1 対称冪の構成
定義 1.1.r≥1とし、V⊗rの部分空間
Rr=span{Pσz−z:σ∈Sr, z∈V⊗r}を取る。商線形空間
Symr(V)=V⊗r/RrをVの r次対称冪 (r-th symmetric power) という。純テンソルv1⊗⋯⊗vrの像をv1⋯vrと書く。Sym0(V)=Kと定める。
商の定義から、任意の置換σについて
v1⋯vr=vσ(1)⋯vσ(r)
である。積の記号は因子の順序を記録しないが、各変数について線形である。
定理 1.2.r≥1とする。対称r重線形写像B:Vr→Wに対し、
B:Symr(V)→W,B(v1⋯vr)=B(v1,…,vr)を満たす線形写像がただ一つ存在する。
証明.r=1ではR1=0なのでSym1(V)=Vと標準的に同一視することができ、B=Bとすればよい。以下、r≥2とする。テンソル積の普遍性により、Bは線形写像L:V⊗r→W、L(v1⊗⋯⊗vr)=B(v1,…,vr)を定める。Bは対称なので、純テンソルzについてL(Pσz−z)=0である。純テンソルはテンソル冪を生成するため、任意のzについて同じ式が成り立ち、Rr⊆kerLとなる。したがってLは商へ降下してBを定める。Symr(V)はv1⋯vrの形の元によって生成されるため、この条件を満たす線形写像は一意である。▨
2 基底と次元
定理 2.1.Vをn次元とし、(e1,…,en)を基底とする。r=0ではSym0(V)=Kであり、空積1だけからなる集合が基底なのでdimSym0(V)=1である。
r≥1のとき、非負整数a1,…,anでa1+⋯+an=rを満たすものに対する
e1a1⋯enanの全体はSymr(V)の基底である。したがって
dimSymr(V)=(rn+r−1).
証明.r=0の主張はSym0(V)=Kの定義から従う。以下、r≥1とする。n=0ならV={0}なのでV⊗r={0}であり、Symr(V)={0}である。この場合、表示した単項式の集合は空で、(rr−1)=0なので主張が成り立つ。以下、n≥1とする。
V⊗rの基底テンソルei1⊗⋯⊗eirの像は、商で因子を並べ替えることによりe1a1⋯enanの形になる。したがって表示した元は対称冪を生成する。
一次独立性を示す。多項式環K[x1,…,xn]の次数rの斉次部分をK[x1,…,xn]rとする。写像
(v1,…,vr)⟼(i∑(v1)ixi)⋯(i∑(vr)ixi)はK[x1,…,xn]rに値を取る対称r重線形写像である。定理 1.2により線形写像Φ:Symr(V)→K[x1,…,xn]rを定め、
Φ(e1a1⋯enan)=x1a1⋯xnanを満たす。右辺は多項式環の相異なる単項式であり一次独立なので、左辺も一次独立である。
非負整数解a1+⋯+an=rの個数は、r個の印とn−1個の仕切りを並べる対応により(rn+r−1)である。よって次元公式を得る。▨
例 2.2 (二次対称冪).V=K2の基底をe1,e2とする。Sym2(V)の基底は
e12,e1e2,e22であり、次元は(23)=3である。商ではe1e2=e2e1となる。標数2でもこの等式と基底は変わらない。
3 対称代数
定義 3.1. 単位元をもつ結合的K-代数 (unital associativeK-algebra) とは、K-線形空間Aと双線形写像
A×A→A,(a,b)⟼abの組であって、任意のa,b,c∈Aに対して(ab)c=a(bc)を満たし、さらに1Aa=a1A=aを満たす元1A∈Aをもつものをいう。ab=baが全てのa,b∈Aについて成り立つとき、Aを可換K-代数 (commutativeK-algebra) という。
単位元をもつ結合的K-代数A,Bの間の写像φ:A→BがK-線形であり、
φ(ab)=φ(a)φ(b),φ(1A)=1Bを満たすとき、φを単位的K-代数準同型 (unitalK-algebra homomorphism) という。
定義 3.2.K-線形空間Vに対し、
T(V)=r≥0⨁V⊗r,V⊗0=Kと置く。この直和の元は、有限個のrを除いてzr=0となる族(zr)r≥0であり、和とスカラー倍は各成分で定める。純テンソルに対して
(v1⊗⋯⊗vp)(w1⊗⋯⊗wq)=v1⊗⋯⊗vp⊗w1⊗⋯⊗wqと定め、この積を双線形に延長する。各元が有限個の次数成分しかもたないため、積も有限和として定まる。この積は結合的であり、K=V⊗0の元1が単位元になる。定義 3.1の意味で得られる単位元をもつ結合的K-代数をVのテンソル代数 (tensor algebra) という。
