§E3.2線形空間と座標

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座標空間KnK^nには、ii番目の成分だけが11であるような列の組が標準的な組として備わっており、任意の元はこれらのスカラー倍の和として書き表される。しかし、一般の線形空間にはそのような基準となる組が最初から備わっているわけではなく、加法とスカラー倍の構造だけからは、その元を係数の組として表す方法は定まらない。順序を付けた基底を一つ選ぶと、その線形空間の任意の元はこの基底に関する係数の組としてただ一つに表され、その組を座標と呼ぶ。

順序付き基底を選ぶと、その線形空間から座標空間への、加法とスカラー倍を保つ全単射が定まり、線形代数における行列を用いた計算はこの対応を通じて行われている。R2\mathbb{R}^2の同じベクトルであっても、選ぶ順序付き基底を取り替えれば対応する座標は異なる組になりうる。本記事では、線形空間に順序付き基底を選ぶことがもたらす座標について解説する。

1 線形空間と部分空間

定義 1.1.KKを可換体とする(§E3.1 定義 1.1。以下、可換体の公理を同定義の (F1) から (F9) の番号によって引用する)。集合VVと二つの写像+:V×V→V+ : V \times V \to V、⋅:K×V→V\cdot : K \times V \to Vの組が次の八つの条件をすべて満たすとき、VVをKK上の線形空間 (vector space) という。以下、a⋅va \cdot vをavavと書き、VVの元をベクトル (vector) という。

  • (V1) 任意のu,v,w∈Vu, v, w \in Vについて(u+v)+w=u+(v+w)(u + v) + w = u + (v + w)が成り立つ。
  • (V2) 任意のu,v∈Vu, v \in Vについてu+v=v+uu + v = v + uが成り立つ。
  • (V3) ある元0V∈V0_V \in Vが存在して、任意のv∈Vv \in Vについてv+0V=vv + 0_V = vが成り立つ。この条件を満たす元を零ベクトル (zero vector) という。
  • (V4) 任意のv∈Vv \in Vに対して、v+w=0Vv + w = 0_Vを満たすw∈Vw \in Vが存在する。
  • (V5) 任意のa,b∈Ka, b \in Kとv∈Vv \in Vについて(ab)v=a(bv)(ab)v = a(bv)が成り立つ。
  • (V6) 任意のv∈Vv \in Vについて1v=v1v = vが成り立つ。ここで11は (F7) の元である。
  • (V7) 任意のa∈Ka \in Kとu,v∈Vu, v \in Vについてa(u+v)=au+ava(u + v) = au + avが成り立つ。
  • (V8) 任意のa,b∈Ka, b \in Kとv∈Vv \in Vについて(a+b)v=av+bv(a + b)v = av + bvが成り立つ。

注意 1.2. 係数体KKの零元と線形空間VVの零ベクトルは異なる対象である。両者を区別する必要がある箇所では、前者を0K0_K、後者を0V0_Vと書き、区別が文脈から明らかな箇所ではいずれも00と書く。

命題 1.3.VVを可換体KK上の線形空間とする。次が成り立つ。

  1. (V3) の条件を満たす元0V0_Vはただ一つに定まる。
  2. 各v∈Vv \in Vに対して、v+w=0Vv + w = 0_Vを満たすw∈Vw \in Vはただ一つに定まる。以下、このwwを−v-vと書き、u+(−v)u + (-v)をu−vu - vと書く。
  3. 任意のv∈Vv \in Vについて0Kv=0V0_K v = 0_Vが成り立つ。
  4. 任意のa∈Ka \in Kについてa0V=0Va 0_V = 0_Vが成り立つ。
  5. 任意のv∈Vv \in Vについて(−1)v=−v(-1)v = -vが成り立つ。ここで−1-1はKKの11の加法についての逆元(§E3.1 命題 1.3 (2))である。

証明.(1)を示す。0V0_Vと0V′0'_Vがともに (V3) の条件を満たすとする。0V′0'_Vについての条件をv=0Vv = 0_Vに適用すると0V+0V′=0V0_V + 0'_V = 0_Vであり、0V0_Vについての条件をv=0V′v = 0'_Vに適用すると0V′+0V=0V′0'_V + 0_V = 0'_Vである。(V2) により0V+0V′=0V′+0V0_V + 0'_V = 0'_V + 0_Vであるから、0V=0V′0_V = 0'_Vである。

(2)を示す。wwとw′w'がともにv+w=0Vv + w = 0_V、v+w′=0Vv + w' = 0_Vを満たすとする。(V3)、(V1)、(V2) を順に用いて

w=w+0V=w+(v+w′)=(w+v)+w′=(v+w)+w′=0V+w′=w′+0V=w′w = w + 0_V = w + (v + w') = (w + v) + w' = (v + w) + w' = 0_V + w' = w' + 0_V = w'

を得る。

(3)を示す。(F3) により0K=0K+0K0_K = 0_K + 0_Kであるから、(V8) により0Kv=(0K+0K)v=0Kv+0Kv0_K v = (0_K + 0_K)v = 0_K v + 0_K vである。(V4) により0Kv+w=0V0_K v + w = 0_Vを満たすw∈Vw \in Vが存在する。このwwを用いると、(V1) と (V3) により

0V=0Kv+w=(0Kv+0Kv)+w=0Kv+(0Kv+w)=0Kv+0V=0Kv0_V = 0_K v + w = (0_K v + 0_K v) + w = 0_K v + (0_K v + w) = 0_K v + 0_V = 0_K v

