1 単純加群と極大左イデアル
単純加群は一つの非零元で生成される。生成元を一つ固定すると、単純加群を左正則加群の商として表すことができる。
命題 1.1.Rを単位元をもつ結合環とし、LをRの左イデアルとする。商左加群R/Lが単純であることと、Lが極大左イデアル、すなわちLが真の左イデアルであり、
L⊆I⊆Rを満たす左イデアルIがLまたはRに限られることは同値である。
また、任意の単純左R加群Sに対して、ある極大左イデアルLが存在して
S≅R/Lとなる。
証明.R/Lが単純であるとする。R/L=0であるからL=Rである。L⊆I⊆Rを満たす左イデアルIに対して、I/LはR/Lの部分加群である。単純性によりI/L=0またはI/L=R/Lであるため、I=LまたはI=Rとなる。よってLは極大左イデアルである。
逆にLが極大左イデアルであるとする。R/L=0である。部分加群N⊆R/Lを取り、商写像をq:R→R/Lと書く。逆像q−1(N)はLを含む左イデアルであるから、極大性によりq−1(N)=Lまたはq−1(N)=Rとなる。qは全射であるため、前者ならN=0、後者ならN=R/Lである。したがってR/Lは単純である。
Sを単純左R加群とし、0=s∈Sを取る。写像
φs:R⟶S,r⟼rsは左R線形である。その像RsはSの非零部分加群であるから、Rs=Sであり、φsは全射である。L:=kerφsは左イデアルであり、加群の第一同型定理§E6.2 定理 7.1によって
R/L≅Sとなる。既に証明した同値からLは極大左イデアルである。▨
零環では、単位的な左加群は零加群だけである。零加群は単純加群ではなく、零環には真の左イデアルもないため、命題の最後の存在主張を適用する単純加群は存在しない。
左正則加群RRの部分加群は、定義§E6.3 定義 1.1によって左イデアルである。したがって、単純な左イデアルを包含関係だけで特徴づけることができる。
定義 1.2.Rの非零左イデアルIが極小左イデアル (minimal left ideal) であるとは、
0⊆J⊆Iを満たす左イデアルJが0またはIに限られることをいう。
命題 1.3.Rの非零左イデアルIに対して、Iが極小左イデアルであることと、Iが左正則加群RRの単純部分加群であることは同値である。
証明.Iの左R部分加群は、Iに含まれるRの左イデアルと同じものである。したがって、Iの部分加群が0とIだけであるという条件は、Iの中に非零の真の左イデアルがないという条件に一致する。I=0も両方の定義に含まれるため、二条件は同値である。▨
2 半単純加群
単純加群を任意個並べた直和を考える。直和の各元は有限個の成分しかもたないが、直和因子の添字集合自体は無限集合でもよい。
定義 2.1. 左R加群Mが半単純加群 (semisimple module) であるとは、単純左R加群からなるある族(Si)i∈Iに対して
M=i∈I⨁Siと内部直和表示されることをいう。
零加群は、空族の内部直和として半単純加群である。
半単純性の中心的な特徴は、どの部分加群も補加群をもつことである。この補加群の構成には Zorn の補題を用いるため、有限生成性や有限長を仮定しない一般の場合にも適用することができる。
補題 2.2.Mを左R加群とし、Mが単純部分加群全体の和であるとする。任意の部分加群N⊆Mに対して、単純部分加群の内部直和として表される部分加群P⊆Mであって
M=N⊕Pを満たすものが存在する。
証明.Mの単純部分加群からなる族Fで、次の二条件を満たすもの全体をPとする。
- ∑S∈FSは内部直和である。
- N∩∑S∈FS=0である。
