1 写像度と基本性質
n≥1とし、Snに向きを一つ固定する。§E18.16 定理 2.1による同型Hn(Sn;Z)≅Zのうち、固定した向きに対応する生成元を[Sn]と書く。
定義 1.1. 連続写像f:Sn→Snに対して、整数degfを
f∗[Sn]=(degf)[Sn]によって定める。この整数をfの写像度 (degree of a map) という。
自己写像では、生成元を−[Sn]に取り替えても等式の両辺の符号が同時に変わるため、写像度は生成元の選択に依存しない。
命題 1.2.f,g:Sn→Snを連続写像とする。このとき、次が成り立つ。
- deg(idSn)=1である。
- f≃gならばdegf=deggである。
- deg(f∘g)=(degf)(degg)である。
- 定値写像の写像度は0である。
証明.(1)を示す。§E18.11 命題 1.5から(idSn)∗は恒等準同型であるため、第一の等式を得る。(2)を示す。§E18.11 定理 3.2からホモトピックな写像は同じホモロジー準同型を誘導するため、第二の等式を得る。
(3)を示す。g∗[Sn]=(degg)[Sn]とf∗[Sn]=(degf)[Sn]を用いると、関手性から
(f∘g)∗[Sn]=f∗((degg)[Sn])=(degf)(degg)[Sn]となる。したがって第三の等式が成り立つ。
(4)を示す。定値写像はSn→∗→Snと一点空間を経由して分解される。n≥1ではHn(∗)=0なので、定値写像が誘導する準同型は零準同型であり、その写像度は0である。▨
2 鏡映と対蹠写像
鏡映の符号は、球面を境界にもつ球体の相対基本類から計算する。
命題 2.1.1≤i≤n+1とする。座標鏡映
Ri(x1,…,xi,…,xn+1)=(x1,…,−xi,…,xn+1)をSnに制限した自己写像の写像度は−1である。
証明.Riは閉球体Dn+1の自己同相写像でもある。対(Dn+1,Sn)の長完全列では、Dn+1が可縮であることから境界準同型
∂:Hn+1(Dn+1,Sn)⟶Hn(Sn)が同型になる。Dn+1の向きに対応する相対生成元をuとすると、境界の向きの定義から∂u=[Sn]である。
閉球体を有限個の向きづけられた(n+1)次元単体で三角形分割し、それらの和でuを表すことができる。線形写像Riは一つの座標だけを反転するため、各最高次元単体の順序づけられた辺ベクトルの向きを反転する。したがって相対基本鎖の像は反対向きの相対基本鎖であり、(Ri)∗u=−uとなる。境界準同型の自然性から
(Ri)∗[Sn]=(Ri)∗∂u=∂(Ri)∗u=−∂u=−[Sn]を得る。ゆえにdegRi=−1である。▨
定理 2.2. 対蹠写像a:Sn→Sn、a(x)=−xについて
dega=(−1)n+1が成り立つ。
証明. 対蹠写像はn+1個の座標鏡映の合成
a=R1∘R2∘⋯∘Rn+1である。命題 2.1と命題 1.2の乗法性から
dega=i=1∏n+1degRi=(−1)n+1を得る。▨
3 局所次数
写像度を点の近傍ごとに分解するため、最高次ホモロジーの生成元を局所ホモロジーへ送る。
定義 3.1.x∈Snとする。対の長完全列とSn∖{x}≅Rnの可縮性から、自然な写像
Hn(Sn)⟶Hn(Sn,Sn∖{x})は同型である。[Sn]の像をμxと書き、xにおける局所向きの生成元とする。
f:Sn→Snとy∈Snを取り、xがf−1(y)の孤立点であるとする。UをU∩f−1(y)={x}となるxの開近傍とする。切除同型によってμxをHn(U,U∖{x})の生成元とみなす。対の写像
f:(U,U∖{x})⟶(Sn,Sn∖{y})が誘導する準同型を
