1 外部結果として用いる三角形分割定理
定理 1.1 (コンパクト曲面の三角形分割定理). 境界をもたないコンパクト二次元位相多様体は有限三角形分割を持つ。
本記事は定理 1.1を証明しない。この外部結果だけが本記事の委譲範囲である。以下では有限三角形分割を一つ固定し、その三角形分割から多角形表示を作る操作、多角形語の標準化および分類の一意性を証明する。したがって、分類の組合せ論的な部分を外部の分類定理へ委ねない。
2 三角形分割から一枚の多角形を得る
有限三角形分割の各三角形を頂点とし、二つの三角形が一辺を共有するときに辺を結ぶ有限グラフを双対グラフという。曲面が連結であるため、双対グラフも連結である。
補題 2.1. 連結閉曲面Mは、有限多角形Pの辺を二本ずつ貼り合わせた商空間として表すことができる。さらに、すべての頂点が商空間の一つの点へ写るようにPを選ぶことができる。
証明.Mの有限三角形分割を一つ取り、その双対グラフの全域木T∗を選ぶ。最初はすべての三角形を互いに離しておく。T∗の辺に対応する三角形の辺だけを順に貼り合わせる。木に新しい頂点を一つ加えるたびに、二つの円板を境界の一辺で貼り合わせるため、貼り合わせた領域は円板のままである。T∗が三角形をすべて含み、三角形数より一つ少ない辺を持つので、操作の終了時には一枚の多角形状の円板Pを得る。
T∗に属さない双対辺に対応する三角形の辺はPの境界に二本ずつ残る。元の曲面では同じ辺であった二本を元の貼り合わせ写像によって同一視するとMを復元する。したがって各辺記号はPの境界にちょうど二度現れる。
この段階で商空間の頂点が複数ある場合、商で得られる一骨格Gから全域木Tを選ぶ。ここで用いるのは、Tを一点へ送る同相写像ではない。そのような写像は単射でないため存在しない。商写像
q:M⟶M/TによってTを一点へ同一視し、商空間M/TがMと同相であることを次の切断貼り合わせで確かめる。
Tの閉正則近傍Nは円板である。Tの辺を、毎回残りの木の葉に接する辺を取る順序に並べる。葉辺の細い長方形近傍を切り開くと、その中央の辺を一点へ同一視する商は、長方形の二つの三角形を中央辺に沿って折り、外周を貼り直した円板になる。この操作は長方形近傍の外周を固定する。葉辺を除いた木に同じ操作を繰り返すと、Nは境界円周∂NをTへ貼る写像の写像柱として表される。従ってTを一点へ同一視したN/Tは∂Nの錐であり、円板である。以上の葉辺操作は境界を固定するため、N/TはNと境界を固定して同相である。したがって
M/T=(M∖int(N))∪∂N(N/T)≅(M∖int(N))∪∂NN=M.この商を多角形P上で実行する。Tの各辺に対応する二本の境界辺を一点へ同一視する。円板の一つの境界辺を一点へ同一視した商は、その辺の両端から対角線を引いてできる三角形を折り畳んだ円板であり、逆操作はその点を一辺へ切り開く操作である。従って、Tの辺を葉から順に同一視した後も像PTは円板である。残った辺対を貼る商はM/T≅Mであり、TがGの全域木であるため、PTの全頂点は一つの商頂点へ写る。これで一頂点の一多角形表示を得る。▨
多角形の境界へ向きを一つ入れる。貼り合わせる二辺に同じ文字を付け、境界の向きと文字の矢印が一致すれば指数+1、反対なら指数−1を付ける。境界を一周して得る巡回語を 多角形語という。各文字は指数を含めて二度現れる。
定義 2.2. 多角形を対角線で切り、同じ文字を持つ辺を貼り直し、得られた円板の境界を新しい出発点から読む操作を 切断貼り合わせ変形 (cut-and-paste transformation) という。文字の名前の変更、巡回置換、語全体の逆順化、および切断貼り合わせ変形によって移り合う多角形語を同値と呼ぶ。
切断貼り合わせ変形の前後の商空間は同じ切片を別の順序で組み立てた空間である。各切片上の恒等写像が商写像と両立するため、二つの商空間の間に同相写像が誘導される。
以下では切断を図なしで追跡するため、辺記号の集合をS、多角形片の境界語をW1,…,Wrとして
⟨S∣W1,…,Wr⟩
と書く。一つの面の語UVを対角線dで切る操作は
