§E5.4複素積分

最終更新

実数の定積分では、積分区間が定まれば、始点から終点までの変化を一つの区間上で集計することができる。複素平面では、同じ二点を結ぶ曲線が複数存在し、曲線の選択が積分の対象に含まれる。例えば、00から11へ実軸上を進む曲線に沿ってf(z)=z‾f(z)=\overline{z}を積分すると値は1/21/2になる。一方、00からiiを経て11へ進む折れ線に沿う積分の値は1/2−i1/2-iである。

この違いを扱うには、曲線を単なる点集合ではなく、向きと進行を記録する写像として捉える必要がある。曲線に沿う積分は、複素平面上の関数の変化を曲線の進行に沿って集計する概念であり、有限個の閉曲線を整数係数で組み合わせたサイクルは、後続の積分理論が扱う積分路を一つの形式で表す。複素積分は、関数の局所的な性質を曲線や領域の幾何と結び付けるための基本的な枠組みである。

本記事では、曲線とサイクルに沿う複素積分の基本的な枠組みを解説する。

1 実区間上の複素積分

定義 1.1.g:[a,b]→Cg:[a,b]\to\mathbb Cが区分的に連続 (piecewise continuous) であるとは、分割a=s0<s1<⋯<sN=ba=s_0<s_1<\cdots<s_N=bと、各kkに対する連続関数gk:[sk−1,sk]→Cg_k:[s_{k-1},s_k]\to\mathbb Cが存在し、(sk−1,sk)(s_{k-1},s_k)の上でg=gkg=g_kが成り立つことをいう。このような分割をggに適合する分割 (adapted partition) という。適合する分割を一つ選び、

∫abg(t) dt:=∑k=1N(∫sk−1skRe⁡gk(t) dt+i∫sk−1skIm⁡gk(t) dt)\int_a^b g(t)\,dt :=\sum_{k=1}^{N}\left( \int_{s_{k-1}}^{s_k}\operatorname{Re}g_k(t)\,dt +i\int_{s_{k-1}}^{s_k}\operatorname{Im}g_k(t)\,dt\right)

と定める。これを区分的に連続な複素数値関数の積分 (integral of a piecewise continuous complex-valued function) という。右辺の実積分は§D1.17 定理 2.5により存在する。

命題 1.2.定義 1.1の値は、適合する分割と各小区間の連続関数の選び方によらない。また、a<c<ba<c<bならば

∫abg(t) dt=∫acg(t) dt+∫cbg(t) dt\int_a^b g(t)\,dt=\int_a^c g(t)\,dt+\int_c^b g(t)\,dt

が成り立つ。区分的に連続なg,hg,hとλ,μ∈C\lambda,\mu\in\mathbb Cに対して

∫ab(λg+μh)=λ∫abg+μ∫abh\int_a^b(\lambda g+\mu h)=\lambda\int_a^b g+\mu\int_a^b h

も成り立つ。

証明. 連続実関数u:[p,q]→Ru:[p,q]\to\mathbb Rとp<r<qp<r<qに対して、U(x)=∫pxu(t) dtU(x)=\int_p^x u(t)\,dtとおく。§D1.19 定理 1.1と§D1.19 定理 2.1により

∫pqu=U(q)−U(p)=(U(r)−U(p))+(U(q)−U(r))=∫pru+∫rqu.(1)\int_p^q u=U(q)-U(p)=\bigl(U(r)-U(p)\bigr)+\bigl(U(q)-U(r)\bigr) =\int_p^r u+\int_r^q u. \tag{1}

二つの連続関数が開区間上で一致すれば、連続性により両端でも一致する。したがって、連続延長の選び方は各小区間の積分を変えない。適合する分割へ一点を加えたときには、(1) を実部と虚部へ適用すると値は変わらない。二つの適合する分割には分点の和集合という共通細分があるので、どちらも共通細分と同じ値を与える。これにより well-defined 性が従う。

ccを分点に加えて同じ議論を用いると区間加法性を得る。ggとhhの適合分割の共通細分を取る。一つの小区間[p,q][p,q]上の連続延長をg=x+iyg=x+iy、h=u+ivh=u+ivと書き、λ=α+iβ\lambda=\alpha+i\beta、μ=ρ+iσ\mu=\rho+i\sigmaと書くと、

Re⁡(λg+μh)=αx−βy+ρu−σv,Im⁡(λg+μh)=βx+αy+σu+ρv.\operatorname{Re}(\lambda g+\mu h)=\alpha x-\beta y+\rho u-\sigma v, \qquad \operatorname{Im}(\lambda g+\mu h)=\beta x+\alpha y+\sigma u+\rho v.

