§E3.20特性多項式

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有限次元線形空間上の自己準同型TTに順序付き基底を選ぶと、表現行列AAが得られる。det⁡(tI−A)\det(tI-A)は一見すると基底に依存する式であるが、基底変更による相似変換で値が変わらないため、TT自体の多項式として定まる。そのtn−1t^{n-1}の係数はトレースの負であり、定数項は行列式の(−1)n(-1)^n倍である。

1 多項式行列の行列式

補題 1.1.M(t)M(t)をK[t]K[t]成分のn×nn\times n行列、PPをKK成分の可逆行列とする。このとき

det⁡(P−1M(t)P)=det⁡M(t)\det\bigl(P^{-1}M(t)P\bigr)=\det M(t)

がK[t]K[t]の等式として成り立つ。

証明. Leibniz 公式は任意の可換環上で各列について線形かつ交代的であり、単位行列で値11を取る。K[t]K[t]は可換環なので、行列A,BA,Bの列を用いてdet⁡(AB)\det(AB)を各列について展開することができる。BBの各列から一つずつAAの列を選ぶ展開では、同じAAの列を二回選ぶ項は交代性により零になる。相異なる全列を選ぶ項は置換で添字付けられ、その符号付き係数の和がdet⁡B\det Bになる。したがって

det⁡(AB)=(det⁡A)(det⁡B)\det(AB)=(\det A)(\det B)

がK[t]K[t]成分の行列について成り立つ。

この積の式を二回用いると

det⁡(P−1MP)=det⁡(P−1)det⁡(M)det⁡(P).\det(P^{-1}MP)=\det(P^{-1})\det(M)\det(P).

P−1P=IP^{-1}P=Iに積の式を用いるとdet⁡(P−1)det⁡(P)=1\det(P^{-1})\det(P)=1なので、右辺はdet⁡M\det Mに等しい。▨

2 定義と基底独立性

定義 2.1.VVをnn次元、T:V→VT:V\to Vを自己準同型とする。順序付き基底に関する表現行列をAAとし、

χT(t)=det⁡(tIn−A)∈K[t]\chi_T(t)=\det(tI_n-A)\in K[t]

と定める。χT\chi_TをTTの特性多項式 (characteristic polynomial) という。

定理 2.2.定義 2.1のχT\chi_Tは、表現行列を作るために選んだ順序付き基底に依存しない。相似な行列は同じ特性多項式をもつ。

証明. 基底変更前後の表現行列をA,A′A,A'とすると、§E3.4 定理 2.3によりA′=P−1APA'=P^{-1}APとなる可逆行列PPがある。tItIはPPと可換するので

tI−A′=P−1(tI−A)P.tI-A'=P^{-1}(tI-A)P.

補題 1.1により

det⁡(tI−A′)=det⁡(tI−A)\det(tI-A')=\det(tI-A)

である。したがって特性多項式は基底に依存しない。同じ計算は任意の相似行列に適用される。▨

定義 2.3.A=(aij)∈Mn(K)A=(a_{ij})\in M_n(K)の対角成分の和

tr⁡A=∑i=1naii\operatorname{tr}A=\sum_{i=1}^n a_{ii}

をAAのトレース (trace) という。有限次元自己準同型TTと順序付き基底B\mathcal Bに対し、tr⁡BT=tr⁡[T]B\operatorname{tr}_{\mathcal B}T=\operatorname{tr}[T]_{\mathcal B}と書く。この値がB\mathcal Bに依存しないことが分かった場合、その共通値をtr⁡T\operatorname{tr}Tと書く。

命題 2.4.dim⁡V=n≥1\dim V=n\geq1とする。特性多項式はnn次モニックであり、

χT(t)=tn−(tr⁡T)tn−1+⋯+(−1)ndet⁡T\chi_T(t)=t^n-(\operatorname{tr}T)t^{n-1}+\cdots+(-1)^n\det T

と書くことができる。ここでtr⁡T\operatorname{tr}Tは定義 2.3のtr⁡BT\operatorname{tr}_{\mathcal B}Tに等しく、基底B\mathcal Bに依存しない。

証明.A=(aij)A=(a_{ij})とする。Leibniz 公式

det⁡(tI−A)=∑σ∈Snsgn⁡(σ)∏j=1n(tδσ(j),j−aσ(j),j)\det(tI-A) =\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma) \prod_{j=1}^n(t\delta_{\sigma(j),j}-a_{\sigma(j),j})

を用いる。tnt^nの項は恒等置換で全ての対角成分からttを選ぶ場合だけに現れ、係数は11である。tn−1t^{n-1}の項も恒等置換からだけ現れる。実際、恒等置換でない置換は少なくとも二つの添字を動かすため、固定点は高々n−2n-2個である。その置換に対応する積でttを選ぶことができるのは固定点に対応する因子だけなので、ttの次数は高々n−2n-2である。恒等置換の積∏j(t−ajj)\prod_j(t-a_{jj})におけるtn−1t^{n-1}の係数は−∑jajj-\sum_ja_{jj}である。

