§E5.6Cauchy の積分公式

最終更新

曲線に沿う積分は、曲線上の関数の値を一周にわたって集計する。しかし、前の記事で示したように、正則関数そのものの積分は、適切なサイクルに沿えば消える。境界上の値から内部の一点の値を読み取るには、評価点を特異点としてもつ核を積分へ組み込む必要がある。

この役割を担うのが1/(ζ−z)1/(\zeta-z)という核である。評価点zzの周囲の回転数が、核の特異点から生じる寄与を係数として記録するため、Cauchy の積分公式は境界上の値から内部の値を回収する。例えば、単位円周上でf(ζ)=1+ζf(\zeta)=1+\zetaを考えると、z=0z=0における正規化した積分の値は11となり、中心の値f(0)f(0)と一致する。この対応は、単に積分が消えるという結論を、関数の値と導関数を境界データから再構成する原理へ転換する。

本記事では、Cauchy の積分公式と、その高階導関数への帰結を解説する。

1 差商の除去可能性

補題 1.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUUの上の正則関数、z∈Uz\in Uとする。

gz(ζ)={f(ζ)−f(z)ζ−z(ζ∈U, ζ≠z),f′(z)(ζ=z)g_{z}(\zeta)=\begin{cases}\dfrac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z} & (\zeta\in U,\ \zeta\ne z),\\[2mm] f'(z) & (\zeta=z)\end{cases}

と定めると、gzg_{z}はUUの上で連続であり、U∖{z}U\setminus\{z\}の上で正則である。とくにgzg_{z}はzzのある近傍の上で有界である。

証明.ζ≠z\zeta\ne zでは分母が消えないため、§E5.2 命題 1.2によりgzg_zは正則である。一方、ffがzzで複素微分可能であることは

lim⁡ζ→zf(ζ)−f(z)ζ−z=f′(z)\lim_{\zeta\to z}\frac{f(\zeta)-f(z)}{\zeta-z}=f'(z)

を意味する(§E5.2 定義 1.1)。右辺をgz(z)g_z(z)と定めたのでgzg_zはzzでも連続であり、UU全体で連続である。連続性から、あるρ>0\rho>0とM>0M>0が存在してD‾(z,ρ)⊆U\overline D(z,\rho)\subseteq Uかつ∣gz(ζ)∣≤M|g_z(\zeta)|\le M(∣ζ−z∣≤ρ|\zeta-z|\le\rho)となる。▨

2 回転数を係数とする積分公式

定理 2.1 (Cauchy の積分公式).U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUUの上の正則関数、Γ\GammaをUUの内部で零ホモローグなサイクルとする。このとき、z∈U∖∣Γ∣z\in U\setminus|\Gamma|について

n(Γ,z) f(z)=12πi∫Γf(ζ)ζ−z dζn(\Gamma,z)\,f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\Gamma}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta

が成り立つ。

とくに、閉円板{ζ:∣ζ−a∣≤r}\{\zeta:|\zeta-a|\le r\}がUUに含まれ、CrC_{r}をその境界の反時計回りの円周とすると、CrC_{r}はUUの内部で零ホモローグであり、∣z−a∣<r|z-a|<rを満たすzzについて

f(z)=12πi∮Crf(ζ)ζ−z dζf(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta

が成り立つ。

証明.k=n(Γ,z)k=n(\Gamma,z)とおく。§E5.4 定義 3.1により∣Γ∣|\Gamma|は有限個の曲線像の和である。各曲線像は§E2.9 定理 4.3と§E2.19 定理 4.2によりコンパクトであり、その有限和も§E2.19 補題 2.8によりコンパクトである。したがって§E2.9 系 4.1により∣Γ∣|\Gamma|は閉集合である。UUは開集合でz∈U∖∣Γ∣z\in U\setminus|\Gamma|だから、ε>0\varepsilon>0を、D‾(z,ε)⊆U\overline D(z,\varepsilon)\subseteq UかつD‾(z,ε)∩∣Γ∣=∅\overline D(z,\varepsilon)\cap|\Gamma|=\varnothingとなるように取ることができる。中心zz、半径ε\varepsilonの反時計回りの円周をCεC_\varepsilonとし、V=U∖{z}V=U\setminus\{z\}、Σ=Γ−kCε\Sigma=\Gamma-kC_\varepsilonとおく。

