§E6.11有限生成加群・有限表示加群

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有限生成加群は、有限階数自由加群からの全射をもつ加群である。この定義は、有限個の元の一次結合によってすべての元を記述することができることと同値である。有限表示加群では、生成元を有限個に制限するだけでなく、生成元の間のすべての関係も有限個の関係式から導かれることを要求する。両者の差は、有限階数自由加群からの全射の核が有限生成であるかどうかに現れる。

本記事ではRRを単位元をもつ結合環とする。RRは可換とは限らない。有限表示性を扱う箇所では加群は左RR加群とする。部分加群と商加群には§E6.2 定義 3.1、自由加群と標準基底には§E6.10 定義 1.1と§E6.10 定義 1.6、自由加群の普遍性には§E6.10 補題 1.4の規約を用いる。非負整数nnに対して、左正則加群または右正則加群のnn個の直和をいずれも文脈に応じてRnR^nと書き、その標準基底をe1,…,ene_1,\ldots,e_nと書く。n=0n=0のときR0=0R^0=0であり、標準基底は空族である。

1 有限生成加群

有限生成性は、有限階数自由加群によって全射的に覆われるという条件である。

定義 1.1. 左RR加群MMが有限生成加群 (finitely generated left module) であるとは、ある非負整数nnと全射左RR線形写像

π ⁣:Rn⟶M\pi\colon R^n\longrightarrow M

が存在することをいう。

n=0n=0の場合、R0=0R^0=0である。したがってR0→MR^0\to Mが全射であることはM=0M=0と同値である。

命題 1.2. 左RR加群MMについて、次の二条件は同値である。

  1. ある非負整数nnと全射左RR線形写像 π ⁣:Rn⟶M\pi\colon R^n\longrightarrow M が存在する。
  2. ある非負整数nnとx1,…,xn∈Mx_1,\ldots,x_n\in Mが存在し、 M=Rx1+⋯+RxnM=Rx_1+\cdots+Rx_n となる。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。全射π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mが存在するとする。任意のx∈Mx\in Mに対してv=∑iaiei∈Rnv=\sum_i a_ie_i\in R^nでπ(v)=x\pi(v)=xとなるものが存在する。線形性により

x=∑iaiπ(ei)x=\sum_i a_i\pi(e_i)

となるため、π(e1),…,π(en)\pi(e_1),\ldots,\pi(e_n)はMMを生成する。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。逆に、MMがx1,…,xnx_1,\ldots,x_nによって生成されるとする。§E6.10 補題 1.4により、標準基底の像を

π(ei):=xi\pi(e_i):=x_i

と指定するRR線形写像π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mが一意に存在する。任意のx∈Mx\in Mはx=∑iaixix=\sum_i a_ix_iと表されるため、

x=π(∑iaiei)x=\pi\left(\sum_i a_ie_i\right)

となる。したがってπ\piは全射である。

n=0n=0の場合にも、0→M0\to Mが全射であること、空族の左一次結合がMM全体になること、およびM=0M=0は同値である。▨

右加群についても、自由加群からの全射を定義とし、有限個の右一次結合をその特徴づけとして得る。

定義 1.3. 右RR加群MMが有限生成右加群 (finitely generated right module) であるとは、ある非負整数nnと全射右RR線形写像

π ⁣:Rn⟶M\pi\colon R^n\longrightarrow M

が存在することをいう。ここでRnR^nは右正則加群RRR_Rのnn個の直和である。

命題 1.4. 右RR加群MMについて、有限生成右加群であることと、ある非負整数nnとx1,…,xn∈Mx_1,\ldots,x_n\in Mが存在して

M=x1R+⋯+xnRM=x_1R+\cdots+x_nR

となることは同値である。

証明. 全射π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mがあれば、任意のx∈Mx\in Mは

x=π(∑ieiai)=∑iπ(ei)aix=\pi\left(\sum_i e_i a_i\right)=\sum_i\pi(e_i)a_i

と表されるため、π(e1),…,π(en)\pi(e_1),\ldots,\pi(e_n)がMMを右から生成する。逆にx1,…,xnx_1,\ldots,x_nがMMを右から生成するならば、右自由加群の普遍性によりei↦xie_i\mapsto x_iを指定する右RR線形写像Rn→MR^n\to Mが存在し、生成性から全射である。n=0n=0の場合は左加群の場合と同じくM=0M=0と同値である。▨

命題 1.5. 次が成り立つ。

  1. 非零有限生成左RR加群は極大左部分加群をもつ。
  2. 非零有限生成右RR加群は極大右部分加群をもつ。

証明.(1)を示す。非零有限生成左RR加群MMを取り、MMの真の左部分加群全体を包含関係で順序付けた集合をP\mathcal Pとする。M≠0M\ne0なので0∈P0\in\mathcal Pであり、P\mathcal Pは空でない。

C⊆P\mathcal C\subseteq\mathcal Pを鎖とする。U:=⋃N∈CNU:=\bigcup_{N\in\mathcal C}Nは左部分加群である。実際、u,v∈Uu,v\in Uを取ると、あるN,N′∈CN,N'\in\mathcal Cがu∈Nu\in N、v∈N′v\in N'を満たす。C\mathcal Cは鎖なので一方が他方を含み、u−vu-vは大きい方の部分加群に属する。またr∈Rr\in Rに対してruruはuuを含む部分加群に属する。

