1 骨格のホモロジー
補題 1.1. CW 複体Xのm骨格について
Hk(Xm)=0(k>m)である。また、包含Xm−1↪Xmはk<m−1でHkの同型を、k=m−1で全射を誘導する。
証明.m=0ではX0が離散空間なので正しい。m>0とし、§E18.20 命題 1.1と対(Xm,Xm−1)の長完全列を用いる。相対群は次数m以外で零である。したがってk>mでは
Hk(Xm−1)⟶Hk(Xm)が同型であり、帰納法から両群は零である。k<m−1では、長完全列でHk+1(Xm,Xm−1)とHk(Xm,Xm−1)がともに零なので、包含が同型を誘導する。k=m−1では右側の相対群が零なので包含が全射を誘導する。▨
2 胞体比較定理
胞体鎖複体の輪体と境界を
Zncell=kerdncell,Bncell=imdn+1cell
と書く。
定理 2.1 (胞体ホモロジー定理). 任意の CW 複体Xと任意の非負整数nについて、自然な同型
Hn(C∗cell(X))≅Hnsing(X)が存在する。
証明方針は三段階からなる。最初にZncellをHn(Xn)と同一視する。次にBncellが(n+1)胞体を接着したときに零になる類と一致することを示す。最後に、より高次元の胞体がHnを変えないことと、無限 CW 複体の特異鎖が有限部分複体に入ることを用いる。
証明.n=0を先に扱う。X−1=∅なので
C0cell(X)=H0(X0),d0cell=0であり、Z0cell=C0cell(X)である。対(X1,X0)の長完全列と§E18.20 命題 1.1から
C1cell(X)δ1H0(X0)⟶H0(X1)⟶H0(X1,X0)=0が完全である。H0(X0)=C0cell(X)の同一視のもとでδ1=d1cellなので、
H0(C∗cell(X))=imd1cellC0cell(X)≅H0(X1)を得る。m≥2ではH1(Xm,Xm−1)とH0(Xm,Xm−1)がともに零なので、H0(Xm−1)→H0(Xm)は同型である。無限 CW 複体の場合も、零次輪体とそれを結ぶ一次鎖は有限個の特異単体からなるため有限部分複体へ入り、後段と同じ有限部分複体の議論によってH0(X1)≅H0(X)となる。これでn=0の比較同型を得る。
n≥1とする。対(Xn,Xn−1)の長完全列の一部は
Hn(Xn−1)⟶Hn(Xn)jnCncell(X)δnHn−1(Xn−1)である。補題 1.1によりHn(Xn−1)=0なので、jnは単射であり、その像はkerδnである。一方、
dncell=jn−1δnである。対(Xn−1,Xn−2)の長完全列とHn−1(Xn−2)=0からjn−1も単射である。したがって
Zncell=kerdncell=kerδn=imjnであり、jnは自然な同型
Hn(Xn)≅Zncellを与える。
次に、対(Xn+1,Xn)の長完全列の一部
Cn+1cell(X)δn+1Hn(Xn)⟶Hn(Xn+1)⟶Hn(Xn+1,Xn)=0を用いる。jnδn+1=dn+1cellなので、上の同型Hn(Xn)≅Zncellのもとでimδn+1はBncellに対応する。よって
Hn(C∗cell(X))=BncellZncell≅imδn+1Hn(Xn)≅Hn(Xn+1)となる。
m>n+1なら、対(Xm,Xm−1)の相対群は次数nとn+1でともに零である。長完全列から
Hn(Xm−1)≅Hn(Xm)を得る。したがって骨格の第nホモロジーはXn+1以後変化しない。
