§E3.16テンソル構成と完全列

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可換体上では短完全列が分裂するため、固定した線形空間とのテンソル積は短完全列を保つ。一方、対称冪と外冪は短完全列をそのまま短完全列へ送るわけではない。部分空間から来る因子の個数によって自然なフィルトレーションを作ると、その隣接商は部分空間と商空間の対称冪または外冪のテンソル積になる。フィルトレーションは補空間を選ばずに定まるが、フィルトレーションを直和へ分解するには補空間の選択が必要である。

1 テンソル積は短完全列を保つ

定理 1.1. 短完全列

0⟶U→iV→pW⟶00\longrightarrow U\xrightarrow{i}V\xrightarrow{p}W\longrightarrow0

と線形空間XXに対し、

0⟶X⊗U→id⁡X⊗iX⊗V→id⁡X⊗pX⊗W⟶00\longrightarrow X\otimes U \xrightarrow{\operatorname{id}_X\otimes i} X\otimes V \xrightarrow{\operatorname{id}_X\otimes p} X\otimes W \longrightarrow0

は短完全列である。因子の順序を交換した0→U⊗X→V⊗X→W⊗X→00\to U\otimes X\to V\otimes X\to W\otimes X\to0も短完全列である。

証明.§E3.7 定理 2.3によりppの切断s:W→Vs:W\to Vを選ぶことができる。§E3.7 定理 2.2から

Φ:U⊕W⟶V,Φ(u,w)=i(u)+s(w)\Phi:U\oplus W\longrightarrow V,\qquad \Phi(u,w)=i(u)+s(w)

は同型である。テンソル積の双線形性と普遍性から

X⊗(U⊕W)⟶(X⊗U)⊕(X⊗W),X\otimes(U\oplus W)\longrightarrow (X\otimes U)\oplus(X\otimes W),x⊗(u,w)⟼(x⊗u,x⊗w)x\otimes(u,w)\longmapsto(x\otimes u,x\otimes w)

は同型であり、逆写像は(x⊗u,0)↦x⊗(u,0)(x\otimes u,0)\mapsto x\otimes(u,0)と(0,x⊗w)↦x⊗(0,w)(0,x\otimes w)\mapsto x\otimes(0,w)を線形に延長して得られる。

これらの同型でX⊗VX\otimes Vを(X⊗U)⊕(X⊗W)(X\otimes U)\oplus(X\otimes W)と同一視すると、id⁡X⊗i\operatorname{id}_X\otimes iは第一成分への包含、id⁡X⊗p\operatorname{id}_X\otimes pは第二成分への射影になる。包含は単射、射影は全射であり、包含の像は射影の核に一致する。したがって表示した列は短完全列である。因子を交換する標準同型x⊗v↦v⊗xx\otimes v\mapsto v\otimes xを用いると、因子の順序を交換した列も短完全列である。▨

証明は切断を一つ選んだが、結論に現れる三つの写像は与えられた短完全列から標準的に定まる。切断は完全性を証明するために用いただけであり、列のデータには含まれない。

2 対称冪のフィルトレーション

以下、単射iiによってUUをVVの部分空間と同一視し、W=V/UW=V/Uと書く。

定義 2.1.n≥0n\ge0とする。0≤p≤n0\le p\le nに対し、FsympSym⁡n(V)F_{\mathrm{sym}}^p\operatorname{Sym}^n(V)を、少なくともpp個の因子がUUに属する単項式

v1⋯vnv_1\cdots v_n

によって生成される部分空間とする。またFsymn+1=0F_{\mathrm{sym}}^{n+1}=0とする。すると

Sym⁡n(V)=Fsym0⊇Fsym1⊇⋯⊇Fsymn⊇Fsymn+1=0\operatorname{Sym}^n(V)=F_{\mathrm{sym}}^0\supseteq F_{\mathrm{sym}}^1\supseteq\cdots\supseteq F_{\mathrm{sym}}^n\supseteq F_{\mathrm{sym}}^{n+1}=0

