§E12.15可換 C* 環

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空でないコンパクト Hausdorff 空間KKの上の複素数値連続関数の全体は、各点ごとの積と上限ノルムによって複素 Banach 環をなす。この環にはさらに複素共役f↦fˉf\mapsto\bar fという演算が備わっており、上限ノルムとのあいだに∥fˉf∥∞=∥f∥∞2\lVert\bar f f\rVert_\infty=\lVert f\rVert_\infty^2という関係が成り立つ。単位的複素 Banach 環とその指標空間を扱ってきた枠組みには、この複素共役に相当する演算が無いので、指標がどのような対称性を保つかを述べる手段が無い。そこで Banach 環に対合とよばれる演算を加え、対合とノルムを C* 恒等式で結んだ環を C* 環として定義する。C* 環は関数解析と作用素環論において最も基本的な代数的構造の一つであり、本記事はその可換な場合を扱って、以降の記事で局所コンパクト空間の上の関数環へ進むための土台とする。対合と C* 環の定義、および自己共役元や正規元の基本的な性質について解説する。

1 対合と C* 環

定義 1.1. 複素 Banach 環AA(§E12.14 定義 1.1)上の写像a↦a∗:A→Aa\mapsto a^*:A\to Aが

  1. 任意のα,β∈C\alpha,\beta\in\mathbb Cとa,b∈Aa,b\in Aに対して(αa+βb)∗=αˉa∗+βˉb∗(\alpha a+\beta b)^*=\bar\alpha a^*+\bar\beta b^*である。
  2. 任意のa,b∈Aa,b\in Aに対して(ab)∗=b∗a∗(ab)^*=b^*a^*である。
  3. 任意のa∈Aa\in Aに対してa∗∗=aa^{**}=aである。

を満たすとき、この写像をAA上の対合 (involution) といい、対合を備えた複素 Banach 環をBanach *-環 (Banach star-algebra) という。

定義 1.2. Banach *-環AAが、任意のa∈Aa\in Aに対して

∥a∗a∥=∥a∥2\|a^*a\|=\|a\|^2

(C* 恒等式 (C*-identity))を満たすとき、AAをC* 環 (C*-algebra) という。

例 1.3.KKを空でないコンパクト Hausdorff 空間とし、C(K)C(K)に各点ごとの積、複素共役f∗(x):=f(x)‾f^*(x):=\overline{f(x)}による対合、上限ノルムを入れる。加法・積・対合の各公理は各点ごとのC\mathbb C上の演算の性質から直ちに従い、§E12.1 定理 3.3により(C(K),∥⋅∥∞)(C(K),\|\cdot\|_\infty)は Banach 空間である。任意のf∈C(K)f\in C(K)に対して

∥f∗f∥∞=sup⁡x∈K∣f(x)∣2=(sup⁡x∈K∣f(x)∣)2=∥f∥∞2\|f^*f\|_\infty=\sup_{x\in K}|f(x)|^2=\left(\sup_{x\in K}|f(x)|\right)^2=\|f\|_\infty^2

であるから、C(K)C(K)は可換 C* 環である。

複素 Hilbert 空間HH上の有界線形作用素の全体B(H)B(H)(§E12.2 定義 1.1)に、作用素の合成を積、⟨Tx,y⟩=⟨x,T∗y⟩\langle Tx,y\rangle=\langle x,T^*y\rangle(x,y∈Hx,y\in H)で定まる共役作用素T↦T∗T\mapsto T^*を対合、作用素ノルムを入れると、B(H)B(H)は C* 環になる。この主張は本記事では証明せず、有界作用素論の標準的な結果として参考文献の Murphy, C*-Algebras and Operator Theory へ委ねる。この対合のもとで、T∈B(H)T\in B(H)が§E12.12 定義 1.1の意味で自己共役作用素であること、すなわち⟨Tx,y⟩=⟨x,Ty⟩\langle Tx,y\rangle=\langle x,Ty\rangle(x,y∈Hx,y\in H)が成り立つことは、共役作用素の定義式により⟨x,T∗y⟩=⟨x,Ty⟩\langle x,T^*y\rangle=\langle x,Ty\rangle(x,y∈Hx,y\in H)と書き直せるので、内積の正定値性からT=T∗T=T^*であることと同値である。H=C2H=\mathbb C^2(標準的な内積)の場合、S:=(0100)S:=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}の共役作用素はS∗=(0010)S^*=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}であり、

