§E12.1ノルム空間と Banach 空間

最終更新

有限次元の線形代数では、基底を一つ選べば座標が定まり、ベクトルの収束も線形写像の連続性も座標の成分についての条件として述べることができるが、無限次元の線形空間では座標の個数が無限になってこの言い換えが成り立たない。長さと収束をベクトル空間の側で直接与えるために、各ベクトルへ非負の長さを対応させるノルムを置くと、差の長さが距離を定め、収束と Cauchy 列が意味をもつ。しかしノルムを置いただけでは Cauchy 列の極限が空間の外へ出ることがあり、[0,1][0,1]上の多項式全体に一様ノルムを入れた空間では、指数関数へ一様収束する多項式の列が極限をもたない Cauchy 列になる。この破れを閉じる条件が完備性であり、完備なノルム空間を Banach 空間という。関数解析が扱う空間の大半は Banach 空間であり、与えられた空間が完備であるかどうかはノルムの選び方にも依存する。ノルム空間と Banach 空間を定義し、完備性の判定と代表的な例について解説する。

1 ノルムと完備性

以下では、係数体K\mathbb KをR\mathbb RまたはC\mathbb Cとする。

定義 1.1.XXをK\mathbb K上のベクトル空間とする。写像∥⋅∥:X→[0,∞)\|\cdot\|:X\to[0,\infty)が次の条件を満たすとき、∥⋅∥\|\cdot\|をXX上のノルム (norm) といい、(X,∥⋅∥)(X,\|\cdot\|)をノルム空間 (normed space) という。

  1. ∥x∥=0\|x\|=0であることとx=0x=0であることは同値である。
  2. 任意のα∈K\alpha\in\mathbb Kとx∈Xx\in Xに対して∥αx∥=∣α∣ ∥x∥\|\alpha x\|=|\alpha|\,\|x\|である。
  3. 任意のx,y∈Xx,y\in Xに対して∥x+y∥≤∥x∥+∥y∥\|x+y\|\leq\|x\|+\|y\|である。

命題 1.2. ノルム空間XXに対して

d(x,y):=∥x−y∥(x,y∈X)d(x,y):=\|x-y\|\qquad(x,y\in X)

と定めると、ddはXX上の距離である。また、任意のx,y∈Xx,y\in Xに対して

∣ ∥x∥−∥y∥ ∣≤∥x−y∥\bigl|\,\|x\|-\|y\|\,\bigr|\leq\|x-y\|

が成り立つため、ノルムはノルムが定める距離について連続である。

証明. 非負性と同一性は定義 1.1 条件 (a)から従い、対称性は∥x−y∥=∥−(y−x)∥=∥y−x∥\|x-y\|=\|-(y-x)\|=\|y-x\|から従う。三角不等式は

d(x,z)=∥(x−y)+(y−z)∥≤d(x,y)+d(y,z)d(x,z)=\|(x-y)+(y-z)\|\leq d(x,y)+d(y,z)

である。

さらに、x=(x−y)+yx=(x-y)+yに三角不等式を適用すると∥x∥−∥y∥≤∥x−y∥\|x\|-\|y\|\leq\|x-y\|を得る。xxとyyを交換すると∥y∥−∥x∥≤∥x−y∥\|y\|-\|x\|\leq\|x-y\|を得るため、逆三角不等式が従う。▨

定義 1.3. ノルムが定める距離について完備であるノルム空間を Banach 空間 (Banach space) という。すなわち、XXの任意の Cauchy 列がXXの元へノルム収束するとき、XXは Banach 空間である。

部分空間には全空間のノルムを制限する。

命題 1.4.XXをノルム空間、MMをXXの線形部分空間とする。

  1. XXが Banach 空間であり、MMがXXで閉じているならば、MMは Banach 空間である。
  2. MMが Banach 空間であるならば、MMはXXで閉じている。

証明.(1)を示す。MMの Cauchy 列(xn)(x_n)はXXでも Cauchy 列であるため、XXの完備性から、あるx∈Xx\in Xに収束する。MMは閉じているのでx∈Mx\in Mであり、(xn)(x_n)はMM内で収束する。

(2)を示す。MMの点列(xn)(x_n)がXXの元xxに収束したとする。収束列は Cauchy 列であるため、MMの完備性から、あるy∈My\in Mに収束する。距離空間の極限は一意なのでx=y∈Mx=y\in Mである。したがってMMは閉じている。▨

