§E5.11Laurent 展開と孤立特異点

最終更新

正則性が一点で途切れると、その点を囲む小さな円環の上では関数をなお正則関数として観察することができる。しかし、中心を含む円板と中心を除いた円環では、同じ関数の局所的な表現が異なる。円環は、正則性が及ぶ範囲と特異点の位置を同時に記述するための領域である。

Taylor 級数は中心で正則な関数を正の冪の級数で表すが、f(z)=1/(z−a)f(z)=1/(z-a)は0<∣z−a∣<R0<|z-a|<Rで正則であっても中心aaを含む Taylor 級数では表せない。この不足を補うのが負の冪を許す Laurent 展開である。例えばこの関数では(z−a)−1(z-a)^{-1}が中心の周りの振る舞いをそのまま記録する。

Laurent 展開の負の冪部分は、関数を中心で正則に延長することができるのか、有限の位数をもつ極なのか、無限に多くの負の冪を必要とする真性特異点なのかを区別する。これは単なる表示の拡張ではなく、局所的な有界性から特異点の性質を判定し、特異点の近くで関数が取り得る値の広がりを理解するための基礎となる。

前の記事の Taylor 展開は Laurent 展開の正の冪部分を支え、次の記事以降では負の冪の係数が積分と留数を結び付ける。本記事では、円環上の展開と孤立特異点の基本的な分類を解説する。

1 円環に沿う積分についての準備

定義 1.1.a∈Ca\in\mathbb Cと0≤r<R≤∞0\le r<R\le\inftyに対して

A(a;r,R)={z∈C:r<∣z−a∣<R}A(a;r,R)=\{z\in\mathbb C:r<|z-a|<R\}

と定める。この集合を円環 (annulus) という。R=∞R=\inftyのときは上側の不等式を課さない。ρ>0\rho>0に対して、CρC_\rhoはw=a+ρeitw=a+\rho e^{it}(0≤t≤2π0\le t\le2\pi)によって反時計回りにたどる円周を表す。このCρC_\rhoを境界円周 (boundary circle) という。

補題 1.2.a∈Ca\in\mathbb C、ρ>0\rho>0、j∈Zj\in\mathbb Zとする。このとき

∮Cρ(z−a)j dz={2πi,j=−1,0,j≠−1\oint_{C_\rho}(z-a)^j\,dz= \begin{cases} 2\pi i,&j=-1,\\ 0,&j\ne-1 \end{cases}

が成り立つ。

証明.j≠−1j\ne-1ならば、§E5.2 系 1.3により(z−a)j+1/(j+1)(z-a)^{j+1}/(j+1)は、j≥0j\ge0の場合にはC\mathbb C上で、j≤−2j\le-2の場合にはC∖{a}\mathbb C\setminus\{a\}上で(z−a)j(z-a)^jの原始関数となる。いずれもCρC_\rhoの像を含む開集合上の原始関数なので、§E5.4 定理 4.2により積分は0である。

j=−1j=-1ならば、§E5.5 定義 1.1と§E5.5 命題 5.6により

∮Cρdzz−a=2πi n(Cρ,a)=2πi\oint_{C_\rho}\frac{dz}{z-a}=2\pi i\,n(C_\rho,a)=2\pi i

である。▨

2 Laurent 展開

定理 2.1 (Laurent 展開).ffを円環A=A(a;r,R)A=A(a;r,R)上の正則関数とする。n∈Zn\in\mathbb Zとr<ρ<Rr<\rho<Rに対して

cn=12πi∮Cρf(w)(w−a)n+1 dwc_n=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_\rho}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}\,dw

とおく。この値はρ\rhoによらない。また、すべてのz∈Az\in Aについて

f(z)=∑n=0∞cn(z−a)n+∑n=1∞c−n(z−a)−nf(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_n(z-a)^n+\sum_{n=1}^{\infty}c_{-n}(z-a)^{-n}

