§E3.18作用素の多項式

最終更新

以下、KKを可換体、VVをKK上の線形空間、T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)とする。自己準同型T:V→VT:V\to Vにスカラー係数多項式p(t)=a0+a1t+⋯+amtmp(t)=a_0+a_1t+\cdots+a_mt^mを代入すると、p(T)=a0I+a1T+⋯+amTmp(T)=a_0I+a_1T+\cdots+a_mT^mという自己準同型が得られる。この評価は和と積を保つため、多項式環K[t]K[t]はVVに作用する。あるベクトルからTTを反復して得る巡回部分空間は、この作用で生成される最小の不変部分空間である。

1 多項式の評価

定義 1.1.T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)とp(t)=∑j=0majtj∈K[t]p(t)=\sum_{j=0}^ma_jt^j\in K[t]に対し、

p(T)=∑j=0majTj∈End⁡K(V)p(T)=\sum_{j=0}^ma_jT^j\in\operatorname{End}_K(V)

と定める。ただしT0=IVT^0=I_Vとする。p(T)p(T)をTTの作用素多項式 (operator polynomial) という。

定理 1.2. 写像

ev⁡T:K[t]→End⁡K(V),p↦p(T)\operatorname{ev}_T:K[t]\to\operatorname{End}_K(V),\qquad p\mapsto p(T)

は和、積、単位元を保つ。すなわち

(p+q)(T)=p(T)+q(T),(pq)(T)=p(T)q(T),1(T)=IV.(p+q)(T)=p(T)+q(T),\qquad (pq)(T)=p(T)q(T),\qquad 1(T)=I_V.

とくに全てのp,q∈K[t]p,q\in K[t]についてp(T)q(T)=q(T)p(T)p(T)q(T)=q(T)p(T)である。

証明. 和と単位元の式は定義から従う。p(t)=∑iaitip(t)=\sum_i a_it^i、q(t)=∑jbjtjq(t)=\sum_jb_jt^jとすると

p(T)q(T)=(∑iaiTi)(∑jbjTj)=∑i,jaibjTi+j=∑k(∑i+j=kaibj)Tk=(pq)(T).\begin{aligned} p(T)q(T) &=\left(\sum_i a_iT^i\right)\left(\sum_jb_jT^j\right)\\ &=\sum_{i,j}a_ib_jT^{i+j}\\ &=\sum_k\left(\sum_{i+j=k}a_ib_j\right)T^k\\ &=(pq)(T). \end{aligned}

ここではai,bja_i,b_jがスカラーなので自己準同型と可換であり、TiTj=Ti+jT^iT^j=T^{i+j}を用いた。K[t]K[t]は可換環なので(pq)(T)=(qp)(T)(pq)(T)=(qp)(T)であり、最後の可換式も従う。▨

この証明は、全ての係数がスカラーであることを用いる。行列係数多項式では係数とTTが可換とは限らず、同じ計算を無条件に用いることはできない。

定義 1.3.p∈K[t]p\in K[t]とv∈Vv\in Vに対し

p⋅v=p(T)vp\cdot v=p(T)v

と定める。定理 1.2により(pq)⋅v=p⋅(q⋅v)(pq)\cdot v=p\cdot(q\cdot v)、1⋅v=v1\cdot v=vが成り立つ。この演算をTTが定める多項式環の作用 (polynomial ring action) という。

2 零化多項式

定義 2.1. 部分集合I⊆K[t]I\subseteq K[t]がK[t]K[t]のイデアル (ideal) であるとは、次の三条件を満たすことをいう。

  1. 0∈I0\in Iである。
  2. p,q∈Ip,q\in Iならばp+q∈Ip+q\in Iかつ−p∈I-p\in Iである。
  3. p∈Ip\in Iとr∈K[t]r\in K[t]に対してrp∈Irp\in Iである。

K[t]K[t]は可換環なので、条件 (c)に現れるrprpをprprと書いても同じ条件になる。

定義 2.2.p(T)=0p(T)=0を満たすp∈K[t]p\in K[t]をTTの零化多項式 (annihilating polynomial) という。零化多項式全体

Ann⁡(T)={p∈K[t]:p(T)=0}\operatorname{Ann}(T)=\{p\in K[t]:p(T)=0\}

をTTの零化イデアル (annihilator ideal) という。

命題 2.3.Ann⁡(T)\operatorname{Ann}(T)はK[t]K[t]のイデアルである。VVが有限次元ならAnn⁡(T)\operatorname{Ann}(T)は零でない。

証明.p(T)=q(T)=0p(T)=q(T)=0なら(p+q)(T)=0(p+q)(T)=0であり、(−p)(T)=−p(T)=0(-p)(T)=-p(T)=0である。またr∈K[t]r\in K[t]に対し(rp)(T)=r(T)p(T)=0(rp)(T)=r(T)p(T)=0である。零多項式も含むので定義 2.1によりAnn⁡(T)\operatorname{Ann}(T)はイデアルである。

dim⁡V=n<∞\dim V=n<\inftyならEnd⁡K(V)\operatorname{End}_K(V)の次元はn2n^2である。I,T,…,Tn2I,T,\ldots,T^{n^2}はn2+1n^2+1個の自己準同型なので一次従属である。したがって全てが零ではないa0,…,an2a_0,\ldots,a_{n^2}が存在して

a0I+a1T+⋯+an2Tn2=0a_0I+a_1T+\cdots+a_{n^2}T^{n^2}=0

となる。対応する非零多項式はAnn⁡(T)\operatorname{Ann}(T)に属する。▨

後の Cayley–Hamilton の定理は、次数nnの特性多項式が零化多項式であることを示す。上の存在証明はより弱い次数評価しか与えないが、Cayley–Hamilton の定理を先取りしない。

