§E3.35随伴作用素と正規作用素

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随伴は、線形写像を内積の一方の変数から他方の変数へ移す操作である。随伴との等式によって、自己随伴作用素、直交作用素・ユニタリ作用素、正規作用素、および正作用素を基底を選ばずに定義することができる。本記事では、後続のスペクトル定理を用いずに、ノルム保存と固有値・固有空間の基本性質を証明する。

1 随伴の演算

係数体KKをR\mathbb RまたはC\mathbb Cとし、VVを有限次元KK-内積空間とする。

命題 1.1.S,T∈End⁡(V)S,T\in\operatorname{End}(V)とa,b∈Ka,b\in Kに対して

(aS+bT)∗=a‾ S∗+b‾ T∗,(ST)∗=T∗S∗,(T∗)∗=T(aS+bT)^*=\overline a\,S^*+\overline b\,T^*, \qquad (ST)^*=T^*S^*, \qquad (T^*)^*=T

が成り立つ。またI∗=II^*=Iである。

証明. 実内積と複素内積はいずれも非退化な Hermite 形式である。§E3.31 命題 3.2をU=V=WU=V=Wの場合に適用すると、反線形加法則、合成則、二重随伴、および恒等写像の式が全て得られる。▨

2 四種類の作用素

定義 2.1.T∈End⁡(V)T\in\operatorname{End}(V)とする。

  1. T∗=TT^*=Tのとき、TTを 自己随伴作用素 (self-adjoint operator) という。
  2. T∗T=TT∗=IT^*T=TT^*=Iのとき、TTを ユニタリ作用素 (unitary operator) という。K=RK=\mathbb Rの場合には直交作用素 (orthogonal operator) という。
  3. T∗T=TT∗T^*T=TT^*のとき、TTを 正規作用素 (normal operator) という。
  4. TTが自己随伴であり、全てのx∈Vx\in Vに対して ⟨Tx,x⟩≥0\langle Tx,x\rangle\geq0 となるとき、TTを 正作用素 (positive operator) という。

正作用素の不等式は実数についての不等式である。自己随伴性から⟨Tx,x⟩=⟨Tx,x⟩‾\langle Tx,x\rangle=\overline{\langle Tx,x\rangle}となるため、この値は実数である。

命題 2.2.WWをVVと同じ係数体KK上の有限次元内積空間とする。任意の線形写像S:V→WS:V\to Wに対し、S∗S:V→VS^*S:V\to Vは正作用素である。正作用素A,B∈End⁡(V)A,B\in\operatorname{End}(V)と実数a,b≥0a,b\geq0に対してaA+bBaA+bBも正作用素である。

証明. 随伴の代数的性質から(S∗S)∗=S∗S(S^*S)^*=S^*Sであり、

⟨S∗Sx,x⟩=⟨Sx,Sx⟩=∥Sx∥2≥0.\langle S^*Sx,x\rangle =\langle Sx,Sx\rangle=\|Sx\|^2\geq0.

よってS∗SS^*Sは正作用素である。aA+bBaA+bBは自己随伴であり、

⟨(aA+bB)x,x⟩=a⟨Ax,x⟩+b⟨Bx,x⟩≥0\langle(aA+bB)x,x\rangle =a\langle Ax,x\rangle+b\langle Bx,x\rangle\geq0

なので正作用素である。▨

3 ノルムを保つ作用素

定理 3.1.U∈End⁡(V)U\in\operatorname{End}(V)について、次は同値である。

  1. UUはユニタリである。
  2. 全てのx,y∈Vx,y\in Vに対して⟨Ux,Uy⟩=⟨x,y⟩\langle Ux,Uy\rangle=\langle x,y\rangleである。
  3. 全てのx∈Vx\in Vに対して∥Ux∥=∥x∥\|Ux\|=\|x\|である。

この条件が成り立つとき、U−1=U∗U^{-1}=U^*である。

証明方針は、U∗U=IU^*U=Iと内積保存を随伴の定義で対応させ、ノルムから内積を復元する偏極公式でノルム保存から内積保存を導くことである。

証明.UUがユニタリなら

⟨Ux,Uy⟩=⟨x,U∗Uy⟩=⟨x,y⟩\langle Ux,Uy\rangle=\langle x,U^*Uy\rangle=\langle x,y\rangle

なので(1)⇒\Rightarrow(2)が従う。(2)⇒\Rightarrow(3)はy=xy=xとすれば従う。

(3)⇒\Rightarrow(2)を示す。実内積の場合には

⟨x,y⟩=14(∥x+y∥2−∥x−y∥2)\langle x,y\rangle =\frac14\bigl(\|x+y\|^2-\|x-y\|^2\bigr)

である。複素内積の場合には、第1変数を線形とする規約の下で

⟨x,y⟩=14(∥x+y∥2−∥x−y∥2+i∥x+iy∥2−i∥x−iy∥2)\begin{aligned} \langle x,y\rangle =\frac14\bigl(&\|x+y\|^2-\|x-y\|^2\\ &+i\|x+iy\|^2-i\|x-iy\|^2\bigr) \end{aligned}

である。各式は右辺を展開すれば確認することができる。UUは線形で全てのノルムを保つので、右辺へUx,UyUx,Uyを入れても値が変わらない。したがって⟨Ux,Uy⟩=⟨x,y⟩\langle Ux,Uy\rangle=\langle x,y\rangleである。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。随伴の定義から

⟨x,U∗Uy−y⟩=0\langle x,U^*Uy-y\rangle=0

が全てのxxについて成立する。内積の非退化性によりU∗U=IU^*U=Iである。よってUUは単射であり、有限次元の自己準同型なので全射でもある。したがってU−1=U∗U^{-1}=U^*であり、UU∗=IUU^*=Iも得る。▨

4 正規作用素と固有空間

補題 4.1.TTが正規なら、全てのx∈Vx\in Vに対して

∥Tx∥=∥T∗x∥\|Tx\|=\|T^*x\|

である。さらに任意のλ∈C\lambda\in\mathbb Cに対してT−λIT-\lambda Iも正規である。後半はK=CK=\mathbb Cの場合に述べている。

証明. 正規性と随伴の定義から

∥Tx∥2=⟨x,T∗Tx⟩=⟨x,TT∗x⟩=∥T∗x∥2.\|Tx\|^2 =\langle x,T^*Tx\rangle =\langle x,TT^*x\rangle =\|T^*x\|^2.

