§E6.18平坦加群と普遍単射

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テンソル積は完全列の右側を保つが、左端の単射まで保つとは限らない。例えば、包含2Z↪Z2\Z\hookrightarrow\ZにZ/2Z\Z/2\Zをテンソルすると、2Z⊗ZZ/2Z2\Z\otimes_\Z\Z/2\Zの元2⊗1‾2\otimes\overline{1}は非零であるにもかかわらず、その像は21‾=02\overline{1}=0となる。したがって、テンソル積の右完全性だけでは、部分加群がもつ情報を保つことができない。

この不足を二つの方向から捉える概念が、平坦加群と普遍単射である。テンソルする加群を固定し、すべての単射が保たれることを要求すると平坦性が得られる。単射を固定し、すべての加群をテンソルしても単射であり続けることを要求すると普遍単射性が得られる。同じ保存問題を加群と写像の両側から捉えることにより、二つの概念の関係が明確になる。

平坦加群は可換環の局所化を含む重要なクラスであり、平坦性と普遍単射性はテンソル積の完全性を加群と射のそれぞれについて扱う基本概念である。

本記事では、平坦加群と普遍単射をテンソル積による単射の保存という共通の観点から扱う。

1 左平坦加群と右平坦加群

定義 1.1. 左RR加群FFが左平坦RR加群 (left flat R-module) であるとは、任意の右RR加群の単射u ⁣:A↪Bu\colon A\hookrightarrow Bに対して

u⊗R1F ⁣:A⊗RF⟶B⊗RFu\otimes_R1_F\colon A\otimes_RF \longrightarrow B\otimes_RF

がアーベル群の単射となることをいう。

右RR加群GGが右平坦RR加群 (right flat R-module) であるとは、任意の左RR加群の単射v ⁣:C↪Dv\colon C\hookrightarrow Dに対して

1G⊗Rv ⁣:G⊗RC⟶G⊗RD1_G\otimes_Rv\colon G\otimes_RC \longrightarrow G\otimes_RD

がアーベル群の単射となることをいう。

命題 1.2.AAを右RR加群、FFを左RR加群とする。FFを右RopR^{\mathrm{op}}加群、AAを左RopR^{\mathrm{op}}加群とみなすと、

σA,F ⁣:A⊗RF→ ≅ F⊗RopA,σA,F(a⊗f):=f⊗a\sigma_{A,F}\colon A\otimes_RF \xrightarrow{\ \cong\ } F\otimes_{R^{\mathrm{op}}}A, \qquad \sigma_{A,F}(a\otimes f):=f\otimes a

というアーベル群の同型が定まる。この同型はAAとFFの準同型と可換する。

したがって、左RR加群FFが左平坦であることは、右RopR^{\mathrm{op}}加群として右平坦であることと同値である。右RR加群GGが右平坦であることは、左RopR^{\mathrm{op}}加群として左平坦であることと同値である。

証明. 反対環の作用を

f rop:=rf,ropa:=arf\,r^{\mathrm{op}}:=rf, \qquad r^{\mathrm{op}}a:=ar

と書く。写像(a,f)↦f⊗a(a,f)\mapsto f\otimes aは二変数について加法的である。RR上の平衡関係に対応する二つの値は

σA,F(ar⊗f)=f⊗ar\sigma_{A,F}(ar\otimes f)=f\otimes ar

と

σA,F(a⊗rf)=rf⊗a=(f rop)⊗a=f⊗(ropa)=f⊗ar\begin{aligned} \sigma_{A,F}(a\otimes rf) &=rf\otimes a\\ &=(f\,r^{\mathrm{op}})\otimes a\\ &=f\otimes(r^{\mathrm{op}}a)\\ &=f\otimes ar \end{aligned}

であり、一致する。したがってテンソル積の普遍性によりσA,F\sigma_{A,F}が定まる。逆向きの式f⊗a↦a⊗ff\otimes a\mapsto a\otimes fも同じ計算によって well-defined であり、二つの合成は純テンソル上で恒等写像になる。準同型との可換性も純テンソル上で確認することができる。

右RR加群の単射u ⁣:A↪Bu\colon A\hookrightarrow Bに対する可換図式

A⊗RF→ u⊗1F B⊗RF↓σA,F↓σB,FF⊗RopA→ 1F⊗u F⊗RopB\begin{array}{ccc} A\otimes_RF & \xrightarrow{\ u\otimes1_F\ } & B\otimes_RF\\ \downarrow{\scriptstyle\sigma_{A,F}} & & \downarrow{\scriptstyle\sigma_{B,F}}\\ F\otimes_{R^{\mathrm{op}}}A & \xrightarrow{\ 1_F\otimes u\ } & F\otimes_{R^{\mathrm{op}}}B \end{array}

の縦写像は同型である。したがって上の写像が単射であることと下の写像が単射であることは同値であり、左RR平坦性と右RopR^{\mathrm{op}}平坦性が対応する。RRとRopR^{\mathrm{op}}を入れ替えれば、右RR平坦性と左RopR^{\mathrm{op}}平坦性の対応を得る。▨

定理 1.3. 左RR加群FFに対して、次の二条件は同値である。

  1. FFは左平坦RR加群である。
  2. 関手−⊗RF-\otimes_RFは右RR加群のすべての短完全列をアーベル群の短完全列へ移す。

右RR加群GGに対しても、次の二条件は同値である。

  1. GGは右平坦RR加群である。
  2. 関手G⊗R−G\otimes_R-は左RR加群のすべての短完全列をアーベル群の短完全列へ移す。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。短完全列

0⟶A′→ i A→ p A′′⟶00\longrightarrow A'\xrightarrow{\ i\ }A \xrightarrow{\ p\ }A''\longrightarrow0

を取る。§E6.14 命題 11.3により

A′⊗RF→ i⊗1F A⊗RF→ p⊗1F A′′⊗RF⟶0A'\otimes_RF\xrightarrow{\ i\otimes1_F\ } A\otimes_RF\xrightarrow{\ p\otimes1_F\ } A''\otimes_RF\longrightarrow0

は完全である。FFが左平坦ならばi⊗1Fi\otimes1_Fは単射であるため、左端に0→0\toを加えた列は短完全列になる。したがって結論が従う。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。逆に(2)を仮定し、右RR加群の単射i ⁣:A′↪Ai\colon A'\hookrightarrow Aを取る。余核への標準射影をp ⁣:A→A/i(A′)p\colon A\to A/i(A')とすると

0⟶A′→ i A→ p A/i(A′)⟶00\longrightarrow A'\xrightarrow{\ i\ }A \xrightarrow{\ p\ }A/i(A')\longrightarrow0

は短完全列である。(2)によりi⊗1Fi\otimes1_Fは単射である。したがってFFは左平坦である。

(1)⇔\Leftrightarrow(2)を示す。右RR加群GGを左RopR^{\mathrm{op}}加群とみなす。左RR加群の短完全列は、同じ写像をもつ右RopR^{\mathrm{op}}加群の短完全列である。命題命題 1.2の自然な同型によって、G⊗R−G\otimes_R-は−⊗RopG-\otimes_{R^{\mathrm{op}}}Gと対応する。左RopR^{\mathrm{op}}加群GGに対する直前の証明を適用すると、右RR加群の場合の二条件も同値になる。▨

