§E18.20胞体鎖複体

最終更新

CW 複体XXの骨格濾過

X0⊂X1⊂X2⊂⋯X^0\subset X^1\subset X^2\subset\cdots

は、nn次元の情報を相対群Hn(Xn,Xn−1)H_n(X^n,X^{n-1})として分離する。各相対群の標準基底を胞体の向きから定め、三つ組の長完全列を用いて隣り合う次数を接続すると、胞体鎖複体が得られる。

1 骨格対の相対ホモロジー

InI_nをXXのnn次元開胞体の添字集合とし、各胞体eαne_\alpha^nの特性写像をχα:Dαn→Xn\chi_\alpha:D_\alpha^n\to X^nとする。各DαnD_\alpha^nに向きを選ぶ。

命題 1.1.n>0n>0とする。すべての整数kkについて

Hk(Xn,Xn−1)≅{⨁α∈InZ[eαn],k=n,0,k≠nH_k(X^n,X^{n-1})\cong \begin{cases} \displaystyle\bigoplus_{\alpha\in I_n}\mathbb Z[e_\alpha^n],&k=n,\\ 0,&k\neq n \end{cases}

である。基底元[eαn][e_\alpha^n]は、選んだ向きに対応する相対基本類[Dαn,Sαn−1][D_\alpha^n,S_\alpha^{n-1}]の像である。n=0n=0では

H0(X0)≅⨁α∈I0Z[eα0]H_0(X^0)\cong\bigoplus_{\alpha\in I_0}\mathbb Z[e_\alpha^0]

である。

証明.§E18.19 命題 4.4により(Xn,Xn−1)(X^n,X^{n-1})は良い対である。したがって、切除定理に基づく§E18.15 定理 2.2を適用して

Hk(Xn,Xn−1)≅H~k(Xn/Xn−1)H_k(X^n,X^{n-1})\cong \widetilde H_k(X^n/X^{n-1})

を得る。XnX^nはXn−1X^{n-1}へnn次元閉球を接着して得られるので、Xn−1X^{n-1}を一点へ潰すと各閉球の境界も同じ一点へ潰れる。よって

Xn/Xn−1≅⋁α∈InSαnX^n/X^{n-1}\cong\bigvee_{\alpha\in I_n}S_\alpha^n

である。

有限個の球面の楔和については、対の長完全列または切除定理を球面の内部へ適用すると、被約ホモロジーが各球面の被約ホモロジーの直和になる。無限個の楔和でも、特異単体の像はコンパクトであり、§E18.19 定理 2.2によって有限個の球面にしか入らない。したがって各特異鎖は有限個の楔和内にあり、輪体と境界の計算は有限の場合へ帰着する。ゆえに

H~k(⋁α∈InSαn)≅{⨁α∈InZ,k=n,0,k≠n\widetilde H_k\left(\bigvee_{\alpha\in I_n}S_\alpha^n\right) \cong \begin{cases} \displaystyle\bigoplus_{\alpha\in I_n}\mathbb Z,&k=n,\\ 0,&k\neq n \end{cases}

となる。各球面の向きづけられた基本類を特性写像で送ると、表示した基底を得る。n=0n=0の場合はX0X^0が離散空間であることから直接従う。▨

2 胞体境界

定義 2.1.n<0n<0ではXn=∅X^n=\varnothingおよびCncell(X)=0C_n^{\mathrm{cell}}(X)=0とする。n≥0n\geq0では

Cncell(X):=Hn(Xn,Xn−1)C_n^{\mathrm{cell}}(X):=H_n(X^n,X^{n-1})

と定める。n≥1n\geq1に対し、対(Xn,Xn−1)(X^n,X^{n-1})の長完全列の連結準同型をδn\delta_n、包含が誘導する準同型をjn−1j_{n-1}として、

δn:Cncell(X)⟶Hn−1(Xn−1),\delta_n:C_n^{\mathrm{cell}}(X)\longrightarrow H_{n-1}(X^{n-1}),jn−1:Hn−1(Xn−1)⟶Hn−1(Xn−1,Xn−2)=Cn−1cell(X)j_{n-1}:H_{n-1}(X^{n-1})\longrightarrow H_{n-1}(X^{n-1},X^{n-2})=C_{n-1}^{\mathrm{cell}}(X)

と書く。胞体境界作用素 (cellular boundary operator) を

dncell:=jn−1∘δn(n≥1),d0cell:=0d_n^{\mathrm{cell}}:=j_{n-1}\circ\delta_n\quad(n\geq1), \qquad d_0^{\mathrm{cell}}:=0

で定める。

命題 2.2. すべてのn≥1n\geq1について

dn−1celldncell=0d_{n-1}^{\mathrm{cell}}d_n^{\mathrm{cell}}=0

が成り立つ。したがって(C∗cell(X),d∗cell)(C_*^{\mathrm{cell}}(X),d_*^{\mathrm{cell}})は鎖複体である。

証明.n=1n=1ではd0cell=0d_0^{\mathrm{cell}}=0なので主張は直ちに成り立つ。n≥2n\geq2とする。定義を代入すると

dn−1celldncell=jn−2δn−1jn−1δnd_{n-1}^{\mathrm{cell}}d_n^{\mathrm{cell}} =j_{n-2}\delta_{n-1}j_{n-1}\delta_n