となる。

(4)を示す。(V3) により0V=0V+0V0_V = 0_V + 0_Vであるから、(V7) によりa0V=a0V+a0Va 0_V = a 0_V + a 0_Vである。(V4) によりa0V+w=0Va 0_V + w = 0_Vを満たすw∈Vw \in Vが存在し、(3)と同じ計算によりa0V=0Va 0_V = 0_Vとなる。

(5)を示す。(V6)、(V8)、−1-1の定義、および(3)により

v+(−1)v=1v+(−1)v=(1+(−1))v=0Kv=0Vv + (-1)v = 1v + (-1)v = (1 + (-1))v = 0_K v = 0_V

である。したがって(−1)v(-1)vはvvの加法についての逆元であり、(2)の一意性により(−1)v=−v(-1)v = -vである。▨

定義 1.4.VVを可換体KK上の線形空間とする。部分集合W⊆VW \subseteq VがVVの部分空間 (subspace) であるとは、次の二つの条件が成り立つことをいう。

  1. 任意のu,v∈Wu, v \in Wとa∈Ka \in Kについてu+v∈Wu + v \in Wかつau∈Wau \in Wである。
  2. VVの加法とスカラー倍をWWへ制限して得られる二つの写像によって、WWはKK上の線形空間になる。

命題 1.5.VVを可換体KK上の線形空間とし、W⊆VW \subseteq Vを空でない部分集合とする。WWがVVの部分空間であるための必要十分条件は、任意のu,v∈Wu, v \in Wとa,b∈Ka, b \in Kについてau+bv∈Wau + bv \in Wが成り立つことである。

証明.WWを部分空間とする。u,v∈Wu, v \in Wとa,b∈Ka, b \in Kに対して、定義 1.4 条件 (a)によりau∈Wau \in Wかつbv∈Wbv \in Wであり、再び定義 1.4 条件 (a)によりau+bv∈Wau + bv \in Wである。よって条件は必要である。

逆に条件を仮定する。WWは空でないので、元w∈Ww \in Wを一つ取る。u=v=wu = v = w、a=b=0Ka = b = 0_Kとすると0Kw+0Kw∈W0_K w + 0_K w \in Wであり、命題 1.3 (3)と (V3) により0Kw+0Kw=0V+0V=0V0_K w + 0_K w = 0_V + 0_V = 0_Vであるから、0V∈W0_V \in Wである。u,v∈Wu, v \in Wに対してa=b=1a = b = 1とすると、(V6) により1u+1v=u+v1u + 1v = u + vであるからu+v∈Wu + v \in Wである。u∈Wu \in Wとa∈Ka \in Kに対してv=uv = u、b=0Kb = 0_Kとすると、命題 1.3 (3)と (V3) によりau+0Ku=au+0V=auau + 0_K u = au + 0_V = auであるからau∈Wau \in Wである。よって定義 1.4 条件 (a)が成り立つ。

制限した演算がWWを線形空間にすることを確かめる。(V1)、(V2)、(V5)、(V6)、(V7)、(V8) は、VVの中で成り立つ等式をWWの元へ適用したものであるから成り立つ。上で示した0V∈W0_V \in Wが (V3) の条件を満たす。u∈Wu \in Wに対してv=uv = u、a=−1a = -1、b=0Kb = 0_Kとすると、命題 1.3 (3)、命題 1.3 (5)と (V3) により(−1)u+0Ku=−u+0V=−u(-1)u + 0_K u = -u + 0_V = -uであるから−u∈W-u \in Wであり、これが (V4) の条件を満たす。したがってWWは部分空間である。▨

定義 1.6.KKを可換体とする。文字ttとKKの元a0,a1,a2,a3a_0, a_1, a_2, a_3を用いた形式的な式p=a0+a1t+a2t2+a3t3p = a_0 + a_1 t + a_2 t^2 + a_3 t^3を、次数が33以下の多項式 (polynomial) といい、a0a_0をppの定数項 (constant term) という。二つの多項式は、対応する係数がすべて等しいときに等しいと定める。次数が33以下の多項式の全体をK[t]≤3K[t]_{\le 3}と書き、q=b0+b1t+b2t2+b3t3q = b_0 + b_1 t + b_2 t^2 + b_3 t^3とc∈Kc \in Kに対して、和とスカラー倍を

p+q=(a0+b0)+(a1+b1)t+(a2+b2)t2+(a3+b3)t3,cp=(ca0)+(ca1)t+(ca2)t2+(ca3)t3p + q = (a_0 + b_0) + (a_1 + b_1)t + (a_2 + b_2)t^2 + (a_3 + b_3)t^3, \qquad cp = (ca_0) + (ca_1)t + (ca_2)t^2 + (ca_3)t^3

によって定める。

命題 1.7.KKを可換体とする。K[t]≤3K[t]_{\le 3}はKK上の線形空間である。零ベクトルはすべての係数が00である多項式(零多項式)であり、p=a0+a1t+a2t2+a3t3p = a_0 + a_1 t + a_2 t^2 + a_3 t^3の加法についての逆元は、各係数を−ai-a_iに取り替えた多項式である。

証明.定義 1.6により、K[t]≤3K[t]_{\le 3}の和とスカラー倍は係数の四つ組に対する成分ごとの演算であり、多項式の相等は係数ごとの相等である。したがって定義 1.1の (V1) から (V8) は、係数ごとに読むと、それぞれ (F1)、(F2)、(F3)、(F4)、(F5)、(F7)、(F9)、および (F6) と (F9) から得られる等式(a+b)c=ac+bc(a + b)c = ac + bcに帰着する。(V3) の条件は零多項式が満たし、ppに対する (V4) の条件は、各係数を−ai-a_iに取り替えた多項式が満たす。▨

