§E12.14Banach 環と指標

最終更新

本単元では既に、複素 Banach 空間上の有界線形作用素TTについて、可逆性が破れる点の集まりであるスペクトルを調べ、それが空でないコンパクト集合をなすことを示した。さらにコンパクト性と自己共役性を仮定すれば有限次元と同じ直交分解が戻ることも示したが、これらの仮定を外した一般の有界作用素では分解は戻らず、取り戻すには作用素であることに頼らない道具が要る。スペクトルの議論を支えていたのは、作用素の合成を積とみなしたときにその積が作用素ノルムについて劣乗法的であるという性質であり、元が作用素であること自体ではない。実際、コンパクト空間KKの上の連続関数の全体C(K)C(K)も、各点ごとの積と上限ノルムのもとで同じ性質をもつが、その元は作用素ではない。積とノルムのこの関係だけを公理として取り出した対象を Banach 環という。Banach 環は、作用素の環と関数の環をともに含む枠組みであり、スペクトルを代数的に扱うときの標準的な設定である。作用素の枠組みを離れ、Banach 環に対してスペクトル論を組み立て直す。

1 Banach 環

定義 1.1. 複素数体上の結合的な代数AAがBanach 環 (Banach algebra) であるとは、AAにノルムが与えられていて、AAがこのノルムについて Banach 空間(§E12.1 定義 1.3)であり、さらに

∥ab∥≤∥a∥ ∥b∥(a,b∈A)\|ab\|\leq\|a\|\,\|b\| \qquad(a,b\in A)

が成り立つことをいう。AAが1a=a1=a1a=a1=a(a∈Aa\in A)を満たす元11をもち∥1∥=1\|1\|=1であるとき、AAは単位的 (unital) であるという。積が可換であるとき、AAは可換であるという。単位的 Banach 環では∥1∥=1\|1\|=1であるから1≠01\neq0であり、A≠{0}A\neq\{0\}である。

例 1.2.

  1. KKを空でないコンパクト空間とし、C(K)C(K)をKK上の複素数値連続関数の全体とする。各点ごとの積と一様ノルム∥f∥∞=sup⁡x∈K∣f(x)∣\|f\|_\infty=\sup_{x\in K}|f(x)|について∥fg∥∞≤∥f∥∞∥g∥∞\|fg\|_\infty\leq\|f\|_\infty\|g\|_\inftyが成り立ち、§E12.1 定理 3.3によりC(K)C(K)は完備である。定数関数11は単位元であり∥1∥∞=1\|1\|_\infty=1である。したがってC(K)C(K)は単位的可換 Banach 環である。
  2. X≠{0}X\neq\{0\}を複素 Banach 空間とし、B(X)B(X)をXX上の有界線形作用素の全体(§E12.2 定義 1.1)とする。合成を積とすると、§E12.2 命題 2.2により作用素ノルムは劣乗法的であり、§E12.2 定理 2.1によりB(X)B(X)は完備である。恒等作用素IIは単位元であり、§E12.2 命題 1.2により∥I∥=sup⁡∥x∥≤1∥x∥=1\|I\|=\sup_{\|x\|\leq1}\|x\|=1である。したがってB(X)B(X)は単位的 Banach 環である。X=C2X=\mathbb C^2に Euclid ノルムを入れると、u(z1,z2)=(z2,0)u(z_1,z_2)=(z_2,0)とv(z1,z2)=(0,z1)v(z_1,z_2)=(0,z_1)はuv(z1,z2)=(z1,0)uv(z_1,z_2)=(z_1,0)、vu(z1,z2)=(0,z2)vu(z_1,z_2)=(0,z_2)を満たすのでuv≠vuuv\neq vuであり、B(C2)B(\mathbb C^2)は可換でない。

補題 1.3.AAを単位的 Banach 環とし、x∈Ax\in Aが∥x∥<1\|x\|<1を満たすとする。x0=1x^0=1と定めると、級数∑n=0∞xn\sum_{n=0}^\infty x^nはAAのノルムについて収束し、1−x1-xは可逆であって

(1−x)−1=∑n=0∞xn,∥(1−x)−1∥≤11−∥x∥(1-x)^{-1}=\sum_{n=0}^\infty x^n, \qquad \|(1-x)^{-1}\|\leq\frac{1}{1-\|x\|}

が成り立つ。

証明. 劣乗法性を繰り返し用いると∥xn∥≤∥x∥n\|x^n\|\leq\|x\|^n(n≥1n\geq1)であり、∥x0∥=∥1∥=1\|x^0\|=\|1\|=1であるから、この不等式はn=0n=0でも成り立つ。部分和をsN=∑n=0Nxns_N=\sum_{n=0}^Nx^nとおくと、M>NM>Nに対して

∥sM−sN∥≤∑n=N+1M∥x∥n≤∥x∥N+11−∥x∥\|s_M-s_N\|\leq\sum_{n=N+1}^{M}\|x\|^n\leq\frac{\|x\|^{N+1}}{1-\|x\|}

である。右辺はN→∞N\to\inftyで00に収束するので(sN)(s_N)は Cauchy 列であり、AAの完備性により極限s∈As\in Aが存在する。また∥sN∥≤∑n=0N∥x∥n≤(1−∥x∥)−1\|s_N\|\leq\sum_{n=0}^N\|x\|^n\leq(1-\|x\|)^{-1}であり、ノルムは連続であるから∥s∥≤(1−∥x∥)−1\|s\|\leq(1-\|x\|)^{-1}である。

有限和について

(1−x)sN=sN(1−x)=1−xN+1(1-x)s_N=s_N(1-x)=1-x^{N+1}

が成り立つ。∥(1−x)sN−(1−x)s∥≤∥1−x∥ ∥sN−s∥→0\|(1-x)s_N-(1-x)s\|\leq\|1-x\|\,\|s_N-s\|\to0および∥xN+1∥≤∥x∥N+1→0\|x^{N+1}\|\leq\|x\|^{N+1}\to0であるから、N→∞N\to\inftyとして(1−x)s=1(1-x)s=1を得る。同様にs(1−x)=1s(1-x)=1である。したがって1−x1-xは可逆であり、その逆元はssである。▨

補題 1.4.AAを単位的 Banach 環とし、G(A)G(A)をAAの可逆元全体とする。a∈G(A)a\in G(A)とb∈Ab\in Aが∥b−a∥<∥a−1∥−1\|b-a\|<\|a^{-1}\|^{-1}を満たすならばb∈G(A)b\in G(A)であり、t=∥a−1∥ ∥b−a∥t=\|a^{-1}\|\,\|b-a\|とおくと

∥b−1∥≤∥a−1∥1−t,∥b−1−a−1∥≤∥a−1∥2∥b−a∥1−t\|b^{-1}\|\leq\frac{\|a^{-1}\|}{1-t}, \qquad \|b^{-1}-a^{-1}\|\leq\frac{\|a^{-1}\|^2\|b-a\|}{1-t}

が成り立つ。とくにG(A)G(A)はAAの開集合であり、a↦a−1a\mapsto a^{-1}はG(A)G(A)上で連続である。

証明.a∈G(A)a\in G(A)を取るとa−1a=1≠0a^{-1}a=1\neq0であるからa−1≠0a^{-1}\neq0であり、∥a−1∥>0\|a^{-1}\|>0である。x=a−1(a−b)x=a^{-1}(a-b)とおくと∥x∥≤∥a−1∥ ∥a−b∥=t<1\|x\|\leq\|a^{-1}\|\,\|a-b\|=t<1であり、

a(1−x)=a−aa−1(a−b)=a−(a−b)=ba(1-x)=a-aa^{-1}(a-b)=a-(a-b)=b

である。補題 1.3により1−x1-xは可逆であるから、bbは可逆元の積として可逆でありb−1=(1−x)−1a−1b^{-1}=(1-x)^{-1}a^{-1}である。したがって