2 平坦加群の直和と射影加群

命題 2.1. 左RR加群の族(Fi)i∈I(F_i)_{i\in I}に対して、次の条件は同値である。

  1. すべてのFiF_iは左平坦である。
  2. ⨁i∈IFi\bigoplus_{i\in I}F_iは左平坦である。

さらに、左平坦加群の任意の直和因子は左平坦である。左右を入れ替えた三つの主張も右平坦加群について成り立つ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。右RR加群の単射u ⁣:A↪Bu\colon A\hookrightarrow Bを取る。§E6.14 命題 9.1の同型の下で

A⊗R(⨁iFi)≅⨁i(A⊗RFi),A\otimes_R\left(\bigoplus_iF_i\right) \cong\bigoplus_i(A\otimes_RF_i),B⊗R(⨁iFi)≅⨁i(B⊗RFi)B\otimes_R\left(\bigoplus_iF_i\right) \cong\bigoplus_i(B\otimes_RF_i)

であり、u⊗1⊕iFiu\otimes1_{\oplus_iF_i}は⨁i(u⊗1Fi)\bigoplus_i(u\otimes1_{F_i})に対応する。各FiF_iが平坦ならば各成分写像は単射である。直和の元は有限台をもつため、直和写像で零へ移る元は各成分が零であり、もとの元も零である。したがって直和は平坦である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。左平坦加群FFがF=P⊕QF=P\oplus Qと分解するとする。同じテンソル積の直和同型の下で、u⊗1Fu\otimes1_Fは

(u⊗1P)⊕(u⊗1Q)(u\otimes1_P)\oplus(u\otimes1_Q)

に対応する。x∈A⊗RPx\in A\otimes_RPが(u⊗1P)(x)=0(u\otimes1_P)(x)=0を満たすならば、(x,0)(x,0)は単射u⊗1Fu\otimes1_Fによって零へ移る。したがってx=0x=0であり、PPは平坦である。各FiF_iは直和の直和因子であるため、逆向きも従う。

右平坦加群については、命題命題 1.2により左RopR^{\mathrm{op}}加群へ移し、左側で証明した結果を適用する。直和の包含と射影は同じ加法群準同型であるため、移送後も同じ直和分解を与える。▨

系 2.2. 任意の自由左RR加群は左平坦であり、任意の自由右RR加群は右平坦である。

証明. 右RR加群AAに対する単位同型

A⊗RR≅A,a⊗r⟼arA\otimes_RR\cong A, \qquad a\otimes r\longmapsto ar

の下で、u⊗1Ru\otimes1_Rは右RR線形写像uu自身に対応する。したがって左正則加群RR{}_RRは左平坦である。自由左RR加群はRR{}_RRの任意直和であるため、命題命題 2.1により左平坦である。自由右RR加群の場合は反対環へ移して同じ結論を得る。▨

補題 2.3. 左射影RR加群PPは左平坦であり、Hom⁡R(P,−)\Hom_R(P,-)は完全関手である。右射影RR加群も右平坦であり、右加群に対するHom⁡R(P,−)\Hom_R(P,-)は完全関手である。

証明. 左射影加群PPは§E6.16 命題 1.2により自由左RR加群の直和因子である。自由左RR加群は系 2.2により左平坦であり、平坦加群の直和因子は命題 2.1により平坦である。したがってPPは左平坦である。Hom⁡R(P,−)\Hom_R(P,-)の完全性は§E6.16 命題 1.2 (4)である。

右射影加群を左RopR^{\mathrm{op}}加群とみなし、左側の結論を適用する。命題§E6.16 命題 2.2により射影性と Hom の誘導写像が保たれ、命題命題 1.2により平坦性が保たれる。よって右側の二つの結論も成り立つ。▨

3 普遍単射と短完全列

定義 3.1.RRを単位的結合環とする。右RR-加群の射f ⁣:A→Bf\colon A\to Bが普遍単射 (pure monomorphism) であるとは、任意の左RR-加群FFに対して

f⊗1F ⁣:A⊗RF⟶B⊗RFf\otimes1_F\colon A\otimes_RF\longrightarrow B\otimes_RF

が単射となることをいう。普遍単射を純単射ともいう。F=RF=Rと単位同型を取ると、普遍単射ff自身も単射である。

右部分加群A⊆BA\subseteq Bの包含が普遍単射であるとき、AAをBBの純部分加群 (pure submodule) という。短完全列0→A→fB→C→00\to A\xrightarrow{f}B\to C\to0の左の射ffが普遍単射であるとき、この列を純完全列 (pure exact sequence) という。

左RR-加群の射f ⁣:A→Bf\colon A\to Bについては、任意の右RR-加群GGに対する1G⊗f1_G\otimes fが単射となることを普遍単射の定義とし、純部分加群と純完全列も同じように定める。命題 1.2により、左RR-加群の普遍単射は右RopR^{\mathrm{op}}-加群の普遍単射と一致する。

補題 3.2.RRを単位的結合環とする。左または右RR-加群の分裂単射は普遍単射である。

証明. 右RR-加群の射f ⁣:A→Bf\colon A\to Bとr ⁣:B→Ar\colon B\to Aがrf=1Arf=1_Aを満たすとする。任意の左RR-加群FFに対して

(r⊗1F)(f⊗1F)=1A⊗RF(r\otimes1_F)(f\otimes1_F)=1_{A\otimes_RF}

であるから、f⊗1Ff\otimes1_Fは単射である。左加群の場合は反対環に移して同じ結論を得る。▨

命題 3.3.RRを単位的結合環とし、右RR-加群の短完全列

0⟶K→iP⟶C⟶00\longrightarrow K\xrightarrow{i}P\longrightarrow C\longrightarrow0

を取る。次が成り立つ。

  1. CCが右平坦ならば、iiは普遍単射である。
  2. PPが右平坦でiiが普遍単射ならば、KKとCCは右平坦である。
  3. PPとCCが右平坦ならば、KKは右平坦である。

左RR-加群の短完全列についても、右平坦を左平坦に置き換えた主張が成り立つ。

証明.CCを右平坦とし、左RR-加群FFを取る。§E6.16 系 1.3により、自由左加群GGからの全射を取り、その核をHHとすると、0→H→G→F→00\to H\to G\to F\to0は完全である。テンソル積の右完全性§E6.14 命題 11.3とGGの平坦性から、可換図式

K⊗RH⟶P⊗RH⟶C⊗RH⟶0↓↓↓0⟶K⊗RG⟶P⊗RG⟶C⊗RG\begin{array}{ccccc} K\otimes_RH&\longrightarrow&P\otimes_RH&\longrightarrow&C\otimes_RH\longrightarrow0\\ \downarrow&&\downarrow&&\downarrow\\ 0\longrightarrow K\otimes_RG&\longrightarrow&P\otimes_RG&\longrightarrow&C\otimes_RG \end{array}

