1 テンソル積の内積
係数体KをRまたはCとし、複素内積の第1変数を線形とする。随伴の反線形加法則、合成則、および二重随伴には§E3.31 命題 3.2を用いる。
定理 1.1. 有限次元内積空間U,Vに対し、U⊗V上の内積で
⟨u⊗v, u′⊗v′⟩=⟨u,u′⟩U⟨v,v′⟩Vを満たすものがただ一つ存在する。
証明方針は、因子の正規直交基底からテンソル積の内積を構成し、純テンソルの式、一意性、および正定値性を順に確認することである。
証明.U,Vの正規直交基底をそれぞれ(ei)i=1m、(fj)j=1nとする。§E3.11 定理 2.1により(ei⊗fj)i,jはU⊗Vの基底であり、この基底を正規直交基底とする内積をU⊗Vに定める。
u=∑iuiei、u′=∑iui′ei、v=∑jvjfj、v′=∑jvj′fjと書くと、
⟨u⊗v,u′⊗v′⟩=i,j∑uivjui′vj′=(i∑uiui′)(j∑vjvj′)=⟨u,u′⟩U⟨v,v′⟩V.したがって構成した内積は求める式を満たす。純テンソルが全体を生成するため、この式を満たす半双線形形式はただ一つであり、構成は最初に選んだ正規直交基底に依存しない。またz=∑i,jcijei⊗fjに対して
⟨z,z⟩=i,j∑∣cij∣2.この値は非負であり、零になるのは全てのcijが零、すなわちz=0の場合に限る。よって得られた半双線形形式は正定値な内積である。▨
系 1.2.Vの正規直交基底を(e1,…,en)とする。r≥1に対して
ei1⊗⋯⊗eir(1≤i1,…,ir≤n)の全体は、反復して定めた内積に関するV⊗rの正規直交基底である。V⊗0=Kには⟨a,b⟩=abを入れる。
証明.r=1では仮定した基底である。r−1の場合に得た正規直交基底と(ei)に定理 1.1を適用すれば、rの場合を得る。r=0の主張はKの標準内積の定義から従う。▨
命題 1.3. 次数0では
V⊗0=Sym0(V)=⋀0V=Kとし、対称化作用素と交代化作用素はいずれもK上の恒等写像とする。三つの空間の内積は
⟨a,b⟩=abであり、(1)は正規直交基底である。また、任意の線形写像Tに対してT⊗0=idKであり、(T⊗0)∗=idKである。
証明. 次数0のテンソル冪、対称冪、および外冪は、いずれも空積を係数とするKとして定義される。対称群S0は恒等置換だけからなるため、次数0の対称化作用素と交代化作用素は恒等写像である。⟨1,1⟩=1なので(1)は正規直交基底であり、恒等写像の随伴も恒等写像である。▨
2 因子の置換
命題 2.1.r≥2とし、Pσ:V⊗r→V⊗rをテンソル因子の置換作用素とする。このとき
Pσ∗=Pσ−1,Pσ∗Pσ=Iである。
証明. 純テンソルx=x1⊗⋯⊗xrとy=y1⊗⋯⊗yrに対して
⟨Pσx,y⟩=j=1∏r⟨xσ−1(j),yj⟩=i=1∏r⟨xi,yσ(i)⟩=⟨x,Pσ−1y⟩.純テンソルは全体を生成するため、Pσ∗=Pσ−1である。§E3.12 定理 3.1の合成則からPσ−1Pσ=Iを得る。▨
3 対称冪の内積
r≥1とし、対称化作用素を
Symr=r!1σ∈Sr∑Pσ
と定める。係数体がRまたはCなのでr!は可逆である。
命題 3.1.Symrは自己随伴な直交射影である。また標準的な線形同型
ιsym:Symr(V)⟶imSymr,[z]⟼Symr(z)が存在する。この同型を通じて、V⊗rの内積はSymr(V)上の内積を定める。
証明方針は、置換作用素の合成則からSymr2=Symrを示し、その核が対称冪を定義する関係部分空間に等しいことを確認することである。
証明.r=1ではSym1=IVであり、Rsym=0なので全ての主張は直ちに従う。以下、r≥2とする。置換の合成則から
Symr2=(r!)21σ,τ∑Pστ=r!1ρ∈Sr∑Pρ=Symr.各ρはστとしてちょうどr!回現れる。また命題 2.1と§E3.31 命題 3.2の反線形加法則により
Symr∗=r!1σ∑Pσ−1=Symr.したがってSymrは自己随伴な射影、すなわち直交射影である。
RsymをPσz−zの全体が生成する部分空間とする。対称化の定義からRsym⊆kerSymrである。逆に
z−Symr(z)=r!1σ∑(z−Pσz)∈Rsymなので、Symr(z)=0ならz∈Rsymである。よってkerSymr=Rsymである。対称冪はV⊗r/Rsymとして構成されているため、第一同型定理から表示した同型を得る。像は内積空間の部分空間なので、同型を通じて正定値内積を移すことができる。▨
命題 3.2.(e1,…,en)をVの正規直交基底とする。a=(a1,…,an)∈Z≥0n、∑iai=rに対し、ea=e1a1⋯enan∈Symr(V)と書く。このとき