2 有限次元におけるノルム同値

補題 2.1.Kn\mathbb K^nの座標がすべて有界である点列は、座標ごとに収束する部分列をもつ。

証明.K=R\mathbb K=\mathbb Rの場合を示す。すべての点を含む閉直方体Q0Q_0をとる。各座標区間を二等分するとQ0Q_0は2n2^n個の閉直方体に分かれるため、そのうち少なくとも一つは点列の項を無限個含む。その直方体をQ1Q_1とする。同じ操作を繰り返し、Qk+1⊂QkQ_{k+1}\subset Q_k、各辺の長さがQ0Q_0の各辺の2−(k+1)2^{-(k+1)}以下であり、QkQ_kが点列の項を無限個含むようにする。kk番目の項より後にある項を一つQkQ_kから選ぶと、部分列(xmk)(x_{m_k})を得る。

各座標について、QkQ_kの対応する閉区間は入れ子であり、その長さは00に近づく。実数の完備性から、各座標区間の共通部分は一点からなる。QkQ_kの直径は00に近づくので、(xmk)(x_{m_k})は、その座標をもつ点へ座標ごとに収束する。複素数体の場合は、各複素座標を実部と虚部に分け、Cn≅R2n\mathbb C^n\cong\mathbb R^{2n}に前述の入れ子の閉直方体を構成する。▨

命題 2.2.VVをK\mathbb K上の有限次元ベクトル空間とする。VV上の任意の二つのノルム∥⋅∥a\|\cdot\|_aと∥⋅∥b\|\cdot\|_bに対して、ある定数c,C>0c,C>0が存在し、任意のx∈Vx\in Vに対して

c∥x∥a≤∥x∥b≤C∥x∥ac\|x\|_a\leq\|x\|_b\leq C\|x\|_a

が成り立つ。

証明.V={0}V=\{0\}ならば、任意のc,C>0c,C>0に対して主張する不等式が成り立つ。以下ではV≠{0}V\neq\{0\}とし、n=dim⁡V≥1n=\dim V\geq1とする。VVの基底e1,…,ene_1,\ldots,e_nを固定し、x=∑j=1nξjejx=\sum_{j=1}^n\xi_j e_jに対して

∣x∣1:=∑j=1n∣ξj∣|x|_1:=\sum_{j=1}^n|\xi_j|

と定める。任意のノルム∥⋅∥\|\cdot\|について、三角不等式から

∥x∥≤∑j=1n∣ξj∣ ∥ej∥≤(max⁡1≤j≤n∥ej∥)∣x∣1\|x\|\leq\sum_{j=1}^n|\xi_j|\,\|e_j\| \leq\left(\max_{1\leq j\leq n}\|e_j\|\right)|x|_1

を得る。

次に、あるc>0c>0が存在して∥x∥≥c∣x∣1\|x\|\geq c|x|_1となることを示す。成り立たないと仮定すると、各m≥1m\geq1に対して∣xm∣1=1|x_m|_1=1かつ∥xm∥<1/m\|x_m\|<1/mとなるxmx_mが存在する。各座標の絶対値は11以下なので、補題 2.1により、座標ごとにあるxxへ収束する部分列(xmk)(x_{m_k})が存在する。有限和の極限をとると∣x∣1=1|x|_1=1である。一方、すでに示した上からの評価をxmk−xx_{m_k}-xに適用すると∥xmk−x∥→0\|x_{m_k}-x\|\to0である。逆三角不等式により∥x∥=lim⁡k∥xmk∥=0\|x\|=\lim_k\|x_{m_k}\|=0となるのでx=0x=0である。∣x∣1=1|x|_1=1と矛盾する。

したがって、任意のノルムは∣⋅∣1|\cdot|_1と同値である。∥⋅∥a\|\cdot\|_aと∥⋅∥b\|\cdot\|_bのそれぞれを∣⋅∣1|\cdot|_1と比較し、不等式を合成すると、主張する定数c,Cc,Cを得る。▨

系 2.3. 有限次元ノルム空間は Banach 空間である。

証明. 基底を固定する。与えられたノルムの Cauchy 列は、命題 2.2によって座標の11-ノルムについても Cauchy 列である。各座標はK\mathbb Kの Cauchy 列なので収束する。座標極限から定まるx∈Vx\in Vへ座標の11-ノルムで収束し、ふたたびノルム同値を用いると、もとのノルムでもxxへ収束する。▨

