1 左平坦加群と右平坦加群
定義 1.1. 左R加群Fが左平坦R加群 (left flat R-module) であるとは、任意の右R加群の単射u:A↪Bに対して
u⊗R1F:A⊗RF⟶B⊗RFがアーベル群の単射となることをいう。
右R加群Gが右平坦R加群 (right flat R-module) であるとは、任意の左R加群の単射v:C↪Dに対して
1G⊗Rv:G⊗RC⟶G⊗RDがアーベル群の単射となることをいう。
命題 1.2.Aを右R加群、Fを左R加群とする。Fを右Rop加群、Aを左Rop加群とみなすと、
σA,F:A⊗RF ≅ F⊗RopA,σA,F(a⊗f):=f⊗aというアーベル群の同型が定まる。この同型はAとFの準同型と可換する。
したがって、左R加群Fが左平坦であることは、右Rop加群として右平坦であることと同値である。右R加群Gが右平坦であることは、左Rop加群として左平坦であることと同値である。
証明. 反対環の作用を
frop:=rf,ropa:=arと書く。写像(a,f)↦f⊗aは二変数について加法的である。R上の平衡関係に対応する二つの値は
σA,F(ar⊗f)=f⊗arと
σA,F(a⊗rf)=rf⊗a=(frop)⊗a=f⊗(ropa)=f⊗arであり、一致する。したがってテンソル積の普遍性によりσA,Fが定まる。逆向きの式f⊗a↦a⊗fも同じ計算によって well-defined であり、二つの合成は純テンソル上で恒等写像になる。準同型との可換性も純テンソル上で確認することができる。
右R加群の単射u:A↪Bに対する可換図式
A⊗RF↓σA,FF⊗RopA u⊗1F 1F⊗u B⊗RF↓σB,FF⊗RopBの縦写像は同型である。したがって上の写像が単射であることと下の写像が単射であることは同値であり、左R平坦性と右Rop平坦性が対応する。RとRopを入れ替えれば、右R平坦性と左Rop平坦性の対応を得る。▨
定理 1.3. 左R加群Fに対して、次の二条件は同値である。
- Fは左平坦R加群である。
- 関手−⊗RFは右R加群のすべての短完全列をアーベル群の短完全列へ移す。
右R加群Gに対しても、次の二条件は同値である。
- Gは右平坦R加群である。
- 関手G⊗R−は左R加群のすべての短完全列をアーベル群の短完全列へ移す。
証明.(1)⇒(2)を示す。短完全列
0⟶A′ i A p A′′⟶0を取る。§E6.14 命題 11.3により
A′⊗RF i⊗1F A⊗RF p⊗1F A′′⊗RF⟶0は完全である。Fが左平坦ならばi⊗1Fは単射であるため、左端に0→を加えた列は短完全列になる。したがって結論が従う。
(2)⇒(1)を示す。逆に(2)を仮定し、右R加群の単射i:A′↪Aを取る。余核への標準射影をp:A→A/i(A′)とすると
0⟶A′ i A p A/i(A′)⟶0は短完全列である。(2)によりi⊗1Fは単射である。したがってFは左平坦である。
(1)⇔(2)を示す。右R加群Gを左Rop加群とみなす。左R加群の短完全列は、同じ写像をもつ右Rop加群の短完全列である。命題命題 1.2の自然な同型によって、G⊗R−は−⊗RopGと対応する。左Rop加群Gに対する直前の証明を適用すると、右R加群の場合の二条件も同値になる。▨
2 平坦加群の直和と射影加群
命題 2.1. 左R加群の族(Fi)i∈Iに対して、次の条件は同値である。
- すべてのFiは左平坦である。
- ⨁i∈IFiは左平坦である。
さらに、左平坦加群の任意の直和因子は左平坦である。左右を入れ替えた三つの主張も右平坦加群について成り立つ。
証明.(1)⇒(2)を示す。右R加群の単射u:A↪Bを取る。§E6.14 命題 9.1の同型の下で
A⊗R(i⨁Fi)≅i⨁(A⊗RFi),B⊗R(i⨁Fi)≅i⨁(B⊗RFi)であり、u⊗1⊕iFiは⨁i(u⊗1Fi)に対応する。各Fiが平坦ならば各成分写像は単射である。直和の元は有限台をもつため、直和写像で零へ移る元は各成分が零であり、もとの元も零である。したがって直和は平坦である。
(2)⇒(1)を示す。左平坦加群FがF=P⊕Qと分解するとする。同じテンソル積の直和同型の下で、u⊗1Fは