SS∗=(1000),S∗S=(0001)SS^*=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix},\qquad S^*S=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}

は互いに異なるから、B(H)B(H)は可換であるとは限らない。可換であるとは限らない C* 環の元の表現論は本単元では扱わない。

補題 1.4. C* 環AAの任意の元aaに対して∥a∗∥=∥a∥\|a^*\|=\|a\|である。

証明.a=0a=0のときは両辺が00であるから成り立つ。a≠0a\neq0とする。C* 恒等式とノルムの劣乗法性から

∥a∥2=∥a∗a∥≤∥a∗∥ ∥a∥\|a\|^2=\|a^*a\|\leq\|a^*\|\,\|a\|

であり、∥a∥>0\|a\|>0で両辺を割ると∥a∥≤∥a∗∥\|a\|\leq\|a^*\|を得る。この不等式をa∗a^*に適用すると、∥a∗∥≤∥a∗∗∥=∥a∥\|a^*\|\leq\|a^{**}\|=\|a\|を得る。したがって∥a∥=∥a∗∥\|a\|=\|a^*\|である。▨

定義 1.5.AAとBBを Banach *-環(定義 1.1)とする。写像π:A→B\pi:A\to Bが線形かつ乗法的であり、さらに任意のa∈Aa\in Aに対して

π(a∗)=π(a)∗\pi(a^*)=\pi(a)^*

を満たすとき、π\piを*-準同型 (*-homomorphism) という。この最後の等式が成り立つことを、π\piが対合を保つという。全単射な *-準同型を*-同型 (*-isomorphism) という。

AAとBBがそれぞれ単位元をもち、π\piがAAの単位元をBBの単位元へ写すとき、π\piは単位元を保つという。任意のa∈Aa\in Aに対して∥π(a)∥=∥a∥\|\pi(a)\|=\|a\|が成り立つとき、π\piは等長であるという。これらは *-準同型であることに加えて課す条件であり、単位元を保つ *-準同型、等長な *-準同型と呼び分ける。

2 元の分類

定義 2.1. Banach *-環AAの元aaについて、

  1. a=a∗a=a^*を満たすとき、aaを自己共役元 (self-adjoint element) という。
  2. a∗a=aa∗a^*a=aa^*を満たすとき、aaを正規元 (normal element) という。

AAが単位的であるとき、元u∈Au\in Aがu∗u=uu∗=1u^*u=uu^*=1を満たすならば、uuをユニタリ元 (unitary element) という。

補題 2.2. 単位的 Banach *-環AAの単位元11は自己共役である。

証明. 任意のa∈Aa\in Aに対して1a=a=a11a=a=a1であるから、対合をとるとa∗1∗=a∗=1∗a∗a^*1^*=a^*=1^*a^*を得る。対合∗:A→A*:A\to Aはa∗∗=aa^{**}=aより全単射であるから、aaがAA全体を動くときa∗a^*もAA全体を動く。したがって、任意のb∈Ab\in Aに対してb1∗=b=1∗bb1^*=b=1^*bが成り立ち、1∗1^*はAAの単位元である。単位元の一意性から1∗=11^*=1である。▨

