§E3.39二次形式

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標数が22でない体では、二次形式と対称双線形形式を偏極によって相互に復元することができる。標数が22の場合には22で割ることができず、偏極形式だけでは二次形式を復元することができない。この違いを保つため、本記事では二次形式を対称双線形形式から定義せず、斉次性と偏極形式の双線形性によって直接定義する。

1 任意標数における定義

定義 1.1.VVを可換体KK上の線形空間とする。写像

B:V×V⟶KB:V\times V\longrightarrow K

が各変数について線形であるとき、BBを 双線形形式 (bilinear form) という。B(x,y)=B(y,x)B(x,y)=B(y,x)を全てのx,y∈Vx,y\in Vについて満たすとき、BBは 対称 (symmetric) であるという。

写像q:V→Kq:V\to Kが 二次形式 (quadratic form) であるとは、次の二条件を満たすことをいう。

  1. 全てのa∈Ka\in Kとx∈Vx\in Vに対してq(ax)=a2q(x)q(ax)=a^2q(x)である。
  2. 偏極形式 (polar form) bq(x,y)=q(x+y)−q(x)−q(y)b_q(x,y)=q(x+y)-q(x)-q(y) が双線形形式である。

偏極形式は加法の可換性から対称である。また

bq(x,x)=q(2x)−2q(x)=2q(x)b_q(x,x)=q(2x)-2q(x)=2q(x)

である。最後の等式は任意標数で成り立つが、qqをbqb_qから復元するには22が可逆でなければならない。

定義 1.2. 双線形形式BBの 根基 (radical) を

rad⁡(B)={x∈V∣B(x,y)=0 が全ての y∈V について成立する}\operatorname{rad}(B) =\{x\in V\mid B(x,y)=0\text{ が全ての }y\in V\text{ について成立する}\}

と定める。rad⁡(B)={0}\operatorname{rad}(B)=\{0\}のときBBは 非退化 (nondegenerate) であり、それ以外のとき退化 (degenerate) しているという。

二次形式qqについて、本記事では偏極形式bqb_qの退化性をqqの退化性 (degeneracy) と呼ぶ。0≠x∈V0\ne x\in Vがq(x)=0q(x)=0を満たすとき、xxを 等方ベクトル (isotropic vector) といい、そのようなベクトルが存在する二次形式を 等方的 (isotropic) という。非零の等方ベクトルをもたない二次形式を 非等方的 (anisotropic) という。

標数22ではbq(x,x)=0b_q(x,x)=0が全てのxxについて成立する一方、qqは根基上でも非零になり得る。したがって、標数22の二次形式について「退化」を用いるときは、偏極形式の根基を指すことを明示する必要がある。

定義 1.3.q:V→Kq:V\to Kとq′:W→Kq':W\to Kを二次形式とする。線形同型S:V→WS:V\to Wが

q′(Sx)=q(x)(x∈V)q'(Sx)=q(x)\qquad(x\in V)

を満たすとき、qqとq′q'は 等長 (isometric) であるという。

二つの正方行列A,A′A,A'について、ある可逆行列PPが存在して

A′=PTAPA'=P^{\mathsf T}AP

となるとき、AAとA′A'は 合同 (congruent) であるという。標数が22でない場合、対称双線形形式の基底変更は表現行列を合同な行列へ移す。

命題 1.4.BBを有限次元線形空間VV上の双線形形式とする。順序付き基底E\mathcal Eに関する表現行列をAAとし、別の順序付き基底F\mathcal Fの各ベクトルのE\mathcal E-座標を列に並べた行列をPPとする。このときF\mathcal Fに関するBBの表現行列は

PTAPP^{\mathsf T}AP

である。

証明.E\mathcal E-座標を列ベクトルで表すとB(x,y)=xTAyB(x,y)=x^{\mathsf T}Ayである。F\mathcal F-座標をx′,y′x',y'とすればx=Px′x=Px'、y=Py′y=Py'なので

B(x,y)=(Px′)TA(Py′)=(x′)T(PTAP)y′.B(x,y) =(Px')^{\mathsf T}A(Py') =(x')^{\mathsf T}(P^{\mathsf T}AP)y'.

したがって新しい表現行列はPTAPP^{\mathsf T}APである。▨

2 標数が 2 でない場合の偏極

命題 2.1.KKの標数が22でないとする。二次形式qqに対して

Bq(x,y)=12(q(x+y)−q(x)−q(y))=12bq(x,y)B_q(x,y) =\frac12\bigl(q(x+y)-q(x)-q(y)\bigr) =\frac12b_q(x,y)

と置くと、BqB_qは対称双線形形式であり

q(x)=Bq(x,x)q(x)=B_q(x,x)

を満たす。逆に、対称双線形形式BBに対してqB(x)=B(x,x)q_B(x)=B(x,x)と置けば二次形式になり、二つの構成は互いに逆である。

証明方針は、二次形式の定義からbqb_qの対称双線形性を用い、bq(x,x)=2q(x)b_q(x,x)=2q(x)を22で割ることである。逆向きでは双線形性を展開して偏極形式を計算する。

証明.bqb_qは定義により双線形であり、bq(x,y)=bq(y,x)b_q(x,y)=b_q(y,x)なのでBq=12bqB_q=\frac12b_qは対称双線形形式である。また

Bq(x,x)=12bq(x,x)=12⋅2q(x)=q(x).B_q(x,x)=\frac12b_q(x,x)=\frac12\cdot2q(x)=q(x).