Σ\SigmaがVVの内部で零ホモローグであることを確認する。台はVVに含まれる。p∉Vp\notin Vならばp=zp=zまたはp∉Up\notin Uである。前者では§E5.5 命題 5.6によりn(Cε,z)=1n(C_{\varepsilon},z)=1であるからn(Σ,z)=k−k=0n(\Sigma,z)=k-k=0である。後者では零ホモローグ性からn(Γ,p)=0n(\Gamma,p)=0であり、D‾(z,ε)⊆U\overline D(z,\varepsilon)\subseteq Uなのでppは円板の外にある。したがって同じ回転数命題からn(Cε,p)=0n(C_\varepsilon,p)=0、ゆえにn(Σ,p)=0n(\Sigma,p)=0である。

ζ↦f(ζ)/(ζ−z)\zeta\mapsto f(\zeta)/(\zeta-z)は§E5.2 命題 1.2によりVVの上で正則である。したがって§E5.5 定理 6.6をΣ\Sigmaへ適用すると

∫Γf(ζ)ζ−z dζ=k∮Cεf(ζ)ζ−z dζ(1)\int_{\Gamma}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta =k\oint_{C_{\varepsilon}}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta \tag{1}

を得る。

ここで補題 1.1のgzg_zを用いる。CεC_\varepsilon上でf(ζ)/(ζ−z)=f(z)/(ζ−z)+gz(ζ)f(\zeta)/(\zeta-z)=f(z)/(\zeta-z)+g_{z}(\zeta)であるから、回転数の定義と§E5.5 命題 5.6により

∮Cεf(ζ)ζ−z dζ=2πi f(z)+∮Cεgz(ζ) dζ\oint_{C_{\varepsilon}}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta =2\pi i\,f(z)+\oint_{C_{\varepsilon}}g_{z}(\zeta)\,d\zeta

である。ε\varepsilonをさらに小さくすれば、同補題によりCεC_\varepsilon上で∣gz∣≤M|g_z|\le Mとすることができる。円周の長さは2πε2\pi\varepsilonなので、ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)から

∣∮Cεgz(ζ) dζ∣≤2πεM⟶0(ε→0+)\left|\oint_{C_{\varepsilon}}g_{z}(\zeta)\,d\zeta\right|\le 2\pi\varepsilon M \longrightarrow0\qquad(\varepsilon\to0^{+})

を得る。式 (1) は条件を満たす任意の十分小さいε\varepsilonについて成り立つので、極限を取ると

∫Γf(ζ)ζ−z dζ=k⋅2πi f(z)\int_{\Gamma}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=k\cdot2\pi i\,f(z)

である。

最後に円周の場合を導く。p∉Up\notin Uならばp∉D‾(a,r)p\notin\overline D(a,r)であるから§E5.5 命題 5.6によりn(Cr,p)=0n(C_{r},p)=0であり、CrC_{r}はUUの内部で零ホモローグである。∣z−a∣<r|z-a|<rのときn(Cr,z)=1n(C_{r},z)=1であるから、一般形から主張の等式が従う。▨

3 積分と微分の交換

積分と評価点に関する微分を交換する補題を示す。

補題 3.1.Γ\Gammaをサイクル、φ\varphiを∣Γ∣|\Gamma|の上の連続関数とし、正の整数mmに対して

Fm(z)=∫Γφ(ζ)(ζ−z)m dζ(z∈Ω=C∖∣Γ∣)F_{m}(z)=\int_{\Gamma}\frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta-z)^{m}}\,d\zeta \qquad(z\in\Omega=\mathbb C\setminus|\Gamma|)

