§E3.28冪零作用素

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以下、KKを可換体、VVを有限次元KK-線形空間、N∈End⁡K(V)N\in\operatorname{End}_K(V)とする。自己準同型N:V→VN:V\to Vが冪零であるとは、あるq≥1q\ge1に対してNq=0N^q=0となることをいう。一般固有空間上ではT−λIT-\lambda Iが冪零になるため、冪零作用素の分類は一般の Jordan 標準形を構成する基礎になる。本記事では、冪零作用素を Jordan 鎖へ分解し、核の増大列から鎖の長さを一意に復元する。

1 Jordan 鎖

定義 1.1.ℓ≥1\ell\ge1に対し、冪零 Jordan ブロック (nilpotent Jordan block) を

Jℓ(0)=(0100⋱⋱100)J_\ell(0)= \begin{pmatrix} 0&1&&0\\ &0&\ddots&\\ &&\ddots&1\\ 0&&&0 \end{pmatrix}

と定める。

冪零作用素NNに対し、一次独立なベクトル列(v1,…,vℓ)(v_1,\ldots,v_\ell)が

Nv1=0,Nvj=vj−1(2≤j≤ℓ)Nv_1=0,\qquad Nv_j=v_{j-1}\quad(2\le j\le\ell)

を満たすとき、この列を長さℓ\ellのJordan 鎖 (Jordan chain) という。この順序の基底に関する制限の表現行列はJℓ(0)J_\ell(0)である。

Nℓ−1vℓ=v1≠0N^{\ell-1}v_\ell=v_1\ne0かつNℓvℓ=0N^\ell v_\ell=0なので、vℓv_\ellにNNを順次施すとvℓ−1,…,v1,0v_{\ell-1},\ldots,v_1,0の順に移る。

2 Jordan 鎖の存在

定理 2.1. 有限次元線形空間VV上の冪零作用素NNに対し、Jordan 鎖を連結して得られるVVの基底が存在する。したがって、ある基底に関するNNの表現行列は

Jℓ1(0)⊕⋯⊕Jℓp(0)J_{\ell_1}(0)\oplus\cdots\oplus J_{\ell_p}(0)

となる。

証明.n=dim⁡Vn=\dim Vについて帰納法を用いる。n=0n=0の場合は空の基底を取ればよい。N=0N=0の場合は任意の基底を長さ11の Jordan 鎖へ分ければよい。

N≠0N\ne0とし、W=im⁡NW=\operatorname{im}Nと置く。NNが単射なら全てのNqN^qも単射になるが、冪零性によりあるNqN^qは零写像である。V≠0V\ne0なので矛盾する。よってker⁡N≠0\ker N\ne0であり、階数・退化次数定理からdim⁡W<n\dim W<nである。WWはNN-不変で、N∣WN|_Wも冪零である。帰納法により、WWには Jordan 鎖

(wi,1,…,wi,ℓi)(1≤i≤p)(w_{i,1},\ldots,w_{i,\ell_i})\qquad(1\le i\le p)

を連結した基底が存在する。

wi,ℓi∈W=im⁡Nw_{i,\ell_i}\in W=\operatorname{im}Nなので、Nvi=wi,ℓiNv_i=w_{i,\ell_i}を満たすvi∈Vv_i\in Vを選ぶ。すると列

(wi,1,…,wi,ℓi,vi)(w_{i,1},\ldots,w_{i,\ell_i},v_i)

は Jordan 鎖の作用関係を満たす。これらの列を合わせたときの一次独立性は以下で示す。各wi,1w_{i,1}はker⁡N\ker Nに属し、これらはWWの基底の一部なので一次独立である。そこで

w1,1,…,wp,1,z1,…,zqw_{1,1},\ldots,w_{p,1},z_1,\ldots,z_q

がker⁡N\ker Nの基底になるようにベクトルを補う。

全ての延長した鎖とz1,…,zqz_1,\ldots,z_qを合わせた列のベクトル数は

dim⁡W+p+q=dim⁡W+dim⁡ker⁡N=n\dim W+p+q =\dim W+\dim\ker N =n

である。この列が一次独立であることを示す。延長した鎖とzsz_sの一次関係にNNを作用させると、zsz_sと各wi,1w_{i,1}の項は消え、残るベクトルはWWの基底

{wi,j:1≤i≤p, 1≤j≤ℓi}\{w_{i,j}:1\le i\le p,\ 1\le j\le\ell_i\}

になる。したがって、各viv_iの係数と各wi,j (j≥2)w_{i,j}\ (j\ge2)の係数は全て零である。元の一次関係にはwi,1w_{i,1}とzsz_sの項だけが残るが、これらはker⁡N\ker Nの基底なので、その係数も全て零である。よって列は一次独立であり、ベクトル数がnnであることからVVの基底になる。▨

