§E5.3複素指数関数と対数

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実数の上では、指数関数は増加して正の実数を一意に表し、その逆関数として自然対数が定まる。複素平面へ拡張すると、指数関数は同じ値を異なる点でとるため、実数の場合のように平面全体で一価の逆関数は定まらない。

たとえば、複素指数関数ではe0=e2πi=1e^{0}=e^{2\pi i}=1であり、11の対数は一つの数に定まらない。この非一意性は単なる一点での現象ではなく、対数を連続に選べる領域の形や、選んだ対数によって定める複素冪の値に現れる。

複素指数関数と対数は、複素解析で最も基本的な関数群の一つであり、周期性と領域の幾何が関数の値の選択を左右することを示す概念である。本記事では、複素指数関数の周期性から生じる対数と複素冪の多価性を、定義域と枝の選択に注意して解説する。

1 複素指数関数

補題 1.1. 複素数列(an)n≥0(a_n)_{n\geq 0}に対して、実級数∑n=0∞∣an∣\sum_{n=0}^{\infty}|a_n|が収束すると仮定する。このとき、複素級数∑n=0∞an\sum_{n=0}^{\infty}a_nは収束する。

証明.SN=∑n=0NanS_N=\sum_{n=0}^{N}a_n、TN=∑n=0N∣an∣T_N=\sum_{n=0}^{N}|a_n|とおく。(TN)(T_N)は収束するので Cauchy 列である。M>NM>Nならば

∣SM−SN∣=∣∑n=N+1Man∣≤∑n=N+1M∣an∣=TM−TN|S_M-S_N| =\left|\sum_{n=N+1}^{M}a_n\right| \leq\sum_{n=N+1}^{M}|a_n| =T_M-T_N

であるから、(SN)(S_N)も Cauchy 列である。SN=XN+iYNS_N=X_N+iY_N(XN,YN∈RX_N,Y_N\in\mathbb R)と書けば、

∣XM−XN∣≤∣SM−SN∣,∣YM−YN∣≤∣SM−SN∣|X_M-X_N|\leq |S_M-S_N|,\qquad |Y_M-Y_N|\leq |S_M-S_N|

である。したがって(XN)(X_N)と(YN)(Y_N)は実数の Cauchy 列であり、実数の完備性(§D1.10 定理 1.1)により、あるX,Y∈RX,Y\in\mathbb Rに収束する。最後に

∣SN−(X+iY)∣≤∣XN−X∣+∣YN−Y∣⟶0|S_N-(X+iY)|\leq |X_N-X|+|Y_N-Y|\longrightarrow 0

であるから、SN→X+iYS_N\to X+iYである。▨

補題 1.2. すべてのz∈Cz\in\mathbb Cについて、実級数

∑n=0∞∣z∣nn!\sum_{n=0}^{\infty}\frac{|z|^n}{n!}

は収束する。したがって、複素級数∑n=0∞zn/n!\sum_{n=0}^{\infty}z^n/n!は絶対収束する。

証明.z=0z=0のとき、級数の値は11である。z≠0z\neq 0のとき、un=∣z∣n/n!u_n=|z|^n/n!とおけばun>0u_n>0であり、

un+1un=∣z∣n+1⟶0\frac{u_{n+1}}{u_n}=\frac{|z|}{n+1}\longrightarrow 0

である。比判定(§D1.21 定理 2.1)により∑un\sum u_nは収束する。最後の主張は補題 1.1から従う。▨

定義 1.3.z∈Cz\in\mathbb Cに対して、補題 1.2が与える絶対収束級数により

ez:=∑n=0∞znn!e^z:=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{z^n}{n!}

と定める。このeze^zを複素指数関数 (complex exponential function) という。z∈Rz\in\mathbb Rのとき、この定義は実指数関数の定義(§D1.24 定義 1.1)と一致する。とくにe0=1e^0=1である。

定理 1.4 (Euler の公式). すべての実数θ\thetaについて

eiθ=cos⁡θ+isin⁡θe^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta

が成り立つ。右辺の正弦と余弦は、実数上の級数によって定めた関数である。

証明.SN=∑n=0N(iθ)n/n!S_N=\sum_{n=0}^{N}(i\theta)^n/n!とおく。i2m=(−1)mi^{2m}=(-1)^mおよびi2m+1=i(−1)mi^{2m+1}=i(-1)^mにより

Re⁡S2M+1=∑m=0M(−1)mθ2m(2m)!,Im⁡S2M+1=∑m=0M(−1)mθ2m+1(2m+1)!\operatorname{Re}S_{2M+1} =\sum_{m=0}^{M}\frac{(-1)^m\theta^{2m}}{(2m)!},\qquad \operatorname{Im}S_{2M+1} =\sum_{m=0}^{M}\frac{(-1)^m\theta^{2m+1}}{(2m+1)!}

である。実正弦と実余弦の定義級数は絶対収束する(§D1.24 定義 1.1、§D1.24 命題 1.2)ので、右辺はそれぞれcos⁡θ\cos\thetaとsin⁡θ\sin\thetaへ収束する。一方、定義 1.3によりS2M+1→eiθS_{2M+1}\to e^{i\theta}である。さらに

∣Re⁡S2M+1−Re⁡eiθ∣≤∣S2M+1−eiθ∣,∣Im⁡S2M+1−Im⁡eiθ∣≤∣S2M+1−eiθ∣|\operatorname{Re}S_{2M+1}-\operatorname{Re}e^{i\theta}| \leq |S_{2M+1}-e^{i\theta}|, \qquad |\operatorname{Im}S_{2M+1}-\operatorname{Im}e^{i\theta}| \leq |S_{2M+1}-e^{i\theta}|

であるから、実部と虚部の極限を比較して主張を得る。▨

定義 1.5.z∈Cz\in\mathbb Cに対して

cos⁡z:=eiz+e−iz2,sin⁡z:=eiz−e−iz2i\cos z:=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2},\qquad \sin z:=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}

と定める。cos⁡z\cos zを複素余弦関数 (complex cosine function)、sin⁡z\sin zを複素正弦関数 (complex sine function) という。z∈Rz\in\mathbb Rのとき、定理 1.4をzzと−z-zに適用し、実正弦の奇関数性と実余弦の偶関数性(§D1.24 系 2.2)を用いると、この定義は実正弦および実余弦と一致する。