(u⊗1P)⊕(u⊗1Q)に対応する。x∈A⊗RPが(u⊗1P)(x)=0を満たすならば、(x,0)は単射u⊗1Fによって零へ移る。したがってx=0であり、Pは平坦である。各Fiは直和の直和因子であるため、逆向きも従う。
右平坦加群については、命題命題 1.2により左Rop加群へ移し、左側で証明した結果を適用する。直和の包含と射影は同じ加法群準同型であるため、移送後も同じ直和分解を与える。▨
系 2.2. 任意の自由左R加群は左平坦であり、任意の自由右R加群は右平坦である。
証明. 右R加群Aに対する単位同型
A⊗RR≅A,a⊗r⟼arの下で、u⊗1Rは右R線形写像u自身に対応する。したがって左正則加群RRは左平坦である。自由左R加群はRRの任意直和であるため、命題命題 2.1により左平坦である。自由右R加群の場合は反対環へ移して同じ結論を得る。▨
補題 2.3. 左射影R加群Pは左平坦であり、HomR(P,−)は完全関手である。右射影R加群も右平坦であり、右加群に対するHomR(P,−)は完全関手である。
3 普遍単射と短完全列
定義 3.1.Rを単位的結合環とする。右R-加群の射f:A→Bが普遍単射 (pure monomorphism) であるとは、任意の左R-加群Fに対して
f⊗1F:A⊗RF⟶B⊗RFが単射となることをいう。普遍単射を純単射ともいう。F=Rと単位同型を取ると、普遍単射f自身も単射である。
右部分加群A⊆Bの包含が普遍単射であるとき、AをBの純部分加群 (pure submodule) という。短完全列0→AfB→C→0の左の射fが普遍単射であるとき、この列を純完全列 (pure exact sequence) という。
左R-加群の射f:A→Bについては、任意の右R-加群Gに対する1G⊗fが単射となることを普遍単射の定義とし、純部分加群と純完全列も同じように定める。命題 1.2により、左R-加群の普遍単射は右Rop-加群の普遍単射と一致する。
補題 3.2.Rを単位的結合環とする。左または右R-加群の分裂単射は普遍単射である。
証明. 右R-加群の射f:A→Bとr:B→Aがrf=1Aを満たすとする。任意の左R-加群Fに対して
(r⊗1F)(f⊗1F)=1A⊗RFであるから、f⊗1Fは単射である。左加群の場合は反対環に移して同じ結論を得る。▨
命題 3.3.Rを単位的結合環とし、右R-加群の短完全列
0⟶KiP⟶C⟶0を取る。次が成り立つ。
- Cが右平坦ならば、iは普遍単射である。
- Pが右平坦でiが普遍単射ならば、KとCは右平坦である。
- PとCが右平坦ならば、Kは右平坦である。
左R-加群の短完全列についても、右平坦を左平坦に置き換えた主張が成り立つ。
証明.Cを右平坦とし、左R-加群Fを取る。§E6.16 系 1.3により、自由左加群Gからの全射を取り、その核をHとすると、0→H→G→F→0は完全である。テンソル積の右完全性§E6.14 命題 11.3とGの平坦性から、可換図式
K⊗RH↓0⟶K⊗RG⟶⟶P⊗RH↓P⊗RG⟶⟶C⊗RH⟶0↓C⊗RGの両行は完全である。右縦射はCの右平坦性により単射である。蛇の補題§E6.9 命題 2.1により、左縦射の余核から中央縦射の余核への射は単射となる。§E6.14 命題 11.3を反対環に適用し、命題 1.2で移すと、これらの余核はそれぞれK⊗RFとP⊗RFである。余核間の射はi⊗1Fなので、(1)を得る。
Pを右平坦とし、iを普遍単射とする。左R-加群の単射u:A→BとD=cokeruを取る。X=K,P,Cに対してuX=1X⊗uと置く。A,Bをテンソルして得られる二つの列は純性により短完全列であり、keruP=0である。蛇の補題から
0⟶keruC⟶cokeruK⟶cokeruPは完全である。第二変数の右完全性によって、最後の射はK⊗RD→P⊗RDと同定される。この射も純性により単射であるから、keruC=0となる。したがってCは右平坦である。
P,Cを右平坦とする。(1)によりiは普遍単射である。任意の左単射u:A→Bをテンソルして得られる二段の短完全列に蛇の補題を適用すると、keruK→keruPは単射である。keruP=0なのでkeruK=0であり、(3)を得る。