MMの有限生成族をx1,…,xnx_1,\ldots,x_nとする。もしU=MU=Mならば、各iiについてxi∈Nix_i\in N_iとなるNi∈CN_i\in\mathcal Cが存在する。有限個のNiN_iは包含関係で全順序付けられているため、そのうち最大のものNjN_jがすべてのxix_iを含む。するとNj=MN_j=Mとなり、Nj∈PN_j\in\mathcal Pに反する。よってUUは真の部分加群であり、C\mathcal CのP\mathcal Pにおける上界である。

§E1.20 定理 2.1の Zorn の補題により、P\mathcal Pは極大元をもつ。この極大元はMMの極大左部分加群である。

(2)を示す。右加群の場合は、§E6.1 定義 4.1の反対環を用いて右RR加群を左RopR^{\mathrm{op}}加群とみなし、(1)を適用すればよい。有限生成性と部分加群の包含はこの対応で保たれるため、得られる極大左RopR^{\mathrm{op}}部分加群は極大右RR部分加群である。▨

2 有限表示加群と関係加群

有限個の生成元x1,…,xnx_1,\ldots,x_nを選ぶと、係数の行(a1,…,an)(a_1,\ldots,a_n)が零を表すという条件はRnR^nの部分加群を定める。

定義 2.1. 左RR加群MMの元x1,…,xnx_1,\ldots,x_nに対して、関係加群 (module of relations) を

Rel⁡(x1,…,xn):={(a1,…,an)∈Rn | ∑i=1naixi=0}\operatorname{Rel}(x_1,\ldots,x_n) :=\left\{(a_1,\ldots,a_n)\in R^n \ \middle|\ \sum_{i=1}^n a_ix_i=0\right\}

と定める。係数はxix_iの左に置く。

MMが有限表示加群 (finitely presented module) であるとは、ある非負整数m,nm,nとRR線形写像による完全列

Rm→ α Rn→ π M⟶0R^m\xrightarrow{\ \alpha\ }R^n \xrightarrow{\ \pi\ }M\longrightarrow0

が存在することをいう。すなわち、π\piは全射であり、im⁡α=ker⁡π\operatorname{im}\alpha=\ker\piである。この完全列をMMの有限表示 (finite presentation) という。

関係加群は、ei↦xie_i\mapsto x_iによって定まる座標写像πx ⁣:Rn→M\pi_x\colon R^n\to Mの核である。したがって、x1,…,xnx_1,\ldots,x_nがMMを生成するとき、MMはRnR^nをすべての関係で割った商として得られる。

定理 2.2. 左RR加群MMについて、次の三条件は同値である。

  1. MMは有限表示加群である。
  2. ある非負整数nnと全射π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mが存在し、ker⁡π\ker\piは有限生成加群である。
  3. MMを生成する有限族x1,…,xnx_1,\ldots,x_nが存在し、Rel⁡(x1,…,xn)\operatorname{Rel}(x_1,\ldots,x_n)は有限生成加群である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(1)を仮定し、有限表示

Rm→αRn→πM⟶0R^m\xrightarrow{\alpha}R^n\xrightarrow{\pi}M\longrightarrow0

を取る。完全性により

ker⁡π=im⁡α=Rα(e1)+⋯+Rα(em)\ker\pi=\operatorname{im}\alpha =R\alpha(e_1)+\cdots+R\alpha(e_m)

である。したがってker⁡π\ker\piは有限生成であり、(2)を得る。m=0m=0の場合には像と核はともに零である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。(2)を仮定する。ker⁡π\ker\piの有限生成族をz1,…,zmz_1,\ldots,z_mとする。§E6.10 補題 1.4により、

α ⁣:Rm⟶Rn,α(ej):=zj\alpha\colon R^m\longrightarrow R^n, \qquad \alpha(e_j):=z_j

というRR線形写像が存在する。その像はz1,…,zmz_1,\ldots,z_mが生成する部分加群、すなわちker⁡π\ker\piである。よって

Rm→αRn→πM⟶0R^m\xrightarrow{\alpha}R^n\xrightarrow{\pi}M\longrightarrow0

は有限表示であり、(1)を得る。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。(2)の全射π\piに対してxi:=π(ei)x_i:=\pi(e_i)と置く。命題 1.2の証明と同じく、x1,…,xnx_1,\ldots,x_nはMMを生成する。また、

π(a1,…,an)=∑iaixi\pi(a_1,\ldots,a_n)=\sum_i a_ix_i

であるため、ker⁡π=Rel⁡(x1,…,xn)\ker\pi=\operatorname{Rel}(x_1,\ldots,x_n)である。したがって(3)を得る。

(3)⇒\Rightarrow(2)を示す。逆に、(3)の生成族から§E6.10 補題 1.4によって

πx ⁣:Rn⟶M,πx(ei):=xi\pi_x\colon R^n\longrightarrow M, \qquad \pi_x(e_i):=x_i

を定める。生成性によりπx\pi_xは全射であり、定義から

ker⁡πx=Rel⁡(x1,…,xn)\ker\pi_x=\operatorname{Rel}(x_1,\ldots,x_n)