命題 1.6. すべてのz,w∈Cz,w\in\mathbb Cについて

ez+w=ezewe^{z+w}=e^ze^w

が成り立つ。したがって、すべてのz∈Cz\in\mathbb Cについてez+2πi=eze^{z+2\pi i}=e^zである。また、複素三角関数について

cos⁡(z+w)=cos⁡zcos⁡w−sin⁡zsin⁡w,sin⁡(z+w)=sin⁡zcos⁡w+cos⁡zsin⁡w\begin{aligned} \cos(z+w)&=\cos z\cos w-\sin z\sin w,\\ \sin(z+w)&=\sin z\cos w+\cos z\sin w \end{aligned}

が成り立つ。

証明.an=zn/n!a_n=z^n/n!、bn=wn/n!b_n=w^n/n!とおく。補題 1.2によりP:=∑n≥0∣an∣P:=\sum_{n\geq0}|a_n|とQ:=∑n≥0∣bn∣Q:=\sum_{n\geq0}|b_n|は有限である。Cauchy 積の第kk項を

ck:=∑j=0kajbk−jc_k:=\sum_{j=0}^{k}a_jb_{k-j}

とおく。非負実数列(∣an∣)(|a_n|)と(∣bn∣)(|b_n|)に Cauchy 積の定理(§D1.21 定理 5.3)を適用すると

∑k=0∞∑j=0k∣aj∣ ∣bk−j∣=PQ\sum_{k=0}^{\infty}\sum_{j=0}^{k}|a_j|\,|b_{k-j}|=PQ

である。∣ck∣≤∑j=0k∣aj∣ ∣bk−j∣|c_k|\leq\sum_{j=0}^{k}|a_j|\,|b_{k-j}|なので、比較判定(§D1.21 定理 1.3)により∑ck\sum c_kは絶対収束する。

AN=∑j=0NajA_N=\sum_{j=0}^{N}a_j、BN=∑j=0NbjB_N=\sum_{j=0}^{N}b_j、CN=∑k=0NckC_N=\sum_{k=0}^{N}c_kとおく。AN→ezA_N\to e^z、BN→ewB_N\to e^wである。一方、正方形領域の有限和ANBNA_NB_Nと三角形領域の有限和CNC_Nの差について

∣ANBN−CN∣≤∑0≤j,ℓ≤Nj+ℓ>N∣aj∣ ∣bℓ∣≤Q∑j>N/2∣aj∣+P∑ℓ>N/2∣bℓ∣⟶0\begin{aligned} |A_NB_N-C_N| &\leq \sum_{\substack{0\leq j,\ell\leq N\\j+\ell>N}}|a_j|\,|b_\ell|\\ &\leq Q\sum_{j>N/2}|a_j|+P\sum_{\ell>N/2}|b_\ell| \longrightarrow 0 \end{aligned}

である。したがってCN→ezewC_N\to e^ze^wであり、∑k≥0ck=ezew\sum_{k\geq0}c_k=e^ze^wである。二項定理により

ck=∑j=0kzjj!wk−j(k−j)!=1k!∑j=0k(kj)zjwk−j=(z+w)kk!c_k =\sum_{j=0}^{k}\frac{z^j}{j!}\frac{w^{k-j}}{(k-j)!} =\frac{1}{k!}\sum_{j=0}^{k}\binom{k}{j}z^jw^{k-j} =\frac{(z+w)^k}{k!}

であるから、定義 1.3によりezew=ez+we^ze^w=e^{z+w}を得る。

§D1.24 定理 4.5により(cos⁡2π,sin⁡2π)=(cos⁡0,sin⁡0)=(1,0)(\cos2\pi,\sin2\pi)=(\cos0,\sin0)=(1,0)である。定理 1.4からe2πi=1e^{2\pi i}=1であるから、指数関数の加法法則により

ez+2πi=eze2πi=eze^{z+2\pi i}=e^ze^{2\pi i}=e^z

となる。

最後に、定義 1.5と指数関数の加法法則から

cos⁡zcos⁡w−sin⁡zsin⁡w=(eiz+e−iz)(eiw+e−iw)4+(eiz−e−iz)(eiw−e−iw)4=ei(z+w)+e−i(z+w)2=cos⁡(z+w),\begin{aligned} \cos z\cos w-\sin z\sin w &=\frac{(e^{iz}+e^{-iz})(e^{iw}+e^{-iw})}{4} +\frac{(e^{iz}-e^{-iz})(e^{iw}-e^{-iw})}{4}\\ &=\frac{e^{i(z+w)}+e^{-i(z+w)}}{2} =\cos(z+w), \end{aligned}

および

sin⁡zcos⁡w+cos⁡zsin⁡w=(eiz−e−iz)(eiw+e−iw)4i+(eiz+e−iz)(eiw−e−iw)4i=ei(z+w)−e−i(z+w)2i=sin⁡(z+w)\begin{aligned} \sin z\cos w+\cos z\sin w &=\frac{(e^{iz}-e^{-iz})(e^{iw}+e^{-iw})}{4i} +\frac{(e^{iz}+e^{-iz})(e^{iw}-e^{-iw})}{4i}\\ &=\frac{e^{i(z+w)}-e^{-i(z+w)}}{2i} =\sin(z+w) \end{aligned}

を得る。▨

命題 1.7.z=x+iyz=x+iy、w∈Cw\in\mathbb C(x,y∈Rx,y\in\mathbb R)とする。次が成り立つ。

  1. ∣ez∣=ex|e^z|=e^xである。とくにez≠0e^z\neq0である。
  2. ez=1e^z=1であることと、z=2πikz=2\pi ikを満たすk∈Zk\in\mathbb Zが存在することは同値である。
  3. ez=ewe^z=e^wであることと、z−w=2πikz-w=2\pi ikを満たすk∈Zk\in\mathbb Zが存在することは同値である。
  4. ez+T=eze^{z+T}=e^zがすべてのz∈Cz\in\mathbb Cについて成り立つT∈CT\in\mathbb Cの全体は2πiZ2\pi i\mathbb Zである。

