§E5.8零点と一致の定理

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関数の零点は、値が00になる場所を記録する。しかし、零点の配置から関数全体をどこまで決定できるかは、関数の正則性に強く依存する。例えば実数上の滑らかな関数

h(x)={0(x≤0),e−1/x2(x>0)h(x)=\begin{cases}0&(x\leq0),\\ e^{-1/x^{2}}&(x>0)\end{cases}

は左半直線上で恒等的に00でありながら、正の実数上では00でない。

複素平面上の正則関数では、各点の近傍でのべき級数表示がこのような振る舞いを制限する。一点の近くで最初に現れる非零係数は零点の位数を決め、有限位数の零点は孤立する。さらに、領域の内部に集積点をもつ零点集合は、恒等的に00である場合を除いて存在しない。この剛性は、正則関数の局所情報を領域全体の一致へ結び付けるための基本的な性質である。

前の記事の Taylor 展開は零点の局所構造を記述する言語を与え、本記事の結論は後続の記事で正則関数の剛性を扱う際の基礎となる。本記事では、正則関数の零点の位数・孤立性と一致の定理を解説する。

1 零点の位数と局所因数分解

定義 1.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUU上の正則関数、a∈Ua\in Uとする。f(a)=0f(a)=0を満たすaaをffの零点 (zero) という。f(m)(a)≠0f^{(m)}(a)\ne0を満たす非負整数mmが存在するとき、その最小値をaaにおけるffの位数 (order of a zero) といい、ord⁡a(f)=m\operatorname{ord}_a(f)=mと書く。零点の位数は1以上である。

f(n)(a)=0f^{(n)}(a)=0がすべての非負整数nnについて成り立つときはord⁡a(f)=∞\operatorname{ord}_a(f)=\inftyと定める。

命題 1.2.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUU上の正則関数、a∈Ua\in Uとする。D(a,r)⊆UD(a,r)\subseteq Uを満たすr>0r>0を取ると、次のいずれか一方だけが成り立つ。

  1. ord⁡a(f)=∞\operatorname{ord}_a(f)=\inftyであり、ffはD(a,r)D(a,r)上で恒等的に0である。
  2. m=ord⁡a(f)<∞m=\operatorname{ord}_a(f)<\inftyであり、D(a,r)D(a,r)上の正則関数ggがただ一つ存在して f(z)=(z−a)mg(z),g(a)=f(m)(a)m!≠0f(z)=(z-a)^m g(z),\qquad g(a)=\frac{f^{(m)}(a)}{m!}\ne0 を満たす。とくにf(a)=0f(a)=0ならば(2)のmmは1以上である。

証明.cn=f(n)(a)/n!c_n=f^{(n)}(a)/n!とおく。§E5.7 定理 2.1によりf(z)=∑n≥0cn(z−a)nf(z)=\sum_{n\ge0}c_n(z-a)^nがD(a,r)D(a,r)上で成り立つ。すべてのcnc_nが0ならば(1)である。以下では、cn≠0c_n\ne0となる最小の添字をmmとする。このときm=ord⁡a(f)m=\operatorname{ord}_a(f)である。

g(z)=∑k≥0cm+k(z−a)kg(z)=\sum_{k\ge0}c_{m+k}(z-a)^kとおく。z=az=aではこの級数はcmc_mに収束する。0<∣z−a∣<r0<|z-a|<rならば、Taylor 級数の部分和について

∑k=0Ncm+k(z−a)k=(z−a)−m∑n=0m+Ncn(z−a)n\sum_{k=0}^{N}c_{m+k}(z-a)^{k}=(z-a)^{-m}\sum_{n=0}^{m+N}c_{n}(z-a)^{n}

が成り立つので、右辺の収束からggの級数も収束する。したがってggの級数はD(a,r)D(a,r)の全点で収束し、§E5.7 定理 1.2の発散側から収束半径はrr以上である。ゆえに§E5.7 定理 1.5によりggはD(a,r)D(a,r)上で正則である。級数をまとめるとf(z)=(z−a)mg(z)f(z)=(z-a)^m g(z)であり、g(a)=cm=f(m)(a)/m!≠0g(a)=c_m=f^{(m)}(a)/m!\ne0である。

f(z)=(z−a)ℓq(z)f(z)=(z-a)^\ell q(z)を満たす非負整数ℓ\ellと正則関数qqがD(a,r)D(a,r)上にあり、q(a)≠0q(a)\ne0であるとする。m<ℓm<\ellならば0<∣z−a∣<r0<|z-a|<rでg(z)=(z−a)ℓ−mq(z)g(z)=(z-a)^{\ell-m}q(z)であり、z→az\to aとするとg(a)=0g(a)=0となって矛盾する。m>ℓm>\ellも同様にq(a)=0q(a)=0を導くのでm=ℓm=\ellである。z≠az\ne aでは因子を消去してg(z)=q(z)g(z)=q(z)を得て、aaでは両関数の連続性から同じ等式を得る。ゆえにmmとggは一意である。(1)ではすべてのcnc_nが0であり、(2)ではcm≠0c_m\ne0であるから、二つの場合は相容れない。▨