例 1.8 (多項式空間の部分空間).KKを可換体とし、KK上の線形空間K[t]≤3K[t]_{\le 3}(命題 1.7)の部分集合を二つ調べる。

定数項が00である多項式の全体W={ p∈K[t]≤3∣p の定数項が 0 }W = \{\, p \in K[t]_{\le 3} \mid p \text{ の定数項が } 0 \,\}は部分空間である。実際、零多項式が属するのでWWは空でない。p,q∈Wp, q \in Wとa,b∈Ka, b \in Kについて、ap+bqap + bqの定数項はa⋅0+b⋅0a \cdot 0 + b \cdot 0であり、§E3.1 命題 1.3 (3)、(F6)、(F3) により00に等しいから、ap+bq∈Wap + bq \in Wである。よって命題 1.5によりWWは部分空間である。

一方、定数項が11である多項式の全体SSは部分空間ではない。SSが部分空間であると仮定すると、定数多項式11はSSに属するので、スカラー倍について閉じていること(定義 1.4 条件 (a))により0K⋅10_K \cdot 1がSSに属し、命題 1.3 (3)により0K⋅10_K \cdot 1は零多項式である。しかし零多項式の定数項は00であり、(F7) により0≠10 \ne 1であるから、零多項式はSSに属さない。この矛盾により、SSは部分空間ではない。

2 座標空間と順序付き基底

定義 2.1.KKを可換体、nnを正の整数とする。KKの元を成分とするnn行11列の行列の全体KnK^n(§E3.1 定義 4.1)を、行列の和とスカラー倍を備えた集合と見たものを、KK上の座標空間 (coordinate space) という。x∈Knx \in K^nの第ii行の成分をxxの第ii成分 (i-th coordinate) といい、xix_iと書く。第ii成分がxix_iであるKnK^nの元を(x1,…,xn)T(x_1, \ldots, x_n)^{\mathsf T}とも書く。第ii成分が11で他の成分が00であるKnK^nの元をeie_iと書く。

命題 2.2.KKを可換体、nnを正の整数とする。KnK^nはKK上の線形空間である。零ベクトルはすべての成分が00である列であり、x∈Knx \in K^nの加法についての逆元は第ii成分が−xi-x_iである列である。

証明.§E3.1 定義 4.1により、KnK^nの和とスカラー倍は成分ごとの演算(x+y)i=xi+yi(x + y)_i = x_i + y_i、(cx)i=cxi(cx)_i = c x_iである。したがって定義 1.1の (V1) から (V8) は、第ii成分ごとに読むと、それぞれ (F1)、(F2)、(F3)、(F4)、(F5)、(F7)、(F9)、および (F6) と (F9) から得られる等式(a+b)c=ac+bc(a + b)c = ac + bcに帰着する。(V3) の条件は、すべての成分が00である列が満たし、xxに対する (V4) の条件は、第ii成分が−xi-x_iである列が満たす。▨

定義 2.3.VVを可換体KK上の線形空間、nnを正の整数とし、v1,…,vn∈Vv_1, \ldots, v_n \in Vとする。組B=(v1,…,vn)\mathcal B = (v_1, \ldots, v_n)がVVの順序付き基底 (ordered basis) であるとは、任意のv∈Vv \in Vに対して

v=a1v1+⋯+anvnv = a_1 v_1 + \cdots + a_n v_n

を満たすKKの元の組(a1,…,an)(a_1, \ldots, a_n)がただ一つ存在することをいう。このとき、この一意な組を列として並べた(a1,…,an)T∈Kn(a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T} \in K^nを、B\mathcal Bに関するvvの座標 (coordinate vector) といい、[v]B[v]_{\mathcal B}と書く。vvに[v]B[v]_{\mathcal B}を対応させる写像[ ⋅ ]B:V→Kn[\,\cdot\,]_{\mathcal B} : V \to K^nを、B\mathcal Bが定める座標写像 (coordinate map) という。

命題 2.4.KKを可換体、nnを正の整数とする。組(e1,…,en)(e_1, \ldots, e_n)は座標空間KnK^nの順序付き基底であり、任意のx∈Knx \in K^nについて、この順序付き基底に関するxxの座標はxx自身である。

証明.x=(x1,…,xn)T∈Knx = (x_1, \ldots, x_n)^{\mathsf T} \in K^nとする。a1,…,an∈Ka_1, \ldots, a_n \in Kに対して、a1e1+⋯+anena_1 e_1 + \cdots + a_n e_nの第ii成分は、和とスカラー倍の定義(§E3.1 定義 4.1)によりa1(e1)i+⋯+an(en)ia_1 (e_1)_i + \cdots + a_n (e_n)_iである。(ej)i(e_j)_iはj=ij = iのとき11、j≠ij \ne iのとき00であるから、(F7)、(F6) と§E3.1 命題 1.3 (3)、および (F2) と (F3) により、この和はaia_iに等しい。したがって、x=a1e1+⋯+anenx = a_1 e_1 + \cdots + a_n e_nが成り立つことと、各iiについてai=xia_i = x_iが成り立つことは同値である。すなわちxxは、組(x1,…,xn)(x_1, \ldots, x_n)による表示をもち、それ以外の表示をもたない。よって(e1,…,en)(e_1, \ldots, e_n)はKnK^nの順序付き基底であり、xxの座標は(x1,…,xn)T=x(x_1, \ldots, x_n)^{\mathsf T} = xである。▨