が成り立つ。さらに、r<ρ1≤ρ2<Rr<\rho_1\le\rho_2<Rならば、二つの級数はそれぞれ閉円環{z:ρ1≤∣z−a∣≤ρ2}\{z:\rho_1\le|z-a|\le\rho_2\}上で一様収束する。

証明.r<ρ<ρ′<Rr<\rho<\rho'<Rとする。§E5.2 命題 1.2と§E5.2 系 1.3により、w↦f(w)(w−a)−n−1w\mapsto f(w)(w-a)^{-n-1}はAA上で正則である。§E5.6 命題 5.2を閉円環{w:ρ≤∣w−a∣≤ρ′}⊆A\{w:\rho\le|w-a|\le\rho'\}\subseteq Aへ用いると、CρC_\rhoとCρ′C_{\rho'}に沿う積分は等しい。したがってcnc_nは半径の選択によらない。

z∈Az\in Aを固定し、r<s<∣z−a∣<t<Rr<s<|z-a|<t<Rを取る。サイクルΓ=Ct−Cs\Gamma=C_t-C_sはAA内で零ホモローグである。実際、p∉Ap\notin Aならば∣p−a∣≤r|p-a|\le rであるか、R<∞R<\inftyかつ∣p−a∣≥R|p-a|\ge Rである。前者では二つの円周の回転数がともに1、後者ではともに0なので、§E5.5 命題 5.6によりn(Γ,p)=0n(\Gamma,p)=0である。同じ結果からn(Γ,z)=1n(\Gamma,z)=1である。ゆえに§E5.6 定理 2.1をΓ\Gammaへ適用して

f(z)=12πi∮Ctf(w)w−z dw−12πi∮Csf(w)w−z dw(1)f(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_t}\frac{f(w)}{w-z}\,dw -\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_s}\frac{f(w)}{w-z}\,dw \tag{1}

である。

w∈Ctw\in C_tではq=(z−a)/(w−a)q=(z-a)/(w-a)が∣q∣=∣z−a∣/t<1|q|=|z-a|/t<1を満たす。有限等比級数の剰余から

∣1w−z−∑n=0N(z−a)n(w−a)n+1∣=∣q∣N+1∣w−z∣≤(∣z−a∣/t)N+1t−∣z−a∣\left|\frac{1}{w-z}-\sum_{n=0}^{N}\frac{(z-a)^{n}}{(w-a)^{n+1}}\right| =\frac{|q|^{N+1}}{|w-z|} \le\frac{(|z-a|/t)^{N+1}}{t-|z-a|}

§E1.14 定義 4.1によりCtC_tをR2\mathbb R^2の有界閉集合とみなすと、§E2.9 定理 4.3によりCtC_tはコンパクトである。したがって§E2.19 定理 4.4により連続関数∣f∣|f|はCtC_t上で最大値をもち、とくに有界である。§E5.4 命題 3.2と§E5.4 命題 2.3により剰余の積分は0へ収束するから

12πi∮Ctf(w)w−z dw=∑n=0∞cn(z−a)n\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_t}\frac{f(w)}{w-z}\,dw =\sum_{n=0}^{\infty}c_n(z-a)^n

である。

w∈Csw\in C_sではq′=(w−a)/(z−a)q'=(w-a)/(z-a)が∣q′∣=s/∣z−a∣<1|q'|=s/|z-a|<1を満たす。同じ剰余評価により

−1w−z=1(z−a)−(w−a)=∑m=0∞(w−a)m(z−a)m+1\frac{-1}{w-z}=\frac{1}{(z-a)-(w-a)}=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{(w-a)^{m}}{(z-a)^{m+1}}

であり、MM次部分和との差は

∣−1w−z−∑m=0M(w−a)m(z−a)m+1∣≤(s/∣z−a∣)M+1∣z−a∣−s\left|\frac{-1}{w-z}-\sum_{m=0}^{M}\frac{(w-a)^m}{(z-a)^{m+1}}\right| \le\frac{(s/|z-a|)^{M+1}}{|z-a|-s}

