§E5.7Taylor 展開

最終更新

実数の関数は、一点の近くでその点における導関数から作った多項式によって近似することができる。しかし、何回でも微分可能な関数であっても、その Taylor 級数が関数そのものへ収束するとは限らない。複素平面上の正則関数では、複素微分可能性がこの近似を局所的な恒等式へ変える。

例えば、複素指数関数は中心00の近くで

ez=1+z+z22!+z33!+⋯e^z=1+z+\frac{z^2}{2!}+\frac{z^3}{3!}+\cdots

と表される。有限個の項を取り出すと、各係数が中心における導関数の値を記録していることが分かる。この表示の収束がどの範囲で保証されるかは、係数と中心からの距離によって決まる。

前の記事の Cauchy の積分公式は、曲線上の値から内部の値を回収する仕組みを与えた。本記事では、その仕組みを局所的なべき級数表示へ結び付ける。この表示は、後続の記事で正則関数の零点や剛性を調べるための基本的な道具となる。

本記事では、正則関数の Taylor 展開と、その係数および収束範囲を解説する。

1 複素べき級数

定義 1.1.a∈Ca\in\mathbb Cと複素数列(cn)n≥0(c_n)_{n\ge0}に対する

∑n=0∞cn(z−a)n\sum_{n=0}^{\infty}c_{n}(z-a)^{n}

を、中心aaの複素べき級数 (complex power series) という。L=lim sup⁡n→∞∣cn∣1/nL=\limsup_{n\to\infty}|c_n|^{1/n}(§D1.8 定義 2.5)とおき、拡張非負実数RRを

R={1/L(0<L<∞),∞(L=0),0(L=∞)R=\begin{cases}1/L & (0<L<\infty),\\ \infty & (L=0),\\ 0 & (L=\infty)\end{cases}

によって定め、このRRを収束半径 (radius of convergence) という。RRは係数の絶対値だけから定まり、§D1.23 定理 2.1の実べき級数に対する規約と一致する。R=∞R=\inftyのときはD(a,R)=D(a,∞)=CD(a,R)=D(a,\infty)=\mathbb Cと定める。

定理 1.2.定義 1.1の記号のもとで、次が成り立つ。

  1. ∣z−a∣<R|z-a|<Rならば∑n≥0∣cn∣ ∣z−a∣n\sum_{n\ge0}|c_{n}|\,|z-a|^{n}は収束する。したがって∑n≥0cn(z−a)n\sum_{n\ge0}c_{n}(z-a)^{n}は収束する。
  2. ∣z−a∣>R|z-a|>Rならば∑n≥0cn(z−a)n\sum_{n\ge0}c_{n}(z-a)^{n}は収束しない。

証明.z=az=aならば第0項以外は消える。0<∣z−a∣<R0<|z-a|<Rとする。L<θ<1/∣z−a∣L<\theta<1/|z-a|となるθ\thetaを取る。上極限の定義から、十分大きい全てのnnについて∣cn∣1/n<θ|c_n|^{1/n}<\thetaである。したがって

∣cn∣ ∣z−a∣n≤(θ∣z−a∣)n|c_n|\,|z-a|^n\le(\theta|z-a|)^n

が最終的に成り立つ。右辺は比が1未満の等比級数なので、比較判定(§D1.21 定理 1.3)と§E5.3 補題 1.1から絶対収束と収束を得る。

∣z−a∣>R|z-a|>Rとする。この場合はR<∞R<\inftyであり、1/∣z−a∣<θ<L1/|z-a|<\theta<Lとなるθ\thetaを取ることができる。上極限の定義により、∣cn∣1/n>θ|c_n|^{1/n}>\thetaとなるnnが無限に存在する。その添字では∣cn(z−a)n∣>(θ∣z−a∣)n>1|c_n(z-a)^n|>(\theta|z-a|)^n>1である。項が0へ収束しないので、§D1.21 命題 1.1により級数は発散する。▨

注意 1.3 (収束円の境界).定理 1.2は∣z−a∣=R|z-a|=Rについて結論を与えない。例えば収束半径1の級数∑n≥0zn\sum_{n\ge0} z^nはz=1z=1で発散するが、∑n≥1zn/n2\sum_{n\ge1} z^n/n^2は§D1.21 例 4.2により∣z∣=1|z|=1の全点で絶対収束する。