2 局所的に消える点の集合

命題 2.1.DDを領域、ffをDDの上の正則関数とし、

A={z∈D:f は z のある開円板上で恒等的に0である}A=\{z\in D:f\text{ は }z\text{ のある開円板上で恒等的に0である}\}

とおく。このときAAとD∖AD\setminus Aはともに開集合であり、AAはDDにおいて開かつ閉である。したがって、A≠∅A\ne\varnothingならばA=DA=Dであり、ffはDD上で恒等的に0である。

証明.a∈Aa\in Aとする。あるr>0r>0についてD(a,r)⊆DD(a,r)\subseteq Dであり、ffはD(a,r)D(a,r)上で恒等的に0である。w∈D(a,r)w\in D(a,r)ならばD(w,r−∣w−a∣)⊆D(a,r)D(w,r-|w-a|)\subseteq D(a,r)であるからw∈Aw\in Aである。したがってD(a,r)⊆AD(a,r)\subseteq Aであり、AAは開集合である。

a∈D∖Aa\in D\setminus Aとし、D(a,r)⊆DD(a,r)\subseteq Dを取る。命題 1.2 (1)はa∈Aa\in Aを意味するため生じない。したがって、ある非負整数mmと正則関数ggが存在してf(z)=(z−a)mg(z)f(z)=(z-a)^m g(z)かつg(a)≠0g(a)\ne0である。正則関数は連続である(§E5.2 命題 1.2)から、ある0<δ<r0<\delta<rについてD(a,δ)D(a,\delta)上でggは零を取らない。m=0m=0ならばffはこの円板で零を取らない。m≥1m\ge1ならばこの円板におけるffの零点はaaだけであり、a∉Aa\notin Aである。どちらの場合もD(a,δ)∩A=∅D(a,\delta)\cap A=\varnothingなのでD∖AD\setminus Aは開集合である。

ここで初めて領域の連結性を用いる。§E5.1 定義 1.3により、互いに交わらない開集合AAとD∖AD\setminus AがDDを覆うならば一方は空である。A≠∅A\ne\varnothingならばD∖A=∅D\setminus A=\varnothing、すなわちA=DA=Dである。各点はAAに属するのでffはDD上で恒等的に0である。▨

命題 2.2.DDを領域、ffをDDの上の正則関数とし、ffはDDの上で恒等的に00ではないとする。このときffの各零点aaについて、ρ>0\rho>0が存在して、0<∣z−a∣<ρ0<|z-a|<\rhoを満たすz∈Dz\in Dの全体でf(z)≠0f(z)\ne0である。すなわちffの零点は孤立している。

証明.命題 2.1の集合AAが空でなければffはDD上で恒等的に0になるため、仮定からA=∅A=\varnothingである。零点aaを取り、D(a,r)⊆DD(a,r)\subseteq Dとする。命題 1.2 (1)はa∈Aa\in Aを導くので、命題 1.2 (2)が成り立つ。したがってf(z)=(z−a)mg(z)f(z)=(z-a)^m g(z)、m≥1m\ge1、g(a)≠0g(a)\ne0となる正則関数ggが得られる。ggの連続性から、ある0<ρ<r0<\rho<rについてD(a,ρ)D(a,\rho)上でggは零を取らない。ゆえに0<∣z−a∣<ρ0<|z-a|<\rhoならばf(z)≠0f(z)\ne0であり、aaは孤立した零点である。▨

3 一致の定理

定理 3.1 (一致の定理).DDを領域、ffをDD上の正則関数とする。ffの零点集合が§E5.1 定義 3.1の意味でDD内に集積点をもつならば、ffはDD上で恒等的に0である。

したがって、DD上の正則関数f,gf,gに対し、集合

S={z∈D:f(z)=g(z)}S=\{z\in D : f(z)=g(z)\}

がDD内に集積点をもつならば、DDの全体でf=gf=gである。

証明.p∈Dp\in Dを零点集合の集積点とする。f(p)=0f(p)=0である。実際、正則関数の連続性(§E5.2 命題 1.2)により、ε>0\varepsilon>0を取ると∣z−p∣<δ|z-p|<\deltaならば∣f(z)−f(p)∣<ε|f(z)-f(p)|<\varepsilonとなるδ>0\delta>0が存在する。集積点の定義から0<∣z−p∣<δ0<|z-p|<\deltaを満たす零点zzが存在するので∣f(p)∣=∣f(p)−f(z)∣<ε|f(p)|=|f(p)-f(z)|<\varepsilonである。ε\varepsilonは任意であるからf(p)=0f(p)=0である。ffが恒等的に0でないと仮定すれば、命題 2.2によりppのある穿孔近傍には零点が存在しない。しかし、ppが零点集合の集積点であることは、すべての穿孔近傍に零点が存在することを意味する。この矛盾によりffはDD上で恒等的に0である。