である。したがって§E5.4 命題 3.2により剰余の積分は0へ収束し、

−12πi∮Csf(w)w−z dw=∑m=0∞(12πi∮Csf(w)(w−a)m dw)(z−a)−m−1=∑n=1∞c−n(z−a)−n-\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_s}\frac{f(w)}{w-z}\,dw =\sum_{m=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_s}f(w)(w-a)^m\,dw\right)(z-a)^{-m-1} =\sum_{n=1}^{\infty}c_{-n}(z-a)^{-n}

である。最後の等式ではn=m+1n=m+1とした。二つの表示を式 (1) へ代入すると Laurent 展開を得る。

r<ρ1≤ρ2<Rr<\rho_1\le\rho_2<Rとし、r<τ<ρ1≤ρ2<σ<Rr<\tau<\rho_1\le\rho_2<\sigma<Rを取る。§E2.9 定理 4.3と§E2.19 定理 4.4により、CσC_\sigmaとCτC_\tau上に∣f∣|f|の最大値Mσ,MτM_\sigma,M_\tauが存在する。係数積分へ§E5.4 命題 3.2を適用すると

∣cn∣≤Mσσ−n(n≥0),∣c−n∣≤Mττn(n≥1)|c_n|\le M_\sigma\sigma^{-n}\quad(n\ge0), \qquad |c_{-n}|\le M_\tau\tau^n\quad(n\ge1)

を得る。閉円環上では

∣cn(z−a)n∣≤Mσ(ρ2/σ)n,∣c−n(z−a)−n∣≤Mτ(τ/ρ1)n|c_n(z-a)^n|\le M_\sigma(\rho_2/\sigma)^n, \qquad |c_{-n}(z-a)^{-n}|\le M_\tau(\tau/\rho_1)^n

である。右辺はいずれも収束する等比級数の項なので、両級数の剰余はzzによらず0へ収束する。したがって両級数は閉円環上一様収束する。▨

命題 2.2.ffを円環A=A(a;r,R)A=A(a;r,R)上の正則関数とする。複素数族(bn)n∈Z(b_n)_{n\in\mathbb Z}がAAの各点で

f(z)=∑n=0∞bn(z−a)n+∑n=1∞b−n(z−a)−nf(z)=\sum_{n=0}^{\infty}b_n(z-a)^n+\sum_{n=1}^{\infty}b_{-n}(z-a)^{-n}

を満たし、二つの級数がAA内の各閉円環上一様収束すると仮定する。このとき、すべてのn∈Zn\in\mathbb Zについてbn=cnb_n=c_nである。ここで(cn)(c_n)は定理 2.1の係数族である。

証明.k∈Zk\in\mathbb Zとr<ρ<Rr<\rho<Rを固定する。仮定した二つの級数はCρC_\rho上で一様収束し、(z−a)−k−1(z-a)^{-k-1}は同じ円周上で有界なので、積を取った二つの級数も一様収束する。有限部分和との差の積分を§E5.4 命題 3.2で評価すると0へ収束するため、項別に積分して

∮Cρf(z)(z−a)k+1 dz=∑n=0∞bn∮Cρ(z−a)n−k−1 dz+∑n=1∞b−n∮Cρ(z−a)−n−k−1 dz.\begin{aligned} \oint_{C_\rho}\frac{f(z)}{(z-a)^{k+1}}\,dz &=\sum_{n=0}^{\infty}b_n\oint_{C_\rho}(z-a)^{n-k-1}\,dz\\ &\quad+\sum_{n=1}^{\infty}b_{-n}\oint_{C_\rho}(z-a)^{-n-k-1}\,dz. \end{aligned}

補題 1.2により右辺では指数が−1-1となる項だけが残るので、右辺は2πibk2\pi i b_kである。左辺は定理 2.1の係数公式により2πick2\pi i c_kである。したがってbk=ckb_k=c_kであり、kkは任意なので展開は一意である。▨