である。(3)によりこの核は有限生成であるため、(2)を得る。▨

この特徴づけから、有限表示加群は有限生成加群である。逆は一般には成り立たない。逆が成り立たない具体例は後で構成する。

有限表示性の定義では、有限生成系を一つ選んで関係加群が有限生成であることを要求した。次の命題は、一つの有限生成系についてこの条件が成り立てば、ほかの任意の有限生成系についても成り立つことを示す。

命題 2.3.MMを有限表示加群とし、nnを非負整数とする。任意の全射

φ ⁣:Rn⟶M\varphi\colon R^n\longrightarrow M

に対して、ker⁡φ\ker\varphiは有限生成加群である。

証明.定理 2.2により、全射

p ⁣:Rq⟶Mp\colon R^q\longrightarrow M

で、その核K:=ker⁡pK:=\ker pが有限生成となるものを取る。KKの生成族をk1,…,ksk_1,\ldots,k_sとする。

φ\varphiは全射であるため、各標準基底元ei∈Rqe_i\in R^qについてu(ei)∈Rnu(e_i)\in R^nを

φ(u(ei))=p(ei)\varphi(u(e_i))=p(e_i)

となるように選ぶ。§E6.10 補題 1.4によって、この指定はRR線形写像u ⁣:Rq→Rnu\colon R^q\to R^nへ一意に延長される。標準基底上で等しいため、

φu=p\varphi u=p

である。同様に、ppの全射性を用いて各標準基底元ej∈Rne_j\in R^nの像の持ち上げを選ぶと、RR線形写像v ⁣:Rn→Rqv\colon R^n\to R^qで

pv=φpv=\varphi

を満たすものが得られる。

写像

d:=id⁡Rn−uvd:=\operatorname{id}_{R^n}-uv

を考える。上の二等式から

φd=φ−φuv=φ−pv=0\varphi d =\varphi-\varphi uv =\varphi-pv =0

であるため、d(Rn)⊆ker⁡φd(R^n)\subseteq\ker\varphiである。また、各kℓ∈Kk_\ell\in Kについて

φ(u(kℓ))=p(kℓ)=0\varphi(u(k_\ell))=p(k_\ell)=0

であるため、u(kℓ)∈ker⁡φu(k_\ell)\in\ker\varphiである。

x∈ker⁡φx\in\ker\varphiを任意に取る。p(v(x))=φ(x)=0p(v(x))=\varphi(x)=0であるためv(x)∈Kv(x)\in Kであり、あるa1,…,as∈Ra_1,\ldots,a_s\in Rによって

v(x)=∑ℓ=1saℓkℓv(x)=\sum_{\ell=1}^s a_\ell k_\ell

と表される。一方、RnR^nの標準基底を用いると、d(x)d(x)はd(e1),…,d(en)d(e_1),\ldots,d(e_n)の左一次結合である。等式

x=uv(x)+d(x)x=uv(x)+d(x)

により、xxは有限族

u(k1),…,u(ks),d(e1),…,d(en)u(k_1),\ldots,u(k_s),d(e_1),\ldots,d(e_n)

の左一次結合になる。この族の各元はker⁡φ\ker\varphiに属するため、この族はker⁡φ\ker\varphiを生成する。q,n,sq,n,sのいずれかが零の場合にも、対応する族を空族とすれば同じ証明が成り立つ。▨

3 左線形写像の行列表示

体上の線形代数で用いる行列積は一般の環上でも定義することができるが、非可換環上の左加群では、係数を掛ける順序を固定しなければならない。自由左加群の元を行ベクトルで書くと、左線形写像は行列を右から掛けることによって表される。

命題 3.1.m,nm,nを非負整数とし、A=(aij)∈Mat⁡m×n(R)A=(a_{ij})\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)とする。行ベクトルx=(x1,…,xm)∈Rmx=(x_1,\ldots,x_m)\in R^mに対して、通常の行列積

(xA)j:=∑i=1mxiaij(1≤j≤n)(xA)_j:=\sum_{i=1}^m x_i a_{ij} \qquad(1\le j\le n)

によって定まる写像Rm→RnR^m\to R^n、x↦xAx\mapsto xAは左RR線形である。逆に、任意の左RR線形写像f ⁣:Rm→Rnf\colon R^m\to R^nは、一意なA∈Mat⁡m×n(R)A\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)によってf(x)=xAf(x)=xAと表される。

さらに、非負整数pp、B∈Mat⁡n×p(R)B\in\operatorname{Mat}_{n\times p}(R)および任意のx∈Rmx\in R^mに対して

(xA)B=x(AB)(xA)B=x(AB)

であり、mm次単位行列ImI_mに対してxIm=xxI_m=xである。m=0m=0またはn=0n=0の場合にも、空の行列と空の和によって同じ主張が成り立つ。

証明.x,y∈Rmx,y\in R^mとr∈Rr\in Rに対して、各jj成分で

((x+y)A)j=∑i(xi+yi)aij=∑ixiaij+∑iyiaij((x+y)A)_j =\sum_i(x_i+y_i)a_{ij} =\sum_i x_i a_{ij}+\sum_i y_i a_{ij}

となる。また、環の積の結合律と分配律により

((rx)A)j=∑i(rxi)aij=r∑ixiaij=(r(xA))j((rx)A)_j =\sum_i(rx_i)a_{ij} =r\sum_i x_i a_{ij} =\bigl(r(xA)\bigr)_j

