1 デック変換と被覆の同型
定義 1.2. 二つの被覆p:E→Xとp′:E′→Xの同型 (isomorphism of covering spaces) とは、同相写像F:E→E′で
p′∘F=pを満たすものをいう。基点付き被覆の同型には、指定された基点を指定された基点へ写すことも要求する。
連結被覆p:E→Xが正規被覆 (regular covering) であるとは、Deck(p)の自然な作用
Deck(p)×E⟶E,(D,e)⟼D(e)が各ファイバーp−1(x)上で可移であることをいう。
連結な全空間上のデック変換は、一点での値だけで決まる。
補題 1.3.p:E→Xを連結被覆とする。二つのデック変換D0,D1∈Deck(p)が一点e∈Eで一致するなら、D0=D1である。特に、恒等写像でないデック変換は固定点をもたない。
証明.D0とD1は、写像p:E→Xの、被覆p:E→Xへの二つの持ち上げである。定義域Eは連結であり、二つの持ち上げはeで一致する。持ち上げの一意性(§E18.5 補題 1.4)によりD0=D1である。
D(e)=eを満たすデック変換Dに前半をD0=D、D1=idEとして適用すると、D=idEを得る。▨
2 普遍被覆のデック変換群
Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、x0∈Xを固定する。§E18.8 定理 4.2で構成した普遍被覆を
q:(X,x0)⟶(X,x0)
と書く。道の積は、左の道を先にたどる規約を用いる。
定理 2.1.Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xを基点とし、§E18.8 定理 4.2で構成した普遍被覆をq:(X,x0)→(X,x0)とする。G=π1(X,x0)とおく。g=[ω]∈Gに対し
Tg:X⟶X,Tg([α])=[ω∗α]と定めると、Tgはデック変換である。対応
G⟶Deck(q),g⟼Tgは群の同型である。
証明.gと[α]の代表元を端点固定ホモトピックな道へ取り替えても、道の積の類は変わらない。したがってTgは well-defined である。ω∗αの終点はαの終点であるから
q∘Tg=qである。
Uをq([α])の許容近傍とする。定義から
Tg(B([α],U))=B(Tg([α]),U)である。よってTgは開基の元を開基の元へ写す連続な開写像である。Tg−1が逆写像であるから、Tgは同相写像であり、デック変換である。
g=[ω]、h=[ν]とすると、道の積の結合律により
(Tg∘Th)([α])=[ω∗(ν∗α)]=[(ω∗ν)∗α]=Tgh([α])である。したがってg↦Tgは群準同型である。
Tgが恒等写像なら、
[ω]=Tg(x0)=x0であるからg=1である。よって準同型は単射である。
D∈Deck(q)を取る。D(x0)はx0上のファイバーに属するから、ある基点付きループωが存在して
D(x0)=[ω]となる。g=[ω]とおくと、DとTgは一点x0で一致する。補題 1.3によりD=Tgであるから、準同型は全射でもある。▨
3 部分群から被覆を作る
定義 3.1.Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xを基点とし、普遍被覆をq:(X,x0)→(X,x0)、基本群をG=π1(X,x0)と書く。部分群H≤Gに対し、定理 2.1の作用をHに制限して得る軌道空間を
EH=H\Xと書く。ここでH\Xは左作用の軌道空間を表す。商写像をrH:X→EHとし、eH=H⋅x0を基点とする。
命題 3.2. 写像
qH:EH⟶X,qH(H⋅x)=q(x)は well-defined な連結被覆である。基点をeH=H⋅x0とすると、
(qH)∗π1(EH,eH)=Hが成り立つ。
証明.Hの各元はqのデック変換として作用するため、qは各H-軌道上で一定である。したがってqHは well-defined であり、qH∘rH=qを満たす。
UをXの許容近傍とし、B([α],U)をq−1(U)の一つのシートとする。rHがB([α],U)の二点を同一視すると仮定する。あるh∈Hが存在して、その二点をThが互いに写す。二点は同じシートに属し、q∣B([α],U)は単射である一方、q∘Th=qであるから、二点は一致する。したがってThは一点を固定し、補題 1.3によりh=1である。よってrHは各シート上で単射である。
