1 上三角表示
定義 1.1.T:V→Vが三角化可能 (triangularizable) であるとは、ある基底B=(v1,…,vn)に関する表現行列が上三角行列になることをいう。行列A∈Mn(K)については、あるP∈GLn(K)に対してP−1APが上三角行列になることをいう。
命題 1.2. 基底B=(v1,…,vn)に対し
Vj=span(v1,…,vj)(0≤j≤n)と置く。Bに関するTの表現行列が上三角であるための必要十分条件は、全てのjについてT(Vj)⊆Vjが成り立つことである。
証明. 表現行列の第j列はT(vj)の座標列である。行列が上三角であることは
T(vj)∈span(v1,…,vj)=Vjが各jについて成り立つことと同値である。この条件が成り立てば、Vjの任意の元の像もVjに属する。逆に、全てのVjが不変ならT(vj)∈Vjなので、第j列の第j+1行以降は零である。▨
次元が一つずつ増える部分空間列
0=V0⊂V1⊂⋯⊂Vn=V,dimVj=j
を完全旗という。したがって、命題 1.2は、三角化可能性を不変な完全旗の存在として言い換えている。
2 特性多項式による判定
定理 2.1.T:V→Vに対して、次の条件は同値である。
- Tは三角化可能である。
- χT(t)はK[t]で一次因子の積へ分解する。
- VにT-不変な完全旗が存在する。
証明.(1)⇒(2)を示す。上三角表示の対角成分をλ1,…,λnとすると、tI−[T]Bも上三角である。上三角行列の行列式は対角成分の積なので
χT(t)=j=1∏n(t−λj)となる。
(2)⇒(3)を次元n=dimVについて帰納的に示す。n=0では0=Vが完全旗である。n>0とし、χTが一次因子へ分解すると仮定する。§E3.20 命題 3.1により、その根λ1∈Kと固有ベクトルv1=0を取り、V1=Kv1と置く。V1はT-不変なので、商空間V/V1に誘導される自己準同型Tが定まる。v1を基底の先頭にして延長するとTの表現行列は
(λ10∗A1)となり、A1はTの表現行列である。したがって
χT(t)=(t−λ1)χT(t).χTも一次因子へ分解する。帰納法によりV/V1にはT-不変な完全旗が存在する。その各部分空間の商写像による逆像を取り、先頭に0⊂V1を加えると、VにT-不変な完全旗を得る。
(3)⇒(1)を示す。不変な完全旗0=V0⊂V1⊂⋯⊂Vn=Vに対し、vj∈Vj∖Vj−1を取る。dimVj=jなので(v1,…,vn)は基底であり、Vj=span(v1,…,vj)である。命題 1.2により、この基底に関する表現行列は上三角である。▨
系 2.2.Kが代数閉体なら、有限次元K-線形空間上の全ての自己準同型は三角化可能である。
証明. 代数閉性により特性多項式は一次因子の積へ分解する。定理 2.1を適用する。▨
系 2.3. 三角化した行列の対角成分は、重複度を含めた特性多項式の根である。
証明.定理 2.1の証明で得たχT(t)=∏j(t−λj)を用いる。▨
3 例
例 3.1 (対角化することができない行列の三角化).
A=(11−13)の特性多項式は(t−2)2である。
A−2I=(−11−11)の核はv1=(1,−1)Tが張る一次元空間なので、Aは対角化することができない。v2=(1,0)Tとすると
Av1=2v1,Av2=−v1+2v2である。したがって
P=(v1 v2)=(1−110)に対して
P−1AP=(20−12)となる。固有ベクトルだけでは基底を作ることができないが、固有ベクトルから始まる不変な完全旗は存在する。
例 3.2 (係数体による三角化可能性の相違).
A=010−100003の特性多項式は
(t2+1)(t−3)である。R[t]では一次因子の積へ分解しないので、AはR上では三角化することができない。C上では固有値iの固有ベクトル
v1=(i,1,0)Tを用いることができる。P=(v1 e2 e3)とすると
P−1AP=i00i−i0003.したがって、同じ行列がC上では三角化可能である。
4 演習
問題 4.1 (完全旗からの基底選択).0=V0⊂V1⊂V2⊂V3=VをT-不変な完全旗とする。vj∈Vj∖Vj−1を選ぶと、T(vj)∈Vjである。したがって、この基底の第j列では第j+1行以降が零になり、表現行列が上三角になる。下三角ではなく上三角になる理由は、表現行列の列が基底ベクトルの像の座標を表すためである。