1 同伴行列
定義 1.1. 次数m≥1のモニック多項式
p(t)=tm+am−1tm−1+⋯+a1t+a0の 同伴行列 (companion matrix) を
C(p)=010⋮00010⋯⋯⋱⋱⋯000⋮1−a0−a1−a2⋮−am−1と定める。
命題 1.2.v∈Vの巡回多項式をcv(t)=tm+am−1tm−1+⋯+a0とする。巡回部分空間K[T]vの基底
v,Tv,…,Tm−1vに関するT∣K[T]vの表現行列はC(cv)である。
証明. 最初のm−1個の基底ベクトルはTによって次の基底ベクトルへ送られるので、表現行列の最初のm−1列には一つ下の行に1がある。cv(T)v=0から
Tmv=−a0v−a1Tv−⋯−am−1Tm−1vであり、最後の列は(−a0,…,−am−1)Tになる。したがって表現行列はC(cv)である。▨
命題 1.3.
χC(p)(t)=mC(p)(t)=p(t)である。
証明.e1,C(p)e1,…,C(p)m−1e1はe1,…,emに一致するのでe1は巡回ベクトルである。命題 1.2の逆向きの計算によりp(C(p))e1=0である。p(C(p))はC(p)と可換するためp(C(p))C(p)je1=C(p)jp(C(p))e1=0となり、基底の全てを零へ送る。したがってp(C(p))=0である。次数m未満の多項式がC(p)を零化すればe1も零へ送るが、e1,C(p)e1,…,C(p)m−1e1は一次独立なので、そのような非零多項式は存在しない。よってmC(p)=pである。§E3.22 系 1.3によりp∣χC(p)であり、両方とも次数mのモニック多項式なのでχC(p)=pとなる。▨
2 多項式行列の対角化
K[t]成分の正方行列が可逆であるとは、逆行列もK[t]成分であることをいう。これは行列式がKの非零元、すなわちK[t]の単元であることと同値である。このような行列をユニモジュラ行列という。
補題 2.1 (多項式行列の Smith 対角化).MをK[t]成分のn×n行列とし、detM=0とする。ユニモジュラ行列P,Qとモニック多項式s1,…,snが存在して
PMQ=diag(s1,…,sn),s1∣s2∣⋯∣snとなる。
証明.nについて帰納法を用いる。n=1では、唯一の成分を単元倍してモニックにすればよい。n≥2とする。行または列の交換、ある行または列への別の行または列の多項式倍の加算、非零定数による行または列の乗算は、左右からユニモジュラ行列を掛ける操作である。
零でない成分を(1,1)へ移す。第一列の成分bを(1,1)成分aで割りb=qa+r、degr<degaとする。対応する行からq倍の第一行を引くと、第一列の成分をrに置き換える。r=0なら行を交換して(1,1)成分の次数を下げる。Euclid の互除法により、この操作を有限回繰り返すと(1,1)成分が第一列の全成分を割るようになる。列についても同じ操作を行う。列操作によって第一列の割り切りが失われた場合は、再び行について同じ操作を行う。割り切りが失われるたびに(1,1)成分を非零余りへ置き換えて次数を下げるので、この交互の操作は有限回で停止する。停止時には(1,1)成分が第一行と第一列の全成分を割る。
この段階の(1,1)成分をaとする。第一行と第一列の他の成分はaの倍数なので、行・列の加算によって全て零にする。もし残る右下部分のある成分cをaが割らなければ、その成分を含む行を第一行へ加える。第一列の先頭以外は零なので(1,1)成分はaのままであり、第一行の対応する列にはcが現れる。列に対する Euclid の互除法によってaとcの非零余りを(1,1)へ移すと、(1,1)成分の次数が下がる。その後、第一行と第一列について割り切りを確認する操作からやり直す。(1,1)成分の次数は非負整数なので、この次数を下げる操作は有限回で停止する。停止時には(1,1)成分s1が行列の全成分を割り、第一行と第一列の他の成分を零にすることができる。行列は
(s100M1)となる。detM=0なのでdetM1=0である。帰納法をM1に適用してdiag(s2,…,sn)を得る。s1は操作前の全成分を割り、第一行・列を消去した後のM1の全成分も割る。帰納操作は多項式の線形結合だけを作るため、得られる各siもs1で割り切れる。M1内では帰納法によりs2∣⋯∣snである。各対角成分を非零定数倍してモニックにしても割り切り関係は保たれる。▨
補題 2.2.補題 2.1のモニック多項式s1,…,snはMから一意に定まる。
証明.1≤k≤nに対し、Mの全てのk×k小行列式のモニック最大公約多項式をΔk(M)とし、Δ0(M)=1とする。ユニモジュラ行列を左から掛けた後の各k次小行列式は、