⟨S∣UV,W2,…,Wr⟩⟷⟨S,d∣Ud,d−1V,W2,…,Wr⟩
である。逆向きの矢印はd,d−1を貼る操作である。各語の巡回置換と、語を逆順にして全指数を反転する操作も許す。以下の置換列の各矢印は、これらの可逆操作の有限回の合成を表す。
3 辺の語を標準化する
標準化で用いる局所操作を先に整理する。
証明.(1)を示す。第一の操作は折り畳み
⟨S,a∣Waa−1⟩⟷⟨S∣W⟩である。aa−1に接する三角形を一辺へ折り畳む操作であり、逆操作ではその一辺を三角形へ切り開く。
(2)を示す。第二の操作を語VaWaに適用する。V,Wは指定した二本のa辺の間の境界弧である。新しい切断辺をdとすると、切断、巡回置換、反転および貼り合わせを順に行う列は
⟨S,a∣VaWa⟩∼⟨S,a,d∣Vad,d−1Wa⟩∼⟨S,a,d∣dVa,a−1W−1d⟩∼⟨S,d∣VW−1dd⟩.ここでV,Wは一文字ではなく部分語を表す。最後の貼り合わせでa,a−1が消え、同じ向きの辺対ddが隣り合う。他の文字を含む部分語は反転または連結されるだけなので、各文字は二度ずつ残る。
(3)を示す。第三の操作では、語を
WaXbYa−1Zb−1と書く。二本の切断辺をc,dとして同じ操作を逐次適用すると
⟨S,a,b∣WaXbYa−1Zb−1⟩∼⟨S,a,b,c∣WaXc,c−1bYa−1Zb−1⟩∼⟨S,a,b,c∣XcWa,a−1Zb−1c−1bY⟩∼⟨S,b,c∣XcWZb−1c−1bY⟩∼⟨S,b,c∣c−1bYXcWZb−1⟩∼⟨S,b,c,d∣c−1bYXcd,d−1WZb−1⟩∼⟨S,b,c,d∣YXcdc−1b,b−1d−1WZ⟩∼⟨S,c,d∣YXcdc−1d−1WZ⟩∼⟨S,c,d∣cdc−1d−1WZYX⟩.従って、交互に現れる二組を交換子として先頭へ取り出すことができる。各矢印を逆向きにたどれば元の語へ戻るため、三つの操作はすべて可逆である。▨
二組の文字がa,b,a−1,b−1のように交互に現れるとき、その二組は 連結しているという。
補題 3.2. 閉曲面を与える一頂点の多角形語は、切断貼り合わせ変形によって次のいずれかへ変形することができる。
- aa−1。この語の商はS2である。
- あるg≥1に対する
[a1,b1]⋯[ag,bg],[a,b]:=aba−1b−1.
- あるk≥1に対する
c12c22⋯ck2.
証明. 文字対の個数に関して帰納法を行う。まず補題 3.1 (1)を、隣り合う逆向きの辺対がなくなるまで行う。すべての文字が消えた場合、最後に削除したaa−1の二辺形は円板二枚を境界で貼った球面を与える。
同じ符号で二度現れる文字が存在する場合、補題 3.1 (2)でc12を取り出す。残る語に同じ操作を繰り返すと、有限回で
c12⋯cr2Wとなり、Wでは各文字が一度ずつ正負の反対符号で現れる。
次にWを処理する。文字対を頂点とし、二組が境界円周上で交互に現れるときに辺を結ぶ有限グラフをΓ(W)とする。Γ(W)が非連結である場合の分解を明示する。一つの連結成分Cを選び、Cの文字対だけに補題 3.1 (2)または補題 3.1 (3)の置換列を適用する。Cの文字対とCの外の文字対は交互に現れないため、各置換列に現れる部分語V,W,X,Y,ZのうちCの外の文字を含む部分は、必ずその文字の二つの出現をまとめて含む。従って、置換列は外の文字対を分断せず、部分語全体を反転または移動するだけである。
Cの文字対の個数に関してこの操作を繰り返すと、Cの全対を標準ブロックBCとして先頭へ取り出し、
W∼BCW′とすることができる。BCとW′の文字集合は交わらない。二つの多角形の内部から小円板を一枚ずつ除き、その境界を反対向きに貼ってから、各小円板まで一本の放射状切断を入れると、二つの境界語はBCW′と連結して読まれる。逆にBCとW′の間の放射状切断を開けば二つの多角形へ戻る。従って、BCW′は二つの商曲面の連結和表示である。この切断を各連結成分に繰り返せば、非連結な文字対は連結成分ごとの多角形語へ分解される。孤立した反対符号の一対はaa−1の球面ブロックであり、補題 3.1 (1)で除くことができる。