3 巡回部分空間

定義 3.1.v∈Vv\in Vに対し、

K[T]v={p(T)v:p∈K[t]}=span⁡{v,Tv,T2v,…}K[T]v=\{p(T)v:p\in K[t]\} =\operatorname{span}\{v,Tv,T^2v,\ldots\}

をvvが生成するTT-巡回部分空間 (TT-cyclic subspace) という。

命題 3.2.K[T]vK[T]vはvvを含むTT-不変部分空間である。またvvを含む任意のTT-不変部分空間WWに対してK[T]v⊆WK[T]v\subseteq Wが成り立つ。

証明.K[T]vK[T]vはp(T)vp(T)vの全体なので、和とスカラー倍について閉じている。1(T)v=v1(T)v=vであるからvvを含む。T(p(T)v)=(tp)(T)vT(p(T)v)=(tp)(T)vなのでTT-不変である。

WWがvvを含みTT-不変なら、帰納法により全てのTjvT^jvを含む。WWは部分空間なので、それらの有限一次結合p(T)vp(T)vも含む。したがってK[T]v⊆WK[T]v\subseteq Wである。▨

命題 3.3.K[T]vK[T]vが有限次元でv≠0v\ne0とする。v,Tv,…,Tdvv,Tv,\ldots,T^dvが初めて一次従属になる最小のd≥1d\ge1を取る。このとき

v,Tv,…,Td−1vv,Tv,\ldots,T^{d-1}v

はK[T]vK[T]vの基底であり、ただ一つのモニック多項式

cv(t)=td+ad−1td−1+⋯+a0c_v(t)=t^d+a_{d-1}t^{d-1}+\cdots+a_0

が存在してcv(T)v=0c_v(T)v=0を満たす。さらにp(T)v=0p(T)v=0であるための必要十分条件はcv∣pc_v\mid pである。

証明.ddの最小性からv,…,Td−1vv,\ldots,T^{d-1}vは一次独立である。最初の一次関係でTdvT^dvの係数が零ならより短い列に関係が生じるので、その係数は非零である。係数で割って

Tdv=−ad−1Td−1v−⋯−a0vT^dv=-a_{d-1}T^{d-1}v-\cdots-a_0v

と一意に書くことができ、cv(T)v=0c_v(T)v=0を得る。この関係へTTを反復して施すと、全てのTmvT^mvはv,…,Td−1vv,\ldots,T^{d-1}vの一次結合になる。したがって表示した一次独立集合は巡回部分空間を生成し、基底である。

p∈K[t]p\in K[t]をcvc_vで割り、p=qcv+rp=qc_v+r、deg⁡r<d\deg r<dとする。p(T)v=r(T)vp(T)v=r(T)vである。p(T)v=0p(T)v=0なら、基底v,…,Td−1vv,\ldots,T^{d-1}vの一次独立性からr=0r=0となる。逆にcv∣pc_v\mid pならp(T)v=q(T)cv(T)v=0p(T)v=q(T)c_v(T)v=0である。モニック多項式の一意性も、この割り切り条件または最初の関係の係数の一意性から従う。▨

命題 3.4. 部分空間W⊆VW\subseteq VがTT-不変であるための必要十分条件は、全てのp∈K[t]p\in K[t]についてp(T)W⊆Wp(T)W\subseteq Wが成り立つことである。

証明.WWがTT-不変なら帰納法によりTjW⊆WT^jW\subseteq Wが全てのjjについて成り立ち、線形結合を取るとp(T)W⊆Wp(T)W\subseteq Wとなる。逆に全てのppについての条件をp(t)=tp(t)=tに適用するとT(W)⊆WT(W)\subseteq Wを得る。▨

例 3.5 (冪零シフトの巡回部分空間).V=K4V=K^4の基底をe1,e2,e3,e4e_1,e_2,e_3,e_4とし、

T(e1)=0,T(e2)=e1,T(e3)=e2,T(e4)=e3T(e_1)=0,\quad T(e_2)=e_1,\quad T(e_3)=e_2,\quad T(e_4)=e_3

と定める。v=e4v=e_4に対して

v=e4,Tv=e3,T2v=e2,T3v=e1,T4v=0v=e_4,\quad Tv=e_3,\quad T^2v=e_2,\quad T^3v=e_1,\quad T^4v=0

なのでK[T]v=VK[T]v=Vであり、cv(t)=t4c_v(t)=t^4である。一方e2e_2が生成する巡回部分空間はspan⁡{e2,e1}\operatorname{span}\{e_2,e_1\}であり、対応する多項式はt2t^2である。

4 演習

問題 4.1 (多項式評価の証明確認).(pq)(T)=p(T)q(T)(pq)(T)=p(T)q(T)の証明で、係数がスカラーであることをどこで用いるかを述べよ。また行列係数多項式へ同じ証明を移すときに不足する条件を示せ。

解答.

積を展開して(aiTi)(bjTj)=aibjTi+j(a_iT^i)(b_jT^j)=a_ib_jT^{i+j}とまとめる際に、係数bjb_jをTiT^iの左へ移している。ai,bj∈Ka_i,b_j\in Kはスカラー倍作用素なので全ての自己準同型と可換である。行列係数の場合には係数行列とTTが可換とは限らず、この移動を行うためには各係数がTTと可換するという追加条件が必要である。▨

参考文献

  1. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.作用素への多項式代入、巡回部分空間、零化イデアルを参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.K[t] 加群としての線形空間と作用素多項式を参考にした。

前提記事