補題 2.3. Banach *-環AAの任意の元xxに対して、x∗xx^*xは自己共役である。

証明.(x∗x)∗=x∗x∗∗=x∗x(x^*x)^*=x^*x^{**}=x^*xである。▨

3 正規元のスペクトル半径

定理 3.1.AAを単位的 C* 環とする。a∈Aa\in Aが正規元ならば、

r(a)=∥a∥r(a)=\|a\|

である。

証明. 正規元c∈Ac\in Aについて、c2c^2は正規である。実際、正規性c∗c=cc∗c^*c=cc^*から

(c2)∗c2=c∗2c2=c∗(c∗c)c=c∗(cc∗)c=(c∗c)(c∗c)(c^2)^*c^2=c^{*2}c^2=c^*(c^*c)c=c^*(cc^*)c=(c^*c)(c^*c)

であり、同様に

c2(c2)∗=c2c∗2=c(cc∗)c∗=c(c∗c)c∗=(cc∗)(cc∗)=(c∗c)(c∗c)c^2(c^2)^*=c^2c^{*2}=c(cc^*)c^*=c(c^*c)c^*=(cc^*)(cc^*)=(c^*c)(c^*c)

であるから、(c2)∗c2=c2(c2)∗(c^2)^*c^2=c^2(c^2)^*となる。したがってaaが正規ならば、a2na^{2^n}(n≥0n\geq0)は帰納的にすべて正規である。

正規元c∈Ac\in Aについて∥c2∥=∥c∥2\|c^2\|=\|c\|^2が成り立つ。実際、C* 恒等式をc2c^2に適用すると∥c2∥2=∥(c2)∗c2∥\|c^2\|^2=\|(c^2)^*c^2\|であり、上の計算により(c2)∗c2=(c∗c)2(c^2)^*c^2=(c^*c)^2である。補題 2.3によりc∗cc^*cは自己共役であるから、C* 恒等式を元c∗cc^*cに適用すると

∥(c∗c)2∥=∥(c∗c)∗(c∗c)∥=∥c∗c∥2\|(c^*c)^2\|=\|(c^*c)^*(c^*c)\|=\|c^*c\|^2

であり、さらに C* 恒等式をccに適用すると∥c∗c∥=∥c∥2\|c^*c\|=\|c\|^2である。以上を合わせると∥c2∥2=∥(c∗c)2∥=∥c∗c∥2=∥c∥4\|c^2\|^2=\|(c^*c)^2\|=\|c^*c\|^2=\|c\|^4となるので、両辺の非負平方根をとると∥c2∥=∥c∥2\|c^2\|=\|c\|^2を得る。

aaを正規元とする。a2na^{2^n}は各n≥0n\geq0について正規であるから、上の等式をc=a2nc=a^{2^n}に繰り返し適用すると、各n≥0n\geq0について

∥a2n+1∥=∥(a2n)2∥=∥a2n∥2\|a^{2^{n+1}}\|=\|(a^{2^n})^2\|=\|a^{2^n}\|^2

が成り立ち、帰納的に∥a2n∥=∥a∥2n\|a^{2^n}\|=\|a\|^{2^n}を得る。§E12.14 定理 3.3により極限r(a)=lim⁡k→∞∥ak∥1/kr(a)=\lim_{k\to\infty}\|a^k\|^{1/k}が存在するので、部分列k=2nk=2^nに沿った極限もこれに一致し、

r(a)=lim⁡n→∞∥a2n∥1/2n=lim⁡n→∞(∥a∥2n)1/2n=∥a∥r(a)=\lim_{n\to\infty}\|a^{2^n}\|^{1/2^n}=\lim_{n\to\infty}\left(\|a\|^{2^n}\right)^{1/2^n}=\|a\|

である。▨

系 3.2.BBを単位元をもつ複素 *-多元環とする。BBを C* 環にするノルム、すなわち劣乗法的で C* 恒等式∥x∗x∥=∥x∥2\|x^*x\|=\|x\|^2を満たしBBを完備にするノルムは、存在すれば一つしかない。

