§E18.25向きと閉曲面の基本類

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曲面の各点の近傍は平面の開集合と同相である。点を一つ除いた近傍には、その点を正向きに一周する一次ホモロジー類があり、対の長完全列を通じて二次局所ホモロジーの生成元を与える。曲面の向きとは、各点の局所生成元を近傍ごとに整合させて選ぶことである。

本記事では§E18.24 定理 1.1だけを、前記事で委譲範囲が明示された外部結果として用いる。三角形の向きの整合性、二次ホモロジーの計算、基本類の構成および写像度の性質は本文で証明する。

1 曲面の局所ホモロジー

定義 1.1. 位相空間XXと点x∈Xx\in Xに対して

Hn(X,X∖{x};Z)H_n(X,X\setminus\{x\};\mathbb Z)

をxxにおける第nn局所ホモロジー群という。

命題 1.2. 境界をもたない曲面MMと点x∈Mx\in Mについて

Hn(M,M∖{x};Z)≅{Zn=2,0n≠2H_n(M,M\setminus\{x\};\mathbb Z) \cong \begin{cases} \mathbb Z&n=2,\\ 0&n\neq2 \end{cases}

である。

証明.xxを含む座標近傍UUを取り、U≅R2U\cong\mathbb R^2かつxxが原点へ対応するようにする。局所ホモロジーの近傍への切除と§E18.15 定理 1.1により

Hn(M,M∖{x})≅Hn(U,U∖{x})≅Hn(R2,R2∖{0})H_n(M,M\setminus\{x\}) \cong H_n(U,U\setminus\{x\}) \cong H_n(\mathbb R^2,\mathbb R^2\setminus\{0\})

である。

R2\mathbb R^2は可縮であり、R2∖{0}\mathbb R^2\setminus\{0\}はS1S^1へ変形収縮する。対(R2,R2∖{0})(\mathbb R^2,\mathbb R^2\setminus\{0\})の長完全列から、n≥2n\geq2について

Hn(R2,R2∖{0})≅H~n−1(S1)H_n(\mathbb R^2,\mathbb R^2\setminus\{0\}) \cong\widetilde H_{n-1}(S^1)

を得る。§E18.16 定理 2.1により右辺はn=2n=2のときZ\mathbb Z、それ以外では零である。零次と一次の部分も長完全列と、R2∖{0}\mathbb R^2\setminus\{0\}が弧状連結であることから零になる。▨

定義 1.3. 点x∈Mx\in Mにおける 局所向き (local orientation) とは、無限巡回群

H2(M,M∖{x};Z)H_2(M,M\setminus\{x\};\mathbb Z)

の生成元oxo_xをいう。

各x∈Mx\in Mに局所向きoxo_xを選ぶ。選択(ox)x∈M(o_x)_{x\in M}が 整合的 (consistent) であるとは、任意のx∈Mx\in Mについて、ある連結な開近傍UUとある類

oU∈H2(M,M∖U;Z)o_U\in H_2(M,M\setminus U;\mathbb Z)

が存在し、すべてのy∈Uy\in Uについて包含から得る写像

H2(M,M∖U)⟶H2(M,M∖{y})H_2(M,M\setminus U)\longrightarrow H_2(M,M\setminus\{y\})

がoUo_Uをoyo_yへ送ることをいう。整合的な局所向きの選択をMMの 向き (orientation) といい、向きを持つ曲面を 向きづけ可能 (orientable) という。

定義は局所ホモロジー群と包含写像だけを用いるため、胞体分解や三角形分割を含まない。次の命題は、この定義が位相的性質であることを明示する。

命題 1.4. 同相写像f:M→Nf:M\to Nは各点x∈Mx\in Mで同型

f∗:H2(M,M∖{x})→≅H2(N,N∖{f(x)})f_*:H_2(M,M\setminus\{x\}) \xrightarrow{\cong} H_2(N,N\setminus\{f(x)\})