となる。係数の順序を交換していない。したがって写像x↦xAx\mapsto xAは左RR線形である。

左RR線形写像f ⁣:Rm→Rnf\colon R^m\to R^nを取る。f(ei)f(e_i)の第jj成分をaija_{ij}とし、A:=(aij)A:=(a_{ij})と置く。任意のx=(x1,…,xm)x=(x_1,\ldots,x_m)に対して

f(x)=f(∑ixiei)=∑ixif(ei)f(x) =f\left(\sum_i x_ie_i\right) =\sum_i x_i f(e_i)

であるため、その第jj成分は∑ixiaij\sum_i x_i a_{ij}である。よってf(x)=xAf(x)=xAである。f(x)=xCf(x)=xCとも表されるならば、CCの第ii行はeiC=f(ei)e_iC=f(e_i)であるためC=AC=Aであり、一意性を得る。

合成について、x∈Rmx\in R^mの第kk成分を計算すると、有限和の結合順序を変更することにより

((xA)B)k=∑j=1n(∑i=1mxiaij)bjk=∑i=1mxi(∑j=1naijbjk)=(x(AB))k\begin{aligned} ((xA)B)_k &=\sum_{j=1}^n\left(\sum_{i=1}^m x_i a_{ij}\right)b_{jk}\\ &=\sum_{i=1}^m x_i\left(\sum_{j=1}^n a_{ij}b_{jk}\right)\\ &=(x(AB))_k \end{aligned}

となる。積aijbjka_{ij}b_{jk}の順序は変更していない。したがって(xA)B=x(AB)(xA)B=x(AB)である。単位行列については(xIm)j=xj(xI_m)_j=x_jとなる。▨

例 3.2 (非可換環における左右の乗法).kkを体、R:=Mat⁡2×2(k)R:=\operatorname{Mat}_{2\times2}(k)とし、

p:=(0100),q:=(0010)p:=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}, \qquad q:=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

と置く。このとき

pq=(1000),qp=(0001)pq=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}, \qquad qp=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}

であり、pq≠qppq\ne qpである。

左正則加群RR{}_RR上で、右乗法R→RR\to R、x↦xqx\mapsto xqは左RR線形である。実際、r,x∈Rr,x\in Rに対して

(rx)q=r(xq)(rx)q=r(xq)

となる。一方、写像x↦qxx\mapsto qxは一般に左RR線形ではない。r=pr=p、x=1Rx=1_Rとすると

q(p1R)=qp,p(q1R)=pqq(p1_R)=qp, \qquad p(q1_R)=pq

であり、両者は一致しない。この検算は、自由左加群の準同型を右からの行列積で表す必要があることを示す。

有限表示の写像を行列で表すと、行列の各行が一つの関係式を与える。

命題 3.3.A=(aij)∈Mat⁡m×n(R)A=(a_{ij})\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)とし、

Rm→ x↦xA Rn→ π M⟶0R^m\xrightarrow{\ x\mapsto xA\ }R^n \xrightarrow{\ \pi\ }M\longrightarrow0

を有限表示とする。xj:=π(ej)x_j:=\pi(e_j)と置くと、x1,…,xnx_1,\ldots,x_nはMMを生成し、第ii行は関係式

∑j=1naijxj=0\sum_{j=1}^n a_{ij}x_j=0

を与える。さらに、x1,…,xnx_1,\ldots,x_nのすべての関係は、AAの各行の左一次結合として一意とは限らない仕方で表される。

証明.π\piは全射であるため、x1,…,xnx_1,\ldots,x_nはMMを生成する。AAの第ii行は

eiAe_iA

である。完全性によりeiA∈ker⁡πe_iA\in\ker\piであるため、

0=π(eiA)=∑jaijπ(ej)=∑jaijxj0=\pi(e_iA)=\sum_j a_{ij}\pi(e_j)=\sum_j a_{ij}x_j

となる。

逆に、関係(b1,…,bn)∈Rel⁡(x1,…,xn)(b_1,\ldots,b_n)\in\operatorname{Rel}(x_1,\ldots,x_n)はker⁡π\ker\piの元である。完全性により、あるc=(c1,…,cm)∈Rmc=(c_1,\ldots,c_m)\in R^mが存在して

(b1,…,bn)=cA(b_1,\ldots,b_n)=cA

となる。行列積の定義から、cAcAはAAの第ii行に左係数cic_iを掛けた行の和である。したがって各行が関係加群を生成する。写像x↦xAx\mapsto xAが単射であるとは限らないため、この一次結合表示は一意とは限らない。▨

一般の環ではRm≅RnR^m\cong R^nからm=nm=nが従うとは限らない。本記事の有限表示性は、ある有限のm,nm,nが存在することだけを要求しており、生成元または関係式の個数の一意性を要求しない。したがって、この定義と行列規約は不変基底数をもたない環でも有効である。

4 商加群と有限直和

有限生成性は任意の商加群に受け継がれる。有限表示性を商加群に受け継がせるためには、割る部分加群が有限生成であることが必要になる。

命題 4.1. 次が成り立つ。

  1. MMが有限生成加群でN⊆MN\subseteq Mが部分加群ならば、M/NM/Nは有限生成加群である。
  2. 有限個の左RR加群M1,…,MtM_1,\ldots,M_tに対して、⨁j=1tMj\bigoplus_{j=1}^tM_jが有限生成であることと、各MjM_jが有限生成であることは同値である。

