1 実 Hahn–Banach の定理
定義 1.1.Xを実ベクトル空間とする。写像p:X→Rが劣線形 (sublinear) であるとは、任意のx,y∈Xとt≥0に対して
p(x+y)≤p(x)+p(y),p(tx)=tp(x)が成り立つことをいう。
ノルムは劣線形であるが、一般の劣線形汎関数はp(−x)=p(x)を満たすとは限らない。
定理 1.2 (Hahn–Banach の定理:実劣線形版).Xを実ベクトル空間、M⊂Xを線形部分空間、p:X→Rを劣線形汎関数とする。実線形汎関数f:M→Rが
f(m)≤p(m)(m∈M)を満たすならば、実線形汎関数F:X→Rが存在し、F∣M=fかつ
F(x)≤p(x)(x∈X)が成り立つ。
証明.M=Xとし、x0∈X∖Mをとって一段拡張を構成する。M1=M⊕Rx0上の線形延長は、F1(x0)=αを定めると
F1(m+tx0)=f(m)+tαによって一意に定まる。F1≤pが成り立つための必要十分条件は
m∈Msup(f(m)−p(m−x0))≤α≤m∈Minf(p(m+x0)−f(m))(1)である。実際、t>0の場合はm/tを用いて右側の不等式へ帰着し、t<0の場合は−m/tを用いて左側の不等式へ帰着する。t=0の場合はf≤pである。
区間 (1) が空でないことを示す。任意のm1,m2∈Mに対して
f(m1)+f(m2)=f(m1+m2)≤p(m1+m2)≤p(m1−x0)+p(m2+x0)である。したがって
f(m1)−p(m1−x0)≤p(m2+x0)−f(m2)である。m1について上限をとり、m2について下限をとると、(1) の左端は右端以下である。よって一段拡張が存在する。
次に、fの延長の対(N,g)で、M⊂N⊂X、g:N→Rが線形、g∣M=f、g≤p∣Nを満たすもの全体をEとする。(N1,g1)⪯(N2,g2)をN1⊂N2かつg2∣N1=g1によって定める。
C⊂Eを鎖とする。Cが空ならば、(M,f)∈EがCの上界である。以下ではCが空でないとし、NC:=⋃(N,g)∈CNとおく。鎖の任意の二つの元は包含関係で比較することができるため、各x∈NCに対して、その元を含むN上のg(x)を値とする写像gCは矛盾なく定まる。同じ比較可能性からNCは線形部分空間であり、gCは線形で、gC≤pである。したがって(NC,gC)は鎖Cの上界である。
§E1.20 定理 2.1が証明する Zorn の補題をEに適用すると、極大元(N∗,g∗)が存在する。N∗=Xならば、前半の一段拡張によってg∗を真に大きい部分空間へ延長することができ、極大性に反する。よってN∗=Xであり、F=g∗が求める延長である。▨
例 1.3 (一段拡張の許容区間).X=R2にp(x,y)=max{∣x∣,∣y∣}を入れる。M=span{(1,1)}上でf(t,t)=tと定める。x0=(0,1)とすると、定理 1.2の証明で許されるα=F(x0)の範囲は
t∈Rsup(t−p(t,t−1))≤α≤t∈Rinf(p(t,t+1)−t)である。
t−p(t,t−1)はt≤1/2で2t−1、t≥1/2で0なので、左端は0である。p(t,t+1)−tはt≤−1/2で−2t、t≥−1/2で1なので、右端は1である。したがって0≤α≤1である。
α=1/2を選ぶと、延長は
F(x,y)=2x+yとなる。実際、
∣F(x,y)∣≤2∣x∣+∣y∣≤max{∣x∣,∣y∣}=p(x,y)であり、F(t,t)=tである。よってFはノルムを保つ延長である。
2 ノルムを保つ実・複素延長
系 2.1 (ノルムを保つ実 Hahn–Banach).Xを実ノルム空間、M⊂Xを線形部分空間、f∈M∗とする。このとき、あるF∈X∗が存在し、F∣M=fかつ∥F∥=∥f∥である。
証明.p(x)=∥f∥∥x∥とおく。定理 1.2による延長FはF(x)≤∥f∥∥x∥を満たす。−F(x)=F(−x)≤∥f∥∥−x∥でもあるため、∣F(x)∣≤∥f∥∥x∥であり、∥F∥≤∥f∥である。一方、Fはfの延長なので∥F∥≥∥f∥である。したがって等号が成り立つ。▨
定理 2.2 (ノルムを保つ複素 Hahn–Banach).Xを複素ノルム空間、M⊂Xを複素線形部分空間、f∈M∗とする。このとき、ある複素線形汎関数F∈X∗が存在し、F∣M=fかつ∥F∥=∥f∥である。
