§E5.12留数定理

最終更新

複素関数の積分では、積分経路が関数の特異点を囲むと、正則な領域で成立する議論だけでは積分値を決定できない場合がある。孤立特異点の近傍で関数を Laurent 展開すると、負の冪の係数が特異点の局所的な情報を与え、そのうち−1-1次係数を留数と呼ぶ。留数は、たとえばf(z)=1/(z−a)f(z)=1/(z-a)をaaを中心とする反時計回りの円周に沿って積分すると値が2πi2\pi iとなる事実を記述するため、複素積分と特異点を結びつける重要な概念である。本記事では、留数の基本的な性質と留数定理を解説する。

1 留数と主要部

定義 1.1.aaをffの孤立特異点とし、(cn)n∈Z(c_n)_{n\in\mathbb Z}をA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)における Laurent 係数とする(§E5.11 定理 2.1)。係数

Res⁡(f,a)=c−1\operatorname{Res}(f,a)=c_{-1}

を、aaにおけるffの留数 (residue) という。0<ρ<ε0<\rho<\varepsilonならば

Res⁡(f,a)=12πi∮Cρf(z) dz\operatorname{Res}(f,a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_\rho}f(z)\,dz

である。この表示は Laurent 係数の積分表示であり、値はρ\rhoによらない。

命題 1.2.aaをffの位数mmの極とする。hhがD(a,ε)D(a,\varepsilon)上で正則で、h(a)≠0h(a)\ne0かつ

f(z)=h(z)(z−a)m(0<∣z−a∣<ε)f(z)=\frac{h(z)}{(z-a)^m}\qquad(0<|z-a|<\varepsilon)

を満たすならば、

Res⁡(f,a)=h(m−1)(a)(m−1)!\operatorname{Res}(f,a)=\frac{h^{(m-1)}(a)}{(m-1)!}

である。とくに、aaが単純極ならば

Res⁡(f,a)=h(a)=lim⁡z→a(z−a)f(z)\operatorname{Res}(f,a)=h(a)=\lim_{z\to a}(z-a)f(z)

である。

証明.§E5.11 命題 3.4により、ffの Laurent 係数は

ck−m=h(k)(a)k!(k≥0)c_{k-m}=\frac{h^{(k)}(a)}{k!}\qquad(k\ge0)

を満たす。k=m−1k=m-1とすれば、留数の定義からRes⁡(f,a)=c−1=h(m−1)(a)/(m−1)!\operatorname{Res}(f,a)=c_{-1}=h^{(m-1)}(a)/(m-1)!を得る。

m=1m=1のときは穿孔円板上でh(z)=(z−a)f(z)h(z)=(z-a)f(z)である。hhはaaで連続なので、極限表示も従う。▨

例 1.3 (単純極と高位の極).f(z)=1/(z2+1)f(z)=1/(z^2+1)とする。z=iz=iの近くでは

f(z)=1/(z+i)z−if(z)=\frac{1/(z+i)}{z-i}

であり、h(z)=1/(z+i)h(z)=1/(z+i)はiiの近傍で正則でh(i)=1/(2i)≠0h(i)=1/(2i)\ne0である。したがって§E5.11 命題 3.4によりiiは単純極であり、命題 1.2により

Res⁡(f,i)=12i\operatorname{Res}(f,i)=\frac{1}{2i}

である。

f(z)=1/(z3(1−z))f(z)=1/(z^3(1-z))では、h(z)=1/(1−z)h(z)=1/(1-z)は原点の近傍で正則でh(0)=1h(0)=1であるから、§E5.11 命題 3.4により原点は位数33の極である。命題 1.2を用いると

Res⁡(f,0)=h′′(0)2!=1\operatorname{Res}(f,0)=\frac{h''(0)}{2!}=1

を得る。一方、0<∣z∣<10<|z|<1では

1z3(1−z)=1z3+1z2+1z+1+z+⋯\frac{1}{z^3(1-z)}=\frac1{z^3}+\frac1{z^2}+\frac1z+1+z+\cdots

であるから、Laurent 展開の−1-1次係数からも同じ値を得る。

命題 1.4.aaをffの位数mmの極とし、(cn)n∈Z(c_n)_{n\in\mathbb Z}をA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)における Laurent 係数とする。このとき主要部は有限和