証明.B={0}B=\{0\}のときBB上のノルムは零写像に限られるので、主張は自明である。以下B≠{0}B\neq\{0\}とする。∥⋅∥1\|\cdot\|_1と∥⋅∥2\|\cdot\|_2をBBを C* 環にするノルムとし、i=1,2i=1,2とする。BBの単位元11について1∗1=1∗1^*1=1^*であるから、C* 恒等式により∥1∥i2=∥1∗1∥i=∥1∗∥i\|1\|_i^2=\|1^*1\|_i=\|1^*\|_iであり、補題 1.4により∥1∗∥i=∥1∥i\|1^*\|_i=\|1\|_iである。B≠{0}B\neq\{0\}から1≠01\neq0であり∥1∥i>0\|1\|_i>0であるので、∥1∥i=1\|1\|_i=1である。したがって(B,∥⋅∥i)(B,\|\cdot\|_i)は単位的な C* 環である。

x∈Bx\in Bをとりy:=x∗xy:=x^*xとおく。複素数μ\muに対してμ1−y\mu1-yが可逆であるかどうかは環BBの乗法構造だけで定まり、ノルムには依存しない(§E12.14 定義 2.1)。したがってσ(y)\sigma(y)は∥⋅∥1\|\cdot\|_1、∥⋅∥2\|\cdot\|_2のどちらの C* 環構造で計算しても同じ部分集合であり、§E12.14 定理 3.3のr(y)=max⁡{∣μ∣:μ∈σ(y)}r(y)=\max\{|\mu|:\mu\in\sigma(y)\}によりr(y)r(y)の値も共通である。

補題 2.3によりyyは自己共役であり、したがって正規元である。定理 3.1を(B,∥⋅∥1)(B,\|\cdot\|_1)と(B,∥⋅∥2)(B,\|\cdot\|_2)のそれぞれへ適用すると

∥y∥1=r(y)=∥y∥2\|y\|_1=r(y)=\|y\|_2

である。C* 恒等式を∥⋅∥1\|\cdot\|_1と∥⋅∥2\|\cdot\|_2のそれぞれへ適用すると∥x∥12=∥y∥1\|x\|_1^2=\|y\|_1と∥x∥22=∥y∥2\|x\|_2^2=\|y\|_2であるから、

∥x∥12=∥y∥1=∥y∥2=∥x∥22\|x\|_1^2=\|y\|_1=\|y\|_2=\|x\|_2^2

であり、両辺は非負であるから∥x∥1=∥x∥2\|x\|_1=\|x\|_2である。x∈Bx\in Bは任意であったから、∥⋅∥1=∥⋅∥2\|\cdot\|_1=\|\cdot\|_2である。▨

4 可換 C* 環の指標

定理 4.1.AAを単位的可換 C* 環とする。a∈Aa\in Aが自己共役元ならば、σ(a)⊆R\sigma(a)\subseteq\mathbb Rである。

証明.λ=α+iβ∈σ(a)\lambda=\alpha+i\beta\in\sigma(a)(α,β∈R\alpha,\beta\in\mathbb R)をとる。t∈Rt\in\mathbb Rを任意にとる。複素数zzに対して

z1−(a+it1)=(z−it)1−az1-(a+it1)=(z-it)1-a

であるから、z∈σ(a+it1)z\in\sigma(a+it1)であることとz−it∈σ(a)z-it\in\sigma(a)であることは同値である。z=α+i(β+t)z=\alpha+i(\beta+t)とおくとz−it=λ∈σ(a)z-it=\lambda\in\sigma(a)であるから、α+i(β+t)∈σ(a+it1)\alpha+i(\beta+t)\in\sigma(a+it1)である。

§E12.14 定理 2.5によりσ(a+it1)⊆{μ∈C:∣μ∣≤∥a+it1∥}\sigma(a+it1)\subseteq\{\mu\in\mathbb C:|\mu|\leq\|a+it1\|\}であるから、

α2+(β+t)2=∣α+i(β+t)∣2≤∥a+it1∥2\alpha^2+(\beta+t)^2=|\alpha+i(\beta+t)|^2\leq\|a+it1\|^2