例 2.3 (同じ関数でも円環が違えば展開が変わる).f(z)=1/(z(z−1))f(z)=1/(z(z-1))とする。f(z)=1/(z−1)−1/zf(z)=1/(z-1)-1/zであり、0<∣z∣<10<|z|<1では等比級数から

f(z)=−1z−∑n=0∞znf(z)=-\frac{1}{z}-\sum_{n=0}^{\infty}z^{n}

となる。一方、∣z∣>1|z|>1では1/(z−1)=z−1(1−z−1)−11/(z-1)=z^{-1}(1-z^{-1})^{-1}なので

f(z)=∑m=1∞z−m−1f(z)=\sum_{m=1}^{\infty}z^{-m-1}

となる。いずれの級数も、その円環内の閉円環上では等比級数の剰余が一様に0へ収束する。命題 2.2により、二つはそれぞれA(0;0,1)A(0;0,1)とA(0;1,∞)A(0;1,\infty)における Laurent 展開である。内側の展開の負冪項は−z−1-z^{-1}だけであるが、外側の展開には負冪項が無限個ある。したがって Laurent 係数の一意性は、円環を固定した主張である。

3 孤立特異点の分類

定義 3.1.a∈Ca\in\mathbb Cとする。あるε>0\varepsilon>0についてffが穿孔円板A(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)上で正則であるとき、aaをffの孤立特異点 (isolated singularity) という。この円環における Laurent 係数を(cn)n∈Z(c_n)_{n\in\mathbb Z}とし、負冪部分∑n≥1c−n(z−a)−n\sum_{n\ge1}c_{-n}(z-a)^{-n}をaaにおける主要部 (principal part) という。孤立特異点を次の三種類に分類する。

  1. 主要部が0であるとき、aaは除去可能特異点 (removable singularity) である。
  2. ある正の整数mmについてc−m≠0c_{-m}\ne0かつn>mn>mならばc−n=0c_{-n}=0であるとき、aaは位数mmの極 (pole of ordermm) である。
  3. c−n≠0c_{-n}\ne0となる正の整数nnが無限個あるとき、aaは真性特異点 (essential singularity) である。

負冪係数の非零な添字集合が空、有限非空、無限のいずれか一つになるので、三分類は排反かつ網羅的である。

この分類はε\varepsilonによらない。実際、0<ε′≤ε0<\varepsilon'\le\varepsilonならば、両方の円環の係数は0<ρ<ε′0<\rho<\varepsilon'を満たす同じCρC_\rho上の係数積分で与えられるからである(定理 2.1)。

命題 3.2.ffをA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)上の正則関数とする。次の三条件は同値である。

  1. aaは除去可能特異点である。
  2. ある0<δ≤ε0<\delta\le\varepsilonとM≥0M\ge0が存在し、0<∣z−a∣<δ0<|z-a|<\deltaならば∣f(z)∣≤M|f(z)|\le Mである。
  3. ある0<δ≤ε0<\delta\le\varepsilonとD(a,δ)D(a,\delta)上の正則関数FFが存在し、0<∣z−a∣<δ0<|z-a|<\deltaならばF(z)=f(z)F(z)=f(z)である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(3)とする。主要部が0ならば、定理 2.1によりf(z)=∑n≥0cn(z−a)nf(z)=\sum_{n\ge0}c_n(z-a)^nが0<∣z−a∣<ε0<|z-a|<\varepsilonで成り立つ。このべき級数はすべての∣z−a∣<ε|z-a|<\varepsilonで収束するから、§E5.7 定理 1.2と§E5.7 定理 1.5によりD(a,ε)D(a,\varepsilon)上の正則関数を定める。この和をFFとすれば(3)を満たす。

(3)⇒\Rightarrow(2)とする。FFはaaで連続なので、ある0<δ′≤δ0<\delta'\le\deltaについて∣F(z)−F(a)∣<1|F(z)-F(a)|<1が∣z−a∣<δ′|z-a|<\delta'で成り立つ。したがって同じ穿孔円板上で∣f(z)∣=∣F(z)∣≤∣F(a)∣+1|f(z)|=|F(z)|\le|F(a)|+1である。

