§E3.12テンソル冪と置換作用

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以下、KKを可換体とし、全ての線形空間はKK上の線形空間とする。三つ以上の線形空間のテンソル積は、多重線形写像を表す普遍対象として定めることができる。二項テンソル積を繰り返しても同じ普遍性をもつため、括弧の付け方が異なるテンソル積の間には標準的な同型がある。同じ線形空間を複数回テンソル積したテンソル冪では、因子の順序を置換する線形同型が定まる。

1 多重テンソル積

定義 1.1.r≥2r\geq2とし、V1,…,VrV_1,\ldots,V_rをKK上の線形空間とする。V1,…,VrV_1,\ldots,V_rの多重テンソル積 (multiple tensor product) とは、KK-線形空間V1⊗⋯⊗VrV_1\otimes\cdots\otimes V_rとrr重線形写像

τ:V1×⋯×Vr→V1⊗⋯⊗Vr\tau:V_1\times\cdots\times V_r\to V_1\otimes\cdots\otimes V_r

の組であって、任意のrr重線形写像B:V1×⋯×Vr→XB:V_1\times\cdots\times V_r\to Xに対しB=B~∘τB=\widetilde B\circ\tauを満たす線形写像B~:V1⊗⋯⊗Vr→X\widetilde B:V_1\otimes\cdots\otimes V_r\to Xがただ一つ存在するものをいう。τ(v1,…,vr)\tau(v_1,\ldots,v_r)をv1⊗⋯⊗vrv_1\otimes\cdots\otimes v_rと書く。

命題 1.2.r≥2r\geq2とし、V1,…,VrV_1,\ldots,V_rをKK上の線形空間とする。多重テンソル積は存在し、標準的な同型を除いて一意である。各VjV_jが有限次元で基底(eij(j))(e^{(j)}_{i_j})をもつなら、

ei1(1)⊗⋯⊗eir(r)e^{(1)}_{i_1}\otimes\cdots\otimes e^{(r)}_{i_r}

の全体が基底である。

証明.r=2r=2は§E3.11 定義 1.1と§E3.11 定理 1.2で構成済みである。r−1r-1個の場合が存在すると仮定し、

T=(V1⊗⋯⊗Vr−1)⊗VrT=(V_1\otimes\cdots\otimes V_{r-1})\otimes V_r

とおく。写像(v1,…,vr)↦(v1⊗⋯⊗vr−1)⊗vr(v_1,\ldots,v_r)\mapsto(v_1\otimes\cdots\otimes v_{r-1})\otimes v_rは各変数について線形である。

rr重線形写像B:V1×⋯×Vr→XB:V_1\times\cdots\times V_r\to Xを取る。固定したvrv_rに対し、最初のr−1r-1変数の普遍性から線形写像Lvr:V1⊗⋯⊗Vr−1→XL_{v_r}:V_1\otimes\cdots\otimes V_{r-1}\to Xが得られる。BBの最終変数についての線形性と一意性から、(z,vr)↦Lvr(z)(z,v_r)\mapsto L_{v_r}(z)は双線形である。二項テンソル積の普遍性により、これはT→XT\to Xのただ一つの線形写像へ移る。したがってTTはrr重線形写像の普遍性を満たす。一意性は§E3.11 命題 1.3と同じ相互逆写像の議論から従う。

有限次元の基底の主張は§E3.11 定理 2.1をrrについて帰納的に適用して得る。▨

2 結合順序の比較

定理 2.1.KK上の線形空間U,V,WU,V,Wに対して

αU,V,W:(U⊗V)⊗W⟶U⊗(V⊗W),\alpha_{U,V,W}:(U\otimes V)\otimes W\longrightarrow U\otimes(V\otimes W),αU,V,W((u⊗v)⊗w)=u⊗(v⊗w)\alpha_{U,V,W}\bigl((u\otimes v)\otimes w\bigr)=u\otimes(v\otimes w)

を満たす線形同型がただ一つ存在する。この同型は基底の選択に依存しない。

証明. 写像(u,v,w)↦u⊗(v⊗w)(u,v,w)\mapsto u\otimes(v\otimes w)は三重線形である。命題 1.2の証明により(U⊗V)⊗W(U\otimes V)\otimes Wは三重テンソル積の普遍性を満たすので、表示式を満たす線形写像αU,V,W\alpha_{U,V,W}がただ一つ存在する。同様に(u,v,w)↦(u⊗v)⊗w(u,v,w)\mapsto(u\otimes v)\otimes wから逆向きの線形写像β\betaが得られる。合成β∘α\beta\circ\alphaは全ての生成元(u⊗v)⊗w(u\otimes v)\otimes wを自身へ送るので恒等写像である。逆向きの合成も同様であり、α\alphaは同型である。定義式に基底が現れないので基底の選択に依存しない。▨

結合同型を用いると、有限個の因子の括弧を省略してV1⊗⋯⊗VrV_1\otimes\cdots\otimes V_rと書くことができる。ただし、二つの括弧付き線形空間は集合として等しいのではなく、上の標準同型によって比較される。

