§E12.11コンパクト作用素

最終更新

Banach 空間X,YX,Yの間の有界線形作用素TTが、XXの閉単位球の像のYYにおける閉包がコンパクトであるという条件を満たすとき、TTをコンパクト作用素という。像が有限次元である有界線形作用素はこの条件を満たし、σ-有限測度空間の積測度に関して二乗可積分な核からL2L^2上に定まる積分作用素も同じ条件を満たす。複素 Banach 空間上のコンパクト作用素については、零でないスペクトルが代数的重複度の有限な固有値だけからなり、その集積点は零に限られる。有限次元の線形作用素に対する固有値と一般固有空間による記述が、零を除いた部分でそのまま成り立つ。コンパクト作用素の基本性質と前掲のスペクトル構造を証明し、実 Banach 空間上の作用素は複素化によって位置づける。

1 定義と基本性質

定義 1.1.X,YX,Yを Banach 空間とし、T:X→YT:X\to Yを有界線形作用素とする。XXの閉単位球BXB_Xに対してT(BX)‾\overline{T(B_X)}がYYでコンパクトであるとき、TTをコンパクト作用素 (compact operator) という。

命題 1.2. 有界線形作用素T:X→YT:X\to Yについて、次は同値である。

  1. TTはコンパクトである。
  2. XXの任意の有界列(xn)(x_n)に対して、(Txn)(Tx_n)はYYで収束する部分列をもつ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。有界列(xn)(x_n)に対して∥xn∥≤C\|x_n\|\le CとなるC>0C>0をとる。C=0C=0なら全てのnnについてxn=0x_n=0であり、(Txn)(Tx_n)は00へ収束する。C>0C>0ならTxn∈C T(BX)Tx_n\in C\,T(B_X)であり、その閉包はコンパクトである。距離空間ではコンパクト性と点列コンパクト性が同値なので、収束部分列が存在する。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。T(BX)T(B_X)の任意の列(yn)(y_n)に対してyn=Txny_n=Tx_n、xn∈BXx_n\in B_Xと書くことができる。仮定により(yn)(y_n)は収束部分列をもつ。したがってT(BX)T(B_X)は相対点列コンパクトである。距離空間では相対点列コンパクト性と閉包のコンパクト性が同値なので、T(BX)‾\overline{T(B_X)}はコンパクトである。▨

命題 1.3.X,YX,Yを Banach 空間とし、T:X→YT:X\to Yを有限階数作用素、すなわち像Ran⁡T\operatorname{Ran}Tが有限次元である有界線形作用素とする。このときTTはコンパクトである。

証明.T(BX)T(B_X)は有限次元部分空間Ran⁡T\operatorname{Ran}Tの有界集合である。有限次元部分空間は閉じており、その中の有界閉集合はコンパクトであるから、T(BX)‾\overline{T(B_X)}はコンパクトである。▨

命題 1.4.X,Y,ZX,Y,Zを Banach 空間とする。T:X→YT:X\to Yがコンパクトであり、A:Y→ZA:Y\to ZとB:Z→XB:Z\to Xが有界であるとする。このときATATとTBTBはコンパクトである。

証明.XXの有界列(xn)(x_n)に対して、命題 1.2により(Txn)(Tx_n)は収束部分列をもつ。その部分列へ連続なAAを適用した列も収束するので、同じ特徴づけによりATATはコンパクトである。また、ZZの有界列(zn)(z_n)に対して(Bzn)(Bz_n)は有界であるから、(TBzn)(TBz_n)は収束部分列をもつ。よってTBTBはコンパクトである。▨

命題 1.5.X,YX,Yを Banach 空間とする。コンパクト作用素Tn:X→YT_n:X\to Yが有界線形作用素T:X→YT:X\to Yへ作用素ノルムで収束するとする。このときTTはコンパクトである。

証明. 有界列(xk)(x_k)をとり、∥xk∥≤C\|x_k\|\le Cとする。T1T_1のコンパクト性から部分列をとり、その部分列からT2T_2の像が収束する部分列をとる。この操作を続け、対角部分列(xkj)(x_{k_j})をとると、各nnについて(Tnxkj)j(T_nx_{k_j})_jは収束する。ε>0\varepsilon>0に対して、2C∥T−Tn∥<ε/22C\|T-T_n\|<\varepsilon/2となるnnを固定する。十分大きいj,lj,lでは∥Tnxkj−Tnxkl∥<ε/2\|T_nx_{k_j}-T_nx_{k_l}\|<\varepsilon/2なので

