1 連続双対と標準埋め込み
定義 1.1.XをK=RまたはC上のノルム空間とする。有界線形汎関数x∗:X→Kの全体を
X∗=B(X,K)と書き、Xの連続双対 (continuous dual) という。X∗は作用素ノルム
∥x∗∥=∥x∥≤1sup∣x∗(x)∣に関して Banach 空間である。標準写像 (canonical map)JX:X→X∗∗を
(JXx)(x∗)=x∗(x)(x∈X, x∗∈X∗)で定める。JXが全射であるとき、Xは回帰的 (reflexive) であるという。
X∗の完備性は有界作用素空間の完備性§E12.2 定理 2.1のY=Kの場合である。標準写像JXが線形等長写像であり、とくに単射であることは§E12.3 定理 3.3による。したがって、XをX∗∗の部分空間とみなすことができる。
2 弱位相と弱星位相
定義 2.1.X上の弱位相 (weak topology)σ(X,X∗)は、すべてのx∗∈X∗を連続にする最も粗い位相、すなわち写像族
x∗:X⟶Kに関する始位相である。点x∈Xの基本近傍は
U(x;x1∗,…,xm∗;ε)={y∈X:∣xj∗(y−x)∣<ε (1≤j≤m)}の形で与えられる。
X∗上の弱星位相 (weak-* topology)σ(X∗,X)は、各x∈Xに対する評価写像ex(x∗)=x∗(x)を連続にする最も粗い位相である。点x∗∈X∗の基本近傍は
V(x∗;x1,…,xm;ε)={y∗∈X∗:∣(y∗−x∗)(xj)∣<ε (1≤j≤m)}の形で与えられる。
有向集合Aで添字付けられたネット(xα)α∈Aがxに弱収束 (weak convergence) することをxα⇀xと書く。ネット(xα∗)がx∗に弱星収束 (weak-* convergence) することをxα∗⇀∗x∗と書く。
命題 2.2. ネット(xα)と(xα∗)について、次の同値が成り立つ。
xα⇀xxα∗⇀∗x∗⟺x∗(xα)→x∗(x)(∀x∗∈X∗),⟺xα∗(x)→x∗(x)(∀x∈X).
証明. 弱収束すれば、弱位相の定義により各x∗:X→Kは連続なので、各像ネットも収束する。逆に、すべてのx∗について値が収束すると仮定する。xの基本近傍U(x;x1∗,…,xm∗;ε)を一つ固定する。各jについて、あるαj以後は∣xj∗(xα−x)∣<εである。有向性により、有限個のαjの上界α0を選ぶことができる。α≥α0ならxα∈Uであるから、xα⇀xである。
弱星収束についても、基本近傍V(x∗;x1,…,xm;ε)と有限個の添字の上界を用いる同じ証明が成り立つ。▨
ノルム位相との関係を型に注意して整理する。xα→xがノルム収束なら、
∣x∗(xα−x)∣≤∥x∗∥∥xα−x∥→0
なのでxα⇀xである。同様に、X∗におけるノルム収束は弱星収束を導く。さらに、X∗における弱収束とはσ(X∗,X∗∗)による収束であり、これは弱星収束を導く。実際、弱星位相の評価写像はJXx∈X∗∗による評価である。Xが回帰的ならJX(X)=X∗∗なので、X∗の弱位相と弱星位相は一致する。回帰性を仮定しなければ、逆向きは一般には成り立たない。
§E12.7 定理 1.3 (Banach–Alaoglu の定理)は、連続双対X∗の閉単位球が弱星位相σ(X∗,X)についてコンパクトであることを述べる定理であり、後続の記事で証明する。コンパクト性は一般には点列だけで判定することができないため、この定理を「任意の有界列が弱星収束部分列をもつ」という主張に置き換えてはならない。
3 数列空間の双対
定理 3.1.a=(an)∈ℓ∞に対して
Φa(x)=n=1∑∞xnan(x=(xn)∈ℓ1)と定める。このとき、a↦Φaはℓ∞から(ℓ1)∗への線形等長全単射である。