と定める。このときFmF_{m}はΩ\Omegaの上で正則であり、Fm′=m Fm+1F_{m}'=m\,F_{m+1}が成り立つ。

証明.∣Γ∣=∅|\Gamma|=\varnothingならば両関数は空和として00である。以下では∣Γ∣≠∅|\Gamma|\ne\varnothingとする。Γ=∑j=1Nnjγj\Gamma=\sum_{j=1}^N n_j\gamma_jと書く。各曲線の定義区間は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。各曲線像は§E2.19 定理 4.2によりコンパクトであり、§E2.19 補題 2.8により、有限個の像の和∣Γ∣|\Gamma|もコンパクトである。

z0∈Ωz_0\in\Omegaを固定する。§E1.14 定義 4.1によりC\mathbb Cを実数の組と同一視すると、∣ζ−z0∣|\zeta-z_0|は§E2.1 定義 3.2の Euclid 距離に一致する。連続関数ζ↦∣ζ−z0∣\zeta\mapsto|\zeta-z_0|は、§E2.19 定理 4.4により∣Γ∣|\Gamma|上で正の最小値ddを取る。0<∣h∣<d/20<|h|<d/2とし、a=ζ−z0−ha=\zeta-z_0-h、b=ζ−z0b=\zeta-z_0とおくと

∣a∣≥d/2,∣b∣≥d,b−a=h.(2)|a|\ge d/2,\qquad |b|\ge d,\qquad b-a=h. \tag{2}

恒等式bm−am=(b−a)∑j=0m−1ajbm−1−jb^m-a^m=(b-a)\sum_{j=0}^{m-1}a^jb^{m-1-j}から

Qh(ζ):=1h(1(ζ−z0−h)m−1(ζ−z0)m)=∑j=0m−11am−jbj+1(3)Q_h(\zeta):=\frac1h\left(\frac1{(\zeta-z_0-h)^m}-\frac1{(\zeta-z_0)^m}\right) =\sum_{j=0}^{m-1}\frac1{a^{m-j}b^{j+1}} \tag{3}

を得る。式 (2) とa→ba\to bから、各項は1/bm+11/b^{m+1}へ∣Γ∣|\Gamma|上で一様に収束する。定量的には、∣Γ∣|\Gamma|のコンパクト性から∣b∣≤R|b|\le RとなるRRを取り、冪の差の因数分解をもう一度用いると、m,d,Rm,d,Rだけに依存する定数AAが存在して

sup⁡ζ∈∣Γ∣∣Qh(ζ)−m(ζ−z0)m+1∣≤A∣h∣(4)\sup_{\zeta\in|\Gamma|}\left|Q_h(\zeta)-\frac{m}{(\zeta-z_0)^{m+1}}\right|\le A|h| \tag{4}

となる。実際、式 (3) の第jj項との差は、k=m−jk=m-jとして

∣bk−ak∣∣a∣k∣b∣m+1≤∣h∣k(R+d/2)k−1(d/2)kdm+1\frac{|b^k-a^k|}{|a|^k|b|^{m+1}} \le |h|\frac{k(R+d/2)^{k-1}}{(d/2)^k d^{m+1}}

であり、有限個の項を加えればよい。

また∣φ∣|\varphi|はコンパクト集合∣Γ∣|\Gamma|上で最大値KKを取る。同じ表示における重み付き全長をLΓ=∑j∣nj∣L(γj)L_\Gamma=\sum_j|n_j|L(\gamma_j)とおく。積分の線形性と ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)を式 (4) へ適用すると

∣Fm(z0+h)−Fm(z0)h−mFm+1(z0)∣≤LΓKA∣h∣⟶0\left|\frac{F_m(z_0+h)-F_m(z_0)}h-mF_{m+1}(z_0)\right| \le L_\Gamma KA|h|\longrightarrow0

である。したがってFm′(z0)=mFm+1(z0)F_m'(z_0)=mF_{m+1}(z_0)である。z0z_0は任意なのでFmF_mはΩ\Omega上で正則である。▨

4 高階導関数の積分表示

定理 4.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUUの上の正則関数とする。このときffはUUの上で何回でも複素微分可能である。さらに、Γ\GammaがUUの内部で零ホモローグなサイクルならば、z∈U∖∣Γ∣z\in U\setminus|\Gamma|と非負整数mmについて

n(Γ,z) f(m)(z)=m!2πi∫Γf(ζ)(ζ−z)m+1 dζn(\Gamma,z)\,f^{(m)}(z)=\frac{m!}{2\pi i}\int_{\Gamma}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{m+1}}\,d\zeta