∥b−1∥≤∥(1−x)−1∥ ∥a−1∥≤∥a−1∥1−t\|b^{-1}\|\leq\|(1-x)^{-1}\|\,\|a^{-1}\|\leq\frac{\|a^{-1}\|}{1-t}

である。さらに

b−1(a−b)a−1=b−1aa−1−b−1ba−1=b−1−a−1b^{-1}(a-b)a^{-1}=b^{-1}aa^{-1}-b^{-1}ba^{-1}=b^{-1}-a^{-1}

であるから、∥b−1−a−1∥≤∥b−1∥ ∥a−b∥ ∥a−1∥≤∥a−1∥2∥b−a∥/(1−t)\|b^{-1}-a^{-1}\|\leq\|b^{-1}\|\,\|a-b\|\,\|a^{-1}\|\leq\|a^{-1}\|^2\|b-a\|/(1-t)である。

a∈G(A)a\in G(A)を中心とする半径∥a−1∥−1\|a^{-1}\|^{-1}の開球はG(A)G(A)に含まれるからG(A)G(A)は開集合である。b→ab\to aのときt→0t\to0であり、上の第二の評価の右辺は00に収束するから、a↦a−1a\mapsto a^{-1}はaaで連続である。▨

2 スペクトル

定義 2.1.AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in Aとする。

ρ(a)={λ∈C:λ1−a∈G(A)}\rho(a)=\{\lambda\in\mathbb C:\lambda1-a\in G(A)\}

をaaのレゾルベント集合 (resolvent set) といい、その補集合σ(a)=C∖ρ(a)\sigma(a)=\mathbb C\setminus\rho(a)をaaのスペクトル (spectrum) という。λ∈ρ(a)\lambda\in\rho(a)に対して

R(λ,a)=(λ1−a)−1R(\lambda,a)=(\lambda1-a)^{-1}

をaaのレゾルベント (resolvent) という。

注意 2.2.X≠{0}X\neq\{0\}を複素 Banach 空間としA=B(X)A=B(X)とすると、T∈B(X)T\in B(X)がB(X)B(X)の可逆元であることと、TTが全単射でありその逆写像が有界であることは同値である。前者を仮定すると、TTの逆元S∈B(X)S\in B(X)はST=TS=IST=TS=Iを満たすのでTTの逆写像であり、有界である。後者を仮定すると、逆写像は有界線形写像であるからB(X)B(X)に属し、TTの逆元になる。したがって定義 2.1はA=B(X)A=B(X)において§E12.10 定義 1.1と一致する。なお§E12.4 定理 3.2により、TTが全単射であれば逆写像の有界性は自動的に従う。

命題 2.3.AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in Aとする。

  1. ∣λ∣>∥a∥|\lambda|>\|a\|ならばλ∈ρ(a)\lambda\in\rho(a)であり、級数∑n=0∞anλ−n−1\sum_{n=0}^\infty a^n\lambda^{-n-1}はAAのノルムについて収束してR(λ,a)R(\lambda,a)に等しく、∥R(λ,a)∥≤(∣λ∣−∥a∥)−1\|R(\lambda,a)\|\leq(|\lambda|-\|a\|)^{-1}が成り立つ。
  2. ρ(a)\rho(a)はC\mathbb Cの開集合であり、写像λ↦R(λ,a)\lambda\mapsto R(\lambda,a)はρ(a)\rho(a)の各点でノルムについて複素微分可能で、その微分係数は−R(λ,a)2-R(\lambda,a)^2である。
  3. λ,μ∈ρ(a)\lambda,\mu\in\rho(a)に対してR(λ,a)−R(μ,a)=(μ−λ)R(λ,a)R(μ,a)R(\lambda,a)-R(\mu,a)=(\mu-\lambda)R(\lambda,a)R(\mu,a)が成り立つ。

証明.(1)を示す。∣λ∣>∥a∥|\lambda|>\|a\|とする。λ≠0\lambda\neq0であり∥a/λ∥<1\|a/\lambda\|<1であるから、補題 1.3により1−a/λ1-a/\lambdaは可逆であって、その逆元は∑n=0∞(a/λ)n\sum_{n=0}^\infty(a/\lambda)^nに等しい。λ1−a=λ(1−a/λ)\lambda1-a=\lambda(1-a/\lambda)であるからλ1−a\lambda1-aは可逆であり、

R(λ,a)=1λ∑n=0∞anλn=∑n=0∞anλ−n−1R(\lambda,a)=\frac{1}{\lambda}\sum_{n=0}^\infty\frac{a^n}{\lambda^n}=\sum_{n=0}^\infty a^n\lambda^{-n-1}

である。同じ補題のノルム評価から

∥R(λ,a)∥≤1∣λ∣⋅11−∥a∥/∣λ∣=1∣λ∣−∥a∥\|R(\lambda,a)\|\leq\frac{1}{|\lambda|}\cdot\frac{1}{1-\|a\|/|\lambda|}=\frac{1}{|\lambda|-\|a\|}

を得る。

(2)を示す。λ0∈ρ(a)\lambda_0\in\rho(a)を取り、R0=R(λ0,a)R_0=R(\lambda_0,a)とおく。R0≠0R_0\neq0であるから∥R0∥>0\|R_0\|>0である。h∈Ch\in\mathbb Cが∣h∣ ∥R0∥<1|h|\,\|R_0\|<1を満たすとき、

(λ0+h)1−a=(λ01−a)(1+hR0)(\lambda_0+h)1-a=(\lambda_01-a)(1+hR_0)

であり、補題 1.3をx=−hR0x=-hR_0に適用すると1+hR01+hR_0は可逆である。よってλ0+h∈ρ(a)\lambda_0+h\in\rho(a)であり、ρ(a)\rho(a)は開集合である。さらに

R(λ0+h,a)=(1+hR0)−1R0=∑n=0∞(−h)nR0n+1R(\lambda_0+h,a)=(1+hR_0)^{-1}R_0=\sum_{n=0}^\infty(-h)^nR_0^{n+1}

であるから、h≠0h\neq0に対して

∥R(λ0+h,a)−R0h+R02∥=∥∑n=2∞(−1)nhn−1R0n+1∥≤∣h∣ ∥R0∥31−∣h∣ ∥R0∥\left\|\frac{R(\lambda_0+h,a)-R_0}{h}+R_0^2\right\| =\left\|\sum_{n=2}^\infty(-1)^nh^{n-1}R_0^{n+1}\right\| \leq\frac{|h|\,\|R_0\|^3}{1-|h|\,\|R_0\|}

である。右辺はh→0h\to0で00に収束するので、λ↦R(λ,a)\lambda\mapsto R(\lambda,a)はλ0\lambda_0で複素微分可能であり、微分係数は−R02-R_0^2である。

(3)の証明は演習とする(問題 6.1 (レゾルベント方程式))。▨

補題 2.4.EEを複素 Banach 空間、Ω⊆C\Omega\subseteq\mathbb Cを開集合とし、F:Ω→EF:\Omega\to EがΩ\Omegaの各点でノルムについて複素微分可能であるとする。このとき、任意のφ∈E∗\varphi\in E^*についてφ∘F\varphi\circ FはΩ\Omega上の正則関数であり、(φ∘F)′=φ∘F′(\varphi\circ F)'=\varphi\circ F'である。

証明.λ0∈Ω\lambda_0\in\Omegaとφ∈E∗\varphi\in E^*を取る。h≠0h\neq0がλ0+h∈Ω\lambda_0+h\in\Omegaを満たすとき、φ\varphiの線形性から

φ(F(λ0+h))−φ(F(λ0))h−φ(F′(λ0))=φ(F(λ0+h)−F(λ0)h−F′(λ0))\frac{\varphi(F(\lambda_0+h))-\varphi(F(\lambda_0))}{h}-\varphi(F'(\lambda_0)) =\varphi\left(\frac{F(\lambda_0+h)-F(\lambda_0)}{h}-F'(\lambda_0)\right)