である。aaは自己共役であり、補題 2.2により1∗=11^*=1であるから(a+it1)∗=a∗−it1∗=a−it1(a+it1)^*=a^*-it1^*=a-it1であり、C* 恒等式から

∥a+it1∥2=∥(a+it1)∗(a+it1)∥=∥(a−it1)(a+it1)∥=∥a2+t21∥\|a+it1\|^2=\|(a+it1)^*(a+it1)\|=\|(a-it1)(a+it1)\|=\|a^2+t^21\|

である。三角不等式と∥1∥=1\|1\|=1から∥a2+t21∥≤∥a2∥+t2\|a^2+t^21\|\leq\|a^2\|+t^2であり、aaが自己共役であることから C* 恒等式により∥a2∥=∥a∗a∥=∥a∥2\|a^2\|=\|a^*a\|=\|a\|^2である。したがって

∥a+it1∥2≤∥a∥2+t2\|a+it1\|^2\leq\|a\|^2+t^2

である。

以上を合わせると、任意のt∈Rt\in\mathbb Rについて

α2+β2+2βt+t2≤∥a∥2+t2,すなわちα2+β2+2βt≤∥a∥2\alpha^2+\beta^2+2\beta t+t^2\leq\|a\|^2+t^2, \qquad\text{すなわち}\qquad \alpha^2+\beta^2+2\beta t\leq\|a\|^2

である。β≠0\beta\neq0と仮定すると、β>0\beta>0のときt→+∞t\to+\inftyで、β<0\beta<0のときt→−∞t\to-\inftyで左辺α2+β2+2βt\alpha^2+\beta^2+2\beta tは+∞+\inftyに発散し、右辺の有界性に反する。したがってβ≠0\beta\neq0という仮定は誤りであり、β=0\beta=0である。よってλ=α∈R\lambda=\alpha\in\mathbb Rであり、σ(a)⊆R\sigma(a)\subseteq\mathbb Rである。▨

定理 4.2.AAを単位的可換 C* 環とする。AAの零でない指標φ\varphiは、任意のa∈Aa\in Aに対して

φ(a∗)=φ(a)‾\varphi(a^*)=\overline{\varphi(a)}

を満たす。

証明.h:=a+a∗2h:=\dfrac{a+a^*}2、k:=a−a∗2ik:=\dfrac{a-a^*}{2i}とおく。共役線形性(λx)∗=λˉx∗(\lambda x)^*=\bar\lambda x^*と対合性a∗∗=aa^{**}=aから

h∗=(a+a∗2)∗=a∗+a2=h,k∗=(12i(a−a∗))∗=−12i(a∗−a)=12i(a−a∗)=kh^*=\left(\frac{a+a^*}2\right)^*=\frac{a^*+a}2=h, \qquad k^*=\left(\frac1{2i}(a-a^*)\right)^*=-\frac1{2i}(a^*-a)=\frac1{2i}(a-a^*)=k

であるから、h,kh,kはいずれも自己共役元である。またh+ik=a+a∗2+a−a∗2=ah+ik=\dfrac{a+a^*}2+\dfrac{a-a^*}2=aであり、h−ik=a+a∗2−a−a∗2=a∗h-ik=\dfrac{a+a^*}2-\dfrac{a-a^*}2=a^*である。

AAは単位的可換 C* 環であるから、定理 4.1によりσ(h)⊆R\sigma(h)\subseteq\mathbb Rかつσ(k)⊆R\sigma(k)\subseteq\mathbb Rである。§E12.14 系 4.7 (2)によりφ(h)∈σ(h)\varphi(h)\in\sigma(h)かつφ(k)∈σ(k)\varphi(k)\in\sigma(k)であるから、φ(h),φ(k)∈R\varphi(h),\varphi(k)\in\mathbb Rである。

φ\varphiの線形性からφ(a)=φ(h)+iφ(k)\varphi(a)=\varphi(h)+i\varphi(k)であり、

φ(a∗)=φ(h−ik)=φ(h)−iφ(k)=φ(h)+iφ(k)‾=φ(a)‾\varphi(a^*)=\varphi(h-ik)=\varphi(h)-i\varphi(k)=\overline{\varphi(h)+i\varphi(k)}=\overline{\varphi(a)}

