§E12.2有界線形作用素と作用素ノルム

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前の記事では、ノルム空間とその完備性を定め、数列空間や連続関数空間が Banach 空間になることを確かめた。空間が一つ与えられていれば、その中の点列が収束するかどうかはノルムだけで決まり、完備性はこの判定を空間の内部で完結させる。しかし、二つの空間を渡す線形写像が収束列を収束列へ送るかどうかは、両端の空間の完備性からも写像の線形性からも従わず、写像の側に新しい条件を課さない限り決まらない。

線形写像がノルムを一定の倍率以内に抑えるという条件を課すと、その倍率の下限が写像ごとに一つの数として定まり、これを作用素ノルムという。作用素ノルムは、一つの写像の連続性を測る量であると同時に、線形写像の全体に距離を入れて再びノルム空間にする量でもあり、写像の空間の上でも収束を論じることを可能にする。有界線形作用素を作用素ノルムとともに定義し、線形写像の全体が作る空間について解説する。

1 有界性と連続性

以下では、X,YX,Yを同じ係数体K∈{R,C}\mathbb K\in\{\mathbb R,\mathbb C\}上のノルム空間とする。

定義 1.1. 線形写像T:X→YT:X\to Yが有界線形作用素 (bounded linear operator) であるとは、ある定数M≥0M\geq0が存在し、任意のx∈Xx\in Xに対して

∥Tx∥Y≤M∥x∥X\|Tx\|_Y\leq M\|x\|_X

が成り立つことをいう。有界線形作用素全体をB(X,Y)B(X,Y)と書く。T∈B(X,Y)T\in B(X,Y)に対して

∥T∥:=sup⁡∥x∥X≤1∥Tx∥Y\|T\|:=\sup_{\|x\|_X\leq1}\|Tx\|_Y

を作用素ノルム (operator norm) という。

命題 1.2.X≠{0}X\neq\{0\}かつT∈B(X,Y)T\in B(X,Y)ならば

∥T∥=sup⁡∥x∥X=1∥Tx∥Y=sup⁡x≠0∥Tx∥Y∥x∥X\|T\| =\sup_{\|x\|_X=1}\|Tx\|_Y =\sup_{x\neq0}\frac{\|Tx\|_Y}{\|x\|_X}

が成り立つ。X={0}X=\{0\}ならばB(X,Y)={0}B(X,Y)=\{0\}であり、作用素ノルムは00である。いずれの場合も、任意のx∈Xx\in Xに対して∥Tx∥Y≤∥T∥∥x∥X\|Tx\|_Y\leq\|T\|\|x\|_Xである。

証明.X={0}X=\{0\}の場合には線形写像T:X→YT:X\to Yは零写像だけであり、作用素ノルムの定義から∥T∥=0\|T\|=0である。以下ではX≠{0}X\neq\{0\}とする。x≠0x\neq0に対してu=x/∥x∥Xu=x/\|x\|_Xとおくと∥u∥X=1\|u\|_X=1であり、線形性から

∥Tx∥Y∥x∥X=∥Tu∥Y\frac{\|Tx\|_Y}{\|x\|_X}=\|Tu\|_Y

である。単位球上の各x≠0x\neq0を同様に正規化すると

∥Tx∥Y=∥x∥X∥Tx∥x∥X∥Y≤sup⁡∥u∥X=1∥Tu∥Y\|Tx\|_Y=\|x\|_X\left\|T\frac{x}{\|x\|_X}\right\|_Y \leq\sup_{\|u\|_X=1}\|Tu\|_Y

となり、x=0x=0に対しても同じ評価が成り立つ。単位球面は単位球に含まれるので、三つの上限は一致する。この等式に任意のx≠0x\neq0を代入すると∥Tx∥Y≤∥T∥∥x∥X\|Tx\|_Y\leq\|T\|\|x\|_Xを得る。x=0x=0の場合も同じ不等式が成り立つ。▨

命題 1.3.B(X,Y)B(X,Y)上の作用素ノルムはノルムの三条件を満たす。

証明. 作用素ノルムは非負である。∥T∥=0\|T\|=0ならば、命題 1.2により任意のx∈Xx\in Xに対して∥Tx∥Y=0\|Tx\|_Y=0なのでT=0T=0である。T=0T=0ならば定義から∥T∥=0\|T\|=0である。λ∈K\lambda\in\mathbb Kに対して

∥λT∥=sup⁡∥x∥X≤1∥λTx∥Y=∣λ∣ ∥T∥\|\lambda T\| =\sup_{\|x\|_X\leq1}\|\lambda Tx\|_Y =|\lambda|\,\|T\|