各非自明な連結成分には交互に現れる二組があるため、補題 3.1 (3)の置換列で一つの交換子を取り出すことができる。残る文字対は二組減り、非連結になった残部には直前の分解を再び適用する。文字対の個数に関する帰納法により、Wは交換子の積へ変形される。
この時点で語は
c12⋯cr2[a1,b1]⋯[as,bs]の形である。r=0なら(2)を得る。r>0の場合、次の可逆な置換列を用いる。最初の等号ではx=a−1、y=d−1、z=eと文字を取り直す。
⟨x,y,z∣[x,y]zz⟩=⟨a,d,e∣a−1d−1adee⟩∼⟨a,b,d,e∣ea−1d−1ab,b−1de⟩∼⟨a,b,d,e∣a−1d−1abe,e−1d−1b⟩∼⟨a,b,c,d∣abd−1c,c−1ba−1d−1⟩∼⟨a,b,c,d∣cabd−1,dab−1c⟩∼⟨a,b,c∣abab−1cc⟩.この置換列の各矢印は、切断辺を一つ導入し、指定された同名辺を貼り、各面を巡回置換または反転する操作である。従って、[x,y]z2の多角形は、Klein の壺を表す語abab−1と実射影平面を表す平方ccの連結和表示へ変形される。
一方、Klein の壺の語だけには次の可逆な置換列を適用することができる。
⟨p,q∣pqpq−1⟩∼⟨p,q,h∣pqh,h−1pq−1⟩∼⟨p,q,h∣qhp,p−1hq⟩∼⟨q,h∣qqhh⟩.第一の矢印では一枚の面をh辺に沿って二枚へ切り、第二の矢印では各面の境界語を巡回置換し、必要な面を反転する。第三の矢印ではp辺を貼る。従って、Klein の壺は二枚の実射影平面の連結和と同相である。
上で与えた放射状切断による連結和表示は、同相写像の下で自然である。実際、Klein の壺側の切断グラフと交わらない小円板を選び、Klein の壺から二枚の実射影平面の連結和への同相写像でその小円板を移せば、その補空間どうしにも同相写像が得られる。両方の補空間へ穴を一つ開けた実射影平面を同じ境界同相で貼ると
T2#RP2≅K#RP2≅(RP2#RP2)#RP2を得る。右端の放射状切断を一枚の多角形へ戻すと境界語はxxyyzzである。従って
[a,b]c2∼x2y2z2が図を用いずに再現される。すべての切断、貼り合わせ、巡回置換、反転および連結和の同相写像は逆向きにも実行することができる。この操作を各交換子へ適用すると、交換子一個と平方一個を平方三個へ置き換えることができる。有限回の置換によって交換子がすべて消え、(3)を得る。
各段階で未処理の文字対の個数が減るため、操作は有限回で終了する。以上により三つの標準形のいずれかを得る。▨
交換子一個の四辺形は、向かい合う辺を反対向きに貼った円環面である。平方一個の二辺形は、円板の境界上の対蹠点を同一視した実射影平面である。語のブロックをつなぐ操作は、各曲面から開円板を除いて境界円周を貼る連結和に一致する。
4 分類と一意性
補題 4.1. 一枚の多角形から得られる閉曲面が向きづけ可能であるための必要十分条件は、各文字が多角形語に正負一度ずつ現れることである。
証明. 多角形の内部へ向きを一つ入れる。二本の境界辺を貼り合わせた後も両側の向きが整合するためには、二辺に多角形の境界が誘導する向きが、貼り合わせ写像の下で反対にならなければならない。文字の矢印を基準にすると、この条件は一方の指数が+1、他方が−1であることと同値である。
すべての辺対が条件を満たせば、多角形内部の向きは各辺を越えて矛盾なく延長し、頂点の近傍でも円板の向きを与える。反対に同じ符号の辺対が一組でも存在すれば、その辺を横切って戻る局所向きは反転するため、大域的な向きを選ぶことができない。▨
主定理の存在部分には補題 3.2を用い、一意性には§E18.22 系 4.1と補題 4.1を用いる。
定理 4.2 (閉曲面分類定理). 境界をもたない連結コンパクト曲面は、次のいずれか一つに同相である。
- 球面S2。
- あるg≥1に対するg個の円環面の連結和
Σg:=#i=1gT2.
- あるk≥1に対するk個の実射影平面の連結和
Nk:=#i=1kRP2.