PはMの冪集合の冪集合に含まれる集合であり、族の包含関係によって半順序集合になる。空族は二条件を満たすため、Pは空でない。
C⊆Pを鎖とし、
F∗:=F∈C⋃Fと置く。Cが空ならばF∗は空族であり、Pに属する上界である。以下ではC=∅とする。F∗に属する相異なる有限個の単純部分加群S1,…,Snを取る。各Sjは鎖Cのある元Fjに属する。Cは包含関係に関する鎖であり、F1,…,Fnは有限個であるから、この有限族のすべてを含むF0∈Cが存在する。F0の和は内部直和であるため、
x1+⋯+xn=0,xj∈Sjならば、すべてのxjが零である。したがってF∗の和も内部直和である。
次にx∈N∩∑S∈F∗Sとする。xの表示には有限個のS∈F∗だけが現れるため、それらをすべて含むF0∈Cが存在する。すると
x∈N∩S∈F0∑S=0である。よってF∗∈Pであり、F∗は鎖Cの上界である。
Zorn の補題§E1.20 定理 2.1により、Pは極大元Fをもつ。
P:=S∈F⨁Sと置くと、構成からN∩P=0である。N+P=Mと仮定する。すべての単純部分加群がN+Pに含まれるならば、Mが単純部分加群全体の和であることからM⊆N+Pとなり、仮定に反する。したがって、N+Pに含まれない単純部分加群T⊆Mが存在する。
T∩(N+P)はTの部分加群であり、Tは単純である。TはN+Pに含まれないため、T∩(N+P)=Tであり、
T∩(N+P)=0となる。特にT∩P=0であるから、P+T=P⊕Tである。また、x=p+t∈N∩(P⊕T)とすると、t=x−p∈T∩(N+P)=0であり、続いてp∈N∩P=0となる。したがって
N∩(P⊕T)=0である。よってF∪{T}はPの元であり、Fを真に含む。極大元Fを真に拡大する元の存在は、Fの極大性に反する。以上からN+P=Mであり、M=N⊕Pとなる。▨
証明では、定理 2.3 (1)⇒(3)には補題 2.2の Zorn の補題による補加群構成を用いる。定理 2.3 (3)⇒(1)には、非零巡回部分加群の極大真部分加群を Zorn の補題で取り、その単純商を分裂によって単純部分加群として実現する。定理 2.3 (1)⇔(2)は同じ補加群構成で結び、定理 2.3 (3)⇔(4)は分裂補題によって結ぶ。
定理 2.3.Rを単位元をもつ結合環とし、Mを左R加群とする。次の四条件は同値である。
- Mは単純部分加群全体の和である。
- Mは単純加群の内部直和である。すなわち、Mは半単純加群である。
- Mの任意の部分加群Nに対して、ある部分加群Pが存在してM=N⊕Pとなる。
- Mを中央項とする任意の短完全列
0⟶AiMpC⟶0
が分裂する。
(4)は、任意の部分加群N⊆Mに対する標準短完全列
0⟶N⟶M⟶M/N⟶0が分裂することと同値である。
証明.(1)⇒(3)を示す。補題 2.2を任意の部分加群N⊆Mに適用すると、M=N⊕Pとなる部分加群Pを得る。
(3)⇒(1)を示す。Mの単純部分加群全体の和をTとする。(3)により
M=T⊕Uとなる部分加群Uが存在する。U=0と仮定し、0=u∈Uを取る。
巡回部分加群Ruの真の部分加群全体を包含関係で順序づけた半順序集合をQとする。u=0であるからRu=0であり、零部分加群はQに属する。Qの空の鎖は、零部分加群をQ内の上界にもつ。以下、Qの非空な鎖Dに対して、その和集合
L∗:=L∈D⋃Lは部分加群である。L∗=Ruならばu∈L∗であるため、あるL∈Dがuを含む。uはRuの生成元であるからL=Ruとなり、L∈Qに反する。したがってL∗は真の部分加群であり、鎖Dの上界としてQに属する。
