§E3.5双対空間と双対写像

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線形空間VVの代数的双対V∨V^\veeは、VVから係数体への線形写像を集めた線形空間である。双対写像は線形写像の向きを反転させる。有限次元では、順序付き基底を選ぶと双対基底が定まり、双対写像の表現行列は元の表現行列の転置になる。一方、VVから二重双対V∨∨V^{\vee\vee}への評価写像は基底を選ばずに定まる。

1 双対空間と双対基底

定義 1.1.VVをKK上の線形空間とする。線形写像φ:V→K\varphi:V\to Kを線形汎関数 (linear functional) という。線形汎関数全体

V∨=Hom⁡K(V,K)V^\vee=\operatorname{Hom}_K(V,K)

に点ごとの加法とスカラー倍を定めた線形空間をVVの代数的双対 (algebraic dual) という。

定理 1.2.VVを有限次元とし、B=(v1,…,vn)\mathcal B=(v_1,\ldots,v_n)を順序付き基底とする。各iiについて

vi(vj)=δijv^i(v_j)=\delta_{ij}

で定まる線形汎関数viv^iがただ一つ存在し、(v1,…,vn)(v^1,\ldots,v^n)はV∨V^\veeの順序付き基底になる。これをB\mathcal Bの双対基底という。とくにdim⁡KV∨=dim⁡KV\dim_KV^\vee=\dim_KVである。

証明. 基底上の値を指定すれば線形写像がただ一つ定まるので、各viv^iは存在して一意である。∑iaivi=0\sum_i a_iv^i=0なら、vjv_jで評価してaj=0a_j=0を得るので、v1,…,vnv^1,\ldots,v^nは一次独立である。任意のφ∈V∨\varphi\in V^\veeに対し

ψ=∑i=1nφ(vi)vi\psi=\sum_{i=1}^n\varphi(v_i)v^i

とおくと、各vjv_jについてψ(vj)=φ(vj)\psi(v_j)=\varphi(v_j)である。二つの線形写像が基底上で一致するのでψ=φ\psi=\varphiであり、双対基底はV∨V^\veeを生成する。したがって双対基底は基底であり、要素数から次元の等式を得る。▨

例 1.3 (双対基底の計算).V=R2V=\mathbb R^2とし、v1=(1,1)Tv_1=(1,1)^{\mathsf T}、v2=(1,−1)Tv_2=(1,-1)^{\mathsf T}とする。汎関数を行ベクトルで表すと、双対基底は

v1(x,y)=x+y2,v2(x,y)=x−y2v^1(x,y)=\frac{x+y}{2},\qquad v^2(x,y)=\frac{x-y}{2}

である。実際、v1(v1)=v2(v2)=1v^1(v_1)=v^2(v_2)=1かつv1(v2)=v2(v1)=0v^1(v_2)=v^2(v_1)=0である。基底ベクトルを列に並べた行列P=(111−1)P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}に対し、双対基底の係数を行に並べた行列はP−1=12PP^{-1}=\frac12Pである。

2 零化空間

定義 2.1. 部分空間W⊆VW\subseteq Vに対し、

W∘={φ∈V∨:φ(w)=0 が任意の w∈W について成り立つ}W^\circ =\{\varphi\in V^\vee: \varphi(w)=0\text{ が任意の }w\in W\text{ について成り立つ}\}

をWWの零化空間 (annihilator) という。

命題 2.2.VVが有限次元なら、

dim⁡W∘=dim⁡V−dim⁡W\dim W^\circ=\dim V-\dim W

である。またW=(W∘)∘W=(W^\circ)^\circが、VVをV∨∨V^{\vee\vee}と標準的に同一視した上で成り立つ。

証明.w1,…,wrw_1,\ldots,w_rをWWの基底とし、これをw1,…,wr,vr+1,…,vnw_1,\ldots,w_r,v_{r+1},\ldots,v_nというVVの基底へ延長する。双対基底をw1,…,wr,vr+1,…,vnw^1,\ldots,w^r,v^{r+1},\ldots,v^nと書く。汎関数φ=∑i=1raiwi+∑j=r+1nbjvj\varphi=\sum_{i=1}^ra_iw^i+\sum_{j=r+1}^nb_jv^jがWW上で零となるための必要十分条件はa1=⋯=ar=0a_1=\cdots=a_r=0である。したがってvr+1,…,vnv^{r+1},\ldots,v^nがW∘W^\circの基底であり、次元公式を得る。

w∈Ww\in Wなら全てのφ∈W∘\varphi\in W^\circについてφ(w)=0\varphi(w)=0なのでW⊆(W∘)∘W\subseteq(W^\circ)^\circである。次元公式をW∘⊆V∨W^\circ\subseteq V^\veeに適用すると

dim⁡(W∘)∘=dim⁡V∨−dim⁡W∘=n−(n−r)=r=dim⁡W\dim(W^\circ)^\circ=\dim V^\vee-\dim W^\circ=n-(n-r)=r=\dim W

