1 実区間上の複素積分
定義 1.1.g:[a,b]→Cが区分的に連続 (piecewise continuous) であるとは、分割a=s0<s1<⋯<sN=bと、各kに対する連続関数gk:[sk−1,sk]→Cが存在し、(sk−1,sk)の上でg=gkが成り立つことをいう。このような分割をgに適合する分割 (adapted partition) という。適合する分割を一つ選び、
∫abg(t)dt:=k=1∑N(∫sk−1skRegk(t)dt+i∫sk−1skImgk(t)dt)と定める。これを区分的に連続な複素数値関数の積分 (integral of a piecewise continuous complex-valued function) という。右辺の実積分は§D1.17 定理 2.5により存在する。
命題 1.2.定義 1.1の値は、適合する分割と各小区間の連続関数の選び方によらない。また、a<c<bならば
∫abg(t)dt=∫acg(t)dt+∫cbg(t)dtが成り立つ。区分的に連続なg,hとλ,μ∈Cに対して
∫ab(λg+μh)=λ∫abg+μ∫abhも成り立つ。
証明. 連続実関数u:[p,q]→Rとp<r<qに対して、U(x)=∫pxu(t)dtとおく。§D1.19 定理 1.1と§D1.19 定理 2.1により
∫pqu=U(q)−U(p)=(U(r)−U(p))+(U(q)−U(r))=∫pru+∫rqu.(1)二つの連続関数が開区間上で一致すれば、連続性により両端でも一致する。したがって、連続延長の選び方は各小区間の積分を変えない。適合する分割へ一点を加えたときには、(1) を実部と虚部へ適用すると値は変わらない。二つの適合する分割には分点の和集合という共通細分があるので、どちらも共通細分と同じ値を与える。これにより well-defined 性が従う。
cを分点に加えて同じ議論を用いると区間加法性を得る。gとhの適合分割の共通細分を取る。一つの小区間[p,q]上の連続延長をg=x+iy、h=u+ivと書き、λ=α+iβ、μ=ρ+iσと書くと、
Re(λg+μh)=αx−βy+ρu−σv,Im(λg+μh)=βx+αy+σu+ρv.実積分の線形性(§D1.17 系 3.3)を右辺の各項へ適用して実部と虚部を組み直すと、その小区間上で
∫pq(λg+μh)=λ∫pqg+μ∫pqhとなる。すべての小区間について加えれば、複素積分の線形性を得る。▨
補題 1.3.u,v:[a,b]→Rを区分的に連続とし、すべてのt∈[a,b]に対してu(t)≤v(t)とする。このとき
∫abu(t)dt≤∫abv(t)dtが成り立つ。
証明.uとvの適合分割の共通細分をa=s0<⋯<sN=bとし、各小区間上の連続延長をuk,vk:[sk−1,sk]→Rとする。開区間上ではuk≤vkであり、連続性から両端でもこの不等式が成り立つ。したがって、wk=vk−ukは連続な非負関数である。
[sk−1,sk]の任意の分割Pに対して、各小区間上のwkの下限は非負であるため、下和の定義(§D1.17 定義 1.1)からL(wk,P)≥0である。wkは§D1.17 定理 2.5により Riemann 可積分であり、上積分と下積分による可積分性の定義(§D1.17 定義 2.1)から
∫sk−1skwk(t)dt=PsupL(wk,P)≥0を得る。実積分の線形性(§D1.17 系 3.3)により∫vk−∫uk=∫wk≥0である。これをすべての小区間について加えると結論を得る。▨
補題 1.4.g:[a,b]→Cを区分的に連続とする。このとき∣g∣も区分的に連続であり、
∫abg(t)dt≤∫ab∣g(t)∣dtが成り立つ。
証明.gの各連続延長gkに対して、逆三角不等式(§E5.1 命題 1.2)により∣gk∣は連続である。したがって∣g∣は区分的に連続である。