f∗μx=degx(f;y)μyと書く。整数degx(f;y)をyに関するxでの局所次数 (local degree) という。
近傍Uを小さくしても切除同型の自然性によって同じ準同型が得られるため、局所次数はUの選択に依存しない。
証明.F:=f−1(y)と置く。各xjを含む、互いに交わらない開近傍Ujを取る。Fは有限であり各点がUjの内部にあるので、§E18.15 定理 1.1を用いると
Hn(Sn,Sn∖F)≅Hn(j=1⨆rUj,j=1⨆r(Uj∖{xj}))≅j=1⨁rHn(Uj,Uj∖{xj})を得る。第一の切除では、Sn∖⋃jUjを取り除く。その閉包はどのxjも含まないため、Sn∖Fの内部に含まれる。
自然な写像Hn(Sn)→Hn(Sn,Sn∖F)は、上の直和分解のもとで
[Sn]⟼(μx1,…,μxr)となる。実際、各成分への射影はHn(Sn)→Hn(Sn,Sn∖{xj})と切除同型の合成であり、μxjの定義に一致する。
fは対の写像
(Sn,Sn∖F)⟶(Sn,Sn∖{y})を与える。直和の第j成分で誘導される写像は局所次数の定義に用いた写像であるから、(μx1,…,μxr)の像は
(j=1∑rdegxj(f;y))μyである。一方、自然性から同じ像は
f∗[Sn]=(degf)[Sn]⟼(degf)μyでもある。μyは無限位数の生成元なので、二つの係数を比較すれば結論を得る。F=∅の場合、対の写像はSn→Sn∖{y}を経由し、最高次ホモロジー上で零になるため、同じ式が成り立つ。▨
4 任意の整数の実現
局所次数公式を用いると、指定した個数の局所的な寄与を一つの球面上へ配置することができる。
定理 4.1. 任意の整数dと任意のn≥1に対して、degfd=dを満たす連続写像
fd:Sn⟶Snが存在する。
証明. まずd>0とする。Snの中に、内部が互いに交わらないd個の閉n次元球体B1,…,Bdを取る。各jについて、境界を一点へ潰す商写像と向きを保つ同相写像を合成して
qj:Bj⟶Bj/∂Bj≅Snを作る。同相写像は、潰した境界点を共通の点b∈Snへ送るように選ぶ。
fdを、Bj上ではqj、Sn∖⋃jint(Bj)上では定値bと定める。各qjは∂Bj全体をbへ送るため、有限閉被覆に対する貼り合わせ補題からfdは連続である。
y∈Sn∖{b}を取る。qjはint(Bj)からSn∖{b}への向きを保つ同相写像なので、yは各Bjの内部にちょうど一つの原像xjをもち、degxj(fd;y)=1である。定理 3.2から
degfd=j=1∑d1=dを得る。
d=0では定値写像を取る。d<0では、上で構成したf∣d∣と座標鏡映R1を用いてfd:=R1∘f∣d∣と置く。命題 2.1と写像度の乗法性から
degfd=(−1)∣d∣=dとなる。▨
5 演習
問題 5.1.
- 定値写像の写像度が零であることを、一点空間を経由する分解から再構成せよ。
- f−1(y)={x1,x2,x3}で、局所次数が順に1,1,−1であるとする。degfとdeg(a∘f)を求めよ。
- 定理 4.1の構成で、y=bの原像が各球体の内部に一つずつ存在する理由と、各局所次数が1になる理由を説明せよ。
解答 (解答).
第一問では、Sn→∗→Snが誘導する最高次ホモロジー準同型はHn(∗)=0を経由するため零準同型となる。第二問では局所次数公式からdegf=1+1−1=1であり、乗法性と定理 2.2からdeg(a∘f)=(−1)n+1となる。第三問では、商写像Bj/∂Bj→Snが同相写像であり、y=bは潰した境界点の像ではないため、各Bjの内部に原像をちょうど一つもつ。選んだ同相写像が向きを保つので、局所向きの生成元は同じ符号の生成元へ移り、局所次数は1である。▨