(γv)′(0)=(Xv)e=vである。
γvが準同型であることを示す。s∈Rを固定し、
c1(t)=γv(s+t),c2(t)=γv(s)γv(t)と定める。c1はγvの時刻を平行移動したものであり、c1′(t)=(γv)′(s+t)=(Xv)γv(s+t)=(Xv)c1(t)であるからXvの積分曲線である。c2=Lγv(s)∘γvであるから、補題 1.1によりc2もXvの積分曲線である。c1(0)=γv(s)=c2(0)であるから、二つは同じ点を始点とする積分曲線であり、いずれもRの全体で定義される。§E17.6 定理 1.4の一意性によりc1=c2である。sは任意であったからγvは準同型である。γvはC∞であるから(§E17.6 定理 1.4)、γv∈P(G)でありΔ(γv)=vである。
Δが単射であること。γ∈P(G)としv=γ′(0)と置く。γがXvの積分曲線であることを示す。t∈Rを固定する。γ(t+s)=γ(t)γ(s)=Lγ(t)(γ(s))であるから、sの関数として両辺は等しい。左辺のs=0における速度ベクトルはγ′(t)である。右辺はLγ(t)∘γであり、そのs=0における速度ベクトルは、§E17.3 定理 5.3により
d(Lγ(t))γ(0)(γ′(0))=d(Lγ(t))e(v)=(Xv)γ(t)である。最後の等号は§E17.20 定理 1.2による。よってγ′(t)=(Xv)γ(t)であり、γはXvの積分曲線である。γ(0)=eであり、定義域はRの全体であるから、§E17.6 定理 1.4によりγ=γvである。
したがってΔ(γ1)=Δ(γ2)=vならばγ1=γv=γ2である。▨
系 2.3.v∈g、s∈Rとすると、すべてのt∈Rに対して
γsv(t)=γv(st)が成り立つ。
証明.c(t)=γv(st)と置く。cはC∞であり、
c(t1+t2)=γv(st1+st2)=γv(st1)γv(st2)=c(t1)c(t2)であるからc∈P(G)である。連鎖律によりc′(0)=s(γv)′(0)=svである。定理 2.2の単射性によりc=γsvである。▨
3 指数写像
定義 3.1.Gを Lie 群、gをその Lie 環とする。指数写像 (exponential map)exp:g→Gを
exp(v)=γv(1)で定める。ここでγvは定理 2.2がvに対応させる1パラメータ部分群である。gは有限次元実ベクトル空間であり、§E17.1 例 2.4によってC∞多様体と見る。
命題 3.2.v∈g、s,t∈Rとする。
- exp(tv)=γv(t)である。とくにexp(0)=eである。
- exp((s+t)v)=exp(sv)exp(tv)であり、exp(−v)=exp(v)−1である。
- t↦exp(tv)はvに対応する1パラメータ部分群であり、そのt=0における速度ベクトルはvである。
証明.(1)は系 2.3をsをt、tを1として適用するとγtv(1)=γv(t)となることによる。exp(0)=γ0(1)であり、0∈gに対応する左不変ベクトル場は恒等的に0であるから、その積分曲線は定数写像t↦eである。よってexp(0)=eである。
(2)は(1)とγvが準同型であることから従う。exp((s+t)v)=γv(s+t)=γv(s)γv(t)=exp(sv)exp(tv)である。s=1、t=−1と取るとexp(v)exp(−v)=exp(0)=eである。
(3)は(1)によりt↦exp(tv)がγvに等しいことによる。(γv)′(0)=vである。▨
指数写像がC∞であることを示すために、G×gの上のベクトル場を導入する。この構成は、vを変数として扱うことによって、vに関する滑らかさを流れの初期点に関する滑らかさへ帰着させるものである。
補題 3.3.Gを Lie 群、n=dimGとする。定義 3.1のexp:g→GはC∞写像である。
証明.gの基底v1,…,vnを一つ固定し、v=∑a=1nvavaによってgの線形座標(v1,…,vn)を定める。