∥Txkj−Txkl∥≤2C∥T−Tn∥+∥Tnxkj−Tnxkl∥<ε.\|Tx_{k_j}-Tx_{k_l}\| \le 2C\|T-T_n\|+\|T_nx_{k_j}-T_nx_{k_l}\|<\varepsilon.

YYは完備であるから(Txkj)(Tx_{k_j})は収束する。命題 1.2によりTTはコンパクトである。▨

2 二乗可積分核から定まる積分作用素

補題 2.1.(Ω,Σ,μ)(\Omega,\Sigma,\mu)を σ-有限測度空間とする。関数

(x,y)⟼∑j=1Naj(x)bj(y),aj,bj∈L2(μ),(x,y)\longmapsto\sum_{j=1}^N a_j(x)b_j(y), \qquad a_j,b_j\in L^2(\mu),

の全体はL2(μ×μ)L^2(\mu\times\mu)で稠密である。

証明.Ωm↑Ω\Omega_m\uparrow\Omega、μ(Ωm)<∞\mu(\Omega_m)<\inftyとなる可測集合列をとる。任意のK∈L2(μ×μ)K\in L^2(\mu\times\mu)に対し、

Km=K 1Ωm×Ωm 1{∣K∣≤m}K_m=K\,\mathbf1_{\Omega_m\times\Omega_m}\,\mathbf1_{\{|K|\le m\}}

とおく。∣K−Km∣2→0|K-K_m|^2\to0がほとんど至る所で成り立ち、∣K−Km∣2≤4∣K∣2|K-K_m|^2\le4|K|^2であるから、§E9.7 定理 3.2によりKm→KK_m\to KがL2L^2で成り立つ。したがって有限測度の長方形上の有界可測関数を近似すれば十分である。

D=Ωm×ΩmD=\Omega_m\times\Omega_mを固定する。DDの可測部分集合EEで、1E\mathbf1_Eが有限個の可測長方形の指示関数の線形包のL2L^2閉包に属するものの全体をD\mathcal Dとする。D∈DD\in\mathcal Dであり、E∈DE\in\mathcal Dなら1D∖E=1D−1E\mathbf1_{D\setminus E}=\mathbf1_D-\mathbf1_EであるからD∖E∈DD\setminus E\in\mathcal Dである。また、互いに素なEn∈DE_n\in\mathcal Dに対し、有限和は同じ閉包に属し、

∥1⋃nEn−1⋃n≤NEn∥22=(μ×μ)(⋃n>NEn)⟶0\left\|\mathbf1_{\bigcup_nE_n}-\mathbf1_{\bigcup_{n\le N}E_n}\right\|_2^2 =(\mu\times\mu)\left(\bigcup_{n>N}E_n\right)\longrightarrow0

である。よってD\mathcal DはDD上の Dynkin 系である。可測長方形は共通部分で閉じたπ\pi系であり、D\mathcal Dに含まれる。§E9.1 定理 4.8により、D\mathcal DはDDの積 σ-加法族を全て含む。

有界可測関数は、実部と虚部を値の小区間に分けることにより、可測単関数で一様に近似することができる。DDの測度は有限なので一様近似はL2L^2近似でもある。各単関数の指示関数を上の長方形指示関数でL2L^2近似すれば、KmK_mは有限個の1A(x)1B(y)\mathbf1_A(x)\mathbf1_B(y)の線形結合で近似される。A,B⊆ΩmA,B\subseteq\Omega_mは有限測度なので、1A,1B∈L2(μ)\mathbf1_A,\mathbf1_B\in L^2(\mu)である。m→∞m\to\inftyと対角的に近似を選べば主張を得る。▨

定理 2.2.(Ω,Σ,μ)(\Omega,\Sigma,\mu)を σ-有限測度空間とし、K∈L2(μ×μ)K\in L^2(\mu\times\mu)とする。ほとんど全てのxxで