実積分の線形性(§D1.17 系 3.3)を右辺の各項へ適用して実部と虚部を組み直すと、その小区間上で

∫pq(λg+μh)=λ∫pqg+μ∫pqh\int_p^q(\lambda g+\mu h)=\lambda\int_p^q g+\mu\int_p^q h

となる。すべての小区間について加えれば、複素積分の線形性を得る。▨

補題 1.3.u,v:[a,b]→Ru,v:[a,b]\to\mathbb Rを区分的に連続とし、すべてのt∈[a,b]t\in[a,b]に対してu(t)≤v(t)u(t)\leq v(t)とする。このとき

∫abu(t) dt≤∫abv(t) dt\int_a^b u(t)\,dt\leq\int_a^b v(t)\,dt

が成り立つ。

証明.uuとvvの適合分割の共通細分をa=s0<⋯<sN=ba=s_0<\cdots<s_N=bとし、各小区間上の連続延長をuk,vk:[sk−1,sk]→Ru_k,v_k:[s_{k-1},s_k]\to\mathbb Rとする。開区間上ではuk≤vku_k\leq v_kであり、連続性から両端でもこの不等式が成り立つ。したがって、wk=vk−ukw_k=v_k-u_kは連続な非負関数である。

[sk−1,sk][s_{k-1},s_k]の任意の分割PPに対して、各小区間上のwkw_kの下限は非負であるため、下和の定義(§D1.17 定義 1.1)からL(wk,P)≥0L(w_k,P)\geq0である。wkw_kは§D1.17 定理 2.5により Riemann 可積分であり、上積分と下積分による可積分性の定義(§D1.17 定義 2.1)から

∫sk−1skwk(t) dt=sup⁡PL(wk,P)≥0\int_{s_{k-1}}^{s_k}w_k(t)\,dt=\sup_P L(w_k,P)\geq0

を得る。実積分の線形性(§D1.17 系 3.3)により∫vk−∫uk=∫wk≥0\int v_k-\int u_k=\int w_k\geq0である。これをすべての小区間について加えると結論を得る。▨

補題 1.4.g:[a,b]→Cg:[a,b]\to\mathbb Cを区分的に連続とする。このとき∣g∣|g|も区分的に連続であり、

∣∫abg(t) dt∣≤∫ab∣g(t)∣ dt\left|\int_a^b g(t)\,dt\right|\leq\int_a^b|g(t)|\,dt

が成り立つ。

証明.ggの各連続延長gkg_kに対して、逆三角不等式(§E5.1 命題 1.2)により∣gk∣|g_k|は連続である。したがって∣g∣|g|は区分的に連続である。

I=∫abg(t) dtI=\int_a^b g(t)\,dtとおく。I=0I=0ならば結論は明らかである。I≠0I\neq0の場合にはc=I‾/∣I∣c=\overline I/|I|とおくと、∣c∣=1|c|=1かつcI=∣I∣cI=|I|である。線形性により

∣I∣=Re⁡(cI)=∫abRe⁡(c g(t)) dt.|I|=\operatorname{Re}(cI) =\int_a^b\operatorname{Re}(c\,g(t))\,dt.