である。ここで最後から二番目の等号はφ(h),φ(k)∈R\varphi(h),\varphi(k)\in\mathbb Rによる。▨

注意 4.3. 本節までの主張はすべて単位元をもつ場合について述べた。単位元をもたない C* 環には、このままではスペクトル自体が定義されない。

5 演習

問題 5.1.AAを単位的 C* 環とし、u∈Au\in Aをユニタリ元とする。σ(u)⊆{λ∈C:∣λ∣=1}\sigma(u)\subseteq\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|=1\}であることを証明せよ。

解答.

u∗u=1u^*u=1であるから、C* 恒等式より∥u∥2=∥u∗u∥=∥1∥=1\|u\|^2=\|u^*u\|=\|1\|=1であり∥u∥=1\|u\|=1である。u∗u=uu∗=1u^*u=uu^*=1よりuuは正規元であるから、定理 3.1によりr(u)=∥u∥=1r(u)=\|u\|=1である。したがって任意のλ∈σ(u)\lambda\in\sigma(u)について∣λ∣≤1|\lambda|\leq1である。

u∗u=uu∗=1u^*u=uu^*=1よりu∗=u−1u^*=u^{-1}であり、u−1u^{-1}もユニタリ元であるから同じ議論によりr(u−1)=1r(u^{-1})=1である。λ∈σ(u)\lambda\in\sigma(u)とする。uuは可逆であるからλ≠0\lambda\neq0である。等式

u−1(λ1−u)=λu−1−1=−λ(λ−11−u−1)u^{-1}(\lambda1-u)=\lambda u^{-1}-1=-\lambda(\lambda^{-1}1-u^{-1})

において、λ−11−u−1\lambda^{-1}1-u^{-1}が可逆であると仮定すると、右辺は可逆なスカラー−λ-\lambdaと可逆元λ−11−u−1\lambda^{-1}1-u^{-1}の積として可逆であり、左辺u−1(λ1−u)u^{-1}(\lambda1-u)も可逆である。u−1u^{-1}が可逆であることからλ1−u=u⋅u−1(λ1−u)\lambda1-u=u\cdot u^{-1}(\lambda1-u)も可逆元の積として可逆になり、λ∈σ(u)\lambda\in\sigma(u)に反する。したがってλ−11−u−1\lambda^{-1}1-u^{-1}は可逆でなく、λ−1∈σ(u−1)\lambda^{-1}\in\sigma(u^{-1})である。よって∣λ−1∣≤r(u−1)=1|\lambda^{-1}|\leq r(u^{-1})=1、すなわち∣λ∣≥1|\lambda|\geq1である。

以上により∣λ∣≤1|\lambda|\leq1かつ∣λ∣≥1|\lambda|\geq1であるから∣λ∣=1|\lambda|=1である。▨

問題 5.2.AAを単位的可換 C* 環とし、θ:A→A\theta:A\to Aを *-同型(定義 1.5)、すなわち全単射であって線形、乗法的、対合を保つ写像とする。任意のa∈Aa\in Aについて∥θ(a)∥=∥a∥\|\theta(a)\|=\|a\|であること、すなわちθ\thetaが等長であることを証明せよ。

解答.

a∈Aa\in Aに対して∥a∥′:=∥θ(a)∥\|a\|':=\|\theta(a)\|とおく。θ\thetaが線形かつ全単射であることから、∥⋅∥′\|\cdot\|'はAA上のノルムの公理を満たす。θ\thetaが乗法的であることから

∥ab∥′=∥θ(a)θ(b)∥≤∥θ(a)∥ ∥θ(b)∥=∥a∥′∥b∥′\|ab\|'=\|\theta(a)\theta(b)\|\leq\|\theta(a)\|\,\|\theta(b)\|=\|a\|'\|b\|'

