§E18.17球面の写像度

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球面の最高次ホモロジーは整数全体のなす群と同型である。連続自己写像が最高次ホモロジーの生成元を何倍するかを記録すると、ホモトピーで変化せず、合成に対して乗法的な整数が得られる。本記事では、この整数を局所的な寄与の和として計算し、すべての整数が実際に現れることまでを示す。

1 写像度と基本性質

n≥1n\geq1とし、SnS^nに向きを一つ固定する。§E18.16 定理 2.1による同型Hn(Sn;Z)≅ZH_n(S^n;\mathbb Z)\cong\mathbb Zのうち、固定した向きに対応する生成元を[Sn][S^n]と書く。

定義 1.1. 連続写像f:Sn→Snf:S^n\to S^nに対して、整数deg⁡f\deg fを

f∗[Sn]=(deg⁡f)[Sn]f_*[S^n]=(\deg f)[S^n]

によって定める。この整数をffの写像度 (degree of a map) という。

自己写像では、生成元を−[Sn]-[S^n]に取り替えても等式の両辺の符号が同時に変わるため、写像度は生成元の選択に依存しない。

命題 1.2.f,g:Sn→Snf,g:S^n\to S^nを連続写像とする。このとき、次が成り立つ。

  1. deg⁡(id⁡Sn)=1\deg(\operatorname{id}_{S^n})=1である。
  2. f≃gf\simeq gならばdeg⁡f=deg⁡g\deg f=\deg gである。
  3. deg⁡(f∘g)=(deg⁡f)(deg⁡g)\deg(f\circ g)=(\deg f)(\deg g)である。
  4. 定値写像の写像度は00である。

証明.(1)を示す。§E18.11 命題 1.5から(id⁡Sn)∗(\operatorname{id}_{S^n})_*は恒等準同型であるため、第一の等式を得る。(2)を示す。§E18.11 定理 3.2からホモトピックな写像は同じホモロジー準同型を誘導するため、第二の等式を得る。

(3)を示す。g∗[Sn]=(deg⁡g)[Sn]g_*[S^n]=(\deg g)[S^n]とf∗[Sn]=(deg⁡f)[Sn]f_*[S^n]=(\deg f)[S^n]を用いると、関手性から

(f∘g)∗[Sn]=f∗((deg⁡g)[Sn])=(deg⁡f)(deg⁡g)[Sn](f\circ g)_*[S^n] =f_*\bigl((\deg g)[S^n]\bigr) =(\deg f)(\deg g)[S^n]

となる。したがって第三の等式が成り立つ。

(4)を示す。定値写像はSn→∗→SnS^n\to *\to S^nと一点空間を経由して分解される。n≥1n\geq1ではHn(∗)=0H_n(*)=0なので、定値写像が誘導する準同型は零準同型であり、その写像度は00である。▨

2 鏡映と対蹠写像

鏡映の符号は、球面を境界にもつ球体の相対基本類から計算する。

命題 2.1.1≤i≤n+11\leq i\leq n+1とする。座標鏡映

Ri(x1,…,xi,…,xn+1)=(x1,…,−xi,…,xn+1)R_i(x_1,\ldots,x_i,\ldots,x_{n+1}) =(x_1,\ldots,-x_i,\ldots,x_{n+1})

をSnS^nに制限した自己写像の写像度は−1-1である。

証明.RiR_iは閉球体Dn+1D^{n+1}の自己同相写像でもある。対(Dn+1,Sn)(D^{n+1},S^n)の長完全列では、Dn+1D^{n+1}が可縮であることから境界準同型

∂:Hn+1(Dn+1,Sn)⟶Hn(Sn)\partial:H_{n+1}(D^{n+1},S^n)\longrightarrow H_n(S^n)

が同型になる。Dn+1D^{n+1}の向きに対応する相対生成元をuuとすると、境界の向きの定義から∂u=[Sn]\partial u=[S^n]である。

閉球体を有限個の向きづけられた(n+1)(n+1)次元単体で三角形分割し、それらの和でuuを表すことができる。線形写像RiR_iは一つの座標だけを反転するため、各最高次元単体の順序づけられた辺ベクトルの向きを反転する。したがって相対基本鎖の像は反対向きの相対基本鎖であり、(Ri)∗u=−u(R_i)_*u=-uとなる。境界準同型の自然性から

(Ri)∗[Sn]=(Ri)∗∂u=∂(Ri)∗u=−∂u=−[Sn](R_i)_*[S^n] =(R_i)_*\partial u =\partial(R_i)_*u =-\partial u =-[S^n]