命題 1.4.R>0R>0とし、KKを開円板D(a,R)D(a,R)に含まれるコンパクト集合(§E2.19 定義 2.1)とする。このとき、部分和の列sN(z)=∑n=0Ncn(z−a)ns_{N}(z)=\sum_{n=0}^{N}c_{n}(z-a)^{n}はKKの上で一様収束する。

証明.K=∅K=\varnothingならば、すべてのsN∣Ks_{N}|_{K}と級数の和s∣Ks|_{K}は空関数であり、一様収束についての主張は直ちに成り立つ。以下ではK≠∅K\ne\varnothingとする。

C\mathbb Cを実数の組と同一視し(§E1.14 定義 4.1)、絶対値を§E2.1 定義 3.2の距離とみなす。KKはコンパクトなので、§E2.9 系 4.1により有界かつ閉である。

まずρ=sup⁡z∈K∣z−a∣<R\rho=\sup_{z\in K}|z-a|<Rを示す。KKは有界であるからρ<∞\rho<\inftyである。R=∞R=\inftyならばρ<R\rho<Rは直ちに従う。以下ではR<∞R<\inftyとし、ρ=R\rho=Rと仮定する。各正の整数kkについて∣zk−a∣>R−1/k|z_{k}-a|>R-1/kを満たすzk∈Kz_{k}\in Kを取る。KKは有界であるから実部と虚部はともに有界な実数列であり、§D1.8 定理 2.2を実部へ、続いてその部分列の虚部へ適用すると、収束する部分列zkj→z∗z_{k_{j}}\to z^{*}が得られる。KKは閉集合であるからz∗∈Kz^{*}\in Kであり、∣z∗−a∣=lim⁡∣zkj−a∣=R|z^{*}-a|=\lim|z_{k_{j}}-a|=Rである。この等式はK⊆D(a,R)K\subseteq D(a,R)に反する。ゆえにρ<R\rho<Rである。

ρ<R\rho<Rなので定理 1.2により∑∣cn∣ρn\sum|c_n|\rho^nは収束する。ε>0\varepsilon>0に対し、N≥N0N\ge N_0ならばその尾和がε/2\varepsilon/2未満となるN0N_0を取る。z∈Kz\in KとM>N≥N0M>N\ge N_0について

∣sM(z)−sN(z)∣=∣∑n=N+1Mcn(z−a)n∣≤∑n=N+1M∣cn∣ρn<ε2|s_{M}(z)-s_{N}(z)|=\left|\sum_{n=N+1}^{M}c_{n}(z-a)^{n}\right| \le\sum_{n=N+1}^{M}|c_{n}|\rho^{n}<\frac{\varepsilon}{2}

である。M→∞M\to\inftyとすれば∣s(z)−sN(z)∣≤ε/2<ε|s(z)-s_N(z)|\le\varepsilon/2<\varepsilonである。N0N_0はzzに依存しないので一様収束する。▨

定理 1.5.∑n≥0cn(z−a)n\sum_{n\ge0}c_{n}(z-a)^{n}の収束半径をR>0R>0とし、D(a,R)D(a,R)の上でその和をf(z)f(z)とおく。項ごとに微分した級数∑n≥1n cn(z−a)n−1\sum_{n\ge1}n\,c_{n}(z-a)^{n-1}の収束半径もRRであり、ffはD(a,R)D(a,R)の上で正則で

f′(z)=∑n=1∞n cn(z−a)n−1f'(z)=\sum_{n=1}^{\infty}n\,c_{n}(z-a)^{n-1}

が成り立つ。

証明. 収束半径は係数の絶対値だけで定まる(定義 1.1)。したがって実べき級数についての§D1.23 補題 4.2を非負係数列(∣cn∣)(|c_n|)へ適用すると、導級数の収束半径もRRである。同じ結果をもう一度用いれば、二階形式導級数∑n≥2n(n−1)cn(z−a)n−2\sum_{n\ge2}n(n-1)c_n(z-a)^{n-2}の収束半径もRRである。

導関数を求める。z0∈D(a,R)z_{0}\in D(a,R)を固定し、∣z0−a∣<r<R|z_{0}-a|<r<Rを満たすrrを取る。g(z)=∑n≥1n cn(z−a)n−1g(z)=\sum_{n\ge1}n\,c_{n}(z-a)^{n-1}とおく。∣z−a∣<r|z-a|<rかつz≠z0z\ne z_{0}とし、w=z−aw=z-a、w0=z0−aw_{0}=z_{0}-aと書く。n≥1n\ge1について

wn−w0n=(w−w0)∑j=0n−1wjw0 n−1−jw^{n}-w_{0}^{n}=(w-w_{0})\sum_{j=0}^{n-1}w^{j}w_{0}^{\,n-1-j}