Zorn の補題§E1.20 定理 2.1により、Ruは極大真部分加群Lをもつ。商Ru/Lは単純である。実際、その部分加群の逆像はLとRuの間の部分加群であり、Lの極大性からLまたはRuに限られる。
LはMの部分加群でもあるため、(3)によってM=L⊕Cとなる部分加群Cが存在する。任意のx∈Ruをx=l+c、l∈L、c∈Cと書くと、c=x−l∈Ruでもある。したがって
Ru=L⊕(Ru∩C)となる。S:=Ru∩Cと置く。商写像Ru→Ru/LのSへの制限は、表示した直和分解によって同型S≅Ru/Lを与える。よってSは単純である。またS⊆Ru⊆Uである。一方、SはMの単純部分加群であるからS⊆Tである。したがって
S⊆T∩U=0となり、S=0に反する。よってU=0であり、M=Tとなる。
(1)⇔(2)を示す。(2)ならば、定義からMは単純部分加群の和である。逆に(1)を仮定すると、既に示した(3)が成り立つ。補題 2.2の証明でN=0と置けば、M自身が単純部分加群の内部直和として表される。よって(2)が成り立つ。
(3)⇒(4)を示す。短完全列
0⟶AiMpC⟶0を取る。i(A)はMの部分加群であるから、M=i(A)⊕Pとなる部分加群Pが存在する。対応する射影π:M→i(A)と同型i:A→i(A)の逆写像を用いて
r:=i−1∘π:M⟶Aと置くと、r∘i=1Aである。分裂補題§E6.9 命題 3.2により短完全列は分裂する。
(4)⇒(3)を示す。部分加群N⊆Mに対する標準短完全列
0⟶N⟶M⟶M/N⟶0へ(4)を適用する。分裂補題によりM≅N⊕M/Nとなり、より具体的には包含N→Mの像を第一因子とする内部直和M=N⊕Pが得られる。したがって(3)が成り立つ。
最後に、(4)が成り立てば標準短完全列はすべて分裂する。逆に標準短完全列がすべて分裂すれば、分裂補題によって(3)が従い、(4)が従う。▨
定理の(4)では、中央項が固定した加群Mである。射影加群の特徴づけに現れる「終域が固定した加群である短完全列がすべて分裂する」という量化とは異なる。
3 半単純加群の閉性
部分加群、商加群および任意直和は半単純性を保つ。証明では、半単純加群の内部直和表示を直接操作する代わりに、全部分加群が直和因子であるという同値条件と、単純部分加群の和による同値条件を使い分ける。
命題 3.1.Mを半単純左R加群とする。
- Mの任意の部分加群Nは半単純である。
- Mの任意の商加群M/Nは半単純である。
証明.(1)を示す。N⊆Mとする。K⊆Nを任意の部分加群とする。定理 2.3により、M=K⊕Lとなる部分加群Lが存在する。x∈Nをx=k+l、k∈K、l∈Lと書くと、l=x−k∈N∩Lである。したがって
N=K⊕(N∩L)となる。Nの任意の部分加群がNの直和因子であるため、同じ定理からNは半単純である。
(2)を示す。再び同値定理により、M=N⊕Pとなる部分加群Pが存在する。商写像のPへの制限
P⟶M/N,p⟼p+Nは同型である。(1)からPは半単純であるため、M/Nも半単純である。▨
命題 3.2.(Mj)j∈Jを、一つの左R加群Mに含まれる半単純部分加群の族とする。このとき、部分加群の和
j∈J∑Mjは半単純である。
また、半単純左R加群の任意の族(Mj)j∈Jに対して、外部直和
j∈J⨁Mjは半単純である。
証明. 各Mjは定理 2.3により単純部分加群の和である。したがって∑jMjも単純部分加群の和であり、同じ定理から半単純である。
外部直和の場合には、各Mjを座標包含によって⨁jMjの部分加群とみなす。各像はMjと同型であるから半単純であり、外部直和はこれらの像の和である。前半の主張を適用すると、⨁jMjは半単純である。▨
