§E18.9被覆の分類とデック変換

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普遍被覆の中間的な商は、底空間の基本群の部分群によって記述される。本記事では、基点付き被覆を部分群そのものに対応させ、基点を忘れた被覆を部分群の共役類に対応させる。さらに、一般の連結被覆のデック変換群が正規化群の商になり、正規被覆の場合に基本群全体の商になることを証明する。

1 デック変換と被覆の同型

定義 1.1. 被覆写像p:E→Xp:E\to Xのデック変換 (deck transformation) とは、同相写像D:E→ED:E\to Eで

p∘D=pp\circ D=p

を満たすものをいう。デック変換全体は写像の合成について群をなし、その群をDeck⁡(p)\operatorname{Deck}(p)と書く。

定義 1.2. 二つの被覆p:E→Xp:E\to Xとp′:E′→Xp':E'\to Xの同型 (isomorphism of covering spaces) とは、同相写像F:E→E′F:E\to E'で

p′∘F=pp'\circ F=p

を満たすものをいう。基点付き被覆の同型には、指定された基点を指定された基点へ写すことも要求する。

連結被覆p:E→Xp:E\to Xが正規被覆 (regular covering) であるとは、Deck⁡(p)\operatorname{Deck}(p)の自然な作用

Deck⁡(p)×E⟶E,(D,e)⟼D(e)\operatorname{Deck}(p)\times E\longrightarrow E, \qquad (D,e)\longmapsto D(e)

が各ファイバーp−1(x)p^{-1}(x)上で可移であることをいう。

連結な全空間上のデック変換は、一点での値だけで決まる。

補題 1.3.p:E→Xp:E\to Xを連結被覆とする。二つのデック変換D0,D1∈Deck⁡(p)D_0,D_1\in\operatorname{Deck}(p)が一点e∈Ee\in Eで一致するなら、D0=D1D_0=D_1である。特に、恒等写像でないデック変換は固定点をもたない。

証明.D0D_0とD1D_1は、写像p:E→Xp:E\to Xの、被覆p:E→Xp:E\to Xへの二つの持ち上げである。定義域EEは連結であり、二つの持ち上げはeeで一致する。持ち上げの一意性(§E18.5 補題 1.4)によりD0=D1D_0=D_1である。

D(e)=eD(e)=eを満たすデック変換DDに前半をD0=DD_0=D、D1=id⁡ED_1=\operatorname{id}_Eとして適用すると、D=id⁡ED=\operatorname{id}_Eを得る。▨

2 普遍被覆のデック変換群

XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、x0∈Xx_0\in Xを固定する。§E18.8 定理 4.2で構成した普遍被覆を

q:(X~,x~0)⟶(X,x0)q:(\widetilde X,\widetilde x_0)\longrightarrow(X,x_0)

と書く。道の積は、左の道を先にたどる規約を用いる。

定理 2.1.XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xx_0\in Xを基点とし、§E18.8 定理 4.2で構成した普遍被覆をq:(X~,x~0)→(X,x0)q:(\widetilde X,\widetilde x_0)\to(X,x_0)とする。G=π1(X,x0)G=\pi_1(X,x_0)とおく。g=[ω]∈Gg=[\omega]\in Gに対し

Tg:X~⟶X~,Tg([α])=[ω∗α]T_g:\widetilde X\longrightarrow\widetilde X, \qquad T_g([\alpha])=[\omega*\alpha]

と定めると、TgT_gはデック変換である。対応

G⟶Deck⁡(q),g⟼TgG\longrightarrow\operatorname{Deck}(q), \qquad g\longmapsto T_g

は群の同型である。

証明.ggと[α][\alpha]の代表元を端点固定ホモトピックな道へ取り替えても、道の積の類は変わらない。したがってTgT_gは well-defined である。ω∗α\omega*\alphaの終点はα\alphaの終点であるから

q∘Tg=qq\circ T_g=q

である。

UUをq([α])q([\alpha])の許容近傍とする。定義から

Tg(B([α],U))=B(Tg([α]),U)T_g\bigl(B([\alpha],U)\bigr)=B(T_g([\alpha]),U)