各ttについてRe⁡(c g(t))≤∣c g(t)∣=∣g(t)∣\operatorname{Re}(c\,g(t))\leq|c\,g(t)|=|g(t)|なので、補題 1.3を適用すると結論を得る。▨

2 曲線に沿う積分

定義 2.1.γ:[a,b]→C\gamma:[a,b]\to\mathbb Cが区分的に一階連続微分可能な曲線 (piecewise continuously differentiable curve) であるとは、γ\gammaが連続であり、ある分割a=t0<⋯<tN=ba=t_0<\cdots<t_N=bの各小区間上でγ\gammaが一階連続微分可能であることをいう。γ(a)\gamma(a)を始点 (initial point)、γ(b)\gamma(b)を終点 (terminal point)、像γ([a,b])\gamma([a,b])を曲線の台 (support of a curve) といい∣γ∣|\gamma|と書く。γ(a)=γ(b)\gamma(a)=\gamma(b)のとき、γ\gammaを閉曲線 (closed curve) という。曲線の長さ (length of a curve) を

L(γ)=∫ab∣γ′(t)∣ dtL(\gamma)=\int_a^b|\gamma'(t)|\,dt

と定める。分点におけるγ′\gamma'の値は隣接する小区間から得る値のどちらを選んでもよく、命題 1.2により長さはその選択に依存しない。

定義 2.2.γ:[a,b]→C\gamma:[a,b]\to\mathbb Cを区分的に一階連続微分可能な曲線、f:∣γ∣→Cf:|\gamma|\to\mathbb Cを連続関数とする。このとき

∫γf(z) dz:=∫abf(γ(t))γ′(t) dt\int_\gamma f(z)\,dz:=\int_a^b f(\gamma(t))\gamma'(t)\,dt

と定める。これを曲線に沿う複素積分 (contour integral) という。右辺の被積分関数は区分的に連続なので、定義 1.1により積分が存在する。

命題 2.3.f1,f2f_1,f_2を∣γ∣|\gamma|上の連続関数、c1,c2∈Cc_1,c_2\in\mathbb Cとする。このとき

∫γ(c1f1+c2f2)(z) dz=c1∫γf1(z) dz+c2∫γf2(z) dz\int_\gamma(c_1f_1+c_2f_2)(z)\,dz =c_1\int_\gamma f_1(z)\,dz+c_2\int_\gamma f_2(z)\,dz

が成り立つ。

証明.定義 2.2を代入し、命題 1.2の線形性を適用すればよい。▨

補題 2.4.h:[a,b]→Ch:[a,b]\to\mathbb Cを連続、φ:[c,d]→[a,b]\varphi:[c,d]\to[a,b]を一階連続微分可能とする。このとき

∫cdh(φ(s))φ′(s) ds=∫φ(c)φ(d)h(t) dt\int_c^d h(\varphi(s))\varphi'(s)\,ds =\int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}h(t)\,dt

が成り立つ。ただし上端が下端より小さい積分は符号を反転して定める。

証明.H(x)=∫axh(t) dtH(x)=\int_a^x h(t)\,dtとおく。実部と虚部へ§D1.19 定理 1.1を適用するとH′=hH'=hである。hhを[a,b][a,b]の外側では端点値で延長し、その積分によってHHも実数直線上へ一階連続微分可能に延長する。HHを実部と虚部からなる実二次元値写像とみなし、全微分の連鎖律(§E4.3 定理 1.1)を(c,d)(c,d)上で適用すると(H∘φ)′=(h∘φ)φ′(H\circ\varphi)'=(h\circ\varphi)\varphi'となる。したがって、実部と虚部へ§D1.19 定理 2.1を適用して

∫cd(h∘φ)(s)φ′(s) ds=H(φ(d))−H(φ(c))=∫φ(c)φ(d)h(t) dt\int_c^d(h\circ\varphi)(s)\varphi'(s)\,ds =H(\varphi(d))-H(\varphi(c)) =\int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}h(t)\,dt

