1 等長写像と完備化
定義 1.1 (等長写像、等長全単射).(X,dX)と(Y,dY)を距離空間とする。写像f:X→Yが等長写像 (isometry) であるとは、任意のx,x′∈Xに対して
dY(f(x),f(x′))=dX(x,x′)が成り立つことをいう。全単射でもある等長写像を等長全単射 (bijective isometry) という。
命題 1.2 (等長写像の単射性と連続性). 距離空間の間の等長写像は単射かつ連続である。
証明.f:X→Yを等長写像とし、f(x)=f(x′)とする。等長性からdX(x,x′)=dY(f(x),f(x′))=0であるため、距離の同一律によりx=x′である。また、等長写像は
Lipschitz 定数1の Lipschitz 写像であるから、§E2.4 命題 3.4により連続である。▨
補題 1.3 (等長写像は完備性を像へ移す).(X,dX)を完備距離空間、(Y,dY)を距離空間、f:X→Yを等長写像とする。像f(X)にYからの制限距離を入れると、f(X)は完備距離空間である。
証明.(yn)n≥1をf(X)の Cauchy 列とする。命題 1.2によりfは単射であり、任意のnに対してf(xn)=ynを満たすxn∈Xがただ一つ存在する。等長性からdX(xm,xn)=dY(ym,yn)であるため、(xn)はXの Cauchy 列である。Xの完備性により、xn→xを満たすx∈Xが存在する。再び等長性からdY(yn,f(x))=dX(xn,x)→0であり、§E2.5 補題 3.1により(yn)はf(X)においてf(x)へ収束する。▨
定義 1.4 (完備化).(X,d)を距離空間とする。三つ組(Y,e,ι)が(X,d)の完備化 (metric completion) であるとは、次の三条件が成り立つことをいう。
- (Y,e)は完備距離空間である。
- ι:X→Yは等長写像である。
- ι(X)はYにおいて稠密である。
2 完備化の構成と存在
定義 2.1 (Cauchy 列の同値).(X,d)を距離空間とし、Xの Cauchy 列全体をC(X)と書く。添字の規約は§E2.3 定義 1.1に従う。二つの Cauchy 列(xn)n≥1,(yn)n≥1∈C(X)が同値 (equivalence of Cauchy sequences) であることを
(xn)≈(yn)⟺n→∞limd(xn,yn)=0によって定める。
命題 2.2 (Cauchy 列の同値関係).定義 2.1で定めた関係≈はC(X)上の同値関係である。
証明. 任意の(xn)∈C(X)に対してd(xn,xn)=0であるため、(xn)≈(xn)である。距離の対称律から(xn)≈(yn)ならば(yn)≈(xn)である。さらに(xn)≈(yn)かつ(yn)≈(zn)ならば、三角不等式により
0≤d(xn,zn)≤d(xn,yn)+d(yn,zn)⟶0である。したがって(xn)≈(zn)であり、反射律、対称律、推移律がすべて成り立つ。▨
補題 2.3 (二つの Cauchy 列の項間距離は収束する).(X,d)を距離空間とし、(xn),(yn)∈C(X)とする。このとき、任意のm,n≥1に対して
d(xn,yn)−d(xm,ym)≤d(xn,xm)+d(yn,ym)が成り立つ。したがって実数列(d(xn,yn))n≥1は Cauchy 列であり、その極限は実数として存在する。
証明.§E2.1 命題 1.3を二度用いると
d(xn,yn)−d(xm,ym)≤d(xn,yn)−d(xm,yn)+d(xm,yn)−d(xm,ym)≤d(xn,xm)+d(yn,ym)を得る。ε>0をとる。二つの列の Cauchy 性から、m,n≥Nならばd(xn,xm)<ε/2かつd(yn,ym)<ε/2となるNが存在する。上の不等式により(d(xn,yn))は実数の Cauchy 列であるから、§D1.10 定理 1.1により収束する。▨