が成り立つ。とくに、閉円板{ζ:∣ζ−a∣≤r}\{\zeta:|\zeta-a|\le r\}がUUに含まれ、∣z−a∣<r|z-a|<rならば

f(m)(z)=m!2πi∮∣ζ−a∣=rf(ζ)(ζ−z)m+1 dζf^{(m)}(z)=\frac{m!}{2\pi i}\oint_{|\zeta-a|=r}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{m+1}}\,d\zeta

である。

証明.a∈Ua\in Uを任意に取り、D‾(a,r)⊆U\overline D(a,r)\subseteq Uとなるr>0r>0を選ぶ。境界円周を反時計回りにCrC_rと書く。定理 2.1の円周版により、z∈D(a,r)z\in D(a,r)について

f(z)=12πi∮Crf(ζ)ζ−z dζ=12πiF1(z)f(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=\frac{1}{2\pi i}F_{1}(z)

である。FmF_mは補題 3.1でΓ=Cr\Gamma=C_r、φ=f∣Cr\varphi=f|_{C_r}とした関数である。同補題から各FmF_mは正則でFm′=mFm+1F_m'=mF_{m+1}であり、帰納法で

F1(m)=m! Fm+1F_{1}^{(m)}=m!\,F_{m+1}

が成り立つ。帰納段階はF1(m+1)=m!Fm+1′=(m+1)!Fm+2F_1^{(m+1)}=m!F_{m+1}'=(m+1)!F_{m+2}である。したがって

f(m)(z)=12πiF1(m)(z)=m!2πi∮Crf(ζ)(ζ−z)m+1 dζf^{(m)}(z)=\frac{1}{2\pi i}F_{1}^{(m)}(z)=\frac{m!}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{m+1}}\,d\zeta

である。aaが任意なので、ffはUU上で何回でも複素微分可能であり、円周版も得られた。

一般のサイクルについてz0∈U∖∣Γ∣z_0\in U\setminus|\Gamma|とk=n(Γ,z0)k=n(\Gamma,z_0)を固定する。§E5.5 命題 5.4により、ある近傍W⊆U∖∣Γ∣W\subseteq U\setminus|\Gamma|上でn(Γ,z)=kn(\Gamma,z)=kである。Cauchy の積分公式からWW上で

k f(z)=12πi∫Γf(ζ)ζ−z dζ=12πiF1(z)k\,f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\Gamma}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\,d\zeta=\frac{1}{2\pi i}F_{1}(z)

である。両辺をmm回微分し、評価点微分補題を帰納的に用いると

k f(m)(z)=12πiF1(m)(z)=m!2πi∫Γf(ζ)(ζ−z)m+1 dζk\,f^{(m)}(z)=\frac{1}{2\pi i}F_{1}^{(m)}(z)=\frac{m!}{2\pi i}\int_{\Gamma}\frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{m+1}}\,d\zeta

を得る。z=z0z=z_0とすれば主張の等式である。▨

系 4.2 (Cauchy の評価).U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUUの上の正則関数とし、閉円板D‾(a,r)\overline{D}(a,r)がUUに含まれるとする。円周∣ζ−a∣=r|\zeta-a|=rの上で∣f(ζ)∣≤M|f(\zeta)|\le Mならば、すべての非負整数mmについて

∣f(m)(a)∣≤m! Mrm\bigl|f^{(m)}(a)\bigr|\le\frac{m!\,M}{r^{m}}

が成り立つ。

証明.定理 4.1の円周版をz=az=aで用いる。円周上で被積分関数の絶対値はM/rm+1M/r^{m+1}以下であり、円周の長さは2πr2\pi rである。ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)により

∣f(m)(a)∣≤m!2π⋅Mrm+1⋅2πr=m! Mrm\bigl|f^{(m)}(a)\bigr|\le\frac{m!}{2\pi}\cdot\frac{M}{r^{m+1}}\cdot2\pi r=\frac{m!\,M}{r^{m}}

を得る。▨

注意 4.3 (Cauchy の評価から得られる二つの帰結).系 4.2でm=1m=1とすると∣f′(a)∣≤M/r|f'(a)|\le M/rである。整関数ffが全平面で一つの定数MMによって有界ならば、任意に大きいrrを用いることができ、r→∞r\to\inftyからf′(a)=0f'(a)=0を得る。この観察から導かれる Liouville の定理と代数学の基本定理は、後続の「最大値原理」の記事で完全に証明する。