群が同相写像として作用する軌道空間への商写像は開写像である。実際、開集合A⊆Xに対して
rH−1(rH(A))=h∈H⋃Th(A)は開である。したがってrH(B([α],U))はEHの開集合である。写像qHのこの開集合への制限はUへの全単射であり、その逆写像は
U(q∣B([α],U))−1B([α],U)rHrH(B([α],U))であるから連続である。よって制限写像は同相写像である。
Hはq−1(U)のシートを置換する。二つのシートのrHによる像は、同じH-軌道に属するなら一致し、異なるH-軌道に属するなら交わらない。したがってqH−1(U)はUへ同相に写る開集合の非交和であり、qHは被覆写像である。Xは弧状連結であるから、その連続像EHも弧状連結である。
最後に基本群の像を求める。g=[ω]∈Gとし、ωのx0からの標準持ち上げをωとする。rH∘ωはωのeHからの持ち上げであり、その終点は
H⋅[ω]=H⋅Tg(x0)である。この終点がeHに等しいこととg∈Hであることは同値である。
被覆の基点付きループの像に属するループ類は、その基点からの持ち上げが閉じるループ類と一致する。実際、被覆内のループの射影なら持ち上げの一意性から閉じ、持ち上げが閉じるなら、その持ち上げ自体が被覆内の基点付きループを与える。したがって(qH)∗π1(EH,eH)=Hである。▨
4 被覆の分類
定理 4.1.Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、基点x0∈Xを固定する。このとき、Xの基点付き連結被覆の基点を保つ同型類と、G=π1(X,x0)の部分群とは一対一に対応する。対応は
p:(E,e0)⟶(X,x0)⟼p∗π1(E,e0)で与えられ、その逆対応はH≤Gを命題 3.2の被覆(EH,eH)へ送る。
証明.p:(E,e0)→(X,x0)を基点付き連結被覆とし、
H=p∗π1(E,e0)とおく。被覆の局所座標とXの局所弧状連結性からEは局所弧状連結である。Eは連結でもあるから弧状連結である。
普遍被覆q:(X,x0)→(X,x0)の局所弧状連結性も確認する。各点[α]∈Xとq([α])の各許容近傍Uに対し、被覆座標
q∣B([α],U):B([α],U)⟶Uは同相写像である。許容近傍Uは弧状連結な開集合であり、この形のシートはXの近傍基をなす。したがってXは局所弧状連結である。さらに§E18.8 定理 4.2によりXは弧状連結である。ゆえに持ち上げ判定条件をqに適用するための定義域の仮定が満たされる。また、
q∗π1(X,x0)={1}⊆Hである。持ち上げ判定条件(§E18.5 定理 4.2)により、基点を保つ連続写像
F:(X,x0)⟶(E,e0),p∘F=qが一意に存在する。
[α]∈Xに対し、F([α])はαのe0からの持ち上げの終点である。実際、F∘αはαのe0からの持ち上げであり、その終点はF([α])である。任意のe∈Eを取る。Eは弧状連結であるから、e0からeへの道δが存在する。α=p∘δとおけば、持ち上げの一意性によりδはαのe0からの持ち上げであり、F([α])=eである。よってFは全射である。
F([α])=F([β])とする。二つの道の終点はXで一致する。αとβのe0からの持ち上げをそれぞれαEとβEと書く。両者の終点は一致するため、
αE∗βEはE内のe0を基点とするループであり、その射影はα∗βˉである。したがって
h=[β∗αˉ]∈Hである。道の結合律と往復する道の縮約から
Th([α])=[(β∗αˉ)∗α]=[β]を得る。
逆に、h∈Hなら、hを表すループのe0からの持ち上げは閉じる。その持ち上げの後にαの持ち上げを連結することにより
F(Th([α]))=F([α])となる。よってFの各ファイバーは正確に一つのH-軌道である。
以上からFは連続全単射
F:EH⟶Eを誘導し、p∘F=qHを満たす。qHとpの均等被覆近傍を共通に細分すると、Fは各シート上で底空間の同じ開集合への二つの同相写像を合成した写像になる。したがってFは局所同相写像であり、全単射でもあるから同相写像である。さらにF(eH)=e0である。よって(E,e0)は(EH,eH)と基点付き被覆として同型である。