I=∫abg(t)dtとおく。I=0ならば結論は明らかである。I=0の場合にはc=I/∣I∣とおくと、∣c∣=1かつcI=∣I∣である。線形性により
∣I∣=Re(cI)=∫abRe(cg(t))dt.各tについてRe(cg(t))≤∣cg(t)∣=∣g(t)∣なので、補題 1.3を適用すると結論を得る。▨
2 曲線に沿う積分
定義 2.1.γ:[a,b]→Cが区分的に一階連続微分可能な曲線 (piecewise continuously differentiable curve) であるとは、γが連続であり、ある分割a=t0<⋯<tN=bの各小区間上でγが一階連続微分可能であることをいう。γ(a)を始点 (initial point)、γ(b)を終点 (terminal point)、像γ([a,b])を曲線の台 (support of a curve) といい∣γ∣と書く。γ(a)=γ(b)のとき、γを閉曲線 (closed curve) という。曲線の長さ (length of a curve) を
L(γ)=∫ab∣γ′(t)∣dtと定める。分点におけるγ′の値は隣接する小区間から得る値のどちらを選んでもよく、命題 1.2により長さはその選択に依存しない。
定義 2.2.γ:[a,b]→Cを区分的に一階連続微分可能な曲線、f:∣γ∣→Cを連続関数とする。このとき
∫γf(z)dz:=∫abf(γ(t))γ′(t)dtと定める。これを曲線に沿う複素積分 (contour integral) という。右辺の被積分関数は区分的に連続なので、定義 1.1により積分が存在する。
命題 2.3.f1,f2を∣γ∣上の連続関数、c1,c2∈Cとする。このとき
∫γ(c1f1+c2f2)(z)dz=c1∫γf1(z)dz+c2∫γf2(z)dzが成り立つ。
補題 2.4.h:[a,b]→Cを連続、φ:[c,d]→[a,b]を一階連続微分可能とする。このとき
∫cdh(φ(s))φ′(s)ds=∫φ(c)φ(d)h(t)dtが成り立つ。ただし上端が下端より小さい積分は符号を反転して定める。
証明.H(x)=∫axh(t)dtとおく。実部と虚部へ§D1.19 定理 1.1を適用するとH′=hである。hを[a,b]の外側では端点値で延長し、その積分によってHも実数直線上へ一階連続微分可能に延長する。Hを実部と虚部からなる実二次元値写像とみなし、全微分の連鎖律(§E4.3 定理 1.1)を(c,d)上で適用すると(H∘φ)′=(h∘φ)φ′となる。したがって、実部と虚部へ§D1.19 定理 2.1を適用して
∫cd(h∘φ)(s)φ′(s)ds=H(φ(d))−H(φ(c))=∫φ(c)φ(d)h(t)dtを得る。▨
命題 2.5.γ:[a,b]→Cを区分的に一階連続微分可能、fを∣γ∣上で連続とする。
- φ:[c,d]→[a,b]が狭義単調増加な全単射であり、連続かつ区分的に一階連続微分可能ならば、γ∘φは同じ向きの曲線を定め、
∫γ∘φf(z)dz=∫γf(z)dz
が成り立つ。
- γ−(t)=γ(a+b−t)とおくと、
∫γ−f(z)dz=−∫γf(z)dz
が成り立つ。
証明.φの分点と、γの分点のφによる逆像で[c,d]を細分する。φは狭義単調増加な連続全単射なので、それぞれの逆像は一意であり、得られた各小区間はφの一つの一階連続微分可能な区間に含まれ、その像はγの一つの一階連続微分可能な区間に含まれる。各小区間でh(t)=f(γ(t))γ′(t)は連続であり、連鎖律によって(γ∘φ)′(s)=γ′(φ(s))φ′(s)である。したがって補題 2.4を各小区間へ適用して加えると
∫cdf(γ(φ(s)))(γ∘φ)′(s)ds=∫abf(γ(t))γ′(t)dtとなる。ここで単調増加な全射であることからφ(c)=a、φ(d)=bを用いた。