Pが右平坦でiが普遍単射の場合、上で得たCの右平坦性と(3)からKも右平坦となり、(2)が従う。左加群の場合は反対環と命題 1.2によって右加群の結果に帰着する。▨
4 指標加群とイデアルによる判定
定理 4.1.Rを単位的結合環、Fを左R-加群とする。Fが左平坦であることと、指標加群F+が右入射R-加群であることは同値である。
証明. 右R-加群の単射u:A→Bを取る。指標加群の完全性§E6.17 命題 4.2と完全性の検出§E6.17 命題 4.3 (2)により、u⊗1Fが単射であることと、(u⊗1F)+が全射であることは同値である。§E6.14 命題 11.2の自然同型
(A⊗RF)+≅HomRop(A,F+)の下で、(u⊗1F)+は制限写像
HomRop(B,F+)⟶HomRop(A,F+)に対応する。すべての単射uについてこの写像が全射となることは、F+の右入射性である。▨
定理 4.2.Rを単位的結合環、f:A→Bを右R-加群の射とする。fが普遍単射であることと、左R-加群の射f+:B+→A+が分裂全射であることは同値である。
証明. 左R-加群Fを取る。§E6.17 命題 5.1にD=Q/Zを代入すると
(A⊗RF)+≅HomR(F,A+),(B⊗RF)+≅HomR(F,B+)を得る。対応する写像をΦA,ΦBと書くと、λ∈(B⊗RF)+、x∈F、a∈Aに対して
ΦA((f⊗1F)+λ)(x)(a)=λ(f(a)⊗x)=(f+ΦB(λ)(x))(a)となる。したがって指標加群の完全性と完全性の検出により、f⊗1Fの単射性はHomR(F,f+)の全射性と同値である。
fが普遍単射ならば、F=A+として恒等写像1A+を持ち上げると、f+s=1A+となるs:A+→B+を得る。逆にこのようなsが存在すれば、任意のFについてHomR(F,s)はHomR(F,f+)の右逆となる。よってすべてのf⊗1Fは単射である。▨
定理 4.3.Rを単位的結合環、Fを左R-加群とする。次の条件は同値である。
- Fは左平坦である。
- 任意の右イデアルJ⊆Rに対して、写像
J⊗RF⟶F,a⊗x⟼ax
は単射である。
- 任意の有限生成右イデアルJ⊆Rに対して、上の写像は単射である。
証明.Fが左平坦ならば、右単射J↪Rにテンソルし、単位同型R⊗RF≅Fを取ると(2)を得る。この条件を有限生成右イデアルに制限すると(3)が従う。
(3)を仮定し、右イデアルJに対する写像の核の元をz=∑i=1nai⊗xiと表す。J0=a1R+⋯+anRとし、同じ和をJ0⊗RFの元z0とみなす。z0のFにおける像はzの像と同じ零であり、仮定からz0=0である。包含J0→Jが誘導する写像はz0をzへ送るので、z=0となる。
(2)を仮定する。指標を取り§E6.14 命題 11.2を適用すると、任意の右イデアルJに対して
HomRop(R,F+)⟶HomRop(J,F+)は全射である。§E6.17 定理 2.1をRopに適用するとF+は右入射であり、定理 4.1によりFは左平坦である。▨
例 4.4.n≥2を整数とする。nZ↪ZにZ/nZをテンソルした写像は、n⊗1をn=0へ送る。一方、同型nZ≅Z、na↦aにより
nZ⊗ZZ/nZ≅Z/nZであり、n⊗1は非零元1に対応する。したがってZ/nZは平坦Z-加群ではない。
例 4.5.kを体、R=k[t]/(t2)とし、tの剰余類もtと書く。定数項を取る写像R→kによってkをR-加群とみなすと、kは平坦ではない。実際、tR≅k、at↦aであり、平衡写像
tR×k⟶k,(at,b)⟼abは同型tR⊗Rk≅kを誘導する。逆写像はc↦t⊗cである。したがってt⊗1は非零であるが、包含tR↪Rをテンソルした写像の下ではt⋅1=0に写る。
5 有限表示加群による普遍単射の判定
補題 5.1.Rを単位的結合環、Aを右R-加群、m∈N≥0、N⊆Rmを左部分加群とする。Amの加法部分群
A⋅N={j=1∑q(ajnj1,…,ajnjm):q∈N≥0, aj∈A, (nj1,…,njm)∈N}を取ると、Aについて自然なアーベル群の同型