(2)⇒\Rightarrow(1)とする。n≥1n\ge1と0<ρ<δ0<\rho<\deltaを取る。係数公式と§E5.4 命題 3.2により

∣c−n∣=∣12πi∮Cρf(w)(w−a)n−1 dw∣≤Mρn|c_{-n}|=\left|\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_\rho}f(w)(w-a)^{n-1}\,dw\right| \le M\rho^n

である。左辺はρ\rhoによらないので、ρ→0+\rho\to0^+とするとc−n=0c_{-n}=0となる。nnは任意であるから主要部は0であり、aaは除去可能特異点である。▨

命題 3.3.ffをA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)上の正則関数とし、aaをffの位数mmの極とする。このとき、D(a,ε)D(a,\varepsilon)上の正則関数hhが存在して、h(a)=c−m≠0h(a)=c_{-m}\ne0かつ

f(z)=h(z)(z−a)mf(z)=\frac{h(z)}{(z-a)^{m}}

が0<∣z−a∣<ε0<|z-a|<\varepsilonで成り立つ。さらに、任意のM>0M>0に対してあるδ>0\delta>0が存在し、0<∣z−a∣<δ0<|z-a|<\deltaならば∣f(z)∣>M|f(z)|>Mである。

証明.aaが位数mmの極であるから、Laurent 展開の−m-mより小さい指数の係数は0であり、c−m≠0c_{-m}\ne0である。したがって

(z−a)mf(z)=∑k=0∞ck−m(z−a)k(z-a)^m f(z)=\sum_{k=0}^{\infty}c_{k-m}(z-a)^k

が穿孔円板上で成り立つ。このべき級数は0<∣z−a∣<ε0<|z-a|<\varepsilonの全点で収束するので、§E5.7 定理 1.2により収束半径はε\varepsilon以上である。したがって§E5.7 定理 1.5によりD(a,ε)D(a,\varepsilon)上の正則関数hhを定める。その定義からh(a)=c−m≠0h(a)=c_{-m}\ne0であり、求める商表示を得る。

hhの連続性により、ある0<δ0<ε0<\delta_0<\varepsilonについて∣z−a∣<δ0|z-a|<\delta_0ならば∣h(z)∣>∣h(a)∣/2|h(z)|>|h(a)|/2である。M>0M>0に対して

0<δ<min⁡{δ0,(∣h(a)∣2M)1/m}0<\delta<\min\left\{\delta_0,\left(\frac{|h(a)|}{2M}\right)^{1/m}\right\}

を取ると、0<∣z−a∣<δ0<|z-a|<\deltaならば

∣f(z)∣=∣h(z)∣∣z−a∣m>∣h(a)∣2∣z−a∣m>M|f(z)|=\frac{|h(z)|}{|z-a|^m}>\frac{|h(a)|}{2|z-a|^m}>M

である。▨

命題 3.4.mmを正の整数とする。hhをD(a,ε)D(a,\varepsilon)上の正則関数とし、h(a)≠0h(a)\ne0とする。穿孔円板上で

f(z)=h(z)(z−a)mf(z)=\frac{h(z)}{(z-a)^{m}}

と定めると、aaはffの位数mmの極である。Laurent 係数は

cn=0(n<−m),ck−m=h(k)(a)k!(k≥0)c_n=0\quad(n<-m), \qquad c_{k-m}=\frac{h^{(k)}(a)}{k!}\quad(k\ge0)

を満たす。

さらに、一般にffをA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)上の正則関数とすると、aaがffの位数mmの極であることと、ある0<δ≤ε0<\delta\le\varepsilonについてffがA(a;0,δ)A(a;0,\delta)上で零を取らず、1/f1/fがD(a,δ)D(a,\delta)上の正則関数へ延長され、その延長がaaに位数mmの零点をもつことは同値である。