例 3.3 (有限次元空間と無限直和).kを体とする。左正則加群kkは単純であるから、knはn個の単純加群の直和として半単純である。例えば
k2=k(1,0)⊕k(0,1)=k(1,1)⊕k(0,1)である。二つの表示は実際の直和因子が一意ではないことを示す。
一方、
n≥1⨁kも半単純であるが、Artin 加群でも有限長加群でもない。実際、最初のm個の座標だけを許す部分加群をVm、第m座標以降だけを許す部分加群をWmとすると、
0⊊V1⊊V2⊊⋯は停止しない真の昇鎖であり、
W1⊋W2⊋W3⊋⋯は停止しない真の降鎖である。
4 左半単純環
半単純性を左正則加群へ適用する。左右を区別する必要があるため、本記事では左側を定義に採用する。
定義 4.1. 単位元をもつ結合環Rが左半単純環 (left semisimple ring) であるとは、左正則加群RRが半単純左R加群であることをいう。
本記事で単に半単純環という場合には、左半単純環を意味する。
証明では、定理 4.2 (1)⇔(2)を左正則加群の部分加群が左イデアルであることによって結ぶ。定理 4.2 (1)⇒(3)には1Rの有限台を用い、逆向きには極小左イデアルの単純性を用いる。定理 4.2 (1)⇒(4)には各巡回部分加群を半単純な正則加群の商として表し、それらの和が任意の左加群を尽くすことを用いる。逆向きには左正則加群を代入し、定理 4.2 (4)⇔(5)は加群版の同値定理による短完全列の分裂で結ぶ。
定理 4.2.Rを単位元をもつ結合環とする。次の五条件は同値である。
- Rは左半単純環である。
- Rの任意の左イデアルは左正則加群RRの直和因子である。
- Rは有限個の極小左イデアルの内部直和である。
- すべての左R加群は半単純である。
- 左R加群からなるすべての短完全列が分裂する。
証明.(1)⇔(2)を示す。RRの部分加群はRの左イデアルである。したがって定理 2.3をM=RRへ適用すると、この同値を得る。
(1)⇒(3)を示す。(1)により、単純左イデアルからなる族(Li)i∈Iが存在して
R=i∈I⨁Liとなる。直和の元1Rは有限台をもつため、有限部分集合F⊆Iと元ei∈Liによって
1R=i∈F∑eiと書くことができる。任意のr∈Rに対して
r=r1R=i∈F∑reiであり、各Liは左イデアルであるからrei∈Liである。よって
R=i∈F⨁Liとなる。j∈I∖Fが存在すれば、Lj⊆R=⨁i∈FLiである一方、もとの和の直和性からLj∩⨁i∈FLi=0となり、Lj=0という矛盾を得る。したがってI=Fは有限集合である。各Liは命題 1.3によって極小左イデアルである。
(3)⇒(1)を示す。極小左イデアルは命題 1.3によって単純左加群である。したがって、極小左イデアルの有限内部直和であるRRは半単純である。
(1)⇒(4)を示す。Mを任意の左R加群とする。各m∈Mに対して
φm:R⟶Rm,r⟼rmは全射な左R線形写像である。(1)と命題 3.1 (2)により、RRの商と同型な巡回部分加群Rmは半単純である。さらに
M=m∈M∑Rmである。命題 3.2により、この和は半単純である。よってすべての左R加群が半単純である。
(4)⇒(1)を示す。(4)を左正則加群M=RRに適用すると、RRは半単純である。よってRは左半単純環である。
(4)⇒(5)を示す。左R加群の短完全列
0⟶A⟶B⟶C⟶0を取る。(4)により中央項Bは半単純である。定理 2.3 (4)をM=Bへ適用すると、この短完全列は分裂する。
(5)⇒(4)を示す。左R加群Mと部分加群N⊆Mを任意に取る。標準短完全列
