§E3.17係数拡大

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可換体KKが可換体LLの部分体であるとする。KK上の線形空間VVの係数をLLまで拡大した線形空間はL⊗KVL\otimes_KVである。係数拡大は基底の要素数を保ち、短完全列を保つ。またテンソル積、対称冪、外冪と標準的に両立する。有限次元では代数的双対とも両立する。

1 線形空間と線形写像の係数拡大

定義 1.1.L/KL/Kを体拡大、VVをKK上の線形空間とする。

VL=L⊗KVV_L=L\otimes_KV

とおき、

c (a⊗v)=(ca)⊗v(c,a∈L, v∈V)c\,(a\otimes v)=(ca)\otimes v\qquad(c,a\in L,\ v\in V)

によってLLのスカラー倍を定める。VLV_LをVVのLLへの係数拡大 (extension of scalars) という。標準写像 (canonical map) を

ηV:V→VL,v↦1⊗v\eta_V:V\to V_L,\qquad v\mapsto1\otimes v

と書く。

命題 1.2. 上のスカラー倍はテンソルの表示に依存せず定まり、VLV_LをLL上の線形空間にする。標準写像ηV\eta_VはKK-線形である。

証明. 固定したc∈Lc\in Lに対し、L×V→L⊗KVL\times V\to L\otimes_KV、(a,v)↦ca⊗v(a,v)\mapsto ca\otimes vはKK-双線形である。テンソル積の普遍性によりmc:L⊗KV→L⊗KVm_c:L\otimes_KV\to L\otimes_KVというKK-線形写像を定める。mc(z)m_c(z)をczczと書く。純テンソル上でmcmd=mcdm_c m_d=m_{cd}、mc+d=mc+mdm_{c+d}=m_c+m_d、m1=id⁡m_1=\operatorname{id}が成り立ち、純テンソルは全体を生成するのでこれらの等式は全体で成り立つ。したがってVLV_LはLL上の線形空間である。ηV(av+bu)=1⊗(av+bu)=a(1⊗v)+b(1⊗u)\eta_V(av+bu)=1\otimes(av+bu)=a(1\otimes v)+b(1\otimes u)がa,b∈Ka,b\in Kについて成り立つのでKK-線形である。▨

命題 1.3.KK-線形写像T:V→WT:V\to Wに対し、

TL=id⁡L⊗T:VL→WL,TL(a⊗v)=a⊗T(v)T_L=\operatorname{id}_L\otimes T:V_L\to W_L,\qquad T_L(a\otimes v)=a\otimes T(v)

はLL-線形である。さらに

(S∘T)L=SL∘TL,(id⁡V)L=id⁡VL(S\circ T)_L=S_L\circ T_L,\qquad (\operatorname{id}_V)_L=\operatorname{id}_{V_L}

が成り立つ。

証明.§E3.11 命題 3.1によりKK-線形写像TLT_Lが定まる。c,a∈Lc,a\in Lに対してTL(c(a⊗v))=TL(ca⊗v)=ca⊗T(v)=cTL(a⊗v)T_L(c(a\otimes v))=T_L(ca\otimes v)=ca\otimes T(v) =cT_L(a\otimes v)なので、純テンソル上でLL-線形性が成り立つ。加法と純テンソルによる生成から全体でLL-線形である。合成と恒等写像の式は§E3.11 命題 3.1の対応する式から従う。▨

2 基底、次元、完全列

定理 2.1.BBがVVのKK-基底なら

{1⊗b:b∈B}\{1\otimes b:b\in B\}

はVLV_LのLL-基底である。したがって基数の等式

dim⁡LVL=dim⁡KV\dim_LV_L=\dim_KV

が成り立つ。

証明. 任意の純テンソルa⊗va\otimes vでv=∑j=1mcjbjv=\sum_{j=1}^mc_jb_jと書くと

a⊗v=∑j=1m(acj)(1⊗bj)a\otimes v=\sum_{j=1}^m(ac_j)(1\otimes b_j)