証明.hhの Taylor 展開(§E5.7 定理 2.1)を(z−a)m(z-a)^mで割ると

f(z)=∑k=0∞h(k)(a)k!(z−a)k−mf(z)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{h^{(k)}(a)}{k!}(z-a)^{k-m}

である。負冪部分は有限和であり、正冪部分は円板内のコンパクト集合上一様収束する(§E5.7 命題 1.4)。したがって命題 2.2により、表示した係数が Laurent 係数である。とくにc−m=h(a)≠0c_{-m}=h(a)\ne0かつn<−mn<-mではcn=0c_n=0なので、aaは位数mmの極である。

ここからは一般のffに対する最後の同値を示す。aaが位数mmの極ならば、命題 3.3によりf=h/(z−a)mf=h/(z-a)^mと書ける。h(a)≠0h(a)\ne0と連続性から、ある0<δ≤ε0<\delta\le\varepsilonについてhhはD(a,δ)D(a,\delta)上で零を取らない。このとき

q(z)=(z−a)mh(z)q(z)=\frac{(z-a)^m}{h(z)}

はD(a,δ)D(a,\delta)上で正則であり、穿孔円板上でq=1/fq=1/fである。§E5.8 命題 1.2の一意性によりqqのaaにおける零点の位数はmmである。

逆に、1/f1/fの正則な延長qqがaaに位数mmの零点をもつとする。§E5.8 命題 1.2により、十分小さい円板上でq(z)=(z−a)mu(z)q(z)=(z-a)^m u(z)、u(a)≠0u(a)\ne0と書ける。円板をさらに縮めればuuは零を取らず、穿孔円板上で

f(z)=1/u(z)(z−a)mf(z)=\frac{1/u(z)}{(z-a)^m}

となる。1/u1/uは正則で中心で零を取らないから、すでに示した商の判定によりaaは位数mmの極である。▨

定理 3.5 (Casorati–Weierstrass の定理).ffをA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)上の正則関数とし、aaを真性特異点とする。このとき、すべての0<δ≤ε0<\delta\le\varepsilonについてf(A(a;0,δ))f(A(a;0,\delta))はC\mathbb Cで稠密である。すなわち、任意のw0∈Cw_0\in\mathbb Cとη>0\eta>0に対して、0<∣z−a∣<δ0<|z-a|<\deltaかつ∣f(z)−w0∣<η|f(z)-w_0|<\etaを満たすzzが存在する。

証明.0<δ≤ε0<\delta\le\varepsilonを固定し、像が稠密でないと仮定する。あるw0∈Cw_0\in\mathbb Cとη>0\eta>0が存在して、0<∣z−a∣<δ0<|z-a|<\deltaならば∣f(z)−w0∣≥η|f(z)-w_0|\ge\etaとなる。このとき

g(z)=1f(z)−w0g(z)=\frac{1}{f(z)-w_0}

は§E5.2 命題 1.2により穿孔円板上で正則であり、∣g(z)∣≤1/η|g(z)|\le1/\etaである。命題 3.2により、ggはD(a,δ)D(a,\delta)上の正則関数GGへ延長される。

G(a)≠0G(a)\ne0ならば、十分小さい円板上でGGは零を取らない。同じ円板上でw0+1/Gw_0+1/Gは正則であり、穿孔部分ではffと一致する。したがって命題 3.2によりaaはffの除去可能特異点となり、真性であることに反する。

G(a)=0G(a)=0ならば、GGは穿孔部分で零を取らないため恒等的に0ではない。§E5.8 命題 1.2により、ある正の整数mmと中心で零を取らない正則関数uuを用いて、十分小さい円板上でG(z)=(z−a)mu(z)G(z)=(z-a)^m u(z)と書ける。さらに円板を縮めてuuが零を取らないようにすると

f(z)−w0=1/u(z)(z−a)mf(z)-w_0=\frac{1/u(z)}{(z-a)^m}

である。命題 3.4によりaaはf−w0f-w_0の位数mmの極である。定数w0w_0を加えても Laurent 展開の負冪係数は変わらないので、命題 2.2によりaaはffの位数mmの極でもある。これも真性であることに反する。