A⊗R(Rm/N)≅Am/(A⋅N),a⊗[(r1,…,rm)]⟼[(ar1,…,arm)]が存在する。特にNが有限生成ならばRm/Nは有限表示である。Nが行ベクトル(rj1,…,rjm)、1≤j≤qで生成される場合、A⋅Nは
(j=1∑qajrj1,…,j=1∑qajrjm),a1,…,aq∈A,という元全体である。
証明.N→Rm→Rm/N→0にA⊗R−を施す。§E6.14 命題 11.3を反対環に適用し、命題 1.2を用いると、得られる列は右完全である。単位同型と有限直和同型によってA⊗RRm=Amと同定すると、A⊗RNの像はA⋅Nである。したがって主張の商同型を得る。各写像はAの準同型と可換するので、同型も自然である。
Nが上の行ベクトルで生成されるならば、n∈Nはそれらの左一次結合である。平衡関係a⊗rn=(ar)⊗nによって、その左係数をAの側へ移すと最後の表示を得る。有限表示性は§E6.11 定理 2.2から従う。▨
定理 5.2.Rを単位的結合環とし、右R-加群の短完全列
0⟶AiBpC⟶0を取る。iによってAをBの部分加群と同一視すると、次の条件は同値である。
- iは普遍単射である。
- 任意の有限表示左R-加群Fに対して、i⊗1Fは単射である。
- 任意のm,n∈N≥0、rji∈R、ai∈Aに対し、有限連立方程式
j=1∑nxjrji=ai(1≤i≤m)
がx1,…,xn∈Bという解をもつならば、x1,…,xn∈Aという解ももつ。
- 任意の有限表示右R-加群Qに対して、写像
HomRop(Q,B)⟶HomRop(Q,C),h⟼ph
は全射である。
証明.iが普遍単射ならば、定義を有限表示加群に適用して(2)を得る。逆にこの条件を仮定し、左加群Fを取る。§E6.15 定理 7.1によりF=limjFjと表し、各Fjを有限表示とする。各i⊗1Fjは単射なので、§E6.15 定理 5.1によりその余極限も単射である。§E6.15 定理 6.1の標準同型の下でこの射はi⊗1Fであり、(1)が従う。
N⊆Rmを行ベクトル(rj1,…,rjm)、1≤j≤nで生成される左部分加群とする。補題 5.1により、i⊗1Rm/Nは
Am/(A⋅N)⟶Bm/(B⋅N)に対応する。その単射性はAm∩(B⋅N)=A⋅Nと同値である。(a1,…,am)∈AmがB⋅Nに属することは、(3)の方程式がB内に解をもつことに等しい。A⋅Nに属することはA内に解をもつことに等しい。任意の有限表示左加群はこの形のRm/Nと同型なので、(2)⇔(3)が従う。
(3)を仮定し、有限表示右加群Qと射g:Q→Cを取る。Qの生成元をe1,…,en、関係部分加群の有限生成元を
j=1∑nejrji=0(1≤i≤m)と表す。p(bj)=g(ej)となるbj∈Bを選ぶと、ai=∑jbjrjiはAに属する。仮定から∑jxjrji=aiとなるxj∈Aが存在する。bj−xjはQのすべての関係を満たすので、自由加群と商加群の普遍性によりh(ej)=bj−xjとなる射h:Q→Bを定める。生成元上でph=gであるから(4)を得る。
(4)を仮定し、方程式∑jbjrji=aiの解bj∈Bを取る。右自由加群RRnを、有限個の元∑jejrjiが生成する右部分加群で割った有限表示加群をQとする。ej↦p(bj)はQ→Cを定める。この射の持上げh:Q→Bを取ると、xj=bj−h(ej)∈Aであり、
j∑xjrji=ai−h(j∑ejrji)=aiとなる。したがって(3)が成り立つ。▨
系 5.3.Rを単位的結合環とする。左または右R-加群の純完全列0→A→BpC→0において、Cが有限表示ならばこの列は分裂する。
証明. 右加群の場合、定理 5.2 (4)にQ=Cと1Cを代入すると、ps=1Cとなるs:C→Bが存在する。反対環への移行は有限表示性と純性を保つため、左加群の場合も従う。▨
系 5.4.Rを単位的結合環、(Ai)i∈Iを右R-加群の族とする。標準包含⨁i∈IAi↪∏i∈IAiは普遍単射である。左加群の族についても同じ主張が成り立つ。
定理 5.5.Rを単位的結合環とする。有限表示左平坦R-加群は左射影であり、有限表示右平坦R-加群は右射影である。