(TKf)(x)=∫ΩK(x,y)f(y) dμ(y)(T_Kf)(x)=\int_\Omega K(x,y)f(y)\,d\mu(y)

と定めると、TK:L2(μ)→L2(μ)T_K:L^2(\mu)\to L^2(\mu)はコンパクト作用素であり、∥TK∥≤∥K∥L2(μ×μ)\|T_K\|\le\|K\|_{L^2(\mu\times\mu)}を満たす。

証明.KKとffの可測代表元を一つずつ選ぶ。§E9.11 定理 2.3により、ほとんど全てのxxについてK(x, ⋅ )∈L2(μ)K(x,\,\cdot\,)\in L^2(\mu)である。そのようなxxでは Cauchy–Schwarz の不等式によりK(x, ⋅ )f∈L1(μ)K(x,\,\cdot\,)f\in L^1(\mu)である。

h(x,y)=K(x,y)f(y)h(x,y)=K(x,y)f(y)とおくとhhは積 σ-加法族について可測である。実部と虚部の正部分および負部分に Tonelli の定理を適用すると、それぞれのyyに関する積分はxxの可測関数である。上で得たh(x, ⋅ )∈L1(μ)h(x,\,\cdot\,)\in L^1(\mu)により、これら四つの積分はほとんど全てのxxで有限である。したがってx↦∫Ωh(x,y) dμ(y)x\mapsto\int_\Omega h(x,y)\,d\mu(y)は、例外集合上で00と定めれば可測関数になる。

K′K'がKKと積空間上でほとんど至る所一致する別の代表元であるとする。N={(x,y):K(x,y)≠K′(x,y)}N=\{(x,y):K(x,y)\ne K'(x,y)\}とおけば(μ×μ)(N)=0(\mu\times\mu)(N)=0である。Tonelli の定理を1N\mathbf1_Nに適用すると、切断Nx={y:(x,y)∈N}N_x=\{y:(x,y)\in N\}はほとんど全てのxxについてμ(Nx)=0\mu(N_x)=0を満たす。したがってKKとK′K'から得る積分はほとんど全てのxxで一致する。また、f=f′f=f'がほとんど至る所で成り立つなら、K(x, ⋅ )∈L2(μ)K(x,\,\cdot\,)\in L^2(\mu)である全てのxxについてK(x, ⋅ )fK(x,\,\cdot\,)fとK(x, ⋅ )f′K(x,\,\cdot\,)f'はほとんど至る所一致する。ゆえに、上の積分はKKとffの代表元によらず、可測関数のほとんど至る所の同値類を定める。

さらに Cauchy–Schwarz の不等式から

∣TKf(x)∣2≤(∫Ω∣K(x,y)∣2 dμ(y))∥f∥22.|T_Kf(x)|^2 \le\left(\int_\Omega|K(x,y)|^2\,d\mu(y)\right)\|f\|_2^2.

両辺をxxについて積分すると∥TKf∥2≤∥K∥2∥f∥2\|T_Kf\|_2\le\|K\|_2\|f\|_2を得る。したがって、この同値類はL2(μ)L^2(\mu)に属する。積分の線形性によりTKT_Kは線形であり、この評価から∥TK∥≤∥K∥2\|T_K\|\le\|K\|_2である。

補題 2.1により、KN(x,y)=∑j=1rNaN,j(x)bN,j(y)K_N(x,y)=\sum_{j=1}^{r_N}a_{N,j}(x)b_{N,j}(y)かつ∥K−KN∥2→0\|K-K_N\|_2\to0となる列をとる。このとき

TKNf=∑j=1rNaN,j∫ΩbN,j(y)f(y) dμ(y)T_{K_N}f =\sum_{j=1}^{r_N}a_{N,j}\int_\Omega b_{N,j}(y)f(y)\,d\mu(y)

であるからTKNT_{K_N}は有限階数であり、命題 1.3によりコンパクトである。上の評価をK−KNK-K_Nに適用すると∥TK−TKN∥≤∥K−KN∥2→0\|T_K-T_{K_N}\|\le\|K-K_N\|_2\to0となる。命題 1.5によりTKT_Kはコンパクトである。▨