である。純テンソルがVLV_Lを生成するので、1⊗b1\otimes bの全体はLL上でVLV_Lを生成する。

有限個の相異なるb1,…,bm∈Bb_1,\ldots,b_m\in Bについて∑jaj(1⊗bj)=0\sum_ja_j(1\otimes b_j)=0とする。各kkについて、基底BBのbkb_k成分を取り出すKK-線形汎関数φk:V→K\varphi_k:V\to Kを取る。写像

id⁡L⊗φk:L⊗KV→L⊗KK≅L\operatorname{id}_L\otimes\varphi_k:L\otimes_KV\to L\otimes_KK\cong L

を等式に施すとak=0a_k=0を得る。したがって1⊗b1\otimes bの全体はLL上で一次独立であり、基底である。基底の濃度が同じなので次元の等式を得る。▨

定理 2.2.KK上の短完全列

0⟶U→iV→pW⟶00\longrightarrow U\xrightarrow{i}V\xrightarrow{p}W\longrightarrow0

に係数拡大を施した

0⟶UL→iLVL→pLWL⟶00\longrightarrow U_L\xrightarrow{i_L}V_L\xrightarrow{p_L}W_L\longrightarrow0

はLL上の短完全列である。

証明.§E3.16 定理 1.1を、KK上の線形空間X=LX=Lに対して適用すると、表示した列はKK-線形写像の列として短完全である。命題 1.3により各写像はLL-線形である。像と核は集合として同じなので、LL-線形写像の列としても完全である。▨

3 テンソル構成との両立

定理 3.1.KK上の線形空間V,WV,Wに対し、

Θ:(V⊗KW)L⟶VL⊗LWL,\Theta:(V\otimes_KW)_L\longrightarrow V_L\otimes_LW_L,Θ(a⊗(v⊗w))=(a⊗v)⊗(1⊗w)\Theta\bigl(a\otimes(v\otimes w)\bigr) =(a\otimes v)\otimes(1\otimes w)

は標準的なLL-線形同型である。

証明. 右辺の式はa,v,wa,v,wについて必要なKK-線形関係を満たすので、テンソル積の普遍性を順に適用してLL-線形写像Θ\Thetaを定める。逆向きには

Ψ((a⊗v)⊗(b⊗w))=ab⊗(v⊗w)\Psi\bigl((a\otimes v)\otimes(b\otimes w)\bigr) =ab\otimes(v\otimes w)

と定める。この式は各変数についてKK-双線形であり、さらに

Ψ((ca⊗v)⊗(b⊗w))=cab⊗(v⊗w)=Ψ((a⊗v)⊗(cb⊗w))\Psi\bigl((ca\otimes v)\otimes(b\otimes w)\bigr) =cab\otimes(v\otimes w) =\Psi\bigl((a\otimes v)\otimes(cb\otimes w)\bigr)

なので、LL上のテンソル積の平衡関係と両立する。したがってΨ\Psiは表示に依存せず定まるLL-線形写像を定める。純テンソル上で

ΨΘ(a⊗(v⊗w))=a⊗(v⊗w)\Psi\Theta\bigl(a\otimes(v\otimes w)\bigr)=a\otimes(v\otimes w)

かつ

ΘΨ((a⊗v)⊗(b⊗w))=(ab⊗v)⊗(1⊗w)=(a⊗v)⊗(b⊗w)\Theta\Psi\bigl((a\otimes v)\otimes(b\otimes w)\bigr) =(ab\otimes v)\otimes(1\otimes w) =(a\otimes v)\otimes(b\otimes w)

である。純テンソルが各空間を生成するので、Θ\ThetaとΨ\Psiは相互に逆である。▨

定理 3.2. 各r≥0r\ge0について、次の標準的なLL-線形同型がある。

L⊗KSym⁡Kr(V)≅Sym⁡Lr(VL),L⊗K⋀KrV≅⋀Lr(VL).\begin{aligned} L\otimes_K\operatorname{Sym}^r_K(V) &\cong\operatorname{Sym}^r_L(V_L),\\ L\otimes_K\bigwedge\nolimits_K^rV &\cong\bigwedge\nolimits_L^r(V_L). \end{aligned}

第一の同型はa⊗(v1⋯vr)↦a(1⊗v1)⋯(1⊗vr)a\otimes(v_1\cdots v_r)\mapsto a(1\otimes v_1)\cdots(1\otimes v_r)、第二の同型は楔積を用いた同じ式で定まる。