であり、φ\varphiの有界性から、この左辺の絶対値は

∥φ∥∥F(λ0+h)−F(λ0)h−F′(λ0)∥\|\varphi\|\left\|\frac{F(\lambda_0+h)-F(\lambda_0)}{h}-F'(\lambda_0)\right\|

で上から抑えられる。FFがλ0\lambda_0で複素微分可能であることから、h→0h\to0のとき右側の因子は00に収束する。よってφ∘F\varphi\circ Fはλ0\lambda_0で複素微分可能であり、微分係数はφ(F′(λ0))\varphi(F'(\lambda_0))である。λ0\lambda_0は任意であるから、φ∘F\varphi\circ FはΩ\Omega上の正則関数であり(φ∘F)′=φ∘F′(\varphi\circ F)'=\varphi\circ F'である。▨

定理 2.5.AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in Aとする。このときσ(a)\sigma(a)は空でないコンパクト集合であり、

σ(a)⊆{λ∈C:∣λ∣≤∥a∥}\sigma(a)\subseteq\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|\leq\|a\|\}

が成り立つ。

証明.命題 2.3 (1)により∣λ∣>∥a∥|\lambda|>\|a\|を満たすλ\lambdaはρ(a)\rho(a)に属するから、σ(a)\sigma(a)は半径∥a∥\|a\|の閉円板に含まれる。命題 2.3 (2)によりρ(a)\rho(a)は開集合であるからσ(a)\sigma(a)は閉集合である。§E1.14 定義 4.1によりC\mathbb CをR2\mathbb R^2とみなすと、σ(a)\sigma(a)は有界閉集合であるから§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。

σ(a)=∅\sigma(a)=\emptysetと仮定する。このときρ(a)=C\rho(a)=\mathbb Cであり、命題 2.3 (2)によりλ↦R(λ,a)\lambda\mapsto R(\lambda,a)はC\mathbb C全体でノルムについて複素微分可能である。φ∈A∗\varphi\in A^*を取りf=φ∘R( ⋅ ,a)f=\varphi\circ R(\,\cdot\,,a)とおくと、補題 2.4によりffはC\mathbb C上の正則関数である。命題 2.3 (1)により、∣λ∣>∥a∥|\lambda|>\|a\|では

∣f(λ)∣≤∥φ∥ ∥R(λ,a)∥≤∥φ∥∣λ∣−∥a∥|f(\lambda)|\leq\|\varphi\|\,\|R(\lambda,a)\|\leq\frac{\|\varphi\|}{|\lambda|-\|a\|}

である。したがって∣λ∣≥∥a∥+1|\lambda|\geq\|a\|+1では∣f(λ)∣≤∥φ∥|f(\lambda)|\leq\|\varphi\|である。D={λ∈C:∣λ∣≤∥a∥+1}D=\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|\leq\|a\|+1\}とおくと、C\mathbb CをR2\mathbb R^2とみなしてDDは空でない有界閉集合であるから§E2.9 定理 4.3によりコンパクトであり、∣f∣|f|はDD上の実数値連続関数であるから§E2.19 定理 4.4によりDD上で最大値をとる。よってffはC\mathbb C上で有界である。§E5.9 定理 4.1によりffは定数であり、上の評価から∣λ∣→∞|\lambda|\to\inftyでf(λ)→0f(\lambda)\to0であるからffは恒等的に00である。

よって、すべてのλ∈C\lambda\in\mathbb Cとすべてのφ∈A∗\varphi\in A^*についてφ(R(λ,a))=0\varphi(R(\lambda,a))=0である。§E12.3 系 3.1によりA∗A^*はAAの点を分離するからR(λ,a)=0R(\lambda,a)=0である。しかしR(λ,a)(λ1−a)=1R(\lambda,a)(\lambda1-a)=1であり、∥1∥=1\|1\|=1から1≠01\neq0であるので、これは矛盾である。したがってσ(a)≠∅\sigma(a)\neq\emptysetである。▨

定理 2.6 (Gelfand–Mazur).AAを単位的 Banach 環とし、AAの零でない元がすべて可逆であるとする。このときι:C→A\iota:\mathbb C\to A、ι(λ)=λ1\iota(\lambda)=\lambda1は等長な代数同型である。

証明.ι\iotaは線形であり、ι(λ)ι(μ)=λμ1=ι(λμ)\iota(\lambda)\iota(\mu)=\lambda\mu1=\iota(\lambda\mu)かつι(1)=1\iota(1)=1であるから代数準同型である。∥ι(λ)∥=∣λ∣ ∥1∥=∣λ∣\|\iota(\lambda)\|=|\lambda|\,\|1\|=|\lambda|であるからι\iotaは等長であり、とくに単射である。

a∈Aa\in Aを取る。定理 2.5によりσ(a)≠∅\sigma(a)\neq\emptysetであるからλ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)を取ることができる。λ1−a\lambda1-aは可逆でないので、仮定によりλ1−a=0\lambda1-a=0でありa=ι(λ)a=\iota(\lambda)である。よってι\iotaは全射である。▨

3 スペクトル半径

定義 3.1.AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in Aとする。

r(a)=sup⁡{∣λ∣:λ∈σ(a)}r(a)=\sup\{|\lambda|:\lambda\in\sigma(a)\}

をaaのスペクトル半径 (spectral radius) という。定理 2.5によりσ(a)\sigma(a)は空でなく半径∥a∥\|a\|の閉円板に含まれるから、r(a)r(a)は0≤r(a)≤∥a∥0\leq r(a)\leq\|a\|を満たす実数である。

補題 3.2.AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in A、n∈Z≥1n\in\mathbb Z_{\geq1}、λ∈C\lambda\in\mathbb Cとし、q=∑k=0n−1λn−1−kakq=\sum_{k=0}^{n-1}\lambda^{n-1-k}a^kとおく。このとき

λn1−an=(λ1−a)q=q(λ1−a)\lambda^n1-a^n=(\lambda1-a)q=q(\lambda1-a)

が成り立ち、λ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)ならばλn∈σ(an)\lambda^n\in\sigma(a^n)である。とくにr(a)≤inf⁡n≥1∥an∥1/nr(a)\leq\inf_{n\geq1}\|a^n\|^{1/n}である。

証明.a0=1a^0=1と定めて計算すると

(λ1−a)q=∑k=0n−1λn−kak−∑k=0n−1λn−1−kak+1=∑k=0n−1λn−kak−∑k=1nλn−kak=λn1−an(\lambda1-a)q =\sum_{k=0}^{n-1}\lambda^{n-k}a^k-\sum_{k=0}^{n-1}\lambda^{n-1-k}a^{k+1} =\sum_{k=0}^{n-1}\lambda^{n-k}a^k-\sum_{k=1}^{n}\lambda^{n-k}a^{k} =\lambda^n1-a^n

である。aaとλ1\lambda1はいずれもqqと可換であるから、同じ計算によりq(λ1−a)=λn1−anq(\lambda1-a)=\lambda^n1-a^nである。

λ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)とし、λn∈ρ(an)\lambda^n\in\rho(a^n)と仮定する。b=(λn1−an)−1b=(\lambda^n1-a^n)^{-1}とおく。可逆元uuとuuに可換な元ccについてはuc=cuuc=cuの両辺に左右からu−1u^{-1}を掛けてcu−1=u−1ccu^{-1}=u^{-1}cを得るので、aaと可換なλn1−an\lambda^n1-a^nの逆元bbはaaと可換であり、したがってqqとも可換である。よって

(λ1−a)(qb)=(λn1−an)b=1,(qb)(λ1−a)=b q(λ1−a)=b(λn1−an)=1(\lambda1-a)(qb)=(\lambda^n1-a^n)b=1, \qquad (qb)(\lambda1-a)=b\,q(\lambda1-a)=b(\lambda^n1-a^n)=1

であり、λ1−a\lambda1-aは可逆である。これはλ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)に反する。よってλn∈σ(an)\lambda^n\in\sigma(a^n)である。

