1 円環に沿う積分についての準備
定義 1.1.a∈Cと0≤r<R≤∞に対して
A(a;r,R)={z∈C:r<∣z−a∣<R}と定める。この集合を円環 (annulus) という。R=∞のときは上側の不等式を課さない。ρ>0に対して、Cρはw=a+ρeit(0≤t≤2π)によって反時計回りにたどる円周を表す。このCρを境界円周 (boundary circle) という。
補題 1.2.a∈C、ρ>0、j∈Zとする。このとき
∮Cρ(z−a)jdz={2πi,0,j=−1,j=−1が成り立つ。
証明.j=−1ならば、§E5.2 系 1.3により(z−a)j+1/(j+1)は、j≥0の場合にはC上で、j≤−2の場合にはC∖{a}上で(z−a)jの原始関数となる。いずれもCρの像を含む開集合上の原始関数なので、§E5.4 定理 4.2により積分は0である。
j=−1ならば、§E5.5 定義 1.1と§E5.5 命題 5.6により
∮Cρz−adz=2πin(Cρ,a)=2πiである。▨
2 Laurent 展開
定理 2.1 (Laurent 展開).fを円環A=A(a;r,R)上の正則関数とする。n∈Zとr<ρ<Rに対して
cn=2πi1∮Cρ(w−a)n+1f(w)dwとおく。この値はρによらない。また、すべてのz∈Aについて
f(z)=n=0∑∞cn(z−a)n+n=1∑∞c−n(z−a)−nが成り立つ。さらに、r<ρ1≤ρ2<Rならば、二つの級数はそれぞれ閉円環{z:ρ1≤∣z−a∣≤ρ2}上で一様収束する。
証明.r<ρ<ρ′<Rとする。§E5.2 命題 1.2と§E5.2 系 1.3により、w↦f(w)(w−a)−n−1はA上で正則である。§E5.6 命題 5.2を閉円環{w:ρ≤∣w−a∣≤ρ′}⊆Aへ用いると、CρとCρ′に沿う積分は等しい。したがってcnは半径の選択によらない。
z∈Aを固定し、r<s<∣z−a∣<t<Rを取る。サイクルΓ=Ct−CsはA内で零ホモローグである。実際、p∈/Aならば∣p−a∣≤rであるか、R<∞かつ∣p−a∣≥Rである。前者では二つの円周の回転数がともに1、後者ではともに0なので、§E5.5 命題 5.6によりn(Γ,p)=0である。同じ結果からn(Γ,z)=1である。ゆえに§E5.6 定理 2.1をΓへ適用して
f(z)=2πi1∮Ctw−zf(w)dw−2πi1∮Csw−zf(w)dw(1)である。
w∈Ctではq=(z−a)/(w−a)が∣q∣=∣z−a∣/t<1を満たす。有限等比級数の剰余から
w−z1−n=0∑N(w−a)n+1(z−a)n=∣w−z∣∣q∣N+1≤t−∣z−a∣(∣z−a∣/t)N+1§E1.14 定義 4.1によりCtをR2の有界閉集合とみなすと、§E2.9 定理 4.3によりCtはコンパクトである。したがって§E2.19 定理 4.4により連続関数∣f∣はCt上で最大値をもち、とくに有界である。§E5.4 命題 3.2と§E5.4 命題 2.3により剰余の積分は0へ収束するから
2πi1∮Ctw−zf(w)dw=n=0∑∞cn(z−a)nである。
w∈Csではq′=(w−a)/(z−a)が∣q′∣=s/∣z−a∣<1を満たす。同じ剰余評価により
w−z−1=(z−a)−(w−a)1=m=0∑∞(z−a)m+1(w−a)mであり、M次部分和との差は
w−z−1−m=0∑M(z−a)m+1(w−a)m≤∣z−a∣−s(s/∣z−a∣)M+1である。したがって§E5.4 命題 3.2により剰余の積分は0へ収束し、
−2πi1∮Csw−zf(w)dw=m=0∑∞(2πi1∮Csf(w)(w−a)mdw)(z−a)−m−1=n=1∑∞c−n(z−a)−nである。最後の等式ではn=m+1とした。二つの表示を式 (1) へ代入すると Laurent 展開を得る。