である。対(Xn−1,Xn−2)(X^{n-1},X^{n-2})の長完全列の一部

Hn−1(Xn−1)→jn−1Hn−1(Xn−1,Xn−2)→δn−1Hn−2(Xn−2)H_{n-1}(X^{n-1}) \xrightarrow{j_{n-1}} H_{n-1}(X^{n-1},X^{n-2}) \xrightarrow{\delta_{n-1}} H_{n-2}(X^{n-2})

は完全なので、δn−1jn−1=0\delta_{n-1}j_{n-1}=0である。よって二回の合成は零である。▨

3 境界係数と写像qβq_\beta

nn次胞体eαne_\alpha^nの接着写像を

φα:=χα∣Sαn−1:Sαn−1⟶Xn−1\varphi_\alpha:=\chi_\alpha|_{S_\alpha^{n-1}}: S_\alpha^{n-1}\longrightarrow X^{n-1}

とする。(n−1)(n-1)次胞体eβn−1e_\beta^{n-1}以外のすべての胞体を一点へ潰す写像を

qβ:Xn−1⟶Xn−1/(Xn−1∖eβn−1)≅Sβn−1q_\beta:X^{n-1}\longrightarrow X^{n-1}/(X^{n-1}\setminus e_\beta^{n-1}) \cong S_\beta^{n-1}

と書く。Xn−1∖eβn−1X^{n-1}\setminus e_\beta^{n-1}は部分複体であり、商空間はeβn−1e_\beta^{n-1}の一端コンパクト化なので球面になる。球面の向きはeβn−1e_\beta^{n-1}に選んだ向きから定める。

定理 3.1 (胞体境界の次数公式). 基底[eαn][e_\alpha^n]に対して

dncell[eαn]=∑β∈In−1dαβ[eβn−1]d_n^{\mathrm{cell}}[e_\alpha^n] =\sum_{\beta\in I_{n-1}}d_{\alpha\beta}[e_\beta^{n-1}]

と書く。このとき

dαβ=deg⁡(qβ∘φα)d_{\alpha\beta} =\deg(q_\beta\circ\varphi_\alpha)

である。和は有限個のβ\betaについてだけ非零である。

証明方針は、相対基本類の境界を接着球面の基本類へ送り、qβq_\betaによって一つの(n−1)(n-1)胞体の成分だけを取り出すことである。

証明.[Dαn,Sαn−1]∈Hn(Dαn,Sαn−1)[D_\alpha^n,S_\alpha^{n-1}]\in H_n(D_\alpha^n,S_\alpha^{n-1})を、eαne_\alpha^nの向きに対応する相対基本類とする。対の長完全列の連結準同型は

[Dαn,Sαn−1]⟼[Sαn−1][D_\alpha^n,S_\alpha^{n-1}] \longmapsto[S_\alpha^{n-1}]

と作用する。特性写像が与える対の写像

(Dαn,Sαn−1)⟶(Xn,Xn−1)(D_\alpha^n,S_\alpha^{n-1})\longrightarrow(X^n,X^{n-1})

に関する連結準同型の自然性から

δn[eαn]=(φα)∗[Sαn−1]∈Hn−1(Xn−1)\delta_n[e_\alpha^n] =(\varphi_\alpha)_*[S_\alpha^{n-1}] \in H_{n-1}(X^{n-1})

を得る。

jn−1j_{n-1}を適用した後、eβn−1e_\beta^{n-1}に対応する直和成分へ射影する操作は、商写像qβq_\betaが誘導する準同型と一致する。したがって[eβn−1][e_\beta^{n-1}]の係数は

(qβ)∗(φα)∗[Sαn−1]=(qβ∘φα)∗[Sαn−1](q_\beta)_*(\varphi_\alpha)_*[S_\alpha^{n-1}] =(q_\beta\circ\varphi_\alpha)_*[S_\alpha^{n-1}]

である。写像度の定義により、右辺は

deg⁡(qβ∘φα)[Sβn−1]\deg(q_\beta\circ\varphi_\alpha)[S_\beta^{n-1}]

に等しい。閉包有限性によりeαn‾\overline{e_\alpha^n}は有限個の(n−1)(n-1)胞体としか交わらないので、非零係数は有限個である。▨

胞体の向きを反転すると、対応する基底元の符号が変わる。nn胞体の向きの反転は境界行列の対応する列全体の符号を変え、(n−1)(n-1)胞体の向きの反転は対応する行全体の符号を変える。鎖複体の同型型とホモロジーは変わらない。

4 実射影空間の境界

命題 4.1.RPm\mathbb{RP}^mの各次元に一つの胞体をもつ標準分解では、整数係数の胞体境界は

dn={2,n が正の偶数,0,n が奇数d_n= \begin{cases} 2,&n\text{ が正の偶数},\\ 0,&n\text{ が奇数} \end{cases}