0⟶N⟶M⟶M/N⟶0は(5)によって分裂する。よって定理 2.3によりMは半単純である。Mは任意であったから(4)が成り立つ。以上ですべての条件が同値である。▨
固定した加群Mに対する定理 2.3 (4)は、中央項がMである短完全列だけを量化する。一方、環に関する(5)は、左R加群からなるすべての短完全列を量化する。(1)⇒(4)を経由することによって、左正則加群一つの半単純性が全左加群の分裂性へ広がる。
系 4.3. 左半単純環Rの左正則加群RRは有限長である。したがって、Rは左 Noether 環かつ左 Artin 環である。
証明.定理 4.2により、ある有限個の極小左イデアルL1,…,Lnが存在して
R=L1⊕⋯⊕Lnとなる。n=0の場合にはRは零環であり、空の組成列をもつ。n≥1の場合、各Liは単純であるから、部分和からなる列
0⊊L1⊊L1⊕L2⊊⋯⊊L1⊕⋯⊕Ln=Rは組成列である。いずれの場合にも、有限長の特徴づけ§E6.20 定理 4.3によりRRは有限長であり、Noether 加群かつ Artin 加群である。左正則加群に対する二つの鎖条件は、Rが左 Noether 環かつ左 Artin 環であることを意味する。▨
例 4.4 (斜体の有限直積).n≥1とし、D1,…,Dnを斜体として、
R=D1×⋯×Dnと置く。Liを第i成分だけが零とは限らない元全体とする。Liは左イデアルであり、左R加群として単純である。実際、Liの非零元xを含む左部分加群は、第i成分でxi−1を左から掛ける環の元を作用させることによって第i成分の単位元を含み、Li全体を含む。さらに
R=L1⊕⋯⊕Lnであるから、Rは左半単純環である。n=1の場合は、斜体自身が左半単純環であることを表す。
右R加群は左Rop加群として読み替えることができるため、右半単純加群と右半単純環は反対環上で同じ定義によって扱うことができる。ただし、左半単純性と右半単純性が同値であることは本記事では証明しない。左半単純性と右半単純性の同値、原始冪等元、単純 Artin 環の行列環表示および半単純 Artin 環の分類は、後続記事「Artin–Wedderburn の定理」が扱う。
5 有限長半単純加群の分解型
半単純加群の直和因子そのものは一意ではない。しかし有限長を仮定すると、現れる単純加群の同型類とその重複度は一意になる。
定理 5.1.Mを半単純左R加群とする。次の二条件は同値である。
- Mは有限長である。
- Mは有限個の単純加群の内部直和である。
さらに、二つの分解
M=S1⊕⋯⊕Sn=T1⊕⋯⊕Tmが単純加群による内部直和分解であるならば、n=mであり、ある置換σが存在して
Si≅Tσ(i)(1≤i≤n)となる。したがって、単純加群の各同型類が現れる重複度は分解の選択に依存しない。
証明.(1)⇒(2)を示す。Mが有限長であるとし、半単純分解
M=i∈I⨁Siを取り、d:=ℓR(M)<∞と置く。Iがd+1個以上の相異なる元i1,…,id+1を含むならば、
0⊊Si1⊊Si1⊕Si2⊊⋯⊊Si1⊕⋯⊕Sid+1⊆Mは長さd+1の真の昇鎖となり、長さの定義に反する。したがってIは有限集合であり、(2)が成り立つ。
(2)⇒(1)を示す。逆にM=0ならば、空の組成列を用いる。M=0であり、
M=S1⊕⋯⊕Snと有限直和表示されているとする。部分和からなる列
0⊊S1⊊S1⊕S2⊊⋯⊊Mでは、連続する二項の商が対応するSiと同型である。したがって、この列は組成列である。§E6.20 定理 4.3によりMは有限長である。