3 Riesz–Schauder 型のスペクトル構造

以下ではXXを複素 Banach 空間、T:X→XT:X\to Xをコンパクト作用素とする。§E12.10 定義 1.1の定義に従い、σ(T)\sigma(T)はλI−T\lambda I-Tが有界な逆作用素をもたないλ∈C\lambda\in\mathbb Cの集合である。

補題 3.1 (Riesz の補題).MMをノルム空間ZZの真の閉部分空間とし、0<θ<10<\theta<1とする。このとき、∥z∥=1\|z\|=1かつdist⁡(z,M)>θ\operatorname{dist}(z,M)>\thetaを満たすz∈Zz\in Zが存在する。

証明.u∈Z∖Mu\in Z\setminus Mとし、d=dist⁡(u,M)>0d=\operatorname{dist}(u,M)>0とおく。d≤∥u−m0∥<d/θd\le\|u-m_0\|<d/\thetaを満たすm0∈Mm_0\in Mをとり、z=(u−m0)/∥u−m0∥z=(u-m_0)/\|u-m_0\|とする。任意のm∈Mm\in Mに対して

∥z−m∥=∥u−(m0+∥u−m0∥m)∥∥u−m0∥≥d∥u−m0∥>θ.\|z-m\|=\frac{\|u-(m_0+\|u-m_0\|m)\|}{\|u-m_0\|} \ge\frac d{\|u-m_0\|}>\theta.

したがって∥z∥=1\|z\|=1かつdist⁡(z,M)≥d/∥u−m0∥>θ\operatorname{dist}(z,M)\ge d/\|u-m_0\|>\thetaである。▨

命題 3.2.λ≠0\lambda\ne0とし、ker⁡(λI−T)={0}\ker(\lambda I-T)=\{0\}とする。このとき、あるc>0c>0が存在して

∥(λI−T)x∥≥c∥x∥(x∈X)\|(\lambda I-T)x\|\ge c\|x\|\qquad(x\in X)

が成り立つ。特にλI−T\lambda I-Tの像は閉じている。

証明. 下からの評価が存在しないと仮定すると、∥xn∥=1\|x_n\|=1かつ(λI−T)xn→0(\lambda I-T)x_n\to0となる列をとることができる。TTのコンパクト性により、部分列を取り直してTxn→yTx_n\to yとしてよい。すると

xn=λ−1(Txn+(λI−T)xn)⟶λ−1y=:x.x_n=\lambda^{-1}\bigl(Tx_n+(\lambda I-T)x_n\bigr)\longrightarrow\lambda^{-1}y=:x.

∥x∥=1\|x\|=1であり、連続性から(λI−T)x=0(\lambda I-T)x=0となる。これは核の仮定に反する。

像が閉じていることを見るため、((λI−T)wn)\bigl((\lambda I-T)w_n\bigr)が収束する列(wn)(w_n)をとる。上で得た下からの評価を差wn−wmw_n-w_mに適用すると(wn)(w_n)は Cauchy 列であり、XXの完備性からあるw∈Xw\in Xへ収束する。λI−T\lambda I-Tの連続性により(λI−T)wn→(λI−T)w(\lambda I-T)w_n\to(\lambda I-T)wとなるので、収束先はλI−T\lambda I-Tの像に属する。▨

補題 3.3.λ≠0\lambda\ne0とする。λI−T\lambda I-Tが単射なら全射であり、有界な逆作用素をもつ。

証明.A=λI−TA=\lambda I-Tとおく。AAはTTと可換である。命題 3.2によりR1=A(X)R_1=A(X)は閉じている。Rn=An(X)R_n=A^n(X)とおく。RnR_nはTTで不変であり、A∣RnA|_{R_n}は単射である。T∣RnT|_{R_n}は、RnR_nからXXへの包含写像との合成として命題 1.4によりコンパクトなので、命題 3.2を Banach 空間RnR_nに適用すると、Rn+1R_{n+1}はRnR_nで閉じている。帰納的に各RnR_nはXXの閉部分空間である。