証明. 有限表示左平坦加群Fに対して、自由加群からの全射P→Fを取る。命題 3.3 (1)の左加群版により、その核の包含は普遍単射である。系 5.3によりこの全射は分裂する。したがってFは自由加群の直和因子であり、§E6.16 命題 1.2 (3)によって射影的である。右加群の場合は反対環へ移して同じ結論を得る。▨
系 5.6.Rを単位的結合環、Fを有限生成左平坦R-加群とする。Fが射影的であることと有限表示であることは同値である。右加群についても同じ主張が成り立つ。
証明.Fが射影的ならば、有限生成性による全射Rn→Fは分裂する。その核KはRnの直和因子であり、射影Rn→Kの標準基底の像によって有限生成される。§E6.11 定理 2.2によりFは有限表示である。逆にFが有限表示ならば、定理 5.5により射影的である。右加群の場合は反対環に適用する。▨
例 5.7.kを体とし、成分ごとの演算をもつ可換環R=kN≥0と、その有限台イデアルI=k(N≥0)を取る。R/Iは1+Iで生成される非零の巡回加群であり、平坦であるが、射影的でも有限表示でもない。
右イデアルJ⊆Rを取る。補題 5.1のm=1、N=Iの場合により、J⊗R(R/I)≅J/JIである。この同型の下でJ⊗R(R/I)→R/Iはa+JI↦a+Iとなり、その核は(J∩I)/JIである。x∈J∩Iの有限台をEとし、Eの指示関数をeE∈Iとすると、x=xeE∈JIである。逆包含JI⊆J∩Iも成り立つので核は零であり、定理 4.3 (2)によってR/Iは平坦である。
R/Iが射影的であると仮定する。全射R→R/Iが分裂するので、IへのR-線形射影p:R→Iが存在する。e=p(1)と置くと、p(r)=re、p(e)=eからe2=e、I=Reとなる。e∈Iの台は有限なので、その台に属さないn∈N≥0を取る。n成分だけが1である元enはIに属するが、Reのすべての元のn成分は零である。したがってen∈/Reであり、I=Reに反する。よってR/Iは射影的でない。
R/Iが有限表示ならば、定理 5.5によって射影的となるため、有限表示でもない。
さらに、命題 3.3 (1)により包含I↪Rは普遍単射であり、直前に示したR-線形射影R→Iの不存在により分裂しない。
6 平坦性の関係式判定
定理 6.1.Rを単位的結合環、Fを左R-加群とする。次の条件は同値である。
- Fは左平坦である。
- 任意のm,n∈N≥0、行列U=(uij)∈Matm×n(R)、列x=(xj)∈Fnに対して、Ux=0、すなわち
j=1∑nuijxj=0(1≤i≤m)
ならば、あるq∈N≥0、V∈Matn×q(R)、y∈Fqが存在して
x=Vy,UV=0
となる。
- 任意の有限表示左R-加群Qと線形写像g:Q→Fに対して、あるq∈N≥0と線形写像h:Q→Rq、v:Rq→Fが存在してg=vhとなる。
証明.Fを左平坦とし、Ux=0とする。右自由加群の元を列で書き、右線形写像
tU:RRn⟶RRm,a⟼Uaの核をLとする。平坦性による短完全列保存を0→L→RRn→imtU→0とimtU↪RRmに適用すると、テンソル後の列
L⊗RF⟶FnUFmは完全である。xはL⊗RFの元の像なので、有限個のb1,…,bq∈Lとy1,…,yq∈Fを取り、x=∑kbkykと書くことができる。bkを第k列とする行列をVとすると、x=Vy、UV=0であり、(2)を得る。
(2)を仮定し、有限表示左加群Qとg:Q→Fを取る。有限表示Q=Rn/Nを取り、Nの有限生成元を行列U∈Matm×n(R)の行に並べる。xj=g([ej])と置くとUx=0である。仮定からx=Vy、UV=0となるV,yが存在する。§E6.11 命題 3.1による左線形写像Rn→Rq、z↦zVはNを零へ送るので、h:Q→Rqを誘導する。標準基底をykへ送る線形写像をv:Rq→Fとすると、vh([ej])=∑kVjkyk=xjである。したがってvh=gであり、(3)が従う。
(3)を仮定し、有限生成右イデアルJ⊆Rに対するJ⊗RF→Fの核の元をz=∑j=1naj⊗xjと表す。関係∑jajxj=0により、ej↦xjは有限表示左加群