最後にXが無限個の胞体をもつ場合を扱う。有限個の特異単体からなる鎖の像はコンパクトであり、§E18.19 定理 2.2によってある有限部分複体に含まれる。したがってXの任意の特異輪体はある有限部分複体、特にある有限骨格の中にある。また、その輪体がXで境界なら、境界を与える有限鎖もある有限部分複体に含まれる。ゆえに自然な写像
mlimHn(Xm)⟶Hn(X)は全射かつ単射である。左辺はm=n+1以後安定しているのでHn(Xn+1)≅Hn(X)となる。以上の同型を合成すると所要の比較同型を得る。
連続な胞体写像が骨格を保つ場合、すべての長完全列と連結準同型に関する図式が可換であるから、構成した同型も自然である。一般の連続写像については右辺の特異ホモロジーを通じて誘導準同型を定めれば、同じ自然性を得る。▨
無限 CW 複体の箇所で必要なのは「各骨格が有限である」という仮定ではない。各特異鎖と、それを境界にする鎖が有限個の特異単体からなり、その像が有限部分複体に入るという事実である。したがって各次元に無限個の胞体がある場合にも比較定理は成り立つ。
3 Δ 複体との比較
Δ 複体の各開単体を開胞体とみなすと CW 複体が得られる。各単体の閉包に現れる面は有限個であり、Δ 複体の位相の定義は特性写像に関する弱位相そのものである。
定理 3.1. Δ 複体Xについて、向きづけられた各単体をその特性写像で特異単体へ送る鎖写像
C∗Δ(X)⟶C∗sing(X)はすべての次数で同型
HnΔ(X)≅Hnsing(X)を誘導する。
証明.§E18.10 定義 1.1の面写像は頂点順序を保つので、向きづけられたn単体[v0,…,vn]の各面は誘導された向きとともに(n−1)単体になる。胞体境界の次数公式§E18.20 定理 3.1をこの CW 構造へ適用すると、第i面への写像の次数は(−1)iである。同じ面が貼り合わせによって複数回現れる場合には、それらの次数を加える。したがって胞体境界は
dncell[v0,…,vn]=i=0∑n(−1)i[v0,…,vi,…,vn]となり、§E18.10 定義 1.1で定めた単体的境界と一致する。よって
(C∗Δ(X),∂∗Δ)≅(C∗cell(X),d∗cell)である。
この同型は、各単体の相対基本類を対応する胞体の相対基本類へ送る。定理 2.1の比較写像を構成した長完全列上で見ると、単体の特性写像を特異単体として読む鎖写像と一致する。したがってこの鎖写像はホモロジー同型を誘導する。無限 Δ 複体の場合にも、各特異鎖は有限部分複体に含まれるので同じ帰着が成り立つ。▨
この定理により、Δ 複体の境界行列による円環面、Klein の壺および実射影平面の計算と、胞体鎖複体による計算が同じ特異ホモロジー群を与えることが分かる。二つの分解で鎖群の階数が異なる場合でも、比較後のホモロジー群は一致する。
4 射影空間の計算
定理 4.1.m≥1とする。整数係数では
Hk(RPm;Z)≅⎩⎨⎧Z,Z,Z/2Z,0,k=0,k=m かつ m が奇数,0<k<m かつ k が奇数,それ以外である。二元体係数では
Hk(RPm;F2)≅{F2,0,0≤k≤m,それ以外である。
証明.§E18.20 命題 4.1により、整数係数の胞体鎖群は次数0からmまで各次数でZであり、境界dkは正の偶数次数で二倍写像、奇数次数で零写像である。0<k<mが奇数ならkerdk=Zかつimdk+1=2ZなのでHk≅Z/2Zである。0<k<mが偶数ならdkが単射なのでHk=0である。最上次数では、mが奇数ならdm=0なのでHm≅Z、mが偶数ならdmが単射なのでHm=0である。次数零ではd1=0かつ空間が弧状連結なのでH0≅Zとなる。