G×g上のベクトル場を作る。P=G×gと置く。§E17.1 命題 7.3によりPは2n次元C∞多様体である。(g,v)∈Pに対して
V(g,v)=((Xv)g, 0)∈TgG⊕Tvg=T(g,v)Pと定める。ここでT(g,v)P=TgG⊕Tvgという分解は、積のチャートに関する座標基底を二つの因子の座標基底へ分けたものである。
VがC∞ベクトル場であることを示す。Gのチャート(U,φ)、φ=(x1,…,xn)を取り、Pのチャートとして(U×g,φ×id)を取る。§E17.20 定理 1.2により(Xv)g=d(Lg)e(v)であり、v↦d(Lg)e(v)は線形であるから
(Xv)g=a=1∑nva(Xva)gである。したがってVのG側の成分は
Vi(g,v)=a=1∑nva(Xva)i(g)(1≤i≤n)であり、g側の成分はすべて0である。§E17.20 定理 1.2により各XvaはC∞ベクトル場であるから、§E17.4 命題 5.2により(Xva)iはU上でC∞である。vaは線形座標であるからC∞である。よってViはU×gの上でC∞であり、ふたたび§E17.4 命題 5.2によりV∈X(P)である。
Vの流れを求める。(g,v)∈Pを取り、
c(t)=(gγv(t), v)(t∈R)と定める。定理 1.3によりγvはRの全体で定義され、補題 1.1によりt↦gγv(t)はXvの積分曲線である。第二成分は定数であるからその速度ベクトルは0である。よってc′(t)=Vc(t)であり、cはVの積分曲線でc(0)=(g,v)である。定義域はRの全体であるから、§E17.6 定理 1.4によりVは完備であり、その流れは
Θ(t,(g,v))=(gγv(t), v)である。
結論。§E17.6 定理 7.1 (2)によりΘ:R×P→PはC∞である。πG:P→Gを第一成分への射影とすると、πGは§E17.1 命題 7.3の積のチャートに関する座標表示が線形な射影であるからC∞である。j:g→R×Pをj(v)=(1,(e,v))で定めると、jの座標表示は定数と恒等写像を並べたものであるからC∞である。したがって
exp(v)=γv(1)=πG(Θ(1,(e,v)))=(πG∘Θ∘j)(v)はC∞写像の合成であり、§E17.1 系 4.3によりC∞である。▨
定理 3.4.Gを Lie 群とする。T0gをgと、TeGをgと標準的に同一視すると
d(exp)0=idgである。したがって、0∈gの開近傍Uとe∈Gの開近傍Wが存在して、exp:U→Wは微分同相である。
証明. 微分を計算する。v∈g=T0gとする(§E17.3 例 3.4の同一視による)。曲線t↦tvは0を通り、そのt=0における速度ベクトルはvである。§E17.3 命題 4.3と§E17.3 定理 5.3により
d(exp)0(v)=dtdt=0exp(tv)である。命題 3.2 (3)により右辺は(γv)′(0)=vである。TeGをgと同一視しているのでd(exp)0(v)=v、すなわちd(exp)0=idgである。
局所微分同相であることを導く。eを含むGのチャート(U,ψ)を取り、ψ(e)=0としてよい。gには基底が定める線形座標を与え、これを大域的なチャートχ:g→Rnとする。expは補題 3.3によりC∞であり連続であるから、0∈gの開近傍U0をexp(U0)⊆Uとなるように取ることができる。
f=ψ∘exp∘χ−1:χ(U0)⟶Rnと置く。fはC∞級でありf(0)=0である。§E17.3 命題 5.5により、Df(0)はd(exp)0を二つのチャートの座標基底で表した行列である。d(exp)0は上で示したとおり同型であるからDf(0)は可逆である。
§E4.7 定理 2.1により、0の開近傍Ω0⊆χ(U0)と0の開近傍Ω1⊆Rnが存在して、f:Ω0→Ω1は全単射であり逆写像f−1はC1級である。§E17.5 補題 1.1によりf−1はC∞級である。