Cauchy–Binet の公式により元のk次小行列式の多項式係数一次結合になる。したがってΔk(M)は変換後の全小行列式を割る。逆変換もユニモジュラ行列なので逆向きの割り切りも成り立ち、Δkは単元倍を除いて不変である。モニックに取ったので等しい。右からの変換についても同様である。
D=diag(s1,…,sn)かつs1∣⋯∣snとする。非零なk次小行列式はk個の対角成分の積であり、その全てをs1⋯skが割る。一方、最初のk行とk列からなる小行列式はs1⋯skそのものである。したがって
Δk(D)=s1⋯sk.よって
sk=Δk−1(M)Δk(M)であり、各skは一意に定まる。▨
3 tI-A が表す巡回分解
補題 3.1.Vの基底をB=(e1,…,en)とし、座標同型をβ:Kn→V、Tの表現行列をAとする。写像
Φ:K[t]n→V,Φ(k=0∑mtkck)=k=0∑mTkβ(ck)は、K[t]がVにp⋅v=p(T)vで作用するときの全射であり、
kerΦ=(tI−A)K[t]nを満たす。
証明. 定数列c0だけでVの任意の元を表すことができるのでΦは全射である。定義からΦ(tp)=TΦ(p)であり、K[t]の作用と両立する。β(Ac)=Tβ(c)なのでΦ((tI−A)q)=0が任意のq∈K[t]nについて成り立つ。したがって右辺は核に含まれる。
逆の包含を示す。p(t)=∑k=0mtkckとする。恒等式
tkck−Akck=(tI−A)j=0∑k−1tk−1−jAjckを各k≥1について用いると
p(t)≡k=0∑mAkck(mod(tI−A)K[t]n)となる。右辺の定数列はΦ(p)の座標列である。Φ(p)=0なら右辺は零なのでp∈(tI−A)K[t]nである。▨
定理 3.2.T:V→Vに対し、次数が正であるモニック多項式
p1∣p2∣⋯∣psとベクトルv1,…,vsが存在して
V=K[T]v1⊕⋯⊕K[T]vsとなり、viの巡回多項式はpiである。多項式列(p1,…,ps)はTから一意に定まる。
証明.V={0}の場合にはs=0とし、多項式の列とベクトルの族をいずれも空に取る。空直和は{0}であるため分解が成り立ち、空列は一意である。以下、n=dimKV≥1とする。M=tI−Aに補題 2.1を適用する。det(tI−A)=χT(t)=0なので、
PMQ=diag(s1,…,sn),s1∣⋯∣snとなる。P,QはK[t]nの可逆な変換を定めるため、補題 3.1と第一同型定理から
V≅K[t]n/MK[t]n≅i=1⨁nK[t]/(si)を得る。si=1の項は零なので除き、残る多項式をp1,…,psとする。
各K[t]/(pi)は1+(pi)によって生成され、その零化多項式はpiである。この元の像をvi∈Vとすると、対応する直和成分はK[T]viであり、巡回多項式はpiである。補題 2.2によりsiは一意であるから、単元である項を除いた(p1,…,ps)も一意である。▨
4 有理標準形
証明.定理 3.2の各巡回部分空間で巡回基底
vi,Tvi,…,Tdegpi−1viを取る。直和成分の基底を連結するとVの基底になる。命題 1.2により各制限の行列はC(pi)なので、全体の行列は表示したブロック対角形になる。多項式列(pi)は一意であり、各同伴行列ブロックは多項式から一意に定まるため、標準形もブロック順序を除いて一意である。▨
系 4.2.dimKV≥1とする。有理標準形の不変因子p1,…,psについてs≥1であり、
χT=p1⋯ps,mT=psが成り立つ。
証明. ブロック対角行列の特性多項式は各ブロックの特性多項式の積であり、命題 1.3によりC(pi)の特性多項式はpiである。したがってχT=∏ipiとなる。直和上の最小多項式は各制限の最小多項式の最小公倍多項式である。p1∣⋯∣psなので、その最小公倍多項式はpsである。▨
V={0}の場合、有理標準形はブロックをもたず、空積の規約と§E3.22 定義 1.1によりχT=mT=1である。この場合には末尾の不変因子psは存在しない。
例 4.3 (一次因子へ分解しない有理標準形).K=Rとし、
p1(t)=t−1,p2(t)=(t−1)(t2+1)=t3−t2+t−1とする。p1∣p2であり、
diag(C(p1),C(p2))は四次の有理標準形である。特性多項式は(t−1)2(t2+1)、最小多項式は(t−1)(t2+1)である。t2+1はR上で一次因子へ分解しないが、有理標準形の存在には固有値を係数体内に求める必要がない。
5 演習
問題 5.1 (表示補題の証明確認).補題 3.1でtkc−Akcが(tI−A)K[t]nに属することを示す和を展開し、望遠鏡型の打ち消しを確認せよ。
解答.
(tI−A)j=0∑k−1tk−1−jAjc=j=0∑k−1tk−jAjc−j=0∑k−1tk−1−jAj+1c=tkc−Akc.第一の和のj=1,…,k−1の項と第二の和のj=0,…,k−2の項が同じ順序で打ち消し合い、両端だけが残る。▨