§E3.24有理標準形

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有理標準形は、係数体上で多項式を一次因子へ分解することができない場合にも存在する相似標準形である。線形空間を巡回部分空間の直和へ分け、各巡回部分空間上の自己準同型を同伴行列で表す。存在と一意性を証明するため、本記事は多項式行列tI−AtI-Aに対する Euclid の互除法を直接証明する。一般のK[t]K[t]-加群の構造定理は用いない。

1 同伴行列

定義 1.1. 次数m≥1m\geq1のモニック多項式

p(t)=tm+am−1tm−1+⋯+a1t+a0p(t)=t^m+a_{m-1}t^{m-1}+\cdots+a_1t+a_0

の 同伴行列 (companion matrix) を

C(p)=(00⋯0−a010⋯0−a101⋱0−a2⋮⋱⋮⋮00⋯1−am−1)C(p)= \begin{pmatrix} 0&0&\cdots&0&-a_0\\ 1&0&\cdots&0&-a_1\\ 0&1&\ddots&0&-a_2\\ \vdots&&\ddots&\vdots&\vdots\\ 0&0&\cdots&1&-a_{m-1} \end{pmatrix}

と定める。

命題 1.2.v∈Vv\in Vの巡回多項式をcv(t)=tm+am−1tm−1+⋯+a0c_v(t)=t^m+a_{m-1}t^{m-1}+\cdots+a_0とする。巡回部分空間K[T]vK[T]vの基底

v,Tv,…,Tm−1vv,Tv,\ldots,T^{m-1}v

に関するT∣K[T]vT|_{K[T]v}の表現行列はC(cv)C(c_v)である。

証明. 最初のm−1m-1個の基底ベクトルはTTによって次の基底ベクトルへ送られるので、表現行列の最初のm−1m-1列には一つ下の行に11がある。cv(T)v=0c_v(T)v=0から

Tmv=−a0v−a1Tv−⋯−am−1Tm−1vT^mv=-a_0v-a_1Tv-\cdots-a_{m-1}T^{m-1}v

であり、最後の列は(−a0,…,−am−1)T(-a_0,\ldots,-a_{m-1})^{\mathsf T}になる。したがって表現行列はC(cv)C(c_v)である。▨

命題 1.3.

χC(p)(t)=mC(p)(t)=p(t)\chi_{C(p)}(t)=m_{C(p)}(t)=p(t)

である。

証明.e1,C(p)e1,…,C(p)m−1e1e_1,C(p)e_1,\ldots,C(p)^{m-1}e_1はe1,…,eme_1,\ldots,e_mに一致するのでe1e_1は巡回ベクトルである。命題 1.2の逆向きの計算によりp(C(p))e1=0p(C(p))e_1=0である。p(C(p))p(C(p))はC(p)C(p)と可換するためp(C(p))C(p)je1=C(p)jp(C(p))e1=0p(C(p))C(p)^je_1=C(p)^jp(C(p))e_1=0となり、基底の全てを零へ送る。したがってp(C(p))=0p(C(p))=0である。次数mm未満の多項式がC(p)C(p)を零化すればe1e_1も零へ送るが、e1,C(p)e1,…,C(p)m−1e1e_1,C(p)e_1,\ldots,C(p)^{m-1}e_1は一次独立なので、そのような非零多項式は存在しない。よってmC(p)=pm_{C(p)}=pである。§E3.22 系 1.3によりp∣χC(p)p\mid\chi_{C(p)}であり、両方とも次数mmのモニック多項式なのでχC(p)=p\chi_{C(p)}=pとなる。▨

2 多項式行列の対角化

K[t]K[t]成分の正方行列が可逆であるとは、逆行列もK[t]K[t]成分であることをいう。これは行列式がKKの非零元、すなわちK[t]K[t]の単元であることと同値である。このような行列をユニモジュラ行列という。

補題 2.1 (多項式行列の Smith 対角化).MMをK[t]K[t]成分のn×nn\times n行列とし、det⁡M≠0\det M\ne0とする。ユニモジュラ行列P,QP,Qとモニック多項式s1,…,sns_1,\ldots,s_nが存在して