を得る。▨

命題 2.5.γ:[a,b]→C\gamma:[a,b]\to\mathbb Cを区分的に一階連続微分可能、ffを∣γ∣|\gamma|上で連続とする。

  1. φ:[c,d]→[a,b]\varphi:[c,d]\to[a,b]が狭義単調増加な全単射であり、連続かつ区分的に一階連続微分可能ならば、γ∘φ\gamma\circ\varphiは同じ向きの曲線を定め、 ∫γ∘φf(z) dz=∫γf(z) dz\int_{\gamma\circ\varphi}f(z)\,dz=\int_\gamma f(z)\,dz が成り立つ。
  2. γ−(t)=γ(a+b−t)\gamma^{-}(t)=\gamma(a+b-t)とおくと、 ∫γ−f(z) dz=−∫γf(z) dz\int_{\gamma^-}f(z)\,dz=-\int_\gamma f(z)\,dz が成り立つ。

証明.φ\varphiの分点と、γ\gammaの分点のφ\varphiによる逆像で[c,d][c,d]を細分する。φ\varphiは狭義単調増加な連続全単射なので、それぞれの逆像は一意であり、得られた各小区間はφ\varphiの一つの一階連続微分可能な区間に含まれ、その像はγ\gammaの一つの一階連続微分可能な区間に含まれる。各小区間でh(t)=f(γ(t))γ′(t)h(t)=f(\gamma(t))\gamma'(t)は連続であり、連鎖律によって(γ∘φ)′(s)=γ′(φ(s))φ′(s)(\gamma\circ\varphi)'(s)=\gamma'(\varphi(s))\varphi'(s)である。したがって補題 2.4を各小区間へ適用して加えると

∫cdf(γ(φ(s)))(γ∘φ)′(s) ds=∫abf(γ(t))γ′(t) dt\int_c^d f(\gamma(\varphi(s)))(\gamma\circ\varphi)'(s)\,ds =\int_a^b f(\gamma(t))\gamma'(t)\,dt

となる。ここで単調増加な全射であることからφ(c)=a\varphi(c)=a、φ(d)=b\varphi(d)=bを用いた。

(2)ではψ(t)=a+b−t\psi(t)=a+b-tとおく。ψ(a)=b\psi(a)=b、ψ(b)=a\psi(b)=a、ψ′=−1\psi'=-1なので、同じ置換積分から

∫γ−f(z) dz=∫baf(γ(u))γ′(u) du=−∫abf(γ(u))γ′(u) du\int_{\gamma^-}f(z)\,dz =\int_b^a f(\gamma(u))\gamma'(u)\,du =-\int_a^b f(\gamma(u))\gamma'(u)\,du

を得る。▨

命題 2.6.γ1:[a,b]→C\gamma_1:[a,b]\to\mathbb Cとγ2:[b,c]→C\gamma_2:[b,c]\to\mathbb Cを区分的に一階連続微分可能とし、γ1(b)=γ2(b)\gamma_1(b)=\gamma_2(b)とする。両者をbbでつないだ曲線をγ1∗γ2\gamma_1*\gamma_2と書く。ffが∣γ1∣∪∣γ2∣|\gamma_1|\cup|\gamma_2|上で連続ならば

∫γ1∗γ2f(z) dz=∫γ1f(z) dz+∫γ2f(z) dz\int_{\gamma_1*\gamma_2}f(z)\,dz =\int_{\gamma_1}f(z)\,dz+\int_{\gamma_2}f(z)\,dz

が成り立つ。

証明.bbを分点とする適合分割を用いると、主張は命題 1.2の区間加法性そのものである。▨

3 サイクルと評価

定義 3.1. 区分的に一階連続微分可能な閉曲線の有限形式和

Γ=∑j=1mnjγj(nj∈Z)\Gamma=\sum_{j=1}^{m}n_j\gamma_j\qquad(n_j\in\mathbb Z)

をサイクル (cycle) という。同じ閉曲線の係数を加え、係数00の項を除いた形式和を同一視する。その台 (support of a cycle) と、台の上の連続関数ffの積分 (integral over a cycle) を

∣Γ∣=⋃nj≠0∣γj∣,∫Γf(z) dz=∑j=1mnj∫γjf(z) dz|\Gamma|=\bigcup_{n_j\neq0}|\gamma_j|, \qquad \int_\Gamma f(z)\,dz=\sum_{j=1}^{m}n_j\int_{\gamma_j}f(z)\,dz

