1 零化イデアルの生成元
定義 1.1.T:V→Vの零化イデアル
Ann(T)={p∈K[t]:p(T)=0}のただ一つのモニック生成元をTの最小多項式 (minimal polynomial) といい、mT(t)と書く。
命題 1.2. 最小多項式は存在して一意である。任意のp∈K[t]について
p(T)=0⟺mT∣pが成り立つ。
証明.§E3.21 定理 2.1によりχT=0はχT(T)=0を満たすので、Ann(T)は零でない。零でない零化多項式のうち次数が最小であるものを取り、最高次係数で割ってモニックにしたものをmとする。
p(T)=0とし、多項式の除法でp=qm+r、degr<degmと書く。作用素へ評価すると0=p(T)=q(T)m(T)+r(T)=r(T)となる。r=0なら、最高次係数で割ることによりmより低い次数のモニック零化多項式を得て最小性に反する。したがってr=0であり、m∣pである。逆にm∣pなら積の評価からp(T)=0となる。よってAnn(T)=(m)である。二つのモニック生成元は互いに割り合い、最高次係数も同じなので一致する。▨
系 1.3.
mT∣χTが成り立つ。
証明. Cayley–Hamilton の定理によりχT(T)=0である。命題 1.2の割り切り条件をp=χTに適用する。▨
2 根と係数拡大
定理 2.1.λ∈Kについて
mT(λ)=0⟺χT(λ)=0⟺λ は T の固有値が成り立つ。
証明.系 1.3によりmT(λ)=0ならχT(λ)=0である。§E3.20 命題 3.1により、χT(λ)=0とλが固有値であることは同値である。最後にλを固有値とし、0=vを対応する固有ベクトルとする。任意の多項式pについてp(T)v=p(λ)vである。p=mTとすると左辺は零なのでmT(λ)v=0となり、v=0からmT(λ)=0を得る。▨
命題 2.2.L/Kを体拡大とし、TL:VL→VLを係数拡大とする。mTの係数をLの元とみなすと
mTL=mTがL[t]の等式として成り立つ。したがって定理 2.1は任意の体拡大Lに属する根についても成り立つ。
証明.V={0}ならmT=1であり、係数拡大後も零空間なので主張は成立する。以下、V={0}とする。d=degmTとする。mT(TL)=0なので、mTLの次数はd以下である。一方、I,T,…,Td−1はK上で一次独立である。もし非自明な関係があれば、次数がd未満の非零零化多項式が得られ、mTの最小性に反する。
基底を選んで各TjをKn2の列ベクトルとみなす。K成分の列ベクトルがK上で一次独立なら、それらを列に並べた行列は階数dの小行列式をもつ。その小行列式はKの非零元であり、Lでも非零である。したがって同じ列はL上でも一次独立である。よってI,TL,…,TLd−1はL上で一次独立であり、TLには次数d未満の非零零化多項式がない。mTLとmTはともに次数dのモニック零化多項式なので一致する。
L上で定理 2.1の証明をTLに適用し、§E3.20 命題 3.3と上の等式を用いれば、Lに属する根についても同じ同値を得る。▨
3 巡回部分空間
命題 3.1.v∈Vとし、Cv=K[T]vとする。§E3.18 命題 3.3のモニック多項式cvは、制限作用素T∣Cvの最小多項式である。またcv∣mTである。
証明.p(T∣Cv)=0であるための必要十分条件は、Cvの生成元vに対してp(T)v=0であることである。実際、後者が成り立てば任意のq(T)v∈Cvについてp(T)q(T)v=q(T)p(T)v=0となる。§E3.18 命題 3.3によりp(T)v=0であるための必要十分条件はcv∣pなので、cvは制限の最小多項式である。mT(T)v=0であるから同じ割り切り条件によりcv∣mTとなる。▨
命題 3.2.v1,…,vnをVの基底とし、各cviを§E3.18 命題 3.3の多項式とする。このとき
mT=lcm(cv1,…,cvn)である。ただし最小公倍多項式はモニックに取る。
証明. 多項式pがTを零化するための必要十分条件はp(T)vi=0が全ての基底ベクトルについて成り立つことである。各iについて、この条件はcvi∣pと同値である。したがって零化多項式全体は、全てのcviの公倍多項式全体であり、そのモニック最小次数の元は最小公倍多項式である。零化イデアルのモニック生成元の一意性から表示式を得る。▨
4 対角化可能性
定理 4.1.TがK上で対角化可能であるための必要十分条件は、最小多項式が
mT(t)=i=1∏r(t−λi)という相異なるλi∈Kに対する一次因子の積になることである。
証明.V={0}ではmT=1は空積であり、空基底によってTは対角表示をもつ。以下、V={0}とする。Tが対角化可能とし、相異なる固有値をλ1,…,λrとする。固有ベクトル基底上では∏i(T−λiI)=0なので、mTは∏i(t−λi)を割る。一方、定理 2.1により各λiはmTの根である。したがってmT=∏i(t−λi)である。
逆に表示した分解を仮定する。
ei(t)=j=i∏λi−λjt−λjとおく。∑iei(t)は次数がr未満で、各λkで値1を取るため、相異なるr個の根をもつ多項式∑iei(t)−1は零多項式である。したがってI=∑iei(T)である。任意のv∈Vをv=∑ivi、vi=ei(T)vと分けると
(T−λiI)vi=∏j=i(λi−λj)mT(T)v=0.したがって各viはλiの固有空間に属する。Vは固有空間の和で生成されるので、各固有空間の基底を合わせると固有ベクトル基底を得る。よってTは対角化可能である。▨
例 4.2 (同じ特性多項式と異なる最小多項式).
A=(2012),B=2I2はいずれも特性多項式(t−2)2をもつ。A−2I=0かつ(A−2I)2=0なのでmA=(t−2)2であり、Aは対角化可能でない。一方B−2I=0なのでmB=t−2であり、Bは対角化可能である。特性多項式だけでは対角化可能性を判定することはできない。
例 4.3 (代数的重複度と幾何的重複度).
A=2000120000200012ではχA=(t−2)4、mA=(t−2)2である。A−2Iの核はe1,e3が張る二次元空間なので、固有値2の代数的重複度は4、幾何的重複度は2である。最小多項式の二乗因子と固有空間の次元不足は、いずれも対角化が不可能であることを示す。
5 演習
問題 5.1 (対角化判定の証明確認). 逆向きの証明でvi=ei(T)vがλiの固有空間に属することを示す式を再構成し、分母が零でない理由を述べよ。
解答.
定義から
(t−λi)ei(t)=∏j=i(λi−λj)∏j(t−λj)=∏j=i(λi−λj)mT(t).Tを評価しvに作用させると、mT(T)=0なので(T−λiI)vi=0となる。λiは相異なるため各λi−λjは非零であり、体Kでは逆元をもつ。▨