係数をF2に替えると、二倍写像は零写像になる。奇数次数の境界も最初から零なので、すべての胞体境界が零になる。各次数の鎖群はF2一個であるから、表示した結果を得る。普遍係数定理は用いていない。▨
定理 4.2.m≥0とする。整数係数では
Hk(CPm;Z)≅{Z,0,k=0,2,4,…,2m,それ以外である。
証明.§E18.19 例 5.1の胞体分解では、0,2,…,2m次元に一つずつ胞体があり、奇数次元の胞体はない。したがって
C2jcell(CPm)≅Z(0≤j≤m),C2j+1cell(CPm)=0である。各境界作用素は、定義域または値域の一方が零群なので零である。よって各偶数次元の鎖群がそのままホモロジーになり、奇数次元では零になる。▨
5 閉曲面の計算
定理 5.1. 向きづけ可能な種数g≥0の閉曲面Σgについて
H0(Σg;Z)≅Z,H1(Σg;Z)≅Z2g,H2(Σg;Z)≅Zであり、他の次数では零である。
向きづけ不可能な種数h≥1の閉曲面Nhについて
H0(Nh;Z)≅Z,H1(Nh;Z)≅Zh−1⊕Z/2Z,H2(Nh;Z)=0であり、他の次数では零である。
証明.§E18.20 命題 5.1により、Σgの胞体鎖複体は
0⟶Z0Z2g0Z⟶0である。したがって各鎖群がそのまま対応するホモロジー群になる。
Nhの胞体鎖複体は
0⟶Zd2Zh0Z⟶0,d2(1)=2(a1+⋯+ah)である。a1+⋯+ahはZhの原始元である。実際、基底を
a1,…,ah−1, a1+⋯+ahへ取り替える行列の行列式は1である。この基底に関してd2(1)は最後の基底元の二倍である。したがってd2は単射であり、
Zh/imd2≅Zh−1⊕Z/2Zとなる。これがH1(Nh;Z)であり、H2(Nh;Z)=kerd2=0である。▨
6 胞体数による階数評価
系 6.1.Xのn次元胞体の個数cnが有限なら
rankZHn(X;Z)≤cnである。体Kを係数とする場合には
dimKHn(X;K)≤cnである。
証明.Cncell(X;Z)≅Zcnであり、
Hn(X;Z)≅kerdn/imdn+1である。商を取る操作は自由部分の階数を増やさず、kerdnはZcnの部分加群なので階数は高々cnである。体係数ではHnはCn≅Kcnの部分空間の商であるから、次元は高々cnである。▨
この評価は胞体分解に依存する上界である。同じ空間へ細かい胞体分解を入れるとcnは増えることがあるが、ホモロジー群は定理 2.1によって変わらない。
7 演習
問題 7.1.
- RP3の整数係数と二元体係数の胞体鎖複体を書き、両係数における全ホモロジー群を求めよ。
- 一つの零胞体、一つの一胞体および一つの二胞体をもち、二胞体の接着語がarである CW 複体Xrを考える。整数r=0のときのホモロジー群を求め、系 6.1を確かめよ。
- Δ 複体の単体を重心細分して鎖群の階数が増えても、特異ホモロジーが変わらない理由を定理 3.1から説明せよ。
解答 (解答).
(1)の整数係数鎖複体は
0⟶Z0Z2Z0Z⟶0である。したがってH0≅Z、H1≅Z/2Z、H2=0、H3≅Zとなる。二元体係数ではすべての境界が零なので、次数0,1,2,3の各ホモロジー群がF2になる。
(2)ではd2:Z→Zがr倍写像であり、d1=0である。r=0ならd2は単射なので、H2=0、H1≅Z/rZ、H0≅Zである。各次数の自由部分の階数は対応する胞体数以下である。
(3)では、細分前と細分後の単体的鎖複体が、それぞれ定理 3.1によって同じ空間の特異ホモロジーへ同型に写る。したがって鎖群の基底数が増えても、追加された生成元は新しい境界と輪体の関係によって相殺され、ホモロジー群は変わらない。▨