1 線形空間と部分空間
定義 1.1.Kを可換体とする(§E3.1 定義 1.1。以下、可換体の公理を同定義の (F1) から (F9) の番号によって引用する)。集合Vと二つの写像+:V×V→V、⋅:K×V→Vの組が次の八つの条件をすべて満たすとき、VをK上の線形空間 (vector space) という。以下、a⋅vをavと書き、Vの元をベクトル (vector) という。
- (V1) 任意のu,v,w∈Vについて(u+v)+w=u+(v+w)が成り立つ。
- (V2) 任意のu,v∈Vについてu+v=v+uが成り立つ。
- (V3) ある元0V∈Vが存在して、任意のv∈Vについてv+0V=vが成り立つ。この条件を満たす元を零ベクトル (zero vector) という。
- (V4) 任意のv∈Vに対して、v+w=0Vを満たすw∈Vが存在する。
- (V5) 任意のa,b∈Kとv∈Vについて(ab)v=a(bv)が成り立つ。
- (V6) 任意のv∈Vについて1v=vが成り立つ。ここで1は (F7) の元である。
- (V7) 任意のa∈Kとu,v∈Vについてa(u+v)=au+avが成り立つ。
- (V8) 任意のa,b∈Kとv∈Vについて(a+b)v=av+bvが成り立つ。
命題 1.3.Vを可換体K上の線形空間とする。次が成り立つ。
- (V3) の条件を満たす元0Vはただ一つに定まる。
- 各v∈Vに対して、v+w=0Vを満たすw∈Vはただ一つに定まる。以下、このwを−vと書き、u+(−v)をu−vと書く。
- 任意のv∈Vについて0Kv=0Vが成り立つ。
- 任意のa∈Kについてa0V=0Vが成り立つ。
- 任意のv∈Vについて(−1)v=−vが成り立つ。ここで−1はKの1の加法についての逆元(§E3.1 命題 1.3 (2))である。
証明.(1)を示す。0Vと0V′がともに (V3) の条件を満たすとする。0V′についての条件をv=0Vに適用すると0V+0V′=0Vであり、0Vについての条件をv=0V′に適用すると0V′+0V=0V′である。(V2) により0V+0V′=0V′+0Vであるから、0V=0V′である。
(2)を示す。wとw′がともにv+w=0V、v+w′=0Vを満たすとする。(V3)、(V1)、(V2) を順に用いて
w=w+0V=w+(v+w′)=(w+v)+w′=(v+w)+w′=0V+w′=w′+0V=w′を得る。
(3)を示す。(F3) により0K=0K+0Kであるから、(V8) により0Kv=(0K+0K)v=0Kv+0Kvである。(V4) により0Kv+w=0Vを満たすw∈Vが存在する。このwを用いると、(V1) と (V3) により
0V=0Kv+w=(0Kv+0Kv)+w=0Kv+(0Kv+w)=0Kv+0V=0Kvとなる。
(4)を示す。(V3) により0V=0V+0Vであるから、(V7) によりa0V=a0V+a0Vである。(V4) によりa0V+w=0Vを満たすw∈Vが存在し、(3)と同じ計算によりa0V=0Vとなる。
(5)を示す。(V6)、(V8)、−1の定義、および(3)により
v+(−1)v=1v+(−1)v=(1+(−1))v=0Kv=0Vである。したがって(−1)vはvの加法についての逆元であり、(2)の一意性により(−1)v=−vである。▨
定義 1.4.Vを可換体K上の線形空間とする。部分集合W⊆VがVの部分空間 (subspace) であるとは、次の二つの条件が成り立つことをいう。
- 任意のu,v∈Wとa∈Kについてu+v∈Wかつau∈Wである。
- Vの加法とスカラー倍をWへ制限して得られる二つの写像によって、WはK上の線形空間になる。
命題 1.5.Vを可換体K上の線形空間とし、W⊆Vを空でない部分集合とする。WがVの部分空間であるための必要十分条件は、任意のu,v∈Wとa,b∈Kについてau+bv∈Wが成り立つことである。
証明.Wを部分空間とする。u,v∈Wとa,b∈Kに対して、定義 1.4 条件 (a)によりau∈Wかつbv∈Wであり、再び定義 1.4 条件 (a)によりau+bv∈Wである。よって条件は必要である。