PMQ=diag⁡(s1,…,sn),s1∣s2∣⋯∣snPMQ=\operatorname{diag}(s_1,\ldots,s_n),\qquad s_1\mid s_2\mid\cdots\mid s_n

となる。

証明.nnについて帰納法を用いる。n=1n=1では、唯一の成分を単元倍してモニックにすればよい。n≥2n\ge2とする。行または列の交換、ある行または列への別の行または列の多項式倍の加算、非零定数による行または列の乗算は、左右からユニモジュラ行列を掛ける操作である。

零でない成分を(1,1)(1,1)へ移す。第一列の成分bbを(1,1)(1,1)成分aaで割りb=qa+rb=qa+r、deg⁡r<deg⁡a\deg r<\deg aとする。対応する行からqq倍の第一行を引くと、第一列の成分をrrに置き換える。r≠0r\ne0なら行を交換して(1,1)(1,1)成分の次数を下げる。Euclid の互除法により、この操作を有限回繰り返すと(1,1)(1,1)成分が第一列の全成分を割るようになる。列についても同じ操作を行う。列操作によって第一列の割り切りが失われた場合は、再び行について同じ操作を行う。割り切りが失われるたびに(1,1)(1,1)成分を非零余りへ置き換えて次数を下げるので、この交互の操作は有限回で停止する。停止時には(1,1)(1,1)成分が第一行と第一列の全成分を割る。

この段階の(1,1)(1,1)成分をaaとする。第一行と第一列の他の成分はaaの倍数なので、行・列の加算によって全て零にする。もし残る右下部分のある成分ccをaaが割らなければ、その成分を含む行を第一行へ加える。第一列の先頭以外は零なので(1,1)(1,1)成分はaaのままであり、第一行の対応する列にはccが現れる。列に対する Euclid の互除法によってaaとccの非零余りを(1,1)(1,1)へ移すと、(1,1)(1,1)成分の次数が下がる。その後、第一行と第一列について割り切りを確認する操作からやり直す。(1,1)(1,1)成分の次数は非負整数なので、この次数を下げる操作は有限回で停止する。停止時には(1,1)(1,1)成分s1s_1が行列の全成分を割り、第一行と第一列の他の成分を零にすることができる。行列は

(s100M1)\begin{pmatrix}s_1&0\\0&M_1\end{pmatrix}

となる。det⁡M≠0\det M\ne0なのでdet⁡M1≠0\det M_1\ne0である。帰納法をM1M_1に適用してdiag⁡(s2,…,sn)\operatorname{diag}(s_2,\ldots,s_n)を得る。s1s_1は操作前の全成分を割り、第一行・列を消去した後のM1M_1の全成分も割る。帰納操作は多項式の線形結合だけを作るため、得られる各sis_iもs1s_1で割り切れる。M1M_1内では帰納法によりs2∣⋯∣sns_2\mid\cdots\mid s_nである。各対角成分を非零定数倍してモニックにしても割り切り関係は保たれる。▨

補題 2.2.補題 2.1のモニック多項式s1,…,sns_1,\ldots,s_nはMMから一意に定まる。

証明.1≤k≤n1\le k\le nに対し、MMの全てのk×kk\times k小行列式のモニック最大公約多項式をΔk(M)\Delta_k(M)とし、Δ0(M)=1\Delta_0(M)=1とする。ユニモジュラ行列を左から掛けた後の各kk次小行列式は、 Cauchy–Binet の公式により元のkk次小行列式の多項式係数一次結合になる。したがってΔk(M)\Delta_k(M)は変換後の全小行列式を割る。逆変換もユニモジュラ行列なので逆向きの割り切りも成り立ち、Δk\Delta_kは単元倍を除いて不変である。モニックに取ったので等しい。右からの変換についても同様である。

D=diag⁡(s1,…,sn)D=\operatorname{diag}(s_1,\ldots,s_n)かつs1∣⋯∣sns_1\mid\cdots\mid s_nとする。非零なkk次小行列式はkk個の対角成分の積であり、その全てをs1⋯sks_1\cdots s_kが割る。一方、最初のkk行とkk列からなる小行列式はs1⋯sks_1\cdots s_kそのものである。したがって

Δk(D)=s1⋯sk.\Delta_k(D)=s_1\cdots s_k.

