§E18.12係数を持つ鎖複体とホモロジー

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整数係数の鎖複体へアーベル群をテンソルすると、同じ空間を異なる係数で観察することができる。本記事では一般公式を先取りせず、鎖行列を係数群上で直接計算する。

1 定義と自然性

定義 1.1.MMをアーベル群とする。XXの MM係数特異鎖群 (singular chain group with coefficients) と境界作用素を

Cn(X;M):=Cn(X)⊗ZM,∂nM:=∂n⊗id⁡MC_n(X;M):=C_n(X)\otimes_{\mathbb Z}M, \qquad \partial_n^M:=\partial_n\otimes\operatorname{id}_M

で定める。(∂M)2=0(\partial^M)^2=0なので、

Hn(X;M):=ker⁡∂nM/im⁡∂n+1MH_n(X;M):=\ker\partial_n^M/\operatorname{im}\partial_{n+1}^M

を MM係数ホモロジー群 (homology group with coefficients) という。

Cn(X)C_n(X)は特異単体を基底とする自由アーベル群であるから、Cn(X;M)C_n(X;M)は有限個の特異単体にMMの係数を付けた形式和とみなすことができる。

命題 1.2. 連続写像f:X→Yf:X\to Yとアーベル群の準同型φ:M→N\varphi:M\to Nは、それぞれ

f#⊗id⁡M:C∗(X;M)⟶C∗(Y;M),f_\#\otimes\operatorname{id}_M:C_*(X;M)\longrightarrow C_*(Y;M),id⁡C∗(X)⊗φ:C∗(X;M)⟶C∗(X;N)\operatorname{id}_{C_*(X)}\otimes\varphi:C_*(X;M)\longrightarrow C_*(X;N)

という鎖準同型を定める。これらは恒等写像と合成を保ち、ホモロジー準同型を誘導する。

証明.f#∂=∂f#f_\#\partial=\partial f_\#であるから、テンソル積を取っても境界作用素と可換する。係数準同型についても

(∂⊗id⁡N)(id⁡⊗φ)=(id⁡⊗φ)(∂⊗id⁡M)(\partial\otimes\operatorname{id}_N)(\operatorname{id}\otimes\varphi) =(\operatorname{id}\otimes\varphi)(\partial\otimes\operatorname{id}_M)

である。恒等写像と合成に関する等式は純テンソル上で直接成り立つため、鎖群全体とホモロジーへ移る。▨

命題 1.3. 自然な同型Hn(X;Z)≅Hn(X)H_n(X;\mathbb Z)\cong H_n(X)がある。また、ホモトピックな写像f,g:X→Yf,g:X\to Yは任意の係数群MMについて同じ準同型

f∗=g∗:Hn(X;M)⟶Hn(Y;M)f_*=g_*:H_n(X;M)\longrightarrow H_n(Y;M)

を誘導する。

証明.Cn(X)⊗Z→Cn(X)C_n(X)\otimes\mathbb Z\to C_n(X)、c⊗m↦mcc\otimes m\mapsto mcは境界作用素と可換する同型である。ホモトピーFFの整数係数角柱作用素PPは∂P+P∂=g#−f#\partial P+P\partial=g_\#-f_\#を満たす。P⊗id⁡MP\otimes\operatorname{id}_Mを取れば同じ鎖ホモトピー恒等式がMM係数でも成立する。輪体に適用すると二写像の差が境界になる。▨

2 実射影平面の係数変更

ここではRP2\mathbb{RP}^2の Δ 複体に係数を入れた鎖複体

CnΔ(RP2;M):=CnΔ(RP2)⊗ZMC_n^\Delta(\mathbb{RP}^2;M) :=C_n^\Delta(\mathbb{RP}^2)\otimes_{\mathbb Z}M

と、そのホモロジーHnΔ(RP2;M)H_n^\Delta(\mathbb{RP}^2;M)を直接計算する。二頂点v0,v1v_0,v_1、三辺a,b,ca,b,c、二つの二単体U,LU,Lを取り、