補題 2.4 (項間距離の極限は代表列によらない).(xn),(xn′),(yn),(yn′)∈C(X)とし、(xn)≈(xn′)かつ(yn)≈(yn′)とする。このとき
n→∞limd(xn,yn)=n→∞limd(xn′,yn′)が成り立つ。
証明.§E2.1 命題 1.3を各変数について用いると、任意のn≥1に対して
d(xn,yn)−d(xn′,yn′)≤d(xn,xn′)+d(yn,yn′)である。右辺は0に収束するため、左辺も0に収束し、二つの実数列の極限は一致する。▨
定理 2.5 (Cauchy 列の商集合上の距離).X=C(X)/≈とおく。このとき、任意の(xn),(yn)∈C(X)に対して
d([(xn)],[(yn)])=n→∞limd(xn,yn)を満たす写像d:X×X→Rがただ一つ存在し、dはX上の距離である。
証明.D:C(X)×C(X)→RをD((xn),(yn))=limnd(xn,yn)と定める。補題 2.3により極限は存在し、補題 2.4によりDは各変数の同値類だけに依存する。したがって§E1.3 命題 4.4により、表示された等式を満たす写像dがただ一つ存在する。
各d(xn,yn)は非負であるからd([(xn)],[(yn)])≥0である。また
d([(xn)],[(yn)])=0⟺(xn)≈(yn)⟺[(xn)]=[(yn)]であり、最後の同値には§E1.3 補題 2.2を用いた。対称律はd(xn,yn)=d(yn,xn)から従う。三角不等式は、任意の(zn)∈C(X)に対する
d(xn,zn)≤d(xn,yn)+d(yn,zn)の両辺の極限をとることにより得られる。よってdは距離の公理をすべて満たす。▨
定理 2.6 (完備化の存在).(X,d)を距離空間とし、(X,d)を定理 2.5で構成した距離空間とする。x∈Xに対して値が常にxである定値列をcxと書き、
ι(x)=[cx]と定める。このとき(X,d,ι)は(X,d)の完備化である。
証明. 各x∈Xに対する定値列cxは Cauchy 列であるため、ι:X→Xが定まる。任意のx,y∈Xに対して
d(ι(x),ι(y))=n→∞limd(x,y)=d(x,y)であるから、ιは等長写像である。
任意のξ=[(xn)]∈Xとε>0をとる。(xn)の Cauchy 性により、m,n≥Nならばd(xm,xn)<ε/2となるNが存在する。n→∞とすると
d(ι(xN),ξ)=n→∞limd(xN,xn)≤2ε<εを得る。したがって、開球B(ξ,ε)はι(X)と交わる。§E2.2 命題 2.6によりι(X)はXで稠密である。
(ξk)k≥1をXの Cauchy 列とする。稠密性により
Sk={a∈X∣d(ι(a),ξk)<1/k}は各k≥1について空でない。そこでak∈Skを同時に選ぶ。ε>0に対し、§D1.4 命題 2.1により1/K<ε/3であり、かつk,l≥Kならばd(ξk,ξl)<ε/3となるKをとる。k,l≥Kならば
d(ak,al)=d(ι(ak),ι(al))≤d(ι(ak),ξk)+d(ξk,ξl)+d(ξl,ι(al))<k1+3ε+l1<εであるから、(ak)はXの Cauchy 列である。
ξ=[(ak)]∈Xとおく。ε>0に対し、1/K<ε/2であり、かつk,l≥Kならばd(ak,al)<ε/2となるKをとる。k≥Kを固定してl→∞とすると
d(ι(ak),ξ)=l→∞limd(ak,al)≤2εである。したがって、k≥Kならば
d(ξk,ξ)≤d(ξk,ι(ak))+d(ι(ak),ξ)<k1+2ε<εである。よってξk→ξであり、(X,d)は完備である。▨
3 一様連続写像の延長
補題 3.1.(X,dX)を距離空間、(X,d,ι)をその完備化、(Y,dY)を完備距離空間とし、f:X→Yを一様連続写像とする。このとき、任意のξ∈Xと、ι(xn)→ξを満たす任意の点列(xn)に対して