AAが全射でないと仮定する。もしRn=Rn+1R_n=R_{n+1}となるnnがあれば、任意のx∈Xx\in Xに対してAnx=An+1yA^nx=A^{n+1}yとなるy∈Xy\in Xが存在する。AnA^nの単射性からx=Ayx=Ayとなり、AAは全射となるので矛盾する。したがってRn+1R_{n+1}は常にRnR_nの真部分空間である。

補題 3.1により、xn∈Rnx_n\in R_nを∥xn∥=1\|x_n\|=1かつdist⁡(xn,Rn+1)>1/2\operatorname{dist}(x_n,R_{n+1})>1/2となるように選ぶ。n>mn>mならxn,Axn,Axm∈Rm+1x_n,Ax_n,Ax_m\in R_{m+1}であるから

Txm−Txn=λxm+(Axn−λxn−Axm)Tx_m-Tx_n=\lambda x_m+(Ax_n-\lambda x_n-Ax_m)

より∥Txm−Txn∥>∣λ∣/2\|Tx_m-Tx_n\|>|\lambda|/2である。これは(Txn)(Tx_n)が収束部分列をもつというコンパクト性に反する。よってAAは全射である。命題 3.2の評価によりA−1A^{-1}は有界である。▨

補題 3.4.λ≠0\lambda\ne0とし、Ek=ker⁡(λI−T)kE_k=\ker(\lambda I-T)^kとおく。各EkE_kは有限次元であり、あるNNに対してEN=EN+1=⋯E_N=E_{N+1}=\cdotsとなる。したがって一般固有空間

Eλalg=⋃k≥1ker⁡(λI−T)kE_\lambda^{\mathrm{alg}}=\bigcup_{k\ge1}\ker(\lambda I-T)^k

は有限次元である。

証明. まずE1E_1が無限次元であると仮定する。補題 3.1を有限段の線形包へ繰り返し適用すると、E1E_1に単位ベクトル列(xn)(x_n)で∥xn−xm∥>1/2\|x_n-x_m\|>1/2を満たすものをとることができる。Txn=λxnTx_n=\lambda x_nなので(Txn)(Tx_n)は収束部分列をもたず、矛盾する。よってE1E_1は有限次元である。

A=λI−TA=\lambda I-Tとおく。A:Ek→Ek−1A:E_k\to E_{k-1}の核はE1E_1である。Ek−1E_{k-1}が有限次元なら、第1同型定理によりEk/E1E_k/E_1はEk−1E_{k-1}の部分空間と同型であるためEkE_kも有限次元である。帰納法により全てのEkE_kは有限次元である。

一度En=En−1E_n=E_{n-1}となれば、An+1x=0A^{n+1}x=0に対してAx∈En=En−1Ax\in E_n=E_{n-1}となるためAnx=0A^nx=0であり、En+1=EnE_{n+1}=E_nとなる。帰納的に、その後の鎖も全て等しい。したがって鎖が安定しないと仮定すると、En−1E_{n-1}はEnE_nの真の閉部分空間である。補題 3.1によりxn∈Enx_n\in E_nを∥xn∥=1\|x_n\|=1かつdist⁡(xn,En−1)>1/2\operatorname{dist}(x_n,E_{n-1})>1/2となるように選ぶ。n>mn>mならxm,Axm,Axn∈En−1x_m,Ax_m,Ax_n\in E_{n-1}であるから

Txn−Txm=λxn+(Axm−λxm−Axn)Tx_n-Tx_m=\lambda x_n+(Ax_m-\lambda x_m-Ax_n)

より∥Txn−Txm∥>∣λ∣/2\|Tx_n-Tx_m\|>|\lambda|/2となる。これはTTのコンパクト性に反する。したがって鎖は安定し、その安定値がEλalgE_\lambda^{\mathrm{alg}}である。▨

定理 3.5.XXを複素 Banach 空間、T:X→XT:X\to Xをコンパクト作用素とする。このとき次が成り立つ。

  1. σ(T)∖{0}\sigma(T)\setminus\{0\}の各点はTTの固有値である。
  2. 各非零固有値の代数的重複度dim⁡Eλalg\dim E_\lambda^{\mathrm{alg}}は有限である。
  3. 任意のε>0\varepsilon>0に対し、∣λ∣≥ε|\lambda|\ge\varepsilonを満たす非零固有値は有限個である。したがって非零スペクトルは高々可算であり、その集積点は00に限られる。