λ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)とすると、いま示したことと定理 2.5により∣λ∣n=∣λn∣≤∥an∥|\lambda|^n=|\lambda^n|\leq\|a^n\|であり、∣λ∣≤∥an∥1/n|\lambda|\leq\|a^n\|^{1/n}である。λ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)について上限を取ると、各n≥1n\geq1についてr(a)≤∥an∥1/nr(a)\leq\|a^n\|^{1/n}であるからr(a)≤inf⁡n≥1∥an∥1/nr(a)\leq\inf_{n\geq1}\|a^n\|^{1/n}である。▨

定理 3.3.AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in Aとする。このとき集合{∣λ∣:λ∈σ(a)}\{|\lambda|:\lambda\in\sigma(a)\}は最大値をもち、極限lim⁡n→∞∥an∥1/n\lim_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n}が存在して

r(a)=max⁡{∣λ∣:λ∈σ(a)}=lim⁡n→∞∥an∥1/n=inf⁡n≥1∥an∥1/nr(a)=\max\{|\lambda|:\lambda\in\sigma(a)\} =\lim_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n} =\inf_{n\geq1}\|a^n\|^{1/n}

が成り立つ。

証明.定理 2.5によりσ(a)\sigma(a)は空でないコンパクト集合であり、λ↦∣λ∣\lambda\mapsto|\lambda|は連続であるから、§E2.19 定理 4.4により{∣λ∣:λ∈σ(a)}\{|\lambda|:\lambda\in\sigma(a)\}は最大値をもつ。最大値は上限に等しいので、この最大値はr(a)r(a)である。

Ω1={λ∈C:∣λ∣>r(a)}\Omega_1=\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|>r(a)\}、Ω2={λ∈C:∣λ∣>∥a∥}\Omega_2=\{\lambda\in\mathbb C:|\lambda|>\|a\|\}とおく。§E5.11 定義 1.1の記法ではΩ1\Omega_1とΩ2\Omega_2は原点を中心とし内半径がそれぞれr(a)r(a)と∥a∥\|a\|、外半径が∞\inftyの円環であり、Ω2⊆Ω1\Omega_2\subseteq\Omega_1である。s>0s>0に対して、CsC_sは原点を中心とする半径ssの円周を反時計回りにたどるものとする。

φ∈A∗\varphi\in A^*を固定し、f=φ∘R( ⋅ ,a)f=\varphi\circ R(\,\cdot\,,a)とおく。Ω1⊆ρ(a)\Omega_1\subseteq\rho(a)であるから、命題 2.3 (2)と補題 2.4によりffはΩ1\Omega_1上の正則関数である。§E5.11 定理 2.1により、s>r(a)s>r(a)の選び方によらない複素数族(cn)n∈Z(c_n)_{n\in\mathbb Z}が

cn=12πi∮Csf(w)wn+1 dwc_n=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_s}\frac{f(w)}{w^{n+1}}\,dw

で定まり、Ω1\Omega_1の各点でf(λ)=∑n≥0cnλn+∑n≥1c−nλ−nf(\lambda)=\sum_{n\geq0}c_n\lambda^n+\sum_{n\geq1}c_{-n}\lambda^{-n}が成り立つ。

一方、命題 2.3 (1)とφ\varphiの連続性により、Ω2\Omega_2では

f(λ)=∑n=0∞φ(an)λ−n−1f(\lambda)=\sum_{n=0}^\infty\varphi(a^n)\lambda^{-n-1}

である。∥a∥<s1≤s2<∞\|a\|<s_1\leq s_2<\inftyとすると、s1≤∣λ∣≤s2s_1\leq|\lambda|\leq s_2において

∣φ(an)λ−n−1∣≤∥φ∥s1(∥a∥s1)n|\varphi(a^n)\lambda^{-n-1}|\leq\frac{\|\varphi\|}{s_1}\left(\frac{\|a\|}{s_1}\right)^n

であり、右辺は公比が11より小さい等比級数の項であるから、この級数の部分和の列は閉円環s1≤∣λ∣≤s2s_1\leq|\lambda|\leq s_2上で一様 Cauchy であり、一様収束する。そこでbn=0b_n=0(n≥0n\geq0)、b−n−1=φ(an)b_{-n-1}=\varphi(a^n)(n≥0n\geq0)とおくと、族(bn)n∈Z(b_n)_{n\in\mathbb Z}はΩ2\Omega_2の各点でffの両側冪級数表示を与え、Ω2\Omega_2の内部の各閉円環上で一様収束する。cnc_nの上の積分表示はs>∥a∥s>\|a\|でも成り立つから、(cn)(c_n)はΩ2\Omega_2上のffの Laurent 係数でもある。したがって§E5.11 命題 2.2を円環Ω2\Omega_2に適用して、すべてのn∈Zn\in\mathbb Zについてcn=bnc_n=b_nを得る。

λ1∈Ω1\lambda_1\in\Omega_1を取る。級数∑n≥1c−nλ1−n\sum_{n\geq1}c_{-n}\lambda_1^{-n}は収束するので、その項は00に収束する。前段でc−n−1=φ(an)c_{-n-1}=\varphi(a^n)であったから、各φ∈A∗\varphi\in A^*について

sup⁡n≥0∣φ(an)λ1−n−1∣<∞\sup_{n\geq0}|\varphi(a^n)\lambda_1^{-n-1}|<\infty

である。J:A→A∗∗J:A\to A^{**}を§E12.3 定理 3.3の標準写像とし、Tn=J(anλ1−n−1)T_n=J(a^n\lambda_1^{-n-1})とおく。A∗∗=B(A∗,C)A^{**}=B(A^*,\mathbb C)であり、上の評価は各φ∈A∗\varphi\in A^*についてsup⁡n≥0∣Tn(φ)∣<∞\sup_{n\geq0}|T_n(\varphi)|<\inftyであることを述べている。§E12.2 定理 2.1によりA∗A^*は Banach 空間であるから、§E12.4 定理 2.1によりsup⁡n≥0∥Tn∥<∞\sup_{n\geq0}\|T_n\|<\inftyである。MMをこの上限と11の大きいほうとすると、JJが等長であることから

∥an∥ ∣λ1∣−n−1=∥Tn∥≤M,すなわち∥an∥≤M∣λ1∣n+1\|a^n\|\,|\lambda_1|^{-n-1}=\|T_n\|\leq M, \qquad\text{すなわち}\qquad \|a^n\|\leq M|\lambda_1|^{n+1}

である。n≥1n\geq1について∥an∥1/n≤M1/n∣λ1∣(n+1)/n\|a^n\|^{1/n}\leq M^{1/n}|\lambda_1|^{(n+1)/n}であり、M≥1M\geq1からM1/n→1M^{1/n}\to1、また∣λ1∣(n+1)/n→∣λ1∣|\lambda_1|^{(n+1)/n}\to|\lambda_1|であるから

lim sup⁡n→∞∥an∥1/n≤∣λ1∣\limsup_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n}\leq|\lambda_1|

である。λ1\lambda_1はΩ1\Omega_1の元として任意であり、{∣λ∣:λ∈Ω1}\{|\lambda|:\lambda\in\Omega_1\}の下限はr(a)r(a)であるから、lim sup⁡n→∞∥an∥1/n≤r(a)\limsup_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n}\leq r(a)である。

補題 3.2によりr(a)≤inf⁡n≥1∥an∥1/nr(a)\leq\inf_{n\geq1}\|a^n\|^{1/n}であり、下限は下極限以下であるから

lim sup⁡n→∞∥an∥1/n≤r(a)≤inf⁡n≥1∥an∥1/n≤lim inf⁡n→∞∥an∥1/n\limsup_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n}\leq r(a)\leq\inf_{n\geq1}\|a^n\|^{1/n}\leq\liminf_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n}