定義 2.5.命題 2.4が与えるKnK^nの順序付き基底(e1,…,en)(e_1, \ldots, e_n)を、座標空間KnK^nの標準順序基底 (standard ordered basis) という。

定理 2.6.VVを可換体KK上の線形空間とし、B=(v1,…,vn)\mathcal B = (v_1, \ldots, v_n)をVVの順序付き基底とする。座標写像[ ⋅ ]B:V→Kn[\,\cdot\,]_{\mathcal B} : V \to K^n(定義 2.3)について次が成り立つ。

  1. [ ⋅ ]B[\,\cdot\,]_{\mathcal B}は全単射であり、その逆写像は(a1,…,an)T(a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T}にa1v1+⋯+anvna_1 v_1 + \cdots + a_n v_nを対応させる写像である。
  2. 任意のu,v∈Vu, v \in Vについて[u+v]B=[u]B+[v]B[u + v]_{\mathcal B} = [u]_{\mathcal B} + [v]_{\mathcal B}が成り立つ。
  3. 任意のc∈Kc \in Kとv∈Vv \in Vについて[cv]B=c[v]B[cv]_{\mathcal B} = c[v]_{\mathcal B}が成り立つ。
  4. 各i=1,…,ni = 1, \ldots, nについて[vi]B=ei[v_i]_{\mathcal B} = e_iが成り立つ。
  5. 写像F:V→KnF : V \to K^nが、任意のu,v∈Vu, v \in Vとc∈Kc \in KについてF(u+v)=F(u)+F(v)F(u + v) = F(u) + F(v)かつF(cv)=cF(v)F(cv) = cF(v)を満たし、さらに各i=1,…,ni = 1, \ldots, nについてF(vi)=eiF(v_i) = e_iを満たすならば、F=[ ⋅ ]BF = [\,\cdot\,]_{\mathcal B}である。

証明.(1)を示す。写像Φ:Kn→V\Phi : K^n \to VをΦ((a1,…,an)T)=a1v1+⋯+anvn\Phi\bigl((a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T}\bigr) = a_1 v_1 + \cdots + a_n v_nで定める。v∈Vv \in Vに対して、[v]B=(a1,…,an)T[v]_{\mathcal B} = (a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T}とはv=a1v1+⋯+anvnv = a_1 v_1 + \cdots + a_n v_nが成り立つことであるから、Φ([v]B)=v\Phi([v]_{\mathcal B}) = vである。逆にx=(x1,…,xn)T∈Knx = (x_1, \ldots, x_n)^{\mathsf T} \in K^nに対して、Φ(x)=x1v1+⋯+xnvn\Phi(x) = x_1 v_1 + \cdots + x_n v_nは組(x1,…,xn)(x_1, \ldots, x_n)による表示をもつので、表示の一意性により[Φ(x)]B=x[\Phi(x)]_{\mathcal B} = xである。したがって[ ⋅ ]B[\,\cdot\,]_{\mathcal B}とΦ\Phiは互いに逆写像であり、[ ⋅ ]B[\,\cdot\,]_{\mathcal B}は全単射である。

(2)を示す。[u]B=(a1,…,an)T[u]_{\mathcal B} = (a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T}、[v]B=(b1,…,bn)T[v]_{\mathcal B} = (b_1, \ldots, b_n)^{\mathsf T}とする。(V1) と (V2) により有限和の項の順序を入れ替えることができ、(V8) によりaivi+bivi=(ai+bi)via_i v_i + b_i v_i = (a_i + b_i)v_iであるから、

u+v=(a1v1+⋯+anvn)+(b1v1+⋯+bnvn)=(a1+b1)v1+⋯+(an+bn)vnu + v = (a_1 v_1 + \cdots + a_n v_n) + (b_1 v_1 + \cdots + b_n v_n) = (a_1 + b_1)v_1 + \cdots + (a_n + b_n)v_n

である。表示の一意性により[u+v]B[u + v]_{\mathcal B}は第ii成分がai+bia_i + b_iである列であり、行列の和の定義(§E3.1 定義 4.1)によりこれは[u]B+[v]B[u]_{\mathcal B} + [v]_{\mathcal B}に等しい。

(3)を示す。[v]B=(a1,…,an)T[v]_{\mathcal B} = (a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T}とすると、(V7) と (V5) により

cv=c(a1v1+⋯+anvn)=(ca1)v1+⋯+(can)vncv = c(a_1 v_1 + \cdots + a_n v_n) = (ca_1)v_1 + \cdots + (ca_n)v_n

である。表示の一意性とスカラー倍の定義により[cv]B=c[v]B[cv]_{\mathcal B} = c[v]_{\mathcal B}である。

(4)を示す。命題 1.3 (3)、(V2)、(V3)、(V6) により

vi=0Kv1+⋯+0Kvi−1+1vi+0Kvi+1+⋯+0Kvnv_i = 0_K v_1 + \cdots + 0_K v_{i-1} + 1 v_i + 0_K v_{i+1} + \cdots + 0_K v_n

である。この表示の係数を列として並べたものはeie_iであるから、[vi]B=ei[v_i]_{\mathcal B} = e_iである。

(5)を示す。FFが条件を満たすとする。加法についての条件を繰り返し用いると、項の個数についての帰納法によりF(u1+⋯+um)=F(u1)+⋯+F(um)F(u_1 + \cdots + u_m) = F(u_1) + \cdots + F(u_m)が従う。v∈Vv \in Vの表示をv=a1v1+⋯+anvnv = a_1 v_1 + \cdots + a_n v_nとすると、