逆に条件を仮定する。Wは空でないので、元w∈Wを一つ取る。u=v=w、a=b=0Kとすると0Kw+0Kw∈Wであり、命題 1.3 (3)と (V3) により0Kw+0Kw=0V+0V=0Vであるから、0V∈Wである。u,v∈Wに対してa=b=1とすると、(V6) により1u+1v=u+vであるからu+v∈Wである。u∈Wとa∈Kに対してv=u、b=0Kとすると、命題 1.3 (3)と (V3) によりau+0Ku=au+0V=auであるからau∈Wである。よって定義 1.4 条件 (a)が成り立つ。
制限した演算がWを線形空間にすることを確かめる。(V1)、(V2)、(V5)、(V6)、(V7)、(V8) は、Vの中で成り立つ等式をWの元へ適用したものであるから成り立つ。上で示した0V∈Wが (V3) の条件を満たす。u∈Wに対してv=u、a=−1、b=0Kとすると、命題 1.3 (3)、命題 1.3 (5)と (V3) により(−1)u+0Ku=−u+0V=−uであるから−u∈Wであり、これが (V4) の条件を満たす。したがってWは部分空間である。▨
定義 1.6.Kを可換体とする。文字tとKの元a0,a1,a2,a3を用いた形式的な式p=a0+a1t+a2t2+a3t3を、次数が3以下の多項式 (polynomial) といい、a0をpの定数項 (constant term) という。二つの多項式は、対応する係数がすべて等しいときに等しいと定める。次数が3以下の多項式の全体をK[t]≤3と書き、q=b0+b1t+b2t2+b3t3とc∈Kに対して、和とスカラー倍を
p+q=(a0+b0)+(a1+b1)t+(a2+b2)t2+(a3+b3)t3,cp=(ca0)+(ca1)t+(ca2)t2+(ca3)t3によって定める。
命題 1.7.Kを可換体とする。K[t]≤3はK上の線形空間である。零ベクトルはすべての係数が0である多項式(零多項式)であり、p=a0+a1t+a2t2+a3t3の加法についての逆元は、各係数を−aiに取り替えた多項式である。
証明.定義 1.6により、K[t]≤3の和とスカラー倍は係数の四つ組に対する成分ごとの演算であり、多項式の相等は係数ごとの相等である。したがって定義 1.1の (V1) から (V8) は、係数ごとに読むと、それぞれ (F1)、(F2)、(F3)、(F4)、(F5)、(F7)、(F9)、および (F6) と (F9) から得られる等式(a+b)c=ac+bcに帰着する。(V3) の条件は零多項式が満たし、pに対する (V4) の条件は、各係数を−aiに取り替えた多項式が満たす。▨
例 1.8 (多項式空間の部分空間).Kを可換体とし、K上の線形空間K[t]≤3(命題 1.7)の部分集合を二つ調べる。
定数項が0である多項式の全体W={p∈K[t]≤3∣p の定数項が 0}は部分空間である。実際、零多項式が属するのでWは空でない。p,q∈Wとa,b∈Kについて、ap+bqの定数項はa⋅0+b⋅0であり、§E3.1 命題 1.3 (3)、(F6)、(F3) により0に等しいから、ap+bq∈Wである。よって命題 1.5によりWは部分空間である。
一方、定数項が1である多項式の全体Sは部分空間ではない。Sが部分空間であると仮定すると、定数多項式1はSに属するので、スカラー倍について閉じていること(定義 1.4 条件 (a))により0K⋅1がSに属し、命題 1.3 (3)により0K⋅1は零多項式である。しかし零多項式の定数項は0であり、(F7) により0=1であるから、零多項式はSに属さない。この矛盾により、Sは部分空間ではない。
2 座標空間と順序付き基底
定義 2.1.Kを可換体、nを正の整数とする。Kの元を成分とするn行1列の行列の全体Kn(§E3.1 定義 4.1)を、行列の和とスカラー倍を備えた集合と見たものを、K上の座標空間 (coordinate space) という。x∈Knの第i行の成分をxの第i成分 (i-th coordinate) といい、xiと書く。第i成分がxiであるKnの元を(x1,…,xn)Tとも書く。第i成分が1で他の成分が0であるKnの元をeiと書く。