証明.(1)を示す。MMをx1,…,xnx_1,\ldots,x_nが生成するとする。任意のx+N∈M/Nx+N\in M/Nに対してx=∑iaixix=\sum_i a_ix_iと書けば、

x+N=∑iai(xi+N)x+N=\sum_i a_i(x_i+N)

となる。したがってx1+N,…,xn+Nx_1+N,\ldots,x_n+NがM/NM/Nを生成する。

(2)を示す。各MjM_jが有限族xj,1,…,xj,njx_{j,1},\ldots,x_{j,n_j}によって生成されるとする。ιj ⁣:Mj→⨁ℓ=1tMℓ\iota_j\colon M_j\to\bigoplus_{\ell=1}^tM_\ellを標準包含とする。有限族

(ιj(xj,i))1≤j≤t, 1≤i≤nj\bigl(\iota_j(x_{j,i})\bigr)_{ 1\le j\le t,\ 1\le i\le n_j}

は、各成分を生成するため直和全体を生成する。逆に、直和が有限生成ならば、各座標射影

pr⁡j ⁣:⨁ℓ=1tMℓ⟶Mj\operatorname{pr}_j\colon\bigoplus_{\ell=1}^tM_\ell\longrightarrow M_j

は全射であるため、(1)により各MjM_jは有限生成である。t=0t=0の場合、直和は零加群であり、主張は空の条件と整合する。▨

定理 4.2. 次が成り立つ。

  1. MMが有限表示加群でN⊆MN\subseteq Mが有限生成部分加群ならば、M/NM/Nは有限表示加群である。
  2. 有限個の左RR加群M1,…,MtM_1,\ldots,M_tに対して、⨁j=1tMj\bigoplus_{j=1}^tM_jが有限表示であることと、各MjM_jが有限表示であることは同値である。

証明.(1)を示す。定理 2.2により、全射

π ⁣:Rn⟶M\pi\colon R^n\longrightarrow M

でK:=ker⁡πK:=\ker\piが有限生成となるものを取る。NNの生成族をy1,…,ysy_1,\ldots,y_sとし、π\piの全射性により各yℓy_\ellの持ち上げy~ℓ∈Rn\widetilde y_\ell\in R^nを

π(y~ℓ)=yℓ\pi(\widetilde y_\ell)=y_\ell

となるように選ぶ。商写像をq ⁣:M→M/Nq\colon M\to M/Nとすると、qπq\piは全射である。

この全射の核は

ker⁡(qπ)=K+Ry~1+⋯+Ry~s\ker(q\pi) =K+R\widetilde y_1+\cdots+R\widetilde y_s

である。実際、右辺の元はπ\piによってNNの元へ写るため、右辺はker⁡(qπ)\ker(q\pi)に含まれる。逆に、z∈ker⁡(qπ)z\in\ker(q\pi)ならばπ(z)∈N\pi(z)\in Nであるため、あるa1,…,as∈Ra_1,\ldots,a_s\in Rによって

π(z)=∑ℓ=1saℓyℓ=π(∑ℓ=1saℓy~ℓ)\pi(z)=\sum_{\ell=1}^s a_\ell y_\ell =\pi\left(\sum_{\ell=1}^s a_\ell\widetilde y_\ell\right)

と書かれる。したがって

z−∑ℓ=1saℓy~ℓ∈Kz-\sum_{\ell=1}^s a_\ell\widetilde y_\ell\in K

であり、逆包含も得られる。KKと有限個のy~ℓ\widetilde y_\ellが右辺を有限生成するため、定理 2.2によりM/NM/Nは有限表示である。N=0N=0の場合にはs=0s=0とすればよい。

(2)を示す。次に、各MjM_jが有限表示であるとする。各jjについて、全射

πj ⁣:Rnj⟶Mj\pi_j\colon R^{n_j}\longrightarrow M_j

でKj:=ker⁡πjK_j:=\ker\pi_jが有限生成となるものを取る。有限直和を取った写像

π:=⨁j=1tπj ⁣:⨁j=1tRnj⟶⨁j=1tMj\pi:=\bigoplus_{j=1}^t\pi_j\colon \bigoplus_{j=1}^tR^{n_j} \longrightarrow \bigoplus_{j=1}^tM_j

は全射であり、

ker⁡π=⨁j=1tKj\ker\pi=\bigoplus_{j=1}^tK_j

である。§E6.10 補題 1.11により、始域は有限個の標準基底を合わせた基底をもつ有限階数自由加群である。命題 4.1により、核は有限生成である。したがって直和は有限表示である。t=0t=0の場合、零加群はR0→0R^0\to0という全射と零核をもつため有限表示である。

逆に、F:=⨁j=1tMjF:=\bigoplus_{j=1}^tM_jが有限表示であるとする。有限表示加群は有限生成であるため、命題 4.1により各MjM_jは有限生成である。固定したjjに対して、座標射影F→MjF\to M_jの核は

Nj:=⨁1≤ℓ≤tℓ≠jMℓN_j:=\bigoplus_{\substack{1\le\ell\le t\\\ell\ne j}}M_\ell

である。ほかの成分も有限生成であり、成分の個数は有限であるため、命題 4.1によりNjN_jは有限生成である。(1)をF/Nj≅MjF/N_j\cong M_jに適用すると、MjM_jは有限表示である。▨

