§E5.10開写像定理

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写像が開集合をどのような集合へ送るかは、写像が局所的な座標として振る舞うかを知るための基本的な情報である。実数上の微分可能な関数では、開集合の像が開集合になるとは限らない。実際、x↦x2x\mapsto x^{2}は開区間(−1,1)(-1,1)を[0,1)[0,1)へ写すため、像の端点に相当する値が内部に現れる。

複素平面上の非定数正則関数では、正則性がこの現象を許さない。例えばf(z)=z2f(z)=z^{2}はD(0,r)D(0,r)をD(0,r2)D(0,r^{2})へ写すので開写像であるが、f′(0)=0f'(0)=0であり、00のどの近傍でもzzと−z-zが同じ値をもつ。この例は、開写像であることと局所単射性が別の性質であり、導関数が消える点では局所的な重なりが生じることを示す。

零点の位数はこの重なりの次数を記述し、最大値原理は正則関数の像が内部に押しつぶされないことを支える。したがって、導関数が00でない点では正則関数を局所的な座標として扱うことができ、後続の等角写像の議論へつながる。本記事では、正則写像の開性と局所的な単射性を特徴づける基本的な性質を解説する。

1 開写像定理

定理 1.1 (開写像定理).DDを領域、ffをDD上の定数でない正則関数とする。このとき、任意の開集合V⊆DV\subseteq Dに対してf(V)f(V)は開集合である。すなわちf:D→Cf:D\to\mathbb Cは開写像である。

証明.V=∅V=\varnothingならばf(V)=∅f(V)=\varnothingは開集合である。以下ではV≠∅V\ne\varnothingとする。a∈Va\in Vを取り、w0=f(a)w_0=f(a)とおく。f−w0f-w_0はDD上で恒等的に0ではないので、§E5.8 命題 2.2によりaaはその孤立零点である。VVは開集合なので、あるr>0r>0についてD‾(a,r)⊆V\overline D(a,r)\subseteq Vかつ0<∣z−a∣≤r0<|z-a|\le rならばf(z)≠w0f(z)\ne w_0とすることができる。

境界円周C={z:∣z−a∣=r}C=\{z:|z-a|=r\}はR2\mathbb R^2における有界閉集合であり(§E1.14 定義 4.1)、§E2.9 定理 4.3によりコンパクトである。正則関数は連続なので(§E5.2 命題 1.2)、§E2.19 定理 4.4を∣f−w0∣:C→R|f-w_0|:C\to\mathbb Rへ適用すると、最小値

ε=min⁡z∈C∣f(z)−w0∣\varepsilon=\min_{z\in C}|f(z)-w_0|

が存在する。CC上でf−w0f-w_0は零を取らないためε>0\varepsilon>0である。

∣w−w0∣<ε/2|w-w_0|<\varepsilon/2を満たすwwを取り、w∉f(D(a,r))w\notin f(D(a,r))と仮定する。境界円周上では

∣f(z)−w∣≥∣f(z)−w0∣−∣w−w0∣>ε2|f(z)-w|\ge|f(z)-w_0|-|w-w_0|>\frac{\varepsilon}{2}

なので、f−wf-wは零を取らない。一方、仮定によりf−wf-wは開円板D(a,r)D(a,r)上でも零を取らない。したがってf−wf-wは閉円板上で零を取らず、

W={z∈V:f(z)≠w}W=\{z\in V:f(z)\ne w\}

はD‾(a,r)\overline D(a,r)を含む開集合であり、§E5.2 命題 1.2によりg=1/(f−w)g=1/(f-w)はWW上で正則である。境界円周上で先に得た評価から∣g(z)∣<2/ε|g(z)|<2/\varepsilonである。§E5.9 系 3.2により

∣g(a)∣≤max⁡∣z−a∣=r∣g(z)∣≤2ε|g(a)|\le\max_{|z-a|=r}|g(z)|\le\frac{2}{\varepsilon}

を得る。しかし∣g(a)∣=1/∣w0−w∣>2/ε|g(a)|=1/|w_0-w|>2/\varepsilonであり、矛盾する。ゆえにD(w0,ε/2)⊆f(D(a,r))⊆f(V)D(w_0,\varepsilon/2)\subseteq f(D(a,r))\subseteq f(V)である。

a∈Va\in Vは任意なので、f(V)f(V)の各点はf(V)f(V)に含まれる開円板の中心となる。したがってf(V)f(V)は開集合である。▨

2 零をとらない正則関数の m 乗根

命題 2.1.r>0r>0、m≥1m\ge1を整数とし、ggをD(a,r)D(a,r)上の零を取らない正則関数とする。このとき、D(a,r)D(a,r)上の正則関数GGで

G(z)m=g(z)(z∈D(a,r))G(z)^{m}=g(z)\qquad(z\in D(a,r))

を満たすものが存在する。この等式を満たす任意の正則関数GGはD(a,r)D(a,r)上で零を取らない。

証明.g′g'は§E5.6 定理 4.1により正則であり、ggは零を取らないので§E5.2 命題 1.2によりg′/gg'/gも正則である。

D(a,r)D(a,r)はaaに関して星形であり(§E5.2 定義 4.4)、§E5.2 命題 4.5により領域である。任意の閉曲線C:[0,1]→D(a,r)C:[0,1]\to D(a,r)に対して