命題 2.2.Kを可換体、nを正の整数とする。KnはK上の線形空間である。零ベクトルはすべての成分が0である列であり、x∈Knの加法についての逆元は第i成分が−xiである列である。
証明.§E3.1 定義 4.1により、Knの和とスカラー倍は成分ごとの演算(x+y)i=xi+yi、(cx)i=cxiである。したがって定義 1.1の (V1) から (V8) は、第i成分ごとに読むと、それぞれ (F1)、(F2)、(F3)、(F4)、(F5)、(F7)、(F9)、および (F6) と (F9) から得られる等式(a+b)c=ac+bcに帰着する。(V3) の条件は、すべての成分が0である列が満たし、xに対する (V4) の条件は、第i成分が−xiである列が満たす。▨
定義 2.3.Vを可換体K上の線形空間、nを正の整数とし、v1,…,vn∈Vとする。組B=(v1,…,vn)がVの順序付き基底 (ordered basis) であるとは、任意のv∈Vに対して
v=a1v1+⋯+anvnを満たすKの元の組(a1,…,an)がただ一つ存在することをいう。このとき、この一意な組を列として並べた(a1,…,an)T∈Knを、Bに関するvの座標 (coordinate vector) といい、[v]Bと書く。vに[v]Bを対応させる写像[⋅]B:V→Knを、Bが定める座標写像 (coordinate map) という。
命題 2.4.Kを可換体、nを正の整数とする。組(e1,…,en)は座標空間Knの順序付き基底であり、任意のx∈Knについて、この順序付き基底に関するxの座標はx自身である。
証明.x=(x1,…,xn)T∈Knとする。a1,…,an∈Kに対して、a1e1+⋯+anenの第i成分は、和とスカラー倍の定義(§E3.1 定義 4.1)によりa1(e1)i+⋯+an(en)iである。(ej)iはj=iのとき1、j=iのとき0であるから、(F7)、(F6) と§E3.1 命題 1.3 (3)、および (F2) と (F3) により、この和はaiに等しい。したがって、x=a1e1+⋯+anenが成り立つことと、各iについてai=xiが成り立つことは同値である。すなわちxは、組(x1,…,xn)による表示をもち、それ以外の表示をもたない。よって(e1,…,en)はKnの順序付き基底であり、xの座標は(x1,…,xn)T=xである。▨
定義 2.5.命題 2.4が与えるKnの順序付き基底(e1,…,en)を、座標空間Knの標準順序基底 (standard ordered basis) という。
定理 2.6.Vを可換体K上の線形空間とし、B=(v1,…,vn)をVの順序付き基底とする。座標写像[⋅]B:V→Kn(定義 2.3)について次が成り立つ。
- [⋅]Bは全単射であり、その逆写像は(a1,…,an)Tにa1v1+⋯+anvnを対応させる写像である。
- 任意のu,v∈Vについて[u+v]B=[u]B+[v]Bが成り立つ。
- 任意のc∈Kとv∈Vについて[cv]B=c[v]Bが成り立つ。
- 各i=1,…,nについて[vi]B=eiが成り立つ。
- 写像F:V→Knが、任意のu,v∈Vとc∈KについてF(u+v)=F(u)+F(v)かつF(cv)=cF(v)を満たし、さらに各i=1,…,nについてF(vi)=eiを満たすならば、F=[⋅]Bである。
証明.(1)を示す。写像Φ:Kn→VをΦ((a1,…,an)T)=a1v1+⋯+anvnで定める。v∈Vに対して、[v]B=(a1,…,an)Tとはv=a1v1+⋯+anvnが成り立つことであるから、Φ([v]B)=vである。逆にx=(x1,…,xn)T∈Knに対して、Φ(x)=x1v1+⋯+xnvnは組(x1,…,xn)による表示をもつので、表示の一意性により[Φ(x)]B=xである。したがって[⋅]BとΦは互いに逆写像であり、[⋅]Bは全単射である。