証明. 絶対値と零点。命題 1.6と定理 1.4により

∣ez∣=∣ex∣ ∣eiy∣=excos⁡2y+sin⁡2y=ex|e^z|=|e^x|\,|e^{iy}| =e^x\sqrt{\cos^2y+\sin^2y} =e^x

である。ここで、実指数関数の正値性と三角関数の基本恒等式(§D1.24 系 2.2)を用いた。ex>0e^x>0なのでez≠0e^z\neq0である。

値が11となる点。ez=1e^z=1と仮定する。絶対値の公式からex=1=e0e^x=1=e^0である。実指数関数は狭義単調である(§D1.24 命題 3.1)からx=0x=0である。Euler の公式により

(cos⁡y,sin⁡y)=(1,0)=(cos⁡0,sin⁡0)(\cos y,\sin y)=(1,0)=(\cos0,\sin0)

となる。実三角関数による単位円の径数表示のファイバー(§D1.24 定理 4.5)から、y=2πky=2\pi kを満たすk∈Zk\in\mathbb Zが存在する。したがってz=2πikz=2\pi ikである。逆にz=2πikz=2\pi ikならば、同じファイバーの定理と Euler の公式によりez=1e^z=1である。

ファイバーと周期。指数関数の加法法則によりe−wew=e0=1e^{-w}e^w=e^0=1である。したがって

ez=ew⟺ez−w=eze−w=1.e^z=e^w \quad\Longleftrightarrow\quad e^{z-w}=e^ze^{-w}=1.

値が11となる点について示した結果から、(3)が従う。さらに、T∈2πiZT\in2\pi i\mathbb Zならば加法法則と(2)によりez+T=eze^{z+T}=e^zがすべてのzzについて成り立つ。逆に、この等式がすべてのzzについて成り立つならば、z=0z=0を代入してeT=1e^T=1を得るので、(2)によりT∈2πiZT\in2\pi i\mathbb Zである。▨

命題 1.8. 複素指数関数はC\mathbb C上で正則であり、

ddzez=ez\frac{d}{dz}e^z=e^z

が成り立つ。

証明. まず、h≠0h\neq0かつ∣h∣≤1|h|\leq1とする。定義 1.3の絶対収束級数と三角不等式により

∣eh−1−h∣≤∑n=2∞∣h∣nn!=∣h∣2∑m=0∞∣h∣m(m+2)!≤∣h∣2∑m=0∞∣h∣mm!=∣h∣2e∣h∣≤(exp⁡1)∣h∣2.\begin{aligned} |e^h-1-h| &\leq\sum_{n=2}^{\infty}\frac{|h|^n}{n!} =|h|^2\sum_{m=0}^{\infty}\frac{|h|^m}{(m+2)!}\\ &\leq |h|^2\sum_{m=0}^{\infty}\frac{|h|^m}{m!} =|h|^2e^{|h|} \leq (\exp 1)|h|^2. \end{aligned}

最後の不等式では、複素指数関数と実指数関数が実軸上で一致すること、および実指数関数の単調性(§D1.24 命題 3.1)を用いた。したがって

∣eh−1h−1∣≤(exp⁡1)∣h∣⟶0(h→0)\left|\frac{e^h-1}{h}-1\right| \leq (\exp 1)|h|\longrightarrow0 \qquad(h\to0)

であり、

lim⁡h→0eh−1h=1\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}{h}=1

を得る。任意のz∈Cz\in\mathbb Cを固定すると、命題 1.6により

ez+h−ezh=ezeh−1h⟶ez(h→0)\frac{e^{z+h}-e^z}{h} =e^z\frac{e^h-1}{h} \longrightarrow e^z \qquad(h\to0)

である。ゆえに複素指数関数は各zzで複素微分可能であり、その導関数はeze^zである。▨

系 1.9. 複素正弦と複素余弦はC\mathbb C上で正則であり、

ddzsin⁡z=cos⁡z,ddzcos⁡z=−sin⁡z\frac{d}{dz}\sin z=\cos z,\qquad \frac{d}{dz}\cos z=-\sin z

が成り立つ。

証明. 写像z↦izz\mapsto izとz↦−izz\mapsto-i zの差商はそれぞれiiと−i-iである。命題 1.8と複素微分の合成則(§E5.2 命題 1.2)により

ddzeiz=ieiz,ddze−iz=−ie−iz\frac{d}{dz}e^{iz}=i e^{iz},\qquad \frac{d}{dz}e^{-iz}=-i e^{-iz}

を得る。定義 1.5と複素微分の和および積の規則から

ddzsin⁡z=ieiz+ie−iz2i=eiz+e−iz2=cos⁡z,ddzcos⁡z=ieiz−ie−iz2=−eiz−e−iz2i=−sin⁡z\begin{aligned} \frac{d}{dz}\sin z &=\frac{i e^{iz}+i e^{-iz}}{2i} =\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} =\cos z,\\ \frac{d}{dz}\cos z &=\frac{i e^{iz}-i e^{-iz}}{2} =-\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} =-\sin z \end{aligned}

である。▨

2 対数の枝

複素指数関数は値00をとらず、2πi2\pi iを周期にもつ。したがって、複素指数関数の逆像を考える定義域はC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}であり、一つの非零複素数に対する逆像は一般に一点ではない。

命題 2.1.C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}は領域である。

証明.z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}とする。∣w−z∣<∣z∣/2|w-z|<|z|/2ならば、逆三角不等式により

∣w∣≥∣z∣−∣w−z∣>∣z∣/2>0|w|\geq |z|-|w-z|>|z|/2>0

である。したがってB(z,∣z∣/2)⊆C∖{0}B(z,|z|/2)\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}であり、C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}は開集合である。

次に、任意のz,w∈C∖{0}z,w\in\mathbb C\setminus\{0\}を取る。線分[z,w][z,w]が原点を含まなければ、この線分がzzとwwを集合内で結ぶ。線分[z,w][z,w]が原点を含むならば、あるs∈(0,1)s\in(0,1)について(1−s)z+sw=0(1-s)z+sw=0であるから、w=−λzw=-\lambda zを満たすλ=(1−s)/s>0\lambda=(1-s)/s>0が存在する。この場合はp=izp=izとおく。