U=χ−1(Ω0)、W=ψ−1(Ω1)と置く。§E17.1 系 7.2によりχとψは微分同相であるから、exp∣U=ψ−1∘f∘χ∣UはUからWへの全単射であり、exp∣Uとその逆写像χ−1∘f−1∘ψ∣WはいずれもC∞写像の合成としてC∞である(§E17.1 系 4.3)。Uは0の開近傍、Wはe=exp(0)の開近傍である。よってexp:U→Wは微分同相である。▨
4 行列群における指数写像
定理 4.1.nを正の整数とする。
- G=GLn(R)、g=Mn(R)(§E17.19 注意 2.2の同一視)とすると、A∈Mn(R)に対して
exp(A)=eA=k=0∑∞k!Ak
である。ここで右辺は§E10.10 定義 1.1の行列指数関数である。
- G⊆GLn(R)を埋め込み Lie 部分群、g=TIG⊆Mn(R)とすると、A∈gに対してGの指数写像はexp(A)=eAで与えられる。とくにeA∈Gである。
同じ主張がGLn(C)とその埋め込み Lie 部分群についても成り立つ。
証明.(1)を示す。A∈Mn(R)とし、c(t)=etAと置く。§E10.10 定理 2.2によりc(0)=e0A=I、(etA)−1=e−tAであるからc(t)∈GLn(R)であり、
dtdetA=etAAである。§E17.20 命題 3.2により(XA)g=gAであるから、上の等式はc′(t)=(XA)c(t)を意味する。ここで速度ベクトルの同一視は§E17.19 注意 2.2による。cはRの全体で定義されたXAの積分曲線でありc(0)=Iであるから、§E17.6 定理 1.4によりc=γAである。よって
exp(A)=γA(1)=eAである。
(2)を示す。ι:G→GLn(R)を包含写像とする。§E17.20 定理 3.3の証明で示したとおり、G上の左不変ベクトル場YAとGLn(R)上の左不変ベクトル場XAはιに関して関連する。γGA:R→GをYAのIを始点とする最大積分曲線とすると(定理 1.3によりRの全体で定義される)、ι∘γGAはGLn(R)の曲線であり、§E17.3 定理 5.3と関連性により
(ι∘γGA)′(t)=dιγGA(t)((YA)γGA(t))=(XA)ι(γGA(t))である。よってι∘γGAはXAの積分曲線であり、t=0でIを取る。(1)と§E17.6 定理 1.4の一意性によりι∘γGA(t)=etAである。t=1と取ると、Gの指数写像についてexp(A)=γGA(1)であり、そのGLn(R)における像がeAである。γGA(1)∈GであるからeA∈Gである。
複素の場合。GLn(C)をMn(C)≅R2n2の開部分多様体と見ると、§E17.20 命題 3.2と同じ計算により左不変ベクトル場は(XA)g=gAである。§E10.10 定理 2.2は複素行列について述べられているので、上と同じ議論がそのまま成り立つ。▨
例 4.2 (古典行列群の指数写像).定理 4.1 (2)により、古典行列群の指数写像は行列指数関数である。それぞれについて像が群に入ることを直接に確かめる。
直交群。HT+H=0とするとHT=−Hである。転置は連続かつ線形であり、級数の各項について(Hk)T=(HT)kであるから
(eH)T=k=0∑∞k!(HT)k=eHT=e−Hである。§E10.10 定理 2.2によりe−H=(eH)−1であるから(eH)TeH=Iであり、eH∈O(n)である。
ユニタリ群。H∗=−Hとすると、同じ計算で(eH)∗=eH∗=e−H=(eH)−1でありeH∈U(n)である。
特殊線形群。trH=0とし、ϱ(t)=det(etH)と置く。§E10.10 定理 2.2によりetHは可逆であり、同記事の行列指数関数の微分公式によりdtdetH=etHHである。§E17.19 定理 4.5の証明で得た行列式の微分公式を用いると
ϱ′(t)=d(det)etH(etHH)=det(etH)tr((etH)−1etHH)=ϱ(t)trH=0である。ϱ(0)=detI=1であるから、すべてのt∈Rでϱ(t)=1である。とくにdet(eH)=1であり、eH∈SLn(R)である。