(2)を示す。[u]B=(a1,…,an)T、[v]B=(b1,…,bn)Tとする。(V1) と (V2) により有限和の項の順序を入れ替えることができ、(V8) によりaivi+bivi=(ai+bi)viであるから、
u+v=(a1v1+⋯+anvn)+(b1v1+⋯+bnvn)=(a1+b1)v1+⋯+(an+bn)vnである。表示の一意性により[u+v]Bは第i成分がai+biである列であり、行列の和の定義(§E3.1 定義 4.1)によりこれは[u]B+[v]Bに等しい。
(3)を示す。[v]B=(a1,…,an)Tとすると、(V7) と (V5) により
cv=c(a1v1+⋯+anvn)=(ca1)v1+⋯+(can)vnである。表示の一意性とスカラー倍の定義により[cv]B=c[v]Bである。
(4)を示す。命題 1.3 (3)、(V2)、(V3)、(V6) により
vi=0Kv1+⋯+0Kvi−1+1vi+0Kvi+1+⋯+0Kvnである。この表示の係数を列として並べたものはeiであるから、[vi]B=eiである。
(5)を示す。Fが条件を満たすとする。加法についての条件を繰り返し用いると、項の個数についての帰納法によりF(u1+⋯+um)=F(u1)+⋯+F(um)が従う。v∈Vの表示をv=a1v1+⋯+anvnとすると、
F(v)=F(a1v1)+⋯+F(anvn)=a1F(v1)+⋯+anF(vn)=a1e1+⋯+anenである。命題 2.4により(a1,…,an)T=a1e1+⋯+anenであるから、F(v)=(a1,…,an)T=[v]Bである。よってF=[⋅]Bである。▨
補題 2.8.Kを可換体、m,nを正の整数とし、A=(aij)∈Mm,n(K)とする。Aの第j列、すなわち第i成分がaijであるKmの元をpjと書く。次が成り立つ。
- 任意のx=(x1,…,xn)T∈KnについてAx=x1p1+⋯+xnpnが成り立つ。
- 各j=1,…,nについてAej=pjが成り立つ。
- B∈Mm,n(K)が、任意のx∈KnについてAx=Bxを満たすならば、A=Bである。
証明.(1)を示す。積の定義(§E3.1 定義 4.1)により(Ax)i=∑j=1naijxjである。他方、和とスカラー倍の定義により(x1p1+⋯+xnpn)i=∑j=1nxjaijである。(F6) により両者は等しい。
(2)を示す。(ej)kはk=jのとき1、k=jのとき0であるから、単位行列の定義(§E3.1 定義 4.1)により(ej)k=(In)kjである。したがって、積の定義により
(Aej)i=k=1∑naik(ej)k=k=1∑naik(In)kj=(AIn)ijであり、§E3.1 命題 4.2 (3)によりAIn=Aであるから、(Aej)i=aijである。すなわちAejの各成分はpjの対応する成分に等しく、Aej=pjである。
(3)を示す。Bの第j列をqjとすると、(2)により、各jについてpj=Aej=Bej=qjである。すべての列が一致するのでA=Bである。▨
命題 2.9.Vを可換体K上の線形空間とし、B=(v1,…,vn)とC=(w1,…,wn)をVの順序付き基底とする。P∈Mn(K)を、第j列が[wj]Bである行列とする。このときPは可逆(§E3.1 定義 4.1)であり、任意のv∈Vについて
[v]B=P[v]C,[v]C=P−1[v]Bが成り立つ。
証明. 第一の等式を示す。[v]C=(c1,…,cn)Tとするとv=c1w1+⋯+cnwnである。定理 2.6 (2)と定理 2.6 (3)を繰り返し用いると
[v]B=c1[w1]B+⋯+cn[wn]Bであり、右辺は補題 2.8 (1)によりP[v]Cに等しい。
可逆性を示す。Q∈Mn(K)を、第j列が[vj]Cである行列とすると、BとCの役割を入れ替えた第一の等式により、任意のv∈Vについて[v]C=Q[v]Bである。したがって、積の結合法則(§E3.1 命題 4.2 (1))により、任意のv∈Vについて