線分[z,p][z,p]が原点を含むと仮定すると、あるt∈[0,1]t\in[0,1]について

0=(1−t)z+tp=((1−t)+ti)z0=(1-t)z+tp=((1-t)+ti)z

となる。z≠0z\neq0なので(1−t)+ti=0(1-t)+ti=0であるが、実部と虚部を比較するとt=1t=1かつt=0t=0となり、矛盾する。同様に、線分[p,w][p,w]が原点を含むならば、あるt∈[0,1]t\in[0,1]について

0=(1−t)p+tw=((1−t)i−tλ)z0=(1-t)p+tw=((1-t)i-t\lambda)z

となる。実部からt=0t=0、虚部からt=1t=1を得るので、再び矛盾する。したがって、二本の線分[z,p][z,p]と[p,w][p,w]をつないだ折れ線はC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}の中でzzとwwを結ぶ。C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}は空でない開集合であり、任意の二点を集合内の折れ線で結ぶことができるから、§E5.1 命題 1.4により連結である。ゆえにC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}は領域である。▨

定義 2.2.z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}に対して、ew=ze^w=zを満たすw∈Cw\in\mathbb Cの全体を

log⁡z:={w∈C:ew=z}\log z:=\{w\in\mathbb C:e^w=z\}

と定める。このlog⁡z\log zをzzの複素対数 (complex logarithm) という。この記号は一価関数ではなく、複素指数関数によるzzの逆像を表す。

命題 2.3.z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}とする。このとき、

z=∣z∣eiθz=|z|e^{i\theta}

を満たすθ∈(−π,π]\theta\in(-\pi,\pi]がただ一つ存在する。このθ\thetaに対して

log⁡z={ ln⁡∣z∣+iθ+2πik : k∈Z }\log z=\{\,\ln|z|+i\theta+2\pi i k\ :\ k\in\mathbb Z\,\}

である。

証明.u=z/∣z∣u=z/|z|とおくと∣u∣=1|u|=1である。単位円の三角径数表示(§D1.24 定理 4.5)により、

u=cos⁡t+isin⁡tu=\cos t+i\sin t

を満たすt∈[0,2π)t\in[0,2\pi)が存在する。0≤t≤π0\leq t\leq\piならばθ=t\theta=tとし、π<t<2π\pi<t<2\piならばθ=t−2π\theta=t-2\piとする。このときθ∈(−π,π]\theta\in(-\pi,\pi]である。定理 1.4と命題 1.6により、いずれの場合もeiθ=eit=ue^{i\theta}=e^{it}=uであるから、z=∣z∣eiθz=|z|e^{i\theta}を得る。

θ,θ′∈(−π,π]\theta,\theta'\in(-\pi,\pi]がともに同じ表示を与えると仮定する。∣z∣>0|z|>0なのでeiθ=eiθ′e^{i\theta}=e^{i\theta'}であり、命題 1.7によりθ−θ′=2πk\theta-\theta'=2\pi kを満たすk∈Zk\in\mathbb Zが存在する。一方、−2π<θ−θ′<2π-2\pi<\theta-\theta'<2\piであるからk=0k=0であり、θ=θ′\theta=\theta'となる。

このθ\thetaを固定する。k∈Zk\in\mathbb Zに対して、§D1.24 定義 3.2、命題 1.6および命題 1.7により

eln⁡∣z∣+iθ+2πik=eln⁡∣z∣eiθe2πik=∣z∣eiθ=ze^{\ln|z|+i\theta+2\pi i k} =e^{\ln|z|}e^{i\theta}e^{2\pi i k} =|z|e^{i\theta} =z

である。したがって、右辺に掲げた集合はlog⁡z\log zに含まれる。

逆に、w=a+ib∈log⁡zw=a+ib\in\log z(a,b∈Ra,b\in\mathbb R)とする。命題 1.7の絶対値の公式とew=ze^w=zからea=∣z∣e^a=|z|を得る。実指数関数の単射性(§D1.24 命題 3.1)とeln⁡∣z∣=∣z∣e^{\ln|z|}=|z|(§D1.24 定義 3.2)により、a=ln⁡∣z∣a=\ln|z|である。したがって

eib=e−aew=z∣z∣=eiθ.e^{ib}=e^{-a}e^w=\frac{z}{|z|}=e^{i\theta}.

命題 1.7によりb−θ=2πkb-\theta=2\pi kを満たすk∈Zk\in\mathbb Zが存在するので、w=ln⁡∣z∣+iθ+2πikw=\ln|z|+i\theta+2\pi i kである。以上により、表示した集合がlog⁡z\log zの全体である。▨

極形式の角度は2π2\piの整数倍だけ不定である。対数を一価関数として扱うには、この不定性を領域の上で連続に解消しなければならない。

定義 2.4.D⊆C∖{0}D\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}を領域とする。連続関数ℓ:D→C\ell:D\to\mathbb Cが、すべてのz∈Dz\in Dについてeℓ(z)=ze^{\ell(z)}=zを満たすとき、ℓ\ellをDDの上の対数の枝 (branch of the logarithm) という。

命題 2.5.D⊆C∖{0}D\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}を領域とし、ℓ1,ℓ2\ell_{1},\ell_{2}をDDの上の対数の枝とする。このとき整数kkが存在して、すべてのz∈Dz\in Dについてℓ1(z)−ℓ2(z)=2πik\ell_{1}(z)-\ell_{2}(z)=2\pi ikが成り立つ。