いずれの場合にも矛盾するので、f(A(a;0,δ))f(A(a;0,\delta))は稠密である。▨

注意 3.6 (本記事が扱わない範囲).定理 3.5は、真性特異点の穿孔近傍における値が任意の複素数へ近づくことを述べる。 Picard の大定理は、同じ近傍で高々一つの例外を除くすべての複素数を実際に取ることまで主張する。 Picard の大定理は本単元では扱わず、後続の単元へ委ねる。

例 3.7 (三つの型を見分ける).sin⁡z/z\sin z/zはz=0z=0の穿孔近傍で

sin⁡zz=∑k=0∞(−1)kz2k(2k+1)!\frac{\sin z}{z}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kz^{2k}}{(2k+1)!}

と表される(§E5.3 定義 1.5、§E5.3 定義 1.3)。主要部が0なので原点は除去可能特異点であり、中心値を1と定めると正則に延長される。

1/(z2+1)1/(z^2+1)はz=iz=iの近くで

1z2+1=1/(z+i)z−i\frac{1}{z^2+1}=\frac{1/(z+i)}{z-i}

と書ける。1/(z+i)1/(z+i)はiiの近傍で正則であり、iiで1/(2i)≠01/(2i)\ne0なので、命題 3.4によりiiは位数1の極である。

§E5.3 定義 1.3により

e1/z=1+∑n=1∞z−nn!e^{1/z}=1+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{z^{-n}}{n!}

である。ζ=1/z\zeta=1/zとおけば、負冪部分は収束半径が無限大のべき級数であり、穿孔平面内の各閉円環上で一様収束する(§E5.7 命題 1.4)。したがって命題 2.2によりこの表示は Laurent 展開である。非零の負冪係数が無限個あるので、原点は真性特異点である。

4 演習

問題 4.1 (円環による Laurent 展開の違い).f(z)=1/(z−2)f(z)=1/(z-2)を中心a=0a=0のまわりで展開せよ。円板∣z∣<2|z|<2と外側の領域∣z∣>2|z|>2における Laurent 展開をそれぞれ求め、各展開の収束する円環を明記せよ。

解答.

∣z∣<2|z|<2では

1z−2=−1211−z/2=−∑n=0∞zn2n+1\frac1{z-2}=-\frac12\frac1{1-z/2}=-\sum_{n=0}^{\infty}\frac{z^n}{2^{n+1}}

である。これはA(0;0,2)A(0;0,2)における展開であり、主要部は0である。∣z∣>2|z|>2では

1z−2=1z11−2/z=∑n=0∞2nz−n−1\frac1{z-2}=\frac1z\frac1{1-2/z}=\sum_{n=0}^{\infty}2^n z^{-n-1}

である。これはA(0;2,∞)A(0;2,\infty)における展開である。同じ関数でも円環が異なるため係数族は異なる。▨

問題 4.2 (極の位数と逆数の零点).

f(z)=ez(z−1)3f(z)=\frac{e^z}{(z-1)^3}

について、z=1z=1の孤立特異点を分類せよ。また、1/f1/fのz=1z=1における零点の位数を求めよ。

解答.

eze^zは正則で零を取らない(§E5.3 命題 1.8、§E5.3 命題 1.7)ので、命題 3.4によりz=1z=1はffの位数3の極である。また1/f=(z−1)3e−z1/f=(z-1)^3e^{-z}は全平面上で正則であり、e−1≠0e^{-1}\ne0なので、§E5.8 命題 1.2によりz=1z=1に位数3の零点をもつ。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.円環上の Laurent 展開と孤立特異点の分類を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.除去可能特異点の有界性による特徴づけと Casorati–Weierstrass の定理を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.Laurent 展開の一意性と特異点の分類を参考にした。

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