である。有限部分和fN(z)=∑n=0Ncn(z−a)nf_N(z)=\sum_{n=0}^{N}c_n(z-a)^nとgN(z)=∑n=1Nncn(z−a)n−1g_N(z)=\sum_{n=1}^{N}n c_n(z-a)^{n-1}にこの恒等式を適用すると

fN(z)−fN(z0)z−z0−gN(z0)=∑n=1Ncn∑j=0n−1w0 n−1−j(wj−w0 j)\frac{f_N(z)-f_N(z_{0})}{z-z_{0}}-g_N(z_{0}) =\sum_{n=1}^{N}c_{n}\sum_{j=0}^{n-1}w_{0}^{\,n-1-j}\bigl(w^{j}-w_{0}^{\,j}\bigr)

である。同じ因数分解をwj−w0jw^{j}-w_{0}^{j}へ適用し、∣w∣<r|w|<rと∣w0∣<r|w_{0}|<rを用いると∣wj−w0j∣≤j r j−1∣w−w0∣|w^{j}-w_{0}^{j}|\le j\,r^{\,j-1}|w-w_{0}|である。したがって

∣cn∑j=0n−1w0 n−1−j(wj−w0 j)∣≤∣cn∣ ∣w−w0∣∑j=0n−1r n−1−j j r j−1=∣cn∣ ∣w−w0∣ r n−2 n(n−1)2\left|c_{n}\sum_{j=0}^{n-1}w_{0}^{\,n-1-j}\bigl(w^{j}-w_{0}^{\,j}\bigr)\right| \le|c_{n}|\,|w-w_{0}|\sum_{j=0}^{n-1}r^{\,n-1-j}\,j\,r^{\,j-1} =|c_{n}|\,|w-w_{0}|\,r^{\,n-2}\,\frac{n(n-1)}{2}

である。∑n≥2n(n−1)∣cn∣rn−2\sum_{n\ge2}n(n-1)|c_{n}|r^{n-2}は、二度項別に微分した級数の収束半径がR>rR>rであることと定理 1.2 (1)により収束する。その和を2C2Cとおくと

∣fN(z)−fN(z0)z−z0−gN(z0)∣≤C ∣z−z0∣\left|\frac{f_N(z)-f_N(z_{0})}{z-z_{0}}-g_N(z_{0})\right|\le C\,|z-z_{0}|

である。固定したz≠z0z\ne z_0についてN→∞N\to\inftyとすると、原級数と導級数の収束によりfN(z)→f(z)f_N(z)\to f(z)、fN(z0)→f(z0)f_N(z_0)\to f(z_0)、gN(z0)→g(z0)g_N(z_0)\to g(z_0)である。ゆえに同じ評価がffとggについて成り立つ。右辺はz→z0z\to z_0で0へ収束するので、f′(z0)=g(z0)f'(z_0)=g(z_0)である。z0z_0は任意であるからffはD(a,R)D(a,R)上で正則であり、主張の項別微分公式が成り立つ。▨

2 正則関数の Taylor 展開

定理 2.1 (Taylor 展開).ffが開円板D(a,R)D(a,R)の上で正則ならば、その円板の全体で

f(z)=∑n=0∞cn(z−a)n,cn=f(n)(a)n!f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_{n}(z-a)^{n},\qquad c_{n}=\frac{f^{(n)}(a)}{n!}

が成り立つ。右辺の級数の収束半径はRR以上である。

証明.z∈D(a,R)z\in D(a,R)を固定し、∣z−a∣<r<R|z-a|<r<Rを選ぶ。反時計回りの円周Cr:∣w−a∣=rC_r:|w-a|=rに§E5.6 定理 2.1を適用すると

f(z)=12πi∮Crf(w)w−z dwf(z)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(w)}{w-z}\,dw

である。w∈∣Cr∣w\in|C_{r}|について∣z−a∣<∣w−a∣=r|z-a|<|w-a|=rであるから、q=(z−a)/(w−a)q=(z-a)/(w-a)とおくと∣q∣=∣z−a∣/r<1|q|=|z-a|/r<1であり、