を得る。ゆえにdeg⁡Ri=−1\deg R_i=-1である。▨

定理 2.2. 対蹠写像a:Sn→Sna:S^n\to S^n、a(x)=−xa(x)=-xについて

deg⁡a=(−1)n+1\deg a=(-1)^{n+1}

が成り立つ。

証明. 対蹠写像はn+1n+1個の座標鏡映の合成

a=R1∘R2∘⋯∘Rn+1a=R_1\circ R_2\circ\cdots\circ R_{n+1}

である。命題 2.1と命題 1.2の乗法性から

deg⁡a=∏i=1n+1deg⁡Ri=(−1)n+1\deg a=\prod_{i=1}^{n+1}\deg R_i=(-1)^{n+1}

を得る。▨

3 局所次数

写像度を点の近傍ごとに分解するため、最高次ホモロジーの生成元を局所ホモロジーへ送る。

定義 3.1.x∈Snx\in S^nとする。対の長完全列とSn∖{x}≅RnS^n\setminus\{x\}\cong\mathbb R^nの可縮性から、自然な写像

Hn(Sn)⟶Hn(Sn,Sn∖{x})H_n(S^n)\longrightarrow H_n(S^n,S^n\setminus\{x\})

は同型である。[Sn][S^n]の像をμx\mu_xと書き、xxにおける局所向きの生成元とする。

f:Sn→Snf:S^n\to S^nとy∈Sny\in S^nを取り、xxがf−1(y)f^{-1}(y)の孤立点であるとする。UUをU∩f−1(y)={x}U\cap f^{-1}(y)=\{x\}となるxxの開近傍とする。切除同型によってμx\mu_xをHn(U,U∖{x})H_n(U,U\setminus\{x\})の生成元とみなす。対の写像

f:(U,U∖{x})⟶(Sn,Sn∖{y})f:(U,U\setminus\{x\})\longrightarrow(S^n,S^n\setminus\{y\})

が誘導する準同型を

f∗μx=deg⁡x(f;y)μyf_*\mu_x=\deg_x(f;y)\mu_y

と書く。整数deg⁡x(f;y)\deg_x(f;y)をyyに関するxxでの局所次数 (local degree) という。

近傍UUを小さくしても切除同型の自然性によって同じ準同型が得られるため、局所次数はUUの選択に依存しない。

定理 3.2 (局所次数公式).f:Sn→Snf:S^n\to S^nを連続写像とし、あるy∈Sny\in S^nの原像が有限集合

f−1(y)={x1,…,xr}f^{-1}(y)=\{x_1,\ldots,x_r\}

であるとする。このとき

deg⁡f=∑j=1rdeg⁡xj(f;y)\deg f=\sum_{j=1}^r\deg_{x_j}(f;y)

が成り立つ。原像が空なら右辺を00とする。

証明.F:=f−1(y)F:=f^{-1}(y)と置く。各xjx_jを含む、互いに交わらない開近傍UjU_jを取る。FFは有限であり各点がUjU_jの内部にあるので、§E18.15 定理 1.1を用いると

Hn(Sn,Sn∖F)≅Hn(⨆j=1rUj,⨆j=1r(Uj∖{xj}))≅⨁j=1rHn(Uj,Uj∖{xj})H_n(S^n,S^n\setminus F) \cong H_n\left(\bigsqcup_{j=1}^rU_j, \bigsqcup_{j=1}^r(U_j\setminus\{x_j\})\right) \cong\bigoplus_{j=1}^rH_n(U_j,U_j\setminus\{x_j\})

を得る。第一の切除では、Sn∖⋃jUjS^n\setminus\bigcup_jU_jを取り除く。その閉包はどのxjx_jも含まないため、Sn∖FS^n\setminus Fの内部に含まれる。

自然な写像Hn(Sn)→Hn(Sn,Sn∖F)H_n(S^n)\to H_n(S^n,S^n\setminus F)は、上の直和分解のもとで

[Sn]⟼(μx1,…,μxr)[S^n]\longmapsto(\mu_{x_1},\ldots,\mu_{x_r})

となる。実際、各成分への射影はHn(Sn)→Hn(Sn,Sn∖{xj})H_n(S^n)\to H_n(S^n,S^n\setminus\{x_j\})と切除同型の合成であり、μxj\mu_{x_j}の定義に一致する。

ffは対の写像

(Sn,Sn∖F)⟶(Sn,Sn∖{y})(S^n,S^n\setminus F)\longrightarrow(S^n,S^n\setminus\{y\})