対称双線形形式BBに対しqB(x)=B(x,x)q_B(x)=B(x,x)と置くと

qB(ax)=B(ax,ax)=a2qB(x)q_B(ax)=B(ax,ax)=a^2q_B(x)

であり、

bqB(x,y)=B(x+y,x+y)−B(x,x)−B(y,y)=B(x,y)+B(y,x)=2B(x,y).\begin{aligned} b_{q_B}(x,y) &=B(x+y,x+y)-B(x,x)-B(y,y)\\ &=B(x,y)+B(y,x)=2B(x,y). \end{aligned}

したがってbqBb_{q_B}は双線形であり、qBq_Bは二次形式である。さらにBqB=12bqB=BB_{q_B}=\frac12b_{q_B}=Bであり、前半からqBq=qq_{B_q}=qである。よって二つの構成は互いに逆である。▨

例 2.2 (標数 2 で偏極が情報を失う).K=F2K=\mathbb F_2、V=KV=Kとし、

q(x)=x2q(x)=x^2

と置く。q(ax)=a2q(x)q(ax)=a^2q(x)であり、

bq(x,y)=(x+y)2−x2−y2=2xy=0.b_q(x,y) =(x+y)^2-x^2-y^2 =2xy=0.

したがってqqは非零の二次形式であるが、その偏極形式は零である。零二次形式も同じ偏極形式をもつため、bqb_qからqqを復元することはできない。また、この規約ではqqは偏極形式の意味で退化しているがq(1)=1q(1)=1である。実際、rad⁡(bq)=V\operatorname{rad}(b_q)=Vである一方、qqの根基への制限は零写像ではない。

3 対称双線形形式の対角化

定理 3.1.KKの標数が22でないとし、VVを有限次元KK-線形空間とする。任意の対称双線形形式BBに対して、VVの基底(e1,…,en)(e_1,\ldots,e_n)で

B(ei,ej)=0(i≠j)B(e_i,e_j)=0\qquad(i\ne j)

となるものが存在する。したがって、対応する二次形式は

q(x1e1+⋯+xnen)=a1x12+⋯+anxn2q(x_1e_1+\cdots+x_ne_n)=a_1x_1^2+\cdots+a_nx_n^2

と表される。BBが退化している場合には、一部のaia_iは零になり得る。

証明方針は、B≠0B\ne0ならB(v,v)≠0B(v,v)\ne0となるベクトルを偏極によって見つけ、そのベクトルが張る一次元空間と直交補空間の直和へ分けて次元について帰納することである。

証明.n=dim⁡Vn=\dim Vについて帰納法を用いる。n=0n=0では空基底について成立する。B=0B=0なら任意の基底が条件を満たす。B≠0B\ne0とする。もし全てのv∈Vv\in VについてB(v,v)=0B(v,v)=0なら、命題 2.1をq(v)=B(v,v)q(v)=B(v,v)に適用してB=0B=0を得るため矛盾する。したがってB(v,v)≠0B(v,v)\ne0となるv∈Vv\in Vが存在する。

W=v⊥={x∈V∣B(v,x)=0}W=v^\perp=\{x\in V\mid B(v,x)=0\}

と置く。x↦B(v,x)x\mapsto B(v,x)はvvで非零値を取る線形汎関数なので、その核WWは余次元11である。またB(v,v)≠0B(v,v)\ne0なのでv∉Wv\notin Wであり、

V=Kv⊕W.V=Kv\oplus W.

B∣W×WB|_{W\times W}は対称双線形形式である。帰納法の仮定によりWWにはBB-直交基底が存在する。その基底の前にvvを置けばVVのBB-直交基底になる。各ai=B(ei,ei)a_i=B(e_i,e_i)と置くと二次形式の表示も従う。▨

例 3.2 (退化性と等方性は異なる).K=RK=\mathbb R上の

q(x,y)=x2−y2q(x,y)=x^2-y^2

を考える。対応する対称双線形形式の行列はdiag⁡(1,−1)\operatorname{diag}(1,-1)で可逆なので、qqは非退化である。一方、

q(1,1)=0q(1,1)=0

であるため(1,1)(1,1)は非零の等方ベクトルであり、qqは等方的である。非退化性は偏極形式の根基に関する条件であり、非等方性とは異なる。

4 演習

問題 4.1 (仮定の使用箇所).命題 2.1と定理 3.1で標数が22でないという仮定を用いる箇所は、bqb_qを22で割る箇所、およびB(v,v)=0B(v,v)=0が全てのvvについて成立することからB=0B=0を導く箇所である。二次形式、偏極形式、等方性、および合同の定義そのものには、標数が22でないという仮定を置いていない。

参考文献

  1. T. Y. Lam, Introduction to Quadratic Forms over Fields, Graduate Studies in Mathematics 67, American Mathematical Society, Providence, 2005.任意標数における二次形式、偏極形式、退化性、等方性、および合同を参考にした。
  2. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.標数が 2 でない体上の対称双線形形式の対角化を参考にした。

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