有限次元ではすべてのノルムが同値であるが、無限次元ではノルムの選択によって収束と完備性が変わる。

例 2.4 (多項式空間の不完備性).P[0,1]P[0,1]を[0,1][0,1]上の多項式全体とし、一様ノルムを入れる。多項式

pn(x):=∑k=0nxkk!p_n(x):=\sum_{k=0}^n\frac{x^k}{k!}

は[0,1][0,1]上でexe^xに一様収束する。実際、n≥0n\geq0に対して

0≤ex−pn(x)≤∑k=n+1∞1k!≤1(n+1)!∑j=0∞1(n+2)j=n+2(n+1)(n+1)!0\leq e^x-p_n(x) \leq\sum_{k=n+1}^{\infty}\frac1{k!} \leq\frac1{(n+1)!}\sum_{j=0}^{\infty}\frac1{(n+2)^j} =\frac{n+2}{(n+1)(n+1)!}

であり、右辺は00に近づく。したがって(pn)(p_n)はP[0,1]P[0,1]の Cauchy 列である。しかしexe^xは多項式ではないので、(pn)(p_n)はP[0,1]P[0,1]内で収束しない。よってP[0,1]P[0,1]は完備でない。

例 2.5 (c00c_{00}の不完備性).c00c_{00}を有限個の成分だけが零でない数列全体とし、上限ノルムを入れる。数列x(N)=(1,1/2,…,1/N,0,0,…)x^{(N)}=(1,1/2,\ldots,1/N,0,0,\ldots)は Cauchy 列であり、上限ノルムについて(1,1/2,1/3,…)(1,1/2,1/3,\ldots)に収束する。極限はc00c_{00}に属さないため、c00c_{00}は完備でない。

3 数列空間と連続関数空間

例 3.1 (標準的な数列空間). 数列x=(xj)j≥1x=(x_j)_{j\geq1}に対して、次の空間を考える。

  • ℓ∞\ell^\inftyはsup⁡j∣xj∣<∞\sup_j|x_j|<\inftyを満たす数列の空間であり、∥x∥∞=sup⁡j∣xj∣\|x\|_\infty=\sup_j|x_j|とする。
  • c0c_0はxj→0x_j\to0を満たす数列の空間であり、ℓ∞\ell^\inftyのノルムを制限する。

ℓ∞\ell^\inftyは Banach 空間である。実際、ℓ∞\ell^\inftyの Cauchy 列(x(m))(x^{(m)})に対し、各座標の極限xj=lim⁡mxj(m)x_j=\lim_m x_j^{(m)}をとる。Cauchy 性の不等式を座標ごとに極限へ移すと、十分大きいmmに対してsup⁡j∣xj(m)−xj∣≤ε\sup_j|x_j^{(m)}-x_j|\leq\varepsilonとなる。したがってxxは有界であり、x(m)→xx^{(m)}\to xである。

c0c_0はℓ∞\ell^\inftyの閉部分空間である。実際、x(m)∈c0x^{(m)}\in c_0がxxへ上限ノルムで収束したとき、ε>0\varepsilon>0に対して∥x−x(m)∥∞<ε/2\|x-x^{(m)}\|_\infty<\varepsilon/2となるmmを固定し、十分大きいjjで∣xj(m)∣<ε/2|x_j^{(m)}|<\varepsilon/2とすれば∣xj∣<ε|x_j|<\varepsilonとなる。よってx∈c0x\in c_0である。命題 1.4によりc0c_0も Banach 空間である。

定理 3.2. 実数値または複素数値の連続関数の空間C[0,1]C[0,1]は、一様ノルム

∥f∥∞:=sup⁡x∈[0,1]∣f(x)∣\|f\|_\infty:=\sup_{x\in[0,1]}|f(x)|

について Banach 空間である。

証明.(fn)(f_n)をC[0,1]C[0,1]の Cauchy 列とする。各x∈[0,1]x\in[0,1]に対して∣fn(x)−fm(x)∣≤∥fn−fm∥∞|f_n(x)-f_m(x)|\leq\|f_n-f_m\|_\inftyなので、(fn(x))(f_n(x))はK\mathbb Kの Cauchy 列である。f(x):=lim⁡nfn(x)f(x):=\lim_n f_n(x)と定める。

ε>0\varepsilon>0をとる。あるNNが存在し、n,m≥Nn,m\geq Nなら∥fn−fm∥∞<ε/2\|f_n-f_m\|_\infty<\varepsilon/2である。n≥Nn\geq Nを固定してm→∞m\to\inftyとすると、任意のx∈[0,1]x\in[0,1]に対して∣fn(x)−f(x)∣≤ε/2<ε|f_n(x)-f(x)|\leq\varepsilon/2<\varepsilonとなる。したがって∥fn−f∥∞<ε\|f_n-f\|_\infty<\varepsilonであり、fn→ff_n\to fは一様収束である。