5 有限生成であるが有限表示でない部分加群

有限表示加群の有限生成部分加群が有限表示であるとは限らない。以下では、無限次元ベクトル空間を平方零イデアルとして付け加えた環を用いて反例を構成する。

例 5.1 (有限表示でない一元生成イデアル).kkを体とし、

B:={x}⊔{y1,y2,…}B:=\{x\}\sqcup\{y_1,y_2,\ldots\}

と置く。V:=k(B)V:=k^{(B)}をBB上の自由kk線形空間とし、その標準基底を

ex,ey1,ey2,…e_x,e_{y_1},e_{y_2},\ldots

と書く。加法群としてR:=k⊕VR:=k\oplus Vと置き、積を

(a,u)(b,v):=(ab,av+bu)(a,b∈k, u,v∈V)(a,u)(b,v):=(ab,av+bu) \qquad(a,b\in k,\ u,v\in V)

によって定める。

この積はRRを単位的可換環にする。分配律はkkの分配律とVVのkk線形性から従う。結合律は、任意の(a,u),(b,v),(c,w)∈R(a,u),(b,v),(c,w)\in Rに対して、二通りの積がともに

(abc,abw+acv+bcu)\bigl(abc,ab w+ac v+bc u\bigr)

となることから従う。単位元は(1,0)(1,0)であり、積の表示が二つの因子について対称であるため可換である。部分集合

m:=0⊕V\mathfrak m:=0\oplus V

はイデアルである。実際、m\mathfrak mは加法部分群であり、任意の(a,u)∈R(a,u)\in Rと(0,v)∈m(0,v)\in\mathfrak mに対して

(a,u)(0,v)=(0,av)∈m(a,u)(0,v)=(0,av)\in\mathfrak m

となる。また、

(0,u)(0,v)=(0,0)(0,u)(0,v)=(0,0)

であるためm2=0\mathfrak m^2=0である。

ξ:=(0,ex)∈R\xi:=(0,e_x)\in Rとし、左正則加群RR{}_RRの部分加群

I:=RξI:=R\xi

を考える。任意の(a,u)∈R(a,u)\in Rに対して

(a,u)ξ=(0,aex)(a,u)\xi=(0,ae_x)

であるため、I=kξI=k\xiである。特にIIは一元ξ\xiによって生成される。また、ex≠0e_x\ne0であるため、

(a,u)ξ=0⟺a=0(a,u)\xi=0 \quad\Longleftrightarrow\quad a=0

であり、

ann⁡R(ξ):={r∈R∣rξ=0}=m\operatorname{ann}_R(\xi) :=\{r\in R\mid r\xi=0\} =\mathfrak m

となる。

次に、m\mathfrak mが左RR加群として有限生成でないことを示す。有限個の元(0,u1),…,(0,ut)∈m(0,u_1),\ldots,(0,u_t)\in\mathfrak mを任意に取る。r=(a,v)∈Rr=(a,v)\in Rに対して

r(0,ui)=(0,aui)r(0,u_i)=(0,au_i)

であるため、これらの元が生成するRR部分加群は、u1,…,utu_1,\ldots,u_tのkk線形包に等しい。各ui∈k(B)u_i\in k^{(B)}の台は有限であるため、その有限個の台の和集合も有限である。したがって、あるN≥1N\ge1が存在してeyNe_{y_N}はこの和集合に現れない。このとき(0,eyN)(0,e_{y_N})はu1,…,utu_1,\ldots,u_tのkk線形包に属さない。よって任意の有限族はm\mathfrak mを生成せず、m\mathfrak mは有限生成でない。

左RR線形写像

π ⁣:R=R1⟶I,r⟼rξ\pi\colon R=R^1\longrightarrow I, \qquad r\longmapsto r\xi

は全射であり、その核はann⁡R(ξ)=m\operatorname{ann}_R(\xi)=\mathfrak mである。仮にIIが有限表示ならば、命題 2.3をこの全射に適用することによりm\mathfrak mが有限生成となるが、m\mathfrak mの有限生成性は上の結論に反する。したがってIIは有限生成であるが有限表示でない。

一方、左正則加群RR{}_RRは階数一の自由加群であり、

R0⟶R1→ id⁡R R⟶0R^0\longrightarrow R^1 \xrightarrow{\ \operatorname{id}_R\ }R\longrightarrow0

が有限表示を与える。したがってIIは、有限表示加群RRの有限生成部分加群であるにもかかわらず有限表示ではない。

注意 5.2 (退化する場合との整合性). 零加群は空族によって有限生成であり、

R0⟶R0⟶0⟶0R^0\longrightarrow R^0\longrightarrow0\longrightarrow0

によって有限表示である。零環上では、単位的左加群MMの任意の元xxに対してx=1Rx=0x=0x=1_Rx=0x=0となるため、左加群は零加群だけである。したがって零環の場合にも本記事の定義と各保存命題は成り立つ。

有限表示でm=0m=0ならばker⁡π=0\ker\pi=0であり、MMは有限階数自由加群RnR^nと同型である。n=0n=0ならばM=0M=0であり、m=n=0m=n=0ならば表示はすべて零対象からなる。不変基底数をもたない環では同じ自由加群に異なるnnを用いることがあり得るが、有限生成性と有限表示性はいずれも有限個数の存在だけを条件とするため、定義は矛盾しない。