であり、対合を保つことから

∥a∗a∥′=∥θ(a∗a)∥=∥θ(a)∗θ(a)∥=∥θ(a)∥2=∥a∥′2\|a^*a\|'=\|\theta(a^*a)\|=\|\theta(a)^*\theta(a)\|=\|\theta(a)\|^2=\|a\|'^2

であるから∥⋅∥′\|\cdot\|'は C* 恒等式を満たす。θ\thetaは環の自己同型であるから、任意のa∈Aa\in Aについてθ(1)θ(a)=θ(1⋅a)=θ(a)\theta(1)\theta(a)=\theta(1\cdot a)=\theta(a)であり、θ\thetaの全射性からθ(1)\theta(1)はAAの単位元として作用し、単位元の一意性からθ(1)=1\theta(1)=1である。したがって∥1∥′=∥θ(1)∥=∥1∥=1\|1\|'=\|\theta(1)\|=\|1\|=1である。

(A,∥⋅∥′)(A,\|\cdot\|')の Cauchy 列(an)(a_n)をとる。∥an−am∥′=∥θ(an)−θ(am)∥→0\|a_n-a_m\|'=\|\theta(a_n)-\theta(a_m)\|\to0であるから(θ(an))(\theta(a_n))は(A,∥⋅∥)(A,\|\cdot\|)の Cauchy 列であり、その極限をbbとする。θ\thetaの全単射性からa:=θ−1(b)a:=\theta^{-1}(b)が定まり、∥an−a∥′=∥θ(an)−b∥→0\|a_n-a\|'=\|\theta(a_n)-b\|\to0である。したがって(A,∥⋅∥′)(A,\|\cdot\|')は完備であり、∥⋅∥′\|\cdot\|'はAAを単位的可換 C* 環にするノルムである。

系 3.2により∥⋅∥′=∥⋅∥\|\cdot\|'=\|\cdot\|であるから、任意のa∈Aa\in Aについて∥θ(a)∥=∥a∥′=∥a∥\|\theta(a)\|=\|a\|'=\|a\|である。▨

問題 5.3.KKを空でないコンパクト Hausdorff 空間とし、C(K)C(K)を例 1.3の可換 C* 環とする。f∈C(K)f\in C(K)について、次を証明せよ。

  1. ffが自己共役元であることと、ffが実数値であることは同値である。
  2. C(K)C(K)の元はすべて正規元である。
  3. ffがユニタリ元であることと、ffがKKの各点で絶対値11の値をとることは同値である。
解答.

(1)を示す。ffが自己共役であるとはf∗=ff^*=fであること、すなわち任意のx∈Kx\in Kについてf(x)‾=f(x)\overline{f(x)}=f(x)であることであり、これは任意のx∈Kx\in Kについてf(x)∈Rf(x)\in\mathbb Rであることと同値である。

(2)を示す。C(K)C(K)の積は各点ごとの積であり、C\mathbb Cの乗法は可換であるから、任意のf,g∈C(K)f,g\in C(K)についてfg=gffg=gfである。とくに任意のf∈C(K)f\in C(K)についてf∗f=ff∗f^*f=ff^*が成り立ち、ffは正規元である。

(3)を示す。ffがユニタリ元であるとはf∗f=ff∗=1f^*f=ff^*=1(11は定数関数11)であることであり、各点で評価すると任意のx∈Kx\in Kについてf(x)‾f(x)=1\overline{f(x)}f(x)=1、すなわち∣f(x)∣2=1|f(x)|^2=1となる。これは任意のx∈Kx\in Kについて∣f(x)∣=1|f(x)|=1であることと同値である。▨

参考文献

  1. Gerard J. Murphy, C*-Algebras and Operator Theory, Academic Press, 1990.C* 環の公理、対合の基本性質、および B(H) が C* 環であることの標準的な扱いを参考にした。
  2. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.正規元のスペクトル半径と自己共役元のスペクトルの実性に関する証明の型を参考にした。

前提記事