の両行は完全である。右縦射はCCの右平坦性により単射である。蛇の補題§E6.9 命題 2.1により、左縦射の余核から中央縦射の余核への射は単射となる。§E6.14 命題 11.3を反対環に適用し、命題 1.2で移すと、これらの余核はそれぞれK⊗RFK\otimes_RFとP⊗RFP\otimes_RFである。余核間の射はi⊗1Fi\otimes1_Fなので、(1)を得る。

PPを右平坦とし、iiを普遍単射とする。左RR-加群の単射u ⁣:A→Bu\colon A\to BとD=coker⁡uD=\coker uを取る。X=K,P,CX=K,P,Cに対してuX=1X⊗uu_X=1_X\otimes uと置く。A,BA,Bをテンソルして得られる二つの列は純性により短完全列であり、ker⁡uP=0\ker u_P=0である。蛇の補題から

0⟶ker⁡uC⟶coker⁡uK⟶coker⁡uP0\longrightarrow\ker u_C\longrightarrow\coker u_K \longrightarrow\coker u_P

は完全である。第二変数の右完全性によって、最後の射はK⊗RD→P⊗RDK\otimes_RD\to P\otimes_RDと同定される。この射も純性により単射であるから、ker⁡uC=0\ker u_C=0となる。したがってCCは右平坦である。

P,CP,Cを右平坦とする。(1)によりiiは普遍単射である。任意の左単射u ⁣:A→Bu\colon A\to Bをテンソルして得られる二段の短完全列に蛇の補題を適用すると、ker⁡uK→ker⁡uP\ker u_K\to\ker u_Pは単射である。ker⁡uP=0\ker u_P=0なのでker⁡uK=0\ker u_K=0であり、(3)を得る。

PPが右平坦でiiが普遍単射の場合、上で得たCCの右平坦性と(3)からKKも右平坦となり、(2)が従う。左加群の場合は反対環と命題 1.2によって右加群の結果に帰着する。▨

4 指標加群とイデアルによる判定

定理 4.1.RRを単位的結合環、FFを左RR-加群とする。FFが左平坦であることと、指標加群F+F^+が右入射RR-加群であることは同値である。

証明. 右RR-加群の単射u ⁣:A→Bu\colon A\to Bを取る。指標加群の完全性§E6.17 命題 4.2と完全性の検出§E6.17 命題 4.3 (2)により、u⊗1Fu\otimes1_Fが単射であることと、(u⊗1F)+(u\otimes1_F)^+が全射であることは同値である。§E6.14 命題 11.2の自然同型

(A⊗RF)+≅Hom⁡Rop(A,F+)(A\otimes_RF)^+\cong\Hom_{R^{\mathrm{op}}}(A,F^+)

の下で、(u⊗1F)+(u\otimes1_F)^+は制限写像

Hom⁡Rop(B,F+)⟶Hom⁡Rop(A,F+)\Hom_{R^{\mathrm{op}}}(B,F^+) \longrightarrow\Hom_{R^{\mathrm{op}}}(A,F^+)

に対応する。すべての単射uuについてこの写像が全射となることは、F+F^+の右入射性である。▨

定理 4.2.RRを単位的結合環、f ⁣:A→Bf\colon A\to Bを右RR-加群の射とする。ffが普遍単射であることと、左RR-加群の射f+ ⁣:B+→A+f^+\colon B^+\to A^+が分裂全射であることは同値である。

証明. 左RR-加群FFを取る。§E6.17 命題 5.1にD=Q/ZD=\Q/\Zを代入すると

(A⊗RF)+≅Hom⁡R(F,A+),(B⊗RF)+≅Hom⁡R(F,B+)(A\otimes_RF)^+\cong\Hom_R(F,A^+),\qquad (B\otimes_RF)^+\cong\Hom_R(F,B^+)

を得る。対応する写像をΦA,ΦB\Phi_A,\Phi_Bと書くと、λ∈(B⊗RF)+\lambda\in(B\otimes_RF)^+、x∈Fx\in F、a∈Aa\in Aに対して

ΦA((f⊗1F)+λ)(x)(a)=λ(f(a)⊗x)=(f+ΦB(λ)(x))(a)\Phi_A\bigl((f\otimes1_F)^+\lambda\bigr)(x)(a) =\lambda(f(a)\otimes x) =\bigl(f^+\Phi_B(\lambda)(x)\bigr)(a)

となる。したがって指標加群の完全性と完全性の検出により、f⊗1Ff\otimes1_Fの単射性はHom⁡R(F,f+)\Hom_R(F,f^+)の全射性と同値である。

ffが普遍単射ならば、F=A+F=A^+として恒等写像1A+1_{A^+}を持ち上げると、f+s=1A+f^+s=1_{A^+}となるs ⁣:A+→B+s\colon A^+\to B^+を得る。逆にこのようなssが存在すれば、任意のFFについてHom⁡R(F,s)\Hom_R(F,s)はHom⁡R(F,f+)\Hom_R(F,f^+)の右逆となる。よってすべてのf⊗1Ff\otimes1_Fは単射である。▨

定理 4.3.RRを単位的結合環、FFを左RR-加群とする。次の条件は同値である。

  1. FFは左平坦である。
  2. 任意の右イデアルJ⊆RJ\subseteq Rに対して、写像 J⊗RF⟶F,a⊗x⟼axJ\otimes_RF\longrightarrow F,\qquad a\otimes x\longmapsto ax は単射である。
  3. 任意の有限生成右イデアルJ⊆RJ\subseteq Rに対して、上の写像は単射である。

証明.FFが左平坦ならば、右単射J↪RJ\hookrightarrow Rにテンソルし、単位同型R⊗RF≅FR\otimes_RF\cong Fを取ると(2)を得る。この条件を有限生成右イデアルに制限すると(3)が従う。

(3)を仮定し、右イデアルJJに対する写像の核の元をz=∑i=1nai⊗xiz=\sum_{i=1}^n a_i\otimes x_iと表す。J0=a1R+⋯+anRJ_0=a_1R+\cdots+a_nRとし、同じ和をJ0⊗RFJ_0\otimes_RFの元z0z_0とみなす。z0z_0のFFにおける像はzzの像と同じ零であり、仮定からz0=0z_0=0である。包含J0→JJ_0\to Jが誘導する写像はz0z_0をzzへ送るので、z=0z=0となる。

(2)を仮定する。指標を取り§E6.14 命題 11.2を適用すると、任意の右イデアルJJに対して

Hom⁡Rop(R,F+)⟶Hom⁡Rop(J,F+)\Hom_{R^{\mathrm{op}}}(R,F^+) \longrightarrow\Hom_{R^{\mathrm{op}}}(J,F^+)