と定める。空和を零サイクル (zero cycle) とし、その台を空集合、積分を00とする。

命題 3.2 (ML 不等式).γ\gammaを区分的に一階連続微分可能な曲線、ffを∣γ∣|\gamma|上の連続関数とし、∣f(z)∣≤M|f(z)|\leq Mが∣γ∣|\gamma|の上で成り立つとする。このとき

∣∫γf(z) dz∣≤ML(γ)\left|\int_\gamma f(z)\,dz\right|\leq M L(\gamma)

が成り立つ。さらに∣f∣≤M|f|\leq MがサイクルΓ=∑j=1mnjγj\Gamma=\sum_{j=1}^{m}n_j\gamma_jの台の上で成り立つならば、

∣∫Γf(z) dz∣≤M∑j=1m∣nj∣L(γj)\left|\int_\Gamma f(z)\,dz\right| \leq M\sum_{j=1}^{m}|n_j|L(\gamma_j)

である。

証明.∣f(γ(t))∣ ∣γ′(t)∣≤M∣γ′(t)∣|f(\gamma(t))|\,|\gamma'(t)|\leq M|\gamma'(t)|と補題 1.4、補題 1.3により

∣∫γf(z) dz∣≤∫ab∣f(γ(t))∣ ∣γ′(t)∣ dt≤M∫ab∣γ′(t)∣ dt=ML(γ)\left|\int_\gamma f(z)\,dz\right| \leq\int_a^b|f(\gamma(t))|\,|\gamma'(t)|\,dt \leq M\int_a^b|\gamma'(t)|\,dt =ML(\gamma)

である。サイクルの場合には定義 3.1の定義、三角不等式、および曲線ごとの評価を順に適用する。▨

例 3.3 (単位円周に沿う整数冪の積分).γ(θ)=eiθ\gamma(\theta)=e^{i\theta}(0≤θ≤2π0\leq\theta\leq2\pi)とする。このとき

∫γzn dz={2πi(n=−1),0(n∈Z, n≠−1)\int_\gamma z^n\,dz =\begin{cases} 2\pi i&(n=-1),\\ 0&(n\in\mathbb Z,\ n\neq-1) \end{cases}

である。

証明.§E5.3 定理 1.4と実正弦・余弦の微分公式(§D1.24 定理 1.3)からγ′(θ)=ieiθ\gamma'(\theta)=ie^{i\theta}である。したがって

∫γzn dz=i∫02πei(n+1)θ dθ.\int_\gamma z^n\,dz=i\int_0^{2\pi}e^{i(n+1)\theta}\,d\theta.

n=−1n=-1ならば右辺は2πi2\pi iである。n≠−1n\neq-1ならばei(n+1)θ/(i(n+1))e^{i(n+1)\theta}/(i(n+1))が被積分関数の原始関数であるため、§D1.19 定理 2.1とe2πi(n+1)=1e^{2\pi i(n+1)}=1(§E5.3 命題 1.7)から右辺は00となる。▨

例 3.4 (大きな半円に沿う積分が消えること).f(z)=1/(z2+1)f(z)=1/(z^2+1)、R>1R>1とし、ΓR(θ)=Reiθ\Gamma_R(\theta)=Re^{i\theta}(0≤θ≤π0\leq\theta\leq\pi)とおく。∣z∣=R|z|=Rの上では

∣z2+1∣≥R2−1,L(ΓR)=πR|z^2+1|\geq R^2-1, \qquad L(\Gamma_R)=\pi R

である。したがって命題 3.2により

∣∫ΓRdzz2+1∣≤πRR2−1⟶0(R→∞)\left|\int_{\Gamma_R}\frac{dz}{z^2+1}\right| \leq\frac{\pi R}{R^2-1}\longrightarrow0\qquad(R\to\infty)

となる。

4 原始関数

補題 4.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、F:U→CF:U\to\mathbb Cを正則関数、γ:[a,b]→U\gamma:[a,b]\to Uをt0t_0で微分可能な曲線とする。このとき

ddtF(γ(t))∣t=t0=F′(γ(t0))γ′(t0)\frac{d}{dt}F(\gamma(t))\bigg|_{t=t_0} =F'(\gamma(t_0))\gamma'(t_0)