となる。この列を対称冪の部分空間フィルトレーション (subspace filtration on a symmetric power) という。

定理 2.2.p,q≥0p,q\ge0、p+q=np+q=nとする。写像

Sym⁡p(U)⊗Sym⁡q(W)⟶Fsymp/Fsymp+1,\operatorname{Sym}^p(U)\otimes\operatorname{Sym}^q(W) \longrightarrow F_{\mathrm{sym}}^p/F_{\mathrm{sym}}^{p+1},(u1⋯up)⊗(v‾1⋯v‾q)⟼u1⋯upv1⋯vq+Fsymp+1(u_1\cdots u_p)\otimes(\overline v_1\cdots\overline v_q) \longmapsto u_1\cdots u_pv_1\cdots v_q+F_{\mathrm{sym}}^{p+1}

は、各v‾j∈W=V/U\overline v_j\in W=V/Uの代表元vjv_jの選択に依存せず定まる線形同型である。したがって

gr⁡Sym⁡n(V):=⨁p=0nFsymp/Fsymp+1\operatorname{gr}\operatorname{Sym}^n(V) :=\bigoplus_{p=0}^nF_{\mathrm{sym}}^p/F_{\mathrm{sym}}^{p+1}

と定めると、

gr⁡Sym⁡n(V)≅⨁p+q=nSym⁡p(U)⊗Sym⁡q(W).\operatorname{gr}\operatorname{Sym}^n(V) \cong\bigoplus_{p+q=n} \operatorname{Sym}^p(U)\otimes\operatorname{Sym}^q(W).

証明. 代表元vjv_jをvj+uv_j+u(u∈Uu\in U)へ変更すると、積の差は展開後に少なくともp+1p+1個のUU因子を含む項の和になる。したがって差はFsymp+1F_{\mathrm{sym}}^{p+1}に属し、表示式は代表元に依存しない。各変数についての多重線形性と対称性から、対称冪およびテンソル積の普遍性を順に適用することができ、表示式は線形写像を定める。

同型性を示すため、UUの補空間CCを一つ選び、V=U⊕CV=U\oplus Cとする。商写像はC→WC\to Wの同型を与える。UUの基底(ei)(e_i)とCCの基底(fj)(f_j)を合わせたVVの基底を用いる。§E3.13 定理 2.1により、Sym⁡n(V)\operatorname{Sym}^n(V)の基底単項式はeie_iとfjf_jの単項式である。FsympF_{\mathrm{sym}}^pはeie_iを少なくともpp個含む基底単項式が張り、Fsymp/Fsymp+1F_{\mathrm{sym}}^p/F_{\mathrm{sym}}^{p+1}の基底はeie_iをちょうどpp個含む単項式の像である。これらは

Sym⁡p(U)⊗Sym⁡q(C)\operatorname{Sym}^p(U)\otimes\operatorname{Sym}^q(C)

のテンソル積基底と一対一に対応する。C≅WC\cong Wの下で、表示した写像はこの基底対応そのものなので同型である。写像の定義は代表元だけを用い、補空間を含まないため、得られた同型は補空間の選択に依存しない。▨

3 外冪のフィルトレーション

定義 3.1.n≥0n\ge0とする。0≤p≤n0\le p\le nに対し、F∧p⋀nVF_{\wedge}^p\bigwedge^nVを、少なくともpp個の因子がUUに属する純外積

v1∧⋯∧vnv_1\wedge\cdots\wedge v_n

によって生成される部分空間とする。またF∧n+1=0F_{\wedge}^{n+1}=0とする。この列を外冪の部分空間フィルトレーション (subspace filtration on an exterior power) という。

定理 3.2.p,q≥0p,q\ge0、p+q=np+q=nとする。写像

⋀pU⊗⋀qW⟶F∧p/F∧p+1,\bigwedge^pU\otimes\bigwedge^qW \longrightarrow F_{\wedge}^p/F_{\wedge}^{p+1},(u1∧⋯∧up)⊗(v‾1∧⋯∧v‾q)⟼u1∧⋯∧up∧v1∧⋯∧vq+F∧p+1(u_1\wedge\cdots\wedge u_p)\otimes (\overline v_1\wedge\cdots\wedge\overline v_q) \longmapsto u_1\wedge\cdots\wedge u_p\wedge v_1\wedge\cdots\wedge v_q +F_{\wedge}^{p+1}