(2)ではψ(t)=a+b−tとおく。ψ(a)=b、ψ(b)=a、ψ′=−1なので、同じ置換積分から
∫γ−f(z)dz=∫baf(γ(u))γ′(u)du=−∫abf(γ(u))γ′(u)duを得る。▨
命題 2.6.γ1:[a,b]→Cとγ2:[b,c]→Cを区分的に一階連続微分可能とし、γ1(b)=γ2(b)とする。両者をbでつないだ曲線をγ1∗γ2と書く。fが∣γ1∣∪∣γ2∣上で連続ならば
∫γ1∗γ2f(z)dz=∫γ1f(z)dz+∫γ2f(z)dzが成り立つ。
証明.bを分点とする適合分割を用いると、主張は命題 1.2の区間加法性そのものである。▨
3 サイクルと評価
定義 3.1. 区分的に一階連続微分可能な閉曲線の有限形式和
Γ=j=1∑mnjγj(nj∈Z)をサイクル (cycle) という。同じ閉曲線の係数を加え、係数0の項を除いた形式和を同一視する。その台 (support of a cycle) と、台の上の連続関数fの積分 (integral over a cycle) を
∣Γ∣=nj=0⋃∣γj∣,∫Γf(z)dz=j=1∑mnj∫γjf(z)dzと定める。空和を零サイクル (zero cycle) とし、その台を空集合、積分を0とする。
命題 3.2 (ML 不等式).γを区分的に一階連続微分可能な曲線、fを∣γ∣上の連続関数とし、∣f(z)∣≤Mが∣γ∣の上で成り立つとする。このとき
∫γf(z)dz≤ML(γ)が成り立つ。さらに∣f∣≤MがサイクルΓ=∑j=1mnjγjの台の上で成り立つならば、
∫Γf(z)dz≤Mj=1∑m∣nj∣L(γj)である。
証明.∣f(γ(t))∣∣γ′(t)∣≤M∣γ′(t)∣と補題 1.4、補題 1.3により
∫γf(z)dz≤∫ab∣f(γ(t))∣∣γ′(t)∣dt≤M∫ab∣γ′(t)∣dt=ML(γ)である。サイクルの場合には定義 3.1の定義、三角不等式、および曲線ごとの評価を順に適用する。▨
例 3.3 (単位円周に沿う整数冪の積分).γ(θ)=eiθ(0≤θ≤2π)とする。このとき
∫γzndz={2πi0(n=−1),(n∈Z, n=−1)である。
証明.§E5.3 定理 1.4と実正弦・余弦の微分公式(§D1.24 定理 1.3)からγ′(θ)=ieiθである。したがって
∫γzndz=i∫02πei(n+1)θdθ.n=−1ならば右辺は2πiである。n=−1ならばei(n+1)θ/(i(n+1))が被積分関数の原始関数であるため、§D1.19 定理 2.1とe2πi(n+1)=1(§E5.3 命題 1.7)から右辺は0となる。▨
例 3.4 (大きな半円に沿う積分が消えること).f(z)=1/(z2+1)、R>1とし、ΓR(θ)=Reiθ(0≤θ≤π)とおく。∣z∣=Rの上では
∣z2+1∣≥R2−1,L(ΓR)=πRである。したがって命題 3.2により
∫ΓRz2+1dz≤R2−1πR⟶0(R→∞)となる。
4 原始関数
補題 4.1.U⊆Cを開集合、F:U→Cを正則関数、γ:[a,b]→Uをt0で微分可能な曲線とする。このとき
dtdF(γ(t))t=t0=F′(γ(t0))γ′(t0)が成り立つ。
証明.w0=γ(t0)とし、
η(w)=⎩⎨⎧w−w0F(w)−F(w0)−F′(w0)0(w=w0),(w=w0)とおく。Fの複素微分可能性からη(w)→0(w→w0)であり、
F(w)−F(w0)=(F′(w0)+η(w))(w−w0)が成り立つ。w=γ(t)を代入してt−t0で割ると、γの微分可能性と連続性により、右辺はF′(w0)γ′(t0)へ収束する。▨
定理 4.2.D⊆Cを開集合、f:D→Cを連続関数とする。Dの上の正則関数FがF′=fを満たすとき、Fをfの原始関数 (primitive) という。γ:[a,b]→Dを区分的に一階連続微分可能な曲線とすると