H(s,t)=(1−s)C(t)+saH(s,t)=(1-s)C(t)+sa

とおく。∣H(s,t)−a∣=(1−s)∣C(t)−a∣<r|H(s,t)-a|=(1-s)|C(t)-a|<rであり、HHは連続でH(0,t)=C(t)H(0,t)=C(t)、H(1,t)=aH(1,t)=a、H(s,0)=H(s,1)H(s,0)=H(s,1)を満たす。したがってD(a,r)D(a,r)は§E5.2 定義 4.6の意味で単連結である。§E5.5 系 8.2により、正則関数h0h_0でh0′=g′/gh_0'=g'/gを満たすものが存在する。

§E5.3 命題 2.3によりew0=g(a)e^{w_0}=g(a)となるw0∈Cw_0\in\mathbb Cを取る。h=h0−h0(a)+w0h=h_0-h_0(a)+w_0とすればh′=g′/gh'=g'/gかつeh(a)=g(a)e^{h(a)}=g(a)である。φ=ge−h\varphi=ge^{-h}とおくと、§E5.3 命題 1.8と§E5.2 命題 1.2により

φ′=g′e−h−g h′e−h=e−h(g′−g⋅g′g)=0\varphi'=g'e^{-h}-g\,h'e^{-h}=e^{-h}\bigl(g'-g\cdot\frac{g'}{g}\bigr)=0

である。§E5.4 命題 4.3によりφ\varphiは定数であり、φ(a)=g(a)e−w0=1\varphi(a)=g(a)e^{-w_0}=1なのでg=ehg=e^hである。ここでは§E5.3 命題 1.6とe0=1e^0=1を用いた。

G(z)=eh(z)/mG(z)=e^{h(z)/m}とおくと、GGは正則であり、指数の加法法則(§E5.3 命題 1.6)からGm=eh=gG^m=e^h=gである。また、任意のmm乗根GGについてG(z)=0G(z)=0ならばg(z)=G(z)m=0g(z)=G(z)^m=0となるので、GGは零を取らない。▨

3 局所的な単射性

定理 3.1.DDを領域、ffをDD上の正則関数、a∈Da\in Dとする。次の二条件は同値である。

  1. f′(a)≠0f'(a)\ne0である。
  2. a∈W⊆Da\in W\subseteq Dを満たすある開集合WW上で、f∣Wf|_Wは単射である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。§E5.6 定理 4.1によりf′f'は正則であるから、§E5.2 命題 1.2により連続である。したがってf′(a)≠0f'(a)\ne0ならば、あるδ>0\delta>0についてD(a,δ)⊆DD(a,\delta)\subseteq Dであり、すべてのζ∈D(a,δ)\zeta\in D(a,\delta)に対して

∣f′(ζ)−f′(a)∣<∣f′(a)∣2|f'(\zeta)-f'(a)|<\frac{|f'(a)|}{2}

が成り立つようにできる。

相異なるz1,z2∈D(a,δ)z_1,z_2\in D(a,\delta)を取る。開円板は凸であるから、z1z_1からz2z_2までの線分はD(a,δ)D(a,\delta)に含まれる。ffはf′f'の原始関数なので、§E5.4 定理 4.2と積分の線形性から

f(z2)−f(z1)=∫[z1,z2]f′(ζ) dζ=f′(a)(z2−z1)+∫[z1,z2](f′(ζ)−f′(a)) dζf(z_{2})-f(z_{1})=\int_{[z_{1},z_{2}]}f'(\zeta)\,d\zeta =f'(a)(z_{2}-z_{1})+\int_{[z_{1},z_{2}]}\bigl(f'(\zeta)-f'(a)\bigr)\,d\zeta

を得る。線分の長さは∣z2−z1∣|z_2-z_1|なので、§E5.4 命題 3.2により

∣∫[z1,z2](f′(ζ)−f′(a)) dζ∣≤∣f′(a)∣2∣z2−z1∣\left|\int_{[z_1,z_2]}(f'(\zeta)-f'(a))\,d\zeta\right| \le \frac{|f'(a)|}{2}|z_2-z_1|

である。逆三角不等式を用いると

∣f(z2)−f(z1)∣≥∣f′(a)∣2∣z2−z1∣>0|f(z_2)-f(z_1)|\ge \frac{|f'(a)|}{2}|z_2-z_1|>0

となる。ゆえにf∣D(a,δ)f|_{D(a,\delta)}は単射である。

(2)⇒\Rightarrow(1)は対偶によって示す。f′(a)=0f'(a)=0と仮定し、aaの任意の開近傍N⊆DN\subseteq Dを取る。ffがaaのある近傍で定数ならば、その近傍とNNの共通部分は相異なる二点を含み、f∣Nf|_Nは単射でない。以下では、ffがaaのどの近傍でも定数でない場合を扱う。