P(z)=∑n=1mc−n(z−a)−nP(z)=\sum_{n=1}^{m}c_{-n}(z-a)^{-n}

であり、C∖{a}\mathbb C\setminus\{a\}の上で正則である。

証明. 極の定義(§E5.11 定義 3.1)によりc−m≠0c_{-m}\ne0かつn>mn>mならばc−n=0c_{-n}=0なので、主要部は表示した有限和である。各項は§E5.2 系 1.3によりC∖{a}\mathbb C\setminus\{a\}上で正則であるから、有限和PPも同じ集合の上で正則である。▨

命題 1.5.aaをffの孤立特異点とし、PPをその主要部とする。このとき、f−Pf-PはA(a;0,ε)A(a;0,\varepsilon)上で正則であり、D(a,ε)D(a,\varepsilon)上の正則関数へ延長される。

証明.§E5.11 定理 2.1により、穿孔円板上で

f(z)−P(z)=∑n=0∞cn(z−a)nf(z)-P(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_n(z-a)^n

である。右辺は0<∣z−a∣<ε0<|z-a|<\varepsilonのすべての点で収束するので、§E5.7 定理 1.2により収束半径はε\varepsilon以上である。したがって§E5.7 定理 1.5により、右辺はD(a,ε)D(a,\varepsilon)上の正則関数を定める。この関数がf−Pf-Pの延長である。▨

2 留数定理

補題 2.1.U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、A⊆UA\subseteq UをUUの中に集積点をもたない部分集合とする。また、Γ\Gammaを∣Γ∣⊆U∖A|\Gamma|\subseteq U\setminus Aを満たし、UUの内部で零ホモローグなサイクルとする。このとき

B={a∈A:n(Γ,a)≠0}B=\{a\in A:n(\Gamma,a)\ne0\}

は有限集合である。

証明. 集合

K=∣Γ∣∪{z∈C∖∣Γ∣:n(Γ,z)≠0}K=|\Gamma|\cup\{z\in\mathbb C\setminus|\Gamma|:n(\Gamma,z)\ne0\}

を考える。サイクルを構成する各閉曲線の定義域は§E2.9 定理 4.3によりコンパクトであり、その像は§E2.19 定理 4.2によりコンパクトである。各像は§E2.9 系 4.1により有界閉集合なので、有限個の像の合併であるサイクルの台も有界閉集合である。

KKの補集合は{z∉∣Γ∣:n(Γ,z)=0}\{z\notin|\Gamma|:n(\Gamma,z)=0\}である。§E5.5 命題 5.4により回転数は台の外で局所的に定数なので、この補集合は開集合であり、KKは閉集合である。また、台を含む十分大きな閉円板を取ると、その円板の外部はC∖∣Γ∣\mathbb C\setminus|\Gamma|の非有界成分に含まれる。同じ命題により回転数はその成分で00なので、KKはこの閉円板に含まれ、有界である。したがって§E2.9 定理 4.3によりKKはコンパクトである。

K⊆UK\subseteq Uである。実際、p∈K∖Up\in K\setminus Uと仮定すると、∣Γ∣⊆U|\Gamma|\subseteq Uであるからp∉∣Γ∣p\notin|\Gamma|であり、KKの定義からn(Γ,p)≠0n(\Gamma,p)\ne0となる。これはΓ\GammaがUUの内部で零ホモローグであることに反する。

AAはUUの中に集積点をもたないので、各x∈Kx\in KにはAAと高々一つの点でしか交わらないUU内の開近傍が存在する。これらの近傍はコンパクト集合KKを覆うため、有限部分被覆をもつ。したがってA∩KA\cap Kは有限であり、B⊆A∩KB\subseteq A\cap Kも有限である。▨

定理 2.2 (留数定理).U⊆CU\subseteq\mathbb Cを開集合、A⊆UA\subseteq UをUUの中に集積点をもたない部分集合とする。ffをU∖AU\setminus A上の正則関数とし、AAの各点をffの極とする。また、Γ\Gammaを∣Γ∣⊆U∖A|\Gamma|\subseteq U\setminus Aを満たし、UUの内部で零ホモローグなサイクルとする。このときn(Γ,a)≠0n(\Gamma,a)\ne0を満たすa∈Aa\in Aは有限個であり、

∫Γf(z) dz=2πi∑a∈An(Γ,a)Res⁡(f,a)\int_\Gamma f(z)\,dz =2\pi i\sum_{a\in A}n(\Gamma,a)\operatorname{Res}(f,a)