を誘導し、整合的な局所向きの選択を整合的な局所向きの選択へ送る。したがって、向きづけ可能性は胞体分解のとり方に依存せず、同相写像で保たれる。

証明.ffは対(M,M∖{x})(M,M\setminus\{x\})から対(N,N∖{f(x)})(N,N\setminus\{f(x)\})への同相写像なので、相対ホモロジーの同型を誘導する。oUo_Uが近傍UU上の整合性を与えるなら、f∗(oU)f_*(o_U)は近傍f(U)f(U)上の整合性を与える。これは相対ホモロジーの関手性と包含写像の可換性から従う。逆写像f−1f^{-1}にも同じ議論を適用することができるため、向きづけ可能性は同相不変である。▨

2 局所向きと三角形の向き

MMの有限三角形分割を固定する。閉曲面では各辺がちょうど二枚の三角形に接する。二枚の三角形へ向きを入れたとき、共有辺に誘導される向きが互いに反対なら、その二枚の向きは整合するという。

補題 2.1. 連結閉曲面MMについて、次の二条件は同値である。

  1. MMは定義 1.3の意味で向きづけ可能である。
  2. ある有限三角形分割のすべての二単体へ、共有辺上で互いに反対の向きを誘導するように向きを入れることができる。

一つの三角形の向きを指定すると、整合的な向きが存在する場合には他のすべての三角形の向きが一意に決まる。

証明.条件 (a)⇔\Leftrightarrow(b)を示す。三角形σ\sigmaの内部の点xxでは、σ\sigmaの向きが、xxの周囲の小円周の向きを介して局所ホモロジーの生成元を一つ定める。二枚の三角形が辺eeを共有するとする。二枚の局所生成元がeeの内部の近傍で同じ生成元へ延長するための必要十分条件は、二枚がeeへ誘導する境界の向きが反対になることである。これは、二つの半円板をeeに沿って貼った座標円板で直接確認することができる。

整合的な局所向き(ox)(o_x)が与えられたなら、各三角形の内部でoxo_xに対応する向きを選ぶ。局所整合性により、共有辺に沿う二枚の向きは反対の境界向きを誘導する。よって条件 (b)を得る。

反対に、すべての三角形へ共有辺上で整合する向きを入れたとする。各三角形の内部で定めた局所生成元は、共有辺を越えて同じ座標円板の生成元へ延長する。頂点の閉星は円板であり、頂点を囲む三角形を順にたどると、隣接する各辺での整合性により最初の局所生成元へ戻る。したがって頂点の近傍でも局所生成元は一価に定まり、曲面全体で整合的な選択を得る。

三角形の双対隣接グラフは連結である。一つの三角形の向きを定めると、共有辺での条件が隣の三角形の向きを一意に定めるため、すべての三角形の向きは一意に決まる。▨

補題 2.1と§E18.24 補題 4.1は同じ条件を異なる胞体分解で表している。多角形の内部へ入れた向きが辺の貼り合わせを越えて延長する条件は、三角形分割した各面が共有辺へ反対の境界向きを誘導する条件に一致する。

3 基本サイクルと二次ホモロジー

向きづけ可能なMMについて、有限三角形分割の各二単体へ、与えられた局所向きと一致する向きを入れる。向きづけた二単体の和を

cM:=∑σ∈K2σc_M:=\sum_{\sigma\in K_2}\sigma

と書く。

定理 3.1.MMを連結閉曲面とする。

  1. MMが向きづけられているなら H2(M;Z)≅ZH_2(M;\mathbb Z)\cong\mathbb Z である。cMc_Mのホモロジー類は、各点x∈Mx\in Mについて指定された局所向きoxo_xへ写る唯一の類であり、H2(M;Z)H_2(M;\mathbb Z)の生成元である。
  2. MMが向きづけ可能でないなら H2(M;Z)=0H_2(M;\mathbb Z)=0 である。