となる。包含関係と次元の一致からW=(W∘)∘W=(W^\circ)^\circを得る。▨

3 双対写像と転置

定義 3.1. 線形写像T:V→WT:V\to Wに対し、

T∨:W∨→V∨,T∨(φ)=φ∘TT^\vee:W^\vee\to V^\vee,\qquad T^\vee(\varphi)=\varphi\circ T

をTTの双対写像 (dual map) という。

命題 3.2. 双対写像は線形であり、線形写像T:V→WT:V\to W、S:W→XS:W\to Xに対して

(S∘T)∨=T∨∘S∨,(id⁡V)∨=id⁡V∨(S\circ T)^\vee=T^\vee\circ S^\vee,\qquad (\operatorname{id}_V)^\vee=\operatorname{id}_{V^\vee}

を満たす。V,WV,Wが有限次元で、B,C\mathcal B,\mathcal Cとその双対基底を用いると

[T∨]B∨←C∨=([T]C←B)T[T^\vee]_{\mathcal B^\vee\leftarrow\mathcal C^\vee} =\bigl([T]_{\mathcal C\leftarrow\mathcal B}\bigr)^{\mathsf T}

である。

証明.a,b∈Ka,b\in Kとφ,ψ∈W∨\varphi,\psi\in W^\veeに対しT∨(aφ+bψ)=(aφ+bψ)∘T=aT∨(φ)+bT∨(ψ)T^\vee(a\varphi+b\psi)=(a\varphi+b\psi)\circ T =aT^\vee(\varphi)+bT^\vee(\psi)なので線形である。任意のη∈X∨\eta\in X^\veeについて

(S∘T)∨(η)=η∘S∘T=T∨(S∨(η))(S\circ T)^\vee(\eta)=\eta\circ S\circ T =T^\vee(S^\vee(\eta))

であるから合成の式を得る。恒等写像の式も定義から従う。

A=[T]C←B=(aij)A=[T]_{\mathcal C\leftarrow\mathcal B}=(a_{ij})とし、B=(vj)\mathcal B=(v_j)、C=(wi)\mathcal C=(w_i)とする。T(vj)=∑iaijwiT(v_j)=\sum_i a_{ij}w_iである。双対基底の元wiw^iについて

(T∨wi)(vj)=wi(T(vj))=aij.(T^\vee w^i)(v_j)=w^i(T(v_j))=a_{ij}.

したがってT∨wi=∑jaijvjT^\vee w^i=\sum_j a_{ij}v^jであり、T∨T^\veeの第ii列は(ai1,…,ain)T(a_{i1},\ldots,a_{in})^{\mathsf T}である。これはATA^{\mathsf T}の第ii列なので、転置行列の式を得る。▨

命題 3.3. 任意の線形写像T:V→WT:V\to Wについて

ker⁡T∨=(im⁡T)∘\ker T^\vee=(\operatorname{im}T)^\circ

が成り立つ。また

im⁡T∨=(ker⁡T)∘\operatorname{im}T^\vee=(\ker T)^\circ

も成り立つ。

証明.φ∈W∨\varphi\in W^\veeについてT∨φ=0T^\vee\varphi=0であることは、全てのv∈Vv\in Vについてφ(Tv)=0\varphi(Tv)=0であること、すなわちφ\varphiがim⁡T\operatorname{im}T上で零であることと同値である。これで第一の等式を得る。

T∨φT^\vee\varphiはker⁡T\ker T上で零なのでim⁡T∨⊆(ker⁡T)∘\operatorname{im}T^\vee\subseteq(\ker T)^\circである。逆にf∈(ker⁡T)∘f\in(\ker T)^\circとする。f~:im⁡T→K\widetilde f:\operatorname{im}T\to Kを

f~(Tv)=f(v)\widetilde f(Tv)=f(v)