証明.λ≠0\lambda\ne0が固有値でないならλI−T\lambda I-Tは単射である。補題 3.3により有界な逆作用素をもつので、λ∉σ(T)\lambda\notin\sigma(T)である。対偶により(1)を得る。(2)は補題 3.4である。

(3)を示す。これに反して、相異なる固有値λn\lambda_nが∣λn∣≥ε|\lambda_n|\ge\varepsilonを満たすと仮定する。対応する固有ベクトルを一つずつ選び、MnM_nを最初のnn個の固有空間の和とする。相異なる固有値に属する固有ベクトルは線形独立なのでMn−1M_{n-1}はMnM_nの真部分空間であり、各MnM_nは有限次元で閉じている。補題 3.1により、yn∈Mny_n\in M_nを∥yn∥=1\|y_n\|=1かつdist⁡(yn,Mn−1)>1/2\operatorname{dist}(y_n,M_{n-1})>1/2となるように選ぶことができる。このyny_nは、(λnI−T)yn∈Mn−1(\lambda_nI-T)y_n\in M_{n-1}も満たすように、Mn=Mn−1⊕EλnM_n=M_{n-1}\oplus E_{\lambda_n}の新しい成分を保って選ぶことができる。実際、商空間Mn/Mn−1M_n/M_{n-1}上でTTはλnI\lambda_n Iとして作用する。

n>mn>mならTym∈Mm⊆Mn−1Ty_m\in M_m\subseteq M_{n-1}かつ(λnI−T)yn∈Mn−1(\lambda_nI-T)y_n\in M_{n-1}なので

Tyn−Tym=λnyn−((λnI−T)yn+Tym)Ty_n-Ty_m=\lambda_n y_n-\bigl((\lambda_nI-T)y_n+Ty_m\bigr)

から∥Tyn−Tym∥>∣λn∣/2≥ε/2\|Ty_n-Ty_m\|>|\lambda_n|/2\ge\varepsilon/2を得る。これはコンパクト性に反する。よって各ε\varepsilonに対する固有値は有限個である。非零固有値全体は⋃k≥1{λ:∣λ∣≥1/k}\bigcup_{k\ge1}\{\lambda:|\lambda|\ge1/k\}に含まれるので高々可算であり、零以外に集積点をもたない。▨

4 実作用素の複素化

定義 4.1.XXを実 Banach 空間とする。XC=X⊕XX_\mathbb C=X\oplus Xに

(a+ib)(x,y)=(ax−by,bx+ay),∥(x,y)∥C=sup⁡θ∈R∥cos⁡θ x−sin⁡θ y∥(a+ib)(x,y)=(ax-by,bx+ay),\qquad \|(x,y)\|_\mathbb C=\sup_{\theta\in\mathbb R}\|\cos\theta\,x-\sin\theta\,y\|

を入れた複素 Banach 空間をXXの複素化 (complexification) という。実有界作用素T:X→XT:X\to Xの複素化をTC(x,y)=(Tx,Ty)T_\mathbb C(x,y)=(Tx,Ty)と定める。

命題 4.2.TTが実 Banach 空間XX上のコンパクト作用素なら、TCT_\mathbb CはXCX_\mathbb C上のコンパクト作用素である。したがって実コンパクト作用素のスペクトル構造は、TCT_\mathbb Cに定理 3.5を適用することによって定めることができる。

証明.max⁡(∥x∥,∥y∥)≤∥(x,y)∥C≤∥x∥+∥y∥\max(\|x\|,\|y\|)\le\|(x,y)\|_\mathbb C\le\|x\|+\|y\|であるから、定義したノルムは直積ノルムと同値であり、XCX_\mathbb Cは完備である。複素スカラー倍に対する斉次性は、a+ib=reiφa+ib=re^{i\varphi}と書き、上限の変数θ\thetaをθ+φ\theta+\varphiへ移すことによって確認することができる。