証明. 絶対収束と評価
∣Φa(x)∣≤n=1∑∞∣xn∣∣an∣≤∥a∥∞∥x∥1により、Φa∈(ℓ1)∗かつ∥Φa∥≤∥a∥∞である。標準基底をenと書けば、∥en∥1=1かつΦa(en)=anなので、∥Φa∥≥supn∣an∣である。したがって∥Φa∥=∥a∥∞であり、写像は等長単射である。
F∈(ℓ1)∗を任意に取り、an=F(en)と置く。∣an∣≤∥F∥なのでa∈ℓ∞である。任意のx∈ℓ1に対してx(N)=∑n=1Nxnenと置けば、
∥x−x(N)∥1=n>N∑∣xn∣⟶0.Fの連続性により
F(x)=N→∞limn=1∑NxnF(en)=n=1∑∞xnan=Φa(x).したがって、写像は全射である。▨
例 3.2 (座標収束、弱収束、および回帰性).ℓ1の標準基底(en)は各座標では0に収束するが、ℓ1では0に弱収束しない。実際、定理 3.1により定数列1=(1,1,…)∈ℓ∞は連続線形汎関数を定め、Φ1(en)=1である。したがって、座標汎関数だけを検査しても弱収束を判定することはできない。
有限次元ノルム空間Xは回帰的である。実際、§E12.3 定理 3.3によりJXは単射であり、dimX=dimX∗∗であるから全射でもある。一方、ℓ1は回帰的でない。
命題 3.3. 標準埋め込みJℓ1:ℓ1→(ℓ1)∗∗は全射でない。
証明.c0⊂ℓ∞を0に収束する数列の空間とし、M=c0⊕span{1}と置く。y∈c0とa∈Kに対してF0(y+a1)=aと定める。dist(1,c0)=1であるから
∣F0(y+a1)∣=∣a∣≤∥y+a1∥∞.したがって∥F0∥=1である。K=Rの場合は§E12.3 系 2.1により、K=Cの場合は§E12.3 定理 2.2により、F0はノルムを保つ延長F∈(ℓ∞)∗をもつ。このFはc0上で0であり、F(1)=1を満たす。
定理 3.1によって(ℓ1)∗∗=(ℓ∞)∗と同定する。F=Jℓ1aを満たすa=(an)∈ℓ1が存在したと仮定する。各en∈c0に対して
an=(Jℓ1a)(en)=F(en)=0なのでa=0である。しかし、(Jℓ1a)(1)=0はF(1)=1に矛盾する。したがってFは標準埋め込みの像に属さない。▨
4 演習
問題 4.1 (ノルム収束から弱収束へ). ノルム空間Xのネット(xα)がx∈Xへノルム収束するとき、xα⇀xであることを、評価式から示せ。
解答.
任意のx∗∈X∗に対して
∣x∗(xα)−x∗(x)∣=∣x∗(xα−x)∣≤∥x∗∥∥xα−x∥であり、右辺は∥xα−x∥→0により0へ収束する。したがって、すべてのx∗∈X∗についてx∗(xα)→x∗(x)が成り立ち、命題 2.2によりxα⇀xである。▨
問題 4.2 (X∗上の二つの収束の試験対象).X∗における弱収束と弱星収束の定義に現れる試験対象を、それぞれ明記せよ。
解答.
X∗上の弱位相はX∗を一つのノルム空間とみなしたときのσ(X∗,X∗∗)であるから、弱収束の試験対象はX∗∗のすべての元である。一方、弱星位相σ(X∗,X)の試験対象は評価写像ex(x∈X)、すなわちJX(X)⊂X∗∗に属する元だけである。JXが全射でない場合には後者は真に小さく、弱星収束は弱収束より弱い条件になる。▨
問題 4.3 (座標収束と弱収束の違い).ℓ1の標準基底(en)が座標ごとには0に収束する一方で0に弱収束しない理由を示せ。
解答.
第k座標をとる汎関数について、n>kならばenの第k座標は0であるから、座標ごとの収束は成り立つ。しかし定理 3.1により定数列1=(1,1,…)∈ℓ∞はΦ1∈(ℓ1)∗を定め、Φ1(en)=1は0へ収束しない。命題 2.2の判定はすべてのx∗∈(ℓ1)∗に対する収束を要求するので、(en)は0に弱収束しない。▨