が成り立つ。右辺は、n(Γ,a)≠0n(\Gamma,a)\ne0を満たす有限個のaaにわたる和である。

証明.補題 2.1により

B={a∈A:n(Γ,a)≠0}B=\{a\in A:n(\Gamma,a)\ne0\}

は有限集合である。各a∈Ba\in Bについて、PaP_aをaaにおけるffの主要部とする。

AAはUUの中に集積点をもたないので、各a∈Aa\in AにはD(a,εa)⊆UD(a,\varepsilon_a)\subseteq UかつD(a,εa)∩A={a}D(a,\varepsilon_a)\cap A=\{a\}を満たすεa>0\varepsilon_a>0が存在する。したがってaaはffの孤立特異点であり、上で用いた主要部が定まる。

A∖BA\setminus BはUUの相対位相で閉じている。実際、x∈U∖(A∖B)x\in U\setminus(A\setminus B)とする。x∉Ax\notin Aならば、xxはAAの集積点でないため、AAと交わらないxxの開近傍が存在する。x∈Bx\in Bならば、上の孤立性から、A∖BA\setminus Bと交わらないxxの開近傍が存在する。したがってU∖(A∖B)U\setminus(A\setminus B)は開集合であり、

V=U∖(A∖B)V=U\setminus(A\setminus B)

は開集合である。∣Γ∣⊆V|\Gamma|\subseteq Vであり、Γ\GammaはVVの内部でも零ホモローグである。実際、p∉Vp\notin Vならば、p∉Up\notin Uであるかp∈A∖Bp\in A\setminus Bである。前者ではUUにおける零ホモローグ性から、後者ではBBの定義から、いずれもn(Γ,p)=0n(\Gamma,p)=0である。

V∖B=U∖AV\setminus B=U\setminus Aの上で

g=f−∑a∈BPag=f-\sum_{a\in B}P_a

とおく。a∈Ba\in Bを固定すると、命題 1.5によりf−Paf-P_aはaaへ正則に延長される。また、b∈B∖{a}b\in B\setminus\{a\}ならば命題 1.4によりPbP_bはaaの近傍で正則である。したがってggはBBの各点へ正則に延長され、VV上の正則関数となる。

§E5.5 定理 6.6をVVとΓ\Gammaへ適用すると∫Γg=0\int_\Gamma g=0である。ゆえに

∫Γf(z) dz=∑a∈B∫ΓPa(z) dz(1)\int_\Gamma f(z)\,dz=\sum_{a\in B}\int_\Gamma P_a(z)\,dz \tag{1}

を得る。

a∈Ba\in Bを固定し、その極の位数をmam_aとする。命題 1.4によりPa(z)=∑n=1mac−n(a)(z−a)−nP_a(z)=\sum_{n=1}^{m_a}c_{-n}^{(a)}(z-a)^{-n}は有限和なので、積分の線形性から

∫ΓPa(z) dz=∑n=1mac−n(a)∫Γ(z−a)−n dz\int_\Gamma P_a(z)\,dz =\sum_{n=1}^{m_a}c_{-n}^{(a)}\int_\Gamma(z-a)^{-n}\,dz

である。

n≥2n\ge2ならば(z−a)−n(z-a)^{-n}はC∖{a}\mathbb C\setminus\{a\}上で原始関数(z−a)−n+1/(−n+1)(z-a)^{-n+1}/(-n+1)をもつので、§E5.4 系 4.4により対応する積分は00である。n=1n=1ならば§E5.5 定義 1.1により

∫Γdzz−a=2πi n(Γ,a)\int_\Gamma\frac{dz}{z-a}=2\pi i\,n(\Gamma,a)

である。したがって

∫ΓPa(z) dz=2πi n(Γ,a)c−1(a)=2πi n(Γ,a)Res⁡(f,a).\int_\Gamma P_a(z)\,dz =2\pi i\,n(\Gamma,a)c_{-1}^{(a)} =2\pi i\,n(\Gamma,a)\operatorname{Res}(f,a).

この等式を式 (1) へ代入し、A∖BA\setminus Bでは回転数が00であることを用いると主張を得る。▨

系 2.3.RRを辺が座標軸に平行な閉長方形、C=∂RC=\partial Rをその正の向きの境界とする。ffが、RRを含む開集合UUから、RRの内部にある相異なる有限個の極a1,…,aka_1,\ldots,a_kを除いた集合の上で正則ならば

∮Cf(z) dz=2πi∑j=1kRes⁡(f,aj)\oint_C f(z)\,dz=2\pi i\sum_{j=1}^{k}\operatorname{Res}(f,a_j)