(PQ)[v]B=P(Q[v]B)=P[v]C=[v]Bである。定理 2.6 (1)により座標写像[⋅]Bは全単射であるから、vがVの全体を動くとき[v]BはKnのすべての元を動く。よって任意のx∈Knについて(PQ)x=x=Inxが成り立ち(後者は§E3.1 命題 4.2 (3))、補題 2.8 (3)によりPQ=Inである。BとCの役割を入れ替えた同じ議論によりQP=Inである。したがってPは可逆であり、§E3.1 命題 4.2 (4)によりP−1=Qである。第二の等式は、[v]C=Q[v]B=P−1[v]Bとして従う。▨
例 2.10 (同じベクトルの異なる座標). 係数体を実数体R(§E3.1 例 2.1)とし、V=R2とする。B=(e1,e2)を標準順序基底とし、w1=(1,1)T、w2=(1,−1)T、C=(w1,w2)とする。
CがR2の順序付き基底であることを確かめる。c1,c2∈Rについて、成分ごとの計算によりc1w1+c2w2=(c1+c2, c1−c2)Tである。したがって、(x,y)T=c1w1+c2w2が成り立つことは、c1+c2=xかつc1−c2=yが成り立つことと同値である。この二式が成り立つならば、両式の和と差から2c1=x+y、2c2=x−yであり、実数2は0でないから
c1=2x+y,c2=2x−yである。逆に、このc1,c2は二式を満たす。よって任意の(x,y)T∈R2がただ一つの表示をもち、Cは順序付き基底である。
命題 2.4により[wj]B=wjであるから、命題 2.9の行列は
P=(111−1)である。B0=21(111−1)とおいて積を両方の順序で計算すると、PB0=B0P=21(2002)=I2であるから、§E3.1 命題 4.2 (4)により
P−1=21(111−1)である。v=(3,1)Tとすると、命題 2.4により[v]B=v=(3,1)Tであり、命題 2.9により
[v]C=P−1[v]B=21(111−1)(31)=(21)である。検算すると2w1+1w2=(2+1, 2−1)T=(3,1)T=vである。同じベクトルvの座標は、Bに関しては(3,1)T、Cに関しては(2,1)Tである。
3 演習問題
問題 3.1 (部分空間の共通部分と和集合).Vを可換体K上の線形空間とし、W1,W2をVの部分空間とする。次を証明せよ。
- W1∩W2はVの部分空間である。
- W1∪W2がVの部分空間であるための必要十分条件は、W1⊆W2またはW2⊆W1が成り立つことである。
解答.
(1)を示す。k=1,2について、部分空間Wkは線形空間であるから空でない。元w∈Wkを取ると、スカラー倍について閉じていること(定義 1.4 条件 (a))と命題 1.3 (3)により0V=0Kw∈Wkである。よって0V∈W1∩W2であり、W1∩W2は空でない。u,v∈W1∩W2とa,b∈Kに対して、命題 1.5の必要性の向きにより、au+bvはW1にもW2にも属する。したがって命題 1.5の十分性の向きにより、W1∩W2は部分空間である。
(2)を示す。W1⊆W2ならばW1∪W2=W2は部分空間であり、W2⊆W1の場合も同様である。逆に、どちらの包含も成り立たないと仮定すると、u∈W1かつu∈/W2を満たす元uと、v∈W2かつv∈/W1を満たす元vが存在する。W1∪W2が部分空間であると仮定すると、命題 1.5によりu+v∈W1∪W2である。u+v∈W1の場合、W1に対して命題 1.5を1(u+v)+(−1)uに適用すると、(V6)、命題 1.3 (5)、(V1)、(V2)、(V3) により1(u+v)+(−1)u=(v+u)−u=v+(u−u)=vであるから、v∈W1となり、v∈/W1に反する。u+v∈W2の場合も、同様にu=(u+v)−v∈W2となり、u∈/W2に反する。この矛盾により、W1∪W2は部分空間ではない。よって、W1∪W2が部分空間ならば、W1⊆W2またはW2⊆W1が成り立つ。▨
問題 3.2 (順序付き基底の成分).B=(v1,…,vn)を可換体K上の線形空間Vの順序付き基底とする。Bは零ベクトルを含まず、相異なる二つの位置に同じベクトルが現れることもないことを証明せよ。
解答.