両辺は非負なので平方根を取ることができる。

S=T−λIS=T-\lambda Iと置くとS∗=T∗−λ‾IS^*=T^*-\overline\lambda Iである。展開すると

S∗S=T∗T−λT∗−λ‾T+∣λ∣2I,S^*S =T^*T-\lambda T^*-\overline\lambda T+|\lambda|^2I,SS∗=TT∗−λT∗−λ‾T+∣λ∣2I.SS^* =TT^*-\lambda T^*-\overline\lambda T+|\lambda|^2I.

T∗T=TT∗T^*T=TT^*なのでS∗S=SS∗S^*S=SS^*である。▨

定理 4.2.VVを有限次元複素内積空間とし、TTを正規作用素とする。このとき、任意のλ∈C\lambda\in\mathbb Cに対して

ker⁡(T−λI)=ker⁡(T∗−λ‾I)\ker(T-\lambda I)=\ker(T^*-\overline\lambda I)

である。また相異なる固有値に属する固有空間は互いに直交する。

証明方針は、T−λIT-\lambda Iへ正規作用素と随伴のノルム等式を適用して二つの核を一致させ、随伴の定義によって相異なる固有値に属するベクトルの内積を比較することである。

証明.S=T−λIS=T-\lambda Iは補題 4.1により正規であり、

∥Sx∥=∥S∗x∥\|Sx\|=\|S^*x\|

を満たす。したがってSx=0Sx=0とS∗x=0S^*x=0は同値である。S∗=T∗−λ‾IS^*=T^*-\overline\lambda Iなので最初の等式を得る。

Tx=λxTx=\lambda x、Ty=μyTy=\mu y、λ≠μ\lambda\ne\muとする。最初の等式からT∗y=μ‾yT^*y=\overline\mu yである。よって

λ⟨x,y⟩=⟨Tx,y⟩=⟨x,T∗y⟩=⟨x,μ‾y⟩=μ⟨x,y⟩.\lambda\langle x,y\rangle =\langle Tx,y\rangle =\langle x,T^*y\rangle =\langle x,\overline\mu y\rangle =\mu\langle x,y\rangle.

λ−μ≠0\lambda-\mu\ne0なので⟨x,y⟩=0\langle x,y\rangle=0である。▨

命題 4.3.VVを有限次元複素内積空間とする。

  1. 自己随伴作用素の固有値は実数である。
  2. ユニタリ作用素の固有値の絶対値は11である。
  3. 正作用素の固有値は非負の実数である。

証明.Tx=λxTx=\lambda x、x≠0x\ne0とする。TTが自己随伴なら

λ∥x∥2=⟨Tx,x⟩=⟨x,Tx⟩=λ‾∥x∥2.\lambda\|x\|^2 =\langle Tx,x\rangle =\langle x,Tx\rangle =\overline\lambda\|x\|^2.

したがってλ=λ‾\lambda=\overline\lambdaであり、λ\lambdaは実数である。

TTがユニタリなら

∥x∥=∥Tx∥=∥λx∥=∣λ∣ ∥x∥,\|x\|=\|Tx\|=\|\lambda x\|=|\lambda|\,\|x\|,

かつ∥x∥>0\|x\|>0なので∣λ∣=1|\lambda|=1である。

TTが正なら自己随伴なのでλ\lambdaは実数であり、

0≤⟨Tx,x⟩=λ∥x∥20\leq\langle Tx,x\rangle=\lambda\|x\|^2

である。∥x∥2>0\|x\|^2>0なのでλ≥0\lambda\geq0である。▨

例 4.4 (正規性と他の条件の区別). 標準内積をもつC2\mathbb C^2上で

T=(1002i)T=\begin{pmatrix}1&0\\0&2i\end{pmatrix}

とする。T∗=diag⁡(1,−2i)T^*=\operatorname{diag}(1,-2i)なので

T∗T=TT∗=diag⁡(1,4)T^*T=TT^*=\operatorname{diag}(1,4)

であり、TTは正規である。一方、T∗≠TT^*\ne Tなので自己随伴ではなく、T∗T≠IT^*T\ne Iなのでユニタリでもない。したがって正規性は、自己随伴性やユニタリ性より広い条件である。

5 演習

問題 5.1 (正規性を用いる箇所).TTが正規である場合、

∥(T−λI)x∥=∥(T∗−λ‾I)x∥\|(T-\lambda I)x\| =\|(T^*-\overline\lambda I)x\|

が成り立つ。左辺が零であることと右辺が零であることが同値なので、TTのλ\lambda-固有ベクトルはT∗T^*のλ‾\overline\lambda-固有ベクトルでもある。正規性を外すとこの主張は成立しない。例えば

T=(0100)T=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}

ではTe1=0Te_1=0であるがT∗e1=e2≠0T^*e_1=e_2\ne0である。

参考文献

  1. Sheldon Axler, Linear Algebra Done Right, 4th ed., Springer, 2024.随伴、自己随伴作用素、ユニタリ作用素、正規作用素、および正作用素の基本性質を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.正規作用素の固有空間と随伴の関係を参考にした。

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