は全射である。§E6.17 定理 2.1をRopR^{\mathrm{op}}に適用するとF+F^+は右入射であり、定理 4.1によりFFは左平坦である。▨

例 4.4.n≥2n\ge2を整数とする。nZ↪Zn\Z\hookrightarrow\ZにZ/nZ\Z/n\Zをテンソルした写像は、n⊗1‾n\otimes\overline1をn‾=0\overline n=0へ送る。一方、同型nZ≅Zn\Z\cong\Z、na↦ana\mapsto aにより

nZ⊗ZZ/nZ≅Z/nZn\Z\otimes_\Z\Z/n\Z\cong\Z/n\Z

であり、n⊗1‾n\otimes\overline1は非零元1‾\overline1に対応する。したがってZ/nZ\Z/n\Zは平坦Z\Z-加群ではない。

例 4.5.kkを体、R=k[t]/(t2)R=k[t]/(t^2)とし、ttの剰余類もttと書く。定数項を取る写像R→kR\to kによってkkをRR-加群とみなすと、kkは平坦ではない。実際、tR≅ktR\cong k、at↦aat\mapsto aであり、平衡写像

tR×k⟶k,(at,b)⟼abtR\times k\longrightarrow k,\qquad(at,b)\longmapsto ab

は同型tR⊗Rk≅ktR\otimes_Rk\cong kを誘導する。逆写像はc↦t⊗cc\mapsto t\otimes cである。したがってt⊗1t\otimes1は非零であるが、包含tR↪RtR\hookrightarrow Rをテンソルした写像の下ではt⋅1=0t\cdot1=0に写る。

5 有限表示加群による普遍単射の判定

補題 5.1.RRを単位的結合環、AAを右RR-加群、m∈N≥0m\in\N、N⊆RmN\subseteq R^mを左部分加群とする。AmA^mの加法部分群

A⋅N={∑j=1q(ajnj1,…,ajnjm):q∈N≥0, aj∈A, (nj1,…,njm)∈N}A\cdot N= \left\{\sum_{j=1}^q(a_jn_{j1},\ldots,a_jn_{jm}): q\in\N,\ a_j\in A,\ (n_{j1},\ldots,n_{jm})\in N\right\}

を取ると、AAについて自然なアーベル群の同型

A⊗R(Rm/N)≅Am/(A⋅N),a⊗[(r1,…,rm)]⟼[(ar1,…,arm)]A\otimes_R(R^m/N)\cong A^m/(A\cdot N),\qquad a\otimes[(r_1,\ldots,r_m)]\longmapsto[(ar_1,\ldots,ar_m)]

が存在する。特にNNが有限生成ならばRm/NR^m/Nは有限表示である。NNが行ベクトル(rj1,…,rjm)(r_{j1},\ldots,r_{jm})、1≤j≤q1\le j\le qで生成される場合、A⋅NA\cdot Nは

(∑j=1qajrj1,…,∑j=1qajrjm),a1,…,aq∈A,\left(\sum_{j=1}^q a_jr_{j1},\ldots,\sum_{j=1}^q a_jr_{jm}\right), \qquad a_1,\ldots,a_q\in A,

という元全体である。

証明.N→Rm→Rm/N→0N\to R^m\to R^m/N\to0にA⊗R−A\otimes_R-を施す。§E6.14 命題 11.3を反対環に適用し、命題 1.2を用いると、得られる列は右完全である。単位同型と有限直和同型によってA⊗RRm=AmA\otimes_RR^m=A^mと同定すると、A⊗RNA\otimes_RNの像はA⋅NA\cdot Nである。したがって主張の商同型を得る。各写像はAAの準同型と可換するので、同型も自然である。

NNが上の行ベクトルで生成されるならば、n∈Nn\in Nはそれらの左一次結合である。平衡関係a⊗rn=(ar)⊗na\otimes rn=(ar)\otimes nによって、その左係数をAAの側へ移すと最後の表示を得る。有限表示性は§E6.11 定理 2.2から従う。▨

定理 5.2.RRを単位的結合環とし、右RR-加群の短完全列

0⟶A→iB→pC⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\longrightarrow0

を取る。iiによってAAをBBの部分加群と同一視すると、次の条件は同値である。

  1. iiは普遍単射である。
  2. 任意の有限表示左RR-加群FFに対して、i⊗1Fi\otimes1_Fは単射である。
  3. 任意のm,n∈N≥0m,n\in\N、rji∈Rr_{ji}\in R、ai∈Aa_i\in Aに対し、有限連立方程式 ∑j=1nxjrji=ai(1≤i≤m)\sum_{j=1}^n x_jr_{ji}=a_i\qquad(1\le i\le m) がx1,…,xn∈Bx_1,\ldots,x_n\in Bという解をもつならば、x1,…,xn∈Ax_1,\ldots,x_n\in Aという解ももつ。
  4. 任意の有限表示右RR-加群QQに対して、写像 Hom⁡Rop(Q,B)⟶Hom⁡Rop(Q,C),h⟼ph\Hom_{R^{\mathrm{op}}}(Q,B)\longrightarrow \Hom_{R^{\mathrm{op}}}(Q,C),\qquad h\longmapsto ph は全射である。

証明.iiが普遍単射ならば、定義を有限表示加群に適用して(2)を得る。逆にこの条件を仮定し、左加群FFを取る。§E6.15 定理 7.1によりF=lim→⁡jFjF=\varinjlim_jF_jと表し、各FjF_jを有限表示とする。各i⊗1Fji\otimes1_{F_j}は単射なので、§E6.15 定理 5.1によりその余極限も単射である。§E6.15 定理 6.1の標準同型の下でこの射はi⊗1Fi\otimes1_Fであり、(1)が従う。

N⊆RmN\subseteq R^mを行ベクトル(rj1,…,rjm)(r_{j1},\ldots,r_{jm})、1≤j≤n1\le j\le nで生成される左部分加群とする。補題 5.1により、i⊗1Rm/Ni\otimes1_{R^m/N}は

Am/(A⋅N)⟶Bm/(B⋅N)A^m/(A\cdot N)\longrightarrow B^m/(B\cdot N)

に対応する。その単射性はAm∩(B⋅N)=A⋅NA^m\cap(B\cdot N)=A\cdot Nと同値である。(a1,…,am)∈Am(a_1,\ldots,a_m)\in A^mがB⋅NB\cdot Nに属することは、(3)の方程式がBB内に解をもつことに等しい。A⋅NA\cdot Nに属することはAA内に解をもつことに等しい。任意の有限表示左加群はこの形のRm/NR^m/Nと同型なので、(2)⇔\Leftrightarrow(3)が従う。

(3)を仮定し、有限表示右加群QQと射g ⁣:Q→Cg\colon Q\to Cを取る。QQの生成元をe1,…,ene_1,\ldots,e_n、関係部分加群の有限生成元を

∑j=1nejrji=0(1≤i≤m)\sum_{j=1}^n e_jr_{ji}=0\qquad(1\le i\le m)

と表す。p(bj)=g(ej)p(b_j)=g(e_j)となるbj∈Bb_j\in Bを選ぶと、ai=∑jbjrjia_i=\sum_jb_jr_{ji}はAAに属する。仮定から∑jxjrji=ai\sum_jx_jr_{ji}=a_iとなるxj∈Ax_j\in Aが存在する。bj−xjb_j-x_jはQQのすべての関係を満たすので、自由加群と商加群の普遍性によりh(ej)=bj−xjh(e_j)=b_j-x_jとなる射h ⁣:Q→Bh\colon Q\to Bを定める。生成元上でph=gph=gであるから(4)を得る。