定数項はdet⁡(−A)=(−1)ndet⁡A=(−1)ndet⁡T\det(-A)=(-1)^n\det A=(-1)^n\det Tである。定理 2.2によりtn−1t^{n-1}の係数は基底に依存しないので、∑jajj\sum_ja_{jj}も基底に依存しない。この値をtr⁡T\operatorname{tr}Tと書く。▨

3 固有値、相似変換、係数拡大

命題 3.1.λ∈K\lambda\in KがTTの固有値であるための必要十分条件は

χT(λ)=0\chi_T(\lambda)=0

である。

証明.λ\lambdaが固有値であることは、ある0≠v∈V0\ne v\in Vが(T−λI)v=0(T-\lambda I)v=0を満たすことと同値である。これはT−λIT-\lambda Iが単射でないことと同値であり、有限次元では可逆でないことと同値である。§E3.15 命題 2.2により、自己準同型が可逆でないことと行列式が零であることは同値なので

det⁡(T−λI)=0.\det(T-\lambda I)=0.

det⁡(T−λI)=(−1)ndet⁡(λI−T)=(−1)nχT(λ)\det(T-\lambda I)=(-1)^n\det(\lambda I-T)=(-1)^n\chi_T(\lambda)であり、(−1)n(-1)^nは零でないため、これはχT(λ)=0\chi_T(\lambda)=0と同値である。▨

命題 3.2.KKを可換体、n≥1n\ge1とする。A,B∈Mn(K)A,B\in M_n(K)が相似なら、AAとBBは同じ特性多項式、トレース、行列式をもつ。また、V,WV,Wをnn次元KK-線形空間、T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)、S∈End⁡K(W)S\in\operatorname{End}_K(W)とする。線形同型P:V→WP:V\to Wが存在してS=PTP−1S=PTP^{-1}となるなら、TTとSSは同じ特性多項式、トレース、行列式をもつ。

証明. 特性多項式の一致は定理 2.2で示した。命題 2.4により、トレースは特性多項式のtn−1t^{n-1}の係数の符号を変えた値であり、行列式は定数項に(−1)n(-1)^nを掛けた値である。したがって特性多項式が一致すれば両者も一致する。▨

命題 3.3.L/KL/Kを体拡大とし、TL:VL→VLT_L:V_L\to V_LをTTの係数拡大とする。このとき

χTL(t)=χT(t)\chi_{T_L}(t)=\chi_T(t)

が、右辺の係数をK⊆LK\subseteq LによってLLの元とみなしたL[t]L[t]の等式として成り立つ。

証明.VVの基底に関するTTの表現行列をAAとする。§E3.17 定理 2.1の係数拡大基底に関するTLT_Lの表現行列も、各成分をLLの元とみなした同じ行列AAである。したがって両方の特性多項式は同じ Leibniz 式det⁡(tI−A)\det(tI-A)によって与えられる。▨

例 3.4 (三次行列の特性多項式).

A=(21002000−1)A=\begin{pmatrix} 2&1&0\\ 0&2&0\\ 0&0&-1 \end{pmatrix}

は上三角なので

χA(t)=(t−2)2(t+1)=t3−3t2+4.\chi_A(t)=(t-2)^2(t+1)=t^3-3t^2+4.

対角成分の和は33であり、t2t^2の係数は−3-3である。行列式は−4-4であり、三次の場合の定数項(−1)3det⁡A(-1)^3\det Aは44である。これらは命題 2.4と一致する。係数体の標数によって整数係数の像は変わるが、多項式の等式自体は各係数体で成立する。

4 演習

問題 4.1 (基底独立性の証明確認). 基底変更後の行列A′=P−1APA'=P^{-1}APに対してtI−A′=P−1(tI−A)PtI-A'=P^{-1}(tI-A)Pとなる一手を示し、ttを行列と取り違えていないことを説明せよ。

解答.

PPの成分はKKに属し、tItIはK[t]K[t]上のスカラー行列なのでP−1(tI)P=tP−1P=tIP^{-1}(tI)P=tP^{-1}P=tIである。したがってP−1(tI−A)P=tI−P−1AP=tI−A′P^{-1}(tI-A)P=tI-P^{-1}AP=tI-A'となる。ttは可換環K[t]K[t]の中心にある不定元であり、自己準同型TTを代入しているのではない。▨

参考文献

  1. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.特性多項式、相似不変性、トレースと行列式を参考にした。
  2. Serge Lang, Linear Algebra, 3rd ed., Springer, New York, 1987.係数拡大に対する特性多項式の不変性を参考にした。

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