よって

sk=Δk(M)Δk−1(M)s_k=\frac{\Delta_k(M)}{\Delta_{k-1}(M)}

であり、各sks_kは一意に定まる。▨

3 tI-A が表す巡回分解

補題 3.1.VVの基底をB=(e1,…,en)\mathcal B=(e_1,\ldots,e_n)とし、座標同型をβ:Kn→V\beta:K^n\to V、TTの表現行列をAAとする。写像

Φ:K[t]n→V,Φ(∑k=0mtkck)=∑k=0mTkβ(ck)\Phi:K[t]^n\to V,\qquad \Phi\left(\sum_{k=0}^{m}t^kc_k\right) =\sum_{k=0}^{m}T^k\beta(c_k)

は、K[t]K[t]がVVにp⋅v=p(T)vp\cdot v=p(T)vで作用するときの全射であり、

ker⁡Φ=(tI−A)K[t]n\ker\Phi=(tI-A)K[t]^n

を満たす。

証明. 定数列c0c_0だけでVVの任意の元を表すことができるのでΦ\Phiは全射である。定義からΦ(tp)=TΦ(p)\Phi(tp)=T\Phi(p)であり、K[t]K[t]の作用と両立する。β(Ac)=Tβ(c)\beta(Ac)=T\beta(c)なのでΦ((tI−A)q)=0\Phi((tI-A)q)=0が任意のq∈K[t]nq\in K[t]^nについて成り立つ。したがって右辺は核に含まれる。

逆の包含を示す。p(t)=∑k=0mtkckp(t)=\sum_{k=0}^{m}t^kc_kとする。恒等式

tkck−Akck=(tI−A)∑j=0k−1tk−1−jAjckt^kc_k-A^kc_k =(tI-A)\sum_{j=0}^{k-1}t^{k-1-j}A^jc_k

を各k≥1k\ge1について用いると

p(t)≡∑k=0mAkck(mod(tI−A)K[t]n)p(t)\equiv \sum_{k=0}^{m}A^kc_k\pmod{(tI-A)K[t]^n}

となる。右辺の定数列はΦ(p)\Phi(p)の座標列である。Φ(p)=0\Phi(p)=0なら右辺は零なのでp∈(tI−A)K[t]np\in(tI-A)K[t]^nである。▨

定理 3.2.T:V→VT:V\to Vに対し、次数が正であるモニック多項式

p1∣p2∣⋯∣psp_1\mid p_2\mid\cdots\mid p_s

とベクトルv1,…,vsv_1,\ldots,v_sが存在して

V=K[T]v1⊕⋯⊕K[T]vsV=K[T]v_1\oplus\cdots\oplus K[T]v_s

となり、viv_iの巡回多項式はpip_iである。多項式列(p1,…,ps)(p_1,\ldots,p_s)はTTから一意に定まる。

証明.V={0}V=\{0\}の場合にはs=0s=0とし、多項式の列とベクトルの族をいずれも空に取る。空直和は{0}\{0\}であるため分解が成り立ち、空列は一意である。以下、n=dim⁡KV≥1n=\dim_KV\ge1とする。M=tI−AM=tI-Aに補題 2.1を適用する。det⁡(tI−A)=χT(t)≠0\det(tI-A)=\chi_T(t)\ne0なので、

PMQ=diag⁡(s1,…,sn),s1∣⋯∣snPMQ=\operatorname{diag}(s_1,\ldots,s_n),\qquad s_1\mid\cdots\mid s_n

となる。P,QP,QはK[t]nK[t]^nの可逆な変換を定めるため、補題 3.1と第一同型定理から

V≅K[t]n/MK[t]n≅⨁i=1nK[t]/(si)V\cong K[t]^n/MK[t]^n \cong\bigoplus_{i=1}^{n}K[t]/(s_i)

を得る。si=1s_i=1の項は零なので除き、残る多項式をp1,…,psp_1,\ldots,p_sとする。

各K[t]/(pi)K[t]/(p_i)は1+(pi)1+(p_i)によって生成され、その零化多項式はpip_iである。この元の像をvi∈Vv_i\in Vとすると、対応する直和成分はK[T]viK[T]v_iであり、巡回多項式はpip_iである。補題 2.2によりsis_iは一意であるから、単元である項を除いた(p1,…,ps)(p_1,\ldots,p_s)も一意である。▨