F(v)=F(a1v1)+⋯+F(anvn)=a1F(v1)+⋯+anF(vn)=a1e1+⋯+anenF(v) = F(a_1 v_1) + \cdots + F(a_n v_n) = a_1 F(v_1) + \cdots + a_n F(v_n) = a_1 e_1 + \cdots + a_n e_n

である。命題 2.4により(a1,…,an)T=a1e1+⋯+anen(a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T} = a_1 e_1 + \cdots + a_n e_nであるから、F(v)=(a1,…,an)T=[v]BF(v) = (a_1, \ldots, a_n)^{\mathsf T} = [v]_{\mathcal B}である。よってF=[ ⋅ ]BF = [\,\cdot\,]_{\mathcal B}である。▨

注意 2.7. 本記事の順序付き基底の定義は、表示の一意な存在だけを要求する。順序も個数の有限性も課さない基底の概念とその存在、一次独立性と生成性による定式化、および次元は、後続の記事「基底と次元」が扱う。また、定理 2.6 (2)と定理 2.6 (3)の形の、加法とスカラー倍を保つという条件を満たす写像の一般論は、後続の記事「線形写像の像と核」が扱う。

補題 2.8.KKを可換体、m,nm, nを正の整数とし、A=(aij)∈Mm,n(K)A = (a_{ij}) \in M_{m,n}(K)とする。AAの第jj列、すなわち第ii成分がaija_{ij}であるKmK^mの元をpjp_jと書く。次が成り立つ。

  1. 任意のx=(x1,…,xn)T∈Knx = (x_1, \ldots, x_n)^{\mathsf T} \in K^nについてAx=x1p1+⋯+xnpnAx = x_1 p_1 + \cdots + x_n p_nが成り立つ。
  2. 各j=1,…,nj = 1, \ldots, nについてAej=pjAe_j = p_jが成り立つ。
  3. B∈Mm,n(K)B \in M_{m,n}(K)が、任意のx∈Knx \in K^nについてAx=BxAx = Bxを満たすならば、A=BA = Bである。

証明.(1)を示す。積の定義(§E3.1 定義 4.1)により(Ax)i=∑j=1naijxj(Ax)_i = \sum_{j=1}^{n} a_{ij}x_jである。他方、和とスカラー倍の定義により(x1p1+⋯+xnpn)i=∑j=1nxjaij(x_1 p_1 + \cdots + x_n p_n)_i = \sum_{j=1}^{n} x_j a_{ij}である。(F6) により両者は等しい。

(2)を示す。(ej)k(e_j)_kはk=jk = jのとき11、k≠jk \ne jのとき00であるから、単位行列の定義(§E3.1 定義 4.1)により(ej)k=(In)kj(e_j)_k = (I_n)_{kj}である。したがって、積の定義により

(Aej)i=∑k=1naik(ej)k=∑k=1naik(In)kj=(AIn)ij(Ae_j)_i = \sum_{k=1}^{n} a_{ik}(e_j)_k = \sum_{k=1}^{n} a_{ik}(I_n)_{kj} = (AI_n)_{ij}

であり、§E3.1 命題 4.2 (3)によりAIn=AAI_n = Aであるから、(Aej)i=aij(Ae_j)_i = a_{ij}である。すなわちAejAe_jの各成分はpjp_jの対応する成分に等しく、Aej=pjAe_j = p_jである。

(3)を示す。BBの第jj列をqjq_jとすると、(2)により、各jjについてpj=Aej=Bej=qjp_j = Ae_j = Be_j = q_jである。すべての列が一致するのでA=BA = Bである。▨

命題 2.9.VVを可換体KK上の線形空間とし、B=(v1,…,vn)\mathcal B = (v_1, \ldots, v_n)とC=(w1,…,wn)\mathcal C = (w_1, \ldots, w_n)をVVの順序付き基底とする。P∈Mn(K)P \in M_n(K)を、第jj列が[wj]B[w_j]_{\mathcal B}である行列とする。このときPPは可逆(§E3.1 定義 4.1)であり、任意のv∈Vv \in Vについて

[v]B=P[v]C,[v]C=P−1[v]B[v]_{\mathcal B} = P[v]_{\mathcal C}, \qquad [v]_{\mathcal C} = P^{-1}[v]_{\mathcal B}

が成り立つ。

証明. 第一の等式を示す。[v]C=(c1,…,cn)T[v]_{\mathcal C} = (c_1, \ldots, c_n)^{\mathsf T}とするとv=c1w1+⋯+cnwnv = c_1 w_1 + \cdots + c_n w_nである。定理 2.6 (2)と定理 2.6 (3)を繰り返し用いると

[v]B=c1[w1]B+⋯+cn[wn]B[v]_{\mathcal B} = c_1 [w_1]_{\mathcal B} + \cdots + c_n [w_n]_{\mathcal B}

であり、右辺は補題 2.8 (1)によりP[v]CP[v]_{\mathcal C}に等しい。

可逆性を示す。Q∈Mn(K)Q \in M_n(K)を、第jj列が[vj]C[v_j]_{\mathcal C}である行列とすると、B\mathcal BとC\mathcal Cの役割を入れ替えた第一の等式により、任意のv∈Vv \in Vについて[v]C=Q[v]B[v]_{\mathcal C} = Q[v]_{\mathcal B}である。したがって、積の結合法則(§E3.1 命題 4.2 (1))により、任意のv∈Vv \in Vについて