証明.g=(ℓ1−ℓ2)/(2πi)g=(\ell_1-\ell_2)/(2\pi i)とおく。各z∈Dz\in Dについてeℓ1(z)=eℓ2(z)e^{\ell_1(z)}=e^{\ell_2(z)}であるから、命題 1.7によりg(z)∈Zg(z)\in\mathbb Zである。また、ℓ1\ell_1とℓ2\ell_2は連続であるから、ggも連続である。

z0∈Dz_0\in Dを固定する。ggのz0z_0における連続性により、z0z_0のDDにおける近傍UUであって、すべてのz∈Uz\in Uについて

∣g(z)−g(z0)∣<12|g(z)-g(z_0)|<\frac12

となるものが存在する。g(z)g(z)とg(z0)g(z_0)はともに整数であり、相異なる二整数の距離は11以上であるから、UUの上でg(z)=g(z0)g(z)=g(z_0)である。したがってggは局所定数である。DDは領域なので、§E5.1 命題 1.5によりggは定数である。その値をk∈Zk\in\mathbb Zと書けば、すべてのz∈Dz\in Dについてℓ1(z)−ℓ2(z)=2πik\ell_1(z)-\ell_2(z)=2\pi i kとなる。▨

命題 2.6.D⊆C∖{0}D\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}を領域とし、あるr>0r>0について円周{z:∣z∣=r}\{z:|z|=r\}がDDに含まれると仮定する。このとき、DDの上に対数の枝は存在しない。とくに、C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}の上に対数の枝は存在しない。

証明. 背理法により、DDの上に対数の枝ℓ\ellが存在すると仮定する。t∈[0,2π]t\in[0,2\pi]に対して

n(t)=ℓ(reit)−ln⁡r−it2πin(t)=\frac{\ell(re^{it})-\ln r-it}{2\pi i}

とおく。定理 1.4、§D1.24 定理 1.3および§D1.14 命題 1.2により、写像t↦reitt\mapsto re^{it}は連続である。その値は仮定によりDDに属し、ℓ\ellは連続であるから、n ⁣:[0,2π]→Cn\colon[0,2\pi]\to\mathbb Cは連続である。

§D1.24 定義 3.2と命題 1.6により、各t∈[0,2π]t\in[0,2\pi]について

eℓ(reit)−ln⁡r−it=eℓ(reit)eln⁡reit=reitreit=1e^{\ell(re^{it})-\ln r-it} =\frac{e^{\ell(re^{it})}}{e^{\ln r}e^{it}} =\frac{re^{it}}{re^{it}} =1

である。したがって命題 1.7によりℓ(reit)−ln⁡r−it∈2πiZ\ell(re^{it})-\ln r-it\in2\pi i\mathbb Zであり、n(t)∈Zn(t)\in\mathbb Zである。

区間[0,2π][0,2\pi]は§E2.43 定理 2.2により連結であるから、§E2.43 定理 1.4により像n([0,2π])n([0,2\pi])も連結である。一方、Z\mathbb Zの各点mmは(m−1/2,m+1/2)∩Z={m}(m-1/2,m+1/2)\cap\mathbb Z=\{m\}を満たすので、Z\mathbb Zは離散部分空間である。離散空間の二点以上を含む部分集合では、一点集合とその補集合がともに空でない開集合となり、分離を与える。したがって、連結部分集合n([0,2π])⊆Zn([0,2\pi])\subseteq\mathbb Zは一点集合であり、nnは定数である。

しかし、命題 1.6によりe2πi=1e^{2\pi i}=1なので、re2πi=r=re0re^{2\pi i}=r=re^0であり、

n(2π)−n(0)=ℓ(r)−ln⁡r−2πi2πi−ℓ(r)−ln⁡r2πi=−1n(2\pi)-n(0) =\frac{\ell(r)-\ln r-2\pi i}{2\pi i} -\frac{\ell(r)-\ln r}{2\pi i} =-1

となる。これはnnが定数であることに反する。よって、DDの上に対数の枝は存在しない。

C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}は命題 2.1により領域であり、任意のr>0r>0に対して円周{z:∣z∣=r}\{z:|z|=r\}を含む。したがって、前半の結論をD=C∖{0}D=\mathbb C\setminus\{0\}に適用すれば、C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}の上にも対数の枝は存在しない。▨

負の実軸と原点を取り除いた領域の上には、枝を具体的に構成することができる。

定義 2.7.z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}に対して、命題 2.3によって一意に定まるθ∈(−π,π]\theta\in(-\pi,\pi]をzzの偏角の主値 (principal argument) といい、Arg⁡z\operatorname{Arg}zと書く。また、

Log⁡z=ln⁡∣z∣+iArg⁡z\operatorname{Log}z=\ln|z|+i\operatorname{Arg}z

をzzの対数の主値 (principal logarithm) という。

閉じた負の実軸を取り除いた集合

D0=C∖(−∞,0]D_{0}=\mathbb C\setminus(-\infty,0]

を主値の切断平面 (principal cut plane) といい、取り除いた半直線(−∞,0](-\infty,0]を切断 (branch cut) という。D0D_{0}では−π<Arg⁡z<π-\pi<\operatorname{Arg}z<\piである。

命題 2.8.D0D_{0}は11に関して星形な開集合である。したがって、D0D_{0}はC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}に含まれる領域である。

証明.(−∞,0](-\infty,0]は閉集合であるから、その補集合D0D_{0}は開集合である。また、0∉D00\notin D_{0}であるからD0⊆C∖{0}D_{0}\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}である。

z∈D0z\in D_{0}とt∈[0,1]t\in[0,1]を取り、w=(1−t)+tzw=(1-t)+tzとおく。Im⁡z≠0\operatorname{Im}z\ne0かつt>0t>0ならばIm⁡w=tIm⁡z≠0\operatorname{Im}w=t\operatorname{Im}z\ne0である。Im⁡z=0\operatorname{Im}z=0ならばz>0z>0であり、w=(1−t)+tz>0w=(1-t)+tz>0である。t=0t=0ならばw=1>0w=1>0である。いずれの場合にもw∉(−∞,0]w\notin(-\infty,0]であるから、[1,z]⊆D0[1,z]\subseteq D_{0}である。したがって、D0D_{0}は11に関して星形である。§E5.2 命題 4.5により、星形な開集合D0D_{0}は領域である。▨

注意 2.9 (切断を越えて連続に延長することはできない).a<0a<0とし、r=∣a∣r=|a|とおく。0<t<π0<t<\piに対して

z+(t)=rei(π−t),z−(t)=rei(−π+t)z_{+}(t)=re^{i(\pi-t)},\qquad z_{-}(t)=re^{i(-\pi+t)}

とおくと、z+(t),z−(t)∈D0z_{+}(t),z_{-}(t)\in D_{0}であり、どちらもt→0+t\to0+のときaaに収束する。一方、π−t,−π+t∈(−π,π)\pi-t,-\pi+t\in(-\pi,\pi)であるから、偏角の主値の一意性により

Log⁡z+(t)=ln⁡r+i(π−t),Log⁡z−(t)=ln⁡r+i(−π+t).\operatorname{Log}z_{+}(t)=\ln r+i(\pi-t),\qquad \operatorname{Log}z_{-}(t)=\ln r+i(-\pi+t).