証明.(1)を示す。まずMMが向きづけられているとする。各辺は二枚の三角形に接し、二枚の三角形がその辺へ誘導する向きは反対である。したがって∂cM\partial c_Mでは各辺が係数+1+1と−1-1で一度ずつ現れ、相殺する。よってcMc_Mは二輪体である。

任意の単体的二輪体を

z=∑σ∈K2nσσz=\sum_{\sigma\in K_2}n_\sigma\sigma

とする。共有辺における境界係数が零なので、整合する向きを入れた隣接二単体σ,τ\sigma,\tauについてnσ=nτn_\sigma=n_\tauである。双対隣接グラフは連結であるから、ある整数mmが存在して、すべてのσ\sigmaについてnσ=mn_\sigma=mとなる。三次鎖群は零なので

H2(K;Z)=ker⁡∂2=ZcMH_2(K;\mathbb Z)=\ker\partial_2=\mathbb Z c_M

である。単体的ホモロジーと特異ホモロジーの一致によりH2(M;Z)≅ZH_2(M;\mathbb Z)\cong\mathbb Zを得る。

x∈Mx\in Mを一つ取る。必要ならxxを含む単体を星状細分し、xxを頂点とする。xxの閉星は円板であり、その境界であるリンクは向きづけられた円周である。cMc_Mを相対群H2(M,M∖{x})H_2(M,M\setminus\{x\})へ送ると、xxを含まない三角形は零になり、xxの閉星を構成する向きづけられた三角形の和だけが残る。対の長完全列の連結準同型は、この相対類をリンクの正向きの生成元へ送る。したがって[cM][c_M]の局所像はoxo_xである。xxは任意なので、すべての局所向きが得られる。H2(M)≅ZH_2(M)\cong\mathbb Zと各局所群がZ\mathbb Zであり、[cM][c_M]が生成元を生成元へ送るため、局所写像は同型である。したがって、すべてのoxo_xへ写る類は[cM][c_M]に一意に定まる。

(2)を示す。次にMMが向きづけ可能でないとする。任意の向きを各三角形へ個別に入れ、二輪体z=∑nσσz=\sum n_\sigma\sigmaを考える。共有辺で境界が相殺する条件は、隣接二単体の係数の絶対値が等しく、係数の符号によって二枚の向きが共有辺上で整合することを意味する。双対隣接グラフの連結性から、すべての∣nσ∣|n_\sigma|は一つの非負整数mmに等しい。m>0m>0なら、nσn_\sigmaの符号に従って各三角形の向きを反転することにより、全三角形へ整合する向きを入れることができる。これは向きづけ可能でないという仮定に反する。よってm=0m=0であり、z=0z=0である。したがってH2(M;Z)=0H_2(M;\mathbb Z)=0である。▨

定義 3.2. 向きづけられた連結閉曲面MMについて、定理 3.1で得た、各局所向きoxo_xへ写る唯一の生成元をMMの 基本類 (fundamental class) といい、

[M]∈H2(M;Z)[M]\in H_2(M;\mathbb Z)

と書く。

基本類の特徴づけは三角形分割を含まないため、別の三角形分割から構成しても同じ類を得る。MMの向きをすべて反転すると、各局所生成元が−ox-o_xとなるため、基本類は−[M]-[M]へ変わる。

例 3.3 (標準閉曲面の基本類). 球面の外向きの向きはH2(S2;Z)H_2(S^2;\mathbb Z)の生成元[S2][S^2]を定める。向きづけ可能曲面Σg\Sigma_gの標準多角形では、各辺が反対符号で現れるため二胞体の境界係数は零であり、その二胞体が基本類を表す。非向きづけ可能曲面NkN_kでは二胞体の境界が2(e1+⋯+ek)2(e_1+\cdots+e_k)であり、二胞体は輪体にならない。これは§E18.24 定理 5.1のH2(Nk;Z)=0H_2(N_k;\mathbb Z)=0と一致する。