(PQ)[v]B=P(Q[v]B)=P[v]C=[v]B(PQ)[v]_{\mathcal B} = P\bigl(Q[v]_{\mathcal B}\bigr) = P[v]_{\mathcal C} = [v]_{\mathcal B}

である。定理 2.6 (1)により座標写像[ ⋅ ]B[\,\cdot\,]_{\mathcal B}は全単射であるから、vvがVVの全体を動くとき[v]B[v]_{\mathcal B}はKnK^nのすべての元を動く。よって任意のx∈Knx \in K^nについて(PQ)x=x=Inx(PQ)x = x = I_n xが成り立ち(後者は§E3.1 命題 4.2 (3))、補題 2.8 (3)によりPQ=InPQ = I_nである。B\mathcal BとC\mathcal Cの役割を入れ替えた同じ議論によりQP=InQP = I_nである。したがってPPは可逆であり、§E3.1 命題 4.2 (4)によりP−1=QP^{-1} = Qである。第二の等式は、[v]C=Q[v]B=P−1[v]B[v]_{\mathcal C} = Q[v]_{\mathcal B} = P^{-1}[v]_{\mathcal B}として従う。▨

例 2.10 (同じベクトルの異なる座標). 係数体を実数体R\mathbb{R}(§E3.1 例 2.1)とし、V=R2V = \mathbb{R}^2とする。B=(e1,e2)\mathcal B = (e_1, e_2)を標準順序基底とし、w1=(1,1)Tw_1 = (1, 1)^{\mathsf T}、w2=(1,−1)Tw_2 = (1, -1)^{\mathsf T}、C=(w1,w2)\mathcal C = (w_1, w_2)とする。

C\mathcal CがR2\mathbb{R}^2の順序付き基底であることを確かめる。c1,c2∈Rc_1, c_2 \in \mathbb{R}について、成分ごとの計算によりc1w1+c2w2=(c1+c2, c1−c2)Tc_1 w_1 + c_2 w_2 = (c_1 + c_2,\ c_1 - c_2)^{\mathsf T}である。したがって、(x,y)T=c1w1+c2w2(x, y)^{\mathsf T} = c_1 w_1 + c_2 w_2が成り立つことは、c1+c2=xc_1 + c_2 = xかつc1−c2=yc_1 - c_2 = yが成り立つことと同値である。この二式が成り立つならば、両式の和と差から2c1=x+y2c_1 = x + y、2c2=x−y2c_2 = x - yであり、実数22は00でないから

c1=x+y2,c2=x−y2c_1 = \frac{x + y}{2}, \qquad c_2 = \frac{x - y}{2}

である。逆に、このc1,c2c_1, c_2は二式を満たす。よって任意の(x,y)T∈R2(x, y)^{\mathsf T} \in \mathbb{R}^2がただ一つの表示をもち、C\mathcal Cは順序付き基底である。

命題 2.4により[wj]B=wj[w_j]_{\mathcal B} = w_jであるから、命題 2.9の行列は

P=(111−1)P = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}

である。B0=12(111−1)B_0 = \dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}とおいて積を両方の順序で計算すると、PB0=B0P=12(2002)=I2P B_0 = B_0 P = \dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 0 & 2 \end{pmatrix} = I_2であるから、§E3.1 命題 4.2 (4)により

P−1=12(111−1)P^{-1} = \frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}

である。v=(3,1)Tv = (3, 1)^{\mathsf T}とすると、命題 2.4により[v]B=v=(3,1)T[v]_{\mathcal B} = v = (3, 1)^{\mathsf T}であり、命題 2.9により

[v]C=P−1[v]B=12(111−1)(31)=(21)[v]_{\mathcal C} = P^{-1}[v]_{\mathcal B} = \frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2 \\ 1 \end{pmatrix}

である。検算すると2w1+1w2=(2+1, 2−1)T=(3,1)T=v2w_1 + 1w_2 = (2 + 1,\ 2 - 1)^{\mathsf T} = (3, 1)^{\mathsf T} = vである。同じベクトルvvの座標は、B\mathcal Bに関しては(3,1)T(3, 1)^{\mathsf T}、C\mathcal Cに関しては(2,1)T(2, 1)^{\mathsf T}である。

3 演習問題

問題 3.1 (部分空間の共通部分と和集合).VVを可換体KK上の線形空間とし、W1,W2W_1, W_2をVVの部分空間とする。次を証明せよ。

  1. W1∩W2W_1 \cap W_2はVVの部分空間である。
  2. W1∪W2W_1 \cup W_2がVVの部分空間であるための必要十分条件は、W1⊆W2W_1 \subseteq W_2またはW2⊆W1W_2 \subseteq W_1が成り立つことである。
解答.