が成り立つ。上極限は下極限以上であるから、これらはすべて等しい。したがって極限lim⁡n→∞∥an∥1/n\lim_{n\to\infty}\|a^n\|^{1/n}が存在し、r(a)r(a)およびinf⁡n≥1∥an∥1/n\inf_{n\geq1}\|a^n\|^{1/n}に等しい。▨

4 極大イデアルと指標

補題 4.1.AAを単位的 Banach 環とする。

  1. AAの真の両側イデアルは可逆元を含まず、その閉包もAAの真の両側イデアルである。
  2. AAが可換であるとき、AAの極大イデアルは閉である。

証明.(1)を示す。I⊊AI\subsetneq Aを両側イデアルとする。u∈Iu\in Iが可逆であるとすると1=u−1u∈I1=u^{-1}u\in Iであり、任意のr∈Ar\in Aについてr=r1∈Ir=r1\in IとなってI=AI=Aである。これはIIが真であることに反するので、IIは可逆元を含まない。

I‾\overline IをIIの閉包とする。x,y∈I‾x,y\in\overline I、b∈Ab\in A、α∈C\alpha\in\mathbb Cに対して、xn→xx_n\to x、yn→yy_n\to yを満たすIIの列(xn)(x_n)、(yn)(y_n)を取ると、xn+αyn→x+αyx_n+\alpha y_n\to x+\alpha yであり、∥bxn−bx∥≤∥b∥ ∥xn−x∥→0\|bx_n-bx\|\leq\|b\|\,\|x_n-x\|\to0と∥xnb−xb∥≤∥xn−x∥ ∥b∥→0\|x_nb-xb\|\leq\|x_n-x\|\,\|b\|\to0からbxn→bxbx_n\to bx、xnb→xbx_nb\to xbである。よってx+αyx+\alpha y、bxbx、xbxbはいずれもI‾\overline Iに属し、I‾\overline Iは両側イデアルである。さらに、IIは可逆元を含まないのでI⊆A∖G(A)I\subseteq A\setminus G(A)であり、補題 1.4によりG(A)G(A)は開集合であるからA∖G(A)A\setminus G(A)は閉集合である。したがってI‾⊆A∖G(A)\overline I\subseteq A\setminus G(A)であり、1∈G(A)1\in G(A)から1∉I‾1\notin\overline I、すなわちI‾≠A\overline I\neq Aである。

(2)を示す。MMを可換なAAの極大イデアルとする。(1)によりM‾\overline MはMMを含む真のイデアルであるから、MMの極大性によりM‾=M\overline M=Mである。よってMMは閉である。▨

命題 4.2.AAを単位的 Banach 環とし、I⊊AI\subsetneq Aを閉両側イデアルとする。A/IA/Iに

∥a+I∥=inf⁡x∈I∥a+x∥\|a+I\|=\inf_{x\in I}\|a+x\|

を定めると、A/IA/Iはこのノルムについて単位的 Banach 環であり、商写像q:A→A/Iq:A\to A/Iは∥q(a)∥≤∥a∥\|q(a)\|\leq\|a\|を満たす全射な代数準同型である。AAが可換ならばA/IA/Iも可換である。

証明.§E6.3 命題 5.1によりA/IA/Iは単位元1+I1+Iをもつ環であり、qqは全射な環準同型でker⁡q=I\ker q=Iである。λ∈C\lambda\in\mathbb Cとx∈Ix\in Iに対してλx=(λ1)x∈I\lambda x=(\lambda1)x\in Iであるから、λ(a+I)=λa+I\lambda(a+I)=\lambda a+Iは代表元の取り方によらず、A/IA/Iは複素数体上の代数でありqqは代数準同型である。AAが可換ならば(a+I)(b+I)=ab+I=ba+I=(b+I)(a+I)(a+I)(b+I)=ab+I=ba+I=(b+I)(a+I)である。

∥⋅∥\|\cdot\|がノルムであることを確かめる。λ≠0\lambda\neq0のときx↦λxx\mapsto\lambda xはIIからIIへの全単射であるから

∥λa+I∥=inf⁡x∈I∥λa+λx∥=∣λ∣inf⁡x∈I∥a+x∥=∣λ∣ ∥a+I∥\|\lambda a+I\|=\inf_{x\in I}\|\lambda a+\lambda x\|=|\lambda|\inf_{x\in I}\|a+x\|=|\lambda|\,\|a+I\|

であり、λ=0\lambda=0のときは両辺とも00である。x,y∈Ix,y\in Iに対して∥a+b+x+y∥≤∥a+x∥+∥b+y∥\|a+b+x+y\|\leq\|a+x\|+\|b+y\|であり、xxとyyについて下限を取ると∥a+b+I∥≤∥a+I∥+∥b+I∥\|a+b+I\|\leq\|a+I\|+\|b+I\|を得る。∥a+I∥=0\|a+I\|=0とすると、aaとIIの距離が00であるからa∈I‾=Ia\in\overline I=Iであり、a+Ia+IはA/IA/Iの零元である。したがって∥⋅∥\|\cdot\|はA/IA/I上のノルムである。

劣乗法性を示す。x,y∈Ix,y\in Iに対して(a+x)(b+y)=ab+(ay+xb+xy)(a+x)(b+y)=ab+(ay+xb+xy)であり、IIが両側イデアルであることからay+xb+xy∈Iay+xb+xy\in Iである。よって∥ab+I∥≤∥(a+x)(b+y)∥≤∥a+x∥ ∥b+y∥\|ab+I\|\leq\|(a+x)(b+y)\|\leq\|a+x\|\,\|b+y\|であり、xxとyyについて下限を取ると∥(a+I)(b+I)∥≤∥a+I∥ ∥b+I∥\|(a+I)(b+I)\|\leq\|a+I\|\,\|b+I\|を得る。x=0x=0を取ると∥q(a)∥≤∥a∥\|q(a)\|\leq\|a\|である。

∥1+I∥=1\|1+I\|=1を示す。∥1+I∥≤∥1∥=1\|1+I\|\leq\|1\|=1である。∥1+I∥<1\|1+I\|<1と仮定すると、∥1+x∥<1\|1+x\|<1を満たすx∈Ix\in Iが存在する。補題 1.3を1+x1+xに適用すると1−(1+x)=−x1-(1+x)=-xは可逆であり、−x∈I-x\in IであるからIIは可逆元を含む。これは補題 4.1 (1)に反する。よって∥1+I∥=1\|1+I\|=1である。

完備性を示す。(an+I)(a_n+I)をA/IA/Iの Cauchy 列とする。各k∈Z≥1k\in\mathbb Z_{\geq1}に対して、m,n≥nkm,n\geq n_kならば∥an−am+I∥<2−k\|a_n-a_m+I\|<2^{-k}となる添字nkn_kを、n1<n2<⋯n_1<n_2<\cdotsとなるように取る。b1=an1b_1=a_{n_1}とおき、bk−ank∈Ib_k-a_{n_k}\in Iを満たすbkb_kが定まったとき、∥ank+1−ank+I∥<2−k\|a_{n_{k+1}}-a_{n_k}+I\|<2^{-k}であるから∥ank+1−ank+xk∥<2−k\|a_{n_{k+1}}-a_{n_k}+x_k\|<2^{-k}を満たすxk∈Ix_k\in Iを取り、bk+1=bk+(ank+1−ank+xk)b_{k+1}=b_k+(a_{n_{k+1}}-a_{n_k}+x_k)とおく。するとbk+1−ank+1=(bk−ank)+xk∈Ib_{k+1}-a_{n_{k+1}}=(b_k-a_{n_k})+x_k\in Iであり∥bk+1−bk∥<2−k\|b_{k+1}-b_k\|<2^{-k}である。l>kl>kに対して∥bl−bk∥<∑j≥k2−j=2−k+1\|b_l-b_k\|<\sum_{j\geq k}2^{-j}=2^{-k+1}であるから(bk)(b_k)はAAの Cauchy 列であり、AAの完備性によりb∈Ab\in Aに収束する。bk+I=ank+Ib_k+I=a_{n_k}+Iであるから

