1 証明の見取り図
証明では、根基の冪零性を先に仮定しない。必要なのは根基冪の降鎖がある段で停止することだけである。
2 左 Artin 環の有限長性
定理 2.1. 左 Artin 環Aの左正則加群AAは有限長である。したがってAは左 Noether 環である。さらに、Jacobson 根基J=J(A)は冪零である。
証明.Aは左 Artin 環であり、各Jqは左イデアルである。したがって降鎖
J⊇J2⊇J3⊇⋯は停止する。あるn≥1に対して
Jn=Jn+1となる。
左 Artin 環上の加群に対する§E6.23 定理 7.1を左正則加群へ適用すると、各q≥0について
socq(A)=AnnA(Jq)となる。ここで
AnnA(Jq):={a∈A∣Jqa=0}である。Jn=Jn+1から零化部分加群も一致するため、
socn(A)=socn+1(A)を得る。
左正則加群AAは Artin 加群である。§E6.23 定理 5.5によれば、Artin 加群の socle 列は加群全体へ達するまで真に増大する。したがって上の等号は
socn(A)=Aを強制する。
socn(A)=AnnA(Jn)=Aであるから1A∈AnnA(Jn)である。したがって
Jn=Jn1A=0となる。これは有限長性、左 Noether 性および中山の補題を用いない、Jacobson 根基の冪零性の第一の証明である。
有限長性の証明には、既に得たJn=0を用いず、socle 列がAに達したことだけを用いる。有限なフィルトレーション
0=soc0(A)⊆soc1(A)⊆⋯⊆socn(A)=Aを得る。
各1≤q≤nに対して、socle 層
Lq:=socq(A)/socq−1(A)は§E6.23 命題 5.2により半単純である。一方、A/socq−1(A)は Artin 加群であり、その部分加群Lqも§E6.20 命題 3.2により Artin 加群である。したがって§E6.22 命題 5.2によりLqは有限長である。
soc0(A)=0は有限長である。各qに対する短完全列
0⟶socq−1(A)⟶socq(A)⟶Lq⟶0へ§E6.20 定理 6.1をq=1からq=nまで順に適用すると、socn(A)=Aは有限長になる。§E6.20 定理 4.3によりAAは Noether 加群でもある。左正則加群の Noether 性はAが左 Noether 環であることを意味する。▨
この証明では、Jn=0を有限長性の前提として用いていない。根基の冪零性は socle 列が全体に達した時点で直接従い、有限長性と左 Noether 性を得た後には中山の補題による別の経路で再証明することができる。
3 中山の補題による独立な第二証明
系 3.1. 左 Artin 環Aの Jacobson 根基J=J(A)に対して、あるn≥1が存在して
Jn=0となる。
証明. 前定理の証明は、socle 列と零化部分加群の一致からJn=0を直接導いた。ここでは、その直接の導出を用いず、前定理の有限長性と左 Noether 性の結論だけを用いて独立に再証明する。
前定理の証明と同じく、左イデアルの降鎖条件から
Jn=Jn+1=JJnとなるn≥1を取る。定理 2.1によりAは左 Noether 環である。左 Noether 環の特徴づけ§E6.21 定理 1.2により、左イデアルJnは有限生成左A加群である。
J⊆J(A)とJ(Jn)=Jnに中山の補題§E6.12 定理 2.1の左加群版を適用すると、
Jn=0となる。▨
例 3.2 (切断多項式環). 体kと整数m≥1に対して
A:=k[x]/(xm)はk上有限次元である。左イデアルの降鎖はk部分空間の降鎖でもあるため停止し、Aは左 Artin 環である。a0=0を定数項にもつ元a0+h、h∈(x)は有限幾何級数によって逆元をもち、(x)の元は冪零なので単元ではない。したがって(x)は非単元全体からなる唯一の極大イデアルであり、Jacobson 根基はJ=(x)である。また、
Jm=0となる。m>1ではJ=0であるため、冪零性は根基自体が零であることを意味しない。
4 有限生成加群
環自身の有限長性は、有限階数自由加群とその商へ受け継がれる。
系 4.1.Aを左 Artin 環、Mを有限生成左A加群とする。このときMは有限長である。特にMは Noether 加群かつ Artin 加群である。
証明. 有限生成性の定義§E6.11 定義 1.1により、ある整数r≥0と全射
Ar↠Mが存在する。定理 2.1によりAAは有限長である。二項の直和を表す短完全列へ§E6.20 定理 6.1を帰納的に適用すると、有限直和Arも有限長である。MはArの商であるから、同じ定理により有限長である。最後の主張は§E6.20 定理 4.3から従う。▨
有限生成という仮定は必要である。体kは左 Artin 環であるが、可算無限直和⨁i≥1kは停止しない昇鎖と降鎖をもち、有限長ではない。この例は§E6.22 例 3.3で具体的に調べた。
5 Noether 条件との非対称
6 右版と反対環
右加群に対する帰結は、反対環上の左加群に対する定理から得られる。
系 6.1.Aを右 Artin 環とし、Mを有限生成右A加群とする。このとき、右正則加群AAは有限長であり、Aは右 Noether 環である。また、Jacobson 根基J(A)は冪零であり、Mは有限長右A加群である。
証明.§E6.20 命題 7.1により、Aが右 Artin 環であることはAopが左 Artin 環であることと同値である。定理 2.1をAopへ適用すると、左正則加群AopAopは有限長であり、Aopは左 Noether 環である。左Aop加群を右A加群へ読み替えると、その正則加群はAAとなり、左イデアルはAの右イデアルとなる。したがってAAは有限長であり、Aは右 Noether 環である。
極大右イデアルによる特徴づけ§E6.7 定理 5.1から、集合として
J(Aop)=J(A)となる。反対環では積の順序が反転するが、両側イデアルJ(A)のq乗を生成するq個の元の積全体は、因子の順序を反転しても同じ集合を生成する。したがってJ(Aop)q=0とJ(A)q=0は同値である。定理 2.1の冪零性をAopへ適用すると、J(A)は冪零である。