6 演習

問題 6.1 (有限生成加群と有限表示加群の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 左RR加群MMが有限生成であるという定義から、有限族x1,…,xnx_1,\ldots,x_nの左一次結合でMM全体を表せることを導き、逆向きも証明せよ。n=0n=0の場合も述べよ。
  2. 右RR加群について、有限階数自由右加群からの全射が存在することと、有限族x1,…,xnx_1,\ldots,x_nによってM=x1R+⋯+xnRM=x_1R+\cdots+x_nRとなることの同値を証明せよ。
  3. 非零有限生成左加群の真の部分加群全体に Zorn の補題を適用せよ。鎖の和が真であることを有限生成性から示し、右加群版を反対環から導け。
  4. 有限表示性について、有限完全列、有限階数自由加群からの全射の有限生成核、および有限生成系の有限生成関係加群という三条件が同値であることを証明せよ。
  5. MMが有限表示であるとき、任意の全射φ ⁣:Rn→M\varphi\colon R^n\to Mの核が有限生成であることを、二つの持ち上げ写像を構成して証明せよ。
  6. A∈Mat⁡m×n(R)A\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)に対して(xA)j=∑ixiaij(xA)_j=\sum_i x_i a_{ij}と定めた写像が左RR線形であることを示し、(xA)B=x(AB)(xA)B=x(AB)を係数の順序を変えずに証明せよ。また、例 3.2で左乗法が左線形でないことを直接確認せよ。
  7. 有限表示Rm→x↦xARn→M→0R^m\xrightarrow{x\mapsto xA}R^n\to M\to0において、AAの各行が関係式を与え、すべての関係がそれらの行の左一次結合になることを証明せよ。
  8. 有限生成加群の商が有限生成であることを証明せよ。また、有限直和が有限生成であることと各成分が有限生成であることの同値を証明せよ。
  9. MMが有限表示でN⊆MN\subseteq Mが有限生成であるとき、M/NM/Nが有限表示であることを証明せよ。特に、全射Rn→M/NR^n\to M/Nの核を具体的に記述せよ。
  10. 有限直和が有限表示であることと各成分が有限表示であることの同値を証明せよ。
  11. 例 5.1について、RRの結合律と単位元、m2=0\mathfrak m^2=0、ker⁡π=m\ker\pi=\mathfrak m、m\mathfrak mの非有限生成性、IIの非有限表示性、およびRR自身の有限表示性を順に確認せよ。
  12. Rm≅RnR^m\cong R^nからm=nm=nが従わない環が存在しても、本記事の有限生成性と有限表示性の定義が有効である理由を述べよ。
解答 (演習の解答).
  1. 定義から全射π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mを取ると、π(e1),…,π(en)\pi(e_1),\ldots,\pi(e_n)がMMを生成する。逆にx1,…,xnx_1,\ldots,x_nがMMを生成するならば、自由加群の普遍性によりei↦xie_i\mapsto x_iを線形に延長した写像Rn→MR^n\to Mは全射である。n=0n=0のときR0=0R^0=0であり、0→M0\to Mが全射であることはM=0M=0と同値である。
  2. 全射π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mがあれば、π(e1),…,π(en)\pi(e_1),\ldots,\pi(e_n)がMMを右から生成する。逆に右生成族xix_iがあれば、右自由加群の普遍性によってei↦xie_i\mapsto x_iを指定する全射を得る。係数は常に生成元の右側に置く。
  3. 真の左部分加群全体は00を含む。鎖の和UUは部分加群である。もしU=MU=Mならば有限生成族の各元は鎖のある元に属し、それら有限個の部分加群の最大のものが生成族全体を含むためMMに等しくなる。鎖のある元がMMに等しいという結論は、鎖の各元が真の部分加群であることに反する。よって Zorn の補題から極大部分加群を得る。右加群を左RopR^{\mathrm{op}}加群とみなせば右版が従う。
  4. 有限完全列Rm→αRn→πM→0R^m\xrightarrow{\alpha}R^n\xrightarrow{\pi}M\to0があれば、ker⁡π=im⁡α\ker\pi=\operatorname{im}\alphaはα(e1),…,α(em)\alpha(e_1),\ldots,\alpha(e_m)によって生成される。逆に、ker⁡π\ker\piがz1,…,zmz_1,\ldots,z_mによって生成されるならば、ej↦zje_j\mapsto z_jを線形に延長した写像の像はker⁡π\ker\piであり、有限完全列を得る。生成族xix_iの座標写像πx\pi_xについてker⁡πx=Rel⁡(x1,…,xn)\ker\pi_x=\operatorname{Rel}(x_1,\ldots,x_n)であるため、残る同値も従う。
  5. 有限生成核KKをもつ全射p ⁣:Rq→Mp\colon R^q\to Mを取る。標準基底の像を全射によって持ち上げ、φu=p\varphi u=pを満たすu ⁣:Rq→Rnu\colon R^q\to R^nとpv=φpv=\varphiを満たすv ⁣:Rn→Rqv\colon R^n\to R^qを構成する。d=id⁡Rn−uvd=\operatorname{id}_{R^n}-uvと置くとd(Rn)⊆ker⁡φd(R^n)\subseteq\ker\varphiである。KKがk1,…,ksk_1,\ldots,k_sによって生成されるならば、x∈ker⁡φx\in\ker\varphiに対してv(x)∈Kv(x)\in Kかつx=uv(x)+d(x)x=uv(x)+d(x)である。したがってker⁡φ\ker\varphiはu(k1),…,u(ks),d(e1),…,d(en)u(k_1),\ldots,u(k_s),d(e_1),\ldots,d(e_n)によって生成される。