である。よってTgT_gは開基の元を開基の元へ写す連続な開写像である。Tg−1T_{g^{-1}}が逆写像であるから、TgT_gは同相写像であり、デック変換である。

g=[ω]g=[\omega]、h=[ν]h=[\nu]とすると、道の積の結合律により

(Tg∘Th)([α])=[ω∗(ν∗α)]=[(ω∗ν)∗α]=Tgh([α])(T_g\circ T_h)([\alpha]) =[\omega*(\nu*\alpha)] =[(\omega*\nu)*\alpha] =T_{gh}([\alpha])

である。したがってg↦Tgg\mapsto T_gは群準同型である。

TgT_gが恒等写像なら、

[ω]=Tg(x~0)=x~0[\omega]=T_g(\widetilde x_0)=\widetilde x_0

であるからg=1g=1である。よって準同型は単射である。

D∈Deck⁡(q)D\in\operatorname{Deck}(q)を取る。D(x~0)D(\widetilde x_0)はx0x_0上のファイバーに属するから、ある基点付きループω\omegaが存在して

D(x~0)=[ω]D(\widetilde x_0)=[\omega]

となる。g=[ω]g=[\omega]とおくと、DDとTgT_gは一点x~0\widetilde x_0で一致する。補題 1.3によりD=TgD=T_gであるから、準同型は全射でもある。▨

3 部分群から被覆を作る

定義 3.1.XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xx_0\in Xを基点とし、普遍被覆をq:(X~,x~0)→(X,x0)q:(\widetilde X,\widetilde x_0)\to(X,x_0)、基本群をG=π1(X,x0)G=\pi_1(X,x_0)と書く。部分群H≤GH\leq Gに対し、定理 2.1の作用をHHに制限して得る軌道空間を

EH=H\X~E_H=H\backslash\widetilde X

と書く。ここでH\X~H\backslash\widetilde Xは左作用の軌道空間を表す。商写像をrH:X~→EHr_H:\widetilde X\to E_Hとし、eH=H⋅x~0e_H=H\cdot\widetilde x_0を基点とする。

命題 3.2. 写像

qH:EH⟶X,qH(H⋅x~)=q(x~)q_H:E_H\longrightarrow X, \qquad q_H(H\cdot\widetilde x)=q(\widetilde x)

は well-defined な連結被覆である。基点をeH=H⋅x~0e_H=H\cdot\widetilde x_0とすると、

(qH)∗π1(EH,eH)=H(q_H)_*\pi_1(E_H,e_H)=H

が成り立つ。

証明.HHの各元はqqのデック変換として作用するため、qqは各HH-軌道上で一定である。したがってqHq_Hは well-defined であり、qH∘rH=qq_H\circ r_H=qを満たす。

UUをXXの許容近傍とし、B([α],U)B([\alpha],U)をq−1(U)q^{-1}(U)の一つのシートとする。rHr_HがB([α],U)B([\alpha],U)の二点を同一視すると仮定する。あるh∈Hh\in Hが存在して、その二点をThT_hが互いに写す。二点は同じシートに属し、q∣B([α],U)q|_{B([\alpha],U)}は単射である一方、q∘Th=qq\circ T_h=qであるから、二点は一致する。したがってThT_hは一点を固定し、補題 1.3によりh=1h=1である。よってrHr_Hは各シート上で単射である。

群が同相写像として作用する軌道空間への商写像は開写像である。実際、開集合A⊆X~A\subseteq\widetilde Xに対して

rH−1(rH(A))=⋃h∈HTh(A)r_H^{-1}(r_H(A))=\bigcup_{h\in H}T_h(A)

は開である。したがってrH(B([α],U))r_H(B([\alpha],U))はEHE_Hの開集合である。写像qHq_Hのこの開集合への制限はUUへの全単射であり、その逆写像は

U→(q∣B([α],U))−1B([α],U)→rHrH(B([α],U))U\xrightarrow{(q|_{B([\alpha],U)})^{-1}}B([\alpha],U) \xrightarrow{r_H}r_H(B([\alpha],U))

であるから連続である。よって制限写像は同相写像である。

HHはq−1(U)q^{-1}(U)のシートを置換する。二つのシートのrHr_Hによる像は、同じHH-軌道に属するなら一致し、異なるHH-軌道に属するなら交わらない。したがってqH−1(U)q_H^{-1}(U)はUUへ同相に写る開集合の非交和であり、qHq_Hは被覆写像である。X~\widetilde Xは弧状連結であるから、その連続像EHE_Hも弧状連結である。