を与える。直和の第jj成分で誘導される写像は局所次数の定義に用いた写像であるから、(μx1,…,μxr)(\mu_{x_1},\ldots,\mu_{x_r})の像は

(∑j=1rdeg⁡xj(f;y))μy\left(\sum_{j=1}^r\deg_{x_j}(f;y)\right)\mu_y

である。一方、自然性から同じ像は

f∗[Sn]=(deg⁡f)[Sn]⟼(deg⁡f)μyf_*[S^n]=(\deg f)[S^n]\longmapsto(\deg f)\mu_y

でもある。μy\mu_yは無限位数の生成元なので、二つの係数を比較すれば結論を得る。F=∅F=\varnothingの場合、対の写像はSn→Sn∖{y}S^n\to S^n\setminus\{y\}を経由し、最高次ホモロジー上で零になるため、同じ式が成り立つ。▨

4 任意の整数の実現

局所次数公式を用いると、指定した個数の局所的な寄与を一つの球面上へ配置することができる。

定理 4.1. 任意の整数ddと任意のn≥1n\geq1に対して、deg⁡fd=d\deg f_d=dを満たす連続写像

fd:Sn⟶Snf_d:S^n\longrightarrow S^n

が存在する。

証明. まずd>0d>0とする。SnS^nの中に、内部が互いに交わらないdd個の閉nn次元球体B1,…,BdB_1,\ldots,B_dを取る。各jjについて、境界を一点へ潰す商写像と向きを保つ同相写像を合成して

qj:Bj⟶Bj/∂Bj→≅Snq_j:B_j\longrightarrow B_j/\partial B_j\xrightarrow{\cong}S^n

を作る。同相写像は、潰した境界点を共通の点b∈Snb\in S^nへ送るように選ぶ。

fdf_dを、BjB_j上ではqjq_j、Sn∖⋃jint⁡(Bj)S^n\setminus\bigcup_j\tpint{B_j}上では定値bbと定める。各qjq_jは∂Bj\partial B_j全体をbbへ送るため、有限閉被覆に対する貼り合わせ補題からfdf_dは連続である。

y∈Sn∖{b}y\in S^n\setminus\{b\}を取る。qjq_jはint⁡(Bj)\tpint{B_j}からSn∖{b}S^n\setminus\{b\}への向きを保つ同相写像なので、yyは各BjB_jの内部にちょうど一つの原像xjx_jをもち、deg⁡xj(fd;y)=1\deg_{x_j}(f_d;y)=1である。定理 3.2から

deg⁡fd=∑j=1d1=d\deg f_d=\sum_{j=1}^d1=d

を得る。

d=0d=0では定値写像を取る。d<0d<0では、上で構成したf∣d∣f_{|d|}と座標鏡映R1R_1を用いてfd:=R1∘f∣d∣f_d:=R_1\circ f_{|d|}と置く。命題 2.1と写像度の乗法性から

deg⁡fd=(−1)∣d∣=d\deg f_d=(-1)|d|=d

となる。▨

注意 4.2 (証明した範囲). 本記事は、各整数が写像度として実現されることを証明した。二つの球面自己写像の写像度が等しければ両者がホモトピックであるという Hopf の次数定理は用いておらず、証明もしていない。

5 演習

問題 5.1.

  1. 定値写像の写像度が零であることを、一点空間を経由する分解から再構成せよ。
  2. f−1(y)={x1,x2,x3}f^{-1}(y)=\{x_1,x_2,x_3\}で、局所次数が順に1,1,−11,1,-1であるとする。deg⁡f\deg fとdeg⁡(a∘f)\deg(a\circ f)を求めよ。
  3. 定理 4.1の構成で、y≠by\neq bの原像が各球体の内部に一つずつ存在する理由と、各局所次数が11になる理由を説明せよ。
解答 (解答).

第一問では、Sn→∗→SnS^n\to *\to S^nが誘導する最高次ホモロジー準同型はHn(∗)=0H_n(*)=0を経由するため零準同型となる。第二問では局所次数公式からdeg⁡f=1+1−1=1\deg f=1+1-1=1であり、乗法性と定理 2.2からdeg⁡(a∘f)=(−1)n+1\deg(a\circ f)=(-1)^{n+1}となる。第三問では、商写像Bj/∂Bj→SnB_j/\partial B_j\to S^nが同相写像であり、y≠by\neq bは潰した境界点の像ではないため、各BjB_jの内部に原像をちょうど一つもつ。選んだ同相写像が向きを保つので、局所向きの生成元は同じ符号の生成元へ移り、局所次数は11である。▨

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.球面の写像度、局所次数公式および指定した次数をもつ写像の構成を参考にした。

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