である。さらに、任意のS,T∈B(X,Y)S,T\in B(X,Y)と∥x∥X≤1\|x\|_X\leq1に対して

∥(S+T)x∥Y≤∥Sx∥Y+∥Tx∥Y≤∥S∥+∥T∥\|(S+T)x\|_Y\leq\|Sx\|_Y+\|Tx\|_Y\leq\|S\|+\|T\|

なので、単位球上で上限をとると∥S+T∥≤∥S∥+∥T∥\|S+T\|\leq\|S\|+\|T\|を得る。▨

定理 1.4. 線形写像T:X→YT:X\to Yについて、次の三条件は同値である。

  1. TTは有界である。
  2. TTはXXのすべての点で連続である。
  3. TTは00で連続である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。あるM≥0M\geq0が存在して

∥Tx−Ty∥Y=∥T(x−y)∥Y≤M∥x−y∥X\|Tx-Ty\|_Y=\|T(x-y)\|_Y\leq M\|x-y\|_X

が成り立つため、TTは Lipschitz 連続である。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。全域で連続ならば、特に00で連続である。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。TTが00で連続であるとする。00の像は00なので、あるδ>0\delta>0が存在し、∥z∥X<δ\|z\|_X<\deltaならば∥Tz∥Y<1\|Tz\|_Y<1となる。x≠0x\neq0に対してz=(δ/2)x/∥x∥Xz=(\delta/2)x/\|x\|_Xとおくと∥z∥X=δ/2<δ\|z\|_X=\delta/2<\deltaである。したがって

δ2∥x∥X∥Tx∥Y=∥Tz∥Y<1,\frac{\delta}{2\|x\|_X}\|Tx\|_Y=\|Tz\|_Y<1,

すなわち∥Tx∥Y≤(2/δ)∥x∥X\|Tx\|_Y\leq(2/\delta)\|x\|_Xである。x=0x=0の場合は両辺が00であるから、同じ評価が成り立つ。したがってTTは有界である。▨

2 作用素空間

B(X,Y)B(X,Y)は、点ごとの加法とスカラー倍によってベクトル空間になる。

定理 2.1.XXをノルム空間、YYを Banach 空間とする。このとき、B(X,Y)B(X,Y)は作用素ノルムについて Banach 空間である。XXが完備であることは仮定しない。

証明.(Tn)(T_n)をB(X,Y)B(X,Y)の Cauchy 列とする。固定したx∈Xx\in Xに対して

∥Tnx−Tmx∥Y≤∥Tn−Tm∥ ∥x∥X\|T_nx-T_mx\|_Y\leq\|T_n-T_m\|\,\|x\|_X

なので、(Tnx)(T_nx)はYYの Cauchy 列である。YYの完備性により極限が存在するため、

Tx:=lim⁡n→∞TnxTx:=\lim_{n\to\infty}T_nx

と定める。極限と有限和およびスカラー倍を交換すると、TTは線形である。

ε>0\varepsilon>0をとる。あるNNが存在し、m,n≥Nm,n\geq Nなら∥Tn−Tm∥<ε\|T_n-T_m\|<\varepsilonである。n≥Nn\geq Nとx∈Xx\in Xを固定し、m→∞m\to\inftyとすると

∥(Tn−T)x∥Y≤ε∥x∥X\|(T_n-T)x\|_Y\leq\varepsilon\|x\|_X

を得る。したがってTn−TT_n-Tは有界で∥Tn−T∥≤ε\|T_n-T\|\leq\varepsilonである。特にT=TN+(T−TN)T=T_N+(T-T_N)は有界であり、Tn→TT_n\to Tは作用素ノルムについて成り立つ。▨

Y=KY=\mathbb Kとすると、定理 2.1により、XXが完備でなくてもB(X,K)B(X,\mathbb K)は Banach 空間である。この空間を後続の記事でXXの双対空間として扱う。

命題 2.2.T∈B(X,Y)T\in B(X,Y)、S∈B(Y,Z)S\in B(Y,Z)ならばS∘T∈B(X,Z)S\circ T\in B(X,Z)であり、

∥S∘T∥≤∥S∥ ∥T∥\|S\circ T\|\leq\|S\|\,\|T\|

が成り立つ。

証明. 任意のx∈Xx\in Xに対して

∥S(Tx)∥Z≤∥S∥ ∥Tx∥Y≤∥S∥ ∥T∥ ∥x∥X\|S(Tx)\|_Z\leq\|S\|\,\|Tx\|_Y \leq\|S\|\,\|T\|\,\|x\|_X