4 有理標準形

定理 4.1 (有理標準形の存在と一意性). 任意の可換体KK上の有限次元自己準同型TTは、ある基底に関して

diag⁡(C(p1),…,C(ps)),p1∣⋯∣ps\operatorname{diag}\bigl(C(p_1),\ldots,C(p_s)\bigr), \qquad p_1\mid\cdots\mid p_s

と表される。ここでpip_iは次数が正であるモニック多項式である。このブロック行列はブロックの順序を除いて一意であり、整除順序を採用すれば順序も定まる。

証明.定理 3.2の各巡回部分空間で巡回基底

vi,Tvi,…,Tdeg⁡pi−1viv_i,Tv_i,\ldots,T^{\deg p_i-1}v_i

を取る。直和成分の基底を連結するとVVの基底になる。命題 1.2により各制限の行列はC(pi)C(p_i)なので、全体の行列は表示したブロック対角形になる。多項式列(pi)(p_i)は一意であり、各同伴行列ブロックは多項式から一意に定まるため、標準形もブロック順序を除いて一意である。▨

系 4.2.dim⁡KV≥1\dim_KV\ge1とする。有理標準形の不変因子p1,…,psp_1,\ldots,p_sについてs≥1s\ge1であり、

χT=p1⋯ps,mT=ps\chi_T=p_1\cdots p_s,\qquad m_T=p_s

が成り立つ。

証明. ブロック対角行列の特性多項式は各ブロックの特性多項式の積であり、命題 1.3によりC(pi)C(p_i)の特性多項式はpip_iである。したがってχT=∏ipi\chi_T=\prod_i p_iとなる。直和上の最小多項式は各制限の最小多項式の最小公倍多項式である。p1∣⋯∣psp_1\mid\cdots\mid p_sなので、その最小公倍多項式はpsp_sである。▨

V={0}V=\{0\}の場合、有理標準形はブロックをもたず、空積の規約と§E3.22 定義 1.1によりχT=mT=1\chi_T=m_T=1である。この場合には末尾の不変因子psp_sは存在しない。

例 4.3 (一次因子へ分解しない有理標準形).K=RK=\mathbb Rとし、

p1(t)=t−1,p2(t)=(t−1)(t2+1)=t3−t2+t−1p_1(t)=t-1,\qquad p_2(t)=(t-1)(t^2+1)=t^3-t^2+t-1

とする。p1∣p2p_1\mid p_2であり、

diag⁡(C(p1),C(p2))\operatorname{diag}\bigl(C(p_1),C(p_2)\bigr)

は四次の有理標準形である。特性多項式は(t−1)2(t2+1)(t-1)^2(t^2+1)、最小多項式は(t−1)(t2+1)(t-1)(t^2+1)である。t2+1t^2+1はR\mathbb R上で一次因子へ分解しないが、有理標準形の存在には固有値を係数体内に求める必要がない。

5 演習

問題 5.1 (表示補題の証明確認).補題 3.1でtkc−Akct^kc-A^kcが(tI−A)K[t]n(tI-A)K[t]^nに属することを示す和を展開し、望遠鏡型の打ち消しを確認せよ。

解答.(tI−A)∑j=0k−1tk−1−jAjc=∑j=0k−1tk−jAjc−∑j=0k−1tk−1−jAj+1c=tkc−Akc.\begin{aligned} (tI-A)\sum_{j=0}^{k-1}t^{k-1-j}A^jc &=\sum_{j=0}^{k-1}t^{k-j}A^jc -\sum_{j=0}^{k-1}t^{k-1-j}A^{j+1}c\\ &=t^kc-A^kc. \end{aligned}

第一の和のj=1,…,k−1j=1,\ldots,k-1の項と第二の和のj=0,…,k−2j=0,\ldots,k-2の項が同じ順序で打ち消し合い、両端だけが残る。▨

参考文献

  1. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.巡回分解と有理標準形の存在・一意性を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.不変因子、同伴行列、Smith 標準形による証明を参考にした。

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