最後に基本群の像を求める。g=[ω]∈Gg=[\omega]\in Gとし、ω\omegaのx~0\widetilde x_0からの標準持ち上げをω^\widehat\omegaとする。rH∘ω^r_H\circ\widehat\omegaはω\omegaのeHe_Hからの持ち上げであり、その終点は

H⋅[ω]=H⋅Tg(x~0)H\cdot[\omega]=H\cdot T_g(\widetilde x_0)

である。この終点がeHe_Hに等しいこととg∈Hg\in Hであることは同値である。

被覆の基点付きループの像に属するループ類は、その基点からの持ち上げが閉じるループ類と一致する。実際、被覆内のループの射影なら持ち上げの一意性から閉じ、持ち上げが閉じるなら、その持ち上げ自体が被覆内の基点付きループを与える。したがって(qH)∗π1(EH,eH)=H(q_H)_*\pi_1(E_H,e_H)=Hである。▨

4 被覆の分類

定理 4.1.XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、基点x0∈Xx_0\in Xを固定する。このとき、XXの基点付き連結被覆の基点を保つ同型類と、G=π1(X,x0)G=\pi_1(X,x_0)の部分群とは一対一に対応する。対応は

p:(E,e0)⟶(X,x0)⟼p∗π1(E,e0)p:(E,e_0)\longrightarrow(X,x_0) \quad\longmapsto\quad p_*\pi_1(E,e_0)

で与えられ、その逆対応はH≤GH\leq Gを命題 3.2の被覆(EH,eH)(E_H,e_H)へ送る。

証明.p:(E,e0)→(X,x0)p:(E,e_0)\to(X,x_0)を基点付き連結被覆とし、

H=p∗π1(E,e0)H=p_*\pi_1(E,e_0)

とおく。被覆の局所座標とXXの局所弧状連結性からEEは局所弧状連結である。EEは連結でもあるから弧状連結である。

普遍被覆q:(X~,x~0)→(X,x0)q:(\widetilde X,\widetilde x_0)\to(X,x_0)の局所弧状連結性も確認する。各点[α]∈X~[\alpha]\in\widetilde Xとq([α])q([\alpha])の各許容近傍UUに対し、被覆座標

q∣B([α],U):B([α],U)⟶Uq|_{B([\alpha],U)}:B([\alpha],U)\longrightarrow U

は同相写像である。許容近傍UUは弧状連結な開集合であり、この形のシートはX~\widetilde Xの近傍基をなす。したがってX~\widetilde Xは局所弧状連結である。さらに§E18.8 定理 4.2によりX~\widetilde Xは弧状連結である。ゆえに持ち上げ判定条件をqqに適用するための定義域の仮定が満たされる。また、

q∗π1(X~,x~0)={1}⊆Hq_*\pi_1(\widetilde X,\widetilde x_0)=\{1\}\subseteq H

である。持ち上げ判定条件(§E18.5 定理 4.2)により、基点を保つ連続写像

F:(X~,x~0)⟶(E,e0),p∘F=qF:(\widetilde X,\widetilde x_0)\longrightarrow(E,e_0), \qquad p\circ F=q

が一意に存在する。

[α]∈X~[\alpha]\in\widetilde Xに対し、F([α])F([\alpha])はα\alphaのe0e_0からの持ち上げの終点である。実際、F∘α^F\circ\widehat\alphaはα\alphaのe0e_0からの持ち上げであり、その終点はF([α])F([\alpha])である。任意のe∈Ee\in Eを取る。EEは弧状連結であるから、e0e_0からeeへの道δ\deltaが存在する。α=p∘δ\alpha=p\circ\deltaとおけば、持ち上げの一意性によりδ\deltaはα\alphaのe0e_0からの持ち上げであり、F([α])=eF([\alpha])=eである。よってFFは全射である。

F([α])=F([β])F([\alpha])=F([\beta])とする。二つの道の終点はXXで一致する。α\alphaとβ\betaのe0e_0からの持ち上げをそれぞれα~E\widetilde\alpha_Eとβ~E\widetilde\beta_Eと書く。両者の終点は一致するため、