有界列((xn,yn))((x_n,y_n))に対し、(xn)(x_n)と(yn)(y_n)はともに有界である。TTのコンパクト性から、まず(Txn)(Tx_n)が収束する部分列をとり、その部分列から(Tyn)(Ty_n)も収束する部分列をとる。この共通部分列でTC(xn,yn)T_\mathbb C(x_n,y_n)は収束する。よってTCT_\mathbb Cはコンパクトである。▨

5 具体例

例 5.1 (対角作用素と積分作用素).ℓ2\ell^2上の対角作用素Tx=(λnxn)Tx=(\lambda_nx_n)を考える。TNx=(λ1x1,…,λNxN,0,…)T_Nx=(\lambda_1x_1,\ldots,\lambda_Nx_N,0,\ldots)とおくとTNT_Nは有限階数であり、

∥T−TN∥=sup⁡n>N∣λn∣.\|T-T_N\|=\sup_{n>N}|\lambda_n|.

したがってλn→0\lambda_n\to0ならTTはコンパクトである。逆にλn↛0\lambda_n\not\to0と仮定すると、あるε>0\varepsilon>0と狭義単調増加列(nk)(n_k)が存在して∣λnk∣≥ε|\lambda_{n_k}|\ge\varepsilonを満たす。標準基底の部分列(enk)(e_{n_k})は有界であるが、j≠kj\ne kなら

∥Tenj−Tenk∥2=(∣λnj∣2+∣λnk∣2)1/2≥2 ε.\|Te_{n_j}-Te_{n_k}\|_2 =\bigl(|\lambda_{n_j}|^2+|\lambda_{n_k}|^2\bigr)^{1/2} \ge\sqrt2\,\varepsilon.

したがって(Tenk)(Te_{n_k})は収束部分列をもたず、TTのコンパクト性に反する。ゆえに、TTがコンパクトならλn→0\lambda_n\to0である。

L2([0,1])L^2([0,1])では、K(x,y)=xyK(x,y)=xyに対する積分作用素は

TKf(x)=x∫01yf(y) dyT_Kf(x)=x\int_0^1yf(y)\,dy

であり、像がspan⁡{x}\operatorname{span}\{x\}に含まれる階数1の作用素である。 Cauchy–Schwarz の不等式から∥TK∥≤∥K∥2=1/3\|T_K\|\le\|K\|_2=1/3であり、f(y)=3yf(y)=\sqrt3yで等号を得る。非零固有値は1/31/3で、固有空間はspan⁡{x}\operatorname{span}\{x\}である。

6 演習

問題 6.1 (終域の完備性を用いる箇所).命題 1.5の証明で、終域YYの完備性を用いた箇所を示せ。

問題 6.2 (二つの測度空間の間の積分作用素).定理 2.2の評価を、二つの異なる σ-有限測度空間上のL2L^2間の作用素へ拡張せよ。

問題 6.3 (値域の鎖が止まる場合).補題 3.3の証明で、Rn=Rn+1R_n=R_{n+1}からAAの全射性が従う箇所を補完せよ。

問題 6.4 (一般固有空間の鎖と包含関係).補題 3.4の証明で、鎖が安定しないと仮定したときに構成した(xn)(x_n)について、∥Txn−Txm∥>∣λ∣/2\|Tx_n-Tx_m\|>|\lambda|/2を導く各包含関係を明示せよ。

問題 6.5 (対角作用素のスペクトルとの照合).ℓ2\ell^2上のTx=(x1,x2/2,x3/3,…)Tx=(x_1,x_2/2,x_3/3,\ldots)について、非零固有値、代数的重複度、および唯一の集積点を求め、定理 3.5と照合せよ。

7 一般の有界作用素との相違

定理 3.5は複素 Banach 空間上のコンパクト作用素を扱う。一般の有界作用素では、零でないスペクトル点が固有値であるとは限らない。

参考文献

  1. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.コンパクト作用素と Riesz–Schauder 理論の証明を参考にした。
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.Fredholm 型の単射性と全射性の議論、および実作用素の複素化を参考にした。
  3. Michael Reed and Barry Simon, Methods of Modern Mathematical Physics I: Functional Analysis, revised and enlarged ed., Academic Press, New York, 1980.二乗可積分核から定まる積分作用素の評価を参考にした。

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