1 開写像定理
定理 1.1 (開写像定理).Dを領域、fをD上の定数でない正則関数とする。このとき、任意の開集合V⊆Dに対してf(V)は開集合である。すなわちf:D→Cは開写像である。
証明.V=∅ならばf(V)=∅は開集合である。以下ではV=∅とする。a∈Vを取り、w0=f(a)とおく。f−w0はD上で恒等的に0ではないので、§E5.8 命題 2.2によりaはその孤立零点である。Vは開集合なので、あるr>0についてD(a,r)⊆Vかつ0<∣z−a∣≤rならばf(z)=w0とすることができる。
境界円周C={z:∣z−a∣=r}はR2における有界閉集合であり(§E1.14 定義 4.1)、§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。正則関数は連続なので(§E5.2 命題 1.2)、§E2.19 定理 4.4を∣f−w0∣:C→Rへ適用すると、最小値
ε=z∈Cmin∣f(z)−w0∣が存在する。C上でf−w0は零を取らないためε>0である。
∣w−w0∣<ε/2を満たすwを取り、w∈/f(D(a,r))と仮定する。境界円周上では
∣f(z)−w∣≥∣f(z)−w0∣−∣w−w0∣>2εなので、f−wは零を取らない。一方、仮定によりf−wは開円板D(a,r)上でも零を取らない。したがってf−wは閉円板上で零を取らず、
W={z∈V:f(z)=w}はD(a,r)を含む開集合であり、§E5.2 命題 1.2によりg=1/(f−w)はW上で正則である。境界円周上で先に得た評価から∣g(z)∣<2/εである。§E5.9 系 3.2により
∣g(a)∣≤∣z−a∣=rmax∣g(z)∣≤ε2を得る。しかし∣g(a)∣=1/∣w0−w∣>2/εであり、矛盾する。ゆえにD(w0,ε/2)⊆f(D(a,r))⊆f(V)である。
a∈Vは任意なので、f(V)の各点はf(V)に含まれる開円板の中心となる。したがってf(V)は開集合である。▨
2 零をとらない正則関数の m 乗根
命題 2.1.r>0、m≥1を整数とし、gをD(a,r)上の零を取らない正則関数とする。このとき、D(a,r)上の正則関数Gで
G(z)m=g(z)(z∈D(a,r))を満たすものが存在する。この等式を満たす任意の正則関数GはD(a,r)上で零を取らない。
証明.g′は§E5.6 定理 4.1により正則であり、gは零を取らないので§E5.2 命題 1.2によりg′/gも正則である。
D(a,r)はaに関して星形であり(§E5.2 定義 4.4)、§E5.2 命題 4.5により領域である。任意の閉曲線C:[0,1]→D(a,r)に対して
H(s,t)=(1−s)C(t)+saとおく。∣H(s,t)−a∣=(1−s)∣C(t)−a∣<rであり、Hは連続でH(0,t)=C(t)、H(1,t)=a、H(s,0)=H(s,1)を満たす。したがってD(a,r)は§E5.2 定義 4.6の意味で単連結である。§E5.5 系 8.2により、正則関数h0でh0′=g′/gを満たすものが存在する。
§E5.3 命題 2.3によりew0=g(a)となるw0∈Cを取る。h=h0−h0(a)+w0とすればh′=g′/gかつeh(a)=g(a)である。φ=ge−hとおくと、§E5.3 命題 1.8と§E5.2 命題 1.2により
φ′=g′e−h−gh′e−h=e−h(g′−g⋅gg′)=0である。§E5.4 命題 4.3によりφは定数であり、φ(a)=g(a)e−w0=1なのでg=ehである。ここでは§E5.3 命題 1.6とe0=1を用いた。
G(z)=eh(z)/mとおくと、Gは正則であり、指数の加法法則(§E5.3 命題 1.6)からGm=eh=gである。また、任意のm乗根GについてG(z)=0ならばg(z)=G(z)m=0となるので、Gは零を取らない。▨
3 局所的な単射性
定理 3.1.Dを領域、fをD上の正則関数、a∈Dとする。次の二条件は同値である。
- f′(a)=0である。
- a∈W⊆Dを満たすある開集合W上で、f∣Wは単射である。
