§E3.19不変部分空間

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自己準同型T:V→VT:V\to Vによって保たれる部分空間では、TTをその部分空間へ制限することができる。また不変部分空間を零と同一視した商空間にも、TTから自己準同型が誘導される。多項式作用素の核と像は常に不変であり、直和分解または旗が不変であることは、表現行列がブロック対角形または上三角形になることに対応する。

1 制限作用素と商作用素

定義 1.1.T:V→VT:V\to Vを自己準同型とする。部分空間W⊆VW\subseteq Vが

T(W)⊆WT(W)\subseteq W

を満たすとき、WWを TT-不変部分空間 (TT-invariant subspace) という。

定義 1.2.WWがTT-不変であるとき、

T∣W:W→W,w↦T(w)T|_W:W\to W,\qquad w\mapsto T(w)

を制限作用素 (restriction operator) という。また

T‾:V/W→V/W,T‾(v+W)=T(v)+W\overline T:V/W\to V/W,\qquad \overline T(v+W)=T(v)+W

を商作用素 (quotient operator) という。

命題 1.3.WWがTT-不変なら、上の商作用素T‾\overline Tは代表元の選択に依存せず定まる線形写像である。標準射影π:V→V/W\pi:V\to V/Wに対して

π∘T=T‾∘π\pi\circ T=\overline T\circ\pi

が成り立つ。

証明.v+W=v′+Wv+W=v'+Wならv−v′∈Wv-v'\in Wである。不変性からT(v−v′)∈WT(v-v')\in WなのでT(v)+W=T(v′)+WT(v)+W=T(v')+Wとなる。したがってT‾\overline Tは代表元に依存せず定まる。線形性は商空間の演算とTTの線形性から従う。任意のv∈Vv\in Vについて(π∘T)(v)=T(v)+W=(T‾∘π)(v)(\pi\circ T)(v)=T(v)+W=(\overline T\circ\pi)(v)なので可換式も成り立つ。▨

例 1.4 (多項式空間上の微分).V=K[t]≤4V=K[t]_{\le4}、T=DT=Dを微分作用素とする。W=K[t]≤2W=K[t]_{\le2}はD(W)⊆WD(W)\subseteq Wを満たすのでDD-不変である。制限D∣WD|_Wは次数22以下の多項式上の微分である。商V/WV/Wではt3+W,t4+Wt^3+W,t^4+Wが基底となり、

D‾(t3+W)=3t2+W=W,D‾(t4+W)=4t3+W\overline D(t^3+W)=3t^2+W=W,\qquad \overline D(t^4+W)=4t^3+W

である。係数3,43,4の値はKKの標数によって変わるが、商作用素の定義は全ての標数で成立する。

2 多項式作用素の核と像

命題 2.1. 任意のp∈K[t]p\in K[t]に対し、

ker⁡p(T),im⁡p(T)\ker p(T),\qquad \operatorname{im}p(T)

はTT-不変部分空間である。

証明.§E3.18 定理 1.2によりTp(T)=p(T)TTp(T)=p(T)Tである。v∈ker⁡p(T)v\in\ker p(T)なら

p(T)(Tv)=T(p(T)v)=0p(T)(Tv)=T(p(T)v)=0

なのでTv∈ker⁡p(T)Tv\in\ker p(T)である。y=p(T)v∈im⁡p(T)y=p(T)v\in\operatorname{im}p(T)なら

Ty=Tp(T)v=p(T)Tv∈im⁡p(T)Ty=Tp(T)v=p(T)Tv\in\operatorname{im}p(T)

である。したがって核と像はともにTT-不変である。▨

例 2.2 (多項式の核の計算).

T=(21002000−1),p(t)=(t−2)(t+1)T=\begin{pmatrix}2&1&0\\0&2&0\\0&0&-1\end{pmatrix},\qquad p(t)=(t-2)(t+1)

とする。直接計算すると

p(T)=(030000000).p(T)=\begin{pmatrix}0&3&0\\0&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}.