二関数についてはh=f−gh=f-gとおく。§E5.2 命題 1.2によりhhはDD上で正則であり、SSはhhの零点集合である。前半をhhへ適用するとh≡0h\equiv0、したがってf=gf=gである。▨

例 3.2 (実軸の上の恒等式は複素平面へ延びる).F(z)=sin⁡2z+cos⁡2zF(z)=\sin^2z+\cos^2zとおく。§E5.3 系 1.9と§E5.2 命題 1.2により、FFと定数関数1はC\mathbb C上で正則である。実数xxについてF(x)=1F(x)=1である(§D1.24 系 2.2)。実軸は、例えば0をC\mathbb C内の集積点にもつ。したがって定理 3.1により

sin⁡2z+cos⁡2z=1\sin^2z+\cos^2z=1

がすべてのz∈Cz\in\mathbb Cについて成り立つ。

注意 3.3 (連結性を外すと成り立たない).定理 3.1と命題 2.2は、定義域が連結であることを用いている。U=D(0,1)∪D(3,1)U=D(0,1)\cup D(3,1)とおくとUUは開集合であるが連結ではない。ffをD(0,1)D(0,1)の上で00、D(3,1)D(3,1)の上で11と定めると、ffはUUの上で正則であり、D(0,1)D(0,1)の上で恒等的に00でありながらUUの上で恒等的に0ではない。この例では命題 2.1の集合AAがD(0,1)D(0,1)、補集合がD(3,1)D(3,1)であり、どちらも空でない開集合である。

注意 3.4 (集積点は領域の内部に必要である). 右半平面H={z∈C:Re⁡z>0}H=\{z\in\mathbb C:\operatorname{Re}z>0\}上で

f(z)=0,g(z)=sin⁡(π/z)f(z)=0,\qquad g(z)=\sin(\pi/z)

とおく。§E5.3 系 1.9と§E5.2 命題 1.2により両関数はHH上で正則であり、正整数nnについてf(1/n)=g(1/n)=0f(1/n)=g(1/n)=0である。しかしggは恒等的に0ではない。実際、§E5.3 定義 1.5と§D1.24 補題 4.1によりg(2)=sin⁡(π/2)=1g(2)=\sin(\pi/2)=1である。点列1/n1/nの集積点0はHHの境界にあり、HHに属さないため、定理 3.1の仮定は満たされない。

4 演習

問題 4.1 (積の零点の位数).DDを領域、f,gf,gをDD上の正則関数とする。a∈Da\in Dにおけるf,gf,gの位数がそれぞれ有限のm,nm,nであるとき、fgfgのaaにおける位数を求めよ。

解答.

命題 1.2により、aaのある共通の開円板上で

f(z)=(z−a)mu(z),g(z)=(z−a)nv(z),u(a)v(a)≠0f(z)=(z-a)^m u(z),\qquad g(z)=(z-a)^n v(z), \qquad u(a)v(a)\ne0

と書くことができる。したがって(fg)(z)=(z−a)m+nu(z)v(z)(fg)(z)=(z-a)^{m+n}u(z)v(z)であり、u(a)v(a)≠0u(a)v(a)\ne0である。命題 1.2の一意性からord⁡a(fg)=m+n\operatorname{ord}_a(fg)=m+nである。▨

問題 4.2 (すべての導関数が消える場合).DDを領域、ffをDD上の正則関数とする。あるa∈Da\in Dについてf(n)(a)=0f^{(n)}(a)=0がすべての非負整数nnで成り立つならば、ffはDD上で恒等的に0であることを示せ。

解答.

D(a,r)⊆DD(a,r)\subseteq Dを取る。§E5.7 定理 2.1により、D(a,r)D(a,r)上でffは係数がすべて0の Taylor 級数に等しい。したがってffはD(a,r)D(a,r)上で恒等的に0であり、命題 2.1の集合AAは空でない。領域DDの連結性を用いた同命題からA=DA=Dとなり、ffはDD上で恒等的に0である。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.零点の位数、孤立性、および一致の定理を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.零点集合が集積点をもつ場合の一致の定理を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.局所因数分解と一致の定理を参考にした。

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