証明.(1)⇒(2)を示す。§E5.6 定理 4.1によりf′は正則であるから、§E5.2 命題 1.2により連続である。したがってf′(a)=0ならば、あるδ>0についてD(a,δ)⊆Dであり、すべてのζ∈D(a,δ)に対して
∣f′(ζ)−f′(a)∣<2∣f′(a)∣が成り立つようにできる。
相異なるz1,z2∈D(a,δ)を取る。開円板は凸であるから、z1からz2までの線分はD(a,δ)に含まれる。fはf′の原始関数なので、§E5.4 定理 4.2と積分の線形性から
f(z2)−f(z1)=∫[z1,z2]f′(ζ)dζ=f′(a)(z2−z1)+∫[z1,z2](f′(ζ)−f′(a))dζを得る。線分の長さは∣z2−z1∣なので、§E5.4 命題 3.2により
∫[z1,z2](f′(ζ)−f′(a))dζ≤2∣f′(a)∣∣z2−z1∣である。逆三角不等式を用いると
∣f(z2)−f(z1)∣≥2∣f′(a)∣∣z2−z1∣>0となる。ゆえにf∣D(a,δ)は単射である。
(2)⇒(1)は対偶によって示す。f′(a)=0と仮定し、aの任意の開近傍N⊆Dを取る。fがaのある近傍で定数ならば、その近傍とNの共通部分は相異なる二点を含み、f∣Nは単射でない。以下では、fがaのどの近傍でも定数でない場合を扱う。
D(a,r)⊆Dを満たすr>0を取る。§E5.8 命題 1.2をf−f(a)へ適用する。局所的に恒等的に0となる§E5.8 命題 1.2 (1)は除外されているので、ある整数m≥1とD(a,r)上の正則関数gが存在し、
f(z)−f(a)=(z−a)mg(z),g(a)=0が成り立つ。§E5.8 定義 1.1における位数の特徴付けとf′(a)=0からm≥2である。
gの連続性とg(a)=0により、0<r1≤rを取り、gがD(a,r1)上で零を取らないようにできる。命題 2.1により、Gm=gを満たす零を取らない正則関数GがD(a,r1)上に存在する。
ϕ(z)=(z−a)G(z)とおく。このときϕは正則であり、ϕ(a)=0、ϕm=f−f(a)である。また、§E5.2 命題 1.2によりϕ′(a)=G(a)=0である。
Nはaの開近傍なので、0<δ≤r1を、D(a,δ)⊆NかつϕがD(a,δ)上で単射となるように取ることができる。ここでは、すでに証明した(1)⇒(2)をϕへ用いた。ϕは定数でなく、D(a,δ)は領域なので、定理 1.1によりϕ(D(a,δ))は0を含む開集合である。したがって、あるη>0についてD(0,η)⊆ϕ(D(a,δ))である。
0<c<ηを取り、ω=e2πi/mとおく。§E5.3 命題 1.7により∣ω∣=1、ωm=1である。またm≥2なので、同じ結果のez=1の特徴付けからω=1である。したがってc,cω∈D(0,η)は相異なり、あるz0,z1∈D(a,δ)について
ϕ(z0)=c,ϕ(z1)=cωとなる。ϕの単射性からz0=z1であるが、
f(z0)−f(a)=cm=(cω)m=f(z1)−f(a)である。ゆえにf∣Nは単射でない。Nは任意であったから、(2)は成り立たない。▨
4 演習
問題 4.1 (実数値を取る正則関数).Dを領域とし、fをD上の正則関数とする。すべてのz∈Dについてf(z)∈Rならば、fは定数であることを示せ。
解答.
fが定数でないと仮定する。定理 1.1によりf(D)は空でない開集合である。一方、f(D)⊆Rである。実軸上の各点を中心とする任意の開円板は非実数を含むので、RはCの空でない開集合を含まない。これは矛盾である。したがってfは定数である。▨
問題 4.2 (局所単射性と大域単射性).C上の正則関数f(z)=z3−3zについて、局所的に単射でない点をすべて求めよ。さらに、fがC全体では単射でないことを、異なる二点の具体例によって示せ。
解答.
微分するとf′(z)=3z2−3である。ゆえにf′(z)=0となる点はz=1,−1に限る。定理 3.1により、fはこの二点で局所的に単射でなく、それ以外の各点で局所的に単射である。またf(0)=0=f(3)であり、0=3なので、fはC全体では単射でない。▨