が成り立つ。

証明.w0=γ(t0)w_0=\gamma(t_0)とし、

η(w)={F(w)−F(w0)w−w0−F′(w0)(w≠w0),0(w=w0)\eta(w)= \begin{cases} \dfrac{F(w)-F(w_0)}{w-w_0}-F'(w_0)&(w\neq w_0),\\ 0&(w=w_0) \end{cases}

とおく。FFの複素微分可能性からη(w)→0\eta(w)\to0(w→w0w\to w_0)であり、

F(w)−F(w0)=(F′(w0)+η(w))(w−w0)F(w)-F(w_0)=\bigl(F'(w_0)+\eta(w)\bigr)(w-w_0)

が成り立つ。w=γ(t)w=\gamma(t)を代入してt−t0t-t_0で割ると、γ\gammaの微分可能性と連続性により、右辺はF′(w0)γ′(t0)F'(w_0)\gamma'(t_0)へ収束する。▨

定理 4.2.D⊆CD\subseteq\mathbb Cを開集合、f:D→Cf:D\to\mathbb Cを連続関数とする。DDの上の正則関数FFがF′=fF'=fを満たすとき、FFをffの原始関数 (primitive) という。γ:[a,b]→D\gamma:[a,b]\to Dを区分的に一階連続微分可能な曲線とすると

∫γf(z) dz=F(γ(b))−F(γ(a))\int_\gamma f(z)\,dz=F(\gamma(b))-F(\gamma(a))

が成り立つ。

証明.a=t0<⋯<tN=ba=t_0<\cdots<t_N=bをγ\gammaに適合する分割とする。補題 4.1により、各小区間上で

ddtF(γ(t))=F′(γ(t))γ′(t)=f(γ(t))γ′(t)\frac{d}{dt}F(\gamma(t))=F'(\gamma(t))\gamma'(t)=f(\gamma(t))\gamma'(t)

である。実部と虚部へ§D1.19 定理 2.1を適用すると

∫tk−1tkf(γ(t))γ′(t) dt=F(γ(tk))−F(γ(tk−1)).\int_{t_{k-1}}^{t_k}f(\gamma(t))\gamma'(t)\,dt =F(\gamma(t_k))-F(\gamma(t_{k-1})).

kkについて加えると右辺は望遠鏡状に打ち消し、左辺は定義 2.2により∫γf(z) dz\int_\gamma f(z)\,dzとなる。▨

命題 4.3.DDを領域、ffをDDの上の正則関数とし、DDの各点でf′=0f'=0であるとする。このときffはDDの上で定数である。

証明.z,w∈Dz,w\in Dを取る。§E5.1 命題 1.4により、zzとwwはDDに含まれる折れ線γ\gammaで結ばれる。零関数の原始関数としてffを用いて定理 4.2を適用すると

0=∫γ0 dζ=f(w)−f(z)0=\int_\gamma0\,d\zeta=f(w)-f(z)

である。z,wz,wは任意なのでffは定数である。▨

系 4.4.DD上の連続関数ffがDD上に原始関数をもち、∣Γ∣⊆D|\Gamma|\subseteq Dを満たすサイクルΓ\Gammaを取ると

∫Γf(z) dz=0\int_\Gamma f(z)\,dz=0

である。とくに、原始関数をもつ関数の閉曲線に沿う積分は00である。

証明.Γ=∑jnjγj\Gamma=\sum_jn_j\gamma_jと書く。各γj\gamma_jは閉曲線なので、定理 4.2により∫γjf=0\int_{\gamma_j}f=0である。定義 3.1の定義から∫Γf=∑jnj∫γjf=0\int_\Gamma f=\sum_jn_j\int_{\gamma_j}f=0を得る。▨

例 4.5 (原始関数をもつ場合ともたない場合).n∈Z∖{−1}n\in\mathbb Z\setminus\{-1\}とする。n≥0n\geq0の場合はC\mathbb C上で、n≤−2n\leq-2の場合はC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}上で、zn+1/(n+1)z^{n+1}/(n+1)はznz^nの原始関数である(§E5.2 系 1.3)。したがって閉曲線上の積分は00となり、例 3.3と一致する。