F(ξ)=n→∞limf(xn)となる写像F:X→Yがただ一つ存在する。
証明.X=∅ならば、ι(X)の稠密性からX=∅であり、空写像が結論を満たす。X=∅とし、ξ∈Xをとる。ι(X)の稠密性と§E2.2 命題 2.6により、各n∈N≥1について
d(ι(xn),ξ)<1/nを満たすxn∈Xを選ぶことができる。ι(xn)→ξであるから、§E2.5 命題 1.2とιの等長性により(xn)は Cauchy 列である。ε>0に対してfの一様連続性が与えるδ>0をとる。十分大きいm,nではdX(xm,xn)<δであるから、dY(f(xm),f(xn))<εである。したがって(f(xn))は Cauchy 列であり、Yの完備性により、あるu∈Yに収束する。
ι(xn′)→ξを満たす別の点列(xn′)をとる。三角不等式と等長性により
dX(xn,xn′)≤d(ι(xn),ξ)+d(ξ,ι(xn′))⟶0である。任意のε>0に対して一様連続性が与えるδ>0をとると、十分大きいnではdX(xn,xn′)<δとなるため、dY(f(xn),f(xn′))<εである。よって
dY(f(xn′),u)≤dY(f(xn′),f(xn))+dY(f(xn),u)⟶0であり、(f(xn′))もuへ収束する。§E2.3 命題 1.3により像列の極限は一意であるから、F(ξ)=uとおくと近似列の選び方によらない写像が定まる。各ξに対して近似列が存在し、その像列の極限が一意であるため、表示された条件を満たす写像はFだけである。▨
証明.補題 3.1で定まる写像をfとする。x∈Xに対して定値列xn=xを用いると、f(ι(x))=f(x)である。したがってf∘ι=fが成り立つ。
ε>0をとる。fの一様連続性により、任意のx,y∈Xに対して
dX(x,y)<δ⟹dY(f(x),f(y))<ε/3となるδ>0をとる。d(ξ,η)<δ/3を満たすξ,η∈Xに対し、ι(xn)→ξ、ι(yn)→ηとなる点列をとる。十分大きいnでは
dX(xn,yn)≤d(ι(xn),ξ)+d(ξ,η)+d(η,ι(yn))<δ/3+δ/3+δ/3=δであり、dY(f(xn),f(yn))<ε/3となる。また、f(xn)→f(ξ)、f(yn)→f(η)であるから、nをさらに大きくすると
dY(f(ξ),f(η))≤dY(f(ξ),f(xn))+dY(f(xn),f(yn))+dY(f(yn),f(η))<ε/3+ε/3+ε/3=εを得る。δ/3はξ,ηに依存しないため、fは一様連続である。
g:X→Yも一様連続であり、g∘ι=fを満たすとする。§E2.4 命題 3.3によりgは連続である。任意のξ∈Xに対してι(xn)→ξとなる点列をとると、§E2.4 命題 1.3によりf(xn)=g(ι(xn))→g(ξ)である。一方、f(xn)→f(ξ)であるから、§E2.3 命題 1.3によりg(ξ)=f(ξ)である。したがってg=fである。▨
系 3.3.(X,dX)、(Y,dY)を距離空間とし、(X,dX,ιX)、(Y,dY,ιY)をそれぞれの完備化とする。一様連続写像f:X→Yに対して、
f∘ιX=ιY∘fを満たす一様連続写像f:X→Yがただ一つ存在する。
証明.ιYは等長写像であるから、任意のx,x′∈Xに対してdY(ιY(f(x)),ιY(f(x′)))=dY(f(x),f(x′))であり、ιY∘fは一様連続である。完備距離空間Yへの写像ιY∘fに定理 3.2を適用する。▨
4 完備化の一意性
補題 4.1.(X,d)を距離空間とし、(Y1,e1,ι1)と(Y2,e2,ι2)を(X,d)の完備化とする。このとき、任意のξ∈Y1と、ι1(xn)→ξを満たす任意の点列(xn)に対して
Φ(ξ)=n→∞limι2(xn)となる写像Φ:Y1→Y2が定まる。