定義 2.2.KK上の線形空間VVと非負整数rrに対し、

V⊗r=V⊗⋯⊗V⏟r 個V^{\otimes r}=\underbrace{V\otimes\cdots\otimes V}_{r\text{ 個}}

をVVのrr次テンソル冪 (r-th tensor power) という。V⊗0=KV^{\otimes0}=Kと定める。

3 因子の置換

定理 3.1.VVをKK上の線形空間、r≥2r\geq2を整数とし、SrS_rをrr次対称群とする。σ∈Sr\sigma\in S_rに対し、

Pσ:V⊗r→V⊗r,Pσ(v1⊗⋯⊗vr)=vσ−1(1)⊗⋯⊗vσ−1(r)P_\sigma:V^{\otimes r}\to V^{\otimes r},\qquad P_\sigma(v_1\otimes\cdots\otimes v_r) =v_{\sigma^{-1}(1)}\otimes\cdots\otimes v_{\sigma^{-1}(r)}

を満たす線形同型がただ一つ存在する。さらに

Pid⁡=id⁡V⊗r,PσPτ=PστP_{\operatorname{id}}=\operatorname{id}_{V^{\otimes r}},\qquad P_\sigma P_\tau=P_{\sigma\tau}

が成り立つ。

証明. 右辺は(v1,…,vr)(v_1,\ldots,v_r)の各変数について線形なので、多重テンソル積の普遍性からPσP_\sigmaが存在して一意に定まる。純テンソル上で

PσPτ(v1⊗⋯⊗vr)=Pσ(vτ−1(1)⊗⋯⊗vτ−1(r))=vτ−1σ−1(1)⊗⋯⊗vτ−1σ−1(r)=v(στ)−1(1)⊗⋯⊗v(στ)−1(r)=Pστ(v1⊗⋯⊗vr).\begin{aligned} P_\sigma P_\tau(v_1\otimes\cdots\otimes v_r) &=P_\sigma(v_{\tau^{-1}(1)}\otimes\cdots\otimes v_{\tau^{-1}(r)})\\ &=v_{\tau^{-1}\sigma^{-1}(1)}\otimes\cdots\otimes v_{\tau^{-1}\sigma^{-1}(r)}\\ &=v_{(\sigma\tau)^{-1}(1)}\otimes\cdots\otimes v_{(\sigma\tau)^{-1}(r)}\\ &=P_{\sigma\tau}(v_1\otimes\cdots\otimes v_r). \end{aligned}

純テンソルが全体を生成するので合成の式が全体で成り立つ。恒等置換の式も定義から従う。合成の式でτ=σ−1\tau=\sigma^{-1}とすればPσPσ−1=id⁡P_\sigma P_{\sigma^{-1}}=\operatorname{id}となるため、PσP_\sigmaは同型である。▨

例 3.2 (二次テンソル冪の交換写像).r=2r=2の非自明な置換に対する写像を

P(v⊗w)=w⊗vP(v\otimes w)=w\otimes v

と書く。P2=id⁡P^2=\operatorname{id}である。V=K2V=K^2の基底をe1,e2e_1,e_2とすると、

P(e1⊗e2+2e2⊗e1)=e2⊗e1+2e1⊗e2.P(e_1\otimes e_2+2e_2\otimes e_1) =e_2\otimes e_1+2e_1\otimes e_2.

一方、e1⊗e1+e2⊗e2e_1\otimes e_1+e_2\otimes e_2はPPによって固定される。交換によって固定される部分と符号が変わる部分は、後の対称冪と外冪でそれぞれ商を通じて取り出す。

注意 3.3 (扱う置換作用の境界). 本記事が用いるのは、テンソル因子の並べ替えから必然的に定まる写像PσP_\sigmaだけである。一般の群の線形作用、表現の既約分解、指標、Maschke の定理は表現論が扱う。

4 演習

問題 4.1 (置換の逆元を用いる理由).PσP_\sigmaの定義で右辺の添字をσ(i)\sigma(i)ではなくσ−1(i)\sigma^{-1}(i)とした理由を、合成の式PσPτ=PστP_\sigma P_\tau=P_{\sigma\tau}によって説明せよ。

解答.

PτP_\tauの後にPσP_\sigmaを施すと、第ii位置にはもとのτ−1(σ−1(i))=(στ)−1(i)\tau^{-1}(\sigma^{-1}(i))=(\sigma\tau)^{-1}(i)番目の因子が来る。したがって合成はPστP_{\sigma\tau}になる。逆元を用いずvσ(i)v_{\sigma(i)}と定めると合成順序が反転し、PσPτ=PτσP_\sigma P_\tau=P_{\tau\sigma}となる。▨

参考文献

  1. Werner H. Greub, Multilinear Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 1978.多重テンソル積、結合写像、置換作用を参考にした。
  2. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.テンソル積の結合性とテンソル冪を参考にした。

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