§E3.27三角化

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以下、KKを可換体、VVを有限次元KK-線形空間、T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)とする。対角化することができない自己準同型でも、適切な基底に関して上三角行列で表される場合がある。三角化可能性を決める条件は、特性多項式が係数体上で一次因子へ分解することである。同じ条件は、自己準同型が保つ完全旗の存在としても表すことができる。

1 上三角表示

定義 1.1.T:V→VT:V\to Vが三角化可能 (triangularizable) であるとは、ある基底B=(v1,…,vn)\mathcal B=(v_1,\ldots,v_n)に関する表現行列が上三角行列になることをいう。行列A∈Mn(K)A\in M_n(K)については、あるP∈GL⁡n(K)P\in\operatorname{GL}_n(K)に対してP−1APP^{-1}APが上三角行列になることをいう。

命題 1.2. 基底B=(v1,…,vn)\mathcal B=(v_1,\ldots,v_n)に対し

Vj=span⁡(v1,…,vj)(0≤j≤n)V_j=\operatorname{span}(v_1,\ldots,v_j)\qquad(0\le j\le n)

と置く。B\mathcal Bに関するTTの表現行列が上三角であるための必要十分条件は、全てのjjについてT(Vj)⊆VjT(V_j)\subseteq V_jが成り立つことである。

証明. 表現行列の第jj列はT(vj)T(v_j)の座標列である。行列が上三角であることは

T(vj)∈span⁡(v1,…,vj)=VjT(v_j)\in\operatorname{span}(v_1,\ldots,v_j)=V_j

が各jjについて成り立つことと同値である。この条件が成り立てば、VjV_jの任意の元の像もVjV_jに属する。逆に、全てのVjV_jが不変ならT(vj)∈VjT(v_j)\in V_jなので、第jj列の第j+1j+1行以降は零である。▨

次元が一つずつ増える部分空間列

0=V0⊂V1⊂⋯⊂Vn=V,dim⁡Vj=j0=V_0\subset V_1\subset\cdots\subset V_n=V,\qquad \dim V_j=j

を完全旗という。したがって、命題 1.2は、三角化可能性を不変な完全旗の存在として言い換えている。

2 特性多項式による判定

定理 2.1.T:V→VT:V\to Vに対して、次の条件は同値である。

  1. TTは三角化可能である。
  2. χT(t)\chi_T(t)はK[t]K[t]で一次因子の積へ分解する。
  3. VVにTT-不変な完全旗が存在する。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。上三角表示の対角成分をλ1,…,λn\lambda_1,\ldots,\lambda_nとすると、tI−[T]BtI-[T]_{\mathcal B}も上三角である。上三角行列の行列式は対角成分の積なので

χT(t)=∏j=1n(t−λj)\chi_T(t)=\prod_{j=1}^n(t-\lambda_j)

となる。

(2)⇒\Rightarrow(3)を次元n=dim⁡Vn=\dim Vについて帰納的に示す。n=0n=0では0=V0=Vが完全旗である。n>0n>0とし、χT\chi_Tが一次因子へ分解すると仮定する。§E3.20 命題 3.1により、その根λ1∈K\lambda_1\in Kと固有ベクトルv1≠0v_1\ne0を取り、V1=Kv1V_1=Kv_1と置く。V1V_1はTT-不変なので、商空間V/V1V/V_1に誘導される自己準同型T‾\overline Tが定まる。v1v_1を基底の先頭にして延長するとTTの表現行列は

(λ1∗0A1)\begin{pmatrix} \lambda_1&*\\ 0&A_1 \end{pmatrix}

となり、A1A_1はT‾\overline Tの表現行列である。したがって

χT(t)=(t−λ1)χT‾(t).\chi_T(t)=(t-\lambda_1)\chi_{\overline T}(t).