最後に、表示した二つの単純直和分解から部分和の組成列をそれぞれ作る。第一の組成列の組成因子はS1,…,Snと同型であり、第二の組成列の組成因子はT1,…,Tmと同型である。加群の Jordan–Hölder の定理§E6.20 定理 5.2により、二つの組成列は同じ個数の組成因子をもち、順序を並べ替えた組成因子がそれぞれ同型になる。よってn=mであり、表示した置換σが存在する。▨
命題 5.2. 半単純左R加群Mに対して、次の三条件は同値である。
- Mは Artin 加群である。
- Mは有限個の単純加群の内部直和である。
- Mは有限長加群である。
証明.(1)⇒(2)を示す。(1)を仮定する。半単純性から、単純部分加群Siによる内部直和表示
M=i∈I⨁Siが存在する。Iが無限集合であると仮定し、相異なる元i1,i2,…を取る。各n≥1に対して
Nn:=i∈I∖{i1,…,in−1}⨁Siと置く。Sin⊆Nnである一方、内部直和性からSin∩Nn+1=0であるため、
N1⊋N2⊋N3⊋⋯は停止しない真の降鎖となる。これはMの Artin 性に反する。したがってIは有限集合であり、(2)が成り立つ。
(2)⇔(3)を示す。この同値は定理 5.1の前半で証明した。
(3)⇒(1)を示す。(3)ならば§E6.20 定理 4.3によりMは Artin 加群であるから、(1)も成り立つ。▨
例 5.4 (有限長と半単純性の相違).Z加群Z/6Zでは、
Z/6Z=3Z/6Z⊕2Z/6Zとなる。二つの直和因子はそれぞれ位数2と位数3の単純Z加群であるため、Z/6Zは半単純である。
一方、M:=Z/4ZとN:=2Z/4Zを考える。Mの位数2の部分加群はNだけである。Nの補加群Pが存在するならば、位数からPも位数2でなければならず、P=Nとなる。しかしN∩P=N=0であるから、補加群は存在しない。したがってMは半単純ではない。
しかし、
0⊊N⊊Mは組成列であるため、Mは長さ2の有限長加群である。この例は、有限長であることだけでは半単純性が従わず、組成因子の一意性だけでは組成列が直和分解になるとは限らないことを示す。
6 演習
問題 6.1. 次の九つを、本記事の定義と定理を用いて証明する。
- 単純左R加群Sと0=s∈Sに対してRs=Sであることを示し、S≅R/Lとなる極大左イデアルLを構成せよ。
- 補題 2.2の証明で、鎖の和が上界になることを示す際に有限性を用いた箇所を特定せよ。また、極大族の和PがNの補加群になる最後の矛盾を再構成せよ。
- 半単純加群Mの部分加群NとK⊆Nに対して、M=K⊕LからN=K⊕(N∩L)を導け。
- 左半単純環Rと左R加群Mに対して、各巡回部分加群Rmが半単純であることを示し、Mが半単純であると結論せよ。
- Rが左半単純であり、R=⨁i∈ILiが単純左イデアルによる分解であるとする。1Rの有限台からIが有限集合であることを証明せよ。
- 体kと集合Iに対して⨁i∈Ikが半単純であることを示せ。Iが無限集合ならば、停止しない真の降鎖を構成し、この加群が Artin 加群でも有限長加群でもないことを示せ。
- k2の二つの単純直和分解を挙げ、直和因子そのものが一意でないことと、定理 5.1による分解型の一意性が両立する理由を説明せよ。
- Z/4Zの標準短完全列
0⟶2Z/4Z⟶Z/4Z⟶Z/2Z⟶0
が分裂しないことを、切断が存在しないことから直接証明せよ。
- 固定した半単純加群Mを中央項とする短完全列がすべて分裂するという主張と、左半単純環上の左加群からなる短完全列がすべて分裂するという主張の量化の違いを説明せよ。
解答 (演習の解答).