(4)を仮定し、方程式∑jbjrji=ai\sum_jb_jr_{ji}=a_iの解bj∈Bb_j\in Bを取る。右自由加群RRnR_R^nを、有限個の元∑jejrji\sum_je_jr_{ji}が生成する右部分加群で割った有限表示加群をQQとする。ej↦p(bj)e_j\mapsto p(b_j)はQ→CQ\to Cを定める。この射の持上げh ⁣:Q→Bh\colon Q\to Bを取ると、xj=bj−h(ej)∈Ax_j=b_j-h(e_j)\in Aであり、

∑jxjrji=ai−h ⁣(∑jejrji)=ai\sum_jx_jr_{ji} =a_i-h\!\left(\sum_je_jr_{ji}\right)=a_i

となる。したがって(3)が成り立つ。▨

系 5.3.RRを単位的結合環とする。左または右RR-加群の純完全列0→A→B→pC→00\to A\to B\xrightarrow{p}C\to0において、CCが有限表示ならばこの列は分裂する。

証明. 右加群の場合、定理 5.2 (4)にQ=CQ=Cと1C1_Cを代入すると、ps=1Cps=1_Cとなるs ⁣:C→Bs\colon C\to Bが存在する。反対環への移行は有限表示性と純性を保つため、左加群の場合も従う。▨

系 5.4.RRを単位的結合環、(Ai)i∈I(A_i)_{i\in I}を右RR-加群の族とする。標準包含⨁i∈IAi↪∏i∈IAi\bigoplus_{i\in I}A_i\hookrightarrow\prod_{i\in I}A_iは普遍単射である。左加群の族についても同じ主張が成り立つ。

証明. 演習とする。▨

定理 5.5.RRを単位的結合環とする。有限表示左平坦RR-加群は左射影であり、有限表示右平坦RR-加群は右射影である。

証明. 有限表示左平坦加群FFに対して、自由加群からの全射P→FP\to Fを取る。命題 3.3 (1)の左加群版により、その核の包含は普遍単射である。系 5.3によりこの全射は分裂する。したがってFFは自由加群の直和因子であり、§E6.16 命題 1.2 (3)によって射影的である。右加群の場合は反対環へ移して同じ結論を得る。▨

系 5.6.RRを単位的結合環、FFを有限生成左平坦RR-加群とする。FFが射影的であることと有限表示であることは同値である。右加群についても同じ主張が成り立つ。

証明.FFが射影的ならば、有限生成性による全射Rn→FR^n\to Fは分裂する。その核KKはRnR^nの直和因子であり、射影Rn→KR^n\to Kの標準基底の像によって有限生成される。§E6.11 定理 2.2によりFFは有限表示である。逆にFFが有限表示ならば、定理 5.5により射影的である。右加群の場合は反対環に適用する。▨

例 5.7.kkを体とし、成分ごとの演算をもつ可換環R=kN≥0R=k^{\N}と、その有限台イデアルI=k(N≥0)I=k^{(\N)}を取る。R/IR/Iは1+I1+Iで生成される非零の巡回加群であり、平坦であるが、射影的でも有限表示でもない。

右イデアルJ⊆RJ\subseteq Rを取る。補題 5.1のm=1m=1、N=IN=Iの場合により、J⊗R(R/I)≅J/JIJ\otimes_R(R/I)\cong J/JIである。この同型の下でJ⊗R(R/I)→R/IJ\otimes_R(R/I)\to R/Iはa+JI↦a+Ia+JI\mapsto a+Iとなり、その核は(J∩I)/JI(J\cap I)/JIである。x∈J∩Ix\in J\cap Iの有限台をEEとし、EEの指示関数をeE∈Ie_E\in Iとすると、x=xeE∈JIx=xe_E\in JIである。逆包含JI⊆J∩IJI\subseteq J\cap Iも成り立つので核は零であり、定理 4.3 (2)によってR/IR/Iは平坦である。

R/IR/Iが射影的であると仮定する。全射R→R/IR\to R/Iが分裂するので、IIへのRR-線形射影p ⁣:R→Ip\colon R\to Iが存在する。e=p(1)e=p(1)と置くと、p(r)=rep(r)=re、p(e)=ep(e)=eからe2=ee^2=e、I=ReI=Reとなる。e∈Ie\in Iの台は有限なので、その台に属さないn∈N≥0n\in\Nを取る。nn成分だけが11である元ene_nはIIに属するが、ReReのすべての元のnn成分は零である。したがってen∉Ree_n\notin Reであり、I=ReI=Reに反する。よってR/IR/Iは射影的でない。

R/IR/Iが有限表示ならば、定理 5.5によって射影的となるため、有限表示でもない。

さらに、命題 3.3 (1)により包含I↪RI\hookrightarrow Rは普遍単射であり、直前に示したRR-線形射影R→IR\to Iの不存在により分裂しない。

6 平坦性の関係式判定

定理 6.1.RRを単位的結合環、FFを左RR-加群とする。次の条件は同値である。

  1. FFは左平坦である。
  2. 任意のm,n∈N≥0m,n\in\N、行列U=(uij)∈Mat⁡m×n(R)U=(u_{ij})\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)、列x=(xj)∈Fnx=(x_j)\in F^nに対して、Ux=0Ux=0、すなわち ∑j=1nuijxj=0(1≤i≤m)\sum_{j=1}^n u_{ij}x_j=0\qquad(1\le i\le m) ならば、あるq∈N≥0q\in\N、V∈Mat⁡n×q(R)V\in\operatorname{Mat}_{n\times q}(R)、y∈Fqy\in F^qが存在して x=Vy,UV=0x=Vy,\qquad UV=0 となる。
  3. 任意の有限表示左RR-加群QQと線形写像g ⁣:Q→Fg\colon Q\to Fに対して、あるq∈N≥0q\in\Nと線形写像h ⁣:Q→Rqh\colon Q\to R^q、v ⁣:Rq→Fv\colon R^q\to Fが存在してg=vhg=vhとなる。

証明.FFを左平坦とし、Ux=0Ux=0とする。右自由加群の元を列で書き、右線形写像

tU ⁣:RRn⟶RRm,a⟼Uat_U\colon R_R^n\longrightarrow R_R^m,\qquad a\longmapsto Ua

の核をLLとする。平坦性による短完全列保存を0→L→RRn→im⁡tU→00\to L\to R_R^n\to\im t_U\to0とim⁡tU↪RRm\im t_U\hookrightarrow R_R^mに適用すると、テンソル後の列

L⊗RF⟶Fn→UFmL\otimes_RF\longrightarrow F^n\xrightarrow{U}F^m

は完全である。xxはL⊗RFL\otimes_RFの元の像なので、有限個のb1,…,bq∈Lb_1,\ldots,b_q\in Lとy1,…,yq∈Fy_1,\ldots,y_q\in Fを取り、x=∑kbkykx=\sum_k b_ky_kと書くことができる。bkb_kを第kk列とする行列をVVとすると、x=Vyx=Vy、UV=0UV=0であり、(2)を得る。