D(a,r)⊆DD(a,r)\subseteq Dを満たすr>0r>0を取る。§E5.8 命題 1.2をf−f(a)f-f(a)へ適用する。局所的に恒等的に0となる§E5.8 命題 1.2 (1)は除外されているので、ある整数m≥1m\ge1とD(a,r)D(a,r)上の正則関数ggが存在し、

f(z)−f(a)=(z−a)mg(z),g(a)≠0f(z)-f(a)=(z-a)^{m}g(z),\qquad g(a)\ne0

が成り立つ。§E5.8 定義 1.1における位数の特徴付けとf′(a)=0f'(a)=0からm≥2m\ge2である。

ggの連続性とg(a)≠0g(a)\ne0により、0<r1≤r0<r_1\le rを取り、ggがD(a,r1)D(a,r_1)上で零を取らないようにできる。命題 2.1により、Gm=gG^m=gを満たす零を取らない正則関数GGがD(a,r1)D(a,r_1)上に存在する。

ϕ(z)=(z−a)G(z)\phi(z)=(z-a)G(z)

とおく。このときϕ\phiは正則であり、ϕ(a)=0\phi(a)=0、ϕm=f−f(a)\phi^m=f-f(a)である。また、§E5.2 命題 1.2によりϕ′(a)=G(a)≠0\phi'(a)=G(a)\ne0である。

NNはaaの開近傍なので、0<δ≤r10<\delta\le r_1を、D(a,δ)⊆ND(a,\delta)\subseteq Nかつϕ\phiがD(a,δ)D(a,\delta)上で単射となるように取ることができる。ここでは、すでに証明した(1)⇒\Rightarrow(2)をϕ\phiへ用いた。ϕ\phiは定数でなく、D(a,δ)D(a,\delta)は領域なので、定理 1.1によりϕ(D(a,δ))\phi(D(a,\delta))は00を含む開集合である。したがって、あるη>0\eta>0についてD(0,η)⊆ϕ(D(a,δ))D(0,\eta)\subseteq\phi(D(a,\delta))である。

0<c<η0<c<\etaを取り、ω=e2πi/m\omega=e^{2\pi i/m}とおく。§E5.3 命題 1.7により∣ω∣=1|\omega|=1、ωm=1\omega^m=1である。またm≥2m\ge2なので、同じ結果のez=1e^z=1の特徴付けからω≠1\omega\ne1である。したがってc,cω∈D(0,η)c,c\omega\in D(0,\eta)は相異なり、あるz0,z1∈D(a,δ)z_0,z_1\in D(a,\delta)について

ϕ(z0)=c,ϕ(z1)=cω\phi(z_0)=c,\qquad \phi(z_1)=c\omega

となる。ϕ\phiの単射性からz0≠z1z_0\ne z_1であるが、

f(z0)−f(a)=cm=(cω)m=f(z1)−f(a)f(z_0)-f(a)=c^m=(c\omega)^m=f(z_1)-f(a)

である。ゆえにf∣Nf|_Nは単射でない。NNは任意であったから、(2)は成り立たない。▨

注意 3.2 (大域的な単射性は導関数からは決まらない).定理 3.1は一点の近傍についての主張である。定義域の全体でf′≠0f'\ne0であっても、ffが定義域の全体で単射であるとは限らない。f(z)=ezf(z)=e^{z}はC\mathbb Cの上でf′=ez≠0f'=e^{z}\ne0を満たす(§E5.3 命題 1.8、§E5.3 命題 1.7)が、周期2πi2\pi iをもつので単射でない(§E5.3 命題 1.6)。したがって、導関数が零を取らないことから従うのは局所的な単射性であり、大域的な単射性ではない。

4 演習

問題 4.1 (実数値を取る正則関数).DDを領域とし、ffをDD上の正則関数とする。すべてのz∈Dz\in Dについてf(z)∈Rf(z)\in\mathbb Rならば、ffは定数であることを示せ。

解答.

ffが定数でないと仮定する。定理 1.1によりf(D)f(D)は空でない開集合である。一方、f(D)⊆Rf(D)\subseteq\mathbb Rである。実軸上の各点を中心とする任意の開円板は非実数を含むので、R\mathbb RはC\mathbb Cの空でない開集合を含まない。これは矛盾である。したがってffは定数である。▨

問題 4.2 (局所単射性と大域単射性).C\mathbb C上の正則関数f(z)=z3−3zf(z)=z^3-3zについて、局所的に単射でない点をすべて求めよ。さらに、ffがC\mathbb C全体では単射でないことを、異なる二点の具体例によって示せ。

解答.

微分するとf′(z)=3z2−3f'(z)=3z^2-3である。ゆえにf′(z)=0f'(z)=0となる点はz=1,−1z=1,-1に限る。定理 3.1により、ffはこの二点で局所的に単射でなく、それ以外の各点で局所的に単射である。またf(0)=0=f(3)f(0)=0=f(\sqrt3)であり、0≠30\ne\sqrt3なので、ffはC\mathbb C全体では単射でない。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.開写像定理と局所的な単射性を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.開写像定理と局所因数分解による多価性の記述を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.正則な m 乗根の構成と局所写像定理を参考にした。

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