1 有界性と連続性
以下では、X,Yを同じ係数体K∈{R,C}上のノルム空間とする。
定義 1.1. 線形写像T:X→Yが有界線形作用素 (bounded linear operator)
であるとは、ある定数M≥0が存在し、任意のx∈Xに対して
∥Tx∥Y≤M∥x∥Xが成り立つことをいう。有界線形作用素全体をB(X,Y)と書く。T∈B(X,Y)に対して
∥T∥:=∥x∥X≤1sup∥Tx∥Yを作用素ノルム (operator norm) という。
証明.X={0}の場合には線形写像T:X→Yは零写像だけであり、作用素ノルムの定義から∥T∥=0である。以下ではX={0}とする。x=0に対してu=x/∥x∥Xとおくと∥u∥X=1であり、線形性から
∥x∥X∥Tx∥Y=∥Tu∥Yである。単位球上の各x=0を同様に正規化すると
∥Tx∥Y=∥x∥XT∥x∥XxY≤∥u∥X=1sup∥Tu∥Yとなり、x=0に対しても同じ評価が成り立つ。単位球面は単位球に含まれるので、三つの上限は一致する。この等式に任意のx=0を代入すると∥Tx∥Y≤∥T∥∥x∥Xを得る。x=0の場合も同じ不等式が成り立つ。▨
命題 1.3.B(X,Y)上の作用素ノルムはノルムの三条件を満たす。
証明. 作用素ノルムは非負である。∥T∥=0ならば、命題 1.2により任意のx∈Xに対して∥Tx∥Y=0なのでT=0である。T=0ならば定義から∥T∥=0である。λ∈Kに対して
∥λT∥=∥x∥X≤1sup∥λTx∥Y=∣λ∣∥T∥である。さらに、任意のS,T∈B(X,Y)と∥x∥X≤1に対して
∥(S+T)x∥Y≤∥Sx∥Y+∥Tx∥Y≤∥S∥+∥T∥なので、単位球上で上限をとると∥S+T∥≤∥S∥+∥T∥を得る。▨
定理 1.4. 線形写像T:X→Yについて、次の三条件は同値である。
- Tは有界である。
- TはXのすべての点で連続である。
- Tは0で連続である。
証明.(1)⇒(2)を示す。あるM≥0が存在して
∥Tx−Ty∥Y=∥T(x−y)∥Y≤M∥x−y∥Xが成り立つため、Tは Lipschitz 連続である。
(2)⇒(3)を示す。全域で連続ならば、特に0で連続である。
(3)⇒(1)を示す。Tが0で連続であるとする。0の像は0なので、あるδ>0が存在し、∥z∥X<δならば∥Tz∥Y<1となる。x=0に対してz=(δ/2)x/∥x∥Xとおくと∥z∥X=δ/2<δである。したがって
2∥x∥Xδ∥Tx∥Y=∥Tz∥Y<1,すなわち∥Tx∥Y≤(2/δ)∥x∥Xである。x=0の場合は両辺が0であるから、同じ評価が成り立つ。したがってTは有界である。▨
2 作用素空間
B(X,Y)は、点ごとの加法とスカラー倍によってベクトル空間になる。
定理 2.1.Xをノルム空間、Yを Banach 空間とする。このとき、B(X,Y)は作用素ノルムについて Banach 空間である。Xが完備であることは仮定しない。
証明.(Tn)をB(X,Y)の Cauchy 列とする。固定したx∈Xに対して
∥Tnx−Tmx∥Y≤∥Tn−Tm∥∥x∥Xなので、(Tnx)はYの Cauchy 列である。Yの完備性により極限が存在するため、
Tx:=n→∞limTnxと定める。極限と有限和およびスカラー倍を交換すると、Tは線形である。
ε>0をとる。あるNが存在し、m,n≥Nなら∥Tn−Tm∥<εである。n≥Nとx∈Xを固定し、m→∞とすると
∥(Tn−T)x∥Y≤ε∥x∥Xを得る。したがってTn−Tは有界で∥Tn−T∥≤εである。特にT=TN+(T−TN)は有界であり、Tn→Tは作用素ノルムについて成り立つ。▨
Y=Kとすると、定理 2.1により、Xが完備でなくてもB(X,K)は Banach
空間である。この空間を後続の記事でXの双対空間として扱う。
命題 2.2.T∈B(X,Y)、S∈B(Y,Z)ならばS∘T∈B(X,Z)であり、
∥S∘T∥≤∥S∥∥T∥が成り立つ。
証明. 任意のx∈Xに対して
∥S(Tx)∥Z≤∥S∥∥Tx∥Y≤∥S∥∥T∥∥x∥Xである。命題 1.2によって結論が従う。▨
例 2.3 (右シフトと左シフト).1≤p<∞とし、ℓp上の右シフトRと左シフトLを
R(x1,x2,…)=(0,x1,x2,…),L(x1,x2,…)=(x2,x3,…)で定める。直接計算すると
∥Rx∥pp=j=1∑∞∣xj∣p=∥x∥pp,なのでRは等長作用素であり∥R∥=1である。一方、∥Lx∥p≤∥x∥pなので∥L∥≤1である。標準基底に対してLej+1=ejであるため∥L∥≥1であり、∥L∥=1となる。Le1=0なので、Lは等長作用素ではない。作用素ノルムが1であることと、すべてのベクトルのノルムを保存することは異なる。
例 2.4 (微分作用素は有界でない).P[0,1]に一様ノルムを入れ、D:P[0,1]→P[0,1]をDf=f′で定める。fn(x)=xnとすると∥fn∥∞=1であるが、
∥Dfn∥∞=0≤x≤1supnxn−1=nである。したがって、Dを有界にする定数は存在しない。定理 1.4により、Dは連続でない。
同じ空間上の積分作用素Vf(x)=∫0xf(t)dtについては∥Vf∥∞≤∥f∥∞である。微分と積分は代数的には互いに近い操作であるが、一様ノルムに関する有界性は異なる。
例 2.5 (Volterra 積分作用素のノルム).C[0,1]上の作用素
(Vf)(x):=∫0xf(t)dtを考える。任意のx∈[0,1]に対して
∣(Vf)(x)∣≤∫0x∣f(t)∣dt≤x∥f∥∞≤∥f∥∞なので∥V∥≤1である。f≡1に対してVf(x)=xであり、∥f∥∞=∥Vf∥∞=1となるため、∥V∥=1である。
3 演習
問題 3.1 (一点での連続性). 線形写像T:X→Yがある一点x0で連続ならば、0で連続であることを証明し、定理 1.4を用いてTが有界であることを示せ。
問題 3.2 (完備性の証明の各段).定理 2.1の証明で、Tの線形性、有界性、作用素ノルム収束を得る箇所をそれぞれ特定せよ。Xの完備性が不要である理由も説明せよ。
問題 3.3 (シフト作用素の片側逆).R,Lを例 2.3の作用素とする。LR=IであるがRL=Iであることを計算し、Rの全射性とLの単射性を判定せよ。
問題 3.4 (Volterra 作用素のべき).Vnを Volterra 作用素のn回合成とする。Vnf(x)=(n−1)!1∫0x(x−t)n−1f(t)dtを帰納法で証明し、∥Vn∥=1/n!を示せ。