(2)を仮定し、有限表示左加群QQとg ⁣:Q→Fg\colon Q\to Fを取る。有限表示Q=Rn/NQ=R^n/Nを取り、NNの有限生成元を行列U∈Mat⁡m×n(R)U\in\operatorname{Mat}_{m\times n}(R)の行に並べる。xj=g([ej])x_j=g([e_j])と置くとUx=0Ux=0である。仮定からx=Vyx=Vy、UV=0UV=0となるV,yV,yが存在する。§E6.11 命題 3.1による左線形写像Rn→RqR^n\to R^q、z↦zVz\mapsto zVはNNを零へ送るので、h ⁣:Q→Rqh\colon Q\to R^qを誘導する。標準基底をyky_kへ送る線形写像をv ⁣:Rq→Fv\colon R^q\to Fとすると、vh([ej])=∑kVjkyk=xjvh([e_j])=\sum_kV_{jk}y_k=x_jである。したがってvh=gvh=gであり、(3)が従う。

(3)を仮定し、有限生成右イデアルJ⊆RJ\subseteq Rに対するJ⊗RF→FJ\otimes_RF\to Fの核の元をz=∑j=1naj⊗xjz=\sum_{j=1}^n a_j\otimes x_jと表す。関係∑jajxj=0\sum_ja_jx_j=0により、ej↦xje_j\mapsto x_jは有限表示左加群

Q=Rn/R(a1,…,an)Q=R^n/R(a_1,\ldots,a_n)

からFFへの射ggを定める。g=vhg=vhとなる有限自由経由Q→hRq→vFQ\xrightarrow{h}R^q\xrightarrow{v}Fを取る。h([ej])h([e_j])の第kk成分をVjkV_{jk}、v(ek)v(e_k)をyky_kと置くと、

xj=∑kVjkyk,∑jajVjk=0x_j=\sum_kV_{jk}y_k,\qquad \sum_ja_jV_{jk}=0

である。したがって

z=∑j,kaj⊗Vjkyk=∑k(∑jajVjk)⊗yk=0.z=\sum_{j,k}a_j\otimes V_{jk}y_k =\sum_k\left(\sum_ja_jV_{jk}\right)\otimes y_k=0.

定理 4.3 (3)によってFFは左平坦である。▨

定理 6.2.(R,m)(R,\mathfrak m)を可換局所環、FFを有限生成平坦RR-加群とする。FFは有限生成自由加群である。

証明. 剰余体k=R/mk=R/\mathfrak m上の有限次元線形空間F/mFF/\mathfrak mFの基底を取り、その持上げをx1,…,xn∈Fx_1,\ldots,x_n\in Fとする。m=J(R)\mathfrak m=J(R)なので、§E6.12 系 4.1 (1)によりx1,…,xnx_1,\ldots,x_nはFFを生成する。n=0n=0ならばF=0F=0である。

n>0n>0とし、列x=(xj)x=(x_j)に対する関係ax=0ax=0、a∈Mat⁡1×n(R)a\in\operatorname{Mat}_{1\times n}(R)を取る。定理 6.1 (2)により、あるq∈N≥0q\in\N、V∈Mat⁡n×q(R)V\in\operatorname{Mat}_{n\times q}(R)、y∈Fqy\in F^qが存在してx=Vyx=Vy、aV=0aV=0となる。xjx_jはFFを生成するので、y=Wxy=WxとなるW∈Mat⁡q×n(R)W\in\operatorname{Mat}_{q\times n}(R)を取ると、x=VWxx=VWxである。剰余体上でxjx_jの像は基底であるから、VW≡In(modm)VW\equiv I_n\pmod{\mathfrak m}となる。

d=det⁡(VW)d=\det(VW)と置くとd∈1+md\in1+\mathfrak mであり、§E6.7 命題 4.5によりddは単元である。§E3.21 補題 1.1により

(VW)−1=d−1adj⁡(VW).(VW)^{-1}=d^{-1}\operatorname{adj}(VW).

aV=0aV=0からaVW=0aVW=0であり、右から(VW)−1(VW)^{-1}を掛けるとa=0a=0を得る。よってx1,…,xnx_1,\ldots,x_nの間に非零の関係はなく、標準基底をxjx_jへ送る全射Rn→FR^n\to Fは同型である。▨

7 フィルター余極限と Lazard の定理

命題 7.1.RRを単位的結合環、IIをフィルター圏、(Fi)i∈I(F_i)_{i\in I}を左RR-加群の図式とする。各FiF_iが左平坦ならば、lim→⁡IFi\varinjlim_I F_iも左平坦である。右平坦加群についても同じ主張が成り立つ。

証明. 右RR-加群の単射u ⁣:A→Bu\colon A\to Bを取る。各u⊗1Fiu\otimes1_{F_i}は単射なので、§E6.15 定理 5.1によりその余極限も単射である。§E6.15 定理 6.1の同型の下で、この余極限は

u⊗1lim→⁡IFi ⁣:A⊗Rlim→⁡IFi⟶B⊗Rlim→⁡IFiu\otimes1_{\varinjlim_I F_i}\colon A\otimes_R\varinjlim_I F_i\longrightarrow B\otimes_R\varinjlim_I F_i

に対応する。したがってlim→⁡IFi\varinjlim_I F_iは左平坦である。右加群の場合も、反対環への移行と因子交換同型命題 1.2により従う。▨

命題 7.2.RRを単位的結合環、IIをフィルター圏とし、f ⁣:A→Bf\colon A\to BをII上の右RR-加群の図式の射とする。各fi ⁣:Ai→Bif_i\colon A_i\to B_iが普遍単射ならば、誘導写像

lim→⁡IAi⟶lim→⁡IBi\varinjlim_I A_i\longrightarrow\varinjlim_I B_i

も普遍単射である。左加群の図式についても同じ主張が成り立つ。

証明. 左RR-加群FFを取る。各fi⊗1Ff_i\otimes1_Fは単射なので、§E6.15 定理 5.1によりその余極限も単射である。§E6.15 定理 6.1を反対環に適用し、命題 1.2を合成すると、右変数の余極限についても

lim→⁡I(Ai⊗RF)≅(lim→⁡IAi)⊗RF\varinjlim_I(A_i\otimes_RF)\cong \left(\varinjlim_I A_i\right)\otimes_RF

を得る。この標準同型の下で余極限の単射は(lim→⁡Ifi)⊗1F(\varinjlim_I f_i)\otimes1_Fである。よってlim→⁡Ifi\varinjlim_I f_iは普遍単射である。左加群の場合も反対環へ移して従う。▨