Mは有限生成左Aop加群でもある。系 4.1をAopとMへ適用すると、Mは有限長左Aop加群であり、したがって有限長右A加群である。▨
7 演習
問題 7.1 (Artin 環の確認). 次の各問に答えよ。
- 左 Artin 環AとJ=J(A)に対してJn=Jn+1となるnを取り、socn(A)=socn+1(A)を導け。socle 列の真増大性からsocn(A)=Aを示し、socn(A)=AnnA(Jn)と単位元からJn=0を直接導け。
- 各 socle 層が Artin 加群である理由と、半単純 Artin 加群の有限長性を適用する理由を説明し、有限な socle フィルトレーションからAAの有限長性を再構成せよ。
- (1)の直接証明を用いず、Jn=Jn+1、有限長性から得られるJnの有限生成性および中山の補題からJn=0を再び導け。二つの証明が用いる根拠を比較せよ。
- 左 Artin 環上の有限生成左加群Mが有限長であることを、有限階数自由加群からの全射によって証明せよ。有限生成仮定を外すことができない例も挙げよ。
- Noether 環Zが Artin 環でないことを、イデアル(2q)の降鎖によって示せ。J(Z)=0であることと矛盾しない理由も説明せよ。
- 右 Artin 環について、有限長性、右 Noether 性、Jacobson 根基の冪零性および有限生成右加群の有限長性を反対環から導け。
- 本記事の定理が Artin–Wedderburn 分類や直既約分解の一意性を用いていないことを説明し、それらを本記事の結論から区別せよ。
解答 (演習の解答).
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Jqは左イデアルであるため、Artin 性からあるn≥1でJn=Jn+1となる。§E6.23 定理 7.1により
socn(A)=AnnA(Jn)=AnnA(Jn+1)=socn+1(A)
である。AAは Artin 加群であり、その socle 列は全体へ達するまで真に増大する。したがって隣り合う二項の等号からsocn(A)=Aが従う。さらにAnnA(Jn)=Aであるから1A∈AnnA(Jn)であり、Jn=Jn1A=0となる。この第一の証明は有限長性、有限生成性および中山の補題を用いない。
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A/socq−1(A)は Artin 加群であり、Lq=socq(A)/socq−1(A)はその部分加群であるため Artin 加群である。socle 層は半単純でもあるから§E6.22 命題 5.2により有限長である。soc0(A)=0から始め、短完全列
0⟶socq−1(A)⟶socq(A)⟶Lq⟶0
に沿って有限長性を順に持ち上げると、socn(A)=Aは有限長になる。
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(1)の直接証明を用いずに、Artin 性からJn=Jn+1となるnを取る。有限長性からAは左 Noether 環であり、左イデアルJnは有限生成である。等式
J(Jn)=Jn+1=Jn
とJ⊆J(A)に中山の補題を適用するとJn=0となる。第一の証明は socle 列と零化部分加群の一致を用いる一方、第二の証明は有限長性、有限生成性および中山の補題を用いる。
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有限生成性から全射Ar↠Mを取る。Aは有限長であり、有限直和Arも有限長である。その商Mも有限長である。有限生成仮定を外すと、Artin 環である体k上の加群⨁i≥1kが反例になる。
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各q≥1について(2q+1)は(2q)の真の部分イデアルであるため、表示した降鎖は停止せず、Zは Artin 環ではない。一方、どの非零整数もそれを割らない素数が生成する極大イデアルには属さないため、すべての極大イデアルの共通部分は零であり、J(Z)=0である。根基冪が停止する一例があっても、Noether 性だけから一般の降鎖停止は従わない。
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系 6.1の証明のとおり、Aが右 Artin 環ならAopは左 Artin 環である。左側の定理をAopへ適用し、左Aop加群を右A加群へ戻すと、有限長性と右 Noether 性を得る。Jacobson 根基は反対環を取っても同じ部分集合であり、その冪零性も保たれる。有限生成右加群は有限生成左Aop加群であるため、左側の有限生成加群に関する系から有限長性が従う。
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本記事は根基冪と socle 列、有限長性および中山の補題だけを用いる。半単純 Artin 環を行列環の有限直積として分類することも、有限長加群を直既約加群へ分解したときの一意性も証明していない。前者は環の構造分類であり、後者は直和因子の一意性であって、本記事の鎖条件の結論とは異なる。
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8 範囲と後続記事への接続
本記事は、一般の単位的結合環について、左 Artin 条件から左正則加群の有限長性、左 Noether 性および Jacobson 根基の冪零性を導き、有限生成左加群へ有限長性を移した。根基の冪零性は、socle 列が全体に達したことから直接導く第一の証明と、有限長性を得た後に中山の補題を用いる独立な第二の証明によって示した。いずれの証明順でも、根基の冪零性を有限長性の前提としていない。
半単純 Artin 環の行列環による分類、単純 Artin 環の構造および左右半単純性の一致は後続の構造定理が扱う。有限長加群の直既約分解とその一意性も別の後続記事が扱う。可換 Artin 環については、素イデアルが極大であること、極大イデアルの有限性、局所 Artin 環の有限直積への分解および有限生成加群の局所成分への分解が後続記事の課題である。