命題 3.2により(EH,eH)が誘導する部分群はHそのものである。したがって二つの対応は互いに逆である。▨
基点を変えると、対応する部分群は共役される。
定理 4.2.Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とし、基点x0∈Xを固定する。このとき、Xの連結被覆の同型類と、G=π1(X,x0)の部分群の共役類とは一対一に対応する。
証明.p:(E,e0)→(X,x0)を基点付き連結被覆とし、H=p∗π1(E,e0)とおく。別の点e1∈p−1(x0)を取り、E内のe0からe1への道δを取る。g=[p∘δ]∈Gとおく。
e0からe1への基点変更は、e0を基点とするループλを
δˉ∗λ∗δへ送る。射影すると、h∈Hはg−1hgへ送られる。したがって
p∗π1(E,e1)=g−1Hgである。よって同じ被覆で基点を変えると、対応する部分群は共役される。
被覆の同型が基点を保たない場合、指定した基点の像を新しい基点とみなせば、前段の議論により二つの部分群は共役である。逆にK=g−1Hgなら、EHの基点を、gを表すループの持ち上げの終点へ移した基点付き被覆は部分群Kに対応する。定理 4.1により、その基点付き被覆は(EK,eK)と同型である。基点を忘れればEHとEKは同型である。したがって、基点を忘れた同型類は部分群の共役類と一対一に対応する。▨
5 正規化群とデック変換群
定義 5.1. 群Gの部分群H≤Gの正規化群 (normalizer) を
NG(H)={g∈G∣gHg−1=H}と定める。HはNG(H)の正規部分群であるから、商群NG(H)/Hが定義される。
定理 5.2.Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xを基点とし、p:(E,e0)→(X,x0)を連結被覆とする。
G=π1(X,x0),H=p∗π1(E,e0)とおく。このとき
Deck(p)≅NG(H)/Hである。
証明.定理 4.1により、pをqH:EH→Xと同一視してよい。n∈NG(H)に対し、
Tn:EH⟶EH,Tn(H⋅x)=H⋅Tn(x)と定める。x′=Th(x)、h∈Hとすると
Tn(x′)=TnTh(x)=Tnhn−1Tn(x)である。n∈NG(H)からnhn−1∈Hであるため、Tnは well-defined である。Tn−1が逆写像であり、qH∘Tn=qHであるから、Tnはデック変換である。
対応n↦Tnは群準同型である。Tnが恒等写像なら
H⋅[n]=Tn(eH)=eHであるからn∈Hである。逆にn∈HならTnは各H-軌道を保つためTnは恒等写像である。よって準同型の核はHである。
全射性を示す。D∈Deck(qH)を取る。D(eH)はx0上のファイバーに属するから、あるg∈Gが存在して
D(eH)=H⋅[g]となる。二つの写像
D∘rH,rH∘Tg:X⟶EHは、どちらもq:X→XのqHへの持ち上げであり、x0で同じ値を取る。持ち上げの一意性から
D∘rH=rH∘Tgである。
h∈Hに対してrH∘Th=rHである。したがって
rH∘Tg∘Th=D∘rH∘Th=D∘rH=rH∘Tg.x0で値を比較するとH⋅[gh]=H⋅[g]であり、ghg−1∈Hを得る。よってgHg−1⊆Hである。
等式D∘rH=rH∘TgとDの可逆性から
D−1∘rH=rH∘Tg−1を得る。同じ議論をD−1に適用するとg−1Hg⊆Hである。したがってgHg−1=Hであり、g∈NG(H)である。さらにD∘rH=rH∘TgとrHの全射性からD=Tgである。よって準同型は全射である。
群の第一同型定理により
Deck(qH)≅NG(H)/Hを得る。▨
定理 5.3.Xを空でない連結かつ局所弧状連結かつ半局所単連結な空間、x0∈Xを基点とし、p:(E,e0)→(X,x0)を連結被覆とする。
G=π1(X,x0),H=p∗π1(E,e0)とおく。次の条件は同値である。
- Deck(p)は一つのファイバー上で可移に作用する。
- Deck(p)はすべてのファイバー上で可移に作用する。すなわち、pは正規被覆である。
- HはGの正規部分群である。
これらの条件が成り立つとき、
Deck(p)≅G/Hである。
証明.条件 (a)⇔(b)を示す。最初に、可移性を一つのファイバーから他のファイバーへ移すことができることを示す。x,y∈Xを結ぶ道γに沿って持ち上げの終点を取る写像