KKの標数が33でなければker⁡p(T)=span⁡{e1,e3}\ker p(T)=\operatorname{span}\{e_1,e_3\}であり、Te1=2e1Te_1=2e_1、Te3=−e3Te_3=-e_3なので不変性を直接確認することができる。標数が33ならp(T)=0p(T)=0となり、核はK3K^3全体である。この場合も命題の不変性は成立する。

3 直和、旗、ブロック形

定理 3.1.V=W1⊕⋯⊕WrV=W_1\oplus\cdots\oplus W_rとする。各WiW_iがTT-不変であるための必要十分条件は、各WiW_iの基底を順に連結した基底に関するTTの表現行列が

diag⁡([T∣W1],…,[T∣Wr])\operatorname{diag}\bigl([T|_{W_1}],\ldots,[T|_{W_r}]\bigr)

というブロック対角形になることである。

証明.§E3.8 定理 2.1をV=WV=Wかつ各成分が同じ直和分解である場合に適用すると、主張の両方向を得る。各対角ブロックは定義から制限作用素T∣WiT|_{W_i}の表現行列である。▨

命題 3.2.WWがTT-不変なら、WWの基底をVVの基底へ延長して得る表現行列は

(AB0C)\begin{pmatrix}A&B\\0&C\end{pmatrix}

となる。右下ブロックCCは、補完基底の剰余類が定めるV/WV/Wの基底に関する商作用素T‾\overline Tの表現行列である。

証明. ブロック上三角形は§E3.8 命題 3.2から従う。補完基底をv1,…,vqv_1,\ldots,v_qとすると、その剰余類はV/WV/Wの基底である。T(vj)T(v_j)のWW成分は商で零になり、補完基底成分だけがT‾(vj+W)\overline T(v_j+W)の座標として残る。この係数を列に並べたものが右下ブロックCCである。▨

完全旗がTT-不変であることと上三角表示が存在することは§E3.8 定理 3.3で証明した。ブロック対角形には各直和成分の不変性が必要であり、一つの不変部分空間だけでは一般にブロック上三角形までしか得られない。

例 3.3 (係数体によって不変直線の有無が変わる).0<θ<π0<\theta<\piとし、実平面上の回転

Rθ=(cos⁡θ−sin⁡θsin⁡θcos⁡θ)R_\theta= \begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}

を考える。sin⁡θ≠0\sin\theta\ne0なので実固有値はなく、実一次元不変部分空間も存在しない。実際、一次元部分空間Rv\mathbb Rvが不変ならRθv=λvR_\theta v=\lambda vとなり、vvは実固有ベクトルになる。係数をC\mathbb Cへ拡大すると固有値eiθ,e−iθe^{i\theta},e^{-i\theta}と対応する不変直線が現れる。不変部分空間の存在は係数体に依存する。

4 双対の零化空間

命題 4.1.W⊆VW\subseteq VがTT-不変なら、零化空間W∘⊆V∨W^\circ\subseteq V^\veeは双対写像T∨T^\veeに関して不変である。

証明.φ∈W∘\varphi\in W^\circとw∈Ww\in Wを取る。不変性からT(w)∈WT(w)\in Wなので

(T∨φ)(w)=φ(T(w))=0.(T^\vee\varphi)(w)=\varphi(T(w))=0.

全てのw∈Ww\in Wで零になるためT∨φ∈W∘T^\vee\varphi\in W^\circである。▨

5 演習

問題 5.1 (商作用素の証明確認).T‾(v+W)=T(v)+W\overline T(v+W)=T(v)+Wが代表元に依存せず定まることと、WWがTT-不変であることが同値であることを示せ。

解答.

不変性から代表元に依存しないことが従うことは命題 1.3の証明で示した。逆に商上の式が代表元に依存せず定まるとする。w∈Ww\in Wについてw+W=W=0V/Ww+W=W=0_{V/W}なのでT(w)+W=T‾(w+W)=T‾(0)=0T(w)+W=\overline T(w+W)=\overline T(0)=0である。したがってT(w)∈WT(w)\in Wであり、WWは不変である。▨

参考文献

  1. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.不変部分空間、制限作用素、商作用素、巡回分解を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.不変直和とブロック行列、双対の零化空間を参考にした。

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