である。ここでdnd_nはZ→Z\mathbb Z\to\mathbb Zの乗法準同型として表示している。

証明.nn胞体の接着写像は対蹠点の商

φ:Sn−1⟶RPn−1\varphi:S^{n-1}\longrightarrow\mathbb{RP}^{n-1}

である。RPn−2\mathbb{RP}^{n-2}を潰す写像qqと合成する。Sn−1S^{n-1}を二つの閉半球へ分けると、各半球の内部はRPn−1\mathbb{RP}^{n-1}の唯一の(n−1)(n-1)胞体へ一対一に写る。上半球の局所次数を+1+1とする。下半球の表示は上半球の表示と対蹠写像によって結ばれる。

Sn−1S^{n-1}はRn\mathbb R^nの単位球面であり、対蹠写像は線形写像−IRn-I_{\mathbb R^n}の境界への制限である。境界向きに対する符号は

sgn⁡det⁡(−IRn)=(−1)n\operatorname{sgn}\det(-I_{\mathbb R^n})=(-1)^n

なので、下半球の局所次数は(−1)n(-1)^nである。したがって

deg⁡(q∘φ)=1+(−1)n\deg(q\circ\varphi)=1+(-1)^n

となる。定理 3.1を適用すれば、nnが偶数のときdn=2d_n=2、奇数のときdn=0d_n=0を得る。▨

5 閉曲面の境界

一頂点分解では、各一胞体の両端が同じ零胞体へ接着されるのでd1=0d_1=0である。二胞体の境界係数は、接着語における各一胞体の指数和として読むことができる。実際、qβq_\betaは他の一胞体を一点へ潰し、接着円周がeβ1e_\beta^1を正向きに通るたびに次数へ+1+1、逆向きに通るたびに−1-1を加える。

命題 5.1. 向きづけ可能な種数ggの閉曲面Σg\Sigma_gの標準分解では

C2≅Z,C1≅Z2g,C0≅Z,C_2\cong\mathbb Z,\qquad C_1\cong\mathbb Z^{2g},\qquad C_0\cong\mathbb Z,

かつd2=d1=0d_2=d_1=0である。

向きづけ不可能な種数hhの閉曲面NhN_hの標準分解では

C2≅Z,C1≅Zh,C0≅Z,C_2\cong\mathbb Z,\qquad C_1\cong\mathbb Z^h,\qquad C_0\cong\mathbb Z,

かつ

d2(1)=2(a1+⋯+ah),d1=0d_2(1)=2(a_1+\cdots+a_h),\qquad d_1=0

である。

証明.Σg\Sigma_gの二胞体の接着語は

[a1,b1]⋯[ag,bg]=a1b1a1−1b1−1⋯agbgag−1bg−1[a_1,b_1]\cdots[a_g,b_g] =a_1b_1a_1^{-1}b_1^{-1}\cdots a_gb_ga_g^{-1}b_g^{-1}

である。各aia_iとbib_iは正向きと逆向きに一回ずつ現れるので指数和は零である。したがってすべてのqβq_\betaに対する次数が零であり、d2=0d_2=0である。

NhN_hの接着語はa12⋯ah2a_1^2\cdots a_h^2である。各aia_iは正向きに二回現れるので、aia_i成分の次数は二である。よってd2(1)=2(a1+⋯+ah)d_2(1)=2(a_1+\cdots+a_h)となる。d1=0d_1=0は一頂点分解から従う。▨

例えば円環面ではd2=0d_2=0であり、Klein の壺では基底を適切に選ぶとd2(1)=2bd_2(1)=2bとなる。Klein の壺の境界語をaba−1baba^{-1}bと書く場合、aaの指数和は零、bbの指数和は二である。

6 演習

問題 6.1.

  1. RP4\mathbb{RP}^4の胞体鎖複体をすべての次数で書き、dn−1dn=0d_{n-1}d_n=0を各隣接対について確かめよ。
  2. Klein の壺の境界語aba−1baba^{-1}bに対して、qaq_aとqbq_bを用いて二つの境界係数を計算せよ。二胞体または一胞体の向きを反転したときに境界行列がどのように変わるかも述べよ。
解答 (解答).

(1)の鎖複体は

0⟶Z→2Z→0Z→2Z→0Z⟶00\longrightarrow\mathbb Z \xrightarrow{2}\mathbb Z \xrightarrow{0}\mathbb Z \xrightarrow{2}\mathbb Z \xrightarrow{0}\mathbb Z\longrightarrow0

であり、左端が次数四、右端が次数零である。隣接する二つの準同型のうち一方は必ず零なので、すべての二回合成は零である。

(2)では、aaの指数和が1−1=01-1=0なのでdeg⁡(qa∘φ)=0\deg(q_a\circ\varphi)=0であり、bbの指数和が1+1=21+1=2なのでdeg⁡(qb∘φ)=2\deg(q_b\circ\varphi)=2である。したがってd2(1)=2bd_2(1)=2bとなる。二胞体の向きを反転すると列全体、すなわちd2(1)d_2(1)の符号が変わる。一胞体aaまたはbbの向きを反転すると、対応する成分の符号だけが変わる。▨

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.骨格対の相対ホモロジー、胞体境界の次数公式および標準的な境界行列を参考にした。

前提記事