∥(ank+I)−(b+I)∥=∥bk−b+I∥≤∥bk−b∥⟶0\|(a_{n_k}+I)-(b+I)\|=\|b_k-b+I\|\leq\|b_k-b\|\longrightarrow0

である。ε>0\varepsilon>0に対して、m,n≥Nm,n\geq Nならば∥an−am+I∥<ε/2\|a_n-a_m+I\|<\varepsilon/2となるNNを取り、さらにnk≥Nn_k\geq Nかつ∥(ank+I)−(b+I)∥<ε/2\|(a_{n_k}+I)-(b+I)\|<\varepsilon/2となるkkを取ると、n≥Nn\geq Nについて∥(an+I)−(b+I)∥<ε\|(a_n+I)-(b+I)\|<\varepsilonである。よって(an+I)(a_n+I)はb+Ib+Iに収束し、A/IA/Iは完備である。▨

系 4.3.AAを単位的可換 Banach 環、MMをAAの極大イデアルとする。このときA/MA/Mは単位的可換 Banach 環であり、ι:C→A/M\iota:\mathbb C\to A/M、ι(λ)=λ(1+M)\iota(\lambda)=\lambda(1+M)は等長な代数同型である。

証明.補題 4.1 (2)によりMMは閉であり、極大イデアルは真のイデアルであるから、命題 4.2によりA/MA/Mは単位的可換 Banach 環である。§E6.4 命題 3.2 (2)によりA/MA/Mは体であるから、A/MA/Mの零でない元はすべて可逆である。したがって定理 2.6をA/MA/Mに適用することができ、ι\iotaは等長な代数同型である。▨

定義 4.4.AAを複素数体上の代数とする。線形写像φ:A→C\varphi:A\to\mathbb Cが零写像でなく、すべてのa,b∈Aa,b\in Aについてφ(ab)=φ(a)φ(b)\varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b)を満たすとき、φ\varphiをAAの指標 (character) という。AAの指標全体の集合をΔ(A)\Delta(A)と書き、AAの指標空間 (character space) という。

命題 4.5.AAを可換 Banach 環、φ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)とする。

  1. すべてのa∈Aa\in Aについて∣φ(a)∣≤∥a∥|\varphi(a)|\leq\|a\|が成り立つ。とくにφ\varphiは連続であり∥φ∥≤1\|\varphi\|\leq1である。
  2. AAが単位的ならばφ(1)=1\varphi(1)=1かつ∥φ∥=1\|\varphi\|=1である。

証明.(1)を示す。あるa∈Aa\in Aが∣φ(a)∣>∥a∥|\varphi(a)|>\|a\|を満たすと仮定する。λ=φ(a)\lambda=\varphi(a)とおくとλ≠0\lambda\neq0であり、x=a/λx=a/\lambdaは∥x∥<1\|x\|<1かつφ(x)=1\varphi(x)=1を満たす。∥xn∥≤∥x∥n\|x^n\|\leq\|x\|^n(n≥1n\geq1)であるから、部分和sN=∑n=1Nxns_N=\sum_{n=1}^Nx^nは Cauchy 列であり、AAの完備性によりy∈Ay\in Aに収束する。xsN=sN+1−xxs_N=s_{N+1}-xであり、∥xsN−xy∥≤∥x∥ ∥sN−y∥→0\|xs_N-xy\|\leq\|x\|\,\|s_N-y\|\to0かつsN+1−x→y−xs_{N+1}-x\to y-xであるからxy=y−xxy=y-x、すなわちy=x+xyy=x+xyである。φ\varphiは線形かつ乗法的であるから

φ(y)=φ(x)+φ(x)φ(y)=1+φ(y)\varphi(y)=\varphi(x)+\varphi(x)\varphi(y)=1+\varphi(y)

となり、0=10=1を得る。これは矛盾である。したがってすべてのa∈Aa\in Aについて∣φ(a)∣≤∥a∥|\varphi(a)|\leq\|a\|である。よってφ\varphiは有界線形汎関数(§E12.2 定義 1.1)であり、§E12.2 定理 1.4により連続で∥φ∥≤1\|\varphi\|\leq1である。

(2)を示す。φ\varphiは零写像でないからφ(b)≠0\varphi(b)\neq0を満たすb∈Ab\in Aが存在する。φ(b)=φ(b1)=φ(b)φ(1)\varphi(b)=\varphi(b1)=\varphi(b)\varphi(1)の両辺をφ(b)\varphi(b)で割るとφ(1)=1\varphi(1)=1である。∥1∥=1\|1\|=1であるから∥φ∥≥∣φ(1)∣=1\|\varphi\|\geq|\varphi(1)|=1であり、(1)と合わせて∥φ∥=1\|\varphi\|=1である。▨

定理 4.6.AAを単位的可換 Banach 環とする。φ↦ker⁡φ\varphi\mapsto\ker\varphiはΔ(A)\Delta(A)からAAの極大イデアル全体への全単射である。

証明.φ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)を取る。φ\varphiは線形であるからker⁡φ\ker\varphiは加法部分群であり、a∈ker⁡φa\in\ker\varphi、r∈Ar\in Aに対してφ(ra)=φ(r)φ(a)=0\varphi(ra)=\varphi(r)\varphi(a)=0であるからker⁡φ\ker\varphiはAAのイデアルである(§E6.3 定義 1.1)。命題 4.5 (2)によりφ(1)=1\varphi(1)=1であるから、φ(λ1)=λ\varphi(\lambda1)=\lambdaとなりφ\varphiはC\mathbb Cへの全射である。また1∉ker⁡φ1\notin\ker\varphiであるからker⁡φ⊊A\ker\varphi\subsetneq Aである。§E6.3 定理 6.2によりA/ker⁡φA/\ker\varphiはC\mathbb Cへ環として同型であり、C\mathbb Cは体であるから、§E6.4 命題 3.2 (2)によりker⁡φ\ker\varphiは極大イデアルである。よってφ↦ker⁡φ\varphi\mapsto\ker\varphiはΔ(A)\Delta(A)から極大イデアル全体への写像である。

φ,ψ∈Δ(A)\varphi,\psi\in\Delta(A)がker⁡φ=ker⁡ψ\ker\varphi=\ker\psiを満たすとする。a∈Aa\in Aに対してφ(a−φ(a)1)=φ(a)−φ(a)=0\varphi(a-\varphi(a)1)=\varphi(a)-\varphi(a)=0であるからa−φ(a)1∈ker⁡φ=ker⁡ψa-\varphi(a)1\in\ker\varphi=\ker\psiであり、ψ(a)=φ(a)ψ(1)=φ(a)\psi(a)=\varphi(a)\psi(1)=\varphi(a)である。したがってφ=ψ\varphi=\psiであり、この写像は単射である。

MMをAAの極大イデアルとする。系 4.3の等長な代数同型ι:C→A/M\iota:\mathbb C\to A/Mと、命題 4.2の商写像q:A→A/Mq:A\to A/Mを用いてφ=ι−1∘q\varphi=\iota^{-1}\circ qとおく。φ\varphiは線形写像の合成であり、ι−1\iota^{-1}とqqがともに乗法的であるから乗法的である。φ(1)=ι−1(1+M)=1\varphi(1)=\iota^{-1}(1+M)=1であるからφ\varphiは零写像でなく、φ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)である。ι\iotaは単射であるからker⁡φ=ker⁡q=M\ker\varphi=\ker q=Mである。したがってこの写像は全射である。▨

系 4.7.AAを単位的可換 Banach 環、a∈Aa\in Aとする。

  1. aaが可逆であることと、すべてのφ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)についてφ(a)≠0\varphi(a)\neq0であることは同値である。
  2. すべてのφ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)についてφ(a)∈σ(a)\varphi(a)\in\sigma(a)である。