τγ:p−1(x)⟶p−1(y)を考える。τγˉはτγの逆写像であるから、τγは全単射である。任意のデック変換Dとe∈p−1(x)に対し、Dをeからのγの持ち上げに合成した道は、D(e)からのγの持ち上げである。持ち上げの一意性により
D(τγ(e))=τγ(D(e))である。したがってデック変換群の作用が一つのファイバーで可移なら、任意のファイバーでも可移である。よって条件 (a)と条件 (b)は同値である。
条件 (a)⇔(c)を示す。定理 4.1によりpをqH:EH→Xと同一視する。x0上のファイバーは
qH−1(x0)={H⋅[g]∣g∈G}である。定理 5.2の記述により、n∈NG(H)に対応するデック変換は
H⋅[g]⟼H⋅[ng]と作用する。基点H⋅[1]の軌道は{H⋅[n]∣n∈NG(H)}である。この軌道がファイバー全体に一致することとNG(H)=Gであることは同値である。また、NG(H)=GであることとH⊴Gであることは同値である。したがって条件 (a)と条件 (c)は同値である。
H⊴GならNG(H)=Gであるから、定理 5.2により
Deck(p)≅NG(H)/H=G/Hとなる。▨
6 三つの基本例
例 6.1 (格子による円環面). 整数格子Z2を平行移動によってR2に作用させる。商写像
q:R2⟶R2/Z2=T2は被覆写像である。R2は凸であるから単連結であり、qは普遍被覆である。
各m∈Z2に対する平行移動
τm(v)=v+mはデック変換である。任意のデック変換DはD(0)∈q−1(q(0))=Z2によって一意に決まる。D(0)=mならDとτmは0で一致するため、補題 1.3によりD=τmである。したがって
Deck(q)≅Z2.T2=S1×S1とπ1(S1)≅Zからπ1(T2)≅Z2であり、定理 2.1の同型と一致する。
例 6.2 (球面から実射影空間への被覆). 写像
q:S2⟶RP2,q(x)=[x]は各点xと対蹠点−xを同一視する二重被覆である。S2は単連結である(§E18.7 命題 3.2)ため、qは普遍被覆である。
恒等写像と対蹠写像a(x)=−xはデック変換である。任意のデック変換Dは一点x0の像によって決まり、D(x0)はx0または−x0のいずれかである。前者ならD=idS2、後者ならD=aである。したがって
Deck(q)={idS2,a}≅Z/2Z.定理 2.1によりπ1(RP2)≅Z/2Zも従う。
例 6.3 (円周の冪写像). 正の整数nに対し、
pn:S1⟶S1,pn(z)=znは連結なn重被覆である。巻き数による同型π1(S1,1)≅Zのもとで、(pn)∗は整数kをnkへ写す。したがって対応する部分群は
H=nZ≤G=Zである。Gはアーベル群であるからH⊴Gであり、pnは正規被覆である。
0≤k<nに対し
Rk(z)=e2πik/nzとおくと、pn∘Rk=pnである。任意のデック変換DについてD(1)は1のn個の逆像の一つであり、その値と一致するRkが一意に存在する。補題 1.3によりD=Rkである。よって
Deck(pn)≅Z/nZ≅G/Hである。
7 演習
解答.
- 二つの像が一致すると、αとβのEへの持ち上げは同じ点で終わる。したがってα∗βˉの持ち上げが閉じ、h=[β∗αˉ]∈Hとなる。道の往復を消すとTh([α])=[β]を得る。逆にh∈Hを表すループの持ち上げはe0で閉じるため、その後にαの持ち上げを連結しても終点は変わらず、F(Th([α]))=F([α])となる。
- 必要十分条件はnHn−1=H、すなわちn∈NG(H)である。この条件によりTnはH-軌道をH-軌道へ写す。誘導される準同型NG(H)→Deck(qH)の核はHであり、任意のデック変換は基点の像を表すn∈NG(H)から得られるため、この準同型は全射である。第一同型定理からNG(H)/Hを得る。
- 円環面の普遍被覆ではG≅Z2、H={0}であり、デック変換群は整数格子の平行移動群Z2である。実射影平面の普遍被覆ではG≅Z/2Z、H={0}であり、デック変換群は恒等写像と対蹠写像からなるZ/2Zである。円周のn乗写像ではG=Z、H=nZであり、デック変換群はn乗根による回転からなるZ/nZである。
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