が成り立つ。

証明.A={a1,…,ak}A=\{a_1,\ldots,a_k\}とする。∣C∣⊆U∖A|C|\subseteq U\setminus Aであり、p∉Up\notin Uならばp∉Rp\notin Rなので§E5.5 命題 5.6によりn(C,p)=0n(C,p)=0である。したがってCCはUUの内部で零ホモローグである。同じ命題により、RRの内部にある各aja_jについてn(C,aj)=1n(C,a_j)=1である。定理 2.2を適用すれば主張を得る。▨

例 2.4 (複数の極をもつ有理関数).

f(z)=1z(z−1)(z−2)f(z)=\frac{1}{z(z-1)(z-2)}

とする。§E5.11 命題 3.4により三つの極はいずれも単純極であり、命題 1.2により

Res⁡(f,0)=12,Res⁡(f,1)=−1,Res⁡(f,2)=12\operatorname{Res}(f,0)=\frac12,\qquad \operatorname{Res}(f,1)=-1,\qquad \operatorname{Res}(f,2)=\frac12

である。三点を内部に含む閉長方形R=[−1,3]×[−1,1]R=[-1,3]\times[-1,1]の正の向きの境界をCCとすると、系 2.3により

∮Cf(z) dz=2πi(12−1+12)=0\oint_C f(z)\,dz =2\pi i\left(\frac12-1+\frac12\right)=0

となる。各極の局所的な寄与は非零であるが、サイクル全体に対する寄与は相殺する。

注意 2.5 (零ホモローグ性を外すと成り立たない).U=C∖{0}U=\mathbb C\setminus\{0\}、A=∅A=\varnothing、f(z)=1/zf(z)=1/zとし、Γ\Gammaを反時計回りの単位円周とする。ffはUU上で正則であるため留数の和は空であるが、

∫Γf(z) dz=2πi\int_\Gamma f(z)\,dz=2\pi i

である。このときn(Γ,0)=1n(\Gamma,0)=1なので、Γ\GammaはUUの内部で零ホモローグでない。一方、U=CU=\mathbb C、A={0}A=\{0\}と取ればΓ\GammaはUUの内部で零ホモローグであり、定理 2.2は同じ積分値を与える。

3 演習

問題 3.1 (対数微分の留数).ggをaaの近傍で正則な関数とし、aaをggの位数mmの零点とする。g′/gg'/gがaaに単純極をもち、

Res⁡ ⁣(g′g,a)=m\operatorname{Res}\!\left(\frac{g'}{g},a\right)=m

となることを示せ。

解答.

§E5.8 命題 1.2により、aaのある近傍で

g(z)=(z−a)mu(z),u(a)≠0g(z)=(z-a)^m u(z),\qquad u(a)\ne0

と書くことができる。近傍を縮めればuuは零を取らないので、穿孔近傍で

g′(z)g(z)=mz−a+u′(z)u(z)\frac{g'(z)}{g(z)}=\frac{m}{z-a}+\frac{u'(z)}{u(z)}

である。右辺の第2項はaaの近傍で正則である。したがってg′/gg'/gの主要部はm/(z−a)m/(z-a)であり、留数はmmである。▨

問題 3.2 (重みをもつサイクル).CrC_rを原点中心、半径rrの反時計回りの円周とし、

f(z)=1z(z−2),Γ=2C1+C3f(z)=\frac{1}{z(z-2)},\qquad \Gamma=2C_1+C_3

とする。∫Γf(z) dz\int_\Gamma f(z)\,dzを求めよ。

解答.

ffの極は00と22である。§E5.11 命題 3.4によりどちらも単純極であり、命題 1.2により

Res⁡(f,0)=−12,Res⁡(f,2)=12\operatorname{Res}(f,0)=-\frac12,\qquad \operatorname{Res}(f,2)=\frac12

である。また、§E5.5 命題 5.6と回転数の線形性により

n(Γ,0)=2⋅1+1=3,n(Γ,2)=2⋅0+1=1n(\Gamma,0)=2\cdot1+1=3,\qquad n(\Gamma,2)=2\cdot0+1=1

である。U=CU=\mathbb Cとして定理 2.2を適用すると

∫Γf(z) dz=2πi(3⋅(−12)+1⋅12)=−2πi\int_\Gamma f(z)\,dz =2\pi i\left(3\cdot\left(-\frac12\right)+1\cdot\frac12\right) =-2\pi i

を得る。▨

参考文献

  1. Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., AMS Chelsea Publishing 385, American Mathematical Society, Providence, R.I., 2021, originally published 1979.回転数を係数とする一般形の留数定理を参考にした。
  2. Walter Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw Hill, 1987.零ホモローグなサイクルに対する留数定理を参考にした。
  3. John B. Conway, Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1978.留数の計算公式と留数定理の応用を参考にした。

前提記事