1w−z=1(w−a)−(z−a)=1w−a⋅11−q=∑n=0∞(z−a)n(w−a)n+1\frac{1}{w-z}=\frac{1}{(w-a)-(z-a)}=\frac{1}{w-a}\cdot\frac{1}{1-q} =\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(z-a)^{n}}{(w-a)^{n+1}}

である。等比級数の有限剰余公式から

∣1w−z−∑n=0N(z−a)n(w−a)n+1∣=1∣w−z∣ ∣q∣N+1≤∣q∣N+1r−∣z−a∣\left|\frac{1}{w-z}-\sum_{n=0}^{N}\frac{(z-a)^{n}}{(w-a)^{n+1}}\right| =\frac{1}{|w-z|}\,|q|^{N+1} \le\frac{|q|^{N+1}}{r-|z-a|}

である。右辺はw∈Crw\in C_rに依存しない。ffは§E5.2 命題 1.2により連続であり、コンパクトな円周上では§E2.19 定理 4.4により∣f∣≤M|f|\le Mとなる。積分の線形性(§E5.4 命題 2.3)と ML 不等式(§E5.4 命題 3.2)から

∣12πi∮Crf(w)w−z dw−∑n=0N(12πi∮Crf(w)(w−a)n+1 dw)(z−a)n∣≤12π⋅2πr⋅M ∣q∣N+1r−∣z−a∣\left|\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(w)}{w-z}\,dw -\sum_{n=0}^{N}\left(\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}\,dw\right)(z-a)^{n}\right| \le\frac{1}{2\pi}\cdot 2\pi r\cdot\frac{M\,|q|^{N+1}}{r-|z-a|}

である。∣q∣<1|q|<1なので右辺は0へ収束し、

f(z)=∑n=0∞(12πi∮Crf(w)(w−a)n+1 dw)(z−a)nf(z)=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_{r}}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}\,dw\right)(z-a)^{n}

である。§E5.6 定理 4.1を中心aaで用いると括弧内はf(n)(a)/n!f^{(n)}(a)/n!に等しい。zzは任意なので円板全体で展開が成り立つ。この級数が全ての∣z−a∣<R|z-a|<Rで収束することと定理 1.2の発散側から、その収束半径はRR以上である。▨

系 2.2.R>0R>0とし、D(a,R)D(a,R)の上で∑n≥0cn(z−a)n=∑n≥0cn′(z−a)n\sum_{n\ge0}c_{n}(z-a)^{n}=\sum_{n\ge0}c_{n}'(z-a)^{n}が成り立つとすると、すべてのnnについてcn=cn′c_{n}=c_{n}'である。とくに、正則関数を中心aaのべき級数として表す表し方はただ一通りであり、その係数はf(n)(a)/n!f^{(n)}(a)/n!である。

証明. 両級数の共通の和をffとおく。各級数はD(a,R)D(a,R)の全点で収束するので、定理 1.2の発散側から、それぞれの収束半径はRR以上である。したがって定理 1.5をmm回用いると

f(m)(z)=∑n≥mn(n−1)⋯(n−m+1) cn(z−a)n−mf^{(m)}(z)=\sum_{n\ge m}n(n-1)\cdots(n-m+1)\,c_{n}(z-a)^{n-m}

である。z=az=aではn=mn=mの項だけが残るのでf(m)(a)=m!cmf^{(m)}(a)=m!c_mである。もう一方の級数からもf(m)(a)=m!cm′f^{(m)}(a)=m!c_m'となる。したがって全てのmmについてcm=cm′c_m=c_m'である。▨

命題 2.3.ffがaaのある近傍で正則であるとし、

R∗=sup⁡{r>0:D(a,r) の上で正則な関数 F で、a の近傍で f に一致するものが存在する}R^{*}=\sup\{r>0 : D(a,r) \text{ の上で正則な関数 } F \text{ で、} a \text{ の近傍で } f \text{ に一致するものが存在する}\}