α~E∗β~E‾\widetilde\alpha_E*\overline{\widetilde\beta_E}

はEE内のe0e_0を基点とするループであり、その射影はα∗βˉ\alpha*\bar\betaである。したがって

h=[β∗αˉ]∈Hh=[\beta*\bar\alpha]\in H

である。道の結合律と往復する道の縮約から

Th([α])=[(β∗αˉ)∗α]=[β]T_h([\alpha])=[(\beta*\bar\alpha)*\alpha]=[\beta]

を得る。

逆に、h∈Hh\in Hなら、hhを表すループのe0e_0からの持ち上げは閉じる。その持ち上げの後にα\alphaの持ち上げを連結することにより

F(Th([α]))=F([α])F(T_h([\alpha]))=F([\alpha])

となる。よってFFの各ファイバーは正確に一つのHH-軌道である。

以上からFFは連続全単射

F‾:EH⟶E\overline F:E_H\longrightarrow E

を誘導し、p∘F‾=qHp\circ\overline F=q_Hを満たす。qHq_Hとppの均等被覆近傍を共通に細分すると、F‾\overline Fは各シート上で底空間の同じ開集合への二つの同相写像を合成した写像になる。したがってF‾\overline Fは局所同相写像であり、全単射でもあるから同相写像である。さらにF‾(eH)=e0\overline F(e_H)=e_0である。よって(E,e0)(E,e_0)は(EH,eH)(E_H,e_H)と基点付き被覆として同型である。

命題 3.2により(EH,eH)(E_H,e_H)が誘導する部分群はHHそのものである。したがって二つの対応は互いに逆である。▨

基点を変えると、対応する部分群は共役される。

定理 4.2.XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、基点x0∈Xx_0\in Xを固定する。このとき、XXの連結被覆の同型類と、G=π1(X,x0)G=\pi_1(X,x_0)の部分群の共役類とは一対一に対応する。

証明.p:(E,e0)→(X,x0)p:(E,e_0)\to(X,x_0)を基点付き連結被覆とし、H=p∗π1(E,e0)H=p_*\pi_1(E,e_0)とおく。別の点e1∈p−1(x0)e_1\in p^{-1}(x_0)を取り、EE内のe0e_0からe1e_1への道δ\deltaを取る。g=[p∘δ]∈Gg=[p\circ\delta]\in Gとおく。

e0e_0からe1e_1への基点変更は、e0e_0を基点とするループλ\lambdaを

δˉ∗λ∗δ\bar\delta*\lambda*\delta

へ送る。射影すると、h∈Hh\in Hはg−1hgg^{-1}hgへ送られる。したがって

p∗π1(E,e1)=g−1Hgp_*\pi_1(E,e_1)=g^{-1}Hg

である。よって同じ被覆で基点を変えると、対応する部分群は共役される。

被覆の同型が基点を保たない場合、指定した基点の像を新しい基点とみなせば、前段の議論により二つの部分群は共役である。逆にK=g−1HgK=g^{-1}Hgなら、EHE_Hの基点を、ggを表すループの持ち上げの終点へ移した基点付き被覆は部分群KKに対応する。定理 4.1により、その基点付き被覆は(EK,eK)(E_K,e_K)と同型である。基点を忘れればEHE_HとEKE_Kは同型である。したがって、基点を忘れた同型類は部分群の共役類と一対一に対応する。▨

5 正規化群とデック変換群

定義 5.1. 群GGの部分群H≤GH\leq Gの正規化群 (normalizer) を

NG(H)={g∈G∣gHg−1=H}N_G(H)=\{g\in G\mid gHg^{-1}=H\}

と定める。HHはNG(H)N_G(H)の正規部分群であるから、商群NG(H)/HN_G(H)/Hが定義される。

定理 5.2.XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xx_0\in Xを基点とし、p:(E,e0)→(X,x0)p:(E,e_0)\to(X,x_0)を連結被覆とする。

G=π1(X,x0),H=p∗π1(E,e0)G=\pi_1(X,x_0), \qquad H=p_*\pi_1(E,e_0)

とおく。このとき

Deck⁡(p)≅NG(H)/H\operatorname{Deck}(p)\cong N_G(H)/H

である。

証明.定理 4.1により、ppをqH:EH→Xq_H:E_H\to Xと同一視してよい。n∈NG(H)n\in N_G(H)に対し、

T‾n:EH⟶EH,T‾n(H⋅x~)=H⋅Tn(x~)\overline T_n:E_H\longrightarrow E_H, \qquad \overline T_n(H\cdot\widetilde x)=H\cdot T_n(\widetilde x)