最後にffの連続性を示す。x0∈[0,1]x_0\in[0,1]とε>0\varepsilon>0を固定する。∥f−fN∥∞<ε/3\|f-f_N\|_\infty<\varepsilon/3となるNNをとる。fNf_Nの連続性から、∣x−x0∣<δ|x-x_0|<\deltaなら∣fN(x)−fN(x0)∣<ε/3|f_N(x)-f_N(x_0)|<\varepsilon/3となるδ>0\delta>0が存在する。このとき

∣f(x)−f(x0)∣≤∣f(x)−fN(x)∣+∣fN(x)−fN(x0)∣+∣fN(x0)−f(x0)∣<ε.|f(x)-f(x_0)| \leq |f(x)-f_N(x)|+|f_N(x)-f_N(x_0)|+|f_N(x_0)-f(x_0)| <\varepsilon.

よってf∈C[0,1]f\in C[0,1]であり、C[0,1]C[0,1]は完備である。▨

定理 3.3.KKをコンパクト空間とする。KK上の実数値または複素数値連続関数の空間C(K)C(K)は、一様ノルムについて Banach 空間である。

証明. 連続関数によるコンパクト集合の像はコンパクトであるため、各f∈C(K)f\in C(K)は有界であり、一様ノルムは有限である。C(K)C(K)の Cauchy 列(fn)(f_n)に対し、各点の極限f(x)=lim⁡nfn(x)f(x)=\lim_nf_n(x)を定める。ε>0\varepsilon>0に対して、あるNNが存在し、n,m≥Nn,m\geq Nなら∥fn−fm∥∞<ε/2\|f_n-f_m\|_\infty<\varepsilon/2となる。n≥Nn\geq Nを固定して各x∈Kx\in Kでm→∞m\to\inftyとすると∣fn(x)−f(x)∣≤ε/2|f_n(x)-f(x)|\leq\varepsilon/2となるため、∥fn−f∥∞<ε\|f_n-f\|_\infty<\varepsilonである。よってfn→ff_n\to fは一様収束である。

ffの連続性を直接確認する。x0∈Kx_0\in Kとε>0\varepsilon>0に対し、∥f−fN∥∞<ε/3\|f-f_N\|_\infty<\varepsilon/3となるNNをとる。fNf_Nの連続性から、x0x_0のある近傍UUが存在し、x∈Ux\in Uなら∣fN(x)−fN(x0)∣<ε/3|f_N(x)-f_N(x_0)|<\varepsilon/3となる。三角不等式により、x∈Ux\in Uなら∣f(x)−f(x0)∣<ε|f(x)-f(x_0)|<\varepsilonである。よってf∈C(K)f\in C(K)であり、C(K)C(K)は完備である。▨

一般のLpL^p空間の定義、Hölder と Minkowski の不等式、完備性および稠密性は、§E9.12 定義 2.3、§E9.12 定理 4.2、§E9.12 定理 5.1、§E9.13 定理 1.1および§E9.13 定理 2.2が扱う。本単元は、後の記事でLpL^pの双対性を扱う。

4 演習

問題 4.1 (閉部分空間と完備性の同値). Banach 空間XXの線形部分空間MMについて、MMがXXで閉じているという条件と、制限ノルムについてMMが完備であるという条件とが同値であることを、命題 1.4を参照せずに証明せよ。

問題 4.2 (ノルム同値の証明における正規化). 有限次元ノルム同値の証明で、∣xm∣1=1|x_m|_1=1という正規化がどこで用いられたかを特定せよ。また、正規化を∣xm∣1≤1|x_m|_1\leq1に弱めると矛盾が得られない理由を説明せよ。

問題 4.3 (c00c_{00}の不完備性の計算).c00c_{00}の列x(N)x^{(N)}について、M>NM>Nのとき∥x(M)−x(N)∥∞=1/(N+1)\|x^{(M)}-x^{(N)}\|_\infty=1/(N+1)であることを計算し、不完備性の証明を完成させよ。

問題 4.4 (L1L^1ノルムに替えた連続関数空間).C[0,1]C[0,1]の一様ノルムを∥f∥1=∫01∣f(x)∣ dx\|f\|_1=\int_0^1|f(x)|\,dxに替えると完備性が失われる例を構成せよ。連続関数で段差関数を近似し、L1L^1極限が連続でないことを示すことができる。

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.ノルム空間、有限次元空間、および Banach 空間の標準結果を参考にした。
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.位相線形空間と Banach 空間の例を参考にした。
  3. Erwin Kreyszig, Introductory Functional Analysis with Applications, Wiley, 1978.数列空間と連続関数空間の例を参考にした。

前提記事