4 閉曲面の間の写像度

定義 4.1.M,NM,Nを向きづけられた連結閉曲面とし、f:M→Nf:M\to Nを連続写像とする。定理 3.1によりH2(N;Z)=Z[N]H_2(N;\mathbb Z)=\mathbb Z[N]なので、ある一意な整数ddが存在して

f∗[M]=d[N]f_*[M]=d[N]

となる。この整数ddをffの 写像度といい、deg⁡f\deg fと書く。

命題 4.2. 向きづけられた連結閉曲面の間の連続写像について、次が成り立つ。

  1. f≃f′f\simeq f'ならdeg⁡f=deg⁡f′\deg f=\deg f'である。
  2. M→fN→gPM\xrightarrow{f}N\xrightarrow{g}Pなら deg⁡(g∘f)=(deg⁡g)(deg⁡f)\deg(g\circ f)=(\deg g)(\deg f) である。
  3. 恒等写像の次数は11、定値写像の次数は00である。
  4. 同相写像の次数は11または−1-1であり、局所向きを保つ場合は11、反転する場合は−1-1である。

証明.(1)を示す。ホモトピックな写像は§E18.11 定理 3.2により同じホモロジー準同型を誘導するため、(1)を得る。

(2)を示す。(2)は

(g∘f)∗[M]=g∗((deg⁡f)[N])=(deg⁡f)(deg⁡g)[P](g\circ f)_*[M] =g_*\bigl((\deg f)[N]\bigr) =(\deg f)(\deg g)[P]

から従う。

(3)を示す。恒等写像は基本類を同じ基本類へ送り、定値写像は一点空間を経由し、H2H_2上で零写像を誘導する。

(4)を示す。同相写像ffには逆写像があるため、(2)から(deg⁡f)(deg⁡f−1)=1(\deg f)(\deg f^{-1})=1である。よってdeg⁡f=±1\deg f=\pm1である。命題 1.4により、f∗[M]f_*[M]の各点における局所像は、ffが局所向きを保つ場合にはof(x)o_{f(x)}、反転する場合には−of(x)-o_{f(x)}である。基本類の一意性から、それぞれf∗[M]=[N]f_*[M]=[N]、f∗[M]=−[N]f_*[M]=-[N]となる。▨

M=N=S2M=N=S^2の場合、定義 4.1は§E18.17 定義 1.1と同じ定義である。球面で先に導入した次数は、最高次ホモロジーの生成元を何倍するかを記録しており、基本類はその生成元を向きによって指定している。

5 演習

問題 5.1.

  1. x∈Mx\in Mの座標近傍を用いて、H2(M,M∖{x})H_2(M,M\setminus\{x\})の生成元が小円周の向きと一対一に対応することを説明せよ。
  2. 非向きづけ可能な閉曲面で非零の単体的二輪体が存在すると仮定すると、なぜ整合的な三角形の向きが得られるかを説明せよ。
  3. 向きを反転する同相写像r:M→Mr:M\to Mと任意の連続写像f:M→Nf:M\to Nについて、deg⁡(f∘r)\deg(f\circ r)をdeg⁡f\deg fで表せ。
解答.

(1)では、切除により局所群をH2(D2,D2∖{0})H_2(D^2,D^2\setminus\{0\})へ移す。対の長完全列の連結準同型は、この群をH~1(D2∖{0})≅H1(S1)≅Z\widetilde H_1(D^2\setminus\{0\})\cong H_1(S^1)\cong\mathbb Zへ同型に写すため、二つの局所生成元は小円周の二つの向きに対応する。(2)では、二輪体の隣接三角形の係数は絶対値が等しい。非零係数の符号に従って各三角形の向きを選び直すと、各共有辺の境界係数が零であることから隣接向きが整合する。これは非向きづけ可能性に反する。(3)ではdeg⁡r=−1\deg r=-1と乗法性からdeg⁡(f∘r)=−(deg⁡f)\deg(f\circ r)=-(\deg f)である。▨

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.多様体の局所ホモロジーによる向きと基本類の構成を参考にした。

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