と定める。x~′=Th(x~)\widetilde x'=T_h(\widetilde x)、h∈Hh\in Hとすると

Tn(x~′)=TnTh(x~)=Tnhn−1Tn(x~)T_n(\widetilde x') =T_nT_h(\widetilde x) =T_{nhn^{-1}}T_n(\widetilde x)

である。n∈NG(H)n\in N_G(H)からnhn−1∈Hnhn^{-1}\in Hであるため、T‾n\overline T_nは well-defined である。T‾n−1\overline T_{n^{-1}}が逆写像であり、qH∘T‾n=qHq_H\circ\overline T_n=q_Hであるから、T‾n\overline T_nはデック変換である。

対応n↦T‾nn\mapsto\overline T_nは群準同型である。T‾n\overline T_nが恒等写像なら

H⋅[n]=T‾n(eH)=eHH\cdot[n] =\overline T_n(e_H) =e_H

であるからn∈Hn\in Hである。逆にn∈Hn\in HならTnT_nは各HH-軌道を保つためT‾n\overline T_nは恒等写像である。よって準同型の核はHHである。

全射性を示す。D∈Deck⁡(qH)D\in\operatorname{Deck}(q_H)を取る。D(eH)D(e_H)はx0x_0上のファイバーに属するから、あるg∈Gg\in Gが存在して

D(eH)=H⋅[g]D(e_H)=H\cdot[g]

となる。二つの写像

D∘rH,rH∘Tg:X~⟶EHD\circ r_H,\quad r_H\circ T_g:\widetilde X\longrightarrow E_H

は、どちらもq:X~→Xq:\widetilde X\to XのqHq_Hへの持ち上げであり、x~0\widetilde x_0で同じ値を取る。持ち上げの一意性から

D∘rH=rH∘TgD\circ r_H=r_H\circ T_g

である。

h∈Hh\in Hに対してrH∘Th=rHr_H\circ T_h=r_Hである。したがって

rH∘Tg∘Th=D∘rH∘Th=D∘rH=rH∘Tg.r_H\circ T_g\circ T_h =D\circ r_H\circ T_h =D\circ r_H =r_H\circ T_g.

x~0\widetilde x_0で値を比較するとH⋅[gh]=H⋅[g]H\cdot[gh]=H\cdot[g]であり、ghg−1∈Hghg^{-1}\in Hを得る。よってgHg−1⊆HgHg^{-1}\subseteq Hである。

等式D∘rH=rH∘TgD\circ r_H=r_H\circ T_gとDDの可逆性から

D−1∘rH=rH∘Tg−1D^{-1}\circ r_H=r_H\circ T_{g^{-1}}

を得る。同じ議論をD−1D^{-1}に適用するとg−1Hg⊆Hg^{-1}Hg\subseteq Hである。したがってgHg−1=HgHg^{-1}=Hであり、g∈NG(H)g\in N_G(H)である。さらにD∘rH=rH∘TgD\circ r_H=r_H\circ T_gとrHr_Hの全射性からD=T‾gD=\overline T_gである。よって準同型は全射である。

群の第一同型定理により

Deck⁡(qH)≅NG(H)/H\operatorname{Deck}(q_H)\cong N_G(H)/H

を得る。▨

定理 5.3.XXを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xx_0\in Xを基点とし、p:(E,e0)→(X,x0)p:(E,e_0)\to(X,x_0)を連結被覆とする。

G=π1(X,x0),H=p∗π1(E,e0)G=\pi_1(X,x_0), \qquad H=p_*\pi_1(E,e_0)

とおく。次の条件は同値である。

  1. Deck⁡(p)\operatorname{Deck}(p)は一つのファイバー上で可移に作用する。
  2. Deck⁡(p)\operatorname{Deck}(p)はすべてのファイバー上で可移に作用する。すなわち、ppは正規被覆である。
  3. HHはGGの正規部分群である。

これらの条件が成り立つとき、

Deck⁡(p)≅G/H\operatorname{Deck}(p)\cong G/H

である。

証明.条件 (a)⇔\Leftrightarrow(b)を示す。最初に、可移性を一つのファイバーから他のファイバーへ移すことができることを示す。x,y∈Xx,y\in Xを結ぶ道γ\gammaに沿って持ち上げの終点を取る写像