証明. 等長写像ι2は§E2.4 命題 3.4により一様連続であるから、定理 3.2によりΦ∘ι1=ι2を満たす一様連続写像Φ:Y1→Y2が存在する。Φは§E2.4 命題 3.3により連続であり、ι1(xn)→ξならば§E2.4 命題 1.3によりι2(xn)=Φ(ι1(xn))→Φ(ξ)である。▨
命題 4.2.(X,d)を距離空間とし、(Y1,e1,ι1)と(Y2,e2,ι2)を(X,d)の完備化とする。このとき、補題 4.1で定まる写像Φ:Y1→Y2は等長写像であり、Φ∘ι1=ι2を満たす。
証明.ξ,η∈Y1をとり、ι1(xn)→ξかつι1(yn)→ηとなる点列をとる。§E2.1 命題 1.3を二度用いると
e1(ι1(xn),ι1(yn))−e1(ξ,η)≤e1(ι1(xn),ξ)+e1(ι1(yn),η)⟶0である。同じ評価をY2で用いると
d(xn,yn)⟶e2(Φ(ξ),Φ(η))を得る。一方、d(xn,yn)→e1(ξ,η)でもあるから、実数列の極限の一意性によりe2(Φ(ξ),Φ(η))=e1(ξ,η)である。したがって、Φは等長写像である。
x∈Xに対して定値列xn=xを用いると、補題 4.1の特徴づけからΦ(ι1(x))=ι2(x)である。よってΦ∘ι1=ι2が成り立つ。▨
命題 4.3.(X,d)を距離空間とし、(Y1,e1,ι1)と(Y2,e2,ι2)を(X,d)の完備化とする。このとき、補題 4.1で定まる写像Φ:Y1→Y2は全射である。
証明.命題 4.2と補題 1.3によりΦ(Y1)は完備であり、§E2.5 定理 3.3によりY2の閉集合である。また、ι2(X)=Φ(ι1(X))⊆Φ(Y1)であり、ι2(X)はY2で稠密である。§E2.2 命題 2.3により
Y2=ι2(X)⊆Φ(Y1)=Φ(Y1)であるから、Φは全射である。▨
命題 4.4.(X,d)を距離空間とし、(Y1,e1,ι1)と(Y2,e2,ι2)を(X,d)の完備化とする。このとき、補題 4.1で定まる写像Φ:Y1→Y2は、Φ∘ι1=ι2を満たす等長写像のうちで一意である。
証明.Ψ:Y1→Y2も等長写像であり、Ψ∘ι1=ι2を満たすとする。命題 4.2により、Φも等長写像であり、Φ∘ι1=ι2を満たす。ΦとΨは§E2.4 命題 3.4により一様連続であるから、定理 3.2の延長の一意性によりΦ=Ψである。▨
定理 4.5 (完備化の一意性).(X,d)を距離空間とし、(Y1,e1,ι1)と(Y2,e2,ι2)を(X,d)の完備化とする。このとき
Φ∘ι1=ι2を満たす等長全単射Φ:Y1→Y2がただ一つ存在する。
証明.補題 4.1により写像Φ:Y1→Y2が定まる。命題 4.2により、Φは等長写像であり、Φ∘ι1=ι2を満たす。命題 4.3によりΦは全射である。等長写像は単射であるから、Φは全単射である。命題 4.4により、この条件を満たす等長写像はΦに限る。▨
5 例
例 5.1 (完備化の確認例).
- (X,d)が完備ならば、(X,d,idX)はXの完備化である。恒等写像は等長写像であり、像XはXにおいて稠密である。定理 4.5により、完備な距離空間の完備化は、もとの埋め込みと可換する等長全単射を除いてX自身に一致する。
- QにRの通常の距離から得る制限距離を入れる。包含写像Q↪Rは§E2.1 命題 2.2により等長写像であり、§D1.4 系 2.2により像は稠密である。また§E2.5 例 4.1によりRは完備である。したがってRはQの完備化であり、定理 4.5により Cauchy 列の商から得た完備化と等長全単射で対応する。
6 演習
問題 6.1 (空の距離空間の完備化).X=∅の場合に、定理 2.6の構成が定義 1.4の三条件を満たすことを確かめよ。
解答.
正の整数全体から∅への写像は存在しないため、C(∅)=∅であり、X=∅である。空の距離空間には Cauchy 列が存在しないため、完備性は空虚に成り立つ。空写像∅→∅は等長写像であり、その像の閉包は∅である。したがって三条件がすべて成り立つ。▨