証明.(1)を示す。aaが可逆であるとし、φ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)を取る。命題 4.5 (2)によりφ(a)φ(a−1)=φ(1)=1\varphi(a)\varphi(a^{-1})=\varphi(1)=1であるからφ(a)≠0\varphi(a)\neq0である。

逆にaaが可逆でないとする。aA={ab:b∈A}aA=\{ab:b\in A\}はAAのイデアルであり、1∈aA1\in aAならばab=1ab=1を満たすb∈Ab\in Aが存在して、AAの可換性からaaは可逆になる。よって1∉aA1\notin aAでありaA⊊AaA\subsetneq Aである。AAは可換であるからAAの左イデアルはイデアルにほかならず、極大左イデアルは極大イデアルである。したがって§E6.7 命題 3.2を真の左イデアルaAaAに適用して、aA⊆MaA\subseteq Mを満たす極大イデアルMMを得る。定理 4.6によりM=ker⁡φM=\ker\varphiを満たすφ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)が存在する。a=a1∈aA⊆Ma=a1\in aA\subseteq Mであるからφ(a)=0\varphi(a)=0である。

(2)を示す。φ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)を取りλ=φ(a)\lambda=\varphi(a)とおく。φ(λ1−a)=λφ(1)−φ(a)=0\varphi(\lambda1-a)=\lambda\varphi(1)-\varphi(a)=0であるから、(1)によりλ1−a\lambda1-aは可逆でない。よってλ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)である。▨

5 指標空間

定義 5.1.AAを可換 Banach 環とする。命題 4.5 (1)によりΔ(A)\Delta(A)はA∗A^*の部分集合である。Δ(A)\Delta(A)には、A∗A^*上の弱星位相σ(A∗,A)\sigma(A^*,A)(§E12.5 定義 2.1)からの部分空間位相(§E2.12 定義 4.1)を入れる。この位相をΔ(A)\Delta(A)上のGelfand 位相 (Gelfand topology) という。

補題 5.2.XXを複素ノルム空間とする。X∗X^*上の弱星位相σ(X∗,X)\sigma(X^*,X)は Hausdorff である。

証明.x∗,y∗∈X∗x^*,y^*\in X^*をx∗≠y∗x^*\neq y^*を満たすように取る。あるx∈Xx\in Xについてx∗(x)≠y∗(x)x^*(x)\neq y^*(x)であるから、ε=∣x∗(x)−y∗(x)∣/2>0\varepsilon=|x^*(x)-y^*(x)|/2>0とおくことができる。§E12.5 定義 2.1の基本近傍

V(x∗;x;ε)={z∗∈X∗:∣(z∗−x∗)(x)∣<ε}V(x^*;x;\varepsilon)=\{z^*\in X^*:|(z^*-x^*)(x)|<\varepsilon\}

は、評価写像ex(z∗)=z∗(x)e_x(z^*)=z^*(x)による開円板{μ∈C:∣μ−x∗(x)∣<ε}\{\mu\in\mathbb C:|\mu-x^*(x)|<\varepsilon\}の逆像である。弱星位相は各評価写像を連続にするからV(x∗;x;ε)V(x^*;x;\varepsilon)は開集合であり、同様にV(y∗;x;ε)V(y^*;x;\varepsilon)も開集合である。z∗z^*がこの二つの集合に属するとすると

∣x∗(x)−y∗(x)∣≤∣(z∗−x∗)(x)∣+∣(z∗−y∗)(x)∣<2ε=∣x∗(x)−y∗(x)∣|x^*(x)-y^*(x)|\leq|(z^*-x^*)(x)|+|(z^*-y^*)(x)|<2\varepsilon=|x^*(x)-y^*(x)|

となって矛盾するので、この二つの開集合は交わらない。x∗x^*とy∗y^*はそれぞれ自分の基本近傍に属するから、§E2.15 定義 1.2の条件が満たされる。▨

補題 5.3.AAを可換 Banach 環とする。Δ(A)\Delta(A)は Gelfand 位相について Hausdorff 空間である。

証明.AAは複素ノルム空間であるから、補題 5.2によりA∗A^*上の弱星位相σ(A∗,A)\sigma(A^*,A)は Hausdorff である。定義 5.1により Gelfand 位相はΔ(A)\Delta(A)がA∗A^*から受ける部分空間位相であるから、§E2.15 問題 6.2によりΔ(A)\Delta(A)は Hausdorff である。▨

補題 5.4.AAを可換 Banach 環とする。次の二つはA∗A^*の弱星閉部分集合である。

  1. Δ(A)∪{0}\Delta(A)\cup\{0\}。ここで00は零汎関数である。
  2. AAが単位的であるとき、{φ∈A∗:φ(1)=1}\{\varphi\in A^*:\varphi(1)=1\}。

証明.(1)を示す。指標と零汎関数はいずれも乗法的であり、逆に乗法的なφ∈A∗\varphi\in A^*は零写像であるか指標であるかのいずれかであるから、

Δ(A)∪{0}={φ∈A∗:φ(ab)=φ(a)φ(b) (a,b∈A)}\Delta(A)\cup\{0\}=\{\varphi\in A^*:\varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b)\ (a,b\in A)\}

である。ψ∈A∗\psi\in A^*をこの条件を満たさない元とし、ε=∣ψ(ab)−ψ(a)ψ(b)∣>0\varepsilon=|\psi(ab)-\psi(a)\psi(b)|>0を満たすa,b∈Aa,b\in Aを取る。

δ=min⁡(1, ε2(2+∣ψ(a)∣+∣ψ(b)∣))\delta=\min\left(1,\ \frac{\varepsilon}{2(2+|\psi(a)|+|\psi(b)|)}\right)

とおき、V=V(ψ;a,b,ab;δ)V=V(\psi;a,b,ab;\delta)を考える。§E12.5 定義 2.1によりVVはψ\psiの弱星位相における基本近傍であるから開集合である。φ∈V\varphi\in Vに対して

∣(φ(ab)−φ(a)φ(b))−(ψ(ab)−ψ(a)ψ(b))∣≤∣φ(ab)−ψ(ab)∣+∣φ(a)∣ ∣φ(b)−ψ(b)∣+∣ψ(b)∣ ∣φ(a)−ψ(a)∣\begin{aligned} &|(\varphi(ab)-\varphi(a)\varphi(b))-(\psi(ab)-\psi(a)\psi(b))|\\ &\qquad\leq|\varphi(ab)-\psi(ab)|+|\varphi(a)|\,|\varphi(b)-\psi(b)|+|\psi(b)|\,|\varphi(a)-\psi(a)| \end{aligned}

であり、∣φ(a)∣≤∣ψ(a)∣+δ|\varphi(a)|\leq|\psi(a)|+\deltaとδ≤1\delta\leq1から、右辺は

δ+(∣ψ(a)∣+δ)δ+∣ψ(b)∣δ=δ(1+∣ψ(a)∣+δ+∣ψ(b)∣)≤δ(2+∣ψ(a)∣+∣ψ(b)∣)≤ε2\delta+(|\psi(a)|+\delta)\delta+|\psi(b)|\delta =\delta(1+|\psi(a)|+\delta+|\psi(b)|) \leq\delta(2+|\psi(a)|+|\psi(b)|) \leq\frac{\varepsilon}{2}

で抑えられる。φ(ab)−φ(a)φ(b)=0\varphi(ab)-\varphi(a)\varphi(b)=0とすると左辺はε\varepsilonに等しくなり、ε≤ε/2\varepsilon\leq\varepsilon/2という不等式からε≤0\varepsilon\leq0を得て仮定に反する。よってVVの元はいずれも上の条件を満たさない。したがって補集合は開集合であり、Δ(A)∪{0}\Delta(A)\cup\{0\}は弱星閉である。

(2)の証明は演習とする(問題 6.2 (単位元での値が定める弱星閉集合))。▨

定理 5.5.AAを単位的可換 Banach 環とする。Δ(A)\Delta(A)はA∗A^*の閉単位球BA∗B_{A^*}の弱星閉部分集合であり、Gelfand 位相についてコンパクト Hausdorff 空間である。