∫γf(z)dz=F(γ(b))−F(γ(a))が成り立つ。
証明.a=t0<⋯<tN=bをγに適合する分割とする。補題 4.1により、各小区間上で
dtdF(γ(t))=F′(γ(t))γ′(t)=f(γ(t))γ′(t)である。実部と虚部へ§D1.19 定理 2.1を適用すると
∫tk−1tkf(γ(t))γ′(t)dt=F(γ(tk))−F(γ(tk−1)).kについて加えると右辺は望遠鏡状に打ち消し、左辺は定義 2.2により∫γf(z)dzとなる。▨
命題 4.3.Dを領域、fをDの上の正則関数とし、Dの各点でf′=0であるとする。このときfはDの上で定数である。
証明.z,w∈Dを取る。§E5.1 命題 1.4により、zとwはDに含まれる折れ線γで結ばれる。零関数の原始関数としてfを用いて定理 4.2を適用すると
0=∫γ0dζ=f(w)−f(z)である。z,wは任意なのでfは定数である。▨
系 4.4.D上の連続関数fがD上に原始関数をもち、∣Γ∣⊆Dを満たすサイクルΓを取ると
∫Γf(z)dz=0である。とくに、原始関数をもつ関数の閉曲線に沿う積分は0である。
証明.Γ=∑jnjγjと書く。各γjは閉曲線なので、定理 4.2により∫γjf=0である。定義 3.1の定義から∫Γf=∑jnj∫γjf=0を得る。▨
例 4.5 (原始関数をもつ場合ともたない場合).n∈Z∖{−1}とする。n≥0の場合はC上で、n≤−2の場合はC∖{0}上で、zn+1/(n+1)はznの原始関数である(§E5.2 系 1.3)。したがって閉曲線上の積分は0となり、例 3.3と一致する。
一方、1/zの単位円周上の積分は2πiなので、系 4.4の対偶から1/zはC∖{0}上に原始関数をもたない。切断平面D0上では§E5.3 命題 2.10によりLogが1/zの原始関数である。
例 4.6 (異なる二つの経路に沿う積分).0から1+iへ至る線分γ1と、0から1を経て1+iへ至る折れ線γ2を取る。F(z)=z3/3はf(z)=z2のC上の原始関数なので、定理 4.2により
∫γ1z2dz=∫γ2z2dz=F(1+i)−F(0)=−32+32iである。経路が異なっても値が一致する理由は、被積分関数が定義域全体で一価な原始関数をもつことにある。
5 演習
問題 5.1 (向きを保たない径数変更).γ(t)=t(0≤t≤1)とし、φ:[0,1]→[0,1]を、0から1へ進んだ後に0へ戻る区分的一次関数とする。f(z)=1についてγ∘φの各区間の積分を計算し、φが全射であるにもかかわらず∫γ∘φdz=∫γdzが成り立たないことを示せ。
解答.
たとえば
φ(s)={2s2−2s(0≤s≤1/2),(1/2≤s≤1)とする。二つの区間の積分は順に1,−1なので、全積分は0である。一方、∫γdz=1である。φは全射だが狭義単調増加でなく、同じ台を逆向きにもたどるため、二つの積分は一致しない。▨
問題 5.2 (サイクルの ML 評価).Γ=2γ1−3γ2とし、L(γ1)=4、L(γ2)=5とする。∣f∣≤7が∣Γ∣上で成り立つとき、∣∫Γf(z)dz∣の上界を求めよ。
解答.
命題 3.2のサイクル版により
∫Γf(z)dz≤7(2⋅4+3⋅5)=161である。▨
問題 5.3 (原始関数と経路独立性).D上の連続関数fが原始関数Fをもつとする。D内の二つの区分的に一階連続微分可能な曲線γ1,γ2が同じ始点と終点をもつとき、∫γ1f=∫γ2fを示せ。さらに1/zとD=C∖{0}では同じ結論を導くことができない理由を述べよ。
解答.
定理 4.2により、どちらの積分も終点におけるFの値から始点におけるFの値を引いたものに等しい。1/zは単位円周上の積分が2πiであるため、例 4.5によりC∖{0}上に一価な原始関数をもたない。▨