定理 7.3 (Lazard の定理).RRを単位的結合環、MMを左RR-加群とする。次の条件は同値である。

  1. MMは左平坦である。
  2. あるフィルター圏IIと有限生成自由左RR-加群の図式(Gi)i∈I(G_i)_{i\in I}が存在して、M≅lim→⁡IGiM\cong\varinjlim_I G_iとなる。

証明.MMを左平坦とし、§E6.15 定理 7.1のフィルター圏FMF_Mと図式DDを取る。その対象(n,N,α)(n,N,\alpha)は有限生成左部分加群N⊆RnN\subseteq R^nと線形写像α ⁣:Rn/N→M\alpha\colon R^n/N\to Mをもち、D(n,N,α)=Rn/ND_{(n,N,\alpha)}=R^n/Nである。N=0N=0である対象全体の充満部分圏をJJとする。

任意の対象P=(n,N,α)P=(n,N,\alpha)に定理 6.1 (3)を適用すると、有限自由経由

Rn/N→hRq→vM,vh=αR^n/N\xrightarrow{h}R^q\xrightarrow{v}M,\qquad vh=\alpha

を得る。標準同型Rq≅Rq/0R^q\cong R^q/0を通じて、hhはPPからJJの対象(q,0,v)(q,0,v)への射を与える。したがってJJはFMF_Mで共終である。§E6.15 命題 5.3によりJJはフィルター圏であり、

M≅lim→⁡FMDP≅lim→⁡JDPM\cong\varinjlim_{F_M}D_P\cong\varinjlim_JD_P

となる。JJ上の各DPD_Pは有限生成自由なので、(2)を得る。

MMが(2)を満たすならば、各GiG_iは系 2.2により平坦である。命題 7.1によってMMも平坦となる。▨

8 局所化環の平坦性

定理 8.1.RRを単位元をもつ可換環、S⊆RS\subseteq Rを1∈S1\in Sを含む乗法的集合とする。0∈S0\in Sである場合も許す。標準写像R→S−1RR\to S^{-1}RによってS−1RS^{-1}Rを左RR加群および右RR加群とみなすと、S−1RS^{-1}Rは左平坦かつ右平坦である。

証明. 右RR加群AAは、RRの可換性によって左RR加群でもある。純テンソル上の式

χA ⁣:A⊗RS−1R⟶S−1A,χA(a⊗rs):=ras\chi_A\colon A\otimes_RS^{-1}R \longrightarrow S^{-1}A, \qquad \chi_A\left(a\otimes\frac r s\right):=\frac{ra}{s}

を考える。因子交換a⊗x↦x⊗aa\otimes x\mapsto x\otimes aはRRの可換性によってRR上で平衡であり、A⊗RS−1RA\otimes_RS^{-1}RからS−1R⊗RAS^{-1}R\otimes_RAへの同型を定める。この同型と§E6.14 定理 12.6の同型を合成するとχA\chi_Aを得るため、χA\chi_Aは同型である。

右RR線形写像u ⁣:A→Bu\colon A\to Bは、同じ写像によって左RR線形でもある。純テンソル上の計算から

χB∘(u⊗1S−1R)=(S−1u)∘χA\chi_B\circ(u\otimes1_{S^{-1}R}) =(S^{-1}u)\circ\chi_A

となる。uuが単射ならば、§E6.14 命題 12.7によりS−1uS^{-1}uも単射である。χA\chi_AとχB\chi_Bは同型であるため、u⊗1S−1Ru\otimes1_{S^{-1}R}は単射である。したがってS−1RS^{-1}Rは左平坦である。

RRは可換環であるためRop=RR^{\mathrm{op}}=Rであり、S−1RS^{-1}Rの左作用と右作用は同じ乗法から定まる。命題命題 1.2により、左平坦性は右平坦性へ移る。よってS−1RS^{-1}Rは右平坦でもある。▨

9 平坦であるが射影的でない加群

例 9.1 (有理数加群は平坦であるが射影的でない).S:=Z∖{0}S:=\Z\setminus\{0\}とする。写像

λ ⁣:S−1Z⟶Q,λ(a/s):=a/s\lambda\colon S^{-1}\Z\longrightarrow\Q, \qquad \lambda(a/s):=a/s

は環の同型である。実際、a/s=b/ta/s=b/tならば、ある非零整数uuに対して

u(ta−sb)=0u(ta-sb)=0

である。整数環に零因子がないためta=sbta=sbとなり、二つの有理数は等しい。逆にta=sbta=sbならば局所化の相等条件をu=1u=1で満たす。したがってλ\lambdaは単射である。任意の有理数は非零整数を分母とする分数であるため、λ\lambdaは全射でもあり、演算を保つことは分数の演算から従う。定理定理 8.1により、Q\Qは平坦Z\Z加群である。

Q\Qの台集合上の自由アーベル群

F:=Z(Q)F:=\Z^{(\Q)}

を取り、q∈Qq\in\Qに対応する基底元eqe_qをqqへ送る全射

ε ⁣:F↠Q\varepsilon\colon F\twoheadrightarrow\Q

を考える。仮にQ\Qが射影的ならば、恒等写像を持ち上げる写像g ⁣:Q→Fg\colon\Q\to Fで

ε∘g=1Q\varepsilon\circ g=1_{\Q}

となるものが存在する。

群準同型h ⁣:Q→Zh\colon\Q\to\Zを取り、a:=h(1)a:=h(1)と置くと、任意の正整数nnに対して

a=h(1)=h(n(1/n))=nh(1/n)a=h(1)=h(n(1/n))=n h(1/n)

である。n>∣a∣n>|a|を満たす正整数を取ると、絶対値がnn未満でnnの倍数である整数aaは00でなければならない。よってh(1)=0h(1)=0である。任意のq=m/n∈Qq=m/n\in\Qに対して

nh(q)=h(m)=mh(1)=0n h(q)=h(m)=m h(1)=0

であり、Z\Zには非零のnn倍で零になる元がないためh(q)=0h(q)=0である。

各添字q∈Qq\in\Qに対する座標射影をpr⁡q ⁣:F→Z\pr_q\colon F\to\Zとする。合成pr⁡q∘g ⁣:Q→Z\pr_q\circ g\colon\Q\to\Zは直前の議論により零写像である。したがって任意のx∈Qx\in\Qに対してg(x)g(x)のすべての座標は零であり、g(x)=0g(x)=0である。よってg=0g=0となるが、等式g=0g=0はε∘g=1Q\varepsilon\circ g=1_{\Q}に反する。したがってQ\Qは射影的でない。

