1 留数と主要部
定義 1.1.aをfの孤立特異点とし、(cn)n∈ZをA(a;0,ε)における Laurent 係数とする(§E5.11 定理 2.1)。係数
Res(f,a)=c−1を、aにおけるfの留数 (residue) という。0<ρ<εならば
Res(f,a)=2πi1∮Cρf(z)dzである。この表示は Laurent 係数の積分表示であり、値はρによらない。
証明.§E5.11 命題 3.4により、fの Laurent 係数は
ck−m=k!h(k)(a)(k≥0)を満たす。k=m−1とすれば、留数の定義からRes(f,a)=c−1=h(m−1)(a)/(m−1)!を得る。
m=1のときは穿孔円板上でh(z)=(z−a)f(z)である。hはaで連続なので、極限表示も従う。▨
例 1.3 (単純極と高位の極).f(z)=1/(z2+1)とする。z=iの近くでは
f(z)=z−i1/(z+i)であり、h(z)=1/(z+i)はiの近傍で正則でh(i)=1/(2i)=0である。したがって§E5.11 命題 3.4によりiは単純極であり、命題 1.2により
Res(f,i)=2i1である。
f(z)=1/(z3(1−z))では、h(z)=1/(1−z)は原点の近傍で正則でh(0)=1であるから、§E5.11 命題 3.4により原点は位数3の極である。命題 1.2を用いると
Res(f,0)=2!h′′(0)=1を得る。一方、0<∣z∣<1では
z3(1−z)1=z31+z21+z1+1+z+⋯であるから、Laurent 展開の−1次係数からも同じ値を得る。
命題 1.4.aをfの位数mの極とし、(cn)n∈ZをA(a;0,ε)における Laurent 係数とする。このとき主要部は有限和
P(z)=n=1∑mc−n(z−a)−nであり、C∖{a}の上で正則である。
証明. 極の定義(§E5.11 定義 3.1)によりc−m=0かつn>mならばc−n=0なので、主要部は表示した有限和である。各項は§E5.2 系 1.3によりC∖{a}上で正則であるから、有限和Pも同じ集合の上で正則である。▨
命題 1.5.aをfの孤立特異点とし、Pをその主要部とする。このとき、f−PはA(a;0,ε)上で正則であり、D(a,ε)上の正則関数へ延長される。
証明.§E5.11 定理 2.1により、穿孔円板上で
f(z)−P(z)=n=0∑∞cn(z−a)nである。右辺は0<∣z−a∣<εのすべての点で収束するので、§E5.7 定理 1.2により収束半径はε以上である。したがって§E5.7 定理 1.5により、右辺はD(a,ε)上の正則関数を定める。この関数がf−Pの延長である。▨
2 留数定理
補題 2.1.U⊆Cを開集合、A⊆UをUの中に集積点をもたない部分集合とする。また、Γを∣Γ∣⊆U∖Aを満たし、Uの内部で零ホモローグなサイクルとする。このとき
B={a∈A:n(Γ,a)=0}は有限集合である。
証明. 集合
K=∣Γ∣∪{z∈C∖∣Γ∣:n(Γ,z)=0}を考える。サイクルを構成する各閉曲線の定義域は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトであり、その像は§E2.19 定理 4.2によりコンパクトである。各像は§E2.9 系 4.1により有界閉集合なので、有限個の像の合併であるサイクルの台も有界閉集合である。
Kの補集合は{z∈/∣Γ∣:n(Γ,z)=0}である。§E5.5 命題 5.4により回転数は台の外で局所的に定数なので、この補集合は開集合であり、Kは閉集合である。また、台を含む十分大きな閉円板を取ると、その円板の外部はC∖∣Γ∣の非有界成分に含まれる。同じ命題により回転数はその成分で0なので、Kはこの閉円板に含まれ、有界である。したがって§E2.9 定理 4.3によりKはコンパクトである。
K⊆Uである。実際、p∈K∖Uと仮定すると、∣Γ∣⊆Uであるからp∈/∣Γ∣であり、Kの定義からn(Γ,p)=0となる。これはΓがUの内部で零ホモローグであることに反する。
AはUの中に集積点をもたないので、各x∈KにはAと高々一つの点でしか交わらないU内の開近傍が存在する。これらの近傍はコンパクト集合Kを覆うため、有限部分被覆をもつ。したがってA∩Kは有限であり、B⊆A∩Kも有限である。▨
定理 2.2 (留数定理).U⊆Cを開集合、A⊆UをUの中に集積点をもたない部分集合とする。fをU∖A上の正則関数とし、Aの各点をfの極とする。また、Γを∣Γ∣⊆U∖Aを満たし、Uの内部で零ホモローグなサイクルとする。このときn(Γ,a)=0を満たすa∈Aは有限個であり、