(1)を示す。k=1,2k = 1, 2について、部分空間WkW_kは線形空間であるから空でない。元w∈Wkw \in W_kを取ると、スカラー倍について閉じていること(定義 1.4 条件 (a))と命題 1.3 (3)により0V=0Kw∈Wk0_V = 0_K w \in W_kである。よって0V∈W1∩W20_V \in W_1 \cap W_2であり、W1∩W2W_1 \cap W_2は空でない。u,v∈W1∩W2u, v \in W_1 \cap W_2とa,b∈Ka, b \in Kに対して、命題 1.5の必要性の向きにより、au+bvau + bvはW1W_1にもW2W_2にも属する。したがって命題 1.5の十分性の向きにより、W1∩W2W_1 \cap W_2は部分空間である。

(2)を示す。W1⊆W2W_1 \subseteq W_2ならばW1∪W2=W2W_1 \cup W_2 = W_2は部分空間であり、W2⊆W1W_2 \subseteq W_1の場合も同様である。逆に、どちらの包含も成り立たないと仮定すると、u∈W1u \in W_1かつu∉W2u \notin W_2を満たす元uuと、v∈W2v \in W_2かつv∉W1v \notin W_1を満たす元vvが存在する。W1∪W2W_1 \cup W_2が部分空間であると仮定すると、命題 1.5によりu+v∈W1∪W2u + v \in W_1 \cup W_2である。u+v∈W1u + v \in W_1の場合、W1W_1に対して命題 1.5を1(u+v)+(−1)u1(u + v) + (-1)uに適用すると、(V6)、命題 1.3 (5)、(V1)、(V2)、(V3) により1(u+v)+(−1)u=(v+u)−u=v+(u−u)=v1(u + v) + (-1)u = (v + u) - u = v + (u - u) = vであるから、v∈W1v \in W_1となり、v∉W1v \notin W_1に反する。u+v∈W2u + v \in W_2の場合も、同様にu=(u+v)−v∈W2u = (u + v) - v \in W_2となり、u∉W2u \notin W_2に反する。この矛盾により、W1∪W2W_1 \cup W_2は部分空間ではない。よって、W1∪W2W_1 \cup W_2が部分空間ならば、W1⊆W2W_1 \subseteq W_2またはW2⊆W1W_2 \subseteq W_1が成り立つ。▨

問題 3.2 (順序付き基底の成分).B=(v1,…,vn)\mathcal B = (v_1, \ldots, v_n)を可換体KK上の線形空間VVの順序付き基底とする。B\mathcal Bは零ベクトルを含まず、相異なる二つの位置に同じベクトルが現れることもないことを証明せよ。

解答.

B\mathcal Bが定める座標写像[ ⋅ ]B:V→Kn[\,\cdot\,]_{\mathcal B} : V \to K^n(定義 2.3)を用いる。まず、命題 1.3 (3)により0V=0Kv10_V = 0_K v_1であるから、定理 2.6 (3)により[0V]B=[0Kv1]B=0K[v1]B[0_V]_{\mathcal B} = [0_K v_1]_{\mathcal B} = 0_K [v_1]_{\mathcal B}であり、KnK^nは線形空間である(命題 2.2)から、再び命題 1.3 (3)により[0V]B[0_V]_{\mathcal B}はすべての成分が0K0_Kである列である。

vk=0Vv_k = 0_Vを満たすkkが存在すると仮定する。座標写像は写像であるから[vk]B=[0V]B[v_k]_{\mathcal B} = [0_V]_{\mathcal B}であり、定理 2.6 (4)により左辺はeke_kである。両辺の第kk成分を比べると1=0K1 = 0_Kとなり、(F7) に反する。よってB\mathcal Bは零ベクトルを含まない。

次に、k≠lk \ne lかつvk=vlv_k = v_lを満たすk,lk, lが存在すると仮定する。座標写像は写像であるから、定理 2.6 (4)によりek=[vk]B=[vl]B=ele_k = [v_k]_{\mathcal B} = [v_l]_{\mathcal B} = e_lである。l≠kl \ne kにより(el)k=0K(e_l)_k = 0_Kであるから、両辺の第kk成分を比べると1=0K1 = 0_Kとなり、(F7) に反する。よって、相異なる二つの位置に同じベクトルは現れない。▨

問題 3.3 (標数 2 の係数体で読んだ場合).例 2.10の二つのベクトル(1,1)T(1, 1)^{\mathsf T}と(1,−1)T(1, -1)^{\mathsf T}を、係数体をF2\mathbb{F}_2(§E3.1 定理 2.8)に取り替えてF22\mathbb{F}_2^2の元として読む。

  1. 組((1,1)T, (1,−1)T)\bigl((1, 1)^{\mathsf T},\ (1, -1)^{\mathsf T}\bigr)はF22\mathbb{F}_2^2の順序付き基底ではないことを証明せよ。
  2. F22\mathbb{F}_2^2の順序付き基底であって標準順序基底と異なるものを一つ挙げ、順序付き基底であることを証明せよ。
解答.

(1)を示す。F2\mathbb{F}_2の元として読んだ11と−1-1は、それぞれ剰余類[1][1]と、その加法についての逆元−[1]-[1]である。剰余類の和の定義(§E3.1 定義 2.5)により[1]+[−1]=[1+(−1)]=[0][1] + [-1] = [1 + (-1)] = [0]であるから、逆元の一意性(§E3.1 命題 1.3 (2))により−[1]=[−1]-[1] = [-1]である。さらに1−(−1)=21 - (-1) = 2は22の倍数であるから、剰余類の定義により[−1]=[1][-1] = [1]であり、あわせて−[1]=[1]-[1] = [1]である。したがって(1,−1)T=(1,1)T(1, -1)^{\mathsf T} = (1, 1)^{\mathsf T}であり、この組は相異なる二つの位置に同じベクトルを含む。問題 3.2 (順序付き基底の成分)により、この組は順序付き基底ではない。