である。命題 1.2によって結論が従う。▨

例 2.3 (右シフトと左シフト).1≤p<∞1\leq p<\inftyとし、ℓp\ell^p上の右シフトRRと左シフトLLを

R(x1,x2,…)=(0,x1,x2,…),L(x1,x2,…)=(x2,x3,…)R(x_1,x_2,\ldots)=(0,x_1,x_2,\ldots),\qquad L(x_1,x_2,\ldots)=(x_2,x_3,\ldots)

で定める。直接計算すると

∥Rx∥pp=∑j=1∞∣xj∣p=∥x∥pp,\|Rx\|_p^p=\sum_{j=1}^{\infty}|x_j|^p=\|x\|_p^p,

なのでRRは等長作用素であり∥R∥=1\|R\|=1である。一方、∥Lx∥p≤∥x∥p\|Lx\|_p\leq\|x\|_pなので∥L∥≤1\|L\|\leq1である。標準基底に対してLej+1=ejLe_{j+1}=e_jであるため∥L∥≥1\|L\|\geq1であり、∥L∥=1\|L\|=1となる。Le1=0Le_1=0なので、LLは等長作用素ではない。作用素ノルムが11であることと、すべてのベクトルのノルムを保存することは異なる。

例 2.4 (微分作用素は有界でない).P[0,1]P[0,1]に一様ノルムを入れ、D:P[0,1]→P[0,1]D:P[0,1]\to P[0,1]をDf=f′Df=f'で定める。fn(x)=xnf_n(x)=x^nとすると∥fn∥∞=1\|f_n\|_\infty=1であるが、

∥Dfn∥∞=sup⁡0≤x≤1nxn−1=n\|Df_n\|_\infty=\sup_{0\leq x\leq1}nx^{n-1}=n

である。したがって、DDを有界にする定数は存在しない。定理 1.4により、DDは連続でない。

同じ空間上の積分作用素Vf(x)=∫0xf(t) dtVf(x)=\int_0^x f(t)\,dtについては∥Vf∥∞≤∥f∥∞\|Vf\|_\infty\leq\|f\|_\inftyである。微分と積分は代数的には互いに近い操作であるが、一様ノルムに関する有界性は異なる。

例 2.5 (Volterra 積分作用素のノルム).C[0,1]C[0,1]上の作用素

(Vf)(x):=∫0xf(t) dt(Vf)(x):=\int_0^x f(t)\,dt

を考える。任意のx∈[0,1]x\in[0,1]に対して

∣(Vf)(x)∣≤∫0x∣f(t)∣ dt≤x∥f∥∞≤∥f∥∞|(Vf)(x)|\leq\int_0^x|f(t)|\,dt \leq x\|f\|_\infty\leq\|f\|_\infty

なので∥V∥≤1\|V\|\leq1である。f≡1f\equiv1に対してVf(x)=xVf(x)=xであり、∥f∥∞=∥Vf∥∞=1\|f\|_\infty=\|Vf\|_\infty=1となるため、∥V∥=1\|V\|=1である。

3 演習

問題 3.1 (一点での連続性). 線形写像T:X→YT:X\to Yがある一点x0x_0で連続ならば、00で連続であることを証明し、定理 1.4を用いてTTが有界であることを示せ。

問題 3.2 (完備性の証明の各段).定理 2.1の証明で、TTの線形性、有界性、作用素ノルム収束を得る箇所をそれぞれ特定せよ。XXの完備性が不要である理由も説明せよ。

問題 3.3 (シフト作用素の片側逆).R,LR,Lを例 2.3の作用素とする。LR=ILR=IであるがRL≠IRL\neq Iであることを計算し、RRの全射性とLLの単射性を判定せよ。

問題 3.4 (Volterra 作用素のべき).VnV^nを Volterra 作用素のnn回合成とする。Vnf(x)=1(n−1)!∫0x(x−t)n−1f(t) dtV^nf(x)=\frac1{(n-1)!}\int_0^x(x-t)^{n-1}f(t)\,dtを帰納法で証明し、∥Vn∥=1/n!\|V^n\|=1/n!を示せ。

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.有界線形作用素と作用素空間の完備性を参考にした。
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.連続線形写像と作用素ノルムを参考にした。
  3. Erwin Kreyszig, Introductory Functional Analysis with Applications, Wiley, 1978.シフト作用素と積分作用素の例を参考にした。

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