証明.命題 4.5 (2)により各φ∈Δ(A)\varphi\in\Delta(A)は∥φ∥=1\|\varphi\|=1を満たすのでΔ(A)⊆BA∗\Delta(A)\subseteq B_{A^*}である。また、指標はφ(1)=1\varphi(1)=1を満たし、逆に乗法的なφ∈A∗\varphi\in A^*がφ(1)=1\varphi(1)=1を満たせばφ\varphiは零写像でないので指標である。したがって

Δ(A)=(Δ(A)∪{0})∩{φ∈A∗:φ(1)=1}\Delta(A)=(\Delta(A)\cup\{0\})\cap\{\varphi\in A^*:\varphi(1)=1\}

であり、補題 5.4により右辺は二つの弱星閉集合の共通部分としてA∗A^*の弱星閉集合である。よって§E2.12 命題 4.6によりΔ(A)=Δ(A)∩BA∗\Delta(A)=\Delta(A)\cap B_{A^*}はBA∗B_{A^*}の閉部分集合である。

§E12.7 定理 1.3によりBA∗B_{A^*}は弱星位相についてコンパクトであるから、§E2.19 命題 4.1によりΔ(A)\Delta(A)はBA∗B_{A^*}の部分空間としてコンパクトである。Δ(A)⊆BA∗⊆A∗\Delta(A)\subseteq B_{A^*}\subseteq A^*であり、§E2.12 定義 4.1によりBA∗B_{A^*}の開集合はA∗A^*の弱星開集合UUを用いてU∩BA∗U\cap B_{A^*}と書くことができるので(U∩BA∗)∩Δ(A)=U∩Δ(A)(U\cap B_{A^*})\cap\Delta(A)=U\cap\Delta(A)であるから、BA∗B_{A^*}からΔ(A)\Delta(A)が受ける位相はA∗A^*から受ける位相、すなわち Gelfand 位相に一致する。よってΔ(A)\Delta(A)は Gelfand 位相についてコンパクトである。Gelfand 位相についてΔ(A)\Delta(A)が Hausdorff であることは補題 5.3による。▨

6 演習

問題 6.1 (レゾルベント方程式).AAを単位的 Banach 環、a∈Aa\in A、λ,μ∈ρ(a)\lambda,\mu\in\rho(a)とする。命題 2.3 (3)の等式

R(λ,a)−R(μ,a)=(μ−λ)R(λ,a)R(μ,a)R(\lambda,a)-R(\mu,a)=(\mu-\lambda)R(\lambda,a)R(\mu,a)

を示せ。

解答.

u,v∈Au,v\in Aを可逆とすると

u−1(v−u)v−1=u−1vv−1−u−1uv−1=u−1−v−1u^{-1}(v-u)v^{-1}=u^{-1}vv^{-1}-u^{-1}uv^{-1}=u^{-1}-v^{-1}

である。u=λ1−au=\lambda1-a、v=μ1−av=\mu1-aとおくとuuとvvは可逆でありv−u=(μ−λ)1v-u=(\mu-\lambda)1であるから

R(λ,a)−R(μ,a)=R(λ,a) (μ−λ)1 R(μ,a)=(μ−λ)R(λ,a)R(μ,a)R(\lambda,a)-R(\mu,a)=R(\lambda,a)\,(\mu-\lambda)1\,R(\mu,a)=(\mu-\lambda)R(\lambda,a)R(\mu,a)

である。▨

問題 6.2 (単位元での値が定める弱星閉集合).AAを単位的可換 Banach 環とする。補題 5.4 (2)、すなわち{φ∈A∗:φ(1)=1}\{\varphi\in A^*:\varphi(1)=1\}がA∗A^*の弱星閉部分集合であることを示せ。

解答.

e1:A∗→Ce_1:A^*\to\mathbb Cをe1(φ)=φ(1)e_1(\varphi)=\varphi(1)で定める。§E12.5 定義 2.1により弱星位相は各評価写像を連続にする位相であるから、e1e_1は連続である。C∖{1}\mathbb C\setminus\{1\}は開集合であるから{1}\{1\}はC\mathbb Cの閉集合であり、§E2.12 命題 1.6により

e1−1({1})={φ∈A∗:φ(1)=1}e_1^{-1}(\{1\})=\{\varphi\in A^*:\varphi(1)=1\}

は弱星閉である。▨

問題 6.3 (連続関数環のスペクトル).KKを空でないコンパクト空間とし、例 1.2のA=C(K)A=C(K)を考える。f∈Af\in Aに対してσ(f)=f(K)\sigma(f)=f(K)であることを示し、r(f)=∥f∥∞r(f)=\|f\|_\inftyを導け。

解答.

λ∈C\lambda\in\mathbb Cとする。すべてのx∈Kx\in Kについてλ≠f(x)\lambda\neq f(x)であるとすると、x↦(λ−f(x))−1x\mapsto(\lambda-f(x))^{-1}はKK上の連続関数であり、λ1−f\lambda1-fの逆元を与える。逆にg∈C(K)g\in C(K)が(λ1−f)g=1(\lambda1-f)g=1を満たすとすると、各x∈Kx\in Kで(λ−f(x))g(x)=1(\lambda-f(x))g(x)=1であるからλ≠f(x)\lambda\neq f(x)である。したがってλ1−f\lambda1-fが可逆であることとλ∉f(K)\lambda\notin f(K)であることは同値であり、σ(f)=f(K)\sigma(f)=f(K)である。

よって

r(f)=sup⁡{∣λ∣:λ∈f(K)}=sup⁡x∈K∣f(x)∣=∥f∥∞r(f)=\sup\{|\lambda|:\lambda\in f(K)\}=\sup_{x\in K}|f(x)|=\|f\|_\infty

である。▨

問題 6.4 (スペクトル半径がノルムより小さい元).C2\mathbb C^2に Euclid ノルムを入れ、例 1.2のA=B(C2)A=B(\mathbb C^2)を考える。a(z1,z2)=(z2,0)a(z_1,z_2)=(z_2,0)で定まるa∈Aa\in Aについて、σ(a)={0}\sigma(a)=\{0\}、r(a)=0r(a)=0、∥a∥=1\|a\|=1であることを示せ。

解答.

a2=0a^2=0である。μ∈C\mu\in\mathbb Cに対してμ1−a2=μ1\mu1-a^2=\mu1であるから、μ≠0\mu\neq0ならばμ1−a2\mu1-a^2は可逆であり、σ(a2)={0}\sigma(a^2)=\{0\}である。λ∈σ(a)\lambda\in\sigma(a)とすると補題 3.2によりλ2∈σ(a2)={0}\lambda^2\in\sigma(a^2)=\{0\}であるからλ=0\lambda=0である。またa(1,0)=(0,0)a(1,0)=(0,0)であるからaaは単射でなく、0∈σ(a)0\in\sigma(a)である。よってσ(a)={0}\sigma(a)=\{0\}でありr(a)=0r(a)=0である。

∥(z1,z2)∥≤1\|(z_1,z_2)\|\leq1のとき∥a(z1,z2)∥=∣z2∣≤1\|a(z_1,z_2)\|=|z_2|\leq1であり、(0,1)(0,1)に対して等号が成り立つので∥a∥=1\|a\|=1である。▨

参考文献

  1. Walter Rudin, Functional Analysis, 2nd ed., International Series in Pure and Applied Mathematics, McGraw Hill, 1991.単位的 Banach 環のスペクトル論とスペクトル半径の公式の標準的な扱いを参考にした。
  2. John B. Conway, A Course in Functional Analysis, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1990.可逆元全体の開性とレゾルベントの解析性の議論を参考にした。
  3. Gerard J. Murphy, C*-Algebras and Operator Theory, Academic Press, 1990.極大イデアルと指標の対応および指標空間の Gelfand 位相の扱いを参考にした。

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