  6. 各jjについて((rx)A)j=∑i(rxi)aij=r∑ixiaij((rx)A)_j=\sum_i(rx_i)a_{ij}=r\sum_ix_ia_{ij}であるため右乗法は左線形である。A=(aij)A=(a_{ij})、B=(bjk)B=(b_{jk})ならば、 ((xA)B)k=∑j(∑ixiaij)bjk=∑ixi(∑jaijbjk)=(x(AB))k((xA)B)_k =\sum_j\left(\sum_i x_i a_{ij}\right)b_{jk} =\sum_i x_i\left(\sum_j a_{ij}b_{jk}\right) =(x(AB))_k であり、(xA)B=x(AB)(xA)B=x(AB)となる。例のp,qp,qについて、右乗法は(rx)q=r(xq)(rx)q=r(xq)を満たす。一方、左乗法ではqpqpとp(q1R)=pqp(q1_R)=pqが一致せず、qp≠pqqp\ne pqである。
  7. 第ii行はeiAe_iAであり、完全性からeiA∈ker⁡πe_iA\in\ker\piである。したがって∑jaijxj=0\sum_j a_{ij}x_j=0となる。任意の関係b∈ker⁡πb\in\ker\piはb=cAb=cAと書かれ、cAcAはAAの各行を左係数cic_iで一次結合した行である。
  8. MMの生成元xix_iの像xi+Nx_i+NがM/NM/Nを生成する。各MjM_jの有限生成族を標準包含で直和へ移すと、その有限個の合併が直和を生成する。逆に、各MjM_jは直和からの座標射影による商であるため有限生成である。
  9. 有限生成核KKをもつ全射π ⁣:Rn→M\pi\colon R^n\to Mを取り、NNの生成元yℓy_\ellをy~ℓ∈Rn\widetilde y_\ell\in R^nへ持ち上げる。商写像をq ⁣:M→M/Nq\colon M\to M/Nとすると、 ker⁡(qπ)=K+∑ℓRy~ℓ\ker(q\pi)=K+\sum_\ell R\widetilde y_\ell である。右辺が核に含まれることは直ちに従う。逆にqπ(z)=0q\pi(z)=0ならば、π(z)=∑ℓaℓyℓ\pi(z)=\sum_\ell a_\ell y_\ellと書くことができ、z−∑ℓaℓy~ℓ∈Kz-\sum_\ell a_\ell\widetilde y_\ell\in Kとなる。よって核は有限生成であり、M/NM/Nは有限表示である。
  10. 各成分について有限自由全射Rnj→MjR^{n_j}\to M_jと有限生成核KjK_jを取る。有限直和を取ると、始域は有限階数自由加群、核は有限生成加群⨁jKj\bigoplus_jK_jになるため、直和は有限表示である。逆に直和FFが有限表示ならば有限生成でもあり、各成分とほかの成分の有限直和は有限生成である。座標射影の核であるほかの成分の直和をNjN_jとすると、商F/Nj≅MjF/N_j\cong M_jは有限表示である。
  11. 三つの元の積をどちらから計算しても(abc,abw+acv+bcu)(abc,ab w+ac v+bc u)となり、(1,0)(1,0)が単位元である。(0,u)(0,v)=0(0,u)(0,v)=0であるためm2=0\mathfrak m^2=0である。π(a,u)=(0,aex)\pi(a,u)=(0,ae_x)なのでker⁡π=0⊕V=m\ker\pi=0\oplus V=\mathfrak mとなる。m\mathfrak mの有限個の元が生成する部分加群は、それらのVV成分の有限次元kk線形包であり、有限個の台の外にあるeyNe_{y_N}を含まない。よってm\mathfrak mは有限生成でない。IIが有限表示ならば全射R→IR\to Iの核は有限生成となるため矛盾する。一方、RRは階数一の自由左加群であり、零核をもつ恒等写像R→RR\to Rが有限表示を与える。
  12. いずれの定義も、有限のnnまたは有限の組(m,n)(m,n)が存在することだけを要求し、その値の一意性や最小性を要求しない。したがって異なる有限階数の自由加群が同型になる場合にも定義は有効である。零環では左加群が零加群だけになり、R0R^0を用いた定義と整合する。

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7 後続記事との関係

本記事では、有限生成加群と有限表示加群を自由加群からの全射とその核によって区別し、有限表示を行列と有限個の関係式によって記述した。後続記事では、有限生成性を局所的な条件と結び付ける場合や、環または加群に追加の有限性条件を課した場合の部分加群の挙動を扱う。

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.有限生成加群、有限表示加群および生成元と関係式による表示の標準的な定式化を参考にした。
  2. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.非可換環上の左加群と有限表示加群の取扱いを参考にした。
  3. Frank W. Anderson and Kent R. Fuller, Rings and Categories of Modules, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1992.有限生成性と有限表示性の基本的な保存性を参考にした。

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