τγ:p−1(x)⟶p−1(y)\tau_\gamma:p^{-1}(x)\longrightarrow p^{-1}(y)

を考える。τγˉ\tau_{\bar\gamma}はτγ\tau_\gammaの逆写像であるから、τγ\tau_\gammaは全単射である。任意のデック変換DDとe∈p−1(x)e\in p^{-1}(x)に対し、DDをeeからのγ\gammaの持ち上げに合成した道は、D(e)D(e)からのγ\gammaの持ち上げである。持ち上げの一意性により

D(τγ(e))=τγ(D(e))D(\tau_\gamma(e))=\tau_\gamma(D(e))

である。したがってデック変換群の作用が一つのファイバーで可移なら、任意のファイバーでも可移である。よって条件 (a)と条件 (b)は同値である。

条件 (a)⇔\Leftrightarrow(c)を示す。定理 4.1によりppをqH:EH→Xq_H:E_H\to Xと同一視する。x0x_0上のファイバーは

qH−1(x0)={H⋅[g]∣g∈G}q_H^{-1}(x_0)=\{H\cdot[g]\mid g\in G\}

である。定理 5.2の記述により、n∈NG(H)n\in N_G(H)に対応するデック変換は

H⋅[g]⟼H⋅[ng]H\cdot[g]\longmapsto H\cdot[ng]

と作用する。基点H⋅[1]H\cdot[1]の軌道は{H⋅[n]∣n∈NG(H)}\{H\cdot[n]\mid n\in N_G(H)\}である。この軌道がファイバー全体に一致することとNG(H)=GN_G(H)=Gであることは同値である。また、NG(H)=GN_G(H)=GであることとH⊴GH\trianglelefteq Gであることは同値である。したがって条件 (a)と条件 (c)は同値である。

H⊴GH\trianglelefteq GならNG(H)=GN_G(H)=Gであるから、定理 5.2により

Deck⁡(p)≅NG(H)/H=G/H\operatorname{Deck}(p)\cong N_G(H)/H=G/H

となる。▨

注意 5.4 (二つの商を区別する). 一般の連結被覆では、デック変換群はNG(H)/HN_G(H)/Hである。HHがGGの正規部分群でない場合、G/HG/Hは商群として定義されず、デック変換群を表さない。正規被覆に限ってNG(H)=GN_G(H)=Gとなり、式はG/HG/Hへ簡約される。

6 三つの基本例

例 6.1 (格子による円環面). 整数格子Z2\mathbb Z^2を平行移動によってR2\mathbb R^2に作用させる。商写像

q:R2⟶R2/Z2=T2q:\mathbb R^2\longrightarrow\mathbb R^2/\mathbb Z^2=T^2

は被覆写像である。R2\mathbb R^2は凸であるから単連結であり、qqは普遍被覆である。

各m∈Z2m\in\mathbb Z^2に対する平行移動

τm(v)=v+m\tau_m(v)=v+m

はデック変換である。任意のデック変換DDはD(0)∈q−1(q(0))=Z2D(0)\in q^{-1}(q(0))=\mathbb Z^2によって一意に決まる。D(0)=mD(0)=mならDDとτm\tau_mは00で一致するため、補題 1.3によりD=τmD=\tau_mである。したがって

Deck⁡(q)≅Z2.\operatorname{Deck}(q)\cong\mathbb Z^2.

T2=S1×S1T^2=S^1\times S^1とπ1(S1)≅Z\pi_1(S^1)\cong\mathbb Zからπ1(T2)≅Z2\pi_1(T^2)\cong\mathbb Z^2であり、定理 2.1の同型と一致する。

例 6.2 (球面から実射影空間への被覆). 写像

q:S2⟶RP2,q(x)=[x]q:S^2\longrightarrow\mathbb {RP}^2, \qquad q(x)=[x]

は各点xxと対蹠点−x-xを同一視する二重被覆である。S2S^2は単連結である(§E18.7 命題 3.2)ため、qqは普遍被覆である。

恒等写像と対蹠写像a(x)=−xa(x)=-xはデック変換である。任意のデック変換DDは一点x0x_0の像によって決まり、D(x0)D(x_0)はx0x_0または−x0-x_0のいずれかである。前者ならD=id⁡S2D=\operatorname{id}_{S^2}、後者ならD=aD=aである。したがって

Deck⁡(q)={id⁡S2,a}≅Z/2Z.\operatorname{Deck}(q)=\{\operatorname{id}_{S^2},a\} \cong\mathbb Z/2\mathbb Z.