5 サイクルによる積分路の変形

積分路の差を零ホモローグなサイクルとして表すと、一般Cauchy–Goursat定理から変形公式を得る。

命題 5.1.R>0R>0、a,b∈Ca,b\in\mathbb C、∣b−a∣<R|b-a|<Rとし、ggが{ζ:∣ζ−a∣≤R}∖{b}\{\zeta:|\zeta-a|\le R\}\setminus\{b\}を含む開集合WWの上で正則であるとする。0<ε<R−∣b−a∣0<\varepsilon<R-|b-a|ならば、二つの円周を反時計回りに取って

∮∣ζ−a∣=Rg(ζ) dζ=∮∣ζ−b∣=εg(ζ) dζ\oint_{|\zeta-a|=R}g(\zeta)\,d\zeta=\oint_{|\zeta-b|=\varepsilon}g(\zeta)\,d\zeta

が成り立つ。

証明.CRC_RとCεC_\varepsilonを定理の二円周とし、Γ=CR−Cε\Gamma=C_R-C_\varepsilonとおく。内側円周上では∣ζ−a∣≤∣b−a∣+ε<R|\zeta-a|\le|b-a|+\varepsilon<Rかつζ≠b\zeta\ne bであるから、∣Γ∣⊆W|\Gamma|\subseteq Wである。

p∉Wp\notin Wならばp=bp=bまたは∣p−a∣>R|p-a|>Rである。前者では§E5.5 命題 5.6によりn(CR,b)=1n(C_{R},b)=1、n(Cε,b)=1n(C_{\varepsilon},b)=1でありn(Γ,b)=0n(\Gamma,b)=0である。後者ではn(CR,p)=0n(C_R,p)=0であり、∣p−b∣≥∣p−a∣−∣a−b∣>R−(R−ε)=ε|p-b|\ge|p-a|-|a-b|>R-(R-\varepsilon)=\varepsilonであるからn(Cε,p)=0n(C_{\varepsilon},p)=0であり、n(Γ,p)=0n(\Gamma,p)=0である。ゆえにΓ\GammaはWWの内部で零ホモローグであり、§E5.5 定理 6.6により∫Γg=0\int_\Gamma g=0となる。これを二円周の積分へ展開すればよい。▨

命題 5.2.0<r<R0<r<Rとし、ggが閉円環{ζ:r≤∣ζ−a∣≤R}\{\zeta:r\le|\zeta-a|\le R\}を含む開集合WWの上で正則であるとする。このとき、二つの円周を反時計回りに取って

∮∣ζ−a∣=Rg(ζ) dζ=∮∣ζ−a∣=rg(ζ) dζ\oint_{|\zeta-a|=R}g(\zeta)\,d\zeta=\oint_{|\zeta-a|=r}g(\zeta)\,d\zeta

が成り立つ。

証明.Γ=CR−Cr\Gamma=C_R-C_rとおく。その台はWWに含まれる。p∉Wp\notin Wならば∣p−a∣<r|p-a|<rまたは∣p−a∣>R|p-a|>Rである。前者では§E5.5 命題 5.6によりn(CR,p)=n(Cr,p)=1n(C_{R},p)=n(C_{r},p)=1、後者ではn(CR,p)=n(Cr,p)=0n(C_{R},p)=n(C_{r},p)=0であるから、いずれの場合もn(Γ,p)=0n(\Gamma,p)=0である。§E5.5 定理 6.6により∫Γg=0\int_\Gamma g=0であり、二積分が等しい。▨

定義 5.3.RRを座標軸に平行な閉長方形とし、S1,…,SkS_1,\ldots,S_kをRRの内部に含まれる座標軸に平行な閉長方形とする。各SjS_jの内部は互いに交わらないと仮定する。RRとSjS_jの正向きの境界をそれぞれCC、CjC_jと書き、

A=R∖⋃j=1kint⁡(Sj)A=R\setminus\bigcup_{j=1}^{k}\tpint{S_{j}}

を穴あき長方形領域 (rectangular domain with holes) という。その向きづけられた境界サイクルはC−∑j=1kCjC-\sum_{j=1}^kC_jである。