Bが定める座標写像[⋅]B:V→Kn(定義 2.3)を用いる。まず、命題 1.3 (3)により0V=0Kv1であるから、定理 2.6 (3)により[0V]B=[0Kv1]B=0K[v1]Bであり、Knは線形空間である(命題 2.2)から、再び命題 1.3 (3)により[0V]Bはすべての成分が0Kである列である。
vk=0Vを満たすkが存在すると仮定する。座標写像は写像であるから[vk]B=[0V]Bであり、定理 2.6 (4)により左辺はekである。両辺の第k成分を比べると1=0Kとなり、(F7) に反する。よってBは零ベクトルを含まない。
次に、k=lかつvk=vlを満たすk,lが存在すると仮定する。座標写像は写像であるから、定理 2.6 (4)によりek=[vk]B=[vl]B=elである。l=kにより(el)k=0Kであるから、両辺の第k成分を比べると1=0Kとなり、(F7) に反する。よって、相異なる二つの位置に同じベクトルは現れない。▨
問題 3.3 (標数 2 の係数体で読んだ場合).例 2.10の二つのベクトル(1,1)Tと(1,−1)Tを、係数体をF2(§E3.1 定理 2.8)に取り替えてF22の元として読む。
- 組((1,1)T, (1,−1)T)はF22の順序付き基底ではないことを証明せよ。
- F22の順序付き基底であって標準順序基底と異なるものを一つ挙げ、順序付き基底であることを証明せよ。
解答.
(1)を示す。F2の元として読んだ1と−1は、それぞれ剰余類[1]と、その加法についての逆元−[1]である。剰余類の和の定義(§E3.1 定義 2.5)により[1]+[−1]=[1+(−1)]=[0]であるから、逆元の一意性(§E3.1 命題 1.3 (2))により−[1]=[−1]である。さらに1−(−1)=2は2の倍数であるから、剰余類の定義により[−1]=[1]であり、あわせて−[1]=[1]である。したがって(1,−1)T=(1,1)Tであり、この組は相異なる二つの位置に同じベクトルを含む。問題 3.2 (順序付き基底の成分)により、この組は順序付き基底ではない。
(2)を示す。組C′=((1,0)T, (1,1)T)を取る。c1,c2∈F2について、成分ごとの計算によりc1(1,0)T+c2(1,1)T=(c1+c2, c2)Tである。したがって(x,y)T=c1(1,0)T+c2(1,1)Tが成り立つことは、c2=yかつc1=x−yが成り立つことと同値であり、任意の(x,y)T∈F22に対して表示がただ一つ存在する。よってC′は順序付き基底である。(1,1)Tはe1ともe2とも異なるから、C′は標準順序基底と異なる。▨
問題 3.4 (多項式空間の順序付き基底).Kを可換体とし、K[t]≤3を定義 1.6の次数が3以下の多項式の全体とする。
- 組B=(1, t, t2, t3)がK[t]≤3の順序付き基底であることを証明せよ。
- 組C=(1, 1+t, t2, t3)も順序付き基底であることを証明し、p=a0+a1t+a2t2+a3t3の座標[p]Cを係数a0,…,a3によって表せ。
- BとCに対する命題 2.9の行列Pと、その逆行列P−1を求めよ。
解答.
(1)を示す。和とスカラー倍の定義により、c1⋅1+c2t+c3t2+c4t3は係数の組が(c1,c2,c3,c4)である多項式であり、多項式の相等は係数ごとの相等である。したがって、p=a0+a1t+a2t2+a3t3に対してp=c1⋅1+c2t+c3t2+c4t3が成り立つことと(c1,c2,c3,c4)=(a0,a1,a2,a3)は同値である。よって表示はただ一つ存在し、Bは順序付き基底であり、[p]B=(a0,a1,a2,a3)Tである。
(2)を示す。c1⋅1+c2(1+t)+c3t2+c4t3=(c1+c2)+c2t+c3t2+c4t3であるから、この式がpに等しいことは
c1+c2=a0,c2=a1,c3=a2,c4=a3と同値である。第二式からc2=a1であり、第一式からc1=a0−a1である。よって表示はただ一つ存在し、Cは順序付き基底であり、
[p]C=(a0−a1, a1, a2, a3)Tである。この計算は乗法についての逆元((F8))を用いないので、任意の可換体の上で成り立つ。
(3)を示す。C=(w1,w2,w3,w4)と書くと、(1)により[w1]B=(1,0,0,0)T、[w2]B=(1,1,0,0)T、[w3]B=(0,0,1,0)T、[w4]B=(0,0,0,1)Tであるから、
P=1000110000100001である。(2)の座標の式から、(a0,a1,a2,a3)Tを(a0−a1, a1, a2, a3)Tへ送る行列
P′=1000−110000100001を取り、積を両方の順序で計算するとPP′=P′P=I4である。よって§E3.1 命題 4.2 (4)によりP−1=P′である。▨