定理 2.1によりπ1(RP2)≅Z/2Z\pi_1(\mathbb {RP}^2)\cong\mathbb Z/2\mathbb Zも従う。

例 6.3 (円周の冪写像). 正の整数nnに対し、

pn:S1⟶S1,pn(z)=znp_n:S^1\longrightarrow S^1, \qquad p_n(z)=z^n

は連結なnn重被覆である。巻き数による同型π1(S1,1)≅Z\pi_1(S^1,1)\cong\mathbb Zのもとで、(pn)∗(p_n)_*は整数kkをnknkへ写す。したがって対応する部分群は

H=nZ≤G=ZH=n\mathbb Z\leq G=\mathbb Z

である。GGはアーベル群であるからH⊴GH\trianglelefteq Gであり、pnp_nは正規被覆である。

0≤k<n0\leq k<nに対し

Rk(z)=e2πik/nzR_k(z)=e^{2\pi i k/n}z

とおくと、pn∘Rk=pnp_n\circ R_k=p_nである。任意のデック変換DDについてD(1)D(1)は11のnn個の逆像の一つであり、その値と一致するRkR_kが一意に存在する。補題 1.3によりD=RkD=R_kである。よって

Deck⁡(pn)≅Z/nZ≅G/H\operatorname{Deck}(p_n) \cong\mathbb Z/n\mathbb Z \cong G/H

である。

7 演習

問題 7.1.

  1. 定理 4.1の写像F:X~→EF:\widetilde X\to Eについて、F([α])=F([β])F([\alpha])=F([\beta])と[β]=Th([α])[\beta]=T_h([\alpha])を満たすh∈Hh\in Hの存在が同値であることを証明せよ。
  2. n∈Gn\in Gに対するTnT_nがEH=H\X~E_H=H\backslash\widetilde Xのデック変換を誘導するための必要十分条件を述べ、その条件からDeck⁡(qH)≅NG(H)/H\operatorname{Deck}(q_H)\cong N_G(H)/Hが得られる理由を説明せよ。
  3. 円環面、実射影平面および円周のnn乗写像について、対応する部分群HHとデック変換群をそれぞれ求めよ。
解答.
  1. 二つの像が一致すると、α\alphaとβ\betaのEEへの持ち上げは同じ点で終わる。したがってα∗βˉ\alpha*\bar\betaの持ち上げが閉じ、h=[β∗αˉ]∈Hh=[\beta*\bar\alpha]\in Hとなる。道の往復を消すとTh([α])=[β]T_h([\alpha])=[\beta]を得る。逆にh∈Hh\in Hを表すループの持ち上げはe0e_0で閉じるため、その後にα\alphaの持ち上げを連結しても終点は変わらず、F(Th([α]))=F([α])F(T_h([\alpha]))=F([\alpha])となる。
  2. 必要十分条件はnHn−1=HnHn^{-1}=H、すなわちn∈NG(H)n\in N_G(H)である。この条件によりTnT_nはHH-軌道をHH-軌道へ写す。誘導される準同型NG(H)→Deck⁡(qH)N_G(H)\to\operatorname{Deck}(q_H)の核はHHであり、任意のデック変換は基点の像を表すn∈NG(H)n\in N_G(H)から得られるため、この準同型は全射である。第一同型定理からNG(H)/HN_G(H)/Hを得る。
  3. 円環面の普遍被覆ではG≅Z2G\cong\mathbb Z^2、H={0}H=\{0\}であり、デック変換群は整数格子の平行移動群Z2\mathbb Z^2である。実射影平面の普遍被覆ではG≅Z/2ZG\cong\mathbb Z/2\mathbb Z、H={0}H=\{0\}であり、デック変換群は恒等写像と対蹠写像からなるZ/2Z\mathbb Z/2\mathbb Zである。円周のnn乗写像ではG=ZG=\mathbb Z、H=nZH=n\mathbb Zであり、デック変換群はnn乗根による回転からなるZ/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zである。

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参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.被覆の分類、正規被覆およびデック変換群の標準的な証明を参考にした。

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