したがって、上側からの極限はln⁡r+iπ\ln r+i\piであり、下側からの極限はln⁡r−iπ\ln r-i\piである。二つの極限は2πi2\pi iだけ異なる。ゆえに、D0D_{0}上のLog⁡\operatorname{Log}を切断上の点aaの近傍へ連続に延長することはできない。とくに、定義 2.7で負の実数にも割り当てた対数の主値は、C∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}の全体では連続な関数にならない。

命題 2.10.Log⁡\operatorname{Log}のD0D_{0}への制限はD0D_{0}上の対数の枝である。この枝はD0D_{0}上で正則であり、

Log⁡′z=1z\operatorname{Log}'z=\frac1z

が成り立つ。

証明.z0=x0+iy0∈D0z_{0}=x_{0}+iy_{0}\in D_{0}を固定する。u(x,y)=12ln⁡(x2+y2)u(x,y)=\tfrac12\ln(x^{2}+y^{2})、v(x,y)=Arg⁡(x+iy)v(x,y)=\operatorname{Arg}(x+iy)とおけば、Log⁡(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)\operatorname{Log}(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)である。正則性はz0z_{0}の近傍だけで確かめればよい。

arctan⁡\arctanは、tan⁡\tanの(−π/2,π/2)(-\pi/2,\pi/2)への制限の逆関数である(§D1.24 定義 4.4)。z0z_{0}は切断上にないから、x0>0x_{0}>0、y0>0y_{0}>0、y0<0y_{0}<0の少なくとも一つが成り立つ。対応する不等式を満たす点の集合はz0z_{0}の開近傍であり、その近傍では偏角の主値をそれぞれ

v(x,y)={arctan⁡(y/x),x>0,π/2−arctan⁡(x/y),y>0,−π/2−arctan⁡(x/y),y<0v(x,y)= \begin{cases} \arctan(y/x),&x>0,\\ \pi/2-\arctan(x/y),&y>0,\\ -\pi/2-\arctan(x/y),&y<0 \end{cases}

と表すことができる。実際、各右辺は(−π,π)(-\pi,\pi)に属し、その正接と象限がx+iyx+iyの偏角と一致する。したがって、偏角の主値の一意性により各表示が得られる。

arctan⁡′(t)=1/(1+t2)\arctan'(t)=1/(1+t^{2})(§D1.24 定理 4.6)と連鎖律を各局所表示へ適用すると、z0z_{0}のある近傍で

vx(x,y)=−yx2+y2,vy(x,y)=xx2+y2v_{x}(x,y)=-\frac{y}{x^{2}+y^{2}},\qquad v_{y}(x,y)=\frac{x}{x^{2}+y^{2}}

が成り立つ。一方、自然対数の微分(§D1.24 定理 3.4)と連鎖律により

ux(x,y)=xx2+y2,uy(x,y)=yx2+y2u_{x}(x,y)=\frac{x}{x^{2}+y^{2}},\qquad u_{y}(x,y)=\frac{y}{x^{2}+y^{2}}

である。これらの偏導関数はz0z_{0}の近傍で連続であり、ux=vyu_{x}=v_{y}およびuy=−vxu_{y}=-v_{x}を満たす。§E5.2 命題 3.5により、Log⁡\operatorname{Log}はz0z_{0}で複素微分可能であり、

Log⁡′z0=ux(x0,y0)+ivx(x0,y0)=x0−iy0x02+y02=1z0\operatorname{Log}'z_{0}=u_{x}(x_{0},y_{0})+iv_{x}(x_{0},y_{0}) =\frac{x_{0}-iy_{0}}{x_{0}^{2}+y_{0}^{2}}=\frac1{z_{0}}

である。z0∈D0z_{0}\in D_{0}は任意であるから、Log⁡\operatorname{Log}はD0D_{0}上で正則である。

最後に、z∈D0z\in D_{0}に対して

eLog⁡z=eln⁡∣z∣eiArg⁡z=∣z∣eiArg⁡z=ze^{\operatorname{Log}z}=e^{\ln|z|}e^{i\operatorname{Arg}z} =|z|e^{i\operatorname{Arg}z}=z

が命題 2.3により成り立つ。正則な関数は連続であるから、定義 2.4の二つの条件が満たされ、Log⁡∣D0\operatorname{Log}|_{D_{0}}は対数の枝である。▨

負の実軸を切断として選ぶ必然性はない。

命題 2.11.α∈R\alpha\in\mathbb Rとし、Dα=C∖{reiα:r≥0}D_{\alpha}=\mathbb C\setminus\{re^{i\alpha}:r\ge0\}とおく。このとき

ℓα(z)=Log⁡(e−i(α−π)z)+i(α−π)\ell_{\alpha}(z)=\operatorname{Log}\bigl(e^{-i(\alpha-\pi)}z\bigr)+i(\alpha-\pi)

はDαD_{\alpha}の上の対数の枝であり、DαD_{\alpha}の上で正則でℓα′(z)=1/z\ell_{\alpha}'(z)=1/zである。

証明.c=e−i(α−π)c=e^{-i(\alpha-\pi)}とおく。∣c∣=1|c|=1(命題 1.7)であるから、z↦czz\mapsto czは全単射である。また、命題 1.6により

c reiα=reiπ=−r(r≥0)c\,re^{i\alpha}=re^{i\pi}=-r\qquad(r\ge0)

である。したがって、この写像は切断{reiα:r≥0}\{re^{i\alpha}:r\ge0\}を(−∞,0](-\infty,0]へ写し、DαD_{\alpha}をD0D_{0}へ写す。とくに、z∈Dαz\in D_{\alpha}ならばcz∈D0cz\in D_{0}であるから、ℓα(z)\ell_{\alpha}(z)は定義される。

