1 多項式行列の行列式
補題 1.1.M(t)をK[t]成分のn×n行列、PをK成分の可逆行列とする。このとき
det(P−1M(t)P)=detM(t)がK[t]の等式として成り立つ。
証明. Leibniz 公式は任意の可換環上で各列について線形かつ交代的であり、単位行列で値1を取る。K[t]は可換環なので、行列A,Bの列を用いてdet(AB)を各列について展開することができる。Bの各列から一つずつAの列を選ぶ展開では、同じAの列を二回選ぶ項は交代性により零になる。相異なる全列を選ぶ項は置換で添字付けられ、その符号付き係数の和がdetBになる。したがって
det(AB)=(detA)(detB)がK[t]成分の行列について成り立つ。
この積の式を二回用いると
det(P−1MP)=det(P−1)det(M)det(P).P−1P=Iに積の式を用いるとdet(P−1)det(P)=1なので、右辺はdetMに等しい。▨
2 定義と基底独立性
定義 2.1.Vをn次元、T:V→Vを自己準同型とする。順序付き基底に関する表現行列をAとし、
χT(t)=det(tIn−A)∈K[t]と定める。χTをTの特性多項式 (characteristic polynomial) という。
定理 2.2.定義 2.1のχTは、表現行列を作るために選んだ順序付き基底に依存しない。相似な行列は同じ特性多項式をもつ。
証明. 基底変更前後の表現行列をA,A′とすると、§E3.4 定理 2.3によりA′=P−1APとなる可逆行列Pがある。tIはPと可換するので
tI−A′=P−1(tI−A)P.補題 1.1により
det(tI−A′)=det(tI−A)である。したがって特性多項式は基底に依存しない。同じ計算は任意の相似行列に適用される。▨
定義 2.3.A=(aij)∈Mn(K)の対角成分の和
trA=i=1∑naiiをAのトレース (trace) という。有限次元自己準同型Tと順序付き基底Bに対し、trBT=tr[T]Bと書く。この値がBに依存しないことが分かった場合、その共通値をtrTと書く。
命題 2.4.dimV=n≥1とする。特性多項式はn次モニックであり、
χT(t)=tn−(trT)tn−1+⋯+(−1)ndetTと書くことができる。ここでtrTは定義 2.3のtrBTに等しく、基底Bに依存しない。
証明.A=(aij)とする。Leibniz 公式
det(tI−A)=σ∈Sn∑sgn(σ)j=1∏n(tδσ(j),j−aσ(j),j)を用いる。tnの項は恒等置換で全ての対角成分からtを選ぶ場合だけに現れ、係数は1である。tn−1の項も恒等置換からだけ現れる。実際、恒等置換でない置換は少なくとも二つの添字を動かすため、固定点は高々n−2個である。その置換に対応する積でtを選ぶことができるのは固定点に対応する因子だけなので、tの次数は高々n−2である。恒等置換の積∏j(t−ajj)におけるtn−1の係数は−∑jajjである。
定数項はdet(−A)=(−1)ndetA=(−1)ndetTである。定理 2.2によりtn−1の係数は基底に依存しないので、∑jajjも基底に依存しない。この値をtrTと書く。▨
3 固有値、相似変換、係数拡大
命題 3.1.λ∈KがTの固有値であるための必要十分条件は
χT(λ)=0である。
証明.λが固有値であることは、ある0=v∈Vが(T−λI)v=0を満たすことと同値である。これはT−λIが単射でないことと同値であり、有限次元では可逆でないことと同値である。§E3.15 命題 2.2により、自己準同型が可逆でないことと行列式が零であることは同値なので
det(T−λI)=0.det(T−λI)=(−1)ndet(λI−T)=(−1)nχT(λ)であり、(−1)nは零でないため、これはχT(λ)=0と同値である。▨
命題 3.2.Kを可換体、n≥1とする。A,B∈Mn(K)が相似なら、AとBは同じ特性多項式、トレース、行列式をもつ。また、V,Wをn次元K-線形空間、T∈EndK(V)、S∈EndK(W)とする。線形同型P:V→Wが存在してS=PTP−1となるなら、TとSは同じ特性多項式、トレース、行列式をもつ。
証明. 特性多項式の一致は定理 2.2で示した。命題 2.4により、トレースは特性多項式のtn−1の係数の符号を変えた値であり、行列式は定数項に(−1)nを掛けた値である。したがって特性多項式が一致すれば両者も一致する。▨
命題 3.3.L/Kを体拡大とし、TL:VL→VLをTの係数拡大とする。このとき
χTL(t)=χT(t)が、右辺の係数をK⊆LによってLの元とみなしたL[t]の等式として成り立つ。
証明.Vの基底に関するTの表現行列をAとする。§E3.17 定理 2.1の係数拡大基底に関するTLの表現行列も、各成分をLの元とみなした同じ行列Aである。したがって両方の特性多項式は同じ Leibniz 式det(tI−A)によって与えられる。▨
例 3.4 (三次行列の特性多項式).
A=20012000−1は上三角なので
χA(t)=(t−2)2(t+1)=t3−3t2+4.対角成分の和は3であり、t2の係数は−3である。行列式は−4であり、三次の場合の定数項(−1)3detAは4である。これらは命題 2.4と一致する。係数体の標数によって整数係数の像は変わるが、多項式の等式自体は各係数体で成立する。
4 演習
問題 4.1 (基底独立性の証明確認). 基底変更後の行列A′=P−1APに対してtI−A′=P−1(tI−A)Pとなる一手を示し、tを行列と取り違えていないことを説明せよ。
解答.
Pの成分はKに属し、tIはK[t]上のスカラー行列なのでP−1(tI)P=tP−1P=tIである。したがってP−1(tI−A)P=tI−P−1AP=tI−A′となる。tは可換環K[t]の中心にある不定元であり、自己準同型Tを代入しているのではない。▨