(2)を示す。組C′=((1,0)T, (1,1)T)\mathcal C' = \bigl((1, 0)^{\mathsf T},\ (1, 1)^{\mathsf T}\bigr)を取る。c1,c2∈F2c_1, c_2 \in \mathbb{F}_2について、成分ごとの計算によりc1(1,0)T+c2(1,1)T=(c1+c2, c2)Tc_1 (1, 0)^{\mathsf T} + c_2 (1, 1)^{\mathsf T} = (c_1 + c_2,\ c_2)^{\mathsf T}である。したがって(x,y)T=c1(1,0)T+c2(1,1)T(x, y)^{\mathsf T} = c_1 (1, 0)^{\mathsf T} + c_2 (1, 1)^{\mathsf T}が成り立つことは、c2=yc_2 = yかつc1=x−yc_1 = x - yが成り立つことと同値であり、任意の(x,y)T∈F22(x, y)^{\mathsf T} \in \mathbb{F}_2^2に対して表示がただ一つ存在する。よってC′\mathcal C'は順序付き基底である。(1,1)T(1, 1)^{\mathsf T}はe1e_1ともe2e_2とも異なるから、C′\mathcal C'は標準順序基底と異なる。▨

問題 3.4 (多項式空間の順序付き基底).KKを可換体とし、K[t]≤3K[t]_{\le 3}を定義 1.6の次数が33以下の多項式の全体とする。

  1. 組B=(1, t, t2, t3)\mathcal B = (1,\ t,\ t^2,\ t^3)がK[t]≤3K[t]_{\le 3}の順序付き基底であることを証明せよ。
  2. 組C=(1, 1+t, t2, t3)\mathcal C = (1,\ 1 + t,\ t^2,\ t^3)も順序付き基底であることを証明し、p=a0+a1t+a2t2+a3t3p = a_0 + a_1 t + a_2 t^2 + a_3 t^3の座標[p]C[p]_{\mathcal C}を係数a0,…,a3a_0, \ldots, a_3によって表せ。
  3. B\mathcal BとC\mathcal Cに対する命題 2.9の行列PPと、その逆行列P−1P^{-1}を求めよ。
解答.

(1)を示す。和とスカラー倍の定義により、c1⋅1+c2t+c3t2+c4t3c_1 \cdot 1 + c_2 t + c_3 t^2 + c_4 t^3は係数の組が(c1,c2,c3,c4)(c_1, c_2, c_3, c_4)である多項式であり、多項式の相等は係数ごとの相等である。したがって、p=a0+a1t+a2t2+a3t3p = a_0 + a_1 t + a_2 t^2 + a_3 t^3に対してp=c1⋅1+c2t+c3t2+c4t3p = c_1 \cdot 1 + c_2 t + c_3 t^2 + c_4 t^3が成り立つことと(c1,c2,c3,c4)=(a0,a1,a2,a3)(c_1, c_2, c_3, c_4) = (a_0, a_1, a_2, a_3)は同値である。よって表示はただ一つ存在し、B\mathcal Bは順序付き基底であり、[p]B=(a0,a1,a2,a3)T[p]_{\mathcal B} = (a_0, a_1, a_2, a_3)^{\mathsf T}である。

(2)を示す。c1⋅1+c2(1+t)+c3t2+c4t3=(c1+c2)+c2t+c3t2+c4t3c_1 \cdot 1 + c_2 (1 + t) + c_3 t^2 + c_4 t^3 = (c_1 + c_2) + c_2 t + c_3 t^2 + c_4 t^3であるから、この式がppに等しいことは

c1+c2=a0,c2=a1,c3=a2,c4=a3c_1 + c_2 = a_0, \qquad c_2 = a_1, \qquad c_3 = a_2, \qquad c_4 = a_3

と同値である。第二式からc2=a1c_2 = a_1であり、第一式からc1=a0−a1c_1 = a_0 - a_1である。よって表示はただ一つ存在し、C\mathcal Cは順序付き基底であり、

[p]C=(a0−a1, a1, a2, a3)T[p]_{\mathcal C} = (a_0 - a_1,\ a_1,\ a_2,\ a_3)^{\mathsf T}

である。この計算は乗法についての逆元((F8))を用いないので、任意の可換体の上で成り立つ。

(3)を示す。C=(w1,w2,w3,w4)\mathcal C = (w_1, w_2, w_3, w_4)と書くと、(1)により[w1]B=(1,0,0,0)T[w_1]_{\mathcal B} = (1, 0, 0, 0)^{\mathsf T}、[w2]B=(1,1,0,0)T[w_2]_{\mathcal B} = (1, 1, 0, 0)^{\mathsf T}、[w3]B=(0,0,1,0)T[w_3]_{\mathcal B} = (0, 0, 1, 0)^{\mathsf T}、[w4]B=(0,0,0,1)T[w_4]_{\mathcal B} = (0, 0, 0, 1)^{\mathsf T}であるから、

P=(1100010000100001)P = \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}

である。(2)の座標の式から、(a0,a1,a2,a3)T(a_0, a_1, a_2, a_3)^{\mathsf T}を(a0−a1, a1, a2, a3)T(a_0 - a_1,\ a_1,\ a_2,\ a_3)^{\mathsf T}へ送る行列

P′=(1−100010000100001)P' = \begin{pmatrix} 1 & -1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}

を取り、積を両方の順序で計算するとPP′=P′P=I4PP' = P'P = I_4である。よって§E3.1 命題 4.2 (4)によりP−1=P′P^{-1} = P'である。▨

参考文献

  1. Serge Lang, Linear Algebra, 3rd ed., Springer, New York, 1987.可換体上の線形空間、部分空間、座標写像を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.基底を選ばない線形空間と座標表示の区別を参考にした。

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