まず、DαD_{\alpha}が対数の枝の定義域になり得ることを確かめる。Dα=c−1D0D_{\alpha}=c^{-1}D_{0}であり、z↦czz\mapsto czは連続であるから、DαD_{\alpha}は開集合である。さらに、命題 2.8によりD0D_{0}は11に関して星形であり、z↦c−1zz\mapsto c^{-1}zは線分を線分へ写すから、DαD_{\alpha}はc−1c^{-1}に関して星形である。ゆえに§E5.2 命題 4.5によりDαD_{\alpha}は領域である。また、切断が原点を含むのでDα⊆C∖{0}D_{\alpha}\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}である。

次に、指数関数との合成を調べる。命題 2.10によりeLog⁡(cz)=cze^{\operatorname{Log}(cz)}=czであるから、命題 1.6により

eℓα(z)=eLog⁡(cz) ei(α−π)=cz⋅c−1=ze^{\ell_{\alpha}(z)}=e^{\operatorname{Log}(cz)}\,e^{i(\alpha-\pi)}=cz\cdot c^{-1}=z

である。ここでei(α−π)=c−1e^{i(\alpha-\pi)}=c^{-1}を用いた。

最後に、正則性と導関数を求める。z↦czz\mapsto czは正則であり、Log⁡\operatorname{Log}はD0D_{0}上で正則である。したがって、合成関数の微分法(§E5.2 命題 1.2)と命題 2.10により、ℓα\ell_{\alpha}はDαD_{\alpha}上で正則であり、

ℓα′(z)=Log⁡′(cz)⋅c=ccz=1z\ell_{\alpha}'(z)=\operatorname{Log}'(cz)\cdot c=\frac{c}{cz}=\frac1z

を満たす。正則性から連続性が従い、すでにeℓα(z)=ze^{\ell_{\alpha}(z)}=zを示したから、定義 2.4によりℓα\ell_{\alpha}はDαD_{\alpha}上の対数の枝である。▨

この構成は切断の方向によらず対数の枝を与える。一方、命題 2.6により、原点を中心とする円周を含む領域の全体へ対数の枝を広げることはできない。

3 複素冪

定義 3.1.D⊆C∖{0}D\subseteq\mathbb C\setminus\{0\}を領域とし、ℓ\ellをDD上の対数の枝とする。指数α∈C\alpha\in\mathbb Cに対して、ℓ\ellによる複素冪 (complex power with respect toℓ\ell) を

zℓα:=eαℓ(z)(z∈D)z^\alpha_{\ell}:=e^{\alpha\ell(z)}\qquad(z\in D)

によって定める。特に、主値対数を用いたeαLog⁡ze^{\alpha\operatorname{Log}z}を複素冪の主値 (principal value of a complex power) という。

一つの点z≠0z\ne0において対数のすべての値を許すときは、複素冪を値の集合

Pα(z):={eαw:w∈log⁡z}\mathcal P_\alpha(z):=\{e^{\alpha w}:w\in\log z\}

として扱う。このPα(z)\mathcal P_\alpha(z)を多価的な複素冪 (multivalued complex power) という。枝を選んだ一価関数zℓαz^\alpha_\ellと、多価的な値の集合Pα(z)\mathcal P_\alpha(z)は区別する必要がある。

命題 3.2.z∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}、α∈C\alpha\in\mathbb Cとする。このとき

Pα(z)={eαLog⁡ze2πikα:k∈Z}\mathcal P_\alpha(z) =\{e^{\alpha\operatorname{Log}z}e^{2\pi i k\alpha}:k\in\mathbb Z\}

が成り立つ。値の個数は指数α\alphaによって次のように決まる。

  1. α∈Z\alpha\in\mathbb Zならば、値は一つである。
  2. α=p/q∈Q∖Z\alpha=p/q\in\mathbb Q\setminus\mathbb Zをp∈Zp\in\mathbb Z、q≥2q\ge2、gcd⁡(∣p∣,q)=1\gcd(|p|,q)=1と既約表示すると、値はちょうどqq個である。
  3. α∈R∖Q\alpha\in\mathbb R\setminus\mathbb Qならば、値は無限個であり、すべて同じ絶対値をもつ。
  4. α∈C∖R\alpha\in\mathbb C\setminus\mathbb Rならば、値は無限個であり、その絶対値も無限個の異なる値をとる。

証明.命題 2.3からlog⁡z={Log⁡z+2πik:k∈Z}\log z=\{\operatorname{Log}z+2\pi i k:k\in\mathbb Z\}である。命題 1.6により

eα(Log⁡z+2πik)=eαLog⁡ze2πikαe^{\alpha(\operatorname{Log}z+2\pi i k)} =e^{\alpha\operatorname{Log}z}e^{2\pi i k\alpha}

となるので、値の集合に関する表示を得る。

命題 1.7によりeαLog⁡z≠0e^{\alpha\operatorname{Log}z}\ne0であるため、整数k,k′k,k'が同じ値を与えるための必要十分条件は

e2πi(k−k′)α=1,すなわち(k−k′)α∈Ze^{2\pi i(k-k')\alpha}=1, \qquad\text{すなわち}\qquad (k-k')\alpha\in\mathbb Z

である。α∈Z\alpha\in\mathbb Zの場合、この条件は任意のk,k′k,k'に対して成り立つ。これに対してα=p/q∈Q∖Z\alpha=p/q\in\mathbb Q\setminus\mathbb Zが既約表示ならば、この条件はq∣(k−k′)q\mid(k-k')と同値である。したがって、前者では値は一つであり、後者ではkkのqqを法とする剰余類に対応するqq個の値がある。

α∈R∖Q\alpha\in\mathbb R\setminus\mathbb Qの場合、k≠k′k\ne k'ならば(k−k′)α∉Z(k-k')\alpha\notin\mathbb Zであるから、すべての値が互いに異なる。また、∣e2πikα∣=1|e^{2\pi i k\alpha}|=1であるため、それらの絶対値は等しい。最後にα=a+ib\alpha=a+ib、b≠0b\ne0と書くと、