さらに、S2、各Σgおよび各Nkは互いに同相でない。
証明.定理 1.1と補題 2.1により、一頂点の多角形表示を得る。補題 3.2により、その語は球面の語、g個の交換子の積、またはk個の平方の積へ変形される。交換子ブロックと平方ブロックの解釈から、対応する曲面はそれぞれS2、Σg、Nkである。これで存在を得る。
Σgの標準語では各文字が正負一度ずつ現れる一方、Nkの標準語では各文字が同じ符号で二度現れる。補題 4.1によりΣgは向きづけ可能であり、Nkは向きづけ可能でない。したがって二つの系列の曲面は同相でない。
標準表示はいずれも一頂点と一面を持つ。Σgは2g本の一胞体を持ち、Nkはk本の一胞体を持つため、
χ(Σg)=1−2g+1=2−2g,χ(Nk)=1−k+1=2−k.§E18.22 系 4.1により Euler 標数は同相写像で保たれる。よってΣg≅Σg′なら2−2g=2−2g′なのでg=g′であり、Nk≅Nk′なら2−k=2−k′なのでk=k′である。球面は向きづけ可能で Euler 標数2なので、g≥1のΣgとも、向きづけ可能でないNkとも同相でない。▨
この証明により、向きづけ可能性と Euler 標数の組が連結閉曲面の同相類を決める。具体的には、向きづけ可能でχ=2なら球面、向きづけ可能でχ≤0ならg=(2−χ)/2のΣg、向きづけ可能でなくχ≤1ならk=2−χのNkである。
5 基本群とホモロジーの計算
定理 5.1.g≥1とk≥1について、基本群は
π1(Σg)≅⟨a1,b1,…,ag,bgi=1∏g[ai,bi]⟩,π1(Nk)≅⟨c1,…,cki=1∏kci2⟩.整数係数ホモロジーは
Hn(Σg;Z)≅⎩⎨⎧ZZ2g0n=0,2,n=1,それ以外,および
Hn(Nk;Z)≅⎩⎨⎧ZZk−1⊕Z/2Z0n=0,n=1,n≥2である。
証明. 標準多角形の一骨格は、Σgでは2g個、Nkではk個の円周の楔和である。二胞体の接着語はそれぞれ交換子の積と平方の積である。van Kampen の定理を二胞体の接着へ適用すると、表示した基本群を得る。
同じ一頂点胞体分解の胞体鎖複体を計算する。どちらの場合も∂1=0である。∂2は接着語における各一胞体の指数和である。交換子では各文字の指数和が零なので、Σgでは
0⟶Z0Z2g0Z⟶0となる。平方の積では各文字の指数和が2なので、Nkでは
0⟶Zm↦2m(1,…,1)Zk0Z⟶0となる。後者の∂2は単射である。また(1,…,1)は原始ベクトルなので整数基底の一つへ延長することができ、
Zk/⟨2(1,…,1)⟩≅Zk−1⊕Z/2Zである。§E18.21 定理 2.1により、胞体鎖複体の計算は表示した特異ホモロジー群を与える。
最後に§E18.23 定理 3.1を用いると、基本群の可換化はH1に一致する。交換子の積は可換化で関係を与えず、平方の積は2(e1+⋯+ek)=0を与える。したがって基本群の表示の可換化からも同じ一次ホモロジー群が得られる。▨
例 5.2 (Klein の壺). Klein の壺の多角形語を
aba−1bとする。bは同じ符号で二度現れる。補題 3.1 (2)でb2を取り出し、残る一対へ同じ操作を行うと、語はc2d2へ変形される。したがって Klein の壺はN2=RP2#RP2である。その Euler 標数は0であり、
H1(N2;Z)≅Z⊕Z/2Z,H2(N2;Z)=0となる。
6 演習
問題 6.1.
- 多角形語aba−1b−1ccが向きづけ可能でないことを辺の符号から判定し、その標準形が平方三個の積になることを説明せよ。
- 向きづけ可能な連結閉曲面の Euler 標数が−4であるとする。この曲面の同相型、基本群の生成元数および一次 Betti 数を求めよ。
- N3の胞体境界写像∂2を書き、すべての整数係数ホモロジー群を計算せよ。
解答.
(1)ではcが同じ符号で二度現れるため、補題 4.1により曲面は向きづけ可能でない。標準化証明で用いた[a,b]c2∼x2y2z2により標準形は平方三個の積であり、曲面はN3である。(2)では2−2g=−4からg=3であり、曲面はΣ3である。基本群の標準表示は六個の生成元を持ち、b1=6である。(3)では∂2:Z→Z3は1↦(2,2,2)である。したがってH0≅Z、H1≅Z2⊕Z/2Z、Hn=0がn≥2で成り立つ。▨