1 外冪上の誘導写像
命題 1.1. 線形写像T:V→Wと非負整数rに対し、
⋀rT:⋀rV→⋀rW,(⋀rT)(v1∧⋯∧vr)=T(v1)∧⋯∧T(vr)を満たす線形写像がただ一つ存在する。線形写像S:W→Xに対して
⋀r(S∘T)=(⋀rS)∘(⋀rT),⋀ridV=id⋀rVが成り立つ。
証明.r=0の場合には⋀0V=K、⋀0W=Kとし、⋀0T=idKと定める。この定義について、合成の式と恒等写像の式は成り立つ。
r≥1とする。写像(v1,…,vr)↦T(v1)∧⋯∧T(vr)は交代r重線形写像なので、§E3.14 定理 1.3により⋀rTが存在して一意に定まる。合成の式の両辺は純外積v1∧⋯∧vrをS(Tv1)∧⋯∧S(Tvr)へ送る。純外積が外冪を生成するため両辺は一致する。恒等写像の式も同様である。▨
定理 1.2.dimKV=nなら⋀nVは一次元である。順序付き基底B=(e1,…,en)に対し
ωB=e1∧⋯∧enは⋀nVの基底である。また⋀rV={0}がr>nについて成り立つ。
証明.§E3.14 定理 2.1でr=nとすると、昇順添字は(1,…,n)の一つだけなのでωBが基底である。同じ定理のr>nの場合から第二の主張も従う。▨
2 行列式の定義
定義 2.1.Vをn次元、T:V→Vを自己準同型とする。⋀nVは一次元なので、ただ一つのスカラーdetT∈Kが存在して
⋀nT=(detT)id⋀nVを満たす。このスカラーをTの行列式 (determinant) という。
命題 2.2. 自己準同型S,T:V→Vに対して
det(S∘T)=(detS)(detT),det(idV)=1が成り立つ。またTが可逆であるための必要十分条件はdetT=0である。
証明.命題 1.1と定義から
⋀n(S∘T)=(⋀nS)(⋀nT)=(detS)(detT)id⋀nVなので積の式を得る。恒等写像の式も同じ誘導写像の恒等式から従う。
Tが可逆なら積の式から1=det(T−1T)=det(T−1)detTなのでdetT=0である。逆にdetT=0とする。もしTが単射でなければ、0=v1∈kerTを基底v1,…,vnへ延長することができる。このとき
(⋀nT)(v1∧⋯∧vn)=0∧T(v2)∧⋯∧T(vn)=0,となるが、detT=0なら⋀nTは一次元空間上の非零スカラー倍であり単射なので矛盾する。したがってTは単射であり、有限次元では同型である。▨
3 座標による式との一致
定理 3.1.B=(e1,…,en)に関するTの表現行列をA=(aij)とする。このとき
detT=σ∈Sn∑sgn(σ)j=1∏naσ(j),j.したがって外積による行列式は表現行列の Leibniz 公式による行列式と一致する。
証明.T(ej)=∑i=1naijeiなので、多重線形性により
(⋀nT)(e1∧⋯∧en)=T(e1)∧⋯∧T(en)=i1,…,in∑ai1,1⋯ain,nei1∧⋯∧ein.添字に重複がある項は零である。重複がない添字列は、ただ一つの置換σによって(i1,…,in)=(σ(1),…,σ(n))と書け、
eσ(1)∧⋯∧eσ(n)=sgn(σ)e1∧⋯∧enとなる。したがってωBに掛かる係数は表示した和である。定義により同じ係数がdetTなので、二つの定義は一致する。▨
証明. 外積への標準写像が交代多重線形なのでDも交代多重線形であり、基底上の値は1である。交代n重線形形式Eが同じ正規化を満たすとする。各vj=∑iaijeiを展開すると、交代性により重複添字の項は零であり、置換添字の項はsgn(σ)E(e1,…,en)に等しい。したがって
E(v1,…,vn)=σ∈Sn∑sgn(σ)j∏aσ(j),j=D(v1,…,vn).よってDは一意である。最後の和は定理 3.1の式なので、列を並べた行列の行列式に等しい。▨
外積による定義は基底を用いない。基底を選んで⋀nVの基底を一つ指定したときに、誘導写像のスカラーが Leibniz 公式として現れる。
例 3.3 (上三角行列の行列式).A=(aij)が上三角行列なら、Leibniz 公式で非零となる置換は恒等置換だけである。実際、aσ(j),j=0ならσ(j)≤jが全てのjで必要であり、これを満たす置換は恒等置換である。したがって
detA=a11⋯ann.外積では、各T(ej)のejより後ろの基底成分が零であり、最高次外冪で全基底ベクトルを一度ずつ選ぶ項だけが残ることに対応する。
4 演習
問題 4.1 (基底独立性の証明確認). 外積による定義でdetTが基底に依存しない理由と、Leibniz 公式の値が基底変更後も同じになる理由を分けて説明せよ。
解答.
detTは、基底を選ばずに定まる一次元線形空間⋀nV上の誘導写像⋀nTが恒等写像の何倍であるかによって定義されるので、定義自体が基底に依存しない。各基底で得る Leibniz 公式の値は定理 3.1により同じdetTに等しい。したがって、二つの座標行列で計算した値も一致する。▨