は代表元の選択に依存しない線形同型である。したがって

gr⁡⋀nV:=⨁p=0nF∧p/F∧p+1\operatorname{gr}\bigwedge^nV :=\bigoplus_{p=0}^nF_{\wedge}^p/F_{\wedge}^{p+1}

と定めると、

gr⁡⋀nV≅⨁p+q=n⋀pU⊗⋀qW.\operatorname{gr}\bigwedge^nV \cong\bigoplus_{p+q=n}\bigwedge^pU\otimes\bigwedge^qW.

証明.vjv_jをvj+uv_j+u(u∈Uu\in U)へ変更したときの差は、展開するとUUの因子を少なくともp+1p+1個含む純外積の和になるため、F∧p+1F_{\wedge}^{p+1}に属する。外積の交代性により各UU変数と各WW変数について交代的であるから、外冪とテンソル積の普遍性によって表示式は線形写像を定める。

V=U⊕CV=U\oplus Cとなる補空間を選ぶ。UUとCCの基底を連結し、§E3.14 定理 2.1を適用する。F∧pF_{\wedge}^pはUUの基底ベクトルを少なくともpp個含む基底外積が張り、隣接商の基底はちょうどpp個含む基底外積の像である。これらは⋀pU⊗⋀qC\bigwedge^pU\otimes\bigwedge^qCのテンソル積基底と一対一に対応する。C≅WC\cong Wの下で表示した写像が基底を基底へ送るので同型である。表示式自体は補空間を用いないため、同型は補空間の選択に依存しない。▨

例 3.3 (二次の場合の三つの層).n=2n=2のとき、対称冪のフィルトレーションは

Sym⁡2(V)⊇Fsym1⊇Sym⁡2(U)⊇0\operatorname{Sym}^2(V)\supseteq F_{\mathrm{sym}}^1\supseteq \operatorname{Sym}^2(U)\supseteq0

であり、隣接商は順に

Sym⁡2(W),U⊗W,Sym⁡2(U)\operatorname{Sym}^2(W),\qquad U\otimes W,\qquad\operatorname{Sym}^2(U)

となる。外冪でも同じ三層が

⋀2W,U⊗W,⋀2U\bigwedge^2W,\qquad U\otimes W,\qquad\bigwedge^2U

として現れる。補空間CCを選べば、例えば

⋀2V≅⋀2U⊕(U⊗C)⊕⋀2C\bigwedge^2V\cong \bigwedge^2U\oplus(U\otimes C)\oplus\bigwedge^2C

と分解することができるが、この直和分解はCCの選択に依存する。フィルトレーションと隣接商の同型はU⊆VU\subseteq VとW=V/UW=V/Uだけから定まる。

4 演習

問題 4.1 (代表元独立性の確認). 外冪の隣接商を定める写像で、v‾1\overline v_1の代表元をv1+uv_1+u(u∈Uu\in U)へ変更しても剰余類が変わらないことを、差を明示して説明せよ。

解答.

二つの像の差は

u1∧⋯∧up∧u∧v2∧⋯∧vqu_1\wedge\cdots\wedge u_p\wedge u\wedge v_2\wedge\cdots\wedge v_q

である。この純外積にはu1,…,up,uu_1,\ldots,u_p,uという少なくともp+1p+1個のUU因子があるためF∧p+1F_{\wedge}^{p+1}に属する。したがってF∧p/F∧p+1F_{\wedge}^p/F_{\wedge}^{p+1}では差が零になる。▨

参考文献

  1. Werner H. Greub, Multilinear Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 1978.直和の対称冪・外冪と部分空間に付随するフィルトレーションを参考にした。
  2. Nicolas Bourbaki, Algebra I, Chapters 1–3, Elements of Mathematics, Springer, Berlin, 1989.テンソル積の完全性と対称・外積代数の次数構造を参考にした。

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