Q=Rn/R(a1,…,an)からFへの射gを定める。g=vhとなる有限自由経由QhRqvFを取る。h([ej])の第k成分をVjk、v(ek)をykと置くと、
xj=k∑Vjkyk,j∑ajVjk=0である。したがって
z=j,k∑aj⊗Vjkyk=k∑(j∑ajVjk)⊗yk=0.定理 4.3 (3)によってFは左平坦である。▨
定理 6.2.(R,m)を可換局所環、Fを有限生成平坦R-加群とする。Fは有限生成自由加群である。
証明. 剰余体k=R/m上の有限次元線形空間F/mFの基底を取り、その持上げをx1,…,xn∈Fとする。m=J(R)なので、§E6.12 系 4.1 (1)によりx1,…,xnはFを生成する。n=0ならばF=0である。
n>0とし、列x=(xj)に対する関係ax=0、a∈Mat1×n(R)を取る。定理 6.1 (2)により、あるq∈N≥0、V∈Matn×q(R)、y∈Fqが存在してx=Vy、aV=0となる。xjはFを生成するので、y=WxとなるW∈Matq×n(R)を取ると、x=VWxである。剰余体上でxjの像は基底であるから、VW≡In(modm)となる。
d=det(VW)と置くとd∈1+mであり、§E6.7 命題 4.5によりdは単元である。§E3.21 補題 1.1により
(VW)−1=d−1adj(VW).aV=0からaVW=0であり、右から(VW)−1を掛けるとa=0を得る。よってx1,…,xnの間に非零の関係はなく、標準基底をxjへ送る全射Rn→Fは同型である。▨
7 フィルター余極限と Lazard の定理
命題 7.1.Rを単位的結合環、Iをフィルター圏、(Fi)i∈Iを左R-加群の図式とする。各Fiが左平坦ならば、limIFiも左平坦である。右平坦加群についても同じ主張が成り立つ。
証明. 右R-加群の単射u:A→Bを取る。各u⊗1Fiは単射なので、§E6.15 定理 5.1によりその余極限も単射である。§E6.15 定理 6.1の同型の下で、この余極限は
u⊗1limIFi:A⊗RIlimFi⟶B⊗RIlimFiに対応する。したがってlimIFiは左平坦である。右加群の場合も、反対環への移行と因子交換同型命題 1.2により従う。▨
命題 7.2.Rを単位的結合環、Iをフィルター圏とし、f:A→BをI上の右R-加群の図式の射とする。各fi:Ai→Biが普遍単射ならば、誘導写像
IlimAi⟶IlimBiも普遍単射である。左加群の図式についても同じ主張が成り立つ。
証明. 左R-加群Fを取る。各fi⊗1Fは単射なので、§E6.15 定理 5.1によりその余極限も単射である。§E6.15 定理 6.1を反対環に適用し、命題 1.2を合成すると、右変数の余極限についても
Ilim(Ai⊗RF)≅(IlimAi)⊗RFを得る。この標準同型の下で余極限の単射は(limIfi)⊗1Fである。よってlimIfiは普遍単射である。左加群の場合も反対環へ移して従う。▨
定理 7.3 (Lazard の定理).Rを単位的結合環、Mを左R-加群とする。次の条件は同値である。
- Mは左平坦である。
- あるフィルター圏Iと有限生成自由左R-加群の図式(Gi)i∈Iが存在して、M≅limIGiとなる。
証明.Mを左平坦とし、§E6.15 定理 7.1のフィルター圏FMと図式Dを取る。その対象(n,N,α)は有限生成左部分加群N⊆Rnと線形写像α:Rn/N→Mをもち、D(n,N,α)=Rn/Nである。N=0である対象全体の充満部分圏をJとする。
任意の対象P=(n,N,α)に定理 6.1 (3)を適用すると、有限自由経由
Rn/NhRqvM,vh=αを得る。標準同型Rq≅Rq/0を通じて、hはPからJの対象(q,0,v)への射を与える。したがってJはFMで共終である。§E6.15 命題 5.3によりJはフィルター圏であり、
M≅FMlimDP≅JlimDPとなる。J上の各DPは有限生成自由なので、(2)を得る。
Mが(2)を満たすならば、各Giは系 2.2により平坦である。命題 7.1によってMも平坦となる。▨
8 局所化環の平坦性