r<ρ1≤ρ2<Rとし、r<τ<ρ1≤ρ2<σ<Rを取る。§E2.9 定理 4.3と§E2.19 定理 4.4により、CσとCτ上に∣f∣の最大値Mσ,Mτが存在する。係数積分へ§E5.4 命題 3.2を適用すると
∣cn∣≤Mσσ−n(n≥0),∣c−n∣≤Mττn(n≥1)を得る。閉円環上では
∣cn(z−a)n∣≤Mσ(ρ2/σ)n,∣c−n(z−a)−n∣≤Mτ(τ/ρ1)nである。右辺はいずれも収束する等比級数の項なので、両級数の剰余はzによらず0へ収束する。したがって両級数は閉円環上一様収束する。▨
命題 2.2.fを円環A=A(a;r,R)上の正則関数とする。複素数族(bn)n∈ZがAの各点で
f(z)=n=0∑∞bn(z−a)n+n=1∑∞b−n(z−a)−nを満たし、二つの級数がA内の各閉円環上一様収束すると仮定する。このとき、すべてのn∈Zについてbn=cnである。ここで(cn)は定理 2.1の係数族である。
証明.k∈Zとr<ρ<Rを固定する。仮定した二つの級数はCρ上で一様収束し、(z−a)−k−1は同じ円周上で有界なので、積を取った二つの級数も一様収束する。有限部分和との差の積分を§E5.4 命題 3.2で評価すると0へ収束するため、項別に積分して
∮Cρ(z−a)k+1f(z)dz=n=0∑∞bn∮Cρ(z−a)n−k−1dz+n=1∑∞b−n∮Cρ(z−a)−n−k−1dz.補題 1.2により右辺では指数が−1となる項だけが残るので、右辺は2πibkである。左辺は定理 2.1の係数公式により2πickである。したがってbk=ckであり、kは任意なので展開は一意である。▨
例 2.3 (同じ関数でも円環が違えば展開が変わる).f(z)=1/(z(z−1))とする。f(z)=1/(z−1)−1/zであり、0<∣z∣<1では等比級数から
f(z)=−z1−n=0∑∞znとなる。一方、∣z∣>1では1/(z−1)=z−1(1−z−1)−1なので
f(z)=m=1∑∞z−m−1となる。いずれの級数も、その円環内の閉円環上では等比級数の剰余が一様に0へ収束する。命題 2.2により、二つはそれぞれA(0;0,1)とA(0;1,∞)における Laurent
展開である。内側の展開の負冪項は−z−1だけであるが、外側の展開には負冪項が無限個ある。したがって Laurent 係数の一意性は、円環を固定した主張である。
3 孤立特異点の分類
定義 3.1.a∈Cとする。あるε>0についてfが穿孔円板A(a;0,ε)上で正則であるとき、aをfの孤立特異点 (isolated singularity) という。この円環における Laurent 係数を(cn)n∈Zとし、負冪部分∑n≥1c−n(z−a)−nをaにおける主要部 (principal part) という。孤立特異点を次の三種類に分類する。
- 主要部が0であるとき、aは除去可能特異点 (removable singularity) である。
- ある正の整数mについてc−m=0かつn>mならばc−n=0であるとき、aは位数mの極 (pole of orderm) である。
- c−n=0となる正の整数nが無限個あるとき、aは真性特異点 (essential singularity) である。
負冪係数の非零な添字集合が空、有限非空、無限のいずれか一つになるので、三分類は排反かつ網羅的である。
この分類はεによらない。実際、0<ε′≤εならば、両方の円環の係数は0<ρ<ε′を満たす同じCρ上の係数積分で与えられるからである(定理 2.1)。
命題 3.2.fをA(a;0,ε)上の正則関数とする。次の三条件は同値である。
- aは除去可能特異点である。
- ある0<δ≤εとM≥0が存在し、0<∣z−a∣<δならば∣f(z)∣≤Mである。
- ある0<δ≤εとD(a,δ)上の正則関数Fが存在し、0<∣z−a∣<δならばF(z)=f(z)である。