3 核の増大列と一意性

定理 3.1.κj=dim⁡ker⁡Nj\kappa_j=\dim\ker N^jとし、κ0=0\kappa_0=0と置く。大きさがちょうどjjである冪零 Jordan ブロックの個数bjb_jは、各整数j≥1j\ge1について

bj=(κj−κj−1)−(κj+1−κj)b_j=(\kappa_j-\kappa_{j-1})-(\kappa_{j+1}-\kappa_j)

である。したがって、ブロックの大きさの多重集合はNNから一意に定まる。

証明. 大きさmmのブロックと整数j≥1j\ge1について

dim⁡ker⁡Jm(0)j=min⁡(j,m)\dim\ker J_m(0)^j=\min(j,m)

である。実際、j<mj<mならJm(0)jJ_m(0)^jは基底ベクトルv1,…,vjv_1,\ldots,v_jを零へ送り、vj+1,…,vmv_{j+1},\ldots,v_mをそれぞれv1,…,vm−jv_1,\ldots,v_{m-j}へ送る。後者の像は一次独立なので、核はspan⁡{v1,…,vj}\operatorname{span}\{v_1,\ldots,v_j\}であり、その次元はjjである。j≥mj\ge mならJm(0)m=0J_m(0)^m=0からJm(0)j=0J_m(0)^j=0が従うので、核はブロック空間全体であり、その次元はmmである。

ブロック直和では核も直和になるため、ブロックの大きさをm1,…,mpm_1,\ldots,m_pとすると

κj=∑k=1pmin⁡(j,mk).\kappa_j=\sum_{k=1}^p\min(j,m_k).

したがって

κj−κj−1=#{k:mk≥j}.\kappa_j-\kappa_{j-1} =\#\{k:m_k\ge j\}.

これは大きさがjj以上であるブロックの個数である。jjに対する値からj+1j+1に対する値を引けば、大きさがちょうどjjであるブロックの個数を得る。よって表示した公式が成り立つ。右辺はNNの各冪の核の次元だけで定まるため、ブロックの大きさの多重集合は分解の選び方に依存しない。▨

系 3.2. 冪零作用素の Jordan ブロック直和は、ブロックの順序を除いて一意である。

証明.定理 2.1がブロック直和の存在を与え、定理 3.1が各大きさのブロック数を一意に定める。▨

4 核の次元からの復元

例 4.1 (核の次元からブロックを復元する例). 八次元空間上の冪零作用素について

κ0,κ1,κ2,κ3,κ4,κ5=0,4,6,7,8,8\kappa_0,\kappa_1,\kappa_2,\kappa_3,\kappa_4,\kappa_5 =0,4,6,7,8,8

であるとする。階差

rj=κj−κj−1r_j=\kappa_j-\kappa_{j-1}

は4,2,1,1,04,2,1,1,0である。rjr_jは大きさがjj以上であるブロックの個数なので

b1=4−2=2,b2=2−1=1,b3=1−1=0,b4=1−0=1.b_1=4-2=2,\quad b_2=2-1=1,\quad b_3=1-1=0,\quad b_4=1-0=1.

したがって、ブロックの大きさは4,2,1,14,2,1,1である。その和は88になり、空間の次元と一致する。

例 4.2 (三本の鎖から核の次元を求める例). 八次元空間の基底を

e1,e2,e3,e4, f1,f2, g1,g2e_1,e_2,e_3,e_4,\ f_1,f_2,\ g_1,g_2

とし、

Ne1=0,Nej=ej−1 (2≤j≤4),Ne_1=0,\quad Ne_j=e_{j-1}\ (2\le j\le4),Nf1=Ng1=0,Nf2=f1,Ng2=g1Nf_1=Ng_1=0,\qquad Nf_2=f_1,\qquad Ng_2=g_1

と定める。Jordan 鎖の長さは4,2,24,2,2である。各鎖はNjN^jの核へmin⁡(j,ℓ)\min(j,\ell)次元を寄与するので

dim⁡ker⁡Nj={0j=0,3j=1,6j=2,7j=3,8j≥4.\dim\ker N^j= \begin{cases} 0&j=0,\\ 3&j=1,\\ 6&j=2,\\ 7&j=3,\\ 8&j\ge4. \end{cases}

階差は3,3,1,1,03,3,1,1,0であり、さらに階差を取ると

b1=0,b2=2,b3=0,b4=1b_1=0,\qquad b_2=2,\qquad b_3=0,\qquad b_4=1

となる。核の次元列から、最初に与えた大きさ4,2,24,2,2を復元することができる。

5 演習

問題 5.1 (冪零指数と最大ブロック).Nq=0N^q=0かつNq−1≠0N^{q-1}\ne0とする。全てのブロックの大きさがq−1q-1以下ならNq−1=0N^{q-1}=0となるため、少なくとも一つの大きさqqのブロックがある。一方、Nq=0N^q=0なのでqqより大きいブロックはない。したがって、冪零指数は最大の Jordan ブロックの大きさに等しい。

参考文献

  1. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.冪零作用素の巡回分解と核の次元列を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.Jordan 鎖による冪零作用素の存在・一意性の証明を参考にした。

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