∂1a=∂1b=v1−v0,∂1c=0,\partial_1a=\partial_1b=v_1-v_0,\qquad \partial_1c=0, ∂2U=a−b+c,∂2L=a−b−c\partial_2U=a-b+c,\qquad \partial_2L=a-b-c

とする。任意の係数群MMについてker⁡∂1Δ,M\ker\partial_1^{\Delta,M}は

p:=a−b,q:=cp:=a-b,\qquad q:=c

に付けた係数で表され、∂2Δ,M\partial_2^{\Delta,M}は基底(U,L)(U,L)と(p,q)(p,q)に関して

A=(111−1)A=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}

で表される。

この段階では、係数付き Δ ホモロジーと係数付き特異ホモロジーを同一視する比較定理をまだ用いない。したがって、次の表は係数付き Δ ホモロジー群の計算である。

命題 2.1. 実射影平面の係数付き Δ ホモロジーについて次が成り立つ。

MH0Δ(RP2;M)H1Δ(RP2;M)H2Δ(RP2;M)ZZZ/2Z0QQ00F2F2F2F2\begin{array}{c|ccc} M&H_0^\Delta(\mathbb{RP}^2;M)&H_1^\Delta(\mathbb{RP}^2;M)&H_2^\Delta(\mathbb{RP}^2;M)\\ \hline \mathbb Z&\mathbb Z&\mathbb Z/2\mathbb Z&0\\ \mathbb Q&\mathbb Q&0&0\\ \mathbb F_2&\mathbb F_2&\mathbb F_2&\mathbb F_2 \end{array}

証明.H0ΔH_0^\Deltaではv1−v0v_1-v_0を零とするため、三係数のいずれでもMMが残る。整数上ではdet⁡A=−2\det A=-2なのでAAは単射で、像の指数は二である。したがってH2Δ=0H_2^\Delta=0、H1Δ≅Z/2ZH_1^\Delta\cong\mathbb Z/2\mathbb Zとなる。有理数上では22が可逆なのでAAは同型であり、H1Δ=H2Δ=0H_1^\Delta=H_2^\Delta=0である。二元体上では−1=1-1=1なので二列はいずれも(1,1)T(1,1)^{\mathsf T}になる。像と核はいずれも一次元であり、H1Δ≅F2H_1^\Delta\cong\mathbb F_2およびH2Δ≅F2H_2^\Delta\cong\mathbb F_2を得る。▨

この係数付き Δ 鎖複体の計算では、整数係数で現れた二捩れが有理数係数で消える。一方、二元体係数では符号11と−1-1の差が消えるため、整数係数では大域的な向きをもたない実射影平面にも二次の類が現れる。この係数差は鎖行列だけから観察することができ、普遍係数定理も後続の単体・特異比較も必要としない。後続の比較定理を得た後に、これらの群をHn(RP2;M)H_n(\mathbb{RP}^2;M)と同一視する。

3 演習

問題 3.1.

  1. 上の行列AAをZ/3Z\mathbb Z/3\mathbb Z上で考え、H1ΔH_1^\DeltaとH2ΔH_2^\Deltaを求めよ。
  2. 係数準同型Z→F2\mathbb Z\to\mathbb F_2が、RP2\mathbb{RP}^2の一次 Δ ホモロジーの非零元を非零元へ送ることを鎖の代表元q=cq=cで確認せよ。

解答。 第一問ではdet⁡A=−2=1\det A=-2=1が可逆なのでAAは同型であり、H1Δ=H2Δ=0H_1^\Delta=H_2^\Delta=0である。第二問では、整数係数のH1ΔH_1^\Deltaはqqの類が生成し、関係は2q=02q=0である。係数を二で還元するとqqは(p,q)(p,q)の商の非零類へ移るため、誘導準同型は非零である。

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.テンソル積による係数付き鎖複体と基本例の構成を参考にした。

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