∫Γf(z)dz=2πia∈A∑n(Γ,a)Res(f,a)が成り立つ。右辺は、n(Γ,a)=0を満たす有限個のaにわたる和である。
証明.補題 2.1により
B={a∈A:n(Γ,a)=0}は有限集合である。各a∈Bについて、Paをaにおけるfの主要部とする。
AはUの中に集積点をもたないので、各a∈AにはD(a,εa)⊆UかつD(a,εa)∩A={a}を満たすεa>0が存在する。したがってaはfの孤立特異点であり、上で用いた主要部が定まる。
A∖BはUの相対位相で閉じている。実際、x∈U∖(A∖B)とする。x∈/Aならば、xはAの集積点でないため、Aと交わらないxの開近傍が存在する。x∈Bならば、上の孤立性から、A∖Bと交わらないxの開近傍が存在する。したがってU∖(A∖B)は開集合であり、
V=U∖(A∖B)は開集合である。∣Γ∣⊆Vであり、ΓはVの内部でも零ホモローグである。実際、p∈/Vならば、p∈/Uであるかp∈A∖Bである。前者ではUにおける零ホモローグ性から、後者ではBの定義から、いずれもn(Γ,p)=0である。
V∖B=U∖Aの上で
g=f−a∈B∑Paとおく。a∈Bを固定すると、命題 1.5によりf−Paはaへ正則に延長される。また、b∈B∖{a}ならば命題 1.4によりPbはaの近傍で正則である。したがってgはBの各点へ正則に延長され、V上の正則関数となる。
§E5.5 定理 6.6をVとΓへ適用すると∫Γg=0である。ゆえに
∫Γf(z)dz=a∈B∑∫ΓPa(z)dz(1)を得る。
a∈Bを固定し、その極の位数をmaとする。命題 1.4によりPa(z)=∑n=1mac−n(a)(z−a)−nは有限和なので、積分の線形性から
∫ΓPa(z)dz=n=1∑mac−n(a)∫Γ(z−a)−ndzである。
n≥2ならば(z−a)−nはC∖{a}上で原始関数(z−a)−n+1/(−n+1)をもつので、§E5.4 系 4.4により対応する積分は0である。n=1ならば§E5.5 定義 1.1により
∫Γz−adz=2πin(Γ,a)である。したがって
∫ΓPa(z)dz=2πin(Γ,a)c−1(a)=2πin(Γ,a)Res(f,a).この等式を式 (1) へ代入し、A∖Bでは回転数が0であることを用いると主張を得る。▨
系 2.3.Rを辺が座標軸に平行な閉長方形、C=∂Rをその正の向きの境界とする。fが、Rを含む開集合Uから、Rの内部にある相異なる有限個の極a1,…,akを除いた集合の上で正則ならば
∮Cf(z)dz=2πij=1∑kRes(f,aj)が成り立つ。
証明.A={a1,…,ak}とする。∣C∣⊆U∖Aであり、p∈/Uならばp∈/Rなので§E5.5 命題 5.6によりn(C,p)=0である。したがってCはUの内部で零ホモローグである。同じ命題により、Rの内部にある各ajについてn(C,aj)=1である。定理 2.2を適用すれば主張を得る。▨
例 2.4 (複数の極をもつ有理関数).
f(z)=z(z−1)(z−2)1とする。§E5.11 命題 3.4により三つの極はいずれも単純極であり、命題 1.2により
Res(f,0)=21,Res(f,1)=−1,Res(f,2)=21である。三点を内部に含む閉長方形R=[−1,3]×[−1,1]の正の向きの境界をCとすると、系 2.3により
∮Cf(z)dz=2πi(21−1+21)=0となる。各極の局所的な寄与は非零であるが、サイクル全体に対する寄与は相殺する。
3 演習
問題 3.1 (対数微分の留数).gをaの近傍で正則な関数とし、aをgの位数mの零点とする。g′/gがaに単純極をもち、
Res(gg′,a)=mとなることを示せ。
解答.
§E5.8 命題 1.2により、aのある近傍で
g(z)=(z−a)mu(z),u(a)=0と書くことができる。近傍を縮めればuは零を取らないので、穿孔近傍で
g(z)g′(z)=z−am+u(z)u′(z)である。右辺の第2項はaの近傍で正則である。したがってg′/gの主要部はm/(z−a)であり、留数はmである。▨
問題 3.2 (重みをもつサイクル).Crを原点中心、半径rの反時計回りの円周とし、
f(z)=z(z−2)1,Γ=2C1+C3とする。∫Γf(z)dzを求めよ。
解答.
fの極は0と2である。§E5.11 命題 3.4によりどちらも単純極であり、命題 1.2により
Res(f,0)=−21,Res(f,2)=21である。また、§E5.5 命題 5.6と回転数の線形性により
n(Γ,0)=2⋅1+1=3,n(Γ,2)=2⋅0+1=1である。U=Cとして定理 2.2を適用すると
∫Γf(z)dz=2πi(3⋅(−21)+1⋅21)=−2πiを得る。▨