χT‾\chi_{\overline T}も一次因子へ分解する。帰納法によりV/V1V/V_1にはT‾\overline T-不変な完全旗が存在する。その各部分空間の商写像による逆像を取り、先頭に0⊂V10\subset V_1を加えると、VVにTT-不変な完全旗を得る。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。不変な完全旗0=V0⊂V1⊂⋯⊂Vn=V0=V_0\subset V_1\subset\cdots\subset V_n=Vに対し、vj∈Vj∖Vj−1v_j\in V_j\setminus V_{j-1}を取る。dim⁡Vj=j\dim V_j=jなので(v1,…,vn)(v_1,\ldots,v_n)は基底であり、Vj=span⁡(v1,…,vj)V_j=\operatorname{span}(v_1,\ldots,v_j)である。命題 1.2により、この基底に関する表現行列は上三角である。▨

系 2.2.KKが代数閉体なら、有限次元KK-線形空間上の全ての自己準同型は三角化可能である。

証明. 代数閉性により特性多項式は一次因子の積へ分解する。定理 2.1を適用する。▨

系 2.3. 三角化した行列の対角成分は、重複度を含めた特性多項式の根である。

証明.定理 2.1の証明で得たχT(t)=∏j(t−λj)\chi_T(t)=\prod_j(t-\lambda_j)を用いる。▨

3 例

例 3.1 (対角化することができない行列の三角化).

A=(1−113)A= \begin{pmatrix} 1&-1\\ 1&3 \end{pmatrix}

の特性多項式は(t−2)2(t-2)^2である。

A−2I=(−1−111)A-2I= \begin{pmatrix} -1&-1\\ 1&1 \end{pmatrix}

の核はv1=(1,−1)Tv_1=(1,-1)^{\mathsf T}が張る一次元空間なので、AAは対角化することができない。v2=(1,0)Tv_2=(1,0)^{\mathsf T}とすると

Av1=2v1,Av2=−v1+2v2Av_1=2v_1,\qquad Av_2=-v_1+2v_2

である。したがって

P=(v1 v2)=(11−10)P=(v_1\ v_2)= \begin{pmatrix} 1&1\\ -1&0 \end{pmatrix}

に対して

P−1AP=(2−102)P^{-1}AP= \begin{pmatrix} 2&-1\\ 0&2 \end{pmatrix}

となる。固有ベクトルだけでは基底を作ることができないが、固有ベクトルから始まる不変な完全旗は存在する。

例 3.2 (係数体による三角化可能性の相違).

A=(0−10100003)A= \begin{pmatrix} 0&-1&0\\ 1&0&0\\ 0&0&3 \end{pmatrix}

の特性多項式は

(t2+1)(t−3)(t^2+1)(t-3)

である。R[t]\mathbb R[t]では一次因子の積へ分解しないので、AAはR\mathbb R上では三角化することができない。C\mathbb C上では固有値iiの固有ベクトル

v1=(i,1,0)Tv_1=(i,1,0)^{\mathsf T}

を用いることができる。P=(v1 e2 e3)P=(v_1\ e_2\ e_3)とすると

P−1AP=(ii00−i0003).P^{-1}AP= \begin{pmatrix} i&i&0\\ 0&-i&0\\ 0&0&3 \end{pmatrix}.

したがって、同じ行列がC\mathbb C上では三角化可能である。

4 演習

問題 4.1 (完全旗からの基底選択).0=V0⊂V1⊂V2⊂V3=V0=V_0\subset V_1\subset V_2\subset V_3=VをTT-不変な完全旗とする。vj∈Vj∖Vj−1v_j\in V_j\setminus V_{j-1}を選ぶと、T(vj)∈VjT(v_j)\in V_jである。したがって、この基底の第jj列では第j+1j+1行以降が零になり、表現行列が上三角になる。下三角ではなく上三角になる理由は、表現行列の列が基底ベクトルの像の座標を表すためである。

参考文献

  1. Serge Lang, Linear Algebra, 3rd ed., Springer, New York, 1987.三角化可能性と特性多項式の分解の同値を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.不変な完全旗と上三角表示の対応を参考にした。

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