証明.u=Refとおく。m∈Mに対して∣u(m)∣≤∣f(m)∣≤∥f∥∥m∥なので、実 Hahn–Banach により、実線形汎関数U:X→Rが存在し、U∣M=uかつ∣U(x)∣≤∥f∥∥x∥となる。
F(x):=U(x)−iU(ix)と定める。Uの実線形性からFは加法的であり、実数倍を保つ。また、
F(ix)=U(ix)−iU(−x)=U(ix)+iU(x)=iF(x)なので、Fは複素線形である。m∈Mに対してU(im)=Ref(im)=−Imf(m)であるため、
F(m)=Ref(m)+iImf(m)=f(m).F(x)=0のとき、λ∈Cを∣λ∣=1かつλF(x)=∣F(x)∣となるようにとる。Fの複素線形性とReF(z)=U(z)から
∣F(x)∣=ReF(λx)=U(λx)≤∥f∥∥λx∥=∥f∥∥x∥を得る。F(x)=0の場合も同じ評価が成り立つ。よって∥F∥≤∥f∥であり、制限から逆向きの不等式も成り立つため∥F∥=∥f∥である。▨
3 双対空間による分離とノルム表示
系 3.1.Xを実または複素ノルム空間とする。任意のx∈X∖{0}に対して、あるf∈X∗が存在し、
∥f∥=1,f(x)=∥x∥が成り立つ。したがって、x=yならば、あるf∈X∗が存在してf(x)=f(y)となる。
証明.M=Kxとし、f0(αx)=α∥x∥と定める。f0は線形であり、∣f0(αx)∣=∥αx∥なので∥f0∥=1である。実または複素 Hahn–Banach によってf0をノルムを保ってXへ延長する。x=yの場合はx−y=0に同じ主張を適用する。▨
証明.∥f∥≤1なら∣f(x)∣≤∥x∥なので、右辺は∥x∥以下である。x=0なら系 3.1が等号を達成するfを与える。x=0の場合は両辺が0である。▨
定理 3.3.J:X→X∗∗を
(Jx)(f):=f(x)(x∈X, f∈X∗)によって定めると、Jは線形等長写像である。特にJは単射である。
証明.Jの線形性は定義から従う。任意のf∈X∗に対して∣(Jx)(f)∣=∣f(x)∣≤∥f∥∥x∥なのでJx∈X∗∗かつ∥Jx∥≤∥x∥である。一方、系 3.1により、x=0に対して∥f∥=1かつf(x)=∥x∥となるfが存在する。したがって∥Jx∥≥∥x∥である。x=0の場合も含めて∥Jx∥=∥x∥となり、Jは等長である。等長写像の核は{0}なのでJは単射である。▨
4 点と閉部分空間の分離
定理 4.1.Mをノルム空間Xの閉線形部分空間とし、x0∈/Mとする。d:=dist(x0,M)とおくとd>0であり、あるf∈X∗が存在して
f∣M=0,f(x0)=1,∥f∥=d1が成り立つ。
証明.d=0ならば、各nに対してmn∈Mを∥x0−mn∥<1/nとなるようにとることができる。このときmn→x0であり、Mの閉性からx0∈Mとなるので矛盾する。よってd>0である。
N=M⊕Kx0上でf0(m+αx0)=αと定める。α=0ならば
∥m+αx0∥=∣α∣∥x0+α−1m∥≥∣α∣dなので、∣f0(m+αx0)∣≤d−1∥m+αx0∥である。α=0の場合も同じ評価が成り立つため∥f0∥≤1/dである。
任意のε>0に対してm∈Mを∥x0−m∥<d+εとなるようにとると、f0(x0−m)=1なので∥f0∥≥1/(d+ε)である。ε↓0とすると∥f0∥=1/dを得る。実または複素 Hahn–Banach によってf0をノルムを保ってXへ延長すれば、主張するfを得る。▨
例 4.2 (分離超平面の具体例).X=R2に Euclid ノルムを入れ、M={(s,0):s∈R}、x0=(0,2)とする。dist(x0,M)=2である。汎関数f(s,t)=t/2は
f∣M=0,f(x0)=1,∥f∥=21を満たす。集合{f=0}=Mはx0とMを分離する超平面である。
5 演習
問題 5.1 (一段拡張の許容区間の導出).定理 1.2の一段拡張で、t>0とt<0の場合から式 (1) を導け。不等号を負数で割る箇所を明示せよ。
問題 5.2 (実部からの複素線形性の復元). 複素 Hahn–Banach の証明でF(ix)=iF(x)を用いて複素線形性を導き、ReF=Uを確認せよ。
問題 5.3 (閉でない部分空間への距離).定理 4.1のMが閉じていない場合、x0∈/Mであってもdist(x0,M)=0となる例をc00⊂c0から構成せよ。
問題 5.4 (標準写像の像の閉性).J:X→X∗∗の像が閉じていることを、定理 3.3と§E12.1 命題 1.4を用いて、Xが Banach 空間である場合に証明せよ。