定理 8.1.Rを単位元をもつ可換環、S⊆Rを1∈Sを含む乗法的集合とする。0∈Sである場合も許す。標準写像R→S−1RによってS−1Rを左R加群および右R加群とみなすと、S−1Rは左平坦かつ右平坦である。
証明. 右R加群Aは、Rの可換性によって左R加群でもある。純テンソル上の式
χA:A⊗RS−1R⟶S−1A,χA(a⊗sr):=sraを考える。因子交換a⊗x↦x⊗aはRの可換性によってR上で平衡であり、A⊗RS−1RからS−1R⊗RAへの同型を定める。この同型と§E6.14 定理 12.6の同型を合成するとχAを得るため、χAは同型である。
右R線形写像u:A→Bは、同じ写像によって左R線形でもある。純テンソル上の計算から
χB∘(u⊗1S−1R)=(S−1u)∘χAとなる。uが単射ならば、§E6.14 命題 12.7によりS−1uも単射である。χAとχBは同型であるため、u⊗1S−1Rは単射である。したがってS−1Rは左平坦である。
Rは可換環であるためRop=Rであり、S−1Rの左作用と右作用は同じ乗法から定まる。命題命題 1.2により、左平坦性は右平坦性へ移る。よってS−1Rは右平坦でもある。▨
9 平坦であるが射影的でない加群
例 9.1 (有理数加群は平坦であるが射影的でない).S:=Z∖{0}とする。写像
λ:S−1Z⟶Q,λ(a/s):=a/sは環の同型である。実際、a/s=b/tならば、ある非零整数uに対して
u(ta−sb)=0である。整数環に零因子がないためta=sbとなり、二つの有理数は等しい。逆にta=sbならば局所化の相等条件をu=1で満たす。したがってλは単射である。任意の有理数は非零整数を分母とする分数であるため、λは全射でもあり、演算を保つことは分数の演算から従う。定理定理 8.1により、Qは平坦Z加群である。
Qの台集合上の自由アーベル群
F:=Z(Q)を取り、q∈Qに対応する基底元eqをqへ送る全射
ε:F↠Qを考える。仮にQが射影的ならば、恒等写像を持ち上げる写像g:Q→Fで
ε∘g=1Qとなるものが存在する。
群準同型h:Q→Zを取り、a:=h(1)と置くと、任意の正整数nに対して
a=h(1)=h(n(1/n))=nh(1/n)である。n>∣a∣を満たす正整数を取ると、絶対値がn未満でnの倍数である整数aは0でなければならない。よってh(1)=0である。任意のq=m/n∈Qに対して
nh(q)=h(m)=mh(1)=0であり、Zには非零のn倍で零になる元がないためh(q)=0である。
各添字q∈Qに対する座標射影をprq:F→Zとする。合成prq∘g:Q→Zは直前の議論により零写像である。したがって任意のx∈Qに対してg(x)のすべての座標は零であり、g(x)=0である。よってg=0となるが、等式g=0はε∘g=1Qに反する。したがってQは射影的でない。
10 演習
問題 10.1 (平坦加群と普遍単射の確認). 次の各問に答えよ。
- A⊗RF→F⊗RopA、a⊗f↦f⊗aの平衡性を確認し、左右の平坦性が反対環上の対応する性質へ移る理由を説明せよ。
- 左平坦加群Fについて、−⊗RFが短完全列を保つことを証明せよ。平坦加群の任意直和と直和因子が平坦であることをテンソル積の直和同型から導き、自由加群および射影加群が平坦であることを示せ。射影加群の任意直和についても持上げ写像を構成せよ。
- 可換環Rと乗法的集合Sに対して、A⊗RS−1R≅S−1Aを構成せよ。右R加群の単射u:A→Bに対する写像u⊗1がS−1uと対応することを示し、局所化環の左右の平坦性を証明せよ。また、0∈SのときにS−1R=0となることを確認し、この退化した場合にも平坦性の結論が成り立つことを説明せよ。
- S=Z∖{0}に対してS−1Z≅Qを証明せよ。また、任意の準同型Q→Zが零写像であることを用いて、Qが自由アーベル群の直和因子にならないことを証明せよ。
- 正整数全体N≥1を整除関係で順序づけ、n∣mに対する写像Gn=Z→Gm=Zをa↦(m/n)aとする。この図式の余極限がQと同型であることを示せ。
- 系 5.4の証明を完成させよ。
解答 (演習の解答).