-
Rsはsを含む非零部分加群であるから、単純性によりRs=Sである。写像φs:R→S、r↦rsは全射であり、L:=kerφsと置くと第一同型定理からR/L≅Sを得る。L⊆I⊆Rを満たす左イデアルIに対してI/LはR/Lの部分加群であるため、単純性からI=LまたはI=Rとなる。よってLは極大左イデアルである。
-
鎖に属する有限個の族は、包含関係によってそのすべてを含む鎖の一元に収まる。内部直和の判定に現れる関係式と、Nとの共通部分に属する元の表示はいずれも有限個の単純部分加群だけを用いるため、鎖の一元に帰着することができる。極大族の和をPとし、N+P=Mと仮定すると、N+Pに含まれない単純部分加群Tが存在する。単純性からT∩(N+P)=0であり、P⊕TもNと零で交わる。したがって極大族へTを追加することができ、極大性に反する。
-
x∈Nをx=k+l、k∈K、l∈Lと一意に書く。k∈K⊆Nであるからl=x−k∈N∩Lであり、N=K+(N∩L)となる。さらにK∩(N∩L)⊆K∩L=0であるため、この和は内部直和である。
-
m∈Mに対してR→Rm、r↦rmは全射である。RRは半単純であり、半単純加群の商は半単純であるからRmは半単純である。M=∑m∈MRmであり、半単純部分加群の和は半単純であるため、Mは半単純である。
-
1R=∑i∈Fei、ei∈Liとなる有限集合F⊆Iを取る。任意のr∈Rについてr=∑i∈Freiであり、rei∈LiであるからR=⨁i∈FLiとなる。j∈I∖FならばLj⊆⨁i∈FLiであるが、直和性から両者の共通部分は零である。したがってLj=0となり、単純加群Ljが非零であることに反するため、I=Fである。
-
各座標のkは単純左k加群であるため、M:=⨁i∈Ikは定義によって半単純である。Iが無限集合ならば相異なる元i1,i2,…を取り、Nnをi1,…,in−1の座標が零である元全体とする。このとき
N1⊋N2⊋N3⊋⋯
は停止しない真の降鎖であるため、Mは Artin 加群ではない。有限長加群は Artin 加群であるから、Mは有限長でもない。
-
例えばk2=k(1,0)⊕k(0,1)=k(1,1)⊕k(0,1)である。第一因子は二つの表示で異なる部分空間であるため、実際の直和因子は一意でない。一方、四つの因子はいずれも単純加群kと同型であり、どちらの分解でも同型類[k]の重複度は2である。有限長分解の一意性が主張するのは後者であり、部分加群としての一致ではない。
-
商写像をq:Z/4Z→Z/2Zとする。切断sが存在すれば、x:=s(1)は2x=s(21)=0を満たし、q(x)=1を満たす。Z/4Zで2x=0を満たす元は0と2だけであり、いずれもqによって0へ写る。したがってq(x)=1を満たすxは存在せず、切断も存在しないため、短完全列は分裂しない。
-
固定したMに関する主張では、短完全列の中央項がMであるものだけを対象とし、Mの全部分加群がMの直和因子であることと同値になる。環に関する主張では、中央項を含む三つの加群を任意に動かし、左R加群からなるすべての短完全列を対象とする。左正則加群RRの半単純性からすべての左R加群の半単純性を導く環の同値定理が、この量化の拡張を正当化する。
▨
7 範囲と後続記事への接続
本記事は、一般の単位的結合環上で、半単純左加群の補加群による特徴づけ、左半単純環の同値条件および有限長半単純加群の分解型を扱った。単純環は両側イデアルによる条件であり、左正則加群の分解性を表す半単純環とは別の概念である。
後続記事「有限次元結合代数と中心単純代数」は、固定した基礎体上の代数、反対代数、単純代数、中心単純代数、代数のテンソル積およびスカラー拡大を扱う。本記事は、基礎体上の有限次元性や中心単純性を仮定しない。
後続記事「Artin–Wedderburn の定理」は、半単純 Artin 環を斜体上の全行列環の有限直積として分類し、単純 Artin 環、原始冪等元および自己準同型環との対応を扱う。左半単純性と右半単純性の一致も、Artin–Wedderburn 分類とともに扱う。本記事は Artin–Wedderburn 分類を証明の根拠として用いていない。Jacobson 根基による特徴づけ、森田理論、Ext、Tor および導来関手も本記事の範囲外である。