(a1!⋯an!r!ea)∑ai=rは命題 3.1の内積に関する正規直交基底である。
証明.eaの代表として、eiをai回ずつ並べた純テンソルzaを取る。相異なる並べ方はr!/(a1!⋯an!)通りあり、それらはテンソル冪の正規直交基底の相異なる元である。対称化の和では各並べ方がa1!⋯an!回現れるため、
∥Symr(za)∥2=r!a1!⋯an!.異なる多重指数に属する並べ方は重ならないので、対応するベクトルは直交する。§E3.13 定理 2.1で証明した対称冪の単項式基底を指定した係数で正規化すれば、表示した正規直交基底を得る。▨
4 外冪の内積
交代化作用素を
Altr=r!1σ∈Sr∑sgn(σ)Pσ
と定める。
命題 4.1.Altrは自己随伴な直交射影である。また標準的な線形同型
ι∧:⋀rV⟶imAltr,v1∧⋯∧vr⟼r!Altr(v1⊗⋯⊗vr)が存在する。この同型を通じて、V⊗rの内積は⋀rV上の内積を定める。
証明方針は、交代化作用素が自己随伴な冪等写像であることを示し、その核を外冪の交代関係が生成する部分空間と同定することである。
証明.r=1ではAlt1=IVであり、⋀1V=Vなので全ての主張は直ちに従う。以下、r≥2とする。置換作用素の合成則と符号の積から
Altr2=(r!)21σ,τ∑sgn(στ)Pστ=Altr.また置換を逆にしても符号は変わらないので、命題 2.1と§E3.31 命題 3.2の反線形加法則からAltr∗=Altrを得る。
R∧を、隣接する二因子を交換した純テンソルの和z+Pszが生成する部分空間とする。標数は0なので、これは外冪を定義するv⊗v型の関係が生成する部分空間と一致する。AltrPσ=sgn(σ)AltrであるためR∧⊆kerAltrである。逆に
z−Altr(z)=r!1σ∑(z−sgn(σ)Pσz)であり、各置換を隣接互換の積に分解すれば、右辺の各括弧はR∧に属する。したがってAltr(z)=0ならz∈R∧であり、kerAltr=R∧である。第一同型定理による同型をr!倍して表示した同型を得る。像の内積を外冪へ移すことができる。▨
命題 4.2.(e1,…,en)をVの正規直交基底とする。1≤r≤nに対して
(ei1∧⋯∧eir)1≤i1<⋯<ir≤nは命題 4.1の内積に関する正規直交基底である。
証明.i1<⋯<irとする。r!倍した交代化純テンソルは、互いに異なるr!個の正規直交基底ベクトルを係数±1/r!で足したものである。したがってそのノルムの平方は
r!(r!1)2=1である。異なる添字集合に属するテンソルは互いに直交する。したがって外冪の標準基底は正規直交基底である。▨
採用した同一視では、純外積の内積は
⟨u1∧⋯∧ur,v1∧⋯∧vr⟩=det(⟨ui,vj⟩)i,j
である。これは Gram 行列式による外冪の内積である。実際、Altrが自己随伴な射影であることから
⟨Altru,Altrv⟩=⟨Altru,v⟩=r!1det(⟨ui,vj⟩)i,j
であり、同一視の両辺にあるr!の積によって係数1/r!が消える。
5 テンソル積と随伴
定理 5.1.r≥1を整数とする。同じ係数体K∈{R,C}上の有限次元内積空間V1,…,Vr,W1,…,Wrと線形写像Ti:Vi→Wiに対して
(i=1⨂rTi)∗=i=1⨂rTi∗である。とくに、線形写像T:V→Wのテンソル冪上では
(T⊗r)∗=(T∗)⊗rが成り立つ。
証明方針は、純テンソルの内積を各因子の積へ分けて随伴の定義を各因子に適用し、純テンソルの生成性を用いることである。
証明.r=2の場合をS=T1:V1→W1、T=T2:V2→W2と書く。u∈V1、v∈V2、u′∈W1、v′∈W2に対して
⟨(S⊗T)(u⊗v),u′⊗v′⟩=⟨Su,u′⟩⟨Tv,v′⟩=⟨u,S∗u′⟩⟨v,T∗v′⟩=⟨u⊗v,(S∗⊗T∗)(u′⊗v′)⟩.純テンソルが定義域と終域を生成するので、§E3.31 定理 3.1の随伴の一意性からr=2の式を得る。r=1では随伴の定義そのものであり、r=2の式とテンソル積の標準結合同型を繰り返し用いると一般のrの式を得る。全てのTiを同じTとすれば、テンソル冪の式が従う。▨
6 演習
問題 6.1 (正規化係数の確認).V=R2の標準正規直交基底を(e1,e2)とし、r=2とする。対称冪では
∥e1e2∥2=21,∥e12∥2=1なので、2e1e2,e12,e22が正規直交基底になる。外冪では
∥e1∧e2∥2=det(1001)=1なので、e1∧e2が正規直交基底になる。対称冪では平均作用素21(I+P)をそのまま同一視に用い、外冪では Gram 行列式の規約に合わせて21(I−P)の像への同一視を2!倍している。