- 因子交換について、R上の関係(ar)⊗f=a⊗(rf)の二辺は
f⊗ar,(rf)⊗a=(frop)⊗a=f⊗(ropa)=f⊗ar
へ移る。したがって因子交換は well-defined である。因子交換の自然な同型により、テンソル積で単射を保つ条件も反対側の平坦性へ移る。
- テンソル積の右完全性により、短完全列へ−⊗RFを施した列は中央と右端で完全である。平坦性により左端の写像も単射となるため、短完全列が得られる。直和について
A⊗R(i⨁Fi)≅i⨁(A⊗RFi)
の下で誘導写像は成分写像の直和であり、成分がすべて単射ならば直和も単射である。F=P⊕Qが平坦ならば、u⊗1Fは(u⊗1P)⊕(u⊗1Q)であるため、各成分も単射である。Rは単位同型によって平坦であり、自由加群はRの直和、射影加群は自由加群の直和因子である。射影加群の族(Pi)については、各制限f∣Piの持上げを取り、直和の普遍性によって一つの持上げ⨁iPi→Bにまとめる。
- 因子交換と局所化加群のテンソル表示を合成すると
A⊗RS−1R⟶S−1A,a⊗(r/s)⟼ra/s
という同型を得る。この同型の下でu⊗1はS−1uに対応する。局所化は短完全列を保つため、uが単射ならばS−1uも単射である。よってS−1Rは左平坦であり、可換性と反対環による因子交換から右平坦性も従う。0∈Sならば、任意のa/s∈S−1Rについてa/s=0/1となる。実際、局所化における相等条件は、v(1a−s0)=0を満たすv∈Sの存在であり、v=0を選ぶことができる。したがってS−1R=0である。零加群とのテンソル積は零加群であり、任意の単射を零加群の恒等写像へ移すため、この場合もS−1Rは左右とも平坦である。
- 局所化の分数a/sとb/tが等しいならば、非零整数uがu(ta−sb)=0を満たす。整数環に零因子がないためta=sbであり、有理数として等しい。逆も成り立つためS−1Z≅Qである。準同型h:Q→Zに対してh(1)=nh(1/n)がすべての正整数nについて成り立つためh(1)=0であり、nh(m/n)=mh(1)=0からh=0となる。Qが自由アーベル群Fの直和因子ならば非零の包含Q→Fが存在するが、各座標射影との合成が零であるため包含自体が零となり、矛盾する。
- n,mの共通の上界としてnmを取ることができるので、整除関係は有向集合を与える。n∣m∣ℓのとき(ℓ/m)(m/n)=ℓ/nであるから、指定された写像は図式を定める。写像qn:Gn→Q、a↦a/nはqm((m/n)a)=qn(a)を満たし、標準射Φ:limnGn→Qを誘導する。任意の有理数はa/n、n>0と書けるのでΦは全射である。§E6.15 定理 4.4 (1)によって核の元をa∈Gnで表すと、Φ([a])=a/n=0よりa=0である。したがってΦは単射でもある。
- A=⨁iAi、B=∏iAiとし、定数a1,…,am∈Aをもつ有限連立方程式∑j=1nxjrjℓ=aℓに、B内の解b1,…,bnが存在するとする。定数の台の和集合をE⊆IとするとEは有限である。Bの元のE外の成分を零にする線形写像πE:B→Aは、すべてのaℓを固定する。したがってxj=πE(bj)と置くと
j∑xjrjℓ=πE(j∑bjrjℓ)=πE(aℓ)=aℓ
であり、A内の解を得る。定理 5.2 (3)から標準包含は普遍単射である。左加群の族には反対環を通じてこの結果を適用する。
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