一方、1/z1/zの単位円周上の積分は2πi2\pi iなので、系 4.4の対偶から1/z1/zはC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}上に原始関数をもたない。切断平面D0D_0上では§E5.3 命題 2.10によりLog⁡\operatorname{Log}が1/z1/zの原始関数である。

例 4.6 (異なる二つの経路に沿う積分).00から1+i1+iへ至る線分γ1\gamma_1と、00から11を経て1+i1+iへ至る折れ線γ2\gamma_2を取る。F(z)=z3/3F(z)=z^3/3はf(z)=z2f(z)=z^2のC\mathbb C上の原始関数なので、定理 4.2により

∫γ1z2 dz=∫γ2z2 dz=F(1+i)−F(0)=−23+23i\int_{\gamma_1}z^2\,dz =\int_{\gamma_2}z^2\,dz =F(1+i)-F(0)=-\frac23+\frac23i

である。経路が異なっても値が一致する理由は、被積分関数が定義域全体で一価な原始関数をもつことにある。

5 演習

問題 5.1 (向きを保たない径数変更).γ(t)=t\gamma(t)=t(0≤t≤10\leq t\leq1)とし、φ:[0,1]→[0,1]\varphi:[0,1]\to[0,1]を、00から11へ進んだ後に00へ戻る区分的一次関数とする。f(z)=1f(z)=1についてγ∘φ\gamma\circ\varphiの各区間の積分を計算し、φ\varphiが全射であるにもかかわらず∫γ∘φdz=∫γdz\int_{\gamma\circ\varphi}dz=\int_\gamma dzが成り立たないことを示せ。

解答.

たとえば

φ(s)={2s(0≤s≤1/2),2−2s(1/2≤s≤1)\varphi(s)= \begin{cases} 2s&(0\leq s\leq1/2),\\ 2-2s&(1/2\leq s\leq1) \end{cases}

とする。二つの区間の積分は順に1,−11,-1なので、全積分は00である。一方、∫γdz=1\int_\gamma dz=1である。φ\varphiは全射だが狭義単調増加でなく、同じ台を逆向きにもたどるため、二つの積分は一致しない。▨

問題 5.2 (サイクルの ML 評価).Γ=2γ1−3γ2\Gamma=2\gamma_1-3\gamma_2とし、L(γ1)=4L(\gamma_1)=4、L(γ2)=5L(\gamma_2)=5とする。∣f∣≤7|f|\leq7が∣Γ∣|\Gamma|上で成り立つとき、∣∫Γf(z) dz∣|\int_\Gamma f(z)\,dz|の上界を求めよ。

解答.

命題 3.2のサイクル版により

∣∫Γf(z) dz∣≤7(2⋅4+3⋅5)=161\left|\int_\Gamma f(z)\,dz\right| \leq7(2\cdot4+3\cdot5)=161

である。▨

問題 5.3 (原始関数と経路独立性).DD上の連続関数ffが原始関数FFをもつとする。DD内の二つの区分的に一階連続微分可能な曲線γ1,γ2\gamma_1,\gamma_2が同じ始点と終点をもつとき、∫γ1f=∫γ2f\int_{\gamma_1}f=\int_{\gamma_2}fを示せ。さらに1/z1/zとD=C∖{0}D=\mathbb C\setminus\{0\}では同じ結論を導くことができない理由を述べよ。

解答.

定理 4.2により、どちらの積分も終点におけるFFの値から始点におけるFFの値を引いたものに等しい。1/z1/zは単位円周上の積分が2πi2\pi iであるため、例 4.5によりC∖{0}\mathbb C\setminus\{0\}上に一価な原始関数をもたない。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.曲線に沿う積分、サイクル、および原始関数による積分表示を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.区分的に一階連続微分可能な曲線とサイクルに沿う積分を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.線積分の再パラメータ化に対する不変性と ML 不等式を参考にした。

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