で定める。Tv=Tv′Tv=Tv'ならv−v′∈ker⁡Tv-v'\in\ker Tであり、f(v)−f(v′)=f(v−v′)=0f(v)-f(v')=f(v-v')=0となるので、この定義は表示に依存せず定まる。f~\widetilde fの線形性はTTとffの線形性から従う。im⁡T\operatorname{im}Tの基底をWWの基底へ延長し、追加した基底ベクトル上では値を零と定めることにより、f~\widetilde fをあるφ∈W∨\varphi\in W^\veeへ延長することができる。このとき任意のv∈Vv\in Vについて(T∨φ)(v)=φ(Tv)=f~(Tv)=f(v)(T^\vee\varphi)(v)=\varphi(Tv)=\widetilde f(Tv)=f(v)である。したがってf=T∨φ∈im⁡T∨f=T^\vee\varphi\in\operatorname{im}T^\veeであり、第二の等式を得る。▨

4 二重双対

命題 4.1. 写像

ιV:V→V∨∨,ιV(v)(φ)=φ(v)\iota_V:V\to V^{\vee\vee},\qquad \iota_V(v)(\varphi)=\varphi(v)

は基底によらず定まる線形単射である。VVが有限次元ならιV\iota_Vは同型である。さらに任意の線形写像T:V→WT:V\to Wについて

T∨∨∘ιV=ιW∘TT^{\vee\vee}\circ\iota_V=\iota_W\circ T

が成り立つ。

証明. 固定したvvについてφ↦φ(v)\varphi\mapsto\varphi(v)はV∨V^\vee上の線形汎関数なので、ιV(v)∈V∨∨\iota_V(v)\in V^{\vee\vee}である。評価の線形性からιV\iota_Vは線形である。v≠0v\ne0なら、{v}\{v\}を基底へ延長し、対応する双対基底の元φ\varphiを取るとφ(v)=1\varphi(v)=1である。したがってιV(v)≠0\iota_V(v)\ne0であり、ιV\iota_Vは単射である。有限次元ではdim⁡V∨∨=dim⁡V\dim V^{\vee\vee}=\dim Vなので、単射は同型である。

v∈Vv\in Vとψ∈W∨\psi\in W^\veeに対して

(T∨∨(ιV(v)))(ψ)=ιV(v)(T∨ψ)=(T∨ψ)(v)=ψ(Tv)=ιW(Tv)(ψ).\bigl(T^{\vee\vee}(\iota_V(v))\bigr)(\psi) =\iota_V(v)(T^\vee\psi) =(T^\vee\psi)(v) =\psi(Tv) =\iota_W(Tv)(\psi).

両辺は全てのψ\psiで一致するため、標準写像の可換式を得る。▨

VVとV∨V^\veeは有限次元なら同じ次元をもつが、V→V∨V\to V^\veeの同型を作るには通常は基底または内積を選ぶ必要がある。これに対してιV\iota_Vは評価だけから定まり、線形写像との可換式を満たす。

例 4.2 (多項式上の線形汎関数).V=K[t]≤2V=K[t]_{\le2}とする。a∈Ka\in Kに対する評価ev⁡a(p)=p(a)\operatorname{ev}_a(p)=p(a)、係数を取り出す写像c1(c0+c1t+c2t2)=c1c_1(c_0+c_1t+c_2t^2)=c_1はいずれもV∨V^\veeの元である。基底(1,t,t2)(1,t,t^2)の双対基底を(e0,e1,e2)(e^0,e^1,e^2)とすると

ev⁡a=e0+ae1+a2e2,c1=e1\operatorname{ev}_a=e^0+ae^1+a^2e^2,\qquad c_1=e^1

となる。評価と係数抽出は異なる規則であるが、いずれも線形汎関数として同じ双対空間に属する。

5 演習

問題 5.1 (双対写像の向きの確認).T:V→WT:V\to Wに対して双対写像の向きがW∨→V∨W^\vee\to V^\veeになる理由を、合成が定義されるための定義域と終域を明示して説明せよ。

解答.

W∨W^\veeの元φ\varphiの定義域はWWであり、TTの終域もWWである。したがってφ∘T:V→K\varphi\circ T:V\to Kが定義され、これはV∨V^\veeの元になる。V∨V^\veeの元をTTの後に合成することは、その定義域がVVなので一般には定義されない。▨

参考文献

  1. Paul R. Halmos, Finite-Dimensional Vector Spaces, 2nd ed., Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1974, originally published 1958.双対基底、零化空間、二重双対を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.双対写像の反変性と自然な二重双対写像を参考にした。

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