証明. 表示式は対称性または交代性と両立するため、それぞれの普遍性によりLL-線形写像を定める。VVのKK-基底を(ei)(e_i)とすると、定理 2.1により(1⊗ei)(1\otimes e_i)はVLV_LのLL-基底である。対称冪の単項式基底は同じ指数列によって対応し、外冪の基底は同じ昇順添字によって対応する。表示した写像はそれぞれ基底を基底へ送るので同型である。定義式は基底を用いないため、同型自体は基底の選択に依存しない。▨

4 有限次元双対との両立

定理 4.1.VVが有限次元なら、

Γ:L⊗KV∨⟶(VL)∨L,\Gamma:L\otimes_KV^\vee\longrightarrow(V_L)^{\vee_L},Γ(a⊗φ)(b⊗v)=ab φ(v)\Gamma(a\otimes\varphi)(b\otimes v)=ab\,\varphi(v)

は標準的なLL-線形同型である。

証明. 右辺は(a,φ)(a,\varphi)および(b,v)(b,v)についてテンソル積の関係と両立し、固定したa⊗φa\otimes\varphiに対してb⊗vb\otimes vのLL-線形汎関数を定める。したがってΓ\Gammaは表示に依存せず定まり、LL-線形である。VVの基底を(e1,…,en)(e_1,\ldots,e_n)、双対基底を(e1,…,en)(e^1,\ldots,e^n)とする。1⊗ei1\otimes e^iの像はVLV_Lの基底(1⊗ej)(1\otimes e_j)に対して

Γ(1⊗ei)(1⊗ej)=δij\Gamma(1\otimes e^i)(1\otimes e_j)=\delta_{ij}

を満たす。したがってΓ\Gammaは係数拡大した双対基底をVLV_Lの双対基底へ送り、同型である。▨

有限次元性を外すと、L⊗KV∨L\otimes_KV^\veeの元は有限個のKK-線形汎関数のLL-一次結合に限られるが、(VL)∨L(V_L)^{\vee_L}にはそれだけでは表されない汎関数が存在する場合がある。そのため双対との同型には有限次元性が必要である。

例 4.2 (実数から複素数への係数拡大).K=RK=\mathbb R、L=CL=\mathbb C、V=R2V=\mathbb R^2とする。VC=C⊗RR2V_{\mathbb C}=\mathbb C\otimes_{\mathbb R}\mathbb R^2は1⊗e1,1⊗e21\otimes e_1,1\otimes e_2を複素基底にもつので、複素線形空間としてC2\mathbb C^2と同型である。dim⁡CVC=2=dim⁡RV\dim_{\mathbb C}V_{\mathbb C}=2=\dim_{\mathbb R}Vである。ただしVCV_{\mathbb C}を実線形空間として見ると次元は44であり、どの係数体について次元を取るかを区別する必要がある。

5 演習

問題 5.1 (テンソル両立写像が表示に依存しないこと).定理 3.1の逆写像Ψ\Psiで、LL上のテンソル積の関係(cz)⊗z′=z⊗(cz′)(cz)\otimes z'=z\otimes(cz')が保たれることを示せ。

解答.

z=a⊗vz=a\otimes v、z′=b⊗wz'=b\otimes wとすると

Ψ((ca⊗v)⊗(b⊗w))=cab⊗(v⊗w),\Psi((ca\otimes v)\otimes(b\otimes w)) =cab\otimes(v\otimes w),Ψ((a⊗v)⊗(cb⊗w))=acb⊗(v⊗w).\Psi((a\otimes v)\otimes(cb\otimes w)) =acb\otimes(v\otimes w).

LLは可換体なのでcab=acbcab=acbであり、二つの値は一致する。したがってΨ\PsiはLL上の平衡関係と両立する。▨

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.体拡大に沿うスカラー拡大とテンソル構成との両立性を参考にした。
  2. Nicolas Bourbaki, Algebra I, Chapters 1–3, Elements of Mathematics, Springer, Berlin, 1989.係数拡大の完全性と双対との比較を参考にした。

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