定義 3.3.Aを単位元をもつ結合的K-代数とする。K-部分空間I⊆Aが、任意のa∈Aとx∈Iに対して
ax∈I,xa∈Iを満たすとき、IをAの両側イデアル (two-sided ideal) という。部分集合S⊆Aを含む両側イデアル全体の共通部分を、Sが生成する両側イデアル (two-sided ideal generated by a subset) という。
両側イデアルIに対し、商線形空間A/I上の積を
(a+I)(b+I)=ab+Iで定める。代表元をa+x、b+y(x,y∈I)へ変更したときの積の差はay+xb+xy∈Iなので、この積は代表元に依存せず定まる。A/Iは単位元1A+Iをもつ結合的K-代数になり、Aの商代数 (quotient algebra) という。
定義 3.4.定義 3.2のテンソル代数T(V)において、u⊗v−v⊗u(u,v∈V)全体が生成する定義 3.3の意味での両側イデアルをIとする。商代数
Sym(V)=T(V)/IをVの対称代数 (symmetric algebra) という。次数rの部分はSymr(V)と標準的に同型である。
命題 3.5. イデアルIは次数ごとの直和に分かれ、I0=0である。各r≥1について、次数rの部分Irは定義 1.1のRrに一致する。したがって
Sym(V)=r≥0⨁Symr(V)である。
証明.Iの生成元u⊗v−v⊗uは次数2の斉次な元である。左右から斉次テンソルを掛けた元も斉次であるため、Iは次数ごとの直和に分かれ、I0=I1=0である。r=1ではS1が恒等置換だけからなるためR1=0=I1である。以下、r≥2とする。次数rのIrは、基底に依存せず
z−P(j j+1)z(1≤j<r, z∈V⊗r)という隣接する二因子の交換差によって生成される。これはRrに含まれる。
逆に任意の置換σを隣接互換の積σ=τm⋯τ1と書くと、
Pσz−z=k=1∑m(Pτk⋯τ1z−Pτk−1⋯τ1z),ただしk=1の第二項はzとする。各差は、あるテンソルに隣接互換を施した差なのでIrに属する。したがってRr⊆Irであり、Ir=Rrとなる。次数ごとに商を取ると表示した直和分解を得る。▨
定理 3.6.Aを単位元をもつ可換K-代数とし、f:V→Aを線形写像とする。このとき、Vの像上でfと一致する単位的K-代数準同型
f:Sym(V)→Aがただ一つ存在する。
証明.V⊗r上で
v1⊗⋯⊗vr⟼f(v1)⋯f(vr)と定める。テンソル積の普遍性により各次数で線形写像が定まり、それらを直和するとF:T(V)→Aを得る。積の定義からFは単位的代数準同型である。Aは可換なのでF(u⊗v−v⊗u)=f(u)f(v)−f(v)f(u)=0であり、I⊆kerFである。したがってFは商Sym(V)へ降下してfを定める。
Sym(V)はVの像によって代数として生成されるため、fと一致する代数準同型の値は全ての積上で決まり、一意である。▨
4 標数と対称化作用素
命題 4.1.r≥1とする。r!がKで可逆であるとき、
Symr=r!1σ∈Sr∑PσはV⊗r上のべき等な線形写像であり、その像は全てのPσに固定されるテンソルの部分空間に一致する。r!がKで零または非可逆なら、この式を対称冪の定義に用いることはできない。
証明. 任意のτ∈Srについて
PτSymr=r!1σ∈Sr∑Pτσ=r!1ρ∈Sr∑Pρ=Symrである。したがって像の元は全ての置換で固定される。逆にzが全ての置換で固定されるならSymr(z)=r!1∑σz=zである。よって像は固定部分空間に一致し、Symrは像上で恒等写像となるためSymr2=Symrである。式には(r!)−1が必要なので、可逆でない場合には定義されない。▨
例 4.2 (標数 2 では平均を用いない).Kの標数を2とし、r=2とする。21(id+P)は21が存在しないため定義されない。一方、
Sym2(V)=V⊗2/span{Pz−z:z∈V⊗2}という商は問題なく定義され、vw=wvを満たす。対称冪の商構成は平均作用素を必要としない。
5 演習
問題 5.1 (対称冪の普遍性の確認). 対称多重線形写像Bから得る線形写像L:V⊗r→WがRrを零へ送る理由を、純テンソルと一般のテンソルに分けて説明せよ。
解答.
純テンソルz=v1⊗⋯⊗vrについては、Bの対称性からL(Pσz)=B(vσ−1(1),…,vσ−1(r))=B(v1,…,vr)=L(z)である。一般のzは純テンソルの有限一次結合であり、LとPσの線形性によって同じ等式が成り立つ。したがってL(Pσz−z)=0であり、これらが生成するRrはkerLに含まれる。▨