斜交群。HTJ+JH=0、すなわちHT=−JHJ−1とする。§E17.19 注意 4.8によりJは可逆である。(HT)k=(−JHJ−1)k=(−1)kJHkJ−1であるから
(eH)T=eHT=k=0∑∞k!(−1)kJHkJ−1=Je−HJ−1である。したがって
(eH)TJeH=Je−HJ−1JeH=Je−HeH=Jであり、eH∈Sp(2n,R)である。ここで最後の等号に§E10.10 定理 2.2のe−HeH=Iを用いた。
定理 4.3.nを正の整数とする。G=GLn(R)の指数写像exp:Mn(R)→GLn(R)は全射でない。より詳しく、次が成り立つ。
- すべてのA∈Mn(R)に対してdet(eA)>0である。
- B0=diag(−1,1,…,1)と置くとdetB0=−1<0であるから、B0はexpの像に属さない。
証明.(1)を示す。A∈Mn(R)を固定し、ϱ:R→Rをϱ(t)=det(etA)で定める。
ϱが連続であることを示す。§E10.10 命題 1.2により、tが有界な実区間を動くとき級数etA=∑k=0∞tkAk/k!は一様収束するので、写像t↦etAは連続である。detは成分の多項式であるから連続である。よってϱは連続である。
ϱが値0を取らないことを示す。§E10.10 定理 2.2によりetAe−tA=Iであるから、行列式の乗法性(§E3.15 命題 2.2)によりϱ(t)det(e−tA)=detI=1であり、ϱ(t)=0である。
ϱ(0)=detI=1>0である。ϱが連続であってR上で値0を取らないので、あるt1でϱ(t1)<0となると仮定すると、中間値の定理により0とt1のあいだのあるt2でϱ(t2)=0となり矛盾する。よってすべてのtでϱ(t)>0である。t=1と取るとdet(eA)>0である。
(2)を示す。detB0=−1である。定理 4.1によりexp(A)=eAであるから、exp(A)=B0となるA∈Mn(R)が存在するとdet(eA)=−1<0となり、(1)に反する。よってB0は像に属さず、expは全射でない。▨
5 演習
問題 5.1 (1パラメータ部分群と指数写像の確認). 次の各問に答えよ。
- 命題 1.2の証明では、包含Jh⊆Jghを得たのち、gをg−1に、hをghに取り替えて逆の包含を得た。この取り替えを書き下し、Gが群であることをどこで用いたかを述べよ。
- 定理 1.3の証明で、t0=β−ε/2と取った。t0=β−εと取ると議論のどこが成り立たなくなるかを述べよ。またt0∈Jeであることを確かめるためにε≤βをどこで用いたかを示せ。
- 定理 1.3の証明は、§E17.6 定理 8.2と違って台のコンパクト性を用いない。二つの証明で「一様な存在時間ε」をそれぞれどこから得ているかを対比して述べよ。
- 定理 2.2の単射性の証明では、γ(t+s)=Lγ(t)(γ(s))の両辺をs=0で微分した。左辺の微分がγ′(t)になる理由を、s↦γ(t+s)がγの時刻を平行移動したものであることから述べよ。
- 補題 3.3の証明で導入したベクトル場Vのg側の成分を0と置いた理由を述べよ。0でない成分を与えると、流れの第二成分がtとともに動き、Θ(t,(g,v))の第一成分がγv(t)に一致しなくなることを説明せよ。
- 定理 3.4の証明では、Df(0)が可逆であることをd(exp)0が同型であることから導いた。この対応に§E17.3 命題 5.5を用いた箇所を明示し、二つのチャートχとψのとり方が結論に影響しないことを述べよ。
- 定理 4.1 (1)の証明では、dtdetA=etAAという形を用いた。§E10.10 定理 2.2はこれとdtdetA=AetAの両方を与えるが、本記事の議論で必要なのはどちらであるかを、§E17.20 命題 3.2の形に即して述べよ。
- 定理 4.3の議論をSL2(R)へそのまま適用することができない理由を述べよ。SL2(R)のすべての元は行列式が1であるから、行列式の符号による判定が働かないことを確かめよ。
解答 (演習の解答).