命題 5.4.定義 5.3のAAを含む開集合WWの上でggが正則ならば

∮Cg(ζ) dζ=∑j=1k∮Cjg(ζ) dζ\oint_{C}g(\zeta)\,d\zeta=\sum_{j=1}^{k}\oint_{C_{j}}g(\zeta)\,d\zeta

が成り立つ。

証明.Γ=C−∑j=1kCj\Gamma=C-\sum_{j=1}^{k}C_{j}とおく。CCと各CjC_{j}はAAに含まれるので∣Γ∣⊆W|\Gamma|\subseteq Wである。実際、∂R⊆A\partial R\subseteq Aであり、SjS_{j}はRRの内部に含まれ互いに内部が交わらないから∂Sj⊆A\partial S_{j}\subseteq Aである。

p∉Wp\notin Wとするとp∉Ap\notin Aである。p∉Rp\notin Rのときは§E5.5 命題 5.6によりn(C,p)=0n(C,p)=0かつ全てのjjについてn(Cj,p)=0n(C_{j},p)=0であるからn(Γ,p)=0n(\Gamma,p)=0である。p∈Rp\in Rのときはp∈int⁡(Si)p\in\tpint{S_{i}}を満たすiiが存在する。このときppはRRの内部にあるのでn(C,p)=1n(C,p)=1であり、n(Ci,p)=1n(C_{i},p)=1である。j≠ij\ne iについてはp∉Sjp\notin S_{j}である。実際、p∈Sjp\in S_{j}とすると、ppの近傍がint⁡(Si)\tpint{S_{i}}に含まれるのでint⁡(Si)\tpint{S_{i}}とint⁡(Sj)\tpint{S_{j}}が交わり、仮定に反する。したがってn(Cj,p)=0n(C_{j},p)=0であり、n(Γ,p)=1−1=0n(\Gamma,p)=1-1=0である。

ゆえにΓ\GammaはWWの内部で零ホモローグである。§E5.5 定理 6.6による∫Γg=0\int_\Gamma g=0を展開すると主張を得る。▨

6 演習

問題 6.1 (二重にたどる円周の積分公式).CCをaaを中心とする円周を反時計回りに二周する閉曲線とし、ffが円板を含む開集合上で正則であるとする。zzが円板の内部にあるとき、n(C,z)n(C,z)と12πi∫Cf(ζ)/(ζ−z) dζ\dfrac1{2\pi i}\int_C f(\zeta)/(\zeta-z)\,d\zetaを求めよ。

解答.

一周する円周の回転数は§E5.5 命題 5.6により11であり、二周では積分の加法性からn(C,z)=2n(C,z)=2である。したがって定理 2.1により、求める積分は2f(z)2f(z)である。係数が常に11ではなく回転数になることが観察できる。▨

問題 6.2 (中心を動かしたCauchy評価).U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、ffをUU上の正則関数とし、D‾(a,R)⊆U\overline D(a,R)\subseteq Uとする。円周∣ζ−a∣=R|\zeta-a|=R上で∣f(ζ)∣≤M|f(\zeta)|\le Mとする。∣z−a∣<R|z-a|<Rを満たすzzと任意の非負整数mmに対して

∣f(m)(z)∣≤m!M(R−∣z−a∣)m+1R|f^{(m)}(z)|\le\frac{m!M}{(R-|z-a|)^{m+1}}R

を、中心aa、半径RRの円周に沿う高階導関数表示から示せ。

解答.

円周上では逆三角不等式から∣ζ−z∣≥R−∣z−a∣|\zeta-z|\ge R-|z-a|である。定理 4.1と円周の長さ2πR2\pi Rに ML 不等式を適用すると

∣f(m)(z)∣≤m!2πM(R−∣z−a∣)m+12πR|f^{(m)}(z)|\le\frac{m!}{2\pi}\frac{M}{(R-|z-a|)^{m+1}}2\pi R

となり、主張を得る。中心で用いる系 4.2より弱い形ではなく、評価点と積分路との実際の距離を反映した評価である。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.回転数を係数とする積分公式と高階導関数の表示を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.零ホモローグなサイクルに対する積分公式を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.パラメータを含む積分の微分と Cauchy の評価を参考にした。

前提記事