とおく。このとき、ffのaaを中心とする Taylor 級数の収束半径はR∗R^{*}に等しい。R∗=∞R^*=\inftyも許す。

証明. 収束半径をRRと書く。

R≥R∗R\ge R^*を示す。0<r<R∗0<r<R^*を取る。上限の定義から、あるr′>rr'>rと、D(a,r′)D(a,r')上で正則かつaaの近傍でffに一致する関数FFが存在する。近傍で一致する関数はaaにおけるすべての導関数が一致するため、両者の Taylor 係数は同じである。定理 2.1によりこの級数はD(a,r′)D(a,r')全体でFFへ収束するので、その収束半径はr′r'以上、したがってrrより大きい。r<R∗r<R^*は任意なのでR≥R∗R\ge R^*である。この論証はR∗=∞R^*=\inftyの場合も同じである。

R≤R∗R\le R^*を示す。0<r<R0<r<Rを取る。Taylor 級数の和をFFとすると、定理 1.5によりFFはD(a,r)D(a,r)上で正則である。一方、あるδ>0\delta>0についてffはD(a,δ)D(a,\delta)上で正則である。必要ならδ<r\delta<rとしてよい。定理 2.1によりffはD(a,δ)D(a,\delta)上で自身の Taylor 級数、すなわちFFに等しい。したがってFFはR∗R^*の定義に現れる正則延長であり、r≤R∗r\le R^*である。任意のr<Rr<Rについて成り立つのでR≤R∗R\le R^*である。R=0R=0ならばこの不等式は自明である。▨

例 2.4 (実軸上では見えない正則延長の障害).f(z)=1/(1+z2)f(z)=1/(1+z^{2})は§E5.2 命題 1.2によりz=±iz=\pm iを除いて正則である。a=0a=0を中心とすると、

11+z2=∑n=0∞(−1)nz2n(∣z∣<1)\frac{1}{1+z^{2}}=\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}z^{2n}\qquad(|z|<1)

である。∣z∣<1|z|<1では等比級数から等式が従う。z=iz=iでは一般項が0へ収束しないので、収束半径は1を超えない。また、表示は∣z∣<1|z|<1で収束するので収束半径は1である。一方、D(0,1)D(0,1)上でffは正則なので正則延長可能半径は1以上である。命題 2.3により、この半径は Taylor 級数の収束半径1に等しい。

実関数1/(1+x2)1/(1+x^2)は全実数上で何回でも微分可能である。しかし中心0の Taylor 級数の収束を制限するのは、複素平面で中心から距離1にある±i\pm iで正則に延長することができないという事実である。

3 扱う範囲の境界

注意 3.1 (負の冪を含む展開). 本記事のべき級数は非負の冪だけからなり、中心を含む開円板で扱う。円環上の Laurent 展開と孤立特異点の分類は後続の記事が扱う。

4 演習

問題 4.1 (境界上で異なる収束). 二つのべき級数∑n≥0zn\sum_{n\ge0}z^nと∑n≥1zn/n2\sum_{n\ge1}z^n/n^2の収束半径がともに1であることを示し、z=1z=1における収束を比較せよ。

解答.

∣z∣<1|z|<1ならば∣z∣n/n2≤∣z∣n|z|^n/n^2\le |z|^nなので、両級数は等比級数との比較により絶対収束する。∣z∣>1|z|>1ならば、第一の級数の一般項は0へ収束しない。また、第二の級数の一般項の絶対値un=∣z∣n/n2u_n=|z|^n/n^2はun+1/un=∣z∣(n/(n+1))2→∣z∣>1u_{n+1}/u_n=|z|(n/(n+1))^2\to|z|>1を満たすので、最終的に増加して0へ収束しない。定理 1.2の内側と外側の特徴づけにより、両級数の収束半径は1である。z=1z=1では、第一の級数は一般項が1なので発散し、第二の級数は§D1.21 例 4.2により収束する。したがって、収束半径だけから境界上の収束を判定することはできない。▨

問題 4.2 (係数から正則関数を判定する).ffがD(0,3)D(0,3)上で正則で、f(n)(0)=n!/2nf^{(n)}(0)=n!/2^nがすべての非負整数nnについて成り立つと仮定する。この仮定が矛盾を含むことを示せ。

解答.

定理 2.1と系 2.2により、ffの中心0の Taylor 級数は∑(z/2)n\sum(z/2)^nである。この級数の収束半径は2である。一方、ffがD(0,3)D(0,3)上で正則ならば定理 2.1により Taylor 級数の収束半径は3以上でなければならない。これは矛盾である。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.複素べき級数の収束と正則関数の Taylor 展開を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.べき級数の項別微分と Taylor 展開を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.収束半径と最も近い特異点までの距離の一致を参考にした。

前提記事