- 一般にJh⊆Jghが成り立つ。これをgの代わりにg−1、hの代わりにghとして適用するとJgh⊆Jg−1(gh)である。群の結合律と逆元の性質によりg−1(gh)=(g−1g)h=eh=hであるからJgh⊆Jhである。逆元g−1の存在と結合律を用いた。
- t0=β−εと取ると、t0+(−ε,ε)=(β−2ε,β)であり、βを越える時刻を含まない。したがってJeがβ以上の時刻を含むという矛盾を導くことができない。t0∈Jeについては、t0<βから上端の条件が、t0=β−ε/2≥ε/2>0>αから下端の条件が従う。t0>0を導く段でε≤βを用いた。
- §E17.6 定理 8.2は、台Kがコンパクトであることから有限個の点q1,…,qrを選び、それぞれの近傍で得られる存在時間εqiの最小値としてεを取る。すなわち一様性は有限被覆から来る。定理 1.3は、命題 1.2によりすべての点の存在区間がJeに等しいことから、Jeに含まれる区間(−ε,ε)をそのまま全点で用いる。すなわち一様性は左不変性から来る。
- γはRの全体で定義されたC∞写像であり、c1(s)=γ(t+s)と置くとc1はγに平行移動s↦t+sを合成したものである。平行移動の微分は恒等写像であるから、連鎖律によりc1′(0)=γ′(t+0)=γ′(t)である。
- Vのg側の成分を0と置いたのは、流れの第二成分をtについて定数にするためである。第二成分が定数vであることによって、第一成分が満たす方程式は「vを固定したときのXvの方程式」になり、その解がγvである。g側の成分を0でない量w(g,v)に取ると、流れの第二成分v(t)がtとともに動き、第一成分が満たす方程式はg′(t)=(Xv(t))g(t)となる。これはXvの積分曲線の方程式ではないので、第一成分がγv(t)に一致しない。
- §E17.3 命題 5.5は、二つのチャートの座標基底に関するd(exp)0の行列が、座標表示f=ψ∘exp∘χ−1の Jacobi 行列であることを与える。可逆な線形写像の行列は、基底のとり方によらず可逆である。チャートを取り替えると Jacobi 行列は座標変換の Jacobi 行列を左右から掛けたものになり、それらは可逆であるから、可逆性は保たれる。したがって結論はチャートのとり方に影響されない。
- §E17.20 命題 3.2により左不変ベクトル場は(XA)g=gAである。したがって積分曲線の方程式はc′(t)=c(t)A、すなわち行列を右から掛ける形である。必要なのはdtdetA=etAAのほうである。dtdetA=AetAは、右不変ベクトル場(ZA)g=Agの積分曲線の方程式に対応する。
- 定理 4.3の議論は、expの像がdet>0の部分に含まれることと、det<0である元が存在することの二つを組み合わせている。SL2(R)では、定義により全ての元の行列式が1であるから、det<0である元が存在しない。したがって行列式の符号によって像に入らない元を取り出すことができない。SL2(R)の指数写像が全射でないことは別の議論を要し、本記事は扱わない。
▨
6 境界と次
完備性の論法の範囲。定理 1.3は左不変ベクトル場についての主張であり、Lie 群の上の任意のベクトル場について完備性を述べるものではない。実際、GL1(R)=R∖{0}の上のベクトル場x2d/dxは完備でない(§E17.6 例 9.2の制限)。完備性を与えているのは左不変性であり、群の構造である。
局所的な1パラメータ部分群。定義 2.1は定義域をRの全体としている。定義域を開区間に限り、その中で準同型の関係を満たす写像を局所的な1パラメータ部分群という流儀があるが、本記事は扱わない。定理 1.3によって、Gの1パラメータ部分群はつねにRの全体で定義されるので、この区別は本単元では必要にならない。
指数写像の大域的な性質。定理 3.4は原点の近傍についての主張である。単射性も全射性も一般には成り立たない(注意 3.6、定理 4.3)。どの Lie 群でexpが全射になるかという問題、およびexpの像が生成する部分群の構造は本単元の範囲外である。連結な Lie 群が単位元の任意の近傍で生成されること(§E17.19 命題 3.3 (2))と合わせると、連結な Lie 群はexp(g)によって生成されることが従うが、生成する操作と像そのものは別である。
次の記事。「閉部分群定理」は、指数写像を主要な道具として用いる。そこで供給する Lie 積公式
exp(X+Y)=m→∞lim(exp(X/m)exp(Y/m))m
と群の交換子の極限公式
exp([X,Y])=m→∞lim(exp(X/m)exp(Y/m)exp(−X/m)exp(−Y/m))m2
は、いずれも本記事の定義 3.1と定理 3.4を前提とする。とくに、expが原点の近傍で局所微分同相であることが、極限の対象をgの中で扱うための土台になる。
Lie 群論へ委ねる事項。Lie 環の準同型から Lie 群の準同型を作る対応、随伴表現、閉部分群による等質空間、および単連結被覆群の構成は「Lie 群論」が扱う。本単元は指数写像の構成と局所的な性質までを扱う。