10 演習

問題 10.1 (平坦加群と普遍単射の確認). 次の各問に答えよ。

  1. A⊗RF→F⊗RopAA\otimes_RF\to F\otimes_{R^{\mathrm{op}}}A、a⊗f↦f⊗aa\otimes f\mapsto f\otimes aの平衡性を確認し、左右の平坦性が反対環上の対応する性質へ移る理由を説明せよ。
  2. 左平坦加群FFについて、−⊗RF-\otimes_RFが短完全列を保つことを証明せよ。平坦加群の任意直和と直和因子が平坦であることをテンソル積の直和同型から導き、自由加群および射影加群が平坦であることを示せ。射影加群の任意直和についても持上げ写像を構成せよ。
  3. 可換環RRと乗法的集合SSに対して、A⊗RS−1R≅S−1AA\otimes_RS^{-1}R\cong S^{-1}Aを構成せよ。右RR加群の単射u ⁣:A→Bu\colon A\to Bに対する写像u⊗1u\otimes1がS−1uS^{-1}uと対応することを示し、局所化環の左右の平坦性を証明せよ。また、0∈S0\in SのときにS−1R=0S^{-1}R=0となることを確認し、この退化した場合にも平坦性の結論が成り立つことを説明せよ。
  4. S=Z∖{0}S=\Z\setminus\{0\}に対してS−1Z≅QS^{-1}\Z\cong\Qを証明せよ。また、任意の準同型Q→Z\Q\to\Zが零写像であることを用いて、Q\Qが自由アーベル群の直和因子にならないことを証明せよ。
  5. 正整数全体N≥1\NNを整除関係で順序づけ、n∣mn\mid mに対する写像Gn=Z→Gm=ZG_n=\Z\to G_m=\Zをa↦(m/n)aa\mapsto(m/n)aとする。この図式の余極限がQ\Qと同型であることを示せ。
  6. 系 5.4の証明を完成させよ。
解答 (演習の解答).
  1. 因子交換について、RR上の関係(ar)⊗f=a⊗(rf)(ar)\otimes f=a\otimes(rf)の二辺は f⊗ar,(rf)⊗a=(frop)⊗a=f⊗(ropa)=f⊗arf\otimes ar, \qquad (rf)\otimes a=(f r^{\mathrm{op}})\otimes a =f\otimes(r^{\mathrm{op}}a)=f\otimes ar へ移る。したがって因子交換は well-defined である。因子交換の自然な同型により、テンソル積で単射を保つ条件も反対側の平坦性へ移る。
  2. テンソル積の右完全性により、短完全列へ−⊗RF-\otimes_RFを施した列は中央と右端で完全である。平坦性により左端の写像も単射となるため、短完全列が得られる。直和について A⊗R(⨁iFi)≅⨁i(A⊗RFi)A\otimes_R\left(\bigoplus_iF_i\right) \cong\bigoplus_i(A\otimes_RF_i) の下で誘導写像は成分写像の直和であり、成分がすべて単射ならば直和も単射である。F=P⊕QF=P\oplus Qが平坦ならば、u⊗1Fu\otimes1_Fは(u⊗1P)⊕(u⊗1Q)(u\otimes1_P)\oplus(u\otimes1_Q)であるため、各成分も単射である。RRは単位同型によって平坦であり、自由加群はRRの直和、射影加群は自由加群の直和因子である。射影加群の族(Pi)(P_i)については、各制限f∣Pif|_{P_i}の持上げを取り、直和の普遍性によって一つの持上げ⨁iPi→B\bigoplus_iP_i\to Bにまとめる。
  3. 因子交換と局所化加群のテンソル表示を合成すると A⊗RS−1R⟶S−1A,a⊗(r/s)⟼ra/sA\otimes_RS^{-1}R\longrightarrow S^{-1}A, \qquad a\otimes(r/s)\longmapsto ra/s という同型を得る。この同型の下でu⊗1u\otimes1はS−1uS^{-1}uに対応する。局所化は短完全列を保つため、uuが単射ならばS−1uS^{-1}uも単射である。よってS−1RS^{-1}Rは左平坦であり、可換性と反対環による因子交換から右平坦性も従う。0∈S0\in Sならば、任意のa/s∈S−1Ra/s\in S^{-1}Rについてa/s=0/1a/s=0/1となる。実際、局所化における相等条件は、v(1a−s0)=0v(1a-s0)=0を満たすv∈Sv\in Sの存在であり、v=0v=0を選ぶことができる。したがってS−1R=0S^{-1}R=0である。零加群とのテンソル積は零加群であり、任意の単射を零加群の恒等写像へ移すため、この場合もS−1RS^{-1}Rは左右とも平坦である。
  4. 局所化の分数a/sa/sとb/tb/tが等しいならば、非零整数uuがu(ta−sb)=0u(ta-sb)=0を満たす。整数環に零因子がないためta=sbta=sbであり、有理数として等しい。逆も成り立つためS−1Z≅QS^{-1}\Z\cong\Qである。準同型h ⁣:Q→Zh\colon\Q\to\Zに対してh(1)=nh(1/n)h(1)=n h(1/n)がすべての正整数nnについて成り立つためh(1)=0h(1)=0であり、nh(m/n)=mh(1)=0n h(m/n)=m h(1)=0からh=0h=0となる。Q\Qが自由アーベル群FFの直和因子ならば非零の包含Q→F\Q\to Fが存在するが、各座標射影との合成が零であるため包含自体が零となり、矛盾する。
  5. n,mn,mの共通の上界としてnmnmを取ることができるので、整除関係は有向集合を与える。n∣m∣ℓn\mid m\mid\ellのとき(ℓ/m)(m/n)=ℓ/n(\ell/m)(m/n)=\ell/nであるから、指定された写像は図式を定める。写像qn ⁣:Gn→Qq_n\colon G_n\to\Q、a↦a/na\mapsto a/nはqm((m/n)a)=qn(a)q_m((m/n)a)=q_n(a)を満たし、標準射Φ ⁣:lim→⁡nGn→Q\Phi\colon\varinjlim_nG_n\to\Qを誘導する。任意の有理数はa/na/n、n>0n>0と書けるのでΦ\Phiは全射である。§E6.15 定理 4.4 (1)によって核の元をa∈Gna\in G_nで表すと、Φ([a])=a/n=0\Phi([a])=a/n=0よりa=0a=0である。したがってΦ\Phiは単射でもある。
  6. A=⨁iAiA=\bigoplus_iA_i、B=∏iAiB=\prod_iA_iとし、定数a1,…,am∈Aa_1,\ldots,a_m\in Aをもつ有限連立方程式∑j=1nxjrjℓ=aℓ\sum_{j=1}^n x_jr_{j\ell}=a_\ellに、BB内の解b1,…,bnb_1,\ldots,b_nが存在するとする。定数の台の和集合をE⊆IE\subseteq IとするとEEは有限である。BBの元のEE外の成分を零にする線形写像πE ⁣:B→A\pi_E\colon B\to Aは、すべてのaℓa_\ellを固定する。したがってxj=πE(bj)x_j=\pi_E(b_j)と置くと ∑jxjrjℓ=πE ⁣(∑jbjrjℓ)=πE(aℓ)=aℓ\sum_jx_jr_{j\ell} =\pi_E\!\left(\sum_jb_jr_{j\ell}\right) =\pi_E(a_\ell)=a_\ell であり、AA内の解を得る。定理 5.2 (3)から標準包含は普遍単射である。左加群の族には反対環を通じてこの結果を適用する。

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参考文献

  1. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.平坦加群の基本性質と反対環による左右の対応を参考にした。
  2. Joseph J. Rotman, An Introduction to Homological Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, 2009.テンソル積の完全性による平坦性の特徴づけを参考にした。
  3. M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, CRC Press, 2018, originally published 1969.可換環の局所化環の平坦性と有理数加群の例を参考にした。

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