∣e2πikα∣=e−2πkb|e^{2\pi i k\alpha}|=e^{-2\pi kb}

である。この値はkkごとに異なるので、複素冪の値も絶対値も無限個である。▨

注意 3.3 (枝を変えたときの複素冪).命題 2.5により、連結な領域DD上の二つの対数の枝ℓ1,ℓ2\ell_1,\ell_2に対して、あるn∈Zn\in\mathbb Zが存在してℓ2=ℓ1+2πin\ell_2=\ell_1+2\pi i nとなる。したがって

zℓ2α=e2πinαzℓ1αz^\alpha_{\ell_2}=e^{2\pi i n\alpha}z^\alpha_{\ell_1}

である。ここで命題 1.6を用いた。特にα∈Z\alpha\in\mathbb Zならば複素冪は枝に依存しない。α∉Z\alpha\notin\mathbb Zならば、ℓ1+2πi\ell_1+2\pi iも対数の枝であり、対応する複素冪はe2πiα≠1e^{2\pi i\alpha}\ne1倍になるため、枝に依存する。

例 3.4 (虚数単位の虚数単位乗).Log⁡i=iπ/2\operatorname{Log}i=i\pi/2であるから、iii^iの主値は

eiLog⁡i=e−π/2e^{i\operatorname{Log}i}=e^{-\pi/2}

であり、正の実数になる。一方、iiの対数の値はi(π/2+2πk)i(\pi/2+2\pi k)(k∈Zk\in\mathbb Z)であるため、多価的な値の集合は

Pi(i)={e−π/2−2πk:k∈Z}\mathcal P_i(i)=\{e^{-\pi/2-2\pi k}:k\in\mathbb Z\}

である。指数iiは非実数なので、これらは互いに異なる正の実数である。複素数を複素数乗した結果が実数になることと、値が一つに定まることは別の性質である。

例 3.5 (実数22の虚数単位乗).Log⁡2=ln⁡2\operatorname{Log}2=\ln2であるから、2i2^iの主値は

eiLog⁡2=eiln⁡2=cos⁡(ln⁡2)+isin⁡(ln⁡2)e^{i\operatorname{Log}2}=e^{i\ln2}=\cos(\ln2)+i\sin(\ln2)

であり、その絶対値は11である。しかし、対数のほかの値ln⁡2+2πik\ln2+2\pi i kを用いると

ei(ln⁡2+2πik)=eiln⁡2e−2πke^{i(\ln2+2\pi i k)}=e^{i\ln2}e^{-2\pi k}

を得る。したがって

Pi(2)={eiln⁡2e−2πk:k∈Z}\mathcal P_i(2)=\{e^{i\ln2}e^{-2\pi k}:k\in\mathbb Z\}

であり、すべての値は同じ偏角をもつ一方、絶対値はe−2πke^{-2\pi k}と変化する。主値だけを計算すると、この枝依存性は現れない。

4 演習

問題 4.1.

  1. (−8)2/3(-8)^{2/3}の多価的な値をすべて求め、そのうち主値を特定せよ。
  2. P2(z)\mathcal P_{\sqrt2}(z)とP1+i(z)\mathcal P_{1+i}(z)の値の個数と絶対値について、任意のz∈C∖{0}z\in\mathbb C\setminus\{0\}に対して成り立つことをそれぞれ述べ、証明せよ。
  3. 正の実数rrと実数bbに対して、Pib(r)\mathcal P_{ib}(r)を求めよ。また、この集合が有限集合になるための必要十分条件を求めよ。
解答 (解答).
  1. −8-8の対数の値は

    ln⁡8+i(π+2πk)(k∈Z)\ln8+i(\pi+2\pi k)\qquad(k\in\mathbb Z)

    である。したがって

    P2/3(−8)={4ei(2π/3+4πk/3):k∈Z}={4,−2+23i,−2−23i}.\mathcal P_{2/3}(-8) =\left\{4e^{i(2\pi/3+4\pi k/3)}:k\in\mathbb Z\right\} =\{4,-2+2\sqrt3i,-2-2\sqrt3i\}.

    k=0k=0が主値対数を用いた値に対応するので、主値は−2+23i-2+2\sqrt3iである。

  2. 2∈R∖Q\sqrt2\in\mathbb R\setminus\mathbb Qであるから、命題 3.2によりP2(z)\mathcal P_{\sqrt2}(z)は無限集合である。その各要素はe2Log⁡ze2πik2e^{\sqrt2\operatorname{Log}z}e^{2\pi i k\sqrt2}と書け、後半の因子の絶対値が11なので、すべての要素の絶対値は∣e2Log⁡z∣|e^{\sqrt2\operatorname{Log}z}|に等しい。

    一方、1+i∈C∖R1+i\in\mathbb C\setminus\mathbb Rであるから、P1+i(z)\mathcal P_{1+i}(z)も無限集合である。kkに対応する値の絶対値は

    ∣e(1+i)Log⁡z∣ ∣e2πik(1+i)∣=∣e(1+i)Log⁡z∣e−2πk|e^{(1+i)\operatorname{Log}z}|\,|e^{2\pi i k(1+i)}| =|e^{(1+i)\operatorname{Log}z}|e^{-2\pi k}

    である。kkが異なればこの絶対値も異なる。

  3. Log⁡r=ln⁡r\operatorname{Log}r=\ln rであるから

    Pib(r)={eib(ln⁡r+2πik):k∈Z}={eibln⁡re−2πbk:k∈Z}.\mathcal P_{ib}(r) =\{e^{ib(\ln r+2\pi i k)}:k\in\mathbb Z\} =\{e^{ib\ln r}e^{-2\pi bk}:k\in\mathbb Z\}.

    b=0b=0ならば、この集合は{1}\{1\}である。b≠0b\ne0ならば、e−2πbke^{-2\pi bk}はkkごとに異なる正の実数なので、この集合は無限集合である。したがって、有限集合になるための必要十分条件はb=0b=0である。

▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.べき級数による指数関数、三角関数および対数の枝の構成を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.序章が、指数関数の周期と零点、および単位円周の径数表示を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.対数の枝と複素冪の多価性を参考にした。

前提記事