証明.(1)⇒(3)とする。主要部が0ならば、定理 2.1によりf(z)=∑n≥0cn(z−a)nが0<∣z−a∣<εで成り立つ。このべき級数はすべての∣z−a∣<εで収束するから、§E5.7 定理 1.2と§E5.7 定理 1.5によりD(a,ε)上の正則関数を定める。この和をFとすれば(3)を満たす。
(3)⇒(2)とする。Fはaで連続なので、ある0<δ′≤δについて∣F(z)−F(a)∣<1が∣z−a∣<δ′で成り立つ。したがって同じ穿孔円板上で∣f(z)∣=∣F(z)∣≤∣F(a)∣+1である。
(2)⇒(1)とする。n≥1と0<ρ<δを取る。係数公式と§E5.4 命題 3.2により
∣c−n∣=2πi1∮Cρf(w)(w−a)n−1dw≤Mρnである。左辺はρによらないので、ρ→0+とするとc−n=0となる。nは任意であるから主要部は0であり、aは除去可能特異点である。▨
命題 3.3.fをA(a;0,ε)上の正則関数とし、aをfの位数mの極とする。このとき、D(a,ε)上の正則関数hが存在して、h(a)=c−m=0かつ
f(z)=(z−a)mh(z)が0<∣z−a∣<εで成り立つ。さらに、任意のM>0に対してあるδ>0が存在し、0<∣z−a∣<δならば∣f(z)∣>Mである。
証明.aが位数mの極であるから、Laurent 展開の−mより小さい指数の係数は0であり、c−m=0である。したがって
(z−a)mf(z)=k=0∑∞ck−m(z−a)kが穿孔円板上で成り立つ。このべき級数は0<∣z−a∣<εの全点で収束するので、§E5.7 定理 1.2により収束半径はε以上である。したがって§E5.7 定理 1.5によりD(a,ε)上の正則関数hを定める。その定義からh(a)=c−m=0であり、求める商表示を得る。
hの連続性により、ある0<δ0<εについて∣z−a∣<δ0ならば∣h(z)∣>∣h(a)∣/2である。M>0に対して
0<δ<min{δ0,(2M∣h(a)∣)1/m}を取ると、0<∣z−a∣<δならば
∣f(z)∣=∣z−a∣m∣h(z)∣>2∣z−a∣m∣h(a)∣>Mである。▨
命題 3.4.mを正の整数とする。hをD(a,ε)上の正則関数とし、h(a)=0とする。穿孔円板上で
f(z)=(z−a)mh(z)と定めると、aはfの位数mの極である。Laurent 係数は
cn=0(n<−m),ck−m=k!h(k)(a)(k≥0)を満たす。
さらに、一般にfをA(a;0,ε)上の正則関数とすると、aがfの位数mの極であることと、ある0<δ≤εについてfがA(a;0,δ)上で零を取らず、1/fがD(a,δ)上の正則関数へ延長され、その延長がaに位数mの零点をもつことは同値である。
証明.hの Taylor 展開(§E5.7 定理 2.1)を(z−a)mで割ると
f(z)=k=0∑∞k!h(k)(a)(z−a)k−mである。負冪部分は有限和であり、正冪部分は円板内のコンパクト集合上一様収束する(§E5.7 命題 1.4)。したがって命題 2.2により、表示した係数が Laurent 係数である。とくにc−m=h(a)=0かつn<−mではcn=0なので、aは位数mの極である。
ここからは一般のfに対する最後の同値を示す。aが位数mの極ならば、命題 3.3によりf=h/(z−a)mと書ける。h(a)=0と連続性から、ある0<δ≤εについてhはD(a,δ)上で零を取らない。このとき
q(z)=h(z)(z−a)mはD(a,δ)上で正則であり、穿孔円板上でq=1/fである。§E5.8 命題 1.2の一意性によりqのaにおける零点の位数はmである。
逆に、1/fの正則な延長qがaに位数mの零点をもつとする。§E5.8 命題 1.2により、十分小さい円板上でq(z)=(z−a)mu(z)、u(a)=0と書ける。円板をさらに縮めればuは零を取らず、穿孔円板上で
f(z)=(z−a)m1/u(z)となる。1/uは正則で中心で零を取らないから、すでに示した商の判定によりaは位数mの極である。▨
定理 3.5 (Casorati–Weierstrass の定理).fをA(a;0,ε)上の正則関数とし、aを真性特異点とする。このとき、すべての0<δ≤εについてf(A(a;0,δ))はCで稠密である。すなわち、任意のw0∈Cとη>0に対して、0<∣z−a∣<δかつ∣f(z)−w0∣<ηを満たすzが存在する。
証明.0<δ≤εを固定し、像が稠密でないと仮定する。あるw0∈Cとη>0が存在して、0<∣z−a∣<δならば∣f(z)−w0∣≥ηとなる。このとき
g(z)=f(z)−w01は§E5.2 命題 1.2により穿孔円板上で正則であり、∣g(z)∣≤1/ηである。命題 3.2により、gはD(a,δ)上の正則関数Gへ延長される。
G(a)=0ならば、十分小さい円板上でGは零を取らない。同じ円板上でw0+1/Gは正則であり、穿孔部分ではfと一致する。したがって命題 3.2によりaはfの除去可能特異点となり、真性であることに反する。
G(a)=0ならば、Gは穿孔部分で零を取らないため恒等的に0ではない。§E5.8 命題 1.2により、ある正の整数mと中心で零を取らない正則関数uを用いて、十分小さい円板上でG(z)=(z−a)mu(z)と書ける。さらに円板を縮めてuが零を取らないようにすると
f(z)−w0=(z−a)m1/u(z)である。命題 3.4によりaはf−w0の位数mの極である。定数w0を加えても
Laurent 展開の負冪係数は変わらないので、命題 2.2によりaはfの位数mの極でもある。これも真性であることに反する。
いずれの場合にも矛盾するので、f(A(a;0,δ))は稠密である。▨
例 3.7 (三つの型を見分ける).sinz/zはz=0の穿孔近傍で
zsinz=k=0∑∞(2k+1)!(−1)kz2kと表される(§E5.3 定義 1.5、§E5.3 定義 1.3)。主要部が0なので原点は除去可能特異点であり、中心値を1と定めると正則に延長される。
1/(z2+1)はz=iの近くで
z2+11=z−i1/(z+i)と書ける。1/(z+i)はiの近傍で正則であり、iで1/(2i)=0なので、命題 3.4によりiは位数1の極である。
§E5.3 定義 1.3により
e1/z=1+n=1∑∞n!z−nである。ζ=1/zとおけば、負冪部分は収束半径が無限大のべき級数であり、穿孔平面内の各閉円環上で一様収束する(§E5.7 命題 1.4)。したがって命題 2.2によりこの表示は Laurent 展開である。非零の負冪係数が無限個あるので、原点は真性特異点である。
4 演習
問題 4.1 (円環による Laurent 展開の違い).f(z)=1/(z−2)を中心a=0のまわりで展開せよ。円板∣z∣<2と外側の領域∣z∣>2における
Laurent 展開をそれぞれ求め、各展開の収束する円環を明記せよ。
解答.
∣z∣<2では
z−21=−211−z/21=−n=0∑∞2n+1znである。これはA(0;0,2)における展開であり、主要部は0である。∣z∣>2では
z−21=z11−2/z1=n=0∑∞2nz−n−1である。これはA(0;2,∞)における展開である。同じ関数でも円環が異なるため係数族は異なる。▨
問題 4.2 (極の位数と逆数の零点).
f(z)=(z−1)3ezについて、z=1の孤立特異点を分類せよ。また、1/fのz=1における零点の位数を求めよ。
解答.
ezは正則で零を取らない(§E5.3 命題 1.8、§E5.3 命題 1.7)ので、命題 3.4によりz=1はfの位数3の極である。また1/f=(z−1)3e−zは全